WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.01)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-01 ****


 2072年7月2日、土曜日。この日は、防衛軍の演習場を借用しての、HDG-A01 と LMF に因る火力運用試験が実施される日である。
 出力は抑えて実施するとは言え、荷電粒子砲の実射等、危険な項目が予定に組まれている為、天野重工本社からは少なくないスタッフが派遣される大掛かりな試験である。防衛軍からも関係者が視察に訪れる予定だと、緒美ら天神ヶ﨑高校『兵器開発部』の部員一同は聞かされていた。
 試験を行う陸上防衛軍の演習場は、天神ヶ﨑高校からだと自動車で一時間半程の、学校が所在するのとは別の山腹の、なだらかな斜面に造成されており、普段は近辺に展開する陸上防衛軍部隊が射撃・砲撃訓練に使用している。
 HDG-A01 と LMF 及び関連機材は、本社が手配したトランスポーターに前日の内に積載済みであり、午前中に試験場へと移動を開始していた。一方、兵器開発部の部員一同は、学校所有のマイクロバスにて、午前中の授業を終えて、午後十二時半頃に学校を出発した。因(ちな)みに彼女たちの昼食は、立花先生が手配した弁当を移動中の車内で、と言う段取りであった。

 天神ヶ﨑高校『兵器開発部』一行のマイクロバスが演習場のゲートを通過し、現地へと到着したのは、午後二時少し前だった。
 演習場には北端側管理棟の前に天幕が、二箇所に分けられて、合計四張り設営されていた。東側二張りの白い天幕には天野重工の社名が入っており、それらと少し離れて設営されている西側二張りの天幕は迷彩柄で、これらが防衛軍の物である事は一目瞭然である。
 天野重工の天幕の南側には、午前中に学校を出発していた二台のトランスポーター既に到着していた。HDG を積載した特製コンテナ式の一号車が天幕の前に、その後ろに開放式荷台の二号車が駐められている。二号車の荷台には LMF が積載されているのだが、出発時に機体に被せてあったシートは、既に取り外されていた。
 天神ヶ崎高校のマイクロバスが白い天幕の北側に停車すると、強い日差しの中、立花先生を先頭に白い夏制服の部員一同が降りて来る。彼女達はそれぞれが身分証となる入場証を、首から提(さ)げている。
 白い天幕の周囲では作業服姿の天野重工のスタッフが準備の為に行き交っているが、唯一、白シャツにネクタイと言う出で立ちの男性が『兵器開発部』一行がバスから降りて来るのを認めて、声を掛けて来た。

「おぉ、ご苦労さん。いい天気になって、良かったね。」

「何やってるんですか、こんな所で!飯田部長。」

 突然声を掛けて来た飯田部長の存在に驚き、挨拶も忘れて声を上げる立花先生であった。

「何やってる、とはご挨拶だねぇ。」

 飯田部長は、大きな声で笑った。

「すみません。飯田部長がいらっしゃってるとは、思ってなかったもので。」

「あはは、社長を始め開発部や試作部の部長連中も来たがってたんだが、結局、都合が付いたのが、わたしだけだったのさ。まぁ、わたしは防衛軍(あっち)側の対応をしなきゃならないって都合なんだが。」

 そう言って、飯田部長は親指で背後方向の、迷彩柄の天幕を指した。
 そんな飯田部長と立花先生との遣り取りを少し離れた場所で聞き乍(なが)ら、ブリジットは目の前に立っていた直美の耳元に顔を寄せ、小さな声で尋ねる。

「…どなたです?」

「飯田部長、事業統括部の。」

「事業統括部?」

「簡単に言えば、社長の次の次の次位に偉い人。」

「成る程。」

 直美の説明は、会社の組織構成を未(いま)だ把握していないブリジットには、非常に解り易かった。そんな具合にひそひそ話をしていたブリジットに向かって、飯田部長が声を掛ける。

「キミが、今日、LMF のドライブを担当してくれる、ボードレール君だね。」

「あ、はいっ。」

 ブリジットは少し背筋を伸ばす様に、飯田部長に返事をする。その様子に、ブリジットの右隣に居た茜が、くすっと笑った。

「それから、キミが HDG 担当の天野君、会長のお孫さん。」

 今度は、茜に飯田部長が声を掛けるので、茜は静かに会釈をする。

「うん。事故とか起きない様、呉呉(くれぐれ)も気を付けて。宜しく頼むよ。」

「はいっ。」

 茜がはっきりとした調子で返事をすると、飯田部長はにこりと笑うのだった。そして、その表情の儘(まま)、言った。

「さて、じゃ、立花君。それから鬼塚君も、取り敢えず、防衛軍関係者の方(ほう)へ挨拶に行っとこうか。」

「わたしは兎も角、鬼塚さんはいいんじゃないでしょうか?」

 怪訝(けげん)な顔付きで、立花先生はそう意見するのだが、飯田部長は意に介さない様子で答える。

「大丈夫、大丈夫。今日来てるのは HDG 推進派って言うか、こっちの理解者ばかりだから。まぁ、話はわたしがするから、君達はニッコリ笑って『宜しくお願いします』ってだけ、言っておけばいいよ。それよりも、鬼塚君に会って連中がどんな顔するか、それが見物だと思うよ。まぁ、何にせよ、あっちの関係者とも、ここらで一度顔合わせは、しといた方がいいと思うから。」

「分かりました。そう言う事でしたら。」

 緒美は一歩進み出て、微笑んで、そう飯田部長に答える。

「あはは、相変わらず、鬼塚君は度胸が有って、いいね。」

 そう言って上機嫌そうに笑うと、飯田部長は振り向いて、天幕の下で作業中の女性社員を呼ぶのだった。

「おーい、安藤君。」

 立花先生よりも少し年下風のその女性社員は、「はい」と返事をすると、少し間を置いて作業を中断し、小走りで飯田部長の方へと向かって来る。

「現場の音頭取りは、彼女に任せてあるから。細かい事は、彼女の指示に従ってね。じゃ、立花君、鬼塚君、行こうか。」

 飯田部長が防衛軍の天幕の方へ歩き出すと、入れ違う様に部員一同の前へとやって来た安藤に「あとは宜しく」と声を掛け、その儘(まま)、立花先生と緒美を伴ってその場を離れて行ったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

HDG ストーリー内の記述変更

HDG のストーリーにて、登場する企業名に「三ッ星」と言う名称を設定していたのですが。元々は実在する某日本企業の名称の捩りだったのですが~字面から「サムスン三星)」と関連づけられると嫌なので、「三ッ星」から「三ツ橋」へと変更する事にしました。

 こちらの既掲載分と Pixiv の掲載分のストーリー文面について、該当する記述は変更済みです。
 今後も設定の変更や記述の最適化等のために、掲載済みのストーリー文面を誤字脱字の修正以外についても、修正・改編する場合がありますのでご了承下さい。

HDG-Brigitte改造・170915

「ITBRT9-03 for Poser」の作業を後回しにして、忘れない内に、と、「HDG-Akane」の Ver.3 仕様をモーフフィギュアへ展開する実験をやってました。
 そんなわけで、「HDG-Brigitte」への移植作業の結果がこちら。
 

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 Ver.3 版のヘッド・オブジェクトに、Ver.2 仕様の Brigitte のヘッド・モーフを移植して、眼窩周辺のポリゴン・メッシュを再編集・整理しました。
 Ver.2 から Ver.3 への移植は、作業的には結構面倒臭いですが、まぁ、出来ない作業ではない事を確認。雑用の合間合間に作業を進めていた都合もあって、結果、二週間ほど掛かりました。
 所が、出来上がったモーフ・データを、中間作業用に作ってあったデータと一緒に、うっかり消してしまった事に翌日気がつき。
 元データは目を閉じた状態で、目を開くのをモーフでやっている仕様なのですが(逆だと、目を閉じた時に瞼の UV が延び延びになるのが嫌なので)、保存されていたのは目を開けた状態の最終形状(しかも、瞼の開度80%)だったので、そこからベースとなる目を閉じたモーフと、そこから目を開くモーフ(瞼の開度100%)の復元をやるハメになりました。
 幸い、一度やった作業を直ぐにやり直したので作業勘が残っていた事と、最終形状が一部でも残っていたので、復元作業は一週間足らずで完了したわけですが。中間作業データの管理は、ホント、細心の注意が必要というのが今回の教訓。
 そんな感じで、正面からのサンプル画像がこちら。
 

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 それと、瞳縮小モーフの適用(ビックリ顔)のサンプル画像。
 

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 取り敢えず、Ver.2 用のモーフキャラを Ver.3 へ移植できることが確認出来たので、そっちの作業はまた、ぼちぼちと進めていく事として、「ITBRT9-03」の作業を始めますかね~。

HDG-Akane改造・170822

思う所あって、「FF02」こと、「HDG-Akane」フィギュアを弄ってました。一週間ぐらいのお試し感覚で始めたのが、結局三週間。
 先ず、現行バージョン(Ver.2)のサンプル画像。
 

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 瞳のハイライトが、左右で違っているのが分かると思いますが~コレは眼球モデルの構造のせいで、普通にライティングするとこのようになります。
 現行バージョンの眼球モデルは、顔表面の曲率に合うように眼球全体の大きさを決めているせいで、現実にはあり得ない巨大な眼球となっています。頭部中央で左右の眼球が交差するぐらい。
 これはマンガ的なデフォルメを優先した上で、顔面、左右の目の間をなるべくフラットにしたいというデザイン的な要望からこのような構造になったのですが、眼球自体が巨大であるので正面から見た眼球の頂点部が目の中央に位置していません。そのため、瞳(黒目)部分が眼球の頂点になる場所から顔の外側へオフセットするようにモデリングしました。瞳が眼球の頂点部になくても、レンダリング結果に特に違和感は無かったので、このような形状を選択したのですが、只、瞳のハイライトだけは思い通りに入ってくれず、これがストレスでした。
 右目用と左目用に別々にハイライト用のライトを用意したりしていたんですが~瞳の位置が眼球の頂点部からオフセットしているので、第一にハイライトが出る位置が読み辛い。それを右目と左目で同じ様な位置にハイライトを入れようとすると、ライトの位置調整と光量調整が非常に煩雑になり、余計に画作りに時間が掛かっていました。
 そこで、瞳が眼球の頂点部にある(常識的な)形状なら、左右で綺麗にハイライトが入るかな?という実証試験として今回の作業が始まったわけです。
 ハイライトの検証自体は、まぁ、予想通り。矢張り、眼球の頂点部に瞳があれば、ハイライトの位置は予想しやすいし、左右でほぼ揃いました。
 問題は、眼球の構造が変わる事によって顔の方が変わってしまう事。元々、顔の曲率に合わせて眼球の大きさを決めていたのを、今度は眼球の大きさを基準に顔の目元の凹凸を編集しなければならず、特に眼球に合わせると目元が大きく窪む事が、当初の「目の間の顔面をなるべくフラットに」というデザインの指針と相反するのでした。
 最終的に眼球は作り直した物を二度ほどサイズを調整し直し、顔の方も眼窩周辺のポリゴンと目の開閉モーフと共に五回ほど調整を繰り返し、なんとか印象の変わらないと思われる程度でフィニッシュした積もりです。
 で、改造版のサンプル画像はこんな感じ。
 

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 眼球が小さくなっているので、目頭の形状処理がマンガ的に省略された解釈から、よりリアル寄りになりましたが、コレはこうしないと 3D 的には収まりが付きませんでした。眼球は小さくなっていますが、瞳の大きさは元とほぼ同じになっています。
 マンガ的な目の表現を追求するなら、眼球を球状にするのをあきらめるか、頭部自体をもっと極端にデフォルメする必要がありそうですね。「マンガとリアルの中間」と言うのが私の志向する方向なので、私の目指す方向とは合いませんが。
 
 正面からのサンプル画像はこんな感じ。
 

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 眼球の構造の都合で、ちょっと寄り目気味になりました。
 瞳が目の中央になるように眼球を外側に動かすと眼球が顔の側面からはみ出るので~顔の幅を変えるか、眼球を更に小さくする必要があるのですが。どちらにせよ、目頭部分が更に落ち込む事になるので、それだけで顔の印象が変わっちゃうんですよね。顔の幅が変われば、もっと印象が変わる事になりますが。
 
 そして、今回、新規に追加したのが瞳の縮小モーフ、と言う事でサンプル画像。
 

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 サンプル画像ので、瞳の縮小が 0.5 設定ですので、更に小さく出来ますが。
 これは驚いた表情とかに利用できるかな、と思って追加したモーフなのですが、キャラによって瞳の大きさを変えたい場合にも利用できそうです。
 
 
 最後に、Toon 版ではなく、標準マテリアル版のサンプル画像。
 

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 こんな感じで、標準マテリアル(SSS適用)でも一応使用出来るようにはなっています。
 
 因みに、サンプル画像はすべてサブデビ(Subdivision Levels:1)有効にて、レンダリングしてあります。
 
 この改造版を正式に Ver.3 扱いにするかどうかは、幾つかサンプル作品を作ってから決めたいかな、と。
 コレを Ver.3 としたら、モーフ・キャラズ(Omi とか Brigitte とか)も再編集しないといけないしなぁ。あぁ、やる事が一杯(笑)
  

STORY of HDG(第7話)Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第7話まとめ版、Pixivへ投稿しました。
 第7話はサブタイトルが二人なので、表紙画像用にキャラを二人分(瑠菜と佳奈)作らないといけないので~余計に時間が掛かりました。変な縛り作っちゃったかな~(笑)
 デザインは決まってたんだから、Poserフィギュアを先に作っとけば良かったんだけどね。まぁ、他の作業との兼ね合いとか何とか。

 

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 第8話は現在、5回分目を打ち込み中。
 コレがいつ上がるのかは、私にも分かりませ~ん。

 

「第7話・瑠菜 ルーカスと古寺 佳奈」/「motokami_C」の小説 [pixiv] https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8205282

STORY of HDG(第7話.15)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-15 ****


「まぁ、お金の事は単純に時間給って訳(わけ)でも無いから。作業内容次第でって事で、その都度判断でいいんじゃない? 井上さんも余り堅苦(かたくる)しく考えないで。会社の方は最終的な責任を全部、あなた達に押し付けたりはしないから。」

「はい…では、取り敢えず、そう言う事で、いいです。すいません、なんだか我が儘(まま)言ってるみたいで。」

 維月は緒美と立花先生へ向かって、軽く頭を下げる。

「いいのよ。ソフト絡みは、わたし達には専門外だから、上級生だけどフォローしてあげられそうにないし。」

 緒美が恐縮気味にそう言うと、立花先生が言葉を繋げる。

「それに関しては、本社のスタッフが必要なフォローが出来る様に話は通して置くから。取り敢えず、中間試験期間が明けたら、一ヶ月ほど本社の開発から人が来る予定だから、先(ま)ずはその人達からレクチャーを受けて貰う事になるかしらね。あぁ、それ迄(まで)に、必要な機材の手配とかも、しておかないといけないわね…。」

「ともあれ、協力して呉れる人が見つかって良かったわ。今日は日曜日なのに、来て貰ってありがとう、城ノ内さん、井上さん。今日の所は、これで終わりって事で。又、詳しい事は試験期間が終わってからにしましょう。明日からは部活も休止期間になるし。」

 と、緒美がここで切り上げようとすると、樹里が言葉を返した。

「あの、佳奈ちゃん達は今日、何時頃迄(まで)の予定ですか?」

「あぁ~、試験期間前だし、四時頃には切り上げる積もりだけど?」

 樹里の問い掛けに答えたのは、恵である。

「わたしはこの後、特に用事も無いので。佳奈ちゃん達を待ってる間、その…仕様書とか、差し支え無かったら見せて頂けないかな、と。」

「あぁ、それなら、わたしも。瑠菜さんから話には聞いていて、ちょっと興味有ったんです。」

 維月も樹里に同調して、そう申し出るのだった。それを聞いて、緒美が視線を立花先生へと向けると、立花先生は静かに頷(うなず)いた。
 緒美は黙って席を立つと、仕様書を保管してある書庫の前へと移動し、しゃがんで下の段から二冊の仕様書ファイルを取り出した。二冊の内一方は、立花先生が使用している、付箋等が貼り付けられた物である。

「どうぞ。このファイルは持ち出し禁止だから、ここで読んでね。」

 長机の上に二冊のファイルを並べ、緒美は樹里と維月の方へと押し出す。

「成る程、これですか。」

「確かに、瑠菜さんの言ってた通り、凄いボリューム。」

 樹里と維月は、口々に感想を漏らすのだった。

「それは全体の仕様書だから、制御関連の記述は少ないと思うけど。」

「いえ、制御する対処がどう言う物か分かってないと、どう制御したらいいのか、分からないじゃないですか。だから、一通り理解はしておかないと。」

 そう言い乍(なが)ら、早速、樹里は仕様書の頁(ページ)を捲(めく)り出す。それは、維月も同様だった。

「開発の方(ほう)に、ソフトの設計仕様書が有る筈(はず)だから、今度、そっちも送って貰えるよう、手配しておくわ。」

「それはそれで、お願いします、先生。」

 立花先生の提案に、樹里は仕様書の記述を目で追い乍(なが)ら答えた。その時、ふと、維月が顔を上げ、立花先生に問い掛けた。

「そう言えば、さっき、試験明けたら一ヶ月程って仰(おっしゃ)ってましたけど…そうすると、日程は夏休みに食い込む予定ですか?」

 その問いには、元の席に戻り、座り直した緒美が答える。

「あぁ、うん。七月一杯は、今度搬入される LMF のテストになると思うの。八月の最終週にもテストの予定が入ってるから、休めるのは八月中の三週だけになっちゃうけど、あなた達は帰省の予定とか、大丈夫かしら?」

 今度は樹里も仕様書から顔を上げ、言った。

「帰省の予定は、まだ決めてなかったんですけど。寧(むし)ろ、夏休み中、寮に残ってても大丈夫なんですか?」

 その質問には、恵がさらりと答える。

「寮の方には、予定を出しておけば大丈夫よ。毎年、部活の都合とか、何だかんだで半数位(ぐらい)の人が、寮に残ってるみたいだし。去年は、わたし達もお盆の前後二週間ほど帰省しただけで、あとは毎日部活やってたものね。」

 それ対して、維月が思わず突っ込みを入れる。

「夏休み、潰れるのが前提なんですか?」

「そこは御相談、って事よ。夏休みをフルに休みたいって向きなら、本社の応援とか相応の手当を考えないといけないから、遠慮しないで言ってね。別に、夏止み中の活動を無理強(むりじ)いする気は無いから、ご実家とも相談しておいて。中間試験が終わったら、成(な)る可(べ)く早く予定を出して貰えると、助かるわ。」

 半分、冗談で言った事に、立花先生から極めて真面目に回答をされ、恐縮する維月だった。
 その雰囲気を察した樹里が、フォローを入れる。

「先生、今のは維月さんの冗談ですから。」

「あら、そう? でも、先輩も学校も会社も、休み無しで働け!とは言わないし、そうならない様に監督や調整するのがわたしの役目だから。休暇返上でも時間外作業でも、必要で有るならやって貰って構わないけど、それが過ぎる様なら止めるわよ、覚えておいてね。」

 立花先生は優し気(げ)な笑顔で、そう言い、結んだ。


 以上が、兵器開発部に瑠菜と佳奈が参加し、それに樹里と維月が合流する事になった顛末である。
 この後、前期中間試験が終わり二週間程が経って、LMF が天神ヶ﨑高校へ搬入され、それに Ruby が搭載される事となる。その作業に先駆けて、本社開発部から Ruby と LMF それぞれのソフト担当者が派遣され、LMF のオペレーションや Ruby の搭載作業等に就いて、樹里と維月に対してレクチャーが行われた。
 当初は自信無さ気(げ)な発言をしていた樹里だったが、維月も含めて二人共、オペレーションに限れば実務には支障のない能力を認められ、必要に応じて本社からフォローを受けられる条件で、一年生であり乍(なが)ら樹里が天神ヶ﨑高校兵器開発部側のソフト担当責任者に確定する。維月に就いては当初の希望通り、樹里のアシスタントと言う事で、正式な入部は見送られたのだった。


 一方、直美から CAD の講習を受けていた瑠菜と佳奈であるが。CAD の操作に関しては直美の指導により、ほぼ習得したものの、製図に就いては授業よりも先行して学んでいる事もあり、急激な上達は難しい状況となった。教えている直美自身も学生であり、経験豊富と言う訳(わけ)でもなかったので、指導には難渋する場面も多分に見られる様になったのである。
 加えて、夏休み中には緒美と直美の二人が『自家用航空操縦士免許』を取得する為、飛行機部の対象者と共に三週間の合宿講習に出掛ける事が決まっており、留守を預かる恵一人では二人の CAD 製図を指導するのは難しい、と言う局面が訪れたのだった。と言うのも、恵は緒美や直美に比べて、CAD 製図が余り得意ではなかったのである。
 因(ちな)みに、何故『自家用航空機操縦士』の資格が必要となるのか、に就いてなのだが。HDG の飛行能力付与は当初から存在した計画なのだが、その能力試験の実施にはチェイス機に因る飛行状況の確認や、事故が起きた際の迅速な対応が不可欠だと、本社側が指摘した事に『自家用航空機操縦士』資格取得の案件は端を発する。飛行試験の都度、『飛行機部』に協力を求める、と言う方法も考えられたのだが、機材は『飛行機部』から借用するにしても、操縦は『兵器開発部』自前でも出来る様になっておいた方がいいだろうと言う事になり、夏休みの時点で免許取得の条件として法令に定められた「十七歳」に達している、緒美と直美が操縦要員として選ばれた、と言うのが、事の大まかな経緯である。
 その様な事情で上級生二人が不在となる上、折から本社開発部へと提出される図面に不備が散見されていた事も有り、それを見兼ねた実松課長と、現役時代から実松課長とは昵懇(じっこん)であった前園先生が、瑠菜と佳奈に対する二週間に渡る CAD 製図特訓の講師を買って出る事になる。


 こうして『兵器開発部』の人員が補強された事に因り、緒美のアイデアや仕様書の内容が次々と図面化されて、本社へ届けられる様になったのである。それに呼応する様な本社技術陣の努力と労力を得て、HDG の開発と試作機製作は進展を続け、年が明けて二月の末、遂に HDG-A01 試作機が天神ヶ﨑高校へと搬入される運びとなるのだった。
 しかし、試作機が搬入されて以降、緒美達は HDG-A01 のテスト・ドライバー担当者の人選と、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターのデザインに就いて頭を悩ませ続ける事になる訳(わけ)なのだが、そのれら課題の解決には、茜が入学して来る四月を待たねばならなかったのは、既に語られた通りである。

 

- 第7話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第7話.14)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-14 ****


「確かに、麻里…姉さんは、天野重工の開発部に勤めてますけど。お仕事の内容迄(まで)は知らないので…そう言えば、ここ数年、碌(ろく)に実家にも帰って来てなかったんですけど。 そう言うお仕事、してたんですね。」

 維月は、そう所感を漏らすと、軽く息を吐(は)いた。

「聞いた話だと、Ruby の開発は天野重工と三ツ橋電機、JED の三社協力でハードの設計をやって、ソフトの方は三社が独自に味付けをやってるらしいんだけど。三社とも進捗状況とか詳細は社外秘って協定で進めてる案件だそうだから、まぁ、ご家族が知らなくても不思議は無いと言うか、寧(むし)ろ知ってたら大問題って言うか。発注元は政府らしいから、ある意味、国家機密級のプロジェクトの様なのよね。」

 そんな立花先生の発言に、真っ先に反応したのは直美である。

「そんな物騒な物が、どうして学校(ここ)に有ったりするんですか?」

「噂だけど、他の二社はソフトの開発の方が、余り思わしくないらしいのよ。あなた達に Ruby の教育を手伝ってもらうってのは、天野重工(うち)独自のアプローチなんだけど、その発案者は井上主任らしいの。あと、こんな所に、国家機密級の開発物件が有るとは誰も思わないだろう、って言う目論見も有るのだそうだけど。まぁ、本当の所は、重役以上の人しか知らないだろうし、怖くて誰も本当の事何て聞けないわね。」

 続いて、恵が直美とは違う視点で、立花先生に問い掛ける。

「そこ迄(まで)聞くと、その井上主任って相当に凄い人みたいですけど…井上さんのお姉さんって事だと、そこそこ若い人なんじゃ?」

 それには回答したのは維月だった。

「あ、うちは五人姉妹でして、わたしが一番下で、その麻里姉(ねえ)が長女なんです。歳は、わたしとは一回り以上離れてますから。」

 維月の説明を聞いて、緒美が立花先生に問い掛ける。

「と言うことは、大体、先生と同年代?ですか。」

「年齢的には、わたしより一つ下だって。学年で言えば、同じらしいけど。」

「麻里姉(ねえ)は二月生まれなので。」

「あれ、それじゃ先生と入社は同期なんじゃ…。」

 直美の素直な疑問に、立花先生は苦笑いをしつつ答えた。

「わたしは一般大学卒だけど、井上主任は、あなた達の先輩。天神ヶ﨑(ここ)の OG だから、会社的には、わたしの四年先輩なのよ。天神ヶ﨑(ここ)の特課の卒業生は、年下の先輩に…あなた達の側から言えば、年上の後輩や部下が出来る可能性が他社(よそ)よりも高いから、まぁ、楽しみにと言うか、覚悟しておきなさい。」

 立花先生の眼鏡をクイッと上げる仕草に、二年生一同が引き気味の雰囲気が漂う中、樹里が普通のトーンで立花先生に問い掛ける。

Ruby って可成り高機能は汎用 AI の様ですけど、そもそも、政府は何の為に Ruby を開発してるんですか?」

「それこそ、機密中の機密なんでしょ? 少なくとも、わたしは知らないし、Ruby 自身も知らないでしょ。ねぇ、Ruby。」

「ハイ。最終的な目的は、わたしも知らされていません。当面の仕事は、ここのセキュリティ管理と、近々納入される LMF に搭載されて、その機体管理を行う事です。」

「わたしは、大体見当が付きますけどね、政府の考えている事。」

 緒美は吐き捨てる様にそう言うと、静かに息を吐(は)いた。

「緒美ちゃん、その見当って言うのが、当たっているにせよ、外れてるにせよ、どっちにしても誰にも言っちゃダメよ。」

「分かってます。それ程、迂闊(うかつ)じゃありません。」

 緒美の返答は静かだったが、それであるが故に、怒りの様な、嘆きの様なニュアンスが、その場の全員に伝わった。無感情な素振(そぶり)をする事は有っても、緒美は、あからさまに不機嫌な態度を取る事は滅多に無かっただけに、緒美のその発言は、その場の雰囲気を重苦しくさせていた。
 自分の傍(そば)で立った儘(まま)様子を見ていた、瑠菜と佳奈の所在無さ気(げ)な様子に気が付いて、直美は席を立ち、二人に声を掛ける。

「じゃ、わたし達は CAD 講習、今日の分を始めようか。」

 三人は隣の CAD 室へと向かうが、その場を離れる際に、佳奈が樹里に向かって、何時(いつ)もの調子で言うのだった。

「じゃぁ、樹里リン。また、あとでね~。」

「あ、うん。」

 二人は、互いに胸の前で小さく手を振り合う。
 直美達三人が部屋の奥、北側のドアから部屋を出て行くのを見送って、恵は微笑んで言った。

「古寺さんのマイペース振りは、貴重ね。」

「はい。中学の時から、何て言うか…救われる様な気持ちになる時が有ります。一緒に居ると。」

 再び笑顔になり、緒美が口を開く。

「変な空気にしちゃって、ごめんなさいね。 さて、二人とも細々(こまごま)と説明しなくても、もう随分と理解して呉れてる雰囲気だから聞くけど。入部して、わたし達の活動に協力して頂けるかしら?」

 緒美の問い掛けに、最初に答えたのは樹里だった。

「正直言うと、兵器とかの開発に興味は無いんですけど。わたしは、将来的には Ruby の様な、汎用 AI の開発に参加したいって思ってたので、そう言った意味で、Ruby には凄く興味が有ります。徒(ただ)、それだけ高度な物に自分が付いて行けるかどうか、それは、ちょっと分かりませんし、自信も有りませんけど。」

「メカの方だって、実質的には本社の大人が設計してるの。わたし達はアイデアの取り纏(まと)めをやってるだけと言っても良い位(くらい)だから、その辺りは心配しないで。」

「そう言う事でしたら、やってみたいと思います。」

「そう、良かったわ。井上さんはどうかしら。」

 樹里の協力を取り付けた緒美は、続いて維月に問い掛けるのだったが、当の維月はと言うと、何だか浮かない表情で黙っていた。
 そして、少し間を置いて、維月が口を開いた。

「申し訳(わけ)ありませんが…少し考えさせてください。」

「どうして?…って聞いてもいいかしら?」

「はぁ…身内が絡んでいる、となると…わたしは、余り関わらない方が良い様な気がして。もしもですけど、麻里姉(ねえ)に迷惑が掛かったりすると嫌ですし…徒(ただ)、樹里さん一人だと作業的に大変になりそうでもあるので、入部はしないけど、樹里さんのアシスタント程度で良ければ関わらせてください。勿論、秘密保持に就いては入学時の誓約通り守りますから。」

「身内の事とは線を引いておきたい、と…分かる様な、分からない様な、だけど。うちの活動に参加すると、バイト料的な話も、有るんだけど?」

「いいです、お金とか。それ貰っちゃったら、それこそ線引きになりませんからっ。」

「どうしましょう?先生。」

 緒美は判断に困って、立花先生へ水を向けてみる。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


 

STORY of HDG(第7話.13)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-13 ****


「森村ちゃんも知ってる子?」

「ううん、寮で見掛けた事が有る程度。お話とか、した事は無いの。」

 緒美と恵が話しているのを横目に、直美が瑠菜に問い掛ける。

「その二人は、何か部活、やってるの?」

「いいえ。今の所、どこにも入ってなかった筈(はず)です。」

「いいねぇ~。」

 答えを聞いて、直美は緒美へ視線を移し、ニヤリと笑うのだった。

「取り敢えず、その二人と直接お話ししてみたいわね。明日にでも連れて来て貰えないかしら? 二人の都合が良かったら、だけど。」

「明日って、日曜ですよ?」

「うん、でも月曜からは試験期間前で、部活は休止になっちゃうから。その前に、会うだけ会っておきたいの。」

「それなら、今日、この後、寮ででもいいんじゃ…。」

 瑠菜がそこ迄(まで)言い掛けると、優し気(げ)な微笑みを浮かべて緒美が言うのだった。

「部室(ここ)での方が、秘密保持の事とか有るから、人目の有る所は避けておいた方が賢明でしょう。Ruby の件とかも説明し易いし。それに、ソフト担当になる人だったら、Ruby との相性も見ておきたいわ。 Ruby も、どんな人か気になるでしょう?」

 緒美が Ruby に問い掛けると、今迄(まで)黙っていた Ruby が透(す)かさず答える。

「ハイ、紹介して頂けるなら、是非。」

 Ruby の答えを聞いた緒美は、ふと思い出した様に立花先生へ向き直り、笑顔の儘(まま)声を掛ける。

「あ、申し訳(わけ)無いですけど、先生も同席して貰えます?」

「いいけど…時間は、昼からにして、ね。」

 立花先生は苦笑いし乍(なが)ら、そう緒美に依頼するのだった。

「分かりました。取り敢えず、明日来られるか、あとで二人には話しておきます。」

「お願いね、瑠菜さん。 取り敢えず、希望の光がちょっと見えた感じかしら~。」

 緒美は両手を振り上げて背凭(せもた)れに身を預け、大きく伸びをする。

「さて。じゃあ、二人共、今日の分、CAD 講習、始めようか。」

 そう言って直美が席を立つと、瑠菜と佳奈は直美に付いて CAD 室へと向かうのだった。


 その日の夕食時、瑠菜と佳奈は、樹里と維月に『兵器開発部』への協力依頼に就いての話をしたのだった。
 『兵器開発部』での活動に関しては、以前から秘密事項には触れない範囲で樹里と維月には話していたので、兵器開発部からの依頼に大きな齟齬(そご)が発生する事は無かった。「わたし達で役に立つかは、分からないけど」と樹里は言ったが、それでも「面白そうだから」と、『兵器開発部』の先輩達に会ってみる事に就いては維月共共(ともども)了承して、その日はそれぞれ、分かれたのである。

 そして、翌日。2071年5月31日日曜日、瑠菜と佳奈は昼食を済ませて後(のち)、樹里と維月を連れて『兵器開発部』の部室を訪れた。
 部室に緒美と立花先生が来ていたのは、昨日の打ち合わせ通りなのだが、そこには直美と恵も来ていた。いや、この後、瑠菜と佳奈は直美に CAD 講習の続きを受ける予定だったのだから、直美が居るのも当然なのだが、恵までもが居るのが瑠菜には不思議に思えたので、つい、そんな言葉が口を衝いて出てしまうのだった。

「どうして、恵先輩まで居るんですか?」

「ええ~、わたしだけ仲間外れにしないで~。」

 恵は、そう言い返して明るく笑った。

「あぁ、すいません。そう言う、積もりでは…取り敢えず、二人、来て貰いました。」

 瑠菜は自分の後ろに立っていた樹里と維月に、前へ出る様に促(うなが)す仕草をすると、佳奈と共に直美の座っている席の方へと移動する。樹里と維月、二人の顔を見て、先(ま)ず、緒美から声を掛ける。

「来て呉れて、ありがとう。わたしが部長の鬼塚よ。で、こちらから顧問の立花先生、会計の森村。そちらが副部長の新島。あと、もう一人? Ruby の事は聞いてるかしら?」

 メンバー紹介に続いての唐突な質問だったが、それには樹里が答えた。

「はい。昨日、大まかな事情は瑠菜さんから。あ、情報処理科一年、城ノ内 樹里です。」

 樹里に次いで、維月も自己紹介する。

「同じく一年、井上 維月です。」

「あ、どうぞ、適当に座ってちょうだい。」

 緒美に促(うなが)され、樹里と維月は取り敢えず目の前の椅子、長机を挟んで緒美の正面になる席に座る。

「井上さん? 前に、どこかで会った事、有ったかしら…」

 急に、立花先生が妙な事を言い出すのだが、それに対して、維月は明朗に答える。

「いえ。寮で見掛けられたのではないですか?」

「う~ん、そう言うのじゃなくて…どこかで、あなたと会った事が有る様な気がするのよ。変ね…。」

 その時、Ruby の合成音声が室内に響いた。

「発言しても、よろしいでしょうか?」

 この日 Ruby は、樹里と維月の前では、発言を控えなくても良いと、緒美に予(あらかじ)め言われていたのだ。

「なぁに、Ruby。」

 緒美が Ruby に発言を促(うなが)す。

「智子の記憶回復に役立つといいのですが。維月の顔と声は、麻里と良く似ています。 顔認識でのマッチング・スコアは52ポイントで本人と認識する事は有り得ませんが、別人としては非常に高いスコアです。又、声紋のマッチング・スコアも同一人物判定は出来ませんが、類似した特徴が…。」

 Ruby が解説を続ける最中(さなか)、立花先生は声を上げる。

「ありがとう、もういいわ。今、思い出したから。」

「…ハイ、それはよかった。」

「話には聞いてましたけど。なかなか、楽しい AI ですね。」

 その様子を見ていた樹里は、そう言ってクスクスと笑う。その隣に座る維月は、何かに気が付いた様に視線を上に向けていた。

「井上さん、本社開発部の井上 麻里主任って、あなたのお姉さんでしょ。Ruby の件で、三度程お会いする機会が有ったから、それで、あなたに会った事が有る様な気がしたんだわ。」

 そこで話の流れを察した恵が、何か思案中の様な表情の維月を横目に、Ruby に話し掛ける。

Ruby の件でって事は、あなたの開発関係の方なの?Ruby。 その、井上主任。」

「ハイ。麻里は、わたしの開発チームのリーダーです。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第7話.12)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-12 ****


 瑠菜が正式に入部して数日。前期中間試験を目前に控えた、2071年5月30日土曜日。
 この頃、新入部員の二人は、副部長である直美の指導の下、CAD 操作の習得を始めていた。一年生の授業では、製図の概論が終わり、漸(ようや)くT定規と三角定規を使った手描きの製図実習が始まったばかりで、そんな基礎学習が夏休み明け頃迄(まで)は続く予定である。だから、一足飛びに CAD の習得を始められた佳奈は、念願が叶っただけに、熱心に部活に参加していた。瑠菜はと言うと、そんな佳奈に付き合っている体(てい)ではあったが、他の同級生や授業に先行して、技術を習得出来る事に就いては満更でもなかったのである。
 
 兵器開発部に設置された CAD の機材は、本社・設計部での機器更新に因って余剰となったと言う「建前(たてまえ)」で、中古の機器を本社から移設した物である。それは勿論、本社上層部の配慮が有ってなのだが、そんな訳(わけ)で CAD のシステムは、本社で使用されている物と同一の仕様なのだった。
 元元は、学校の製図室に設置されている CAD を使用していた緒美達だったのだが、学校の CAD は当然、授業での使用が優先され、放課後も補習や自習で使用する生徒も多い為、部活で頻繁に且つ長時間、優先的に使用する事は出来ないと言う事情が有ったのだ。
 そんな状況を見兼ねた立花先生が本社と掛け合って、三台の端末を含む CAD システム一式が兵器開発部の部室隣の空き部屋へと導入されたのが、前年の十月頃の事である。
 因みに、当時一年生だった緒美達が、授業に先駆けて CAD 製図を習得したのは、設計製図の担当講師である前園先生に指導を受けたからなのだが、その辺りの配慮に就いても本社幹部や学校理事長(天野重工会長)の意向が働いていたのは、言う迄(まで)もない。
 
 さて、お話を5月30日土曜日に戻そう。
 『普通課程』の生徒の場合、基本的に土曜日には授業が無い。しかし、専門教科も履修しなければならない『特別課程』の場合、土曜日も四時限分の授業が設定されている。平日も火曜日から木曜日の三日間は『普通課程』には無い七時限目が『特別課程』には存在し、一週間で合計すると『特別課程』は『普通課程』よりも、七時限分授業時間が多いのである。
 そんな土曜日の放課後、昼食を済ませてから、普段よりも少し遅れて瑠菜と佳奈の二人は部室へと到着した。瑠菜達が部室に入ると、三人の先輩と立花先生が既に来ていたのだが、何やら深刻な面持ちで話し合いをしている様子だった。

「何か有ったんですか?」

 瑠菜は誰とは無く、そう声を掛け、入り口に最も近い席に着いた。その右隣の席に、佳奈も座った。
 直美が腕組みをした儘(まま)、視線を瑠菜に送りつつ答える。

「あぁ、昨日、LMF が予定通り山梨の試作工場をロールアウトしたって、知らせが来ててね~。」

「予定通りなら、良かったじゃないですか。」

「うん。それ自体に問題は無いんだけど。いよいよ、実機がこっちに送られて来る事になって、こちら側の受け入れ体勢が、ねぇ。」

 今度は恵がそう言って、溜息を吐(つ)いた。続いて、緒美が発言する。

「先生、やっぱり誰か、常駐して貰わないと。うちの人員だけじゃ、どうにもなりませんよ?」

「そうよねぇ…そもそも、こっちでテストする事自体に無理が有るのかもね。やっぱり、ここから先は、本社サイドに渡すしか無いかしら。」

 緒美の問い掛けに、諦(あきら)めムードの漂う立花先生の答えだった。この辺りで、今、議題になっているの事柄に就いて、瑠菜には見当が付いたのだった。

「LMF の性能確認試験の事でしたら、部長が計画立ててたんじゃないんですか?」

 瑠菜の問い掛けに、溜息を一つ吐(つ)いてから、緒美は力(ちから)無く微笑んで言った。

「計画は立ててたんだけどね…ほら、うちの部って全員、機械工学科じゃない。 仕様設計の段階はそれで何とかなってたんだけど、実機を動作させてのテストとなると、ソフト屋さんも必要でしょう?」

「あぁ~そう言う問題ですか… 先輩方の知り合いに、適当な人は居ないんですか?」

 緒美に問い返す瑠菜に、笑って直美が答える。

「あはは、そんな人材が居たら、とっくに引っ張り込んでるわ。」

「寮で情報処理科の知り合いに探ってもらったけど、わたし達の学年で協力してくれそうな人は居なかったのよね。」

「本社から人を派遣して貰う方向で依頼は出してたんだけど、彼方(あちら)は彼方(あちら)で忙しい案件を抱えてるらしくて…ね。長くても、一ヶ月以上は人を出せないって。」

 直美と恵に次いで、立花先生が本社側の都合を、極簡単に説明した。

「LMF の試験だけじゃなくて、HDG 本体や拡張装備に就いてもソフト絡みの仕様は、これから詰めて行かなくちゃだし、やっぱり、その辺りに明るい人材が居ないと、先先(さきざき)、作業が滞りますよ、先生。」

 緒美がそう言って、身体を伸ばす様に背中を反らした時、突然、佳奈が声を上げた。

「ソフトって、コンピュータのプログラムとかの事ですよね?」

 佳奈の発した、極めて初歩的な質問に、一瞬、声を失う一同だった。

「あれ?わたし、何か変な事、言いました?」

「大丈夫。間違ってないわよ、古寺さん。」

 一拍置いて恵がフォローを入れる一方で、佳奈の隣で瑠菜は深い溜息を吐(つ)くのだった。

「何を言い出すのよ、佳奈さん。」

「ねぇねぇ、瑠菜さん。樹里リンにお願いしてみようよ。あと、維月さんにも。」

 その、佳奈の唐突な提案に、行動にこそ移さなかったものの、内心では膝を打つ心境の瑠菜だった。

「ジュリリン?」

 聞き慣れない、人名らしき言葉を恵が聞き返すと、それには瑠菜が答えるのだった。

「城ノ内 樹里さんって言って、佳奈さんと同じ中学の出身で、情報処理科の一年生です。維月さんって言うのは、寮で樹里さんと同室の、同じく情報処理科の一年生なんです。秘密保持諸諸(もろもろ)に就いても信用出来る人達だと思いますよ。」

 瑠菜の答えを聞いた恵は、その二人の人物に思い当たった様子だった。

「あぁ…寮であなた達と、良く一緒に居る、あの二人ね。 そう、あの二人、情報処理科だったんだ。」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.11)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-11 ****


 それから数分が経ち、皆が無言で、それぞれの作業に集中し始めた頃だった。恵が、唐突に緒美に話し掛ける。

「ねえ、部長。Ruby の事、忘れてない?」

 緒美はキーボードを打つ手を止めず、視線もタブレット端末から外さない儘(まま)、答えた。

「忘れてはないけど、タイミング的に…あぁ、そうね。 Ruby、もうおしゃべりしてもいいわよ。」

 すると、室内に女性の合成音が響く。

「ありがとう、恵。わたしも、忘れられているのかと心配していましたよ、緒美。」

「あら、ごめんなさい、Ruby。」

 Ruby のぼやきを聞いて、くすりと笑って緒美は謝るのだった。

「誰です?…今の声。」

 瑠菜は顔を上げ、誰に聞くでも無くそう言うと、直様(すぐさま)それに応えたのは Ruby だった。

「こんにちは、瑠菜。わたしは Ruby、天野重工で開発された AI ユニットです。」

「AI?…って、声がどこから…。」

 合成音の出所を探して、瑠菜は周囲を見回す。

「わたしは、緒美の後ろに在ります。」

「そう言う時は、後ろに居ます、って言うのよ、Ruby。」

 Ruby の言葉遣いに就いて、恵が優しく指摘するが、それには Ruby が反論する。

「わたしは人間ではなく機械ですので、この場合『居る』のでは無く『在る』が正しいと思います。」

「わたしたちは、擬似的な物だとしても、あなたの人格を認めているの。だから『在る』なんて言われたら、悲しくなるわ。」

「そうですか。緒美も悲しみを感じましたか?」

 恵の意見を聞いた Ruby は、緒美に所感を尋ねる。それに対して、今度は作業の手を止め、顔を上げて緒美は答えた。

「そうね…森村ちゃんみたいに悲しいって感覚では無いけど、違和感は有るわね。」

「大体、『在る』だけの様な物だったら、自分で考えて発言なんかしないでしょ。だから『わたしはここに在る』なんて言い回しは、有り得ないのよ、Ruby。」

 緒美の発言を受けて、直美はそう付け加え、笑った。
 そんな遣り取りを聞き乍(なが)ら、瑠菜は緒美の背後、部室の奥の壁際に、ドラム缶よりも一回り程小さい円筒型の装置らしき物が置かれているのに気が付いた。そして、ふと横を見ると、仕様書を読むのに集中していた佳奈も、顔を上げ、その装置の存在に気が付いていた様子だった。
 瑠菜は、正面に座っている、緒美に尋ねる。

「そこの、窓際のが Ruby なんですか?」

「本体はね。上の方、窓枠にカメラみたいのが有るでしょう? この室内は、そのイメージ・センサーで様子を、みんな見てるの。後、この格納庫の彼方此方(あちこち)にセンサーが設置されててね、この第三格納庫全体のセキュリティを担当してもらってるのよ、今の所。」

 緒美は瑠菜の問いに、淀(よど)み無く答える。

Ruby も、開発テーマの一部なんですか?部長。」

「そうでもあり、そうでもなし…まぁ、仕様書を読んで呉れたら、詳細に就いては追い追い分かると思うけど。そもそも、Ruby ほど高性能な物は要求してなかったんですけど。ねぇ、立花先生。」

Ruby は元元、本社で別件用に開発されていた試作機なんだけど、色々と大人の都合が有ってね、この部活で預かって、目下教育中って状況。わたしも、Ruby に就いては、詳しい事は知らないのよ。」

「教育、ですか。」

「あ、そんなに難しく考えなくても良いのよ。さっきみたいに、普通におしゃべりしてればいいって事だから。」

 立花先生はそう瑠菜に言うと、ニッコリと笑った。そして間を置かず、直美が補足する。

「そもそもは、LMF に簡易的な AI ユニットを搭載するのが部長のアイデアだったんだけどね、それに用にって本社が、たまたま開発中だった Ruby を持って来たのよ。性能的には要求に対して完全にオーバー・スペックなんだけど、まぁ、『大は小を兼ねる』って言う奴? それで、本社が AI ユニットを提供する交換条件で、Ruby のコミュニケーション能力を向上させるのに、わたし達が協力するって事になった~って言う感じの流れね。で、LMF が完成する迄(まで)の間、Ruby には暇潰し的に、ここのセキュリティ・システムをやって貰ってる訳(わけ)。」

「LMF って言うのは、何ですか?」

 Ruby が兵器開発部に提供されるのに至った大まかな流れを説明した直美だったが、瑠菜には直ぐに飲み込めない言葉が「LMF」だった。
 その瑠菜の問い掛けに、落ち着いて口調で緒美が答える。

「それに就いても、仕様書を読んで呉れたら解るわ。」

「はぁ、そうですか。 取り敢えず、これを読まない事には始まらない訳(わけ)ですね。」

 溜息混じりに瑠菜がそう言うと、直美が笑って、言った。

「あはは、そう言う事。まぁ、LMF に就いては、予定通りなら、あと二ヶ月程で実物が見られる筈(はず)だから、楽しみにしてて。」

「楽しみも何も、LMF が何かも、今の所、解ってませんけど。」

 そう答えて、瑠菜は再び、仕様書へと目を落とした。
 そして、ふと佳奈の様子が気になった瑠菜が隣へと目をやると、佳奈は集中して黙々と仕様書を読み進めていた。寮や教室で、度度(たびたび)見せる佳奈のその集中力を、瑠菜は「少し羨(うらや)ましいな」と思いつつ、視線を手元の仕様書へと戻すのだった。

 こんな顛末で、佳奈に巻き込まれる様にして、瑠菜は兵器開発部と関わる事になったのである。
 当初、入部には慎重な姿勢を取っていた瑠菜だったのだが、佳奈と一緒に「仕様書」を読み進めていく内、その内容を理解する程に、HDG の開発への興味が大きくなっていったのだった。
 斯(か)くして、五月の連休を挟んで三週間程の後、「仕様書」を読み終えた時点で、瑠菜は正式に兵器開発部に入部する事にしたのである。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.10)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-10 ****


「いいんじゃない?古寺さんは真面目そうだし。所謂(いわゆる)、兵器オタクな、趣味の怪しい人なんかより、よっぽど信用出来そうだわ。」

「方向性は、ちょっと違う様だけど、マイペースって言う意味では、森村も古寺さんと同類だしな~。」

 恵の発言を、そう言って直美が茶化すのだった。

「そうね、それに就いては否定はしません。 じゃ、古寺さんは入部って事で、いいかしら?」

 直美に言葉を返した後、佳奈の方へ向き直り、恵は佳奈に入部の意志を確認する。佳奈は深く頷いてから、言った。

「はい。よろしく、お願いします。」

「こちらこそ、歓迎するわ~。それで、ルーカスさんはどうするの?」

 突然、自分の方に話が回って来た瑠菜は、恵に不意を突かれた様子で、驚いたのだった。

「あ、え?」

 答えに迷っている内に、瑠菜の方に向けられている佳奈と視線がぶつかる。それで、瑠菜は余計に焦ってしまうのだった。

「…どう?と言われても…佳奈さんの様子を確認に来ただけ、ですから~…」

「そう?暫(しばら)く様子を見てて、わたしはあなたも有望だと思うのよね。友達思いの様子だし、頭の回転も良さそうだし。それに、古寺さんと同室なら、秘密保持の点でも有利だしね~ねぇ、部長。」

「勿論、無理強(むりじ)いはしないけど。設計とか開発とかの技術職を目指しているなら、ここでの活動はあなたの今後に取って、大いにプラスになると思うの。 どうかしら?」

 その時の、緒美の笑顔に、引き込まれてしまう様な感覚を覚えていた瑠菜だったが、雰囲気に流されるのは避けようと思い直した。

「テーマの深刻さと言うか、重大性から考えて、わたしなんかよりも、もっと優秀な人が他に居る様な気がしますけど。」

 瑠菜のその言葉に、コメントを返したのは、黙って様子を見ていた立花先生である。

「う~ん、こう言う開発チームの編成って、個々人の能力よりも、相性の方が重要だったりするのよね…恵ちゃんは、ルーカスさんが相性の面でも良いって思った訳(わけ)よね?」

「はい。」

 立花先生の問い掛けに即答すると、恵は佳奈の方へ向き直り、問い掛ける。

「古寺さんも、ルーカスさんが一緒だと心強いわよね?」

「はい、それは、もう。」

 恵の誘導に、簡単に乗せられる佳奈だった。
 佳奈の返事には苦笑いしつつ、瑠菜は提案する。

「取り敢えず、仮入部って事にしておいて頂けませんか? 秘密保持に就いては、誓約した通り、お約束しますから。」

 入部に就いては即断する訳(わけ)に行かないと思った瑠菜だったが、とは言え、ここに佳奈を残して今直ぐ立ち去る訳(わけ)にも行かない気がして、そんな提案をしてみたのだった。
 その提案に対して、一呼吸置いて答えたのは、緒美だった。

「まぁ、いいでしょう。古寺さんがここでどう言う事をやっているのか、有る程度正確に知っておかないと、ルーカスさんも安心出来ないでしょうし。」

 そう告げた緒美の表情から優し気(げ)な微笑みが消えなかった事に、瑠菜は胸を撫で下ろす心境だった。

「ありがとうございます。」

 瑠菜は座った儘(まま)、長机に額が着きそうになる程、深々と頭を下げる。

「いいのよ、気にしないで。さて、それじゃ、仕事に掛かって貰う前に、HDG の仕様位(ぐらい)は理解しておいて欲しいから。新島ちゃん、仕様書、古寺さん達に見せてあげて。」

「はいよ~。」

 直美は椅子に座った儘(まま)、身体を捻(ひね)り、反らし、背後のスチール書庫下段の引き戸を左手で開けると、その中から分厚いファイルを一冊取り出す。そして、取り出したファイルを右手に持ち替えると、先程開けたスチール書庫の引き戸を左手で閉め、向き直った。そして、そのファイルを机の上に乗せると瑠菜の方へと押し出し、言うのだった。

「先ずは、コレ、一通り目を通してね。あ、一応、この中身は全部、秘密事項だから、ヨロシク。」

 そして、直美はニヤリと笑うのだった。
 瑠菜はそのファイルを黙って受け取り、暫(しば)し、ファイルを開(ひら)かずに見詰めていた。すると、佳奈に、立花先生が声を掛ける。

「古寺さんには、わたしが持ってるのを貸してあげる。色々書き込んで有るけど、気にしないでね。」

 そう言って、立花先生は正面のモバイル PC の脇に置いてあった、同じタイプのファイルを佳奈の方へと押し出した。そのファイルの中に綴じられた書類には、幾つもの付箋が貼り付けて有るのが、ファイルを開かなくても見て取れた。

「あ、先生。ありがとうございます。」

 一礼してそのファイルを受け取った佳奈は、躊躇(ちゅうちょ)する事無くファイルを開くのだった。その様子を見ていた瑠菜は、緒美も同じファイルを持っているのに気が付いた。
 瑠菜の視線の動きを読み取った緒美が、補足説明を加える。

「このファイルの仕様書はね、特殊な紙に印刷してあるから、予備を含めて三冊しか無いのよ。持ち出し厳禁だから、部室(ここ)で読んでね。」

 既に、仕様書を読む事に集中している佳奈を横目に、瑠菜は立花先生に聞いてみる。

「先生は、佳奈さんにファイルを貸しても大丈夫なんですか?」

「あぁ、わたしと部長はそれぞれ、仕様書はデータでも持ってるから。心配しないで。」

「そうですか。」

 そう、短く答えると、瑠菜は観念した様に一つ息を吐(つ)いて、それからファイルを開いた。そして最初に注目したのは、書かれている内容よりも、それが印刷されている用紙の質に就いてだった。
 先刻、緒美が言った通りの「特殊な紙」なのだが、それは印刷面が何か光沢の有る、樹脂状の物質でコーティングされている様で、頁を捲(めく)る時、光の具合で表面が薄(うっす)らと虹色に光って見えるのだった。瑠菜が紙質を確かめている様子に気付いた立花先生が、その事に就いて解説をしてくれた。

「その用紙はコピー防止のコーティングがしてあってね、コピー機やスキャナーで読み込むと真っ白になるの。あと、カメラで撮影した場合は、表面が虹色に写るのよ。フラッシュを使ったら、コピー機で読み込んだ時と同じで、真っ白になるけど。」

「そんな訳(わけ)だから、コピーして、寮に持ち帰って読もうなんて、考えないでね。コピーするだけ無駄だから。」

 立花先生の解説に続いて、緒美にそう釘を刺された瑠菜だった。

「やだなぁ。考えてませんよ、そんな事。」

 緒美の忠言(ちゅうげん)は正に図星だったのだが、瑠菜は苦笑いしつつ、そう答えてから、仕様書を読み始めたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.09)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-09 ****


「真面目にやる気の有る人で、秘密保持の意味が分かる人、って言うのがウチとして希望する人材なの。誰でも良いって訳(わけ)にはいかないのよね。だから、ああいう場で人を募(つの)るのは、控えた方が良いかなって思ったのよ。」

「とは言え、人手も必要なのよね、実際。」

 緒美に続き、直美が苦笑いしつつ、言った。

「分かりました。取り敢えず、秘密保持に就いては誓約の通り、約束します。」

 瑠菜がきっぱりと、そう言うと、緒美は柔らかな笑顔を見せ、話し始める。

「そう。 じゃ、先(ま)ず、現在の活動のテーマから。これは一応、秘密ではないんだけど、余り他人(ひと)には言わない方が良いと思うのよね。言っても、笑われるのが落ちだから。 で、そのテーマと言うのが、対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツの開発、なの。」

 その緒美の発言に一呼吸置いて、相変わらず、ぼんやりとしている風(ふう)の佳奈を横目に、瑠菜が質問する。

「それは確かに、耳を疑うテーマですけど…どうして、そんな兵器なんかを?」

「どうして、って。ここは『兵器開発部』だから。」

「すみません、聞き方が不味(まず)かったです。何故、テーマがパワード・スーツで、しかも、それが対エイリアン・ドローン用なのか?です。」

 その問いに答えたのは、黙って成り行きを眺めていた立花先生である。

「それに答えようとすると、話が長くなるんだけど。誤解を恐れず、簡潔に言えば『巡り合わせ』、なのよね。鬼塚さんが個人的に対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツに就いて研究してて、偶然、天野重工本社でも同じテーマの検討をしていた、と言う『巡り合わせ』。」

「そして、その本社での検討チームの一員だった立花先生が、この学校に講師として赴任して来て、この部活の顧問になった、と言う『巡り合わせ』も、ですね。」

 立花先生の言葉を受け、緒美は、そう付け加えて微笑むのだった。そして、瑠菜と佳奈に対して、緒美は説明を続ける。

「そんな訳(わけ)で、この部活では本社からの外部委託と言う形で、HDG…あ、開発中のパワード・スーツの事ね、その開発作業を進めている訳(わけ)。」

 そこまで緒美が話した時、ぼんやりとした表情の儘(まま)、佳奈が左手を肩の高さ程に挙げて緒美に尋(たず)ねた。

「あの、パワード・スーツって何ですか?」

 一瞬、時間が止まったかの様に、室内が静まり返る。流石にその雰囲気には違和感を覚えたのか、佳奈が言葉を続けた。

「あれ? わたし、何か変な事言いました?すみません。」

「いいのよ。そうね、そこから説明が必要だったかもね。ルーカスさんは、パワード・スーツって、分かる?」

 笑顔の儘(まま)で緒美は、佳奈の隣で苦笑いをしている瑠菜に問い掛けた。

「あ、はい。まぁ、何と無く…SF の映画何(なん)かに出て来る、人間が着るロボットみたいなの、ですよね?」

「まぁ、そんな認識で良いと思うわ。」

「ふぅん…良く解らないですけど、分かりました。パワード・スーツに就いては、後で勉強しておきます。続けてください。」

 佳奈は、そう言って、ペコリと頭を下げたのだった。

「開発テーマが、どうしてパワード・スーツなのか、とか、どんなパワード・スーツなのか、とかは、説明を始めると長くなるから取り敢えず省略しましょう。ここで押さえておいて欲しい所は、この開発テーマに就いては学校や本社の方(ほう)にも了承されている、と言う事。それから、本社には技術的な部分をサポートして貰っている、って言う事。 複雑な機械になるから、当然、わたし達だけで設計するなんて無理。だから、わたし達はアイデアを出して、具体的な細かい設計や試作は、本社にお願いする形になっているんだけれど、アイデアを本社の開発や設計に伝えるのに、相応の図面を、それも相当数、描かなくちゃいけないのよね。それで、その辺りの作業を担当してくれる人を募集している訳(わけ)。ここ迄(まで)は、いいかしら?」

「まぁ、秘密保持の絡みも有って、結果的に、こそこそ活動してる様に見えるから、ウチの活動って学校内では他の生徒達に、ほぼ認知されて無いし。胡散臭(うさんくさ)い話に聞こえるだろうけど、別に悪い事をやってる訳(わけ)じゃないから、そんなに警戒しなくてもいいわ。いや、寧(むし)ろ胡散臭(うさんくさ)い話に警戒心を持つ位(くらい)慎重な人の方が、秘密保持の方面では信用が出来て、ちょうどいい位(くらい)だけど。」

 緒美が一気に説明したのを受けて、直美が極めて明るいトーンで言い、付け加えた。すると、再び佳奈が左手を挙げて発言の機会を求める。

「何かしら?古寺さん。」

 緒美は微笑んで、佳奈に発言を促(うなが)す。

「あの、わたしは他の人達とはちょっと、色んな事のペースが違うので、余り…特定の人としか、おしゃべりは出来ないので…秘密の事とか、大丈夫だと思うんです。わたしの事、信用して貰えますか?」

「逆に、会って間も無いわたし達を、あなたは信用出来る?」

 佳奈の質問に、緒美は質問で返すのだった。それに対して、佳奈の横で様子を窺(うかが)っていた瑠菜も驚く程の反応で、佳奈は答えを返したのだった。

「はい! 何をやっているのかは、正直、良く解りませんけど、少なくとも、先輩達が巫山戯(ふざけ)ている様には見えませんから。」

 佳奈の返事を聞いた緒美は、顔を恵の方へ向け、問い掛ける。

「だって。どうかな?森村ちゃん。」

 恵は椅子の背凭(せもた)れに少し体重を掛ける様に身体を反らし、一呼吸置いて笑顔で緒美に答えた。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第7話.08)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-08 ****


 目の前の長机の上には、幾つものファイルや図面の束が置かれており、正面の髪の長い女子生徒の前にはタブレット端末とキーボードが置かれていた。向かって左手側の席に着いている女性教師はモバイル PC で何か作業中の様子だったし、向かって右側のショート・カットの女子生徒は図面のチェックをしている様に見受けられた。ドアを開けてくれた眼鏡の女子生徒は部屋の奥へと移動し、お茶の用意をしている様子だった。

「ええっと、二人共、入部希望、と言う事でいいのかしら? あ、わたしは部長の鬼塚、機械工学科の二年ね。こちらが顧問の立花先生、で、こっちが副部長の新島。あっちが会計の森村、二人ともわたしと同じで機械工学科の二年よ。」

 佳奈と瑠菜の正面の席の、髪の長い女子生徒、つまり、緒美が先(ま)ず二人に話し掛けた。そして、それに答えたのは、瑠菜である。

「入部希望って言うよりも、先(ま)ずはこの部活に就いて伺(うかが)いたいんです。掲示板の張り紙では、詳細が分からなかったので。因みに、こちらに興味が有るのは隣の彼女で、わたしは…まぁ、付き添い、みたいなものです。」

「あなた達は、以前からのお友達?」

 そう問われて、瑠菜と佳奈は顔を見合わせた。そう言えば、そんな風にお互いの関係を考えた事が無いのを、緒美に問い掛けられて、改めて気付いた二人だった。そして瑠菜が、答える。

「いえ、以前から、と言う訳(わけ)ではないです。取り敢えず、今は寮で同室、と言う事ですが。」

「あぁ、そう言う事か。あなたが付いて来た気持ち、何となく分かるわ、うん。」

 瑠菜の答えを聞いた直美が、そう言って「あはは」と笑うと、お茶の入ったカップを運んで来た恵も、釣られる様に、くすりと笑うのだった。そして、緒美も頬を緩めて、向かい合う二人に問い掛ける。

「そう。 取り敢えず、お名前、教えて貰えるかな?」

「あ、すみません。機械工学科一年、ルーカス 瑠菜、です。」

 慌てて、瑠菜が答えた。しかし、瑠菜と緒美の遣り取りを眺(なが)めている風(ふう)の佳奈は黙った儘(まま)だったので、長机の下で左隣に座っている佳奈の脚に、瑠菜は左手の甲で軽く触れて、返事を促(うなが)した。

「え?あ、はい。同じく、機械工学科一年の古寺 佳奈です。」

「コデラ?…どう書くのかしら。」

 瑠菜と佳奈の前にお茶のカップを置いた後、立花先生の隣、瑠菜達から見て手前側の席に座り乍(なが)ら、恵が尋(たず)ねる。

「えっと、古いお寺、と書いて古寺です。」

「あ、小さい寺じゃないんだ。成る程。 じゃ、部長、進めてください。」

 恵に進行を託された緒美は、佳奈に問い掛ける。

「古寺さんは、あの掲示の内容で、どうしてここに来ようと思ったのかしら? 確かに、詳しい事は何も書かなかったし。」

「はい。CAD 製図の事が書かれていたので。わたしは設計とか製図の勉強がしたくて、この学校を選んだので。出来るだけ沢山、そう言う経験をしたいんです。」

「おぉ、そう言う、やる気のある子は大歓迎だわ~。」

 佳奈の返事に、現在進行形で図面作業をしている直美は歓喜のコメントである。

「当面の活動内容は、古寺さんの希望に添う物になりそうだけど。徒(ただ)、この部活の、今の活動テーマは可成り特殊だし、本社の方で秘密指定されている事柄も扱う事になるから、その辺りの事を、予め確認しておきたいの。」

「秘密?ですか…。」

 相変わらず、佳奈の反応は「ぼんやり」としていた。フォローするべきか、とも瑠菜は思ったのだが、もう暫(しばら)く様子を見る事にして、敢えて黙っていた。

「そう。入学する時に、秘密保持に関係した誓約書にサインしたと思うけど、内容は覚えてる?」

「え~と…はい。要するに秘密指定された情報は、他の人に話しちゃダメ、ってアレですよね。」

「話す以外にも、図面や資料やデータを見せたり、渡したりしてもダメって事なんだけど。もしも、誓約に違反すると学校を退学させられたり、損害の賠償を請求されたりする事になるの。だから、秘密である情報を他の生徒に漏らすと、それを知った人も秘密を守ると言う負担を負わせてしまうし、場合に依ってはその人も退学や賠償のリスクを負う事になるから、この部活での活動に就いて他人(ひと)に話す事には注意が必要になるわ。そう言う覚悟は出来る?古寺さん。それから、ルーカスさんも。この先の話を聞くと、入部する、しないに関わらず、秘密保持の責任は負って貰う事になるけど。」

「はい、大丈夫です。内容に依って秘密なのかどうか、個別の判断は難しそうだから、ここでの事はしゃべらなければいいんですよね。」

 緒美の、半分、脅し文句の様な説明に、表情も変えずに佳奈は即答したのだった。その答えを聞いて緒美が微笑んだのを見て、佳奈の回答が気に入ったのだろうなと、瑠菜は思った。

「ルーカスさんは、どうかしら?」

 微笑んだ表情の儘(まま)、緒美は瑠菜に回答を求めた。

「あ、それで、この間の部活説明会に、この部活は出てなかったんですか。」

 緒美の問い掛けには直ぐに答えなかった瑠菜だったが、その代わりに、頭の中で唐突に浮かんだ考えを、その儘(まま)口にしていた。それを聞いた目の前の先輩達と先生が、くすりと笑うのを見て、瑠菜は自分の考えが間違いでなかったと、確信に近い感覚を得ていた。

「まぁ、大体そう言う事よね~。ね、部長。」

 恵が、そう答えると、緒美がそれに続く。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.07)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-07 ****


 そして、入学式が終わって凡(およ)そ三週間が過ぎた、2071年4月21日火曜日の事である。
 放課後になり、瑠菜と佳奈は女子寮へと帰って来た。前の週の木曜日に、恒例である新入生に対する部活説明会が行われていたのだが、運動部にも文化部にも、何方(どちら)にも興味を持てなかった二人は、未(いま)だ、何(ど)の部活にも所属しては居なかった。
 では、放課後は暇を持て余していたのかと言うと、それはそうでもない。宿題を片付けた上で、授業の予習、復習を、二人共が欠かさなかったし、読書は瑠菜と佳奈の二人に共通した趣味だったので、退屈等(など)する暇は無かったのである。勿論、話題が有れば「おしゃべり」は普通にしていたし、樹里や維月がやって来たり、逆に、二人が樹里と維月の部屋を訪問する事も有った。
 その日は、部屋に戻ったら読み掛けの小説の続きを読もうと瑠菜は思っていたのだが、女子寮のエントランスに入ってシューズボックスのコーナーを抜けると、そこに有る掲示板の前で佳奈が立ち止まった。佳奈は、何だか味気無い、一枚の張り紙を、じっと見詰めている。

「どうしたの?佳奈さん。」

「兵器開発部の部員募集だって。」

 瑠菜は佳奈が言った言葉の意味が、咄嗟(とっさ)に理解出来なかった。掲示板の前まで戻り、佳奈が眺めている張り紙の内容を読んでみる。
 その張り紙には、「特別課程の一年生を若干名募集」、「CAD 製図の作業に興味のある人」、「CAD 製図については指導する」等(など)の旨が書かれており、部活の部員募集と言うよりは、アルバイトの募集広告の様だった。そもそも「兵器開発部」と言う、ある意味、物騒な名称の部活は聞いた事が無かったし、それ故に何(ど)の様な活動内容の部活なのかが全く分からないのだが、それに就いては一切明記されていないのが、瑠菜には極めて不審だったのだ。

「何だか、胡散臭(うさんくさ)いわね。」

 鼻で笑う様に、瑠菜は言った。しかし、佳奈は瑠菜とは違う所感を持った様子だった。

「瑠菜さん、第三格納庫って、場所、知ってる?」

「ちょっと、何考えてるの?」

「だって、CAD やらせてくれるって。」

「そんなの、何(いず)れ授業でやる事になるでしょ?」

「経験は、いっぱいした方がいいと思うの。」

「それにしたって、どう言う部活なのか、内容が何も書いて無いじゃない。」

「詳細は、第三格納庫、東側二階の部室迄(まで)、だって。 取り敢えず、どんな部活なのか、聞いて来る。」

 佳奈はクルリと向きを変えると、シューズボックスのコーナーへと戻って行く。

「ちょっと、場所は分かってるの?」

「取り敢えず、南の、滑走路の方へ行ってみる~。」

 そう言い乍(なが)ら、佳奈はスリッパを、靴へと履き替えていた。

「あ~もう、わたしも一緒に行く。心配だから。」

 慌てて靴に履き替えた瑠菜は、女子寮のエントランスから出て行く佳奈を追ったのだった。

 暫(しばら)くして、瑠菜と佳奈の二人は、第三格納庫東側外階段の下へと辿り着いていた。実は、ここに向かう途中、偶然出会った、恐らく飛行機部所属であろう二年生の男子に、第三格納庫の所在を教えて貰っていた。「そんな所に何の用が有るんだろう?」と訝(いぶか)し気(げ)に彼は二人を見送っていたのだが、当の二人はそんな事には構わず、一礼すると一目散に、ここへと向かって来たのだった。
 外階段を佳奈が先頭になって登って行くと、やがて部室の入り口へと到達する。ドアの横には『兵器開発部』と書かれた看板が掛かっており、それは目指して来た場所に間違いがなかった事を証明していた。
 佳奈がドア・ノブに手を掛け、ドアを開けようと試みる。

「あれ?開かない。留守なのかな?」

 鍵が掛かっているのか、ドア・ノブを回す事が出来ない。

「室内(なか)、灯りは点いている様だから、誰か居るんじゃない?」

 瑠菜が立っている踊り場の前には、明かり取りか換気用の窓が有り、その模様硝子越しに、室内には電灯が点けられているのが見受けられた。
 佳奈は瑠菜の言葉を受け、ドアをノックしてみる。

「すみませ~ん。どなたか、いらっしゃいますか~。」

 少し大きな声を上げつつ、佳奈はドアを四度叩いた。普段の行動はのんびりとしているのに、自分の興味の有る事に対しては物怖(ものお)じしないのだな、と、瑠菜は妙に感心して、その行動を見ていたのだった。
 そして間も無く、ドアが内側から解錠される音がすると、眼鏡を掛けた、クロス・タイの色から察して二年生らしき女子生徒がドアを開け佳奈と瑠菜に声を掛けた。

「何か、ご用かしら? あなた達は、一年生?」

「はい。あの、女子寮の掲示板、張り紙を見て来たんですけど。」

「あぁ~はいはい。取り敢えず、入って。」

 眼鏡の女子生徒はドアを更に大きく開け、佳奈と瑠菜の二人を室内へ入るようにと、手招きをする。二人は軽く会釈すると、促(うなが)される儘(まま)、部室の中へと入って行った。
 室内には、更に二人の上級生らしき女子生徒と、教師らしい女性が一人、中央の長机の席に着いていた。

「ごめんね~。普段、オートロックだから。うっかり、解除しておくのを忘れてたわ~。」

 眼鏡の女子生徒は、そう言い乍(なが)ら佳奈と瑠菜の脇を擦り抜けると、椅子を二つ引いて、二人に、そこへ座るようにと掌(てのひら)で指し示した。二人はもう一度会釈してから、椅子へと向かった。

「ありがとうございます。」

 瑠菜はお礼を言うと、指定された椅子に座る。続いて、佳奈もその隣の椅子に座った。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.06)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-06 ****


「その話なら、大体同じでいいと思う。」

「そう?なら、良かった。」

 瑠菜の返事を聞いて、維月は胸を撫で下ろす心境で微笑むのだった。それに対し、瑠菜が語り出す。

「大体、わたしって中途半端なのよね。お母さんに似て、背は低いし、顔も何方(どちら)かと言うと日本人に近いでしょ。髪の毛と瞳と、肌の色だけ、お父さんに似ちゃったのよね。」

 今度は樹里が、真面目な口調で言葉を返す。

「あら、色白なのは羨(うらや)ましいじゃない?髪の色だって、黒髪は重い感じがするから、明るい色に染めたい人は多いだろうし。まぁ、学生の内は校則で禁止されてるから、みんな出来ないけど。」

 すると、維月がそれに続く。

「瞳の色も、コンタクトで変えたりする人も居るものね。そう言う人達からすれば、瑠菜さんは中途半端って言うより、寧(むし)ろ、理想的なんじゃない?」

「残念乍(なが)ら、そう言う人達とは趣味が合いそうもないなぁ。わたしからすれば、みんなみたいな黒髪や黒い瞳が羨(うらや)ましいもの。」

 瑠菜が返した、その言葉を聞いて、佳奈がポツリと言った。

「結局、無物強請(ないものねだり)なのよね~。」

 くすりと樹里が笑うと、瑠菜と維月は互いの顔を見合わせ、次いで、それぞれが佳奈の方へと顔を向けた。
 その反応には、佳奈の方が驚いたのだった。

「何?わたし、何か変な事、言った?」

「あ、いえ。寧(むし)ろ、物凄く的確。」

 驚いて目を丸くしている佳奈に、そう維月が答えると、瑠菜が続いた。

「佳奈さんにしては、突っ込みが的確過ぎて、ちょっと驚いた。」

「あぁ~何よ~ひどいなぁ。」

「だから、佳奈ちゃんは頭が悪い訳(わけ)じゃないって言ったでしょ?」

 相変わらずのニコニコ顔で、樹里は瑠菜にそう言って、又、微笑むのだった。

「そうね、今、実感した。早い内に認識を改める事が出来て良かった。」

「わたしは、佳奈ちゃんの同室の人が、話の通じない人だったらどうしようって心配だったんだけど。瑠菜さんで良かった、安心した。」

「うふふ、そうだね~樹里リン。」

 そう言って、樹里と佳奈の二人はクスクスと笑うのだった。そこで、維月も安心した様に言う。

「取り敢えず、わたしも、早々に上手くやって行けそうな人達と出会えて、良かった。」

「それは、わたしも同感。学科は違うけど、よろしくね、井上さん。城ノ内さんも。」

 瑠菜が微笑んでそう言うと、透(す)かさず、維月が言葉を返す。

「あ、どうせだったら、名前の方で呼んで貰えると嬉しいな。特に、瑠菜さんとは、同じ、月関係の名前だから。」

「月関係?」

 不可解な維月の言動に、瑠菜は直様(すぐさま)問い返した。

「瑠菜さんのお父さんは英語圏の人だから、『Luna』は月の女神の事でしょう?ローマ神話だっけ。」

「あぁ、わたしが生まれたのが、満月の夜だったらしいの。その夜の月が綺麗だったから、それにちなんで『ルナ』にしたんだって。漢字では『瑠璃色』の『瑠』に『菜の花』の『菜』なんだけど、この字を当てたのはお母さん。」

「じゃ、瑠菜さんの名前、アルファベットで書く場合は『R』じゃなくて『L』なのね?」

 話の成り行きを聞いていた、樹里が口を挟む。

「うん、そうそう。言われてみれば、確かに、わたしの名前は月関係だけど、井上さんは?」

「わたしの『イツキ』って、『維新』の『維』に、『三日月』の『月』って書くのよ。ね、月関係でしょ。」

 その回答に、先に反応したのは樹里である。

「あぁ、『イツキ』って、そう書くのね。わたしはてっきり、わたしの『樹里』の『樹(じゅ)』一文字で『イツキ』だと思ってた。」

「あぁ~実は、わたしが男だったら、そうなってたらしいのよね。うちは五人姉妹で、わたしが一番下なんだけど。両親は流石に五人目は男の子だと思って、男子の名前しか考えてなかったらしいのよね。残念乍(なが)ら結局、五人目も女子だった訳(わけ)だけど、幸い『イツキ』は男女どっちでも行ける名前だからって、その儘(まま)わたしの名前になったの。徒(ただ)、『樹木(じゅもく)』の『樹(じゅ)』一文字の『イツキ』だと、流石に男っぽいから、『維』と『月』を当てた方に変えたんだって。あと、うちの姉妹には、名前が尻取りになるって、謎ルールが有ってね…。」

「尻取り?」

 樹里が、不審気(げ)に聞き返した。

「長女は、両親の名前から一文字ずつ取って『麻里』なんだけど、その下が『里奈』『奈未』『未維』と続いて、わたしが『維月』になる訳(わけ)。」

 そこで瑠菜が机の引き出しを開け、メモ紙とペンを取り出すと、維月に渡して言うのだった。

「ごめん、ちょっと書いてみて貰える?」

「あぁ、いいよ。」

 紙とペンを受け取った維月は、両親の名前『麻敏』と『里子』を並べて書き、以降に姉妹の名前を列挙する。そして、その紙を瑠菜へと、差し出した。

「書くと、こんな感じ。」

 受け取った紙片を、佳奈と樹里も立ち上がって、瑠菜の横から覗(のぞ)き込むのだった。そして、瑠菜が先(ま)ず、声を上げる。

「あぁ、凄い。漢字でも尻取りになってるんだ。」

「ホントだ~。」

 無邪気に感嘆の声を上げる佳奈の隣で、樹里は維月に問い掛けるのだった。

「『イツキ』ってフラットな発音だと思ってたけど、この字だと、『イ』にアクセント?が来るのかしら。」

「あぁ、家族からは、『イ』が強いイントネーションで呼ばれるよね。え~と、動物の『狸(タヌキ)』と、同じイントネーション。」

「タ(・)ヌキ…イ(・)ツキ…ふぅん、次から気を付けるね。」

「いいよ、そこまで気を遣わなくても。呼びやすい様に、呼んでくれたら。」

 そんな、樹里と維月の遣り取りを横目で見つつ、瑠菜が声を上げる。

「取り敢えず分かった、維月さんに、それから、樹里さん、ね。」

「さん、何て付けなくてもいいよ、わたしは。」

 と、維月は瑠菜に提案するのだが、それには瑠菜が遠慮を示すのだった。

「そう言われても。…まぁ、慣れたら考える。」


 こうして、瑠菜は佳奈と樹里、そして維月と出会ったのだった。
 この後、四人は夕食の時間迄(まで)「おしゃべり」を続け、その儘(まま)夕食も共にしたのである。入学式は明後日の予定で、翌日は休日扱いだった事もあり、四人は街へと不足分の日用品を買い足しに出掛けたりもした。
 四人の天神ヶ崎高校での寮生活は、こんな具合に大きなトラブルも無く、スタートしたのである。

 

- to be continued …-

 

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