WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第7話.13)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-13 ****


「森村ちゃんも知ってる子?」

「ううん、寮で見掛けた事が有る程度。お話とか、した事は無いの。」

 緒美と恵が話しているのを横目に、直美が瑠菜に問い掛ける。

「その二人は、何か部活、やってるの?」

「いいえ。今の所、どこにも入ってなかった筈(はず)です。」

「いいねぇ~。」

 答えを聞いて、直美は緒美へ視線を移し、ニヤリと笑うのだった。

「取り敢えず、その二人と直接お話ししてみたいわね。明日にでも連れて来て貰えないかしら? 二人の都合が良かったら、だけど。」

「明日って、日曜ですよ?」

「うん、でも月曜からは試験期間前で、部活は休止になっちゃうから。その前に、会うだけ会っておきたいの。」

「それなら、今日、この後、寮ででもいいんじゃ…。」

 瑠菜がそこ迄(まで)言い掛けると、優し気(げ)な微笑みを浮かべて緒美が言うのだった。

「部室(ここ)での方が、秘密保持の事とか有るから、人目の有る所は避けておいた方が賢明でしょう。Ruby の件とかも説明し易いし。それに、ソフト担当になる人だったら、Ruby との相性も見ておきたいわ。 Ruby も、どんな人か気になるでしょう?」

 緒美が Ruby に問い掛けると、今迄(まで)黙っていた Ruby が透(す)かさず答える。

「ハイ、紹介して頂けるなら、是非。」

 Ruby の答えを聞いた緒美は、ふと思い出した様に立花先生へ向き直り、笑顔の儘(まま)声を掛ける。

「あ、申し訳(わけ)無いですけど、先生も同席して貰えます?」

「いいけど…時間は、昼からにして、ね。」

 立花先生は苦笑いし乍(なが)ら、そう緒美に依頼するのだった。

「分かりました。取り敢えず、明日来られるか、あとで二人には話しておきます。」

「お願いね、瑠菜さん。 取り敢えず、希望の光がちょっと見えた感じかしら~。」

 緒美は両手を振り上げて背凭(せもた)れに身を預け、大きく伸びをする。

「さて。じゃあ、二人共、今日の分、CAD 講習、始めようか。」

 そう言って直美が席を立つと、瑠菜と佳奈は直美に付いて CAD 室へと向かうのだった。


 その日の夕食時、瑠菜と佳奈は、樹里と維月に『兵器開発部』への協力依頼に就いての話をしたのだった。
 『兵器開発部』での活動に関しては、以前から秘密事項には触れない範囲で樹里と維月には話していたので、兵器開発部からの依頼に大きな齟齬(そご)が発生する事は無かった。「わたし達で役に立つかは、分からないけど」と樹里は言ったが、それでも「面白そうだから」と、『兵器開発部』の先輩達に会ってみる事に就いては維月共共(ともども)了承して、その日はそれぞれ、分かれたのである。

 そして、翌日。2071年5月31日日曜日、瑠菜と佳奈は昼食を済ませて後(のち)、樹里と維月を連れて『兵器開発部』の部室を訪れた。
 部室に緒美と立花先生が来ていたのは、昨日の打ち合わせ通りなのだが、そこには直美と恵も来ていた。いや、この後、瑠菜と佳奈は直美に CAD 講習の続きを受ける予定だったのだから、直美が居るのも当然なのだが、恵までもが居るのが瑠菜には不思議に思えたので、つい、そんな言葉が口を衝いて出てしまうのだった。

「どうして、恵先輩まで居るんですか?」

「ええ~、わたしだけ仲間外れにしないで~。」

 恵は、そう言い返して明るく笑った。

「あぁ、すいません。そう言う、積もりでは…取り敢えず、二人、来て貰いました。」

 瑠菜は自分の後ろに立っていた樹里と維月に、前へ出る様に促(うなが)す仕草をすると、佳奈と共に直美の座っている席の方へと移動する。樹里と維月、二人の顔を見て、先(ま)ず、緒美から声を掛ける。

「来て呉れて、ありがとう。わたしが部長の鬼塚よ。で、こちらから顧問の立花先生、会計の森村。そちらが副部長の新島。あと、もう一人? Ruby の事は聞いてるかしら?」

 メンバー紹介に続いての唐突な質問だったが、それには樹里が答えた。

「はい。昨日、大まかな事情は瑠菜さんから。あ、情報処理科一年、城ノ内 樹里です。」

 樹里に次いで、維月も自己紹介する。

「同じく一年、井上 維月です。」

「あ、どうぞ、適当に座ってちょうだい。」

 緒美に促(うなが)され、樹里と維月は取り敢えず目の前の椅子、長机を挟んで緒美の正面になる席に座る。

「井上さん? 前に、どこかで会った事、有ったかしら…」

 急に、立花先生が妙な事を言い出すのだが、それに対して、維月は明朗に答える。

「いえ。寮で見掛けられたのではないですか?」

「う~ん、そう言うのじゃなくて…どこかで、あなたと会った事が有る様な気がするのよ。変ね…。」

 その時、Ruby の合成音声が室内に響いた。

「発言しても、よろしいでしょうか?」

 この日 Ruby は、樹里と維月の前では、発言を控えなくても良いと、緒美に予(あらかじ)め言われていたのだ。

「なぁに、Ruby。」

 緒美が Ruby に発言を促(うなが)す。

「智子の記憶回復に役立つといいのですが。維月の顔と声は、麻里と良く似ています。 顔認識でのマッチング・スコアは52ポイントで本人と認識する事は有り得ませんが、別人としては非常に高いスコアです。又、声紋のマッチング・スコアも同一人物判定は出来ませんが、類似した特徴が…。」

 Ruby が解説を続ける最中(さなか)、立花先生は声を上げる。

「ありがとう、もういいわ。今、思い出したから。」

「…ハイ、それはよかった。」

「話には聞いてましたけど。なかなか、楽しい AI ですね。」

 その様子を見ていた樹里は、そう言ってクスクスと笑う。その隣に座る維月は、何かに気が付いた様に視線を上に向けていた。

「井上さん、本社開発部の井上 麻里主任って、あなたのお姉さんでしょ。Ruby の件で、三度程お会いする機会が有ったから、それで、あなたに会った事が有る様な気がしたんだわ。」

 そこで話の流れを察した恵が、何か思案中の様な表情の維月を横目に、Ruby に話し掛ける。

Ruby の件でって事は、あなたの開発関係の方なの?Ruby。 その、井上主任。」

「ハイ。麻里は、わたしの開発チームのリーダーです。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第7話.12)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-12 ****


 瑠菜が正式に入部して数日。前期中間試験を目前に控えた、2071年5月30日土曜日。
 この頃、新入部員の二人は、副部長である直美の指導の下、CAD 操作の習得を始めていた。一年生の授業では、製図の概論が終わり、漸(ようや)くT定規と三角定規を使った手描きの製図実習が始まったばかりで、そんな基礎学習が夏休み明け頃迄(まで)は続く予定である。だから、一足飛びに CAD の習得を始められた佳奈は、念願が叶っただけに、熱心に部活に参加していた。瑠菜はと言うと、そんな佳奈に付き合っている体(てい)ではあったが、他の同級生や授業に先行して、技術を習得出来る事に就いては満更でもなかったのである。
 
 兵器開発部に設置された CAD の機材は、本社・設計部での機器更新に因って余剰となったと言う「建前(たてまえ)」で、中古の機器を本社から移設した物である。それは勿論、本社上層部の配慮が有ってなのだが、そんな訳(わけ)で CAD のシステムは、本社で使用されている物と同一の仕様なのだった。
 元元は、学校の製図室に設置されている CAD を使用していた緒美達だったのだが、学校の CAD は当然、授業での使用が優先され、放課後も補習や自習で使用する生徒も多い為、部活で頻繁に且つ長時間、優先的に使用する事は出来ないと言う事情が有ったのだ。
 そんな状況を見兼ねた立花先生が本社と掛け合って、三台の端末を含む CAD システム一式が兵器開発部の部室隣の空き部屋へと導入されたのが、前年の十月頃の事である。
 因みに、当時一年生だった緒美達が、授業に先駆けて CAD 製図を習得したのは、設計製図の担当講師である前園先生に指導を受けたからなのだが、その辺りの配慮に就いても本社幹部や学校理事長(天野重工会長)の意向が働いていたのは、言う迄(まで)もない。
 
 さて、お話を5月30日土曜日に戻そう。
 『普通課程』の生徒の場合、基本的に土曜日には授業が無い。しかし、専門教科も履修しなければならない『特別課程』の場合、土曜日も四時限分の授業が設定されている。平日も火曜日から木曜日の三日間は『普通課程』には無い七時限目が『特別課程』には存在し、一週間で合計すると『特別課程』は『普通課程』よりも、七時限分授業時間が多いのである。
 そんな土曜日の放課後、昼食を済ませてから、普段よりも少し遅れて瑠菜と佳奈の二人は部室へと到着した。瑠菜達が部室に入ると、三人の先輩と立花先生が既に来ていたのだが、何やら深刻な面持ちで話し合いをしている様子だった。

「何か有ったんですか?」

 瑠菜は誰とは無く、そう声を掛け、入り口に最も近い席に着いた。その右隣の席に、佳奈も座った。
 直美が腕組みをした儘(まま)、視線を瑠菜に送りつつ答える。

「あぁ、昨日、LMF が予定通り山梨の試作工場をロールアウトしたって、知らせが来ててね~。」

「予定通りなら、良かったじゃないですか。」

「うん。それ自体に問題は無いんだけど。いよいよ、実機がこっちに送られて来る事になって、こちら側の受け入れ体勢が、ねぇ。」

 今度は恵がそう言って、溜息を吐(つ)いた。続いて、緒美が発言する。

「先生、やっぱり誰か、常駐して貰わないと。うちの人員だけじゃ、どうにもなりませんよ?」

「そうよねぇ…そもそも、こっちでテストする事自体に無理が有るのかもね。やっぱり、ここから先は、本社サイドに渡すしか無いかしら。」

 緒美の問い掛けに、諦(あきら)めムードの漂う立花先生の答えだった。この辺りで、今、議題になっているの事柄に就いて、瑠菜には見当が付いたのだった。

「LMF の性能確認試験の事でしたら、部長が計画立ててたんじゃないんですか?」

 瑠菜の問い掛けに、溜息を一つ吐(つ)いてから、緒美は力(ちから)無く微笑んで言った。

「計画は立ててたんだけどね…ほら、うちの部って全員、機械工学科じゃない。 仕様設計の段階はそれで何とかなってたんだけど、実機を動作させてのテストとなると、ソフト屋さんも必要でしょう?」

「あぁ~そう言う問題ですか… 先輩方の知り合いに、適当な人は居ないんですか?」

 緒美に問い返す瑠菜に、笑って直美が答える。

「あはは、そんな人材が居たら、とっくに引っ張り込んでるわ。」

「寮で情報処理科の知り合いに探ってもらったけど、わたし達の学年で協力してくれそうな人は居なかったのよね。」

「本社から人を派遣して貰う方向で依頼は出してたんだけど、彼方(あちら)は彼方(あちら)で忙しい案件を抱えてるらしくて…ね。長くても、一ヶ月以上は人を出せないって。」

 直美と恵に次いで、立花先生が本社側の都合を、極簡単に説明した。

「LMF の試験だけじゃなくて、HDG 本体や拡張装備に就いてもソフト絡みの仕様は、これから詰めて行かなくちゃだし、やっぱり、その辺りに明るい人材が居ないと、先先(さきざき)、作業が滞りますよ、先生。」

 緒美がそう言って、身体を伸ばす様に背中を反らした時、突然、佳奈が声を上げた。

「ソフトって、コンピュータのプログラムとかの事ですよね?」

 佳奈の発した、極めて初歩的な質問に、一瞬、声を失う一同だった。

「あれ?わたし、何か変な事、言いました?」

「大丈夫。間違ってないわよ、古寺さん。」

 一拍置いて恵がフォローを入れる一方で、佳奈の隣で瑠菜は深い溜息を吐(つ)くのだった。

「何を言い出すのよ、佳奈さん。」

「ねぇねぇ、瑠菜さん。樹里リンにお願いしてみようよ。あと、維月さんにも。」

 その、佳奈の唐突な提案に、行動にこそ移さなかったものの、内心では膝を打つ心境の瑠菜だった。

「ジュリリン?」

 聞き慣れない、人名らしき言葉を恵が聞き返すと、それには瑠菜が答えるのだった。

「城ノ内 樹里さんって言って、佳奈さんと同じ中学の出身で、情報処理科の一年生です。維月さんって言うのは、寮で樹里さんと同室の、同じく情報処理科の一年生なんです。秘密保持諸諸(もろもろ)に就いても信用出来る人達だと思いますよ。」

 瑠菜の答えを聞いた恵は、その二人の人物に思い当たった様子だった。

「あぁ…寮であなた達と、良く一緒に居る、あの二人ね。 そう、あの二人、情報処理科だったんだ。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第7話.11)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-11 ****


 それから数分が経ち、皆が無言で、それぞれの作業に集中し始めた頃だった。恵が、唐突に緒美に話し掛ける。

「ねえ、部長。Ruby の事、忘れてない?」

 緒美はキーボードを打つ手を止めず、視線もタブレット端末から外さない儘(まま)、答えた。

「忘れてはないけど、タイミング的に…あぁ、そうね。 Ruby、もうおしゃべりしてもいいわよ。」

 すると、室内に女性の合成音が響く。

「ありがとう、恵。わたしも、忘れられているのかと心配していましたよ、緒美。」

「あら、ごめんなさい、Ruby。」

 Ruby のぼやきを聞いて、くすりと笑って緒美は謝るのだった。

「誰です?…今の声。」

 瑠菜は顔を上げ、誰に聞くでも無くそう言うと、直様(すぐさま)それに応えたのは Ruby だった。

「こんにちは、瑠菜。わたしは Ruby、天野重工で開発された AI ユニットです。」

「AI?…って、声がどこから…。」

 合成音の出所を探して、瑠菜は周囲を見回す。

「わたしは、緒美の後ろに在ります。」

「そう言う時は、後ろに居ます、って言うのよ、Ruby。」

 Ruby の言葉遣いに就いて、恵が優しく指摘するが、それには Ruby が反論する。

「わたしは人間ではなく機械ですので、この場合『居る』のでは無く『在る』が正しいと思います。」

「わたしたちは、擬似的な物だとしても、あなたの人格を認めているの。だから『在る』なんて言われたら、悲しくなるわ。」

「そうですか。緒美も悲しみを感じましたか?」

 恵の意見を聞いた Ruby は、緒美に所感を尋ねる。それに対して、今度は作業の手を止め、顔を上げて緒美は答えた。

「そうね…森村ちゃんみたいに悲しいって感覚では無いけど、違和感は有るわね。」

「大体、『在る』だけの様な物だったら、自分で考えて発言なんかしないでしょ。だから『わたしはここに在る』なんて言い回しは、有り得ないのよ、Ruby。」

 緒美の発言を受けて、直美はそう付け加え、笑った。
 そんな遣り取りを聞き乍(なが)ら、瑠菜は緒美の背後、部室の奥の壁際に、ドラム缶よりも一回り程小さい円筒型の装置らしき物が置かれているのに気が付いた。そして、ふと横を見ると、仕様書を読むのに集中していた佳奈も、顔を上げ、その装置の存在に気が付いていた様子だった。
 瑠菜は、正面に座っている、緒美に尋ねる。

「そこの、窓際のが Ruby なんですか?」

「本体はね。上の方、窓枠にカメラみたいのが有るでしょう? この室内は、そのイメージ・センサーで様子を、みんな見てるの。後、この格納庫の彼方此方(あちこち)にセンサーが設置されててね、この第三格納庫全体のセキュリティを担当してもらってるのよ、今の所。」

 緒美は瑠菜の問いに、淀(よど)み無く答える。

Ruby も、開発テーマの一部なんですか?部長。」

「そうでもあり、そうでもなし…まぁ、仕様書を読んで呉れたら、詳細に就いては追い追い分かると思うけど。そもそも、Ruby ほど高性能な物は要求してなかったんですけど。ねぇ、立花先生。」

Ruby は元元、本社で別件用に開発されていた試作機なんだけど、色々と大人の都合が有ってね、この部活で預かって、目下教育中って状況。わたしも、Ruby に就いては、詳しい事は知らないのよ。」

「教育、ですか。」

「あ、そんなに難しく考えなくても良いのよ。さっきみたいに、普通におしゃべりしてればいいって事だから。」

 立花先生はそう瑠菜に言うと、ニッコリと笑った。そして間を置かず、直美が補足する。

「そもそもは、LMF に簡易的な AI ユニットを搭載するのが部長のアイデアだったんだけどね、それに用にって本社が、たまたま開発中だった Ruby を持って来たのよ。性能的には要求に対して完全にオーバー・スペックなんだけど、まぁ、『大は小を兼ねる』って言う奴? それで、本社が AI ユニットを提供する交換条件で、Ruby のコミュニケーション能力を向上させるのに、わたし達が協力するって事になった~って言う感じの流れね。で、LMF が完成する迄(まで)の間、Ruby には暇潰し的に、ここのセキュリティ・システムをやって貰ってる訳(わけ)。」

「LMF って言うのは、何ですか?」

 Ruby が兵器開発部に提供されるのに至った大まかな流れを説明した直美だったが、瑠菜には直ぐに飲み込めない言葉が「LMF」だった。
 その瑠菜の問い掛けに、落ち着いて口調で緒美が答える。

「それに就いても、仕様書を読んで呉れたら解るわ。」

「はぁ、そうですか。 取り敢えず、これを読まない事には始まらない訳(わけ)ですね。」

 溜息混じりに瑠菜がそう言うと、直美が笑って、言った。

「あはは、そう言う事。まぁ、LMF に就いては、予定通りなら、あと二ヶ月程で実物が見られる筈(はず)だから、楽しみにしてて。」

「楽しみも何も、LMF が何かも、今の所、解ってませんけど。」

 そう答えて、瑠菜は再び、仕様書へと目を落とした。
 そして、ふと佳奈の様子が気になった瑠菜が隣へと目をやると、佳奈は集中して黙々と仕様書を読み進めていた。寮や教室で、度度(たびたび)見せる佳奈のその集中力を、瑠菜は「少し羨(うらや)ましいな」と思いつつ、視線を手元の仕様書へと戻すのだった。

 こんな顛末で、佳奈に巻き込まれる様にして、瑠菜は兵器開発部と関わる事になったのである。
 当初、入部には慎重な姿勢を取っていた瑠菜だったのだが、佳奈と一緒に「仕様書」を読み進めていく内、その内容を理解する程に、HDG の開発への興味が大きくなっていったのだった。
 斯(か)くして、五月の連休を挟んで三週間程の後、「仕様書」を読み終えた時点で、瑠菜は正式に兵器開発部に入部する事にしたのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第7話.10)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-10 ****


「いいんじゃない?古寺さんは真面目そうだし。所謂(いわゆる)、兵器オタクな、趣味の怪しい人なんかより、よっぽど信用出来そうだわ。」

「方向性は、ちょっと違う様だけど、マイペースって言う意味では、森村も古寺さんと同類だしな~。」

 恵の発言を、そう言って直美が茶化すのだった。

「そうね、それに就いては否定はしません。 じゃ、古寺さんは入部って事で、いいかしら?」

 直美に言葉を返した後、佳奈の方へ向き直り、恵は佳奈に入部の意志を確認する。佳奈は深く頷いてから、言った。

「はい。よろしく、お願いします。」

「こちらこそ、歓迎するわ~。それで、ルーカスさんはどうするの?」

 突然、自分の方に話が回って来た瑠菜は、恵に不意を突かれた様子で、驚いたのだった。

「あ、え?」

 答えに迷っている内に、瑠菜の方に向けられている佳奈と視線がぶつかる。それで、瑠菜は余計に焦ってしまうのだった。

「…どう?と言われても…佳奈さんの様子を確認に来ただけ、ですから~…」

「そう?暫(しばら)く様子を見てて、わたしはあなたも有望だと思うのよね。友達思いの様子だし、頭の回転も良さそうだし。それに、古寺さんと同室なら、秘密保持の点でも有利だしね~ねぇ、部長。」

「勿論、無理強(むりじ)いはしないけど。設計とか開発とかの技術職を目指しているなら、ここでの活動はあなたの今後に取って、大いにプラスになると思うの。 どうかしら?」

 その時の、緒美の笑顔に、引き込まれてしまう様な感覚を覚えていた瑠菜だったが、雰囲気に流されるのは避けようと思い直した。

「テーマの深刻さと言うか、重大性から考えて、わたしなんかよりも、もっと優秀な人が他に居る様な気がしますけど。」

 瑠菜のその言葉に、コメントを返したのは、黙って様子を見ていた立花先生である。

「う~ん、こう言う開発チームの編成って、個々人の能力よりも、相性の方が重要だったりするのよね…恵ちゃんは、ルーカスさんが相性の面でも良いって思った訳(わけ)よね?」

「はい。」

 立花先生の問い掛けに即答すると、恵は佳奈の方へ向き直り、問い掛ける。

「古寺さんも、ルーカスさんが一緒だと心強いわよね?」

「はい、それは、もう。」

 恵の誘導に、簡単に乗せられる佳奈だった。
 佳奈の返事には苦笑いしつつ、瑠菜は提案する。

「取り敢えず、仮入部って事にしておいて頂けませんか? 秘密保持に就いては、誓約した通り、お約束しますから。」

 入部に就いては即断する訳(わけ)に行かないと思った瑠菜だったが、とは言え、ここに佳奈を残して今直ぐ立ち去る訳(わけ)にも行かない気がして、そんな提案をしてみたのだった。
 その提案に対して、一呼吸置いて答えたのは、緒美だった。

「まぁ、いいでしょう。古寺さんがここでどう言う事をやっているのか、有る程度正確に知っておかないと、ルーカスさんも安心出来ないでしょうし。」

 そう告げた緒美の表情から優し気(げ)な微笑みが消えなかった事に、瑠菜は胸を撫で下ろす心境だった。

「ありがとうございます。」

 瑠菜は座った儘(まま)、長机に額が着きそうになる程、深々と頭を下げる。

「いいのよ、気にしないで。さて、それじゃ、仕事に掛かって貰う前に、HDG の仕様位(ぐらい)は理解しておいて欲しいから。新島ちゃん、仕様書、古寺さん達に見せてあげて。」

「はいよ~。」

 直美は椅子に座った儘(まま)、身体を捻(ひね)り、反らし、背後のスチール書庫下段の引き戸を左手で開けると、その中から分厚いファイルを一冊取り出す。そして、取り出したファイルを右手に持ち替えると、先程開けたスチール書庫の引き戸を左手で閉め、向き直った。そして、そのファイルを机の上に乗せると瑠菜の方へと押し出し、言うのだった。

「先ずは、コレ、一通り目を通してね。あ、一応、この中身は全部、秘密事項だから、ヨロシク。」

 そして、直美はニヤリと笑うのだった。
 瑠菜はそのファイルを黙って受け取り、暫(しば)し、ファイルを開(ひら)かずに見詰めていた。すると、佳奈に、立花先生が声を掛ける。

「古寺さんには、わたしが持ってるのを貸してあげる。色々書き込んで有るけど、気にしないでね。」

 そう言って、立花先生は正面のモバイル PC の脇に置いてあった、同じタイプのファイルを佳奈の方へと押し出した。そのファイルの中に綴じられた書類には、幾つもの付箋が貼り付けて有るのが、ファイルを開かなくても見て取れた。

「あ、先生。ありがとうございます。」

 一礼してそのファイルを受け取った佳奈は、躊躇(ちゅうちょ)する事無くファイルを開くのだった。その様子を見ていた瑠菜は、緒美も同じファイルを持っているのに気が付いた。
 瑠菜の視線の動きを読み取った緒美が、補足説明を加える。

「このファイルの仕様書はね、特殊な紙に印刷してあるから、予備を含めて三冊しか無いのよ。持ち出し厳禁だから、部室(ここ)で読んでね。」

 既に、仕様書を読む事に集中している佳奈を横目に、瑠菜は立花先生に聞いてみる。

「先生は、佳奈さんにファイルを貸しても大丈夫なんですか?」

「あぁ、わたしと部長はそれぞれ、仕様書はデータでも持ってるから。心配しないで。」

「そうですか。」

 そう、短く答えると、瑠菜は観念した様に一つ息を吐(つ)いて、それからファイルを開いた。そして最初に注目したのは、書かれている内容よりも、それが印刷されている用紙の質に就いてだった。
 先刻、緒美が言った通りの「特殊な紙」なのだが、それは印刷面が何か光沢の有る、樹脂状の物質でコーティングされている様で、頁を捲(めく)る時、光の具合で表面が薄(うっす)らと虹色に光って見えるのだった。瑠菜が紙質を確かめている様子に気付いた立花先生が、その事に就いて解説をしてくれた。

「その用紙はコピー防止のコーティングがしてあってね、コピー機やスキャナーで読み込むと真っ白になるの。あと、カメラで撮影した場合は、表面が虹色に写るのよ。フラッシュを使ったら、コピー機で読み込んだ時と同じで、真っ白になるけど。」

「そんな訳(わけ)だから、コピーして、寮に持ち帰って読もうなんて、考えないでね。コピーするだけ無駄だから。」

 立花先生の解説に続いて、緒美にそう釘を刺された瑠菜だった。

「やだなぁ。考えてませんよ、そんな事。」

 緒美の忠言(ちゅうげん)は正に図星だったのだが、瑠菜は苦笑いしつつ、そう答えてから、仕様書を読み始めたのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第7話.09)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-09 ****


「真面目にやる気の有る人で、秘密保持の意味が分かる人、って言うのがウチとして希望する人材なの。誰でも良いって訳(わけ)にはいかないのよね。だから、ああいう場で人を募(つの)るのは、控えた方が良いかなって思ったのよ。」

「とは言え、人手も必要なのよね、実際。」

 緒美に続き、直美が苦笑いしつつ、言った。

「分かりました。取り敢えず、秘密保持に就いては誓約の通り、約束します。」

 瑠菜がきっぱりと、そう言うと、緒美は柔らかな笑顔を見せ、話し始める。

「そう。 じゃ、先(ま)ず、現在の活動のテーマから。これは一応、秘密ではないんだけど、余り他人(ひと)には言わない方が良いと思うのよね。言っても、笑われるのが落ちだから。 で、そのテーマと言うのが、対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツの開発、なの。」

 その緒美の発言に一呼吸置いて、相変わらず、ぼんやりとしている風(ふう)の佳奈を横目に、瑠菜が質問する。

「それは確かに、耳を疑うテーマですけど…どうして、そんな兵器なんかを?」

「どうして、って。ここは『兵器開発部』だから。」

「すみません、聞き方が不味(まず)かったです。何故、テーマがパワード・スーツで、しかも、それが対エイリアン・ドローン用なのか?です。」

 その問いに答えたのは、黙って成り行きを眺めていた立花先生である。

「それに答えようとすると、話が長くなるんだけど。誤解を恐れず、簡潔に言えば『巡り合わせ』、なのよね。鬼塚さんが個人的に対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツに就いて研究してて、偶然、天野重工本社でも同じテーマの検討をしていた、と言う『巡り合わせ』。」

「そして、その本社での検討チームの一員だった立花先生が、この学校に講師として赴任して来て、この部活の顧問になった、と言う『巡り合わせ』も、ですね。」

 立花先生の言葉を受け、緒美は、そう付け加えて微笑むのだった。そして、瑠菜と佳奈に対して、緒美は説明を続ける。

「そんな訳(わけ)で、この部活では本社からの外部委託と言う形で、HDG…あ、開発中のパワード・スーツの事ね、その開発作業を進めている訳(わけ)。」

 そこまで緒美が話した時、ぼんやりとした表情の儘(まま)、佳奈が左手を肩の高さ程に挙げて緒美に尋(たず)ねた。

「あの、パワード・スーツって何ですか?」

 一瞬、時間が止まったかの様に、室内が静まり返る。流石にその雰囲気には違和感を覚えたのか、佳奈が言葉を続けた。

「あれ? わたし、何か変な事言いました?すみません。」

「いいのよ。そうね、そこから説明が必要だったかもね。ルーカスさんは、パワード・スーツって、分かる?」

 笑顔の儘(まま)で緒美は、佳奈の隣で苦笑いをしている瑠菜に問い掛けた。

「あ、はい。まぁ、何と無く…SF の映画何(なん)かに出て来る、人間が着るロボットみたいなの、ですよね?」

「まぁ、そんな認識で良いと思うわ。」

「ふぅん…良く解らないですけど、分かりました。パワード・スーツに就いては、後で勉強しておきます。続けてください。」

 佳奈は、そう言って、ペコリと頭を下げたのだった。

「開発テーマが、どうしてパワード・スーツなのか、とか、どんなパワード・スーツなのか、とかは、説明を始めると長くなるから取り敢えず省略しましょう。ここで押さえておいて欲しい所は、この開発テーマに就いては学校や本社の方(ほう)にも了承されている、と言う事。それから、本社には技術的な部分をサポートして貰っている、って言う事。 複雑な機械になるから、当然、わたし達だけで設計するなんて無理。だから、わたし達はアイデアを出して、具体的な細かい設計や試作は、本社にお願いする形になっているんだけれど、アイデアを本社の開発や設計に伝えるのに、相応の図面を、それも相当数、描かなくちゃいけないのよね。それで、その辺りの作業を担当してくれる人を募集している訳(わけ)。ここ迄(まで)は、いいかしら?」

「まぁ、秘密保持の絡みも有って、結果的に、こそこそ活動してる様に見えるから、ウチの活動って学校内では他の生徒達に、ほぼ認知されて無いし。胡散臭(うさんくさ)い話に聞こえるだろうけど、別に悪い事をやってる訳(わけ)じゃないから、そんなに警戒しなくてもいいわ。いや、寧(むし)ろ胡散臭(うさんくさ)い話に警戒心を持つ位(くらい)慎重な人の方が、秘密保持の方面では信用が出来て、ちょうどいい位(くらい)だけど。」

 緒美が一気に説明したのを受けて、直美が極めて明るいトーンで言い、付け加えた。すると、再び佳奈が左手を挙げて発言の機会を求める。

「何かしら?古寺さん。」

 緒美は微笑んで、佳奈に発言を促(うなが)す。

「あの、わたしは他の人達とはちょっと、色んな事のペースが違うので、余り…特定の人としか、おしゃべりは出来ないので…秘密の事とか、大丈夫だと思うんです。わたしの事、信用して貰えますか?」

「逆に、会って間も無いわたし達を、あなたは信用出来る?」

 佳奈の質問に、緒美は質問で返すのだった。それに対して、佳奈の横で様子を窺(うかが)っていた瑠菜も驚く程の反応で、佳奈は答えを返したのだった。

「はい! 何をやっているのかは、正直、良く解りませんけど、少なくとも、先輩達が巫山戯(ふざけ)ている様には見えませんから。」

 佳奈の返事を聞いた緒美は、顔を恵の方へ向け、問い掛ける。

「だって。どうかな?森村ちゃん。」

 恵は椅子の背凭(せもた)れに少し体重を掛ける様に身体を反らし、一呼吸置いて笑顔で緒美に答えた。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.08)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-08 ****


 目の前の長机の上には、幾つものファイルや図面の束が置かれており、正面の髪の長い女子生徒の前にはタブレット端末とキーボードが置かれていた。向かって左手側の席に着いている女性教師はモバイル PC で何か作業中の様子だったし、向かって右側のショート・カットの女子生徒は図面のチェックをしている様に見受けられた。ドアを開けてくれた眼鏡の女子生徒は部屋の奥へと移動し、お茶の用意をしている様子だった。

「ええっと、二人共、入部希望、と言う事でいいのかしら? あ、わたしは部長の鬼塚、機械工学科の二年ね。こちらが顧問の立花先生、で、こっちが副部長の新島。あっちが会計の森村、二人ともわたしと同じで機械工学科の二年よ。」

 佳奈と瑠菜の正面の席の、髪の長い女子生徒、つまり、緒美が先(ま)ず二人に話し掛けた。そして、それに答えたのは、瑠菜である。

「入部希望って言うよりも、先(ま)ずはこの部活に就いて伺(うかが)いたいんです。掲示板の張り紙では、詳細が分からなかったので。因みに、こちらに興味が有るのは隣の彼女で、わたしは…まぁ、付き添い、みたいなものです。」

「あなた達は、以前からのお友達?」

 そう問われて、瑠菜と佳奈は顔を見合わせた。そう言えば、そんな風にお互いの関係を考えた事が無いのを、緒美に問い掛けられて、改めて気付いた二人だった。そして瑠菜が、答える。

「いえ、以前から、と言う訳(わけ)ではないです。取り敢えず、今は寮で同室、と言う事ですが。」

「あぁ、そう言う事か。あなたが付いて来た気持ち、何となく分かるわ、うん。」

 瑠菜の答えを聞いた直美が、そう言って「あはは」と笑うと、お茶の入ったカップを運んで来た恵も、釣られる様に、くすりと笑うのだった。そして、緒美も頬を緩めて、向かい合う二人に問い掛ける。

「そう。 取り敢えず、お名前、教えて貰えるかな?」

「あ、すみません。機械工学科一年、ルーカス 瑠菜、です。」

 慌てて、瑠菜が答えた。しかし、瑠菜と緒美の遣り取りを眺(なが)めている風(ふう)の佳奈は黙った儘(まま)だったので、長机の下で左隣に座っている佳奈の脚に、瑠菜は左手の甲で軽く触れて、返事を促(うなが)した。

「え?あ、はい。同じく、機械工学科一年の古寺 佳奈です。」

「コデラ?…どう書くのかしら。」

 瑠菜と佳奈の前にお茶のカップを置いた後、立花先生の隣、瑠菜達から見て手前側の席に座り乍(なが)ら、恵が尋(たず)ねる。

「えっと、古いお寺、と書いて古寺です。」

「あ、小さい寺じゃないんだ。成る程。 じゃ、部長、進めてください。」

 恵に進行を託された緒美は、佳奈に問い掛ける。

「古寺さんは、あの掲示の内容で、どうしてここに来ようと思ったのかしら? 確かに、詳しい事は何も書かなかったし。」

「はい。CAD 製図の事が書かれていたので。わたしは設計とか製図の勉強がしたくて、この学校を選んだので。出来るだけ沢山、そう言う経験をしたいんです。」

「おぉ、そう言う、やる気のある子は大歓迎だわ~。」

 佳奈の返事に、現在進行形で図面作業をしている直美は歓喜のコメントである。

「当面の活動内容は、古寺さんの希望に添う物になりそうだけど。徒(ただ)、この部活の、今の活動テーマは可成り特殊だし、本社の方で秘密指定されている事柄も扱う事になるから、その辺りの事を、予め確認しておきたいの。」

「秘密?ですか…。」

 相変わらず、佳奈の反応は「ぼんやり」としていた。フォローするべきか、とも瑠菜は思ったのだが、もう暫(しばら)く様子を見る事にして、敢えて黙っていた。

「そう。入学する時に、秘密保持に関係した誓約書にサインしたと思うけど、内容は覚えてる?」

「え~と…はい。要するに秘密指定された情報は、他の人に話しちゃダメ、ってアレですよね。」

「話す以外にも、図面や資料やデータを見せたり、渡したりしてもダメって事なんだけど。もしも、誓約に違反すると学校を退学させられたり、損害の賠償を請求されたりする事になるの。だから、秘密である情報を他の生徒に漏らすと、それを知った人も秘密を守ると言う負担を負わせてしまうし、場合に依ってはその人も退学や賠償のリスクを負う事になるから、この部活での活動に就いて他人(ひと)に話す事には注意が必要になるわ。そう言う覚悟は出来る?古寺さん。それから、ルーカスさんも。この先の話を聞くと、入部する、しないに関わらず、秘密保持の責任は負って貰う事になるけど。」

「はい、大丈夫です。内容に依って秘密なのかどうか、個別の判断は難しそうだから、ここでの事はしゃべらなければいいんですよね。」

 緒美の、半分、脅し文句の様な説明に、表情も変えずに佳奈は即答したのだった。その答えを聞いて緒美が微笑んだのを見て、佳奈の回答が気に入ったのだろうなと、瑠菜は思った。

「ルーカスさんは、どうかしら?」

 微笑んだ表情の儘(まま)、緒美は瑠菜に回答を求めた。

「あ、それで、この間の部活説明会に、この部活は出てなかったんですか。」

 緒美の問い掛けには直ぐに答えなかった瑠菜だったが、その代わりに、頭の中で唐突に浮かんだ考えを、その儘(まま)口にしていた。それを聞いた目の前の先輩達と先生が、くすりと笑うのを見て、瑠菜は自分の考えが間違いでなかったと、確信に近い感覚を得ていた。

「まぁ、大体そう言う事よね~。ね、部長。」

 恵が、そう答えると、緒美がそれに続く。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.07)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-07 ****


 そして、入学式が終わって凡(およ)そ三週間が過ぎた、2071年4月21日火曜日の事である。
 放課後になり、瑠菜と佳奈は女子寮へと帰って来た。前の週の木曜日に、恒例である新入生に対する部活説明会が行われていたのだが、運動部にも文化部にも、何方(どちら)にも興味を持てなかった二人は、未(いま)だ、何(ど)の部活にも所属しては居なかった。
 では、放課後は暇を持て余していたのかと言うと、それはそうでもない。宿題を片付けた上で、授業の予習、復習を、二人共が欠かさなかったし、読書は瑠菜と佳奈の二人に共通した趣味だったので、退屈等(など)する暇は無かったのである。勿論、話題が有れば「おしゃべり」は普通にしていたし、樹里や維月がやって来たり、逆に、二人が樹里と維月の部屋を訪問する事も有った。
 その日は、部屋に戻ったら読み掛けの小説の続きを読もうと瑠菜は思っていたのだが、女子寮のエントランスに入ってシューズボックスのコーナーを抜けると、そこに有る掲示板の前で佳奈が立ち止まった。佳奈は、何だか味気無い、一枚の張り紙を、じっと見詰めている。

「どうしたの?佳奈さん。」

「兵器開発部の部員募集だって。」

 瑠菜は佳奈が言った言葉の意味が、咄嗟(とっさ)に理解出来なかった。掲示板の前まで戻り、佳奈が眺めている張り紙の内容を読んでみる。
 その張り紙には、「特別課程の一年生を若干名募集」、「CAD 製図の作業に興味のある人」、「CAD 製図については指導する」等(など)の旨が書かれており、部活の部員募集と言うよりは、アルバイトの募集広告の様だった。そもそも「兵器開発部」と言う、ある意味、物騒な名称の部活は聞いた事が無かったし、それ故に何(ど)の様な活動内容の部活なのかが全く分からないのだが、それに就いては一切明記されていないのが、瑠菜には極めて不審だったのだ。

「何だか、胡散臭(うさんくさ)いわね。」

 鼻で笑う様に、瑠菜は言った。しかし、佳奈は瑠菜とは違う所感を持った様子だった。

「瑠菜さん、第三格納庫って、場所、知ってる?」

「ちょっと、何考えてるの?」

「だって、CAD やらせてくれるって。」

「そんなの、何(いず)れ授業でやる事になるでしょ?」

「経験は、いっぱいした方がいいと思うの。」

「それにしたって、どう言う部活なのか、内容が何も書いて無いじゃない。」

「詳細は、第三格納庫、東側二階の部室迄(まで)、だって。 取り敢えず、どんな部活なのか、聞いて来る。」

 佳奈はクルリと向きを変えると、シューズボックスのコーナーへと戻って行く。

「ちょっと、場所は分かってるの?」

「取り敢えず、南の、滑走路の方へ行ってみる~。」

 そう言い乍(なが)ら、佳奈はスリッパを、靴へと履き替えていた。

「あ~もう、わたしも一緒に行く。心配だから。」

 慌てて靴に履き替えた瑠菜は、女子寮のエントランスから出て行く佳奈を追ったのだった。

 暫(しばら)くして、瑠菜と佳奈の二人は、第三格納庫東側外階段の下へと辿り着いていた。実は、ここに向かう途中、偶然出会った、恐らく飛行機部所属であろう二年生の男子に、第三格納庫の所在を教えて貰っていた。「そんな所に何の用が有るんだろう?」と訝(いぶか)し気(げ)に彼は二人を見送っていたのだが、当の二人はそんな事には構わず、一礼すると一目散に、ここへと向かって来たのだった。
 外階段を佳奈が先頭になって登って行くと、やがて部室の入り口へと到達する。ドアの横には『兵器開発部』と書かれた看板が掛かっており、それは目指して来た場所に間違いがなかった事を証明していた。
 佳奈がドア・ノブに手を掛け、ドアを開けようと試みる。

「あれ?開かない。留守なのかな?」

 鍵が掛かっているのか、ドア・ノブを回す事が出来ない。

「室内(なか)、灯りは点いている様だから、誰か居るんじゃない?」

 瑠菜が立っている踊り場の前には、明かり取りか換気用の窓が有り、その模様硝子越しに、室内には電灯が点けられているのが見受けられた。
 佳奈は瑠菜の言葉を受け、ドアをノックしてみる。

「すみませ~ん。どなたか、いらっしゃいますか~。」

 少し大きな声を上げつつ、佳奈はドアを四度叩いた。普段の行動はのんびりとしているのに、自分の興味の有る事に対しては物怖(ものお)じしないのだな、と、瑠菜は妙に感心して、その行動を見ていたのだった。
 そして間も無く、ドアが内側から解錠される音がすると、眼鏡を掛けた、クロス・タイの色から察して二年生らしき女子生徒がドアを開け佳奈と瑠菜に声を掛けた。

「何か、ご用かしら? あなた達は、一年生?」

「はい。あの、女子寮の掲示板、張り紙を見て来たんですけど。」

「あぁ~はいはい。取り敢えず、入って。」

 眼鏡の女子生徒はドアを更に大きく開け、佳奈と瑠菜の二人を室内へ入るようにと、手招きをする。二人は軽く会釈すると、促(うなが)される儘(まま)、部室の中へと入って行った。
 室内には、更に二人の上級生らしき女子生徒と、教師らしい女性が一人、中央の長机の席に着いていた。

「ごめんね~。普段、オートロックだから。うっかり、解除しておくのを忘れてたわ~。」

 眼鏡の女子生徒は、そう言い乍(なが)ら佳奈と瑠菜の脇を擦り抜けると、椅子を二つ引いて、二人に、そこへ座るようにと掌(てのひら)で指し示した。二人はもう一度会釈してから、椅子へと向かった。

「ありがとうございます。」

 瑠菜はお礼を言うと、指定された椅子に座る。続いて、佳奈もその隣の椅子に座った。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.06)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-06 ****


「その話なら、大体同じでいいと思う。」

「そう?なら、良かった。」

 瑠菜の返事を聞いて、維月は胸を撫で下ろす心境で微笑むのだった。それに対し、瑠菜が語り出す。

「大体、わたしって中途半端なのよね。お母さんに似て、背は低いし、顔も何方(どちら)かと言うと日本人に近いでしょ。髪の毛と瞳と、肌の色だけ、お父さんに似ちゃったのよね。」

 今度は樹里が、真面目な口調で言葉を返す。

「あら、色白なのは羨(うらや)ましいじゃない?髪の色だって、黒髪は重い感じがするから、明るい色に染めたい人は多いだろうし。まぁ、学生の内は校則で禁止されてるから、みんな出来ないけど。」

 すると、維月がそれに続く。

「瞳の色も、コンタクトで変えたりする人も居るものね。そう言う人達からすれば、瑠菜さんは中途半端って言うより、寧(むし)ろ、理想的なんじゃない?」

「残念乍(なが)ら、そう言う人達とは趣味が合いそうもないなぁ。わたしからすれば、みんなみたいな黒髪や黒い瞳が羨(うらや)ましいもの。」

 瑠菜が返した、その言葉を聞いて、佳奈がポツリと言った。

「結局、無物強請(ないものねだり)なのよね~。」

 くすりと樹里が笑うと、瑠菜と維月は互いの顔を見合わせ、次いで、それぞれが佳奈の方へと顔を向けた。
 その反応には、佳奈の方が驚いたのだった。

「何?わたし、何か変な事、言った?」

「あ、いえ。寧(むし)ろ、物凄く的確。」

 驚いて目を丸くしている佳奈に、そう維月が答えると、瑠菜が続いた。

「佳奈さんにしては、突っ込みが的確過ぎて、ちょっと驚いた。」

「あぁ~何よ~ひどいなぁ。」

「だから、佳奈ちゃんは頭が悪い訳(わけ)じゃないって言ったでしょ?」

 相変わらずのニコニコ顔で、樹里は瑠菜にそう言って、又、微笑むのだった。

「そうね、今、実感した。早い内に認識を改める事が出来て良かった。」

「わたしは、佳奈ちゃんの同室の人が、話の通じない人だったらどうしようって心配だったんだけど。瑠菜さんで良かった、安心した。」

「うふふ、そうだね~樹里リン。」

 そう言って、樹里と佳奈の二人はクスクスと笑うのだった。そこで、維月も安心した様に言う。

「取り敢えず、わたしも、早々に上手くやって行けそうな人達と出会えて、良かった。」

「それは、わたしも同感。学科は違うけど、よろしくね、井上さん。城ノ内さんも。」

 瑠菜が微笑んでそう言うと、透(す)かさず、維月が言葉を返す。

「あ、どうせだったら、名前の方で呼んで貰えると嬉しいな。特に、瑠菜さんとは、同じ、月関係の名前だから。」

「月関係?」

 不可解な維月の言動に、瑠菜は直様(すぐさま)問い返した。

「瑠菜さんのお父さんは英語圏の人だから、『Luna』は月の女神の事でしょう?ローマ神話だっけ。」

「あぁ、わたしが生まれたのが、満月の夜だったらしいの。その夜の月が綺麗だったから、それにちなんで『ルナ』にしたんだって。漢字では『瑠璃色』の『瑠』に『菜の花』の『菜』なんだけど、この字を当てたのはお母さん。」

「じゃ、瑠菜さんの名前、アルファベットで書く場合は『R』じゃなくて『L』なのね?」

 話の成り行きを聞いていた、樹里が口を挟む。

「うん、そうそう。言われてみれば、確かに、わたしの名前は月関係だけど、井上さんは?」

「わたしの『イツキ』って、『維新』の『維』に、『三日月』の『月』って書くのよ。ね、月関係でしょ。」

 その回答に、先に反応したのは樹里である。

「あぁ、『イツキ』って、そう書くのね。わたしはてっきり、わたしの『樹里』の『樹(じゅ)』一文字で『イツキ』だと思ってた。」

「あぁ~実は、わたしが男だったら、そうなってたらしいのよね。うちは五人姉妹で、わたしが一番下なんだけど。両親は流石に五人目は男の子だと思って、男子の名前しか考えてなかったらしいのよね。残念乍(なが)ら結局、五人目も女子だった訳(わけ)だけど、幸い『イツキ』は男女どっちでも行ける名前だからって、その儘(まま)わたしの名前になったの。徒(ただ)、『樹木(じゅもく)』の『樹(じゅ)』一文字の『イツキ』だと、流石に男っぽいから、『維』と『月』を当てた方に変えたんだって。あと、うちの姉妹には、名前が尻取りになるって、謎ルールが有ってね…。」

「尻取り?」

 樹里が、不審気(げ)に聞き返した。

「長女は、両親の名前から一文字ずつ取って『麻里』なんだけど、その下が『里奈』『奈未』『未維』と続いて、わたしが『維月』になる訳(わけ)。」

 そこで瑠菜が机の引き出しを開け、メモ紙とペンを取り出すと、維月に渡して言うのだった。

「ごめん、ちょっと書いてみて貰える?」

「あぁ、いいよ。」

 紙とペンを受け取った維月は、両親の名前『麻敏』と『里子』を並べて書き、以降に姉妹の名前を列挙する。そして、その紙を瑠菜へと、差し出した。

「書くと、こんな感じ。」

 受け取った紙片を、佳奈と樹里も立ち上がって、瑠菜の横から覗(のぞ)き込むのだった。そして、瑠菜が先(ま)ず、声を上げる。

「あぁ、凄い。漢字でも尻取りになってるんだ。」

「ホントだ~。」

 無邪気に感嘆の声を上げる佳奈の隣で、樹里は維月に問い掛けるのだった。

「『イツキ』ってフラットな発音だと思ってたけど、この字だと、『イ』にアクセント?が来るのかしら。」

「あぁ、家族からは、『イ』が強いイントネーションで呼ばれるよね。え~と、動物の『狸(タヌキ)』と、同じイントネーション。」

「タ(・)ヌキ…イ(・)ツキ…ふぅん、次から気を付けるね。」

「いいよ、そこまで気を遣わなくても。呼びやすい様に、呼んでくれたら。」

 そんな、樹里と維月の遣り取りを横目で見つつ、瑠菜が声を上げる。

「取り敢えず分かった、維月さんに、それから、樹里さん、ね。」

「さん、何て付けなくてもいいよ、わたしは。」

 と、維月は瑠菜に提案するのだが、それには瑠菜が遠慮を示すのだった。

「そう言われても。…まぁ、慣れたら考える。」


 こうして、瑠菜は佳奈と樹里、そして維月と出会ったのだった。
 この後、四人は夕食の時間迄(まで)「おしゃべり」を続け、その儘(まま)夕食も共にしたのである。入学式は明後日の予定で、翌日は休日扱いだった事もあり、四人は街へと不足分の日用品を買い足しに出掛けたりもした。
 四人の天神ヶ崎高校での寮生活は、こんな具合に大きなトラブルも無く、スタートしたのである。

 

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STORY of HDG(第7話.05)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-05 ****


「いいえ、結局、中学時代は最後迄(まで)、それを続けたのよ。小学生の頃から十年近く続けていた事を、急に方向転換するのは、流石にプレッシャーだったみたい。だから、わたしが佳奈ちゃんを、この学校に誘ったの。ここなら、わたし以外に知ってる人が居ないから、柵(しがらみ)とか気にする事も無いでしょ。」

「しかし、まぁ、その話からすると、古寺さんがこの学校に受かった時、中学の同級生や先生達は驚いたでしょうね。 いや、そもそも、良くこの学校を受験するのを、先生が許したよね。」

「あはは、先生にもお母さんにも、どうせ落ちるから止めなさいって、言われたの~。」

「だから、ダミーで滑り止めの学校にも願書出してね、ここは試験の日程が早いから、受験慣れの為にって名目だったのよね。」

「でも、だったら、どうして城ノ内さんと同じ情報処理科にしなかったの?佳奈さん。」

 佳奈が樹里を頼っていたのなら、同じ学科に進むのが自然のでは、と瑠菜は思ったのだ。その疑問に対する、佳奈の答えは、明快だった。

「だって、ソフトウェアとかプログラムとかには、興味が持てなかったんだもん。」

「佳奈ちゃんは、こう見えても機械弄りとかやってたのよ。元元は佳奈ちゃんのお父さんの趣味なんだけど、古い機械を分解したり組み立てたり、そんな作業を手伝ってたりしてたのよね。」

「成る程、自分のやりたい方向とかは、ちゃんと考えてたんだ。そう言う、根気勝負の作業とかは向いてそうな感じよね、古寺さん。」

 維月は、感心した様に、そう言うのだった。

「佳奈ちゃんに就いて、わたしから話しておきたい事は、大体、こんな所かな。もっと詳しい事は、又後で、本人から聞いて。 ともあれ、佳奈ちゃんの独特のペースはね、人に依ってはイライラしたり、癇(かん)に触ったりで、馬の合わない人も居るんだけど、こればっかりは相性だから、どう仕様もないし。でも、今見てる限り、瑠菜さんは大丈夫そうで安心した。」

「あ、うん…まぁ、悪意が無いのは、伝わって来るから。許容範囲だと思う。」

「ごめんね~迷惑掛けるかもだから、先に謝っておくね。」

 膝の上に両手を置き、瑠菜に向かって深々と頭を下げる佳奈だった。

「わたしと付き合ってると、自動的に佳奈ちゃんとも付き合う事になるけど、井上さんは大丈夫?」

「あぁ、わたしは古寺さんみたいなタイプの人に、別に苛苛(いらいら)したりしないから。寧(むし)ろ、楽しそうで好きなタイプかもね。」

「そう、良かった。」

 維月の返事に笑顔を返した樹里は、その表情の儘(まま)、瑠菜の方へ向き直って言う。

「じゃ、今度は瑠菜さんの事、聞きたいな。」

「聞きたいな、って言われても。さっきの佳奈さんの話みたいに、ドラマチックなネタなんか無いし。」

「そう?さっき名字で呼ばれるのが嫌だとか、言ってたじゃない。」

 維月が身を乗り出す様にして、瑠菜に問い掛けるのだった。

「あぁ、あれはね…ほら、わたしってこんな風(ふう)じゃない、何て言うか、見た目が日本人っぽくないでしょ。イジメられてたって訳(わけ)じゃないんだけど、まぁ、目立つから、昔から色々と言われるのよね。髪の色とか、肌の色とか、瞳の色とかに就いて。」

「わたしは、綺麗だと思うな!瑠菜さんの髪とか肌とか。」

 突然、意気込んで佳奈が声を上げた。瑠菜はその声に少し驚きつつ、笑顔で答える。

「あはは、ありがとう。まぁ、近頃はそう言ってくれる人も居たりするんだけどね、でも、子供の頃って人と違う部分が有るのって、疎外感って言うのか、そんなのを勝手に感じちゃったりするじゃない?」

「瑠菜さんは、帰国子女って訳(わけ)じゃないんだ。」

 違う角度から質問をして来たのは、維月である。

「うん、お父さんはアメリカの出身だけど、こっちには仕事で来て、日本人のお母さんと結婚したの。以来、ずっとこっちに住んでるから、わたしも日本生まれで日本育ち。」

「なるほど、同調圧力に弱いのは日本人らしいメンタリティだよね。例えば、あっちで育ってたら、色んな人種が居るのが珍しくないから『違うのは個性だっ』て、なってたかも。」

「それは、どうか分からないけど。ともあれ、わたしとしては、この容姿が幼い頃からのコンプレックスだったの。だから、名字の方で呼ばれると、自分のコンプレックスが刺激されると言うか、上手く説明出来ないけど…そんな事を意識する自分が嫌になるのよね。でも、別に、お父さんや、ルーカスって名前や、自分の容姿とかが嫌いって訳(わけ)じゃないのよ。只、勝手な疎外感を持っちゃう自分が嫌なだけ。」

 溜息を吐(つ)いて、瑠菜は力(ちから)無く笑った。それに対し、維月は真剣な顔で、瑠菜に言うのだった。

「わたしは瑠菜さんの気持ち、少しは分かる気がするの。一緒にするなって、怒るかも知れないけど、わたしは見ての通りの身長(タッパ)でしょ。昔から、同年代の男子よりも背が高かったから、これがコンプレックスだったのよね。 で、背が高いとさ、バレーとかバスケとかやってるのか?とか、やったらどうだって言われる訳(わけ)。それを言われる度(たび)に、こっちはコンプレックスを刺激されるし、わたしはスポーツとか全然興味無かったから、ホントにアレは鬱陶(うっとう)しかったの。…あ、矢っ張り、瑠菜さんのとは違うよね。」

 一通り語り終えると、最後に維月は笑うのだった。それに釣られる様に瑠菜は笑顔になると、維月に言った。

 

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STORY of HDG(第7話.04)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-04 ****


「実際にその様子を見てないと、なかなか理解はして貰えないと思うけど。兎に角、佳奈ちゃんが考えている内に、何でも先回りしてやっちゃうのよ、お母さんが。わたしが見たのは一日の内の、何分の一かは分からないけど、それだけでも、そう言う印象を持つ位(ぐらい)なんだから、後は推して知るべし、って事でしょ。」

 樹里の証言を聞いて、瑠菜は先程の佳奈の行動に合点がいったのだった。そして、それを確認するべく、瑠菜は佳奈に問い掛ける。

「佳奈さん、あなた実家で、部屋の片付けとか、洗濯物の整理とか、やった事有るの?」

「ううん、みんなお母さんがやってくれてたの、ずっと。」

 無邪気な佳奈の返事に、頭を抱える思いの瑠菜だった。その一方で、維月が所感を述べる。

「何となく分かった。要するに、古寺さんは自主的な行動力を、ほぼ封印された環境で育って来たのね。」

「そうそう、その『自主的な行動力を封印』って表現は、なかなか素敵ね、井上さん。それで、学校でも『お世話係』何てのが、小学生時代からくっ付いていた訳(わけ)よ。まぁ、周りは親切の積もりだったのでしょうけど、でもそのお陰で、佳奈ちゃんには、その『自主的な行動力』を発揮する経験が決定的に不足してた訳(わけ)。」

「それで、あなたはどうしたの?城ノ内さん。」

 瑠菜は、樹里の瞳を覗き込む様に見詰めて聞いていた。

「当然、余計なお世話は止めたの。徒(ただ)、間違った判断や行動から危険な状況になるといけないから、注意したり、ヒントを出したり。成(な)る可(べ)く自分から行動する様に、促(うなが)してね。ほぼ二年間、そうやって漸(ようや)く今のレベルになったの。以前はもっと、何も出来なかったんだから。」

「ごめんね~樹里リン。迷惑ばかり掛けて。」

 佳奈は申し訳(わけ)無さそうに、樹里に向かって頭を下げるのだった。

「と、言う事は。わたしにも、余計な手出しはせずに、見守れって言いたいのね。」

「そう言う事、瑠菜さんが頭のいい人で良かった。」

 瑠菜の言葉を聞いて、樹里は安堵の笑みを浮かべるのだが、そこで維月が一つの疑問を提示するのだった。

「しかし、まぁ、そんな具合で、良くこの学校に受かったものね。って言うか、ここに受かった位(くらい)なんだから、それなりの成績取ってただろうに、学校でそんな扱いを受けていたって言うのも何だか不思議だけど。」

「いいえ、わたしの中学時代の成績は良くなかったですよ~井上さん。」

 維月の疑問には、佳奈が自ら答えたのだが、それには樹里の補足が必要であった。

「佳奈ちゃんは成績が良くなかったんじゃなくて、良くない振りをしてただけでしょ。 この子、試験でわざと低い点数を取る様に解答を操作してたのよ。」

「何でそんな事を?」

「ええ~だって、わたしがいい点取ると嫌われちゃうじゃないですか、みんなに。」

 瑠菜の問い掛けに、佳奈が返した答えは、瑠菜と維月を困惑させた。維月が、樹里に問い掛ける。

「どういう事?」

「さっきの佳奈ちゃんの説明だと、物凄く語弊が有るから、わたしが補足するけど。先(ま)ず、佳奈ちゃんが小学生の頃、これは佳奈ちゃんから聞いた話だけど、テストで佳奈ちゃんが満点を取った事が有ったんだって。で、その時、仲が良かった子が、悔し紛れに佳奈ちゃんに悪態を吐(つ)いたらしいの。」

「あぁ~言い方は悪いけど、普段から見下してる子が自分よりいい点を取ったのが悔しかった、って感じかな。有りそうな話ね、そう言う所、子供は残酷って言うか極端になり勝ちだから。」

「そう。でも、それが佳奈ちゃんには酷(ひど)くショックだったのよ。その次のテストでは、解答が書けなかった位(ぐらい)に。要するに、白紙で出した訳(わけ)だけど、そうすると当然、先生やお母さんから叱られるわよね。」

「まぁ、そうなるよね。」

 樹里と維月の遣り取りをここ迄(まで)聞いていて、瑠菜は佳奈の取った行動の理由に思い当たり、声を上げた。

「あ、そうか。真面目に解答すると友達に嫌われる、解答しないと先生や親から叱られる。だから、友達に嫌われない程度に解答しよう、って事ね。」

「察しがいいわね、瑠菜さん。そう言う事。それを小学生の頃からずっと続けてたのよ。だから公式な成績は中の下くらいで、学校側も佳奈ちゃんをその位(くらい)の生徒だとしか思ってなかったの。」

「城ノ内さんは、良くその事に気が付いたわね。」

 維月の指摘を受け、樹里は一つ溜息を吐(つ)き、椅子の背凭(せもた)れに身体を預けて答える。

「そりゃ、分かるよ。授業中は真面目にノート取ってるし、授業中に先生に指されても、即答じゃ無いけど、それでもそつなく答えるし、出された宿題や課題もちゃんとやって来るのよ。それなのに、試験の結果だけが中の下なの、おかしいでしょ?」

「それが、おかしいって思ったのは、わたしの身の回りで樹里リンだけだったんだけどね~。」

 佳奈は無邪気にそう言って、笑った。その言葉に対して、所感を述べたのは維月である。

「結局、古寺さんの事に、誰も本気で注意を払ってはいなかったって事ね。城ノ内さん以外は。」

「まぁ、わたしがおかしいと思ったのが半年くらい経った頃だったけど、問い詰めて、その事を佳奈ちゃんが白状する迄(まで)、更に半年掛かったの。」

「と、言う事は、中三からはテストの解答を操作するのは止めたのね。」

 そう問い掛けた瑠菜だったが、返ってきた樹里の返事は、又しても意外な内容だった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第7話.03)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-03 ****


 そこには、瑠菜と同じく新入生らしい女子生徒が二人、立っていた。手前に立っている女子生徒は、瑠菜と同じ位(くらい)の身長で、黒髪を低めの位置に二つ結びにしている。その後ろに立っているもう一人は、随分と背が高く、ストレートの長い髪が印象的だった。

「あ、…佳奈、古寺さん居るかな?」

 二つ結びの女子生徒は、ドアを開けた瑠菜を見て、少し戸惑った様に、そう言った。

「あ、樹里リン。」

 部屋の奥側から、入り口に立っている二つ結びの髪の女子生徒の姿を見て、佳奈が声を上げた。その女子生徒は瑠菜の肩越しに、佳奈の姿を見て、少しほっとした様な表情を浮かべ、佳奈に向かって言う。

「片付けは出来たみたいね、佳奈ちゃん。」

「うん、瑠菜さんに教えて貰ったの~あ、入って、入って。」

 その女子生徒は佳奈に入室を促(うなが)された事を、瑠菜に確認する為に尋ねる。

「お邪魔していい?」

「まぁ…どうぞ。」

 瑠菜は右手でドアを引きつつ身体の向きを変え、左手を部屋の奥へ向かって、動かして見せる。

「お邪魔します。」

「お邪魔しま~す。」

 ドアの前に立っていた二人の女子生徒は部屋の中に入ると、瑠菜はドアを閉めた。再び、オートロックのラッチが掛かる音が、小さく響く。

「取り敢えず、自己紹介しておくわね。わたしは情報処理科の城ノ内 樹里、佳奈ちゃんとは中学が同じだったの。で、こっちは、わたしと同室になった井上さん。」

「城ノ内さんと同じく、情報処理科の井上 維月です、よろしくね。」

 維月は自己紹介すると、瑠菜に向かってスッと右手を差し出す。そこで握手を交わすのも何だか変な気がした瑠菜はその手を取らず、机とセットになっている椅子を、左掌(てのひら)を上にして指し示し、声を掛ける。

「ま、取り敢えず、その椅子を使って。立ち話も何だし。 あ、わたしは機械工学科のルーカス 瑠菜よ。 それじゃ、佳奈さんの事はお二人共、知ってる訳(わけ)ね?」

 瑠菜は、部屋の奥側、自分のベッドへ移動し、そこに腰を下ろした。

「ううん、中学が同じだったのは樹里リンとだけ。井上さんとは初対面です、よろしくね。古寺 佳奈です~あ、わたしも機械工学科です。」

 自分のベッドに腰掛けた儘(まま)、佳奈は維月に向かってペコリと頭を下げた。
 その一方で、瑠菜が訝(いぶか)し気(げ)に、樹里に問い掛ける。

「それで、どう言ったご用?」

「突然押し掛けて来て、ごめんなさいね。佳奈ちゃんの事が心配だったから、様子を見たかっただけなのよ。」

「それじゃ、あなたは、その野次馬?」

 今度は、維月に疑念の矛先を向ける瑠菜だった。

「まぁ、そう警戒しないで。わたしはこの学校に知り合いが居ないから、同級生と交流を持ちたいだけだから。」

「そう、だったら、もう一時間ほど早く来て欲しかったわね。あの子、一時間ほど閉め出されて、ドアの前に座り込んでたんだから、わたしが来る迄(まで)。 佳奈さん、あなたも、知り合いが同じフロアに居たのなら、助けを求めれば良かったじゃない。」

 その瑠菜の発言に、佳奈が無邪気に返した言葉は、瑠菜には意外な内容だった。

「これからは樹里リンに頼らないで、自分で考えなさいって。それで、瑠菜さんが来るのを待ってればいいって、自分で考えたの。でも、こう言う時は管理人さんに相談すれば良かったんだって、瑠菜さんに教えて貰ったのよ、樹里リン。」

 樹里は微笑んで、佳奈に言葉を返す。

「そう、それで良いのよ。結果が間違ってても、先(ま)ず、自分で考えて行動しないとね。」

「うん。」

 樹里と佳奈、二人の遣り取りを困惑した表情で聞いている瑠菜に気が付いた樹里が、瑠菜の方に向き直り声を掛ける。

「同室になるあなたには、佳奈ちゃんの事、お話ししておきたいんだけど、聞いて貰える?ルーカスさん。」

 その時、樹里に向かって佳奈が声を上げるのだった。

「樹里リン!瑠菜さんは、名字で呼ばれるのは嫌なんだって。瑠菜さんって、呼んであげてね。」

「あら、そうなの? じゃ、瑠菜さんって呼ばせて貰うけど、いいかしら?」

「あ、うん…どうぞ。」

 話の展開が読めず、更に困惑の度を深める瑠菜は、そう返事をするのが精一杯だった。ニッコリと笑顔で話を続ける樹里の事が、ある意味、不気味にさえも感じられた。

「瑠菜さんの事にも、俄然(がぜん)、興味が湧いてきたから、色々お話を聞きたいんだけど。でも、先に、佳奈ちゃんの話からさせて貰って良いかな?」

「ええ、わかった。どうぞ。」

「ちょっと、長い話になるかも、だけど。成(な)る可(べ)く、手短に済ませる様に、努力はするわね…そうね、先ず、佳奈ちゃんの態度と言うか、行動と言うか、そのペースとかが物凄く独特だって言うのには、瑠菜さんも、もう気が付いていると思うけど。」

「そうね、部屋の前に座り込んでいたのとか、荷物の片付けが全く進まないのとか、ちょっとビックリした。」

「わたしが佳奈ちゃんと同じクラスになったのは、中二からなんだけど。佳奈ちゃんの周りに居た人達から聞いた話に依ると、まぁ、小学校の頃からそんな具合だったらしいのよ。それで、学校で周りの人とペースが合わないと、まぁ、周囲が迷惑するからって事で、佳奈ちゃんには『お世話係』が付いていたらしいのよね。で、わたしが中二の時にそれに任命されちゃった訳(わけ)。その辺りの細かい事情は、省略するけど…。」

「それを、わたしにやれって話?」

 樹里は慌てて両方の掌(てのひら)を瑠菜に向け、否定の仕草をする。

「結論を急がないで、もうちょっと続きが有るから。 で、佳奈ちゃんと向き合う様になって、分かったの。ペースが独特なだけで、決して、頭が悪い訳(わけ)じゃないって。この学校に合格してる事だけでも、その証明になると思うけど、どう?」

「そうね、確かに。」

「でね。佳奈ちゃんの家に、何度か行ってね~気が付いたのよ。佳奈ちゃんのお母さんがね、せっかちなの、物凄く。」

「え?」

 その話の展開に、黙って成り行きを見ていた維月迄(まで)もが、思わず声を上げたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.02)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-02 ****


 瑠菜は廊下を進み、206 号室の前で立ち止まると、ドアの方へ身体を向ける。視線を下げると、ドアを背に座り込んでいる少女の見上げる視線とぶつかった。

「何してるの?ここで、あなたは。」

「あ、ルーカスさん、ですかぁ?」

「そう、だけど。あなたは?」

「同室になります、古寺 佳奈です~よかったぁ、優しそうな人で。」

 佳奈はニッコリと笑顔を浮かべ、立ち上がる。

「優しそう?わたしが?…それで、何をしてたの?」

「別段、何かをしてた訳(わけ)じゃなくて~寧(むし)ろ、何もしてませんでした~。」

「何よそれ、禅問答?」

「実は、トイレに行った時に、カードを部屋の中に置いた儘(まま)で~…」

「要するに、入れなくなってたのね? 来た時に、管理人さんに注意されなかった?」

「それはもう、うっかり、としか…あはは。」

 ドアを背にして、左手を後頭部に回し、佳奈は頭を掻く様な仕草で笑った。
 瑠菜は先程受け取った、カード・キーをドアの脇に有るパネルへと翳(かざ)す。すると、「ピッ」と電子音がして、ドアのロックが解除された。

「取り敢えず、中に入りましょ。」

「は~い。」

 佳奈はクルリと向きを変え、ドアを押し開けた。二人が室内へと入り、瑠菜がドアを閉めると、「カチャリ」とドアがロックされる音が聞こえるのだった。

「それで、何時(いつ)からドアの前に居たのよ?あなた。」

「う~ん、一時間位(くらい)かなぁ。」

 部屋の中に入ると、瑠菜の送った段ボール箱が三つと、大きめのスポーツバッグが一つ、ドアを背にして向かって左側のクローゼットの前に置かれている。一方、向かって右側の部屋の奥側にあるベッドから机を経てクローゼットの前までには、佳奈の荷物の中身であろう衣類や本、その他の小物等(など)が並べられていたのだった。

「一時間も?その間、誰も廊下を通らなかったの?」

「三人、目の前を通って行ったけど、話し掛けてはくれなかったなぁ。」

「そりゃ、そうでしょうね。」

 佳奈はベッドの上に広げた荷物を分類しようとしているのか、右へ移動したり、左へ移動したりしている。瑠菜は佳奈に背を向け、自分の荷物の封を開けた。
 室内の収納は、ベッド下の引き出しと、クローゼットの二箇所で、あとは机のサイド・キャビネットと、本棚が机の正面側に作り付けられている。瑠菜は、てきぱきと衣類や小物等(など)を、それぞれが相応(ふさわ)しい場所へと仕舞っていった。

「あんな所に一時間も居る位(くらい)なら、管理人さんに言って、開けて貰えば良かったのに。」

「あぁ、それは思い付かなかったなぁ。管理人さんから同室のルーカスさんは今日、入寮の予定だって聞いてたから、その内(うち)、ルーカスさんが来るだろうって、それしか考えてなかった。」

 瑠菜は手を止めて、振り返り、言った。

「ちょっと、一つお願いが有るんだけど。いい?」

「何?ルーカスさん。」

「それよ。名字で呼ぶの、止めて貰える?」

「え…嫌いなの?自分の名前。」

「嫌いではないけど、人に呼ばれるのが嫌なの。」

「そう。よく分からないけど、じゃ、瑠菜さん?」

「うん、それでお願い、こっちから指定して、何だか悪いけど。」

「ううん、いいけど。それじゃ、わたしの事も名前で呼んでね。」

「いいわ、佳奈さん、だったよね。」

「うん。」

 そんな会話の後、二人は荷物整理を再開した。
 十数分後、瑠菜は一通りの片付けを終え、最後に新しい制服一式をハンガーに掛けて、クローゼットの扉を閉めた。ふと、振り向いて佳奈の方を見た瑠菜だったが、佳奈は徒(ただ)、右往左往しているだけで、全く整理が進んでいない様子だった。
 取り敢えず、瑠菜は黙って部屋着に着替え乍(なが)ら佳奈の様子を観察し続けていたのだが、着替えが終わっても状況は進展しそうも無かった。我慢し切れなくなり、思わず瑠菜は佳奈に声を掛けた。

「佳奈さん。あなた、片付けは苦手な人?」

「う~ん、こういう事、殆(ほとん)どやった事が無くって。家(うち)では何時(いつ)もお母さんがやってくれてたから。」

「お嬢様だったのね。」

「そういうのじゃ、無いんだけど。」

 佳奈は、衣類や小物等(など)をベッドの上に並べて幾つかのグループに分類はしたものの、それをどこに収納すればいいのか迷っている様子だった。

「取り敢えず、制服とブラウスはシワになるから、ハンガーに掛けてクローゼットに仕舞っておきなさい。ハンガーはクローゼットの中に有るから。」

「は~い。」

 瑠菜に言われた通り、佳奈はクローゼットからハンガーを取り出すと、ブラウスや制服をハンガーに掛けてクローゼットへ仕舞った。

「下着(インナー)類と靴下、ハンカチとかタオルはベッド下の引き出しに。左、窓側の引き出し。 アウター類もベッドの下、真ん中の引き出し。 右の引き出しは空けときなさい、ランドリー・バッグに入れた汚れ物の一時保管場所にするから。 それから、体操服とか夏用の制服とかはクローゼット下の引き出し。 本とかノートは取り敢えず机の上に、後で、自分で分かり易い様に本棚に並べなさい。文房具や小物はサイド・キャビネット。」

 佳奈は瑠菜の指示に素直に従い、ベッドの上に並べられた荷物を、それぞれの収納場所へと納めていく。すると、十分も掛からない内に一通りの片付けが終わったので、佳奈は手を叩き、歓声を上げた。

「わ~片付いた~。瑠菜さん、凄い~。」

「凄いって…これ位(くらい)、普通でしょ。」

「ううん、凄い、凄い。お母さんみたい!」

「お母さんって、あのね…。」

 苦笑いを浮かべていた瑠菜は、佳奈の「お母さん」と言う評を聞いて溜息を吐(つ)くのだった。
 丁度(ちょうど)その時、誰かがドアをノックする音が聞こえたので、取り敢えず、瑠菜が入り口へと向かい、ドアを開いた。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.01)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-01 ****


 今回は時間軸を一年ほど遡(さかのぼ)った所から、物語を始めよう。その日は、天神ヶ崎高校での第二十二期入学式を二日後に控えた、2071年4月01日水曜日である。
 時刻は午後四時を少し回った頃だろうか、この年、天神ヶ崎高校に入学する瑠菜は、最寄り駅で乗車したタクシーから、校門の前で降りたのだった。事前に送られて来ていたチケットでタクシー料金を支払った瑠菜は、手提げの小さなバッグのみを持って学校の敷地内へと入って行った。
 これから三年間、この学校の敷地内に用意されている女子寮で生活する事になるのだが、着替え等(など)生活に必要な荷物は実家から発送してあったので、既に此方(こちら)に届いている筈(はず)だった。瑠菜は、タクシー・チケットと一緒に送られて来ていた案内書類の校内見取り図を頼りに、学校の広い敷地内を女子寮を目指して歩いて行く。
 天神ヶ崎高校は小高い山の中腹の、なだらかな斜面を造成して建てられているので、北に向かって敷地の奥へと向かうと、緩やかではあるが坂道を登って行く事になる。事務棟や校舎の脇を抜けて敷地の一番奥、つまり一番高い所に、実習工場を挟んで西側に男子寮が、東側に女子寮が建てられていた。
 その日は、在校生に取っては始業式の日だったので、私服で校内を歩いていた瑠菜は、制服を着た先輩達に度々(たびたび)出会(でくわ)すのだった。始業式の日の、その時間まで校内に残って居たのは入学式の準備を進める生徒会役員か、その手伝いをしている生徒なので、私服の瑠菜を見ても「あぁ、新入の寮生だな」としか思わない。だからそんな先輩達へは軽く会釈をしつつ、瑠菜は女子寮を目指して校内を進んで行った。

 女子寮のエントランスに辿り着くと、大きな硝子ドアを押して、瑠菜は中へと入る。すると、右手側にカウンターテーブルと硝子戸が有り、その硝子戸の向こう側に居た管理人らしき女性と目が合った。

「こんにちは。」

「あ、新入生かな?」

 自分の母親よりも一回り位(くらい)年上だろうか? そんな事を考え乍(なが)ら、瑠菜がカウンターテーブルへと歩み寄りつつ挨拶をすると、中に居た女性が硝子の引き戸を開けて、瑠菜に声を掛けて来た。

「はい。今年からお世話になります、ルーカス 瑠菜、です。」

「え~と…学科を教えてくれる?」

 その女性はタブレット端末を取り出し、画面を操作している。

「機械工学科、です。」

「機械工学科のルーカスさん…ルーカスさん、と。あ、はい、有った。あなたは 206 号室ね。あ、わたし、管理人の渡辺です~よろしくね。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

 渡辺さんは、カウンターの下からカードを一枚取り出し、カウンターテーブルの上に置いて、瑠菜へと差し出した。

「これね、お部屋のカード・キー。代用なんだけど、一応、受け取りのサインしてちょうだい。こっちに。」

 クリップボードに挟んだ受取証とボールペンを取り出すと、それもカウンターテーブルへと置き、瑠菜の方へと差し出す。

「代用?ですか。」

「ええ、入学式が済んだら学生証カードが貰えるから、それがお部屋のキーも兼用なのよ。それが貰えるまでの代用なの。学生証を貰ったら、そのカード・キーは返却してね。」

「あぁ、成る程。そう言う事ですか。」

 瑠菜はクリップボードの書類にサインをして、カード・キーを受け取る。

「はい、ありがと。え~と、お部屋はオートロックになってるから、部屋を出る時は必ずカード・キーを持って出てね。特にトイレとかお風呂の時に、慣れる迄(まで)はうっかりする人が多いから、気をつけてちょうだいね。」

「はい。わかりました。」

「それから、一年生はみんな二人部屋だから…あなたと同室の子は…古寺 佳奈さん、もうお部屋に入ってるわね。それから、あなた宛の荷物は届いてたから、お部屋の中へ運んであります。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

「シューズボックスはそっちの~部屋番号と同じ番号のを使ってちょうだい。スリッパとか上履きは用意してある?案内に書いてあったと思うけど。」

「あ、荷物に入れて送っちゃいましたから、届いている段ボール箱の中に。」

「あぁ、そう。じゃ、取り敢えず来客用のスリッパを使ってて。あとで戻しておいてくれたらいいから。」

「はい、分かりました。」

 瑠菜はカウンターテーブルの下、足元に幾つか用意されていた来客用のスリッパを取ってから、シューズボックスが両サイドに立ち並ぶコーナーへと行き、自分の部屋番号のボックスを探し、扉を開ける。一つのボックス内は中央で仕切られ、左右がそれぞれ三段に分けられている。向かって右側の下段にスニーカーが一足、既に入れられていた。それが同室の佳奈の物であろう事は、瑠菜にも直ぐに察しが付いた。瑠菜は同じ様に、左側の下段に自分が履いて来たスニーカーを入れ、来客用スリッパでエントランスから中へと入って行った。「あとで、制服用の革靴をシューズボックスへ、入れて置かなくちゃ。」そんな事を考え乍(なが)ら、管理人室脇の階段へと向かう。
 階段室へと入る手前で、管理人室から渡辺さんが出て来て、瑠菜に声を掛けた。

「206 号室はこの階段を上がったら、奥に向かって左側三番目の部屋だから。注意事項とか決まり事は各部屋に説明書きが置いてあるけど、分からない事が有ったら、何時(いつ)でも、遠慮無く聞いてね。」

「はい、ありがとうございます。」

 瑠菜は渡辺さんに一礼すると、二階へと階段を上がって行った。
 階段を上がって二階廊下へ出ると、奥に向かって左手側三番目の部屋のドアの前、つまり瑠菜が目指す 206 号室のドアの前に、少女が一人、ドアを背にして座り込んでいるのに気が付いた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG (第6話) Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第6話まとめ版、Pixiv へ投稿しました。
表紙画像をちょっと修正したので、ここでの掲載画像は Pixiv 版とはちょっと違ってます。
第7話は、現在、第7回掲載分を打ち込み中。第7話の掲載開始まで、まだ暫く掛かります。

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「第6話・クラウディア・カルテッリエリ」/「motokami_C」の小説 [pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7194929

PS000126C <暑夏> 2016.08.22

 先日来、製作していた「天神ヶ崎高校」の Poser 用夏服 DC のテストを兼ねたサンプル作品。

 これに使うために、急遽、「氷菓子」のフィギュアも製作しました。

【poser】「暑夏」イラスト/motokami_C [pixiv]

 結果、「残暑見舞い」風な画になりましたが、これは唐突に思いついた「空が画面に入る構図」を探して AUX カメラでアングルを探った結果です。

 当初のアイデアは、二枚目の構図で、メイン・カメラのアングルはこちらでした。

 

 今回作った、「氷菓子」フィギュアなんですが、製品化して販売する事も検討中ですが~欲しい人居るかな? 同じ様な物が、過去にあったような気がしないでもない…