WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第7話.05)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-05 ****


「いいえ、結局、中学時代は最後迄(まで)、それを続けたのよ。小学生の頃から十年近く続けていた事を、急に方向転換するのは、流石にプレッシャーだったみたい。だから、わたしが佳奈ちゃんを、この学校に誘ったの。ここなら、わたし以外に知ってる人が居ないから、柵(しがらみ)とか気にする事も無いでしょ。」

「しかし、まぁ、その話からすると、古寺さんがこの学校に受かった時、中学の同級生や先生達は驚いたでしょうね。 いや、そもそも、良くこの学校を受験するのを、先生が許したよね。」

「あはは、先生にもお母さんにも、どうせ落ちるから止めなさいって、言われたの~。」

「だから、ダミーで滑り止めの学校にも願書出してね、ここは試験の日程が早いから、受験慣れの為にって名目だったのよね。」

「でも、だったら、どうして城ノ内さんと同じ情報処理科にしなかったの?佳奈さん。」

 佳奈が樹里を頼っていたのなら、同じ学科に進むのが自然のでは、と瑠菜は思ったのだ。その疑問に対する、佳奈の答えは、明快だった。

「だって、ソフトウェアとかプログラムとかには、興味が持てなかったんだもん。」

「佳奈ちゃんは、こう見えても機械弄りとかやってたのよ。元元は佳奈ちゃんのお父さんの趣味なんだけど、古い機械を分解したり組み立てたり、そんな作業を手伝ってたりしてたのよね。」

「成る程、自分のやりたい方向とかは、ちゃんと考えてたんだ。そう言う、根気勝負の作業とかは向いてそうな感じよね、古寺さん。」

 維月は、感心した様に、そう言うのだった。

「佳奈ちゃんに就いて、わたしから話しておきたい事は、大体、こんな所かな。もっと詳しい事は、又後で、本人から聞いて。 ともあれ、佳奈ちゃんの独特のペースはね、人に依ってはイライラしたり、癇(かん)に触ったりで、馬の合わない人も居るんだけど、こればっかりは相性だから、どう仕様もないし。でも、今見てる限り、瑠菜さんは大丈夫そうで安心した。」

「あ、うん…まぁ、悪意が無いのは、伝わって来るから。許容範囲だと思う。」

「ごめんね~迷惑掛けるかもだから、先に謝っておくね。」

 膝の上に両手を置き、瑠菜に向かって深々と頭を下げる佳奈だった。

「わたしと付き合ってると、自動的に佳奈ちゃんとも付き合う事になるけど、井上さんは大丈夫?」

「あぁ、わたしは古寺さんみたいなタイプの人に、別に苛苛(いらいら)したりしないから。寧(むし)ろ、楽しそうで好きなタイプかもね。」

「そう、良かった。」

 維月の返事に笑顔を返した樹里は、その表情の儘(まま)、瑠菜の方へ向き直って言う。

「じゃ、今度は瑠菜さんの事、聞きたいな。」

「聞きたいな、って言われても。さっきの佳奈さんの話みたいに、ドラマチックなネタなんか無いし。」

「そう?さっき名字で呼ばれるのが嫌だとか、言ってたじゃない。」

 維月が身を乗り出す様にして、瑠菜に問い掛けるのだった。

「あぁ、あれはね…ほら、わたしってこんな風(ふう)じゃない、何て言うか、見た目が日本人っぽくないでしょ。イジメられてたって訳(わけ)じゃないんだけど、まぁ、目立つから、昔から色々と言われるのよね。髪の色とか、肌の色とか、瞳の色とかに就いて。」

「わたしは、綺麗だと思うな!瑠菜さんの髪とか肌とか。」

 突然、意気込んで佳奈が声を上げた。瑠菜はその声に少し驚きつつ、笑顔で答える。

「あはは、ありがとう。まぁ、近頃はそう言ってくれる人も居たりするんだけどね、でも、子供の頃って人と違う部分が有るのって、疎外感って言うのか、そんなのを勝手に感じちゃったりするじゃない?」

「瑠菜さんは、帰国子女って訳(わけ)じゃないんだ。」

 違う角度から質問をして来たのは、維月である。

「うん、お父さんはアメリカの出身だけど、こっちには仕事で来て、日本人のお母さんと結婚したの。以来、ずっとこっちに住んでるから、わたしも日本生まれで日本育ち。」

「なるほど、同調圧力に弱いのは日本人らしいメンタリティだよね。例えば、あっちで育ってたら、色んな人種が居るのが珍しくないから『違うのは個性だっ』て、なってたかも。」

「それは、どうか分からないけど。ともあれ、わたしとしては、この容姿が幼い頃からのコンプレックスだったの。だから、名字の方で呼ばれると、自分のコンプレックスが刺激されると言うか、上手く説明出来ないけど…そんな事を意識する自分が嫌になるのよね。でも、別に、お父さんや、ルーカスって名前や、自分の容姿とかが嫌いって訳(わけ)じゃないのよ。只、勝手な疎外感を持っちゃう自分が嫌なだけ。」

 溜息を吐(つ)いて、瑠菜は力(ちから)無く笑った。それに対し、維月は真剣な顔で、瑠菜に言うのだった。

「わたしは瑠菜さんの気持ち、少しは分かる気がするの。一緒にするなって、怒るかも知れないけど、わたしは見ての通りの身長(タッパ)でしょ。昔から、同年代の男子よりも背が高かったから、これがコンプレックスだったのよね。 で、背が高いとさ、バレーとかバスケとかやってるのか?とか、やったらどうだって言われる訳(わけ)。それを言われる度(たび)に、こっちはコンプレックスを刺激されるし、わたしはスポーツとか全然興味無かったから、ホントにアレは鬱陶(うっとう)しかったの。…あ、矢っ張り、瑠菜さんのとは違うよね。」

 一通り語り終えると、最後に維月は笑うのだった。それに釣られる様に瑠菜は笑顔になると、維月に言った。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


 

STORY of HDG(第7話.04)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-04 ****


「実際にその様子を見てないと、なかなか理解はして貰えないと思うけど。兎に角、佳奈ちゃんが考えている内に、何でも先回りしてやっちゃうのよ、お母さんが。わたしが見たのは一日の内の、何分の一かは分からないけど、それだけでも、そう言う印象を持つ位(ぐらい)なんだから、後は推して知るべし、って事でしょ。」

 樹里の証言を聞いて、瑠菜は先程の佳奈の行動に合点がいったのだった。そして、それを確認するべく、瑠菜は佳奈に問い掛ける。

「佳奈さん、あなた実家で、部屋の片付けとか、洗濯物の整理とか、やった事有るの?」

「ううん、みんなお母さんがやってくれてたの、ずっと。」

 無邪気な佳奈の返事に、頭を抱える思いの瑠菜だった。その一方で、維月が所感を述べる。

「何となく分かった。要するに、古寺さんは自主的な行動力を、ほぼ封印された環境で育って来たのね。」

「そうそう、その『自主的な行動力を封印』って表現は、なかなか素敵ね、井上さん。それで、学校でも『お世話係』何てのが、小学生時代からくっ付いていた訳(わけ)よ。まぁ、周りは親切の積もりだったのでしょうけど、でもそのお陰で、佳奈ちゃんには、その『自主的な行動力』を発揮する経験が決定的に不足してた訳(わけ)。」

「それで、あなたはどうしたの?城ノ内さん。」

 瑠菜は、樹里の瞳を覗き込む様に見詰めて聞いていた。

「当然、余計なお世話は止めたの。徒(ただ)、間違った判断や行動から危険な状況になるといけないから、注意したり、ヒントを出したり。成(な)る可(べ)く自分から行動する様に、促(うなが)してね。ほぼ二年間、そうやって漸(ようや)く今のレベルになったの。以前はもっと、何も出来なかったんだから。」

「ごめんね~樹里リン。迷惑ばかり掛けて。」

 佳奈は申し訳(わけ)無さそうに、樹里に向かって頭を下げるのだった。

「と、言う事は。わたしにも、余計な手出しはせずに、見守れって言いたいのね。」

「そう言う事、瑠菜さんが頭のいい人で良かった。」

 瑠菜の言葉を聞いて、樹里は安堵の笑みを浮かべるのだが、そこで維月が一つの疑問を提示するのだった。

「しかし、まぁ、そんな具合で、良くこの学校に受かったものね。って言うか、ここに受かった位(くらい)なんだから、それなりの成績取ってただろうに、学校でそんな扱いを受けていたって言うのも何だか不思議だけど。」

「いいえ、わたしの中学時代の成績は良くなかったですよ~井上さん。」

 維月の疑問には、佳奈が自ら答えたのだが、それには樹里の補足が必要であった。

「佳奈ちゃんは成績が良くなかったんじゃなくて、良くない振りをしてただけでしょ。 この子、試験でわざと低い点数を取る様に解答を操作してたのよ。」

「何でそんな事を?」

「ええ~だって、わたしがいい点取ると嫌われちゃうじゃないですか、みんなに。」

 瑠菜の問い掛けに、佳奈が返した答えは、瑠菜と維月を困惑させた。維月が、樹里に問い掛ける。

「どういう事?」

「さっきの佳奈ちゃんの説明だと、物凄く語弊が有るから、わたしが補足するけど。先(ま)ず、佳奈ちゃんが小学生の頃、これは佳奈ちゃんから聞いた話だけど、テストで佳奈ちゃんが満点を取った事が有ったんだって。で、その時、仲が良かった子が、悔し紛れに佳奈ちゃんに悪態を吐(つ)いたらしいの。」

「あぁ~言い方は悪いけど、普段から見下してる子が自分よりいい点を取ったのが悔しかった、って感じかな。有りそうな話ね、そう言う所、子供は残酷って言うか極端になり勝ちだから。」

「そう。でも、それが佳奈ちゃんには酷(ひど)くショックだったのよ。その次のテストでは、解答が書けなかった位(ぐらい)に。要するに、白紙で出した訳(わけ)だけど、そうすると当然、先生やお母さんから叱られるわよね。」

「まぁ、そうなるよね。」

 樹里と維月の遣り取りをここ迄(まで)聞いていて、瑠菜は佳奈の取った行動の理由に思い当たり、声を上げた。

「あ、そうか。真面目に解答すると友達に嫌われる、解答しないと先生や親から叱られる。だから、友達に嫌われない程度に解答しよう、って事ね。」

「察しがいいわね、瑠菜さん。そう言う事。それを小学生の頃からずっと続けてたのよ。だから公式な成績は中の下くらいで、学校側も佳奈ちゃんをその位(くらい)の生徒だとしか思ってなかったの。」

「城ノ内さんは、良くその事に気が付いたわね。」

 維月の指摘を受け、樹里は一つ溜息を吐(つ)き、椅子の背凭(せもた)れに身体を預けて答える。

「そりゃ、分かるよ。授業中は真面目にノート取ってるし、授業中に先生に指されても、即答じゃ無いけど、それでもそつなく答えるし、出された宿題や課題もちゃんとやって来るのよ。それなのに、試験の結果だけが中の下なの、おかしいでしょ?」

「それが、おかしいって思ったのは、わたしの身の回りで樹里リンだけだったんだけどね~。」

 佳奈は無邪気にそう言って、笑った。その言葉に対して、所感を述べたのは維月である。

「結局、古寺さんの事に、誰も本気で注意を払ってはいなかったって事ね。城ノ内さん以外は。」

「まぁ、わたしがおかしいと思ったのが半年くらい経った頃だったけど、問い詰めて、その事を佳奈ちゃんが白状する迄(まで)、更に半年掛かったの。」

「と、言う事は、中三からはテストの解答を操作するのは止めたのね。」

 そう問い掛けた瑠菜だったが、返ってきた樹里の返事は、又しても意外な内容だった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第7話.03)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-03 ****


 そこには、瑠菜と同じく新入生らしい女子生徒が二人、立っていた。手前に立っている女子生徒は、瑠菜と同じ位(くらい)の身長で、黒髪を低めの位置に二つ結びにしている。その後ろに立っているもう一人は、随分と背が高く、ストレートの長い髪が印象的だった。

「あ、…佳奈、古寺さん居るかな?」

 二つ結びの女子生徒は、ドアを開けた瑠菜を見て、少し戸惑った様に、そう言った。

「あ、樹里リン。」

 部屋の奥側から、入り口に立っている二つ結びの髪の女子生徒の姿を見て、佳奈が声を上げた。その女子生徒は瑠菜の肩越しに、佳奈の姿を見て、少しほっとした様な表情を浮かべ、佳奈に向かって言う。

「片付けは出来たみたいね、佳奈ちゃん。」

「うん、瑠菜さんに教えて貰ったの~あ、入って、入って。」

 その女子生徒は佳奈に入室を促(うなが)された事を、瑠菜に確認する為に尋ねる。

「お邪魔していい?」

「まぁ…どうぞ。」

 瑠菜は右手でドアを引きつつ身体の向きを変え、左手を部屋の奥へ向かって、動かして見せる。

「お邪魔します。」

「お邪魔しま~す。」

 ドアの前に立っていた二人の女子生徒は部屋の中に入ると、瑠菜はドアを閉めた。再び、オートロックのラッチが掛かる音が、小さく響く。

「取り敢えず、自己紹介しておくわね。わたしは情報処理科の城ノ内 樹里、佳奈ちゃんとは中学が同じだったの。で、こっちは、わたしと同室になった井上さん。」

「城ノ内さんと同じく、情報処理科の井上 維月です、よろしくね。」

 維月は自己紹介すると、瑠菜に向かってスッと右手を差し出す。そこで握手を交わすのも何だか変な気がした瑠菜はその手を取らず、机とセットになっている椅子を、左掌(てのひら)を上にして指し示し、声を掛ける。

「ま、取り敢えず、その椅子を使って。立ち話も何だし。 あ、わたしは機械工学科のルーカス 瑠菜よ。 それじゃ、佳奈さんの事はお二人共、知ってる訳(わけ)ね?」

 瑠菜は、部屋の奥側、自分のベッドへ移動し、そこに腰を下ろした。

「ううん、中学が同じだったのは樹里リンとだけ。井上さんとは初対面です、よろしくね。古寺 佳奈です~あ、わたしも機械工学科です。」

 自分のベッドに腰掛けた儘(まま)、佳奈は維月に向かってペコリと頭を下げた。
 その一方で、瑠菜が訝(いぶか)し気(げ)に、樹里に問い掛ける。

「それで、どう言ったご用?」

「突然押し掛けて来て、ごめんなさいね。佳奈ちゃんの事が心配だったから、様子を見たかっただけなのよ。」

「それじゃ、あなたは、その野次馬?」

 今度は、維月に疑念の矛先を向ける瑠菜だった。

「まぁ、そう警戒しないで。わたしはこの学校に知り合いが居ないから、同級生と交流を持ちたいだけだから。」

「そう、だったら、もう一時間ほど早く来て欲しかったわね。あの子、一時間ほど閉め出されて、ドアの前に座り込んでたんだから、わたしが来る迄(まで)。 佳奈さん、あなたも、知り合いが同じフロアに居たのなら、助けを求めれば良かったじゃない。」

 その瑠菜の発言に、佳奈が無邪気に返した言葉は、瑠菜には意外な内容だった。

「これからは樹里リンに頼らないで、自分で考えなさいって。それで、瑠菜さんが来るのを待ってればいいって、自分で考えたの。でも、こう言う時は管理人さんに相談すれば良かったんだって、瑠菜さんに教えて貰ったのよ、樹里リン。」

 樹里は微笑んで、佳奈に言葉を返す。

「そう、それで良いのよ。結果が間違ってても、先(ま)ず、自分で考えて行動しないとね。」

「うん。」

 樹里と佳奈、二人の遣り取りを困惑した表情で聞いている瑠菜に気が付いた樹里が、瑠菜の方に向き直り声を掛ける。

「同室になるあなたには、佳奈ちゃんの事、お話ししておきたいんだけど、聞いて貰える?ルーカスさん。」

 その時、樹里に向かって佳奈が声を上げるのだった。

「樹里リン!瑠菜さんは、名字で呼ばれるのは嫌なんだって。瑠菜さんって、呼んであげてね。」

「あら、そうなの? じゃ、瑠菜さんって呼ばせて貰うけど、いいかしら?」

「あ、うん…どうぞ。」

 話の展開が読めず、更に困惑の度を深める瑠菜は、そう返事をするのが精一杯だった。ニッコリと笑顔で話を続ける樹里の事が、ある意味、不気味にさえも感じられた。

「瑠菜さんの事にも、俄然(がぜん)、興味が湧いてきたから、色々お話を聞きたいんだけど。でも、先に、佳奈ちゃんの話からさせて貰って良いかな?」

「ええ、わかった。どうぞ。」

「ちょっと、長い話になるかも、だけど。成(な)る可(べ)く、手短に済ませる様に、努力はするわね…そうね、先ず、佳奈ちゃんの態度と言うか、行動と言うか、そのペースとかが物凄く独特だって言うのには、瑠菜さんも、もう気が付いていると思うけど。」

「そうね、部屋の前に座り込んでいたのとか、荷物の片付けが全く進まないのとか、ちょっとビックリした。」

「わたしが佳奈ちゃんと同じクラスになったのは、中二からなんだけど。佳奈ちゃんの周りに居た人達から聞いた話に依ると、まぁ、小学校の頃からそんな具合だったらしいのよ。それで、学校で周りの人とペースが合わないと、まぁ、周囲が迷惑するからって事で、佳奈ちゃんには『お世話係』が付いていたらしいのよね。で、わたしが中二の時にそれに任命されちゃった訳(わけ)。その辺りの細かい事情は、省略するけど…。」

「それを、わたしにやれって話?」

 樹里は慌てて両方の掌(てのひら)を瑠菜に向け、否定の仕草をする。

「結論を急がないで、もうちょっと続きが有るから。 で、佳奈ちゃんと向き合う様になって、分かったの。ペースが独特なだけで、決して、頭が悪い訳(わけ)じゃないって。この学校に合格してる事だけでも、その証明になると思うけど、どう?」

「そうね、確かに。」

「でね。佳奈ちゃんの家に、何度か行ってね~気が付いたのよ。佳奈ちゃんのお母さんがね、せっかちなの、物凄く。」

「え?」

 その話の展開に、黙って成り行きを見ていた維月迄(まで)もが、思わず声を上げたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.02)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-02 ****


 瑠菜は廊下を進み、206 号室の前で立ち止まると、ドアの方へ身体を向ける。視線を下げると、ドアを背に座り込んでいる少女の見上げる視線とぶつかった。

「何してるの?ここで、あなたは。」

「あ、ルーカスさん、ですかぁ?」

「そう、だけど。あなたは?」

「同室になります、古寺 佳奈です~よかったぁ、優しそうな人で。」

 佳奈はニッコリと笑顔を浮かべ、立ち上がる。

「優しそう?わたしが?…それで、何をしてたの?」

「別段、何かをしてた訳(わけ)じゃなくて~寧(むし)ろ、何もしてませんでした~。」

「何よそれ、禅問答?」

「実は、トイレに行った時に、カードを部屋の中に置いた儘(まま)で~…」

「要するに、入れなくなってたのね? 来た時に、管理人さんに注意されなかった?」

「それはもう、うっかり、としか…あはは。」

 ドアを背にして、左手を後頭部に回し、佳奈は頭を掻く様な仕草で笑った。
 瑠菜は先程受け取った、カード・キーをドアの脇に有るパネルへと翳(かざ)す。すると、「ピッ」と電子音がして、ドアのロックが解除された。

「取り敢えず、中に入りましょ。」

「は~い。」

 佳奈はクルリと向きを変え、ドアを押し開けた。二人が室内へと入り、瑠菜がドアを閉めると、「カチャリ」とドアがロックされる音が聞こえるのだった。

「それで、何時(いつ)からドアの前に居たのよ?あなた。」

「う~ん、一時間位(くらい)かなぁ。」

 部屋の中に入ると、瑠菜の送った段ボール箱が三つと、大きめのスポーツバッグが一つ、ドアを背にして向かって左側のクローゼットの前に置かれている。一方、向かって右側の部屋の奥側にあるベッドから机を経てクローゼットの前までには、佳奈の荷物の中身であろう衣類や本、その他の小物等(など)が並べられていたのだった。

「一時間も?その間、誰も廊下を通らなかったの?」

「三人、目の前を通って行ったけど、話し掛けてはくれなかったなぁ。」

「そりゃ、そうでしょうね。」

 佳奈はベッドの上に広げた荷物を分類しようとしているのか、右へ移動したり、左へ移動したりしている。瑠菜は佳奈に背を向け、自分の荷物の封を開けた。
 室内の収納は、ベッド下の引き出しと、クローゼットの二箇所で、あとは机のサイド・キャビネットと、本棚が机の正面側に作り付けられている。瑠菜は、てきぱきと衣類や小物等(など)を、それぞれが相応(ふさわ)しい場所へと仕舞っていった。

「あんな所に一時間も居る位(くらい)なら、管理人さんに言って、開けて貰えば良かったのに。」

「あぁ、それは思い付かなかったなぁ。管理人さんから同室のルーカスさんは今日、入寮の予定だって聞いてたから、その内(うち)、ルーカスさんが来るだろうって、それしか考えてなかった。」

 瑠菜は手を止めて、振り返り、言った。

「ちょっと、一つお願いが有るんだけど。いい?」

「何?ルーカスさん。」

「それよ。名字で呼ぶの、止めて貰える?」

「え…嫌いなの?自分の名前。」

「嫌いではないけど、人に呼ばれるのが嫌なの。」

「そう。よく分からないけど、じゃ、瑠菜さん?」

「うん、それでお願い、こっちから指定して、何だか悪いけど。」

「ううん、いいけど。それじゃ、わたしの事も名前で呼んでね。」

「いいわ、佳奈さん、だったよね。」

「うん。」

 そんな会話の後、二人は荷物整理を再開した。
 十数分後、瑠菜は一通りの片付けを終え、最後に新しい制服一式をハンガーに掛けて、クローゼットの扉を閉めた。ふと、振り向いて佳奈の方を見た瑠菜だったが、佳奈は徒(ただ)、右往左往しているだけで、全く整理が進んでいない様子だった。
 取り敢えず、瑠菜は黙って部屋着に着替え乍(なが)ら佳奈の様子を観察し続けていたのだが、着替えが終わっても状況は進展しそうも無かった。我慢し切れなくなり、思わず瑠菜は佳奈に声を掛けた。

「佳奈さん。あなた、片付けは苦手な人?」

「う~ん、こういう事、殆(ほとん)どやった事が無くって。家(うち)では何時(いつ)もお母さんがやってくれてたから。」

「お嬢様だったのね。」

「そういうのじゃ、無いんだけど。」

 佳奈は、衣類や小物等(など)をベッドの上に並べて幾つかのグループに分類はしたものの、それをどこに収納すればいいのか迷っている様子だった。

「取り敢えず、制服とブラウスはシワになるから、ハンガーに掛けてクローゼットに仕舞っておきなさい。ハンガーはクローゼットの中に有るから。」

「は~い。」

 瑠菜に言われた通り、佳奈はクローゼットからハンガーを取り出すと、ブラウスや制服をハンガーに掛けてクローゼットへ仕舞った。

「下着(インナー)類と靴下、ハンカチとかタオルはベッド下の引き出しに。左、窓側の引き出し。 アウター類もベッドの下、真ん中の引き出し。 右の引き出しは空けときなさい、ランドリー・バッグに入れた汚れ物の一時保管場所にするから。 それから、体操服とか夏用の制服とかはクローゼット下の引き出し。 本とかノートは取り敢えず机の上に、後で、自分で分かり易い様に本棚に並べなさい。文房具や小物はサイド・キャビネット。」

 佳奈は瑠菜の指示に素直に従い、ベッドの上に並べられた荷物を、それぞれの収納場所へと納めていく。すると、十分も掛からない内に一通りの片付けが終わったので、佳奈は手を叩き、歓声を上げた。

「わ~片付いた~。瑠菜さん、凄い~。」

「凄いって…これ位(くらい)、普通でしょ。」

「ううん、凄い、凄い。お母さんみたい!」

「お母さんって、あのね…。」

 苦笑いを浮かべていた瑠菜は、佳奈の「お母さん」と言う評を聞いて溜息を吐(つ)くのだった。
 丁度(ちょうど)その時、誰かがドアをノックする音が聞こえたので、取り敢えず、瑠菜が入り口へと向かい、ドアを開いた。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.01)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-01 ****


 今回は時間軸を一年ほど遡(さかのぼ)った所から、物語を始めよう。その日は、天神ヶ崎高校での第二十二期入学式を二日後に控えた、2071年4月01日水曜日である。
 時刻は午後四時を少し回った頃だろうか、この年、天神ヶ崎高校に入学する瑠菜は、最寄り駅で乗車したタクシーから、校門の前で降りたのだった。事前に送られて来ていたチケットでタクシー料金を支払った瑠菜は、手提げの小さなバッグのみを持って学校の敷地内へと入って行った。
 これから三年間、この学校の敷地内に用意されている女子寮で生活する事になるのだが、着替え等(など)生活に必要な荷物は実家から発送してあったので、既に此方(こちら)に届いている筈(はず)だった。瑠菜は、タクシー・チケットと一緒に送られて来ていた案内書類の校内見取り図を頼りに、学校の広い敷地内を女子寮を目指して歩いて行く。
 天神ヶ崎高校は小高い山の中腹の、なだらかな斜面を造成して建てられているので、北に向かって敷地の奥へと向かうと、緩やかではあるが坂道を登って行く事になる。事務棟や校舎の脇を抜けて敷地の一番奥、つまり一番高い所に、実習工場を挟んで西側に男子寮が、東側に女子寮が建てられていた。
 その日は、在校生に取っては始業式の日だったので、私服で校内を歩いていた瑠菜は、制服を着た先輩達に度々(たびたび)出会(でくわ)すのだった。始業式の日の、その時間まで校内に残って居たのは入学式の準備を進める生徒会役員か、その手伝いをしている生徒なので、私服の瑠菜を見ても「あぁ、新入の寮生だな」としか思わない。だからそんな先輩達へは軽く会釈をしつつ、瑠菜は女子寮を目指して校内を進んで行った。

 女子寮のエントランスに辿り着くと、大きな硝子ドアを押して、瑠菜は中へと入る。すると、右手側にカウンターテーブルと硝子戸が有り、その硝子戸の向こう側に居た管理人らしき女性と目が合った。

「こんにちは。」

「あ、新入生かな?」

 自分の母親よりも一回り位(くらい)年上だろうか? そんな事を考え乍(なが)ら、瑠菜がカウンターテーブルへと歩み寄りつつ挨拶をすると、中に居た女性が硝子の引き戸を開けて、瑠菜に声を掛けて来た。

「はい。今年からお世話になります、ルーカス 瑠菜、です。」

「え~と…学科を教えてくれる?」

 その女性はタブレット端末を取り出し、画面を操作している。

「機械工学科、です。」

「機械工学科のルーカスさん…ルーカスさん、と。あ、はい、有った。あなたは 206 号室ね。あ、わたし、管理人の渡辺です~よろしくね。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

 渡辺さんは、カウンターの下からカードを一枚取り出し、カウンターテーブルの上に置いて、瑠菜へと差し出した。

「これね、お部屋のカード・キー。代用なんだけど、一応、受け取りのサインしてちょうだい。こっちに。」

 クリップボードに挟んだ受取証とボールペンを取り出すと、それもカウンターテーブルへと置き、瑠菜の方へと差し出す。

「代用?ですか。」

「ええ、入学式が済んだら学生証カードが貰えるから、それがお部屋のキーも兼用なのよ。それが貰えるまでの代用なの。学生証を貰ったら、そのカード・キーは返却してね。」

「あぁ、成る程。そう言う事ですか。」

 瑠菜はクリップボードの書類にサインをして、カード・キーを受け取る。

「はい、ありがと。え~と、お部屋はオートロックになってるから、部屋を出る時は必ずカード・キーを持って出てね。特にトイレとかお風呂の時に、慣れる迄(まで)はうっかりする人が多いから、気をつけてちょうだいね。」

「はい。わかりました。」

「それから、一年生はみんな二人部屋だから…あなたと同室の子は…古寺 佳奈さん、もうお部屋に入ってるわね。それから、あなた宛の荷物は届いてたから、お部屋の中へ運んであります。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

「シューズボックスはそっちの~部屋番号と同じ番号のを使ってちょうだい。スリッパとか上履きは用意してある?案内に書いてあったと思うけど。」

「あ、荷物に入れて送っちゃいましたから、届いている段ボール箱の中に。」

「あぁ、そう。じゃ、取り敢えず来客用のスリッパを使ってて。あとで戻しておいてくれたらいいから。」

「はい、分かりました。」

 瑠菜はカウンターテーブルの下、足元に幾つか用意されていた来客用のスリッパを取ってから、シューズボックスが両サイドに立ち並ぶコーナーへと行き、自分の部屋番号のボックスを探し、扉を開ける。一つのボックス内は中央で仕切られ、左右がそれぞれ三段に分けられている。向かって右側の下段にスニーカーが一足、既に入れられていた。それが同室の佳奈の物であろう事は、瑠菜にも直ぐに察しが付いた。瑠菜は同じ様に、左側の下段に自分が履いて来たスニーカーを入れ、来客用スリッパでエントランスから中へと入って行った。「あとで、制服用の革靴をシューズボックスへ、入れて置かなくちゃ。」そんな事を考え乍(なが)ら、管理人室脇の階段へと向かう。
 階段室へと入る手前で、管理人室から渡辺さんが出て来て、瑠菜に声を掛けた。

「206 号室はこの階段を上がったら、奥に向かって左側三番目の部屋だから。注意事項とか決まり事は各部屋に説明書きが置いてあるけど、分からない事が有ったら、何時(いつ)でも、遠慮無く聞いてね。」

「はい、ありがとうございます。」

 瑠菜は渡辺さんに一礼すると、二階へと階段を上がって行った。
 階段を上がって二階廊下へ出ると、奥に向かって左手側三番目の部屋のドアの前、つまり瑠菜が目指す 206 号室のドアの前に、少女が一人、ドアを背にして座り込んでいるのに気が付いた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG (第6話) Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第6話まとめ版、Pixiv へ投稿しました。
表紙画像をちょっと修正したので、ここでの掲載画像は Pixiv 版とはちょっと違ってます。
第7話は、現在、第7回掲載分を打ち込み中。第7話の掲載開始まで、まだ暫く掛かります。

f:id:motokami_C:20160902162228j:plain



「第6話・クラウディア・カルテッリエリ」/「motokami_C」の小説 [pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7194929

PS000126C <暑夏> 2016.08.22

 先日来、製作していた「天神ヶ崎高校」の Poser 用夏服 DC のテストを兼ねたサンプル作品。

 これに使うために、急遽、「氷菓子」のフィギュアも製作しました。

【poser】「暑夏」イラスト/motokami_C [pixiv]

 結果、「残暑見舞い」風な画になりましたが、これは唐突に思いついた「空が画面に入る構図」を探して AUX カメラでアングルを探った結果です。

 当初のアイデアは、二枚目の構図で、メイン・カメラのアングルはこちらでした。

 

 今回作った、「氷菓子」フィギュアなんですが、製品化して販売する事も検討中ですが~欲しい人居るかな? 同じ様な物が、過去にあったような気がしないでもない…

 

「Akane-UF-OP01A for Poser」進捗・2016.08.15

「天神ヶ崎高校」の夏服、Poser DC 版、取り敢えずセットアップまで出来ました。

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 こちらは、後ろ姿。

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 ちょっと意味不明なポーズで、追従度や破綻の確認をしたのがこちら。

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 スカートのひだの折り返しが、イマイチ、思い通りにならないのだけど、まぁ、Toon 版だとこんな物だろうか。
 シミュレーションの設定とか、もうちょっと使ってみて決めたいと思います。

「HDG-Claudia for Poser」進捗・2016.08.06

前回製作したサンプル画像に、制服を着せたのが今回の掲載画像。

 

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 クラウディア用にも制服をセットアップ(DC)したわけですが、袖の所がイマイチ綺麗にシミュレーション出来なかったので、強制グループで固定しました。それから、茜が使っている、校則通りのスカートをベースにしてクラウディア用に変換すると、スカートが長めに見えてしますので~ブリジット用に使っている、スカートを短めにしたモデルをベースに、クラウディア用にサイズ調整をして DC 化しました。
 しかし、クラウディアとブリジットの足の大きさの違いが、もう(笑)

「HDG-Claudia for Poser」進捗・2016.08.04

「STORY of HDG」第6話の表紙画像用に取り敢えず必要なので、クラウディアの Poser フィギュアをセットアップ。
 これで、一年生トリオが揃ったわけですが。体格差としては、掲載画像のような感じです。

 

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 Poser 的には三人ともオブジェクト・データは共通で、ブリジットとクラウディアについては、顔はモーフにて、身体は各ボーンの拡縮にて変化を付けてます。
 次の作業は、制服(冬服)をクラウディア対応版に変換して、夏服のモデリングかな。

STORY of HDG(第6話.14)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-14 ****


 クラウディアは数秒の間を置いて、口を開いた。

「どうして、言ってくれなかったの?」

「どう言えっていうのよ?わたしもあなたに負けないぐらい成績いいですよ、なんて、普通、自分から言ったりしないでしょ。わたしも、天野さんと同じで、そんな事で競争する気はないし、ね。」

 維月の返事を聞いたクラウディアは、じっと維月を見詰めた儘(まま)だったが、言葉に詰まっている様子だった。維月は、更に言葉を続ける。

「百歩譲って、どんな風に伝えるかは兎も角、わたしの取るであろう成績の事を、あなたに話したとしましょう。それで、あなたがわたしに対して、あなたが天野さんに取る様な態度になったら、それはわたしに取っては辛い事よ。わたしはあなたと敵対したくはないし、寮では同じ部屋で寝起きするのよ。だからって、あなたに気を遣って、わざと悪い成績を取るなんて事迄(まで)する気は無いの。わたしは去年後半、病気の所為(せい)で学校に来られなくなって、散々悔しい思いをしたから。そんな気持ち迄(まで)あなたに解って貰おうとは思ってないけど、誰にもわたしの邪魔はさせないわよ、今度はね。」

 黙った儘(まま)だったクラウディアは、維月がそこ迄(まで)言い終えると、視線を机の上へと落とした。何か言葉を探している様だったが、数秒経っても、それが見付からない様子だった。維月はスゥッと息を吸い込んで、少しゆっくり、話し出す。

「クラウディア、あなたは頭はいいけど、人との関わり方がとっても不器用で、それで無駄に敵を作って損をしていると思うの。だけど、そんなあなたの事を、わたしは嫌いじゃないのよ。あなたとわたし、これからも上手くやっていけるかしら?」

 維月はクラウディアの瞳を覗き込むように、微笑んで視線を投げかける。クラウディアはその視線を受け止め、言った。

「上手くやっていきたい、と思う。わたしも。」

「そう、よかった。」

 席から腰を浮かせ、維月はクラウディアに向かって右手を差し出す。クラウディアは少し躊躇(ちゅうちょ)した後、その右手を取り、二人は握手を交わすのだった。

「じゃ、これからもヨロシクね。」

 笑顔で、そう言った維月は、クラウディアの手を握る右手に少し力を入れ、笑顔を崩さずに言葉を続ける。

「これで、一件落着…と言いたい所だけど。でもね、この際だから言わせて貰うけど、天野さんとボードレールさんに対するあなたの態度は、度を超していて失礼よ。対人不器用って言うレベルじゃないから、この場で少し、考えを改めなさい。」

 維月は更に、右手にぎゅっと力を込める。

「痛い!イツキ、痛い、痛い。」

「別に、謝れとか何とか言ってる訳(わけ)じゃないの。徒(ただ)、今後の態度を考えなさいって言ってるだけ。それが分かったら、放してあげる。」

「分かった、分かったから。放してっ。」

 悲鳴にも近いクラウディアの声を聞いて、漸(ようや)く維月は握っていた右手を放した。その手を机越しにクラウディアの頭へと伸ばし、その金髪の頂部に右手を当てて維月は言った。

「いい子ね。」

 透かさずクラウディアは、左手で維月の右手を払い除ける。

「だから、頭を撫でないでってば。」

「あはは、ごめん、ごめん。」

 維月は椅子に座り直し、言葉を続けた。

「正直言うとね~今回の試験、自分が立場的に有利なのは解ってたんだけど、クラウディアに勝てる自信は無かったのよね。それから、天野さんがここ迄(まで)得点するとも思ってなかったの。黙ってればクラウディアの希望通りの結果になって、丸く収まるのかなって思ってたから、わたしとしては予想外な結果だったけど。まぁ結果的に、これで良かったのかもね。」

 対して、クラウディアは立った儘(まま)、腕組みをして言う。

「まぁ、いいわ。取り敢えず、今後の目標を変更する。卒業までに、イツキとアカネを追い抜くのが、今後の目標よ。」

「卒業って…随分とロング・スパンに切り替えたわね。」

 と、呆れ半分、からかい半分でブリジットが突っ込むのだった。そして、茜も呆れた様に、言葉を返す。

「どうであれ、わたしはそんな勝負に付き合う気はありませんので、どうぞご勝手に。」

「ええ、飽くまでも個人的な目標だから、勝手にさせて貰うわ。」

 茜を横目で見つつ、クラウディアは鼻で笑う様に言うのだった。
 その時、「パン」と一回、手を打つ音が室内に響いた。

「はい、そろそろ今日の作業、始めましょうか。運用試験本番迄(まで)、あと一週間しか無いんだから。」

 事の成り行きを見守っていた緒美が、立ち上がってそう言うと、一同が席を立ち、それぞれの担当作業の準備を始めるのだった。
 茜とブリジットは、インナー・スーツへ着替える為、中間試験以降より更衣室扱いとなっている、資料室の隣室へと向かった。瑠菜と佳奈、直美は HDG と LMF の起動準備の為に階下へと降りて行く。緒美と恵、立花先生は、記録機器の準備を始めた。樹里とクラウディア、そして維月の、今日の作業予定は、HDG-B号機及び、C号機のソフトウェア仕様の検討と資料整理である。

「手伝ってくれる人が来てくれて、助かるわ~。今迄(まで)この担当は、わたし独りだったから。」

 愛用のモバイル PC に必要なアプリケーションを立ち上げ乍(なが)ら、樹里が染み染みと、そう言った。

「イツキも、正式に入部すればいいのに。」

「入部すれば、本社からバイト代も出るのよ。」

「いいわよ、お金なんて。人手が足りない時のお助け要員位(ぐらい)が、わたしにはちょうどいいの、無責任で。」

 そう言って笑う維月は、何と無く左手を自分の首筋へと当て、少し伸びた襟足を撫でるのだった。その仕草を見て、樹里が言った。

「早く伸びるといいね、髪。」

「伸ばしていたの?以前。」

 クラウディアが維月に尋ねる。

「うん、まぁね。」

「去年迄(まで)は、今の部長位(くらい)、長かったのよね。」

「どうして切ったの?」

「髪を切らなくても手術は出来たんだけど、願掛けみたいな物よ。脳腫瘍の手術が成功しますように、って。」

「そう。」

 短く返事をしたクラウディアは、鞄から取り出した自分のモバイル PC の、電源を入れたのだった。

 

- 第6話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第6話.13)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-13 ****


 その上位三名は、次の通りだった。

 1. 機械工学科 天野 茜 967点
 2. 情報処理科 井上 維月 942点
 3. 情報処理科 クラウディア・カルテッリエリ 918点

 得点は今回の試験教科、十教科の合計得点である。

「あら。」

 茜は一言そう言うと、それ以上の感想は口にしなかった。そして、ブリジットが続ける。

「なんだ、クラウディア。入試の時より順位、下がってるじゃないの。あぁ、それで維月さん、探してたんだ。」

「Ah~!油断してた!入試結果には、イツキの名前が無かったから。」

 クラウディアは手近な椅子に腰掛け、頭を抱える様にして部室中央の長机に突っ伏した。

「そりゃ、維月さんは今年の入試は受けてないんだから、入試結果に名前が無いのは当然よね。」

 とは、ブリジットの弁である。

「う~ん、入試を受けてないって言ったら、推薦枠の人も居るじゃない? だから、推薦枠の人がもっと上位に来るだろうと思ってたから、わたしの順位に就いては意外な結果だわ…。」

「何、言ってんの。茜はそもそも、推薦枠の人だったじゃない。」

 茜の天然コメントへ、的確なブリジットの突っ込みである。

「大体、天野さんの得点より上って、注文として可成り厳しいよね~。」

 クスクスと笑い乍(なが)ら、恵がそう評すると、茜が尋ねるのだった。

「それにしても、維月さんって、何気に凄い人だったんですね。」

「まぁね~、去年、休学する迄(まで)、樹里とトップ争いしてたもんね。」

 茜の問いに答えたのは、瑠菜である。それに続いて、発言したのは樹里だった。

「それに、維月ちゃんは今回の試験範囲は二度目だから。去年と全く同じ問題は出てないと思うけど、それでも十分有利な筈(はず)よ。だから、てっきり今回の一年のトップは、維月ちゃんだろうと思ってた。」

「そうそう、その維月ンの上を行っちゃった茜ンは、又、凄いよねぇ。」

「まぁ、この一月(ひとつき)位(ぐらい)の、天野の様子見てればね、わたしは驚かないけど。」

「あの、え~…恐縮です。」

 樹里に続く、佳奈と瑠菜の発言を聞いて、茜は嬉しいやら気恥ずかしいやらで、顔を紅潮させるのみだった。

「まぁ、点数を見れば、クラウディアも十分健闘したんじゃない? 毎度、引っ掛け問題を混ぜる先生もいるしね。」

 慰める様な発言は、直美である。それに続いて、恵も言うのだった。

「そうね~、出題の文章も普通の会話とは又、違う言葉遣いになるから、日本語ってややこしいわよね。」

「慰めてくれなくてもいいです~。そういう先輩方は、どうだったんですか?試験の結果は。」

 クラウディアは机に突っ伏した姿勢の儘(まま)、顔を上げて言った。

「鬼塚と城ノ内は、それぞれ学年一位、盤石だよね~。わたしは、上位三十位なんて縁が無いけど。森村は二十六だったっけ?」

「まぁ、なんとか。」

 笑い乍(なが)らクラウディアの問い掛けに答える直美の振りに、恵は微笑んで答えた。

「わたしも上位なんて縁が無いですよ~、瑠菜リンは二十八位だったよね~。」

「そうね。今年中に二十位以内には、入りたいと思って頑張ってるんだけど。佳奈だって、上位三十位に後一歩位(ぐらい)じゃない? 三十位の人と、二十点位(ぐらい)しか違わないんだから。」

 と、佳奈、そして瑠菜が答える。

「まぁ、気が付いて見れば、結構な成績上位者の集まりになっちゃてるわね~。」

「そうりゃ、そうですよ。天野重工の中でも最先端の代物(しろもの)を扱ってるんですから。別に、成績基準で部員を集めた訳(わけ)じゃないですけど。」

 立花先生の所感に対して、何時(いつ)も通りの冷静な言葉を返す緒美である。
 そんな折、部室のドアが静かに開き、室内の様子を窺(うかが)う様に、維月が顔を覗(のぞ)かせる。机に突っ伏していたクラウディアが、それに気付き、両手で机を押す様にして、声も上げずに勢い良く腰を上げた。

「はぁい。」

 引き攣(つ)った笑顔を見せつつ、維月は左手を振って見せるのだが、クラウディアは無言で維月の方を見詰めている。維月は、気まずそうに言葉を続ける。

「いやぁ~そろそろ、ネタバラシも終わってるかな~って思って…。」

「そんな所に何時(いつ)迄(まで)も立っていないで、入って来なさいよ、維月ちゃん。」

 開いたドアから顔だけ覗(のぞ)かせた儘(まま)の維月に、入室するように促したのは樹里である。
 維月は後ろ手にドアを閉めると部室の中へと進み、クラウディアの向かいの席に座った。その動きを、クラウディアは視線で追っていたが、始終無言の儘(まま)だった。

「クラウディア、言いたい事が有るなら、さっさと言いなさい。」

 そう、クラウディアに発言を促したのも樹里だった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第6話.12)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-12 ****


 それから一週間後、予定通り前期中間試験は実施された。
 試験前の一週間と試験期間中の一週間は何方(どちら)も、茜とクラウディアが接触する機会は無く、茜がクラウディアを寮で見掛ける事は有っても、クラウディアの側が茜を無視する状況が、依然として継続していた。
 避難訓練の後、あの昼食の時に少しでも会話が有った事が幻だったかの様に思えて、茜には少し物寂しく思えるのであったが、然(さ)りとて、クラウディアと接触が無い事が特段の不都合を引き起こす訳(わけ)でないのも、又、一つの事実ではあった。

 前期中間試験が終わると、翌日から部活動が再開された。
 試験終了から二日の後、2072年6月16日木曜日。兵器開発部には本社試作工場から、HDG-A01 用の武装である、「荷電粒子ビーム・ランチャー」と「ビーム・エッジ・ソード」が各三セット及び、「ディフェンス・フィールド・シールド」が四セット、それぞれが搬入された。
 そして同時に、陸上防衛軍演習場での HDG-A01 の武装と、LMF との火力運用に関する能力試験の日取りが、7月2日土曜日にと、正式に決定した事が天野重工本社より兵器開発部に伝えられた。
 これらの事に因り、茜とブリジットは武装のフィッティング・テストや、取り扱いの慣熟、試験項目とその手順の確認等(など)、運用試験当日迄(まで)に熟(こな)さなければならない作業に忙殺される事になったのである。
 そんな訳(わけ)で茜とブリジットの二人は、部活動が再開されて以降も、担当する作業の違うクラウディアとは、相変わらず接点を持つ事が無い儘(まま)日々が過ぎていった。

 そして、2072年6月24日金曜日。前期中間試験が終わって十日目の、その日の放課後。茜とブリジットが何時(いつ)も通り、部室へとやって来る。部室の中には立花先生と先輩達が既に揃っており、クラウディアのみがまだ来ていない様子だった。
 部室に入ってきた茜とブリジットを見た、先輩達の雰囲気が何時(いつ)もと違う様な気がして、誰とは無しに茜が尋ねる。

「あの、何か有りました?」

 茜の問い掛けに答えたのは、恵である。

「天野さん、発表されてる中間試験の成績順位、見た?」

 その問い返しを聞いて、茜は何と無くその場の雰囲気の理由を理解し、隣に立つブリジットと顔を見合わせるのだった。ブリジットは肩を竦(すく)める仕草で、苦笑いの表情をして見せた。

「いいえ、そもそも興味がありませんので。」

ボードレールさんも?」

 次いで、声を掛けてきたのは樹里だった。ブリジットは笑って、答える。

「あはは、わたしには、そもそも関係が有りませんので~。」

 その時、第三格納庫の外階段を、勢い良く駆け上る足音が聞こえて来た。その足音の主は、部室のドアを開けて言う。

「イツキ、来てます? あ、アマノ アカネ。」

 入って来たのは、クラウディアだった。茜は振り向き、クラウディアに抗議する。

「もう、いい加減、フルネームで呼ぶの、止めてくれない?クラウディアさん。」

「そう言うあなたは、どうしてわたしの事、ファースト・ネームで呼ぶの?そこの赤毛以外は、大体、ファミリー・ネームで呼んでるのに。」

「あ~、それに就いては申し訳(わけ)無いけど、あなたの名字は発音し辛(づら)いから。」

「あぁ、そう。そんな事より、イツキ!イツキは…来てない様ね。」

 クラウディアは茜とブリジットの脇を擦り抜け、樹里の席へと向かった。

「維月ちゃんなら、今日は来てないけど、一緒のクラスなんでしょ?カルテッリエリさん。」

 樹里がクラウディアに問い返す。

「最後の授業が終わったら直ぐに、姿を暗ましたんです、あのヤロー。」

「こらこら、女の子が『あのヤロー』なんて言っちゃダメよ~。」

 笑い乍(なが)ら、恵がクラウディアの言葉遣いを窘(たしな)めると、直美が余計な補足を加えるのだった。

「そうそう、それに『ヤロー』ってのは、対象が男の場合に使うんだよ。」

「解ってます。そんな細かい事はこの際、いいんです。」

「まぁ、落ち着きなさいって。ほっといても、嫌でも寮には帰って来るんだから、維月ちゃんも。」

 樹里は、そう声を掛けて、クラウディアの肩をポンと叩いた。
 一方で、部室の奥から立花先生と共に様子を見ていた緒美が、茜とブリジットに声を掛ける。

「天野さんとボードレールさんの二人は、まだ状況が良く分からないって顔ね。」

 それに、ブリジットが問い返す。

「と言う事は、先輩方は状況が分かっている、と。」

「そうね~これを見たら、一発で状況が理解出来ると思うわ~。」

 そう言って樹里が、彼女の背後に有ったデスクトップ PC のモニターを、茜とブリジットの方へと向ける。茜とブリジットは、そのモニターへと近寄り、画面を覗き込んだ。そこには、その日の放課後になって学校から発表された、一年生の前期中間試験結果、成績上位三十名の名前が表示されていた。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第6話.11)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-11 ****


 そんな調子で、昼休みも半ばを過ぎた頃。クラウディアと維月はそれぞれ昼食も食べ終わり、茜達と分かれて、先に学食を出て教室へと向かった。その途中、廊下を歩き乍(なが)ら、維月はクラウディアに言うのだった。

「天野さんとは、仲良くなれそうじゃない?」

「仲良くなる必要なんて無いわ。わたしは彼女に勝てれば、それで良いの。尤(もっと)も、向こうが仲良くしてくださいって言って来るなら、考えなくもないけど。」

 クラウディアは、そう言って笑う。

「そうやって、あなたが突っ掛かって行かなければ、さっきみたいに普通に受け入れてくれるわよ。折角(せっかく)、同じ部活になったんだから、わざわざ敵対する事もないでしょう?」

「対抗心は Motivation(モチバッツィオン)を維持するのに必要なのよ。」

「何?モチバ…あぁ、モチベーションね。ドイツ語だと、そう言う発音になるんだ。」

「モチベーション…カタカナで発音すると、そうなるんだったわね。発音にアクセントが無いのは、日本語の不思議の一つだわ。」

「あはは、あなたと話してると、色々と気付く事が有って面白いわ~クラウディア。」

 維月は隣を歩くクラウディアの頭を、右手で優しく撫でるだった。クラウディアはその手を払い除けて、言った。

「頭を撫でるのは止めて、イツキ。」

「あぁ、ごめん、ごめん。いやぁ、ちょうど良い高さだからさ、つい、ね。」

 そして、また「あはは」と維月は笑うのだった。


 一方、学食に残っていた茜達は、昼食後のお茶を飲み乍(なが)らおしゃべりを続けていた。

「さっきの、クラウディアさん? ブリジットと何か有ったの?」

 事情を知らない九堂さんが、ブリジットに問い掛けた。

「別に、何か有った訳(わけ)じゃないけど。あんまり茜に、突っ掛かって来るからさ。だったら、こっちの態度も刺刺(とげとげ)しくなるって物じゃない。」

「あぁ、それでか~ブリジットは天野さんラブだもんね。」

 ブリジットの回答に、笑い乍(なが)ら村上さんが、そう言った。
 そして今度は茜に、九堂さんが尋ねる。

「入学式のあとの時もだけど、どうしてあの子は天野さんに?」

「入試の成績で、わたしに負けたのが悔しいんだって。」

「へぇ~、成績良いのも、考え物ね~。」

 茜が理事長の孫で、入試の成績がトップだったと言う事実は、この頃には全校に知れ渡っていたのである。話の出所は定かではないが、一年生達は上級生から伝え聞いたと言う事だけは判明していた。
 九堂さんの反応を受け、ブリジットが呆れた様に、補足を加える。

「それで、今度の中間試験で茜に勝ってみせるって息巻いてるわ。」

「学科が違うのに、勝つも負けるも無いわよねぇ。」

 と、感想を漏らす茜に、村上さんが意外な事を言い出す。

「そうでもないわよ。中間と期末の試験成績は、学科関係無しに各教科の総得点順で、各学年毎(ごと)に上位三十名の名前は発表されるって聞いた、先輩から。」

「えっ、何それ?」

 思わず、茜が聞き返すと、それに対して、九堂さんが所感を述べる。

「天野さんは、そう言うタイプじゃないけど、あの子みたいに、そう言う理由で燃えるタイプもいるからじゃない? 成績上位者には、何だか特典も有るって話も聞いたけど、まぁ、わたしや敦実には、縁の無いお話よね~。」

「あはは、そうそう。」

「入試でトップだって言っても、入試を受けてない、推薦枠で入学した人も居るんだし。中間試験でわたしが上位に行けるとは限らないでしょ。だから、わたしにも関係無いわ。」

 九堂さんと村上さんに、そう言って笑う茜だったが、向かいに座っているブリジットは、浮かない表情で言った。

「取り敢えず、わたしは上位なんて望まないから、赤点だけは回避しないと。」

「あなたは、二つも部活を掛け持ちしてるからよ。」

 溜息を吐(つ)くブリジットに、容赦なく突っ込む九堂さんである。

「わたしも付き合うから、今日も試験範囲の復習、頑張りましょう。」

「迷惑掛けるわねぇ、茜~。」

「ブリジット、天野さんに教えて貰ってるの!?」

 村上さんが少し驚いた様に、そう言い、更に茜に尋ねる。

「今日の教科は?」

「数学か物理、だけど?」

 その答えを聞いた村上さんは、目を輝かせて茜に頼み込むのだった。

「ねぇ、わたしも一緒に教えて貰えないかな?」

「え、あぁ、ブリジットが良ければ、いいけど。」

 村上さんは、ブリジットの方へ向き直り、胸の前で両手を合わせて言う。

「いい?ブリジット、お願い。」

「あ…うん。構わないけど。」

 村上さんの語気に押される様にブリジットが承諾すると、そこに九堂さんが割り込んで来るのである。

「あ~敦実だけずるいっ!わたしも一緒にお願い出来ない?」

「いいけど、四人も入ったら狭いわよ、部屋。」

 女子寮の部屋の、快適性に就いて釘を刺す茜である。

「大丈夫、大丈夫。四人だったら入れるって。よし、じゃあお菓子とか飲み物は、わたしと敦実が持参するから。」

「ちょっと、真面目に勉強する気、有る?」

 今度は、勉強に対する態度に就いて釘を刺す茜である。更に、ブリジットが言葉を続ける。

「それに、試験勉強は夕食のあと、よ。」

「お菓子は別腹よ、決まってるじゃない。それに、わたしは頭を使うと、口寂しくなるのよね。」

 透かさず返された九堂さんの発言に、茜とブリジットは顔を見合わせ、笑った。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第6話.10)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-10 ****


 今度は、ラーメンをほぼ完食した村上さんが、コップの水を飲みつつ、クラウディアに尋ねる。

「そう言えば、先週はドイツで襲撃事件が有ったってニュースが有ったけど、クラウディアさんの実家は大丈夫だったの?」

「この前のは、家からは遠い所だったし、襲われた町も大した被害は無かったらしいわ。」

「四月に完成したロシアの監視レーダー網が、少しは効果が出て来た、って話らしいけど。」

 と、維月がクラウディアの返答に、補足を加えた。

 エイリアン・ドローンは、地球に降下する際、何故かは判明していないが、北極から南極へと周回する極軌道に入ることが、観測に因り知られている。大気圏へ突入するのに、北極上空を選んだ場合が「北極ルート」、南極上空から降下して来るのが「南極ルート」と呼ばれているが、人工の建造物を目当てに襲撃を仕掛けて来るエイリアン側の都合上、北半球に陸地が集中している故に、圧倒的に利用される頻度の高いのが「北極ルート」だった。
 そして、これも理由は定かではないのだが、エイリアン・ドローンは大気圏内の洋上を、長距離移動する事を避ける傾向が強く、太平洋や大西洋上空で大気圏内に降下しては来ないのである。これはどうやら、襲撃を日中に限定している事と関係が有りそうで、洋上を長時間飛行して襲撃予定地に到着した時に日没になる、と言う状況を避けていると考えられている。とは言え、洋上飛行能力が無い訳(わけ)ではなく、実際、大陸から日本海を飛び越えて日本列島にやって来る事は、頻繁に行われているのだった。
 「北極ルート」から降下して来たエイリアン・ドローンが北米大陸方向へ進む場合は、カナダや米国の防空レーダー網がそれらを検知して、ミサイルや戦闘機の迎撃が行われるので、エイリアン・ドローンもそれを学習した為か、最近ではその様な行動はしなくなっている。北米大陸の都市を襲撃する場合は北米大陸上空で大気圏に突入し、その儘(まま)襲撃目標へと向かう行動パターンが取られており、それに因って「北極ルート」から侵入する場合に比して、迎撃側の対処時間を短くさせているのだと考えられている。
 一方、「北極ルート」からユーラシア大陸へと侵攻する場合は、北米大陸とは少々事情が違っていた。先(ま)ず真っ先に対峙する、ロシア防空網の精度がカナダや米国ほど精密ではなく、特に低高度での侵入に対する脆弱性がエイリアン・ドローンの侵攻を許してしまっていたのだ。それに因り、ロシア国内に被害も出るのだが、ロシア領内には無人地帯も少なくはなく、そこを通過してアジアやヨーロッパ各国の都市部へとエイリアン・ドローンが移動して行くので、その事の方が問題を大きくしていたのである。ロシア側にしてみれば自国の都市を防衛するので手一杯であり、国土が広大であるが故に無害通過していく物に迄(まで)、手が回らないのが実情だった。それらの発見や連絡に関するメカニズムが周辺各国間で確立されていると言える状況でもなく、その為に周辺各国では多くの損害も発生しているのだった。
 そんな状況だった為、先(ま)ずは入り口となっているロシア北部の防空監視レーダー網の強化が国際的にも必要視され、関係周辺国の資金援助も有って、漸(ようや)く防空監視レーダー網の強化、改修工事がこの四月に完了した、と言うのが事の顛末だった。
 勿論、機材が完成すれば直ぐに能力が発揮出来る物でもなく、装置の能力検証や再改修、運用要員の育成や慣熟、連絡網の確立や迎撃部隊との連携等々、超えなければならないハードルは幾つも有るのだ。
 因(ちな)みに、日本列島へのエイリアン・ドローンの侵攻ルートは、「北極ルート」からロシア東部を通過し、日本海を飛び越えて日本各地の都市部へと至るのが常套(じょうとう)となっている。逆に、太平洋側からの襲撃は殆(ほとん)ど例が無く、これは監視するべき方角がほぼ決まっていると言う事で、日本に取っては幾分だが警戒監視がやり易くなっていたのである。

「あぁ、そう言えば、そんなニュースも有りましたね。」

 茜が維月の補足を聞いて、思い出した様に頷(うなず)いた。

「茜はそんなニュース迄(まで)見てたの?」

 向かいの席のブリジットが、少し驚いた様に言った。

「こっちに来たばかりの頃だったから、あんまり詳しくチェックした訳(わけ)じゃ無くて、だから今迄(まで)忘れてたけど。あなたは、その手のニュースには興味無いものね~。」

 茜はブリジットを見詰め、そう言うと、くすりと笑った。
 それを受けて、ブリジットの左隣、九堂さんも笑って言う。

「大丈夫よ、ブリジット。わたしも知らなかったから。敦実(アツミ)は知ってそうよね。」

「残念、要(カナメ)ちゃん。わたしも知りませんでした~。入学でバタバタしてたから、その頃のニュースは余り見てなかったの。その辺り、天野さんは余裕が有ると言うか、凄いわね。」

 九堂さんから話を振られた村上さんだったが、再び茜に会話を戻す。

「別に凄くは無いわ、偶然そんなニュースを見た、ってだけの話だもん。それに、今まで忘れてたし。」

「まぁ、取り敢えず、少しはロシアが役に立ってくれるなら良いんだけど。昔からあの国は碌(ろく)でもない事ばかりするから。」

 クラウディアは、そう言って椅子の背凭(せもた)れに身を預け、溜息を吐(つ)いた。その様子を見ていた維月が、笑い乍(なが)ら言った。

「しかしまぁ、女の子がする様な話題じゃないわね。」

「この御時世ですから、仕方ないんじゃないですか?維月さん。」

 維月の発言に茜が答えたのだが、それを聞いた九堂さんが、透かさず言う。

「御時世って、オジサンみたい。」

 クラウディアを含めて、一同がその言葉を聞いて笑うのだった。
 そして、皆と一緒になって笑っている様子を見て、村上さんがクラウディアに尋ねる。

「それにしても、クラウディアさん。日本語、上手ね。ドイツで習ったの?」

「いいえ。ほぼ独学。日本のマンガや小説(ノベル)を原文で読みたくて、十年位(くらい)前に勉強を始めたの。会話はドイツに来てる日本の人を相手に練習したのよ。日本語って、文字が三種類も有る上に、文章と会話とで文体?が変わるのが面倒臭いけど、ヨーロッパの言語とは、丸で構造が違うから面白かったわ。でも、漢字を覚えるのには苦労したけど。あ、それから、話し言葉が男女で違うのも、不思議。」

「あ~…。」

 クラウディアの発言に、声を上げて納得した一同であった。

 

- to be continued …-

 

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