WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

2018年の一枚目 2018.01.03

今年も描き初め的な作品が出来たので掲載。

【オリジナル】「Front End (Toon)」イラスト/motokami_C [pixiv]
 レンダリングが終わらなかったので、二日の完成となりました。
 インナー・スーツ着用の茜さんのフィギュアは、頭部のデータを Ver.3 の物にすげ替えたバージョンを昨年末も押し迫って作業完了。昨年最後の作業でした。
 今年も引き続き、「STORY of HDG」の記述と関連オブジェクトやフィギュアのモデリング、あとは「基上屋」の旧製品を現行仕様への転換作業などを進めたい所存。
 特に、今年はブリジット用の「HDG-B01」を、そろそろデザインを最終決定してモデル化までしたいかな、と。
 まぁ、ぼちぼちと進めましょう~と、言う事で。

STORY of HDG(第8話.09)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-09 ****


「じゃぁ、次はボードレールさん、LMF の移動標的射撃試験、始めるわよ。準備はいい?」

「は~い、待機してますよ。」

 緒美の呼び掛けに、透(す)かさず返事をするブリジットである。安藤も、慌てて投射機のコントロール担当スタッフへと、ヘッド・セットを通じて声を掛ける。

「次、LMF 用の投射機、準備良いですか?…はい、指示しますので、お願いします。 こっちは準備は良いわ、緒美ちゃん。」

Ruby もいいわね?」

 緒美は、敢えて Ruby にも声を掛けてみる。すると、何時(いつ)も通りに Ruby の合成音声が、天幕下のモニター・スピーカーから聞こえて来た。

「ハイ。何時(いつ)でもどうぞ、緒美。」

「では、スタート。」

 緒美の指示から三秒程して、一枚目のターゲット板が宙に舞う。HDG の時と同じ様に、射撃位置から125メートルの距離にターゲット板が縦に回転し乍(なが)ら放物線を描くのだが、放物線の軌跡が右から左へ向かっている事だけが違っていた。勿論、ブリジットや Ruby に取ってはターゲット板の投射方向が何方(どちら)向きであろうと関係は無く、Ruby はブリジットが指示した目標を正確に補足し、撃ち抜いた。
 二枚、三枚とターゲット板が宙を舞う度に、短い雷鳴の様な破裂音が響き、ターゲット板が放物線軌道から弾き飛ばされる、そんな光景が繰り返されるのだった。
 一分程で、用意されていた三十枚のターゲットは全て撃ち落とされ、周囲には再び微かなオゾン臭が残った。

「はい、LMF の移動標的射撃試験、終了。ボードレールさん、待機しててね。」

「は~い。」

 ブリジットの返事が、モニター・スピーカーから聞こえた。

「流石に LMF の方は、あの位(くらい)じゃ冷却不足の心配は無いわね。」

「プラズマ砲、超伝導コイルの温度、モニター値は許容範囲ですよ。」

 樹里がコンソールのモニターを指差すと、安藤がそれを覗(のぞ)き込むのだった。

「安藤さん、次は標的選択射撃の試験に行きますけど。」

「あぁ、ちょっと待っててね。 次、標的選択射撃の準備お願いします。」

 安藤は緒美に促(うなが)され、次の試験で使用する標的の準備を、コントロールの担当スタッフに伝える。

「…あ、はい。 緒美ちゃん、準備、良いそうよ。」

「はい、ありがとうございます。 天野さん、エリアの中央へ。標的選択射撃の試験を始めるわ。」

 安藤の返事を聞いて、緒美は茜に対して指示を送った。
 その指示に対して、茜の返事がモニター・スピーカーから聞こえる。

「あ、はい。部長、ビーム・ランチャーの冷却がまだ終わってないので、LMF の予備を使用しますけど。」

「そうね。 ボードレールさん、予備のランチャー、出してあげて。」

「は~い。予備のビーム・ランチャーを出します。」

 ブリジットの返事がモニター・スピーカーから聞こえた後、LMF の機体上面のシャッターが開くと、内部から HDG 用の荷電粒子ビーム・ランチャーを保持したアームが起き上がり、武装供給アームの回転は、天頂を指す位置で停止する。
 LMF の機体には HDG の携行武装が故障や破損した時に備えて、荷電粒子ビーム・ランチャーとビーム・エッジ・ソードのそれぞれ二組を保管する為のウェポン・ベイが用意されており、必要に応じて HDG へ供給が可能となっている。
 茜は地面を蹴って LMF の方へ向かってジャンプすると、ホバー状態で高度を維持した儘(まま)、LMF に接近する。LMF のプラズマ砲よりも上方へと、グリップの側を上向きに掲げられた予備の荷電粒子ビーム・ランチャー底部のグリップ・ガードを左のマニピュレータで掴(つか)むと、LMF 側は武装供給アームの保持を解除する。

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 茜は受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーを右のマニピュレータに持ち替え、LMF の上空を離れて試験フィールドの中央付近に降り立つ。
 HDG の右腰のスリング・ジョイントには、冷却中の荷電粒子ビーム・ランチャーが固定された儘(まま)である。
 茜は先程受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーのフォア・グリップを、左マニピュレータで引き起こし、握った。

「天野さん。あなたの正面、南側の他に、左右、東側と西側に起立式の標的が設置されているから、起き上がった標的を射撃してね。但し、標的には赤と青の二種類が有るけど、撃って良いのは赤い標的だけ。フィールドの中心からだと、標的までの距離はおよそ300メートルだけど、前後左右、自由に動き回って良いわ。時間は三分間、なるべく多く、赤い標的だけを射撃してね。」

「はい、頑張ります。」

「では、開始。」

 緒美の開始指示を聞いて、安藤は標的の制御スタッフへスタートの合図を送った。
 間もなく、茜の正面の赤いターゲット板が起き上がる。ターゲット板は幅が3メートル、高さが2メートルで、これはエイリアン・ドローンの大きさを想定しての設定なのだが、300メートルも離れていると、見かけ上の大きさは腕を伸ばした先の6ミリ程にしか見えない。
 茜はスラスターを噴かして、ターゲットへ向かって加速する。地面の畝(うね)を左右に回避しつつ、ターゲットの前、100メートル程まで迫り、一撃を加えた。ビームが命中したターゲットは、パタリと後ろへと倒れる。
 荷電粒子ビーム・ランチャーの銃口を前に向けた儘(まま)、茜は後方へ傾く様な姿勢で行き足を止めると、その儘(まま)後退してターゲットと距離を取りつつ、首を左右に振って他のターゲットの様子を窺(うかが)う。直ぐに、先程射撃したターゲットの左右に設置されたターゲット板が同時に起き上がる。因みに、ターゲット板の左右設置間隔は、それぞれ50メートルとなっていた。
 起き上がったターゲット板は右側が赤で、左側が青である。茜は右側のターゲット板の方へと進路を変え、接近して一撃を加えると、再び後退しつつ身体を緩(ゆる)くスピンさせて周囲のターゲットの動向を窺(うかが)うのだった。
 こうして、北側の他にも東側、西側のターゲットにも接近や離脱を繰り返し乍(なが)ら、赤いターゲット板だけを選択して射撃を繰り返し、最終的に三分間で二十四枚のターゲットを射撃して、ミス・ショットはゼロという結果だった。勿論、東西で向かい合ったターゲットが同時に起き上がると、背後のターゲットに迄(まで)同時に対処は出来ないので、取りこぼしたターゲットの数が八つ、有ったのだが。

「はい、三分経過。お疲れ様、天野さん。一度、待機位置に戻ってちょうだい。」

 緒美は、ヘッド・セットを通じて、この試験項目の終了を通知した。茜は機動を止め、指示に従って元の待機位置へ向かう。

「あれだけ動き回ってて、良く、全部当てられた物ねぇ。」

 安藤が独り言の様にそう言うと、樹里が答えるのだった。

「それを確認する試験項目ですよね?」

「あはは、まぁ、その通りなんだけど。」

 そんな樹里と安藤のやりとりを横目に、茜が待機位置に戻ったのを確認して、緒美は次の指示を出す。

ボードレールさん、コックピット・ブロックを切り離して。それが済んだら、Ruby は HDG とのドッキング・シーケンスを実行してちょうだい。」

「は~い。」

「ハイ、コックピット・ブロック切り離しシークエンスを開始します。」

 直(ただ)ちに、ブリジットと Ruby からの返事が聞こえて来た。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


 

STORY of HDG(第8話.08)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-08 ****


 LMF は、茜の HDG よりも盛大に土煙を巻き上げ乍(なが)ら、ターゲットの支柱に向かって突進する。そして、その機体を左や右へ大きく振って、ターゲット支柱の間を縫う様に進んで行くのだった。そして、五番目のターゲット支柱を通過して暫(しばら)く進んだ後に、左回りに大き目の弧を描いてUターンすると、左右のホバー・ユニット連結機構を伸ばし、一対の腕部を展開して、走行し乍(なが)ら『中間モード』へと移行する。
 LMF の左右前腕部には、格闘戦の折りにマニピュレータを保護するナックル・ガードと呼ばれる装甲が装着されており、そのナックル・ガードには HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが取り付けられている。中間モードで腕部が展開されると、そのディフェンス・フィールド・シールドは前腕部と直交する様に向きが変えられるが、LMF が格闘戦の為にナックル・ガードをマニピュレータ保護の位置へ移動すると、ディフェンス・フィールド・シールドは下端が腕先の方へ向く様に、九十度回転する。ディフェンス・フィールド・シールドの下端には、超接近戦時の反撃用に小型のビーム・エッジ・ソードが格納されており、これを展開する事に因って LMF は、ディフェンス・フィールド・シールドを攻撃用の武装として利用する事が可能だった。
 そもそも、LMF に HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが装備されているのは、HDG の携行しているディフェンス・フィールド・シールドが故障や破損した場合に、LMF が HDG へ予備品を供給出来る様にと計画されているからなのだ。しかし、HDG に供給する必要が無ければ、LMF 自身の防御・攻撃用の装備として、使用する事が想定されているのである。
 LMF は両腕に青白く光る荷電粒子の刃先を構えて、先の砲撃でターゲット板が吹き飛ばされた第五ターゲットの支柱へと向かってホバー走行を続け、その右側から前方へと通過する瞬間に左腕を後ろから前へ小さく振る様に動かし、ターゲット支柱を切断した。

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 そのまま第五ターゲットと第四ターゲットの間を通過すると進路を右へと変え、第四ターゲットの左側から前方を通過するコースに進路を定める。第四ターゲットの前方を通過する際に、今度は右腕のビーム・エッジ・ソードでターゲット支柱を切断すると、後は同様に左右に機体を大きく振り乍(なが)ら残り三本のターゲット支柱を切り倒し終えると、通常の高機動モードに戻って機体を止めたのだった。
 濛濛(もうもう)と立ち上がった土煙が LMF の機体周囲から流れ去ると、コックピット・ブロックのキャノピーを開き、ブリジットが腰を伸ばす様に身を起こして、茜に向かって手を振って見せる。一方で、天野重工側の天幕下からは、茜の時と同じ様に拍手が沸き起こるのだった。

「うん、やっぱりサイズ的に、こっちの方がピンと来るものが有るなぁ。」

 LMF の機動を見終えて、吾妻一佐はポツリと、そう言った。

「アレの量産仕様の先行、五機。納入は予定通りだよね?飯田部長。」

「ええ、十月初旬、その予定で進んでますよ。」

「装備はプラズマ砲以外も積めるんだよね?アレは威力が強過ぎて、周辺への被害が大き過ぎるから。市街戦を想定すると、20ミリか12.7ミリ機銃位(ぐらい)が、ちょうど良いんだ。」

「実体弾だと、射程や命中精度が落ちますが。まぁ、そう言う御用命ですから、その装備も合わせて開発してますよ。」

 そこで飯田部長と吾妻一切の会話に、桜井一佐が口を挟(はさ)むのだった。

「安い装備でも無いでしょうに、それほど急がれなくても?」

 それには若干、むっとした様に吾妻一佐は言い返す。

「航空の方(ほう)で全て撃ち落として呉れるのだったら、陸上の方(ほう)は新装備なぞ要求しませんよ。」

「まぁまぁ、吾妻一佐。ここは抑えて。」

 飯田部長は慌てて、吾妻一佐を宥(なだ)める様に声を掛けると、それに対して桜井一佐は横を向くのだった。その後ろで和多田補佐官は、声を殺して、小さく笑っていた。

 

ボードレールさん、ご苦労様。一旦、待機位置に戻ってね。」

「は~い、わかりました。」

 緒美がヘッド・セットのマイクに向かってブリジットへ指示を伝えると、透(す)かさずブリジットは返事をして指示を実行へと移す。LMF がキャノピーを解放した儘(まま)、元の静止射撃位置へと、ゆっくりと移動を開始する。

「ドライバーが交代するって聞いた時はどうかなって思ったけど、ブリジットちゃんも、なかなかやるわね。去年の、直美ちゃんに遜色(そんしょく)は無いって感じね。」

 安藤は樹里のデバック用コンソールのモニター表示を覗(のぞ)き込み乍(なが)ら、そう感想を漏らした。
 それに対し、モニター画面を切り替えてデータをチェックしつつ、樹里が答える。

「まぁ、制御の細かい部分は、Ruby が殆(ほとん)どやっちゃってますからね…。」

「城ノ内さん、そっちに異常な数値とか、返って来てないわね?」

 緒美が樹里へ、モニターしている機体の状態を確認する。それに一拍置いて、樹里が答える。

「はい、部長。LMF も Ruby も、リターン値は正常範囲です。試験、続行して大丈夫です。」

「ありがとう、城ノ内さん。引き続き、モニター宜しくね。 安藤さん。」

「あ、はい。」

 緒美に呼び掛けられ、安藤は慌てて返事をする。

「HDG の移動標的射撃試験に移りますので、ターゲット投射機の準備、お願いします。」

「あ、確認する。ちょっと待ってね。」

 安藤はヘッド・セットのマイクを口元に上げて、隣の天幕下に待機しているコントロール担当のスタッフに話し掛ける。

「安藤です。移動標的射撃を始めます。準備…あぁ、はい。分かりました。 緒美ちゃん、準備は出来てるから、起動のタイミングだけ教えてって。」

「そうですか。 天野さん、移動標的射撃の試験を始めるけど、準備はいい?」

 安藤の返答を受けて、緒美は茜に準備状況の確認を行う。直ぐに茜の返事は、モニター・スピーカーからも聞こえて来た。

「はい。何時(いつ)でもどうぞ。」

 緒美の視界の先では、茜の HDG が腰のスリング・ジョイントから荷電粒子ビーム・ランチャーを外し、身体の前面に構えるのが見て取れた。

「スタートすると、あなたの125メートル先に、ターゲットが高度とか間隔がランダムに三十枚投げ上げられるから、出来るだけ多く、撃ち落としてね。」

「はい、頑張ります。」

 茜の返事を聞いて、緒美はちらりと安藤の方へ目をやる。安藤は口元にヘッド・セットのマイクを持って来て、緒美がスタートの合図を出すのを待っていた。緒美と視線が合った安藤は、小さく頷(うなず)く。

「では、スタート。」

 緒美の声を聞いて直ぐ、安藤もスタッフへ投射機の起動を指示した。そして二秒程が経って、最初のターゲットが投射された。ターゲット板は先程の静止標的の物と同じサイズの鉄板で、縦に回転し乍(なが)ら左から右へと、ゆるい放物線を描いて、茜の目の前を通過して行く。
 茜は両腕で保持した荷電粒子ビーム・ランチャーで、素早く狙いを定めると、乾いた破裂音を響かせ、一撃で空中のターゲット板を弾き飛ばした。
 続いて、二枚目、三枚目と投射間隔や軌道を変え乍(なが)ら放り上げられるターゲット板を、茜は次々と撃ち落としていく。
 HDG の射撃の様子を見乍(なが)ら、安藤が樹里に話し掛ける。

「うわぁ…百発百中って感じねぇ。天野さんって、射撃の心得とか無いよね?」

「そうですよ。天野さんは大雑把な方向に向けて目標を指示してるだけで、HDG の AI が照準を補正して呉れてるんです。」

「うん、そういう風に作ったんだから、そう動いて当然なんだけど。実際、目の当たりにすると、ちょっとビックリだわ。」

 樹里と安藤がそんな会話をしていると、二十八枚目のターゲット板を撃ち落とした所で、モニター・スピーカーから茜の声が響いた。

「オーバー・ヒートです。ランチャーが強制冷却モードに入りました。」

「了解。移動標的射撃試験は終了。天野さんは待機しててね。」

 緒美は落ち着いた声で、茜に指示を出した。
 一方で、安藤が残念そうに、声を上げる。

「あぁ、矢っ張り連射だと三十回は無理だったかぁ。手持ちサイズまで小型化したから、冷却が追い付かないって聞いてはいたけど。」

「でも、計算上は二十五連射が限界だった筈(はず)ですから、それよりは良い成績ですよ。」

 そう樹里が宥(なだ)める様に、安藤に言った。

「出力、30パーセント迄(まで)、落としてるのよ?」

「100パーセントだったら、十五連射位(くらい)が計算上の限界ですから。」

 返す返す残念そうな安藤に、少し苦笑いする樹里を挟んで、緒美は飽くまで冷静に、そう言ったのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.07)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-07 ****


「流石、防衛軍の主力戦車と同じ規格のプラズマ砲だわね~。実際に射撃する所を見たのは初めてだけど。」

 安藤が呆(あき)れた様に話し掛けると、樹里は落ち着いた様子で答えた。

「あんな物騒な物が、当たり前の様に学校に有った事の方にビックリですよ。」

ボードレールさんは待機してて。次、天野さん。スラローム機動から折り返しで斬撃機動、準備が出来たら開始して。」

 スケジュールに従って、緒美は次の試験項目を茜に指示する。

「準備は出来てます、ので、行きます。」

 茜は右脚で地面を蹴って軽く跳躍し、空中でスラスターを噴かす。先程、射撃したターゲットの支柱に向かって加速すると、手前、第一ターゲットの左側をホバー状態で駆け抜け、第二ターゲットの右側、第三ターゲットの左側と、立ち並ぶターゲットの支柱の間を縫う様に、緩やかな斜面を高速で登って行く。最後の第五ターゲットの左側を通過し、暫(しばら)く進んだ後にUターンすると、右のマニピュレータで左腰のスリング・ジョイントに固定してあったビーム・エッジ・ソードの柄(つか)を握る。ビーム・エッジ・ソードがジョイントから解放されると、一度、右へと振り抜き、左マニピュレータを柄(つか)の後端側に添えると、刀身が右側面に横たわる様にビーム・エッジ・ソードを構えた。ビーム・エッジ・ソードの刀身前面に形成された荷電粒子の刃(やいば)が青白く輝く。
 茜はホバー移動の儘(まま)、第五ターゲットが目前に迫ると、ビーム・エッジ・ソードを右肩の上へと振り上げ、ターゲット支柱と擦れ違う瞬間に刀身を振り下ろす。第五ターゲット支柱の向かって左側を通過した茜は、第四ターゲットの右側へと進路を変え、振り下ろした ビーム・エッジ・ソードの刀身の向きを翻(ひるがえ)すと、右腕のみで下から上へと向かって第四ターゲットの支柱へ切っ先を走らせる。

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 再び、ビーム・エッジ・ソードの刀身を翻(ひるがえ)し、腰の高さで右側に刀身を横に寝かせると再び左マニピュレータを柄(つか)の後端に添え、第三ターゲットの左側を通過すると同時に支柱を両断すると、今度はビーム・エッジ・ソードを左肩に担ぐ様に振り上げ、第二ターゲットの右側を通過する瞬間に切っ先をと振り下ろす。
 最後に、もう一度刀身を翻(ひるがえ)し右下段横に構えて第一ターゲットの左側へと進行し、通過するタイミングで刀身を左上へと振り上げる。ビーム・エッジ・ソードの柄(つか)から左マニピュレータを放すと、右腕だけで刀身を水平に右へと一振りして、ホバー走行を終えて着地し、オフにしたビーム・エッジ・ソードを左腰部のスリング・ジョイントへと納めた。
 スラスター・ユニットの排気で巻き上げられた、HDG 背後の土煙が風に流されると、そこには立ち並んでいたターゲットの支柱が、全て切り倒されている様(さま)が露(あら)わとなる。
 茜はちょっと振り向いて、それを確認した後、天野重工の天幕と防衛軍の天幕それぞれに向かって、一度ずつ一礼をしたのだった。天野重工の天幕下、設営スタッフ達からは「おぉ…」と言うどよめきの後、拍手が沸き起こるのだった。

「流石、剣道経験者って感じかしらね。」

 安藤が隣の天幕下の盛り上がり具合を横目に、そう感想を漏らすと、それに対して樹里が言った。

「あぁ、でも、天野さんに因れば、剣道の動きとは全然違うそうですよ。」

「そうなの?それにしては、良く動けてるみたいじゃない。」

「毎日二時間位(ぐらい)、あれを装着して動き方の研究や練習、反復してましたからね。お陰で、HDG の方も動作制御の最適化が、可成り進んでますよ。最初は随分、動き方がぎくしゃくしてましたから、HDG 搭載の AI も相当に優秀ですよね。」

「まぁ、コミュニケーション関連の機能部分がバッサリ削除されてるから、随分、簡略化されてる様に思われ勝ちだけど、基礎部分は Ruby と同型だものね。それでも、その AI の性能も、動作データの蓄積が無い事には発揮の仕様がない訳(わけ)だし、テスト・ドライバーにスポーツ経験者を充てようって、緒美ちゃんのアイデアは大正解だった訳(わけ)よね。」

 安藤のコメントに対し、透(す)かさず緒美が言葉を返す。

「そのアイデア、元々の発案は森村ちゃんなんですけどね。」

「あ、そうなんだ。」

 安藤が返す短いリアクションに対し、緒美の後ろに立っていた恵が右手を肩口程に挙げて、微笑んで見せる。その一方で、緒美はヘッド・セットのマイクを口元に引き上げると、茜とブリジットへ次の指示を送る。

「天野さん、元の射撃位置へ退避して。ボードレールさんは天野さんの退避を確認したら、LMF のスラローム機動を始めてちょうだい。」

 指示を受けての、二人の返事がモニター・スピーカーから聞こえて来た。

 

 一方、その頃の防衛軍側天幕の下。天幕は二張り用意されていたのだが、参加した防衛軍関係者は十名だけで、設置されていた二面のモニター画面を見ている者もあれば、持参した双眼鏡を覗(のぞ)いている者もありで、それぞれが試験の様子を監察している。
 天野重工の飯田部長の左右には、飯田部長と同年代の制服姿の男女が座り、その後ろにはスーツを着用した男性が座っている。
 飯田部長の右側に座るのは、HDG 案件の防衛軍側の窓口である、吾妻(アガツマ)昭午・防衛軍一等陸佐である。そして、飯田部長の左隣に陣取る制服姿の女性が、『R作戦』と呼称されている日米共同での反攻作戦の防衛軍側窓口を務める、桜井 巴・防衛軍一等空佐だ。飯田部長の背後の席、スーツ姿の男性が、和多田 和典・防衛大臣補佐官で、彼が『R作戦』に関する、政府側の対外交渉に於ける窓口責任者なのである。
 何故ここに『R作戦』の関係者が同席しているのかと言うと、天野重工が『R作戦』に必要とされるデバイスの要素技術開発の実行名目として『HDG 案件』を利用しており、事実上、両案件を社内的に統合してしまった事に、この状況は端を発する。現時点で『R作戦』に就いては表沙汰に出来ない政府と防衛軍としては、表向きは民間主導である天野重工の『HDG 案件』に協力すると言う体裁で『R作戦』の準備を進めていたのだった。
 『R作戦』に於いては航空防衛軍と航空宇宙局(十数年前に宇宙航空研究開発機構:JAXA から改組された)が中心となって行われる計画なので、作戦の実施に陸上防衛軍は、本来は関わらないのだが、その開発段階には試験場の確保だとか提供、或いは機密保持の為の警備等に陸上防衛軍の協力が必要だ、と言う都合で『R作戦』に陸上防衛軍の協力が組み込まれているのである。
 今回は HDG の試験と言う事ではあるが、これは『R作戦』用のデバイス開発の経過視察と同義であるので、それが桜井一佐と和多田補佐官が視察に参加している理由なのである。

「飯田部長、さっきの刀みたいな装備は、どんな物かなぁ…敵ドローンと斬り合いをさせるって言うのは、ぞっとしないな。」

 腕組みをした吾妻一佐が、ポツリと言った。間を置かず、飯田部長がコメントを返す。

「相手側が斬撃戦を仕掛けて来ますから、至近距離での反撃用の装備ですよ。飽くまでも、基本の戦術はビーム・ランチャーによる射撃、と言う事ですが。」

「う~ん、理解はしてるんだが、イマイチ、運用のイメージが…ピンとこないんだよなぁ。」

「アレが例のデバイスの要素技術、と言われても、我々には関連具合が今一つ理解出来ませんが。」

 後ろの席から身を乗り出して、和多田補佐官が口を挟(はさ)む。五十代後半の前列三人に比べ、幾分若いこの官僚出身の政府関係者は、『HDG』には全く興味を持ってはいない。

「…デバイス開発の方(ほう)は、ちゃんと進んでるんでしょうね?飯田さん。」

「スケジュールに大きな遅れは有りませんよ、和多田さん。秋位(ぐらい)には大気圏内用の試験機が、冬位(ぐらい)には大気圏外用の試験機が出来上がる予定で変わってません。大気圏内用の試験機が完成したら、桜井一佐の方に本格的に御協力をお願いする事になりますが、その折には、どうぞよろしくお願いします。」

 飯田部長は左隣の桜井一佐へ、話を振る。すると、朗(ほが)らかな笑顔で桜井一佐は答える。

「えぇ、勿論。それよりも、その前に、あの HDG の航空装備の性能試験もされるんでしょう? わたしとしては、そちらにも興味が有りますね。」

 そこに再び、和多田補佐官が口を挟(はさ)むのだった。

「アレは陸戦用の装備ではなかったのですか?」

 それには吾妻一佐も同調する。

「そうそう、元々の提案は陸戦用の強化装備だった筈(はず)なんだが。どうして、ジェット・エンジンを背負って飛び回るような仕様に?」

 一瞬浮かんだ苦笑いを噛み殺して、飯田部長は答えるのだった。

「電源、ですよ。あの装備を動かすにせよ、ビーム・ランチャーを撃つにせよ、割と大きな電源が必要になるんです。バッテリーでは賄(まかな)い切れないので、発電機として小型のジェット・エンジンを積んでいるんですが、それなら、それを推力としても利用しよう、まぁ、そう言った流れですな。動力装備以外にも火器管制システム等も含めて、トータルとして可成り高価な個人装備になりますから、それならユニットを追加して機能を拡張しよう、と言う事で航空装備も計画されている訳(わけ)です。」

「それを考えたのが、さっきの、あの、お嬢さんかい?」

 吾妻一佐の言う『お嬢さん』とは、試験開始前に挨拶に来た、緒美の事である。

「鬼塚、なんて厳(いか)つい名前だけ聞いてたから、どんな大男かと思ってたら。それに、見れば、関わってる学生達は女子ばかりの様子だけど、本当に大丈夫なんですか?飯田部長。」

 その、和多田補佐官の発言に噛み付いたのは、桜井一佐である。

「和多田補佐官、その物言いは女性差別に聞こえますが?」

「あぁ、いえ、けしてそんな積もりでは。」

 そのやりとりを聞いて、ニヤリとした飯田部長は言った。

「あの位(くらい)の年代は、女子の方が優秀ですよ。実際、あのメンバーの中には男女総合で各学年の成績トップの者が居る様ですし、それ以外のメンバーも皆、成績は上位らしいですから。我が社としても、将来に期待している学生達ですよ。」

「お、戦車の方が動き出した。」

 ブリジットが操縦する LMF がスラローム走行を開始したのを見て、吾妻一佐が声を上げるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.06)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-06 ****


「は~い、ありがとうございます。」

 安藤は隣の天幕下へ声を返すと、作業着のポケットから携帯端末を取り出し、防衛軍側の天幕に居る飯田部長を呼び出す。飯田部長は、直ぐに応答した。

「あ、安藤です。現場の準備が終わりましたので…はい、早速、試験を開始します。…はい、では。」

 ポケットに携帯端末を仕舞うと、安藤はヘッド・セットを装着して、机の上に置いてあった試験の行程表を挟(はさ)んだクリップ・ボードを拾い上げる。

「安藤さんも、どうぞ。」

「あぁ、ありがとうね。いただきます。」

 直美は冷えたドリンクのボトルを安藤に手渡すと、引き続き、立花先生や他のメンバーへ、ドリンクを配っている。瑠菜は隣の天幕下へ、佳奈とクラウディアへとドリンクを持って行き、その儘(まま)、新型観測機材に就いての説明を受けていた。

「じゃ、緒美ちゃん。始めましょうか、行程表の通りに進めるけど、問題は無いわね。」

「はい、お願いします。天野さん、予定通り、静止射撃から始めるわよ。位置に着いてちょうだい。」

「はい。」

 茜の返事は、天幕下に設置されているモニター・スピーカーからも聞こえて来た。

ボードレールさんは、もう暫(しばら)くその位置で待機、お願いね。」

 ブリジットの返事も、モニター・スピーカーから聞こえて来る。

「はい、待機してます。」

 茜は試験場の方へ身体の向きを変えると、三歩進んだ後に少し身を屈(かが)めてから軽く地面を蹴って背丈程に飛び上がると、空中でスラスターを噴かして射撃位置へ向かってジャンプした。見送る安藤達の居る天幕へは、スラスター噴射が巻き起こした気流が流れ込んで来る。

「画像では見てたけど、実物は又、何だか迫力が有るわね。」

「でしょう?」

 安藤の感想に対して、樹里は微笑んで答えた。
 地面に白いラインで四角に囲まれた射撃位置に降り立つと、茜は天幕の方へ振り向き、左手を挙げて見せた。天幕下ではモニター・スピーカーから茜の声が聞こえる。

「位置に着きました。指示を待ちます。」

「はい、待っててね。安藤さん、宜しいですか?」

 緒美は安藤に、最終の確認を求めた。
 それに対して、安藤は自分のヘッド・セットのマイクに向かって告げる。

「あ、安藤です。これより開始しますので、記録の方(ほう)、お願いします。…はい。 オーケー、緒美ちゃん。始めてちょうだい。」

「分かりました。あ、城ノ内さん、システム状態のモニター、宜しくね。何か異常が有ったら、直ぐに言ってね。」

「はい。心得てますよ、部長。」

 樹里はデバッグ用コンソールを見つめた儘(まま)、緒美に答えた。

「じゃ、天野さん。向かって左、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止射撃開始。あ、念の為、フェイス・シールドは、下ろしておきましょうか。」

「分かりました。開始します。」

 緒美の指示に対して、モニター・スピーカーから茜の返事が聞こえると、射撃位置の茜はヘッド・ギア前面のフェイス・シールドを顔の前へと下ろして防護態勢を整え、次いで HDG の右腰スリング・ジョイントに固定されていた荷電粒子ビーム・ランチャーを、右のマニピュレータを展開してグリップを掴(つか)みジョイントから外した。

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 身体前面に両側のマニピュレータで素早く構えると、五枚のターゲットに狙いを定め、連射する。荷電粒子ビーム・ランチャー銃口と鉄製のターゲット板との間に、青白い閃光が五回走ると、その都度、空気の絶縁が破れる、短く乾いた雷鳴の様な破裂音が鳴り響いたのだった。
 茜は射撃を終えると、一旦、銃口を上へ向け、左マニピュレータでフォア・グリップを折り畳むと、荷電粒子ビーム・ランチャーを、元の右腰部のジョイントへと戻した。

「全部命中した筈(はず)ですけど、ターゲットの確認、お願いします。」

 モニター・スピーカーから茜の声が聞こえて来る。

「は~い、ちょっと待っててね。安藤さん?」

 緒美が安藤に、結果の確認を求める。

「はいはい…あ~、オーケー。全部命中、ズレは許容値内、だそうよ。」

 安藤は固定カメラのモニターを見ている、記録班からの連絡を受け、緒美へ報告した。
 ターゲットは一辺が2メートルの、正方形の鉄板であるが、底辺の高さが2メートルの位置に、一本の支柱で設置されている。つまり、ターゲットの中心は地表面から3メートルの高さになる。
 五つのターゲットは全て地表面から同じ高さで、向かって左に3メートルずつずらして、手前側に向かって25メートル間隔で設置されている。つまり、一番目のターゲットは、五番目のターゲットに対し、前後で100メートル、左右で12メートル離れている格好になる。そして、一番目のターゲットと射撃位置との距離は、50メートルである。
 射撃位置は一番遠い第五ターゲットの正面に設定されており、茜には最も遠い五番目のターゲットの見掛けの大きさは、腕を前に伸ばして親指を立てた爪先位置に有る8ミリ角の板とほぼ同じである。左手側にオフセットされた一番手前の第一ターゲットでも、見掛けの大きさは、同様に24ミリ角程度にしか見えない。
 天野重工の記録班は、それらターゲットの状態を固定カメラのズームによって確認したのだが、手前のターゲットにはおよそ5センチ程の穴が、一番遠い物にも3センチ程の穴が開いていたのが確認されたのだった。
 因(ちな)みに、茜が今回使用している荷電粒子ビーム・ランチャーは、安全の為、出力を30パーセントに設定している。

「天野さん?結果は良好だそうよ。暫(しばら)く、その儘(まま)、待機しててね。 ボードレールさん、LMF、射撃位置へ。」

 トランスポーターから降ろした儘(まま)の位置で待機していたブリジットに、緒美は移動を指示した。

「了解。」

 ブリジットが短く返事をすると、停止していた LMF がホバー・ユニットを噴かし、勢い良く前進を始める。LMF は滑らかに加速し、茜の正面側に10メートル程の間隔を開けて通過すると、50メートル程進んで、機首を左側へ向け乍(なが)ら急減速し、茜の右手側、西へ70メートル程の射撃位置で、南向きに停止し、着地するのだった。

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 LMF はコックピット・ブロックのキャノピーを持ち上げた有視界モードで操縦されており、着地すると腹這(はらばい)の姿勢でコックピットに収まっているブリジットが、彼女の左手側で待機している茜に向かって、右手を振って見せている。茜は右手を挙げて、ブリジットに答えた。

「LMF01、射撃位置に着きました。指示を待ちます。」

 緒美達の天幕下に、ブリジットのモニター音声が響く。
 それを聞いて、緒美が安藤へと視線を向けると、安藤は無言で頷(うなず)いた。

「オーケー、ボードレールさん。向かって右、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止射撃開始。」

「了解。」

 再びブリジットが短く返事をすると、コックピット・ブロックのキャノピーが完全に閉鎖される。程無く、LMF 上部のターレットが少し右へ旋回すると、プラズマ砲の砲身が僅(わず)かに仰角を上げる。それらが一秒にも満たない時間の間に実行されると、落雷の様な破裂音と共に右側の砲身から走った青白い閃光が、第一ターゲットの鉄板を吹き飛ばした。透(す)かさず、ターレットの角度と左側の砲身が仰角を整えると、再び破裂音と共に走る閃光が第二ターゲットを吹き飛ばす。
 LMF はターレットの両側面に装備された左右のプラズマ砲を交互に発射し、五秒と掛からず五枚のターゲットを、全て粉砕した。因(ちな)みに、今回の試験で LMF のプラズマ砲は、安全の為に出力を10パーセント程度に制限している。また、ターゲットとの距離も HDG のターゲットよりも、50メートル遠くに設置されていた。

「終了です。ターゲットの確認…は、必要無いですかね?」

 天幕下のモニター・スピーカーから、ブリジットの声が聞こえて来ると、緒美達の周囲には微(かす)かなオゾン臭が漂って来るのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


 

STORY of HDG(第8話.05)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-05 ****


 畑中が二号車のエンジンを始動し、トランスポーターを後退させ始めると、その前方に駐車している一号車では、車輌後部のコンテナ天井部が、中央辺りを回転軸に、角度にして三十度程、起き上がる様に開くのだった。間も無く、一号車のコンテナ内部から HDG 背部スラスター・ユニットのエンジン音が聞こえて来ると、そのコンテナ天井開口部からエンジン排気が吹き上がっているのが、空気の揺らめきに見て取れた。

「では、LMF に搭乗します。」

 トランスポーター二号車が移動して行くのを確認して、ブリジットは LMF の方へ駆け足で向かった。

「はい、よろしく~。」

 緒美は LMF へと向かう、ブリジットの背中に声を掛ける。
 ブリジットはトランスポーター一号車の後部付近に差し掛かった所で、ふと、足を止めた。そこに、HDG を装着した茜が、傾斜路(ランプ)状に展開されたコンテナ後部ドアを歩いて降りて来る。茜とブリジットの二人は、何方(どちら)からともなく右手を肩の高さ程に上げると、互いの掌(てのひら)を軽く打ち合わせ、再びブリジットは LMF の方へと駆け出した。
 その様子を見ていた安藤が感心気(げ)に、隣に立つ樹里に話し掛ける。

「成る程、あの二人は仲が良さそうね。」

「詳しくは知りませんけど、中学の時に、色々有ったみたいですよ。それで、天野さんの方が一方的に慕(した)われているって言うか、そんな感じみたいで。」

「へぇ…天野さん、色々と凄い子らしいって、社内でも噂には聞いてたけど…。」

「噂…って、本社で、ですか?」

 モニターから目を離し、樹里は安藤の方へ向き直って、聞き返した。

「そりゃそうよ。会長のお孫さん、ってだけでも社内じゃ注目度高いのに、HDG のテスト・ドライバーなんかやってるんだから、テストのデータと一緒に嘘かホントか分からない様な逸話も、色々と流れてくるのよね。」

「それはまた…変な噂じゃなきゃいいですけど。」

「それは大丈夫。基本、好意的って言うか、期待値高目(たかめ)の推測に尾鰭(おひれ)が付いた~みたいな?」

「それはそれで、本人的にはプレッシャーって言うか、聞かされたら赤面物でしょうね~。」

「だよね。」

 樹里は安藤と顔を見合わせて、笑った。
 そんな折、二人の目の前を二つの黒い球体が通過し、HDG を装着して歩いてくる茜の眼前、一メートル程の位置で停止し、左右に並んで浮遊している。黒い球体の大きさは、直径がバスケット・ボールの倍程度だろうか。
 一旦、歩みを止めた茜だったが、黒い球体がそれ以上近づいて来ない事を確認すると、その動向を注視しつつ天幕の方へと再び歩き出す。その球体二つは、茜と距離を保って移動していた。

「何です?あれ。」

 その様子を見ていた樹里と緒美は、図らずも声を揃えて安藤に問い掛けたのだった。
 安藤はくすりと笑い、隣の天幕の下、最前列の長机の上に置かれた旅行鞄(スーツケース)状のコントローラーを指さした。
 安藤の肩越しに、示された方向へ樹里が視線を移すと、コントローラーを操作しているのはクラウディアと佳奈の二人である。樹里が見ているのに気が付いた佳奈は、その存在をアピールするかの様に、頭上に挙げた両手を振るのだった。
 樹里は微笑んで、右手を軽く振り返して見せる。

「あれが、さっき言ってた新型の観測装備よ。下側に、カメラとかが入っていて、その上に回転翼(ローター)が入ってるの。燃料電池の水素カートリッジ一本で二時間位(ぐらい)飛べるし、同時に四つ迄(まで)制御可能なのよ。あ、コントローラー一台に付き、観測機は二機だけど。」

 そう安藤に言われて、浮遊する黒い球体を良く見ると、球形の上部から三分の二程は金属製のメッシュになっており、光の具合に因っては、内部で回転する二重反転ローターが見えるのだった。下端部のカメラ収納部はマジックミラー状になっているのか、外からはカメラ自体は見えない。

「記録した画像は、メモリー・カードか何かに?」

 緒美が樹里の傍(そば)迄(まで)歩み寄って来て、安藤に尋ねた。

「あ、飛行体本体にストレージは無いのよ。画像データはリアルタイムでコントローラーへ転送されるから、コントローラー側で、記録のする、しないを選択する訳(わけ)。因(ちな)みに、記録出来るのは可視光画像と赤外線画像、それと熱分布画像(サーモグラフィ)の三つね。画像記録のタイム・コードに対応した GPS の座標データとか、カメラの向きとか、倍率とかの諸元も別に記録されるわ。」

 今度は樹里が問い掛ける。

「操作には、二人必要なんですか?」

「飛行モードは幾つか有って、勿論、リアルタイムで人がリモコン操作も出来るけど。基本は観測対象を指定して、自動で距離と角度を保って自律制御するモードね。だから、飛行自体は一人で二機、制御するのは可能なんだけど、カメラのズームや角度の微調整とか、そっちの方が一人で複数台扱うのは、ちょっと大変かな。」

「今日の試験から、使えるの?安藤さん。」

 緒美の背後から声を掛けて来たのは、立花先生である。

「はい。いつも学校の方(ほう)で試験の様子、動画で記録して貰ってましたけど、今後、B号機とかの試験が始まったら、空中機動とか撮影が難しくなりますから。お役に立つんじゃないかな、と。」

 との、安藤の発言に対して、真っ先にコメントを返したのは、主にビデオ記録担当の恵である。

「あはは~助かります~。」

「今日は、固定の撮影機材も有るのよね?」

 立花先生が隣の天幕下、後列の長机上に並べられた五つのモニターの方を指差して、安藤に確認するのだった。

「それは、勿論。貴重な機会ですから、バッチリ記録させて貰いますよ。」

 そこへ、HDG を装着した茜が天幕の前に到達する一方、トランスポーターのコンテナから降りて来た直美と瑠菜が、天幕の後列へと向かう。それと入れ替わる様にトランスポーター一号車は、二号車と同様に管理棟脇の駐車スポットへ移動する為に後退を始めていた。

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 直美と瑠菜の二人は、天幕の下、最後列の長机上に置かれていたクーラー・ボックスを開け、スポーツ・ドリンクのボトルを取り出していた。そして、その装備の所為(せい)もあって、天幕下に入る事が出来ずにいた茜に向かって、瑠菜はドリンクのボトルを掲げて呼び掛ける。

「天野~水分補給しておく?」

「あ、いえ、今はいいです。」

 その様子を見ていた恵が、安藤に向かって言う。

「天野さん用にパラソルか何か、用意しておけば良かったですね。流石に、この天気で HDG 装備の儘(まま)待機は辛(つら)そう。」

「そうね~気が付かなくて、ごめんなさいね。天野さん。」

「いえ、大丈夫ですよ。インナー・スーツの体温調整機能も効いてますから、見た目ほど暑くないんですよ。それに剣道やってましたから、少々なら暑いのには慣れてますので。真夏の道場で防具とか着けてたら、もっと暑いですから。」

 茜は微笑んで、そう答えた。
 そこへ、隣の天幕から男性作業員が、安藤に声を掛けて来る。

「安藤さーん、機材チェック、全て完了しました。作業員も全員現場から退避を確認。何時(いつ)でも行けま~す。」

 声の方へ目をやると、二十人程の設営スタッフが、隣の天幕の下で汗を拭いたり、ドリンクを飲んだりと、それぞれが一息吐(つ)いていた。その一方で、記録担当のスタッフ達は、機材の前で試験開始を待って、緊張の面持ちと言った様子である。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.04)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-04 ****


 緒美達三人が天野重工の天幕へと到着すると、茜とブリジットがインナー・スーツを着用し終え、立花先生と共に学校のマイクロバスから降りて来た。茜達三人は天野重工の天幕へと真っ直ぐに向かい、近付いて来る三人の姿を認めた緒美が、先に声を掛ける。

「ご苦労様、準備はいい?」

「今の状況は?」

 立花先生が、緒美の傍(そば)まで歩み寄って聞いた。

「LMF の方は Ruby が制御を起動中です。起動次第、自律制御でトランスポーターから降りて貰います。」

「あ、わたしは乗らなくても?」

 少し離れて、緒美と立花先生の遣り取りを聞いていたブリジットが声を上げた。

「ええ、うっかり転倒でもしたら、危ないから。LMF が地面へ降りたら、操作をお願いね。」

「はい、分かりました。」

 ブリジットの返事を聞いて、緒美は制服のポケットから携帯端末を取り出し、直美へとコールを送る。

「あ、鬼塚です。そちらの様子はどう?…分かった、天野さんを向かわせるわ。」

 通話を終えて携帯端末をポケットに仕舞うと、緒美は茜に向かって言った。

「HDG の方も起動準備出来てるそうだから、天野さんは、HDG の装着とスラスター・ユニットの起動迄(まで)やっててちょうだい。直(じき)に、試験場のセッティングも終わると思うから。」

「はい。」

 そう短く返事をすると、茜はブリジットに小さく手を振って、天幕の前に駐められているトランスポーター、一号車の後部へと向かって歩き出した。そうこうする内、一号車の後方に駐車されている二号車の荷台上から、LMF のメイン・エンジンが起動する音が聞こえて来る。
 その音に気が付いたのか、天幕の前を横切って二号車の方へ向かおうとする畑中を、緒美は呼び止めた。

「畑中先輩、LMF の係留は全部外されてますよね?」

「あぁ、大丈夫、終わってるよ。」

「LMF をトランスポーターから降ろしますから、二号車周囲の人払いをお願いします。」

「あいよ、ちょっと確認して来るから、待機させてて。」

 畑中は天幕の側からは見えない、トランスポーターの左側を目視で確認する為に、一号車の先頭方向へと駆けて行った。
 それとは入れ違いに、安藤が天幕の下へと試験場方向から戻って来る。

「緒美ちゃん、現場のターゲットとセンサー設置、ほぼ終わったそうよ。今、データ取得の最終確認やってる。終わったら連絡が来るから。」

「あ、はい。 城ノ内さん、Ruby のモニター回線、繋がったかしら?」

「はい、Ruby の音声をスピーカーに繋げますね。部長は、これを。」

 樹里はデバッグ用コンソールの前に立って状態を確認していたが、コンソールのスピーカーへの切り替え操作をして、緒美にコマンド用ヘッド・セットを渡した。程無く、Ruby の合成音声が聞こえて来た。

「LMF 起動確認。メイン・エンジン、スロットルの現在ポジションはアイドル。自律行動、開始の承認を待ちます。」

「了解。今、あなたの周囲の安全を確認中だから、その儘(まま)、待機してて。」

 ヘッド・セットのマイクに向かって、緒美が Ruby に語り掛ける。

「ハイ。待機します。」

 Ruby から返事が有るのとほぼ同時に、畑中が一号車の影から手を振って、声を上げる。

「おーい、鬼塚君。二号車南側の安全を確認。LMF 動かしていいよ~。」

「ありがとうございま~す。」

 緒美はヘッド・セットのマイク部を親指と人差し指で摘(つま)んで押し下げ、畑中に返事をすると、次いでマイク部を口元に戻して Ruby への指示を出す。

「いいわよ、Ruby。安全を確認、自律行動開始承認。中間モードへ移行して、トランスポーターから降りてちょうだい。」

 すると透(す)かさず、Ruby から緒美の指示に対する質問が、樹里が向かっているコンソールから聞こえる。

「トランスポーターの右側と左側、どちら側に降りますか?」

「そうね。南側、あなたの左側の方が広いから、そっちへ降りてちょうだい。トランスポーターから降りたら、今と同じ向きで待機してね。トランスポーターを移動して貰うから。」

「ハイ、分かりました。では、自律行動開始します。」

 LMF の機体下部に装備する一対のホバー・ユニットが起動すると、ユニットの作動音と吸気音が大きくなると共に、機体が荷台上で僅(わず)かに浮上する。トランスポーターの周囲では、荷台床面に吹き付けられた空気が地面へと滑り落ち、土煙が舞い上がる。
 LMF は荷台上で浮上すると、機体各所に設けられたバーニア・ノズルから圧縮空気を噴射して機首の方向を左側へと回し、トランスポーターに対して直角に機軸が向いた所で旋回を止める。そして、ホバー・ユニットの左右間隔(トラック)を広げると、ホバー・ユニットの出力を絞って荷台上へと降りた。次いで、トランスポーターの荷台上でホバー・ユニットの連結機構を展開し、機体上部を持ち上げるのだった。
 LMF のホバー・ユニットは、折り畳まれた連結機構を展開すると、それは地上での鳥の脚部の様な構造となる。それと同時に、LMF 機体側部上面に装備された、一対の腕部(アーム・ブロック)が展開される。この一対の腕部は、エイリアン・ドローンとの超接近戦の為の格闘用マニピュレータで、組み付こうとする相手を振り払ったり、反撃を行う事を想定しての装備だった。これは、現用の浮上戦車(ホバー・タンク)には装備されていない、LMF 特有の機構ではあるのだが、LMF 自体に実戦経験の無い現時点に於いて、その有効性は未知数である。

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 こうして機体モードを『中間モード』に移行した後、Ruby は LMF を操ってトランスポーターの荷台上から、左脚に当たるホバー・ユニットを踏み出し、前方の地面へと降ろした。ホバー・ユニット本体は機体全長の半分程の長さが有るので、LMF の一歩では踵(かかと)に当たるホバー・ユニット後端迄(まで)、一気に地面へ降ろす事は出来ない。その為、爪先立ちの様な姿勢で左側のホバー・ユニットを地面に降ろした後、左側ホバー・ユニットと同様に爪先立ちの様に右側ホバー・ユニットを地面に降ろし、一対のアーム・ブロックを動作させて器用にバランスを取り乍(なが)ら、二歩進んで踵(かかと)部を地面に降ろしたのだった。LMF はその位置で足踏みを繰り返す様に元の西向きへと機体の向きを戻して、アーム・ブロックとホバー・ユニットの連結機構を折り畳み、通常形態である高機動モードへと戻った。因(ちな)みに、左右のホバー・ユニットは、左右幅を広げたワイド・トラック・モードの儘(まま)である。
 そんな、LMF が自力でトランスポーターから地上へと降りる一連の動作を見ての、どよめく様な雰囲気が、少し離れた迷彩柄の天幕下から伝わって来るのだが、その辺り、そんな光景は見慣れた感の有る白い天幕の下に居る一同とは、当然の温度差が存在するのだった。

「畑中先輩、二号車の移動、お願いします。」

 緒美が声を掛けると、畑中は手を挙げて答え、トランスポーター二号車の運転席へと上がって行った。

 

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STORY of HDG(第8話.03)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-03 ****


 一方、トランスポーターに積載されている LMF の方へと向かった樹里は、持参していた愛用のモバイル PC を LMF のコンソールへと接続しようとしていた。因(ちな)みに、樹里の愛機は、立花先生が普段使用している物より、一回り小さいタイプのモバイル PC である。
 LMF には既に電源車からのケーブルが接続されており、電気の供給が可能な状態となっていた。
 機体後方、メイン・エンジン下部のスペースから機首方向を眺(なが)めると、LMF の機体中心部には直立する様に円筒状の構造が有り、砲塔部はその上部に装備されている。操作用コンソールは、その円筒構造下部後方側に設けられている、分厚いメンテナンス用ハッチの中に用意されていた。
 直美達は外部電源ケーブルの接続確認を終えて、メンテナンス・ハッチの前で樹里の作業を眺(なが)めている。
 樹里はトランスポーター荷台の床面に置かれたモバイル PC の前にしゃがみ込んで、モバイル PC の起動状態を確認し終えると、モニター用通信ケーブルをモバイル PC と LMF のコンソールの双方に接続し、LMF の外部電源受電ブレーカーのトグルスイッチに手を掛けた。

「じゃ、LMF に外部電源、投入しま~す。」

「はい、やってちょうだい。」

 樹里の宣言に、そこに居た四名の内、最も後列から直美が答えた。
 樹里が受電ブレーカーの、少し硬いスイッチを押し上げると、スイッチ傍(そば)の受電パイロットランプが白く点灯した。続いて、LMF の制御系、つまり Ruby の起動スイッチを押すと、起動状態を表示する LED が先(ま)ず緑色に点灯し、暫(しばら)くして赤色の点滅に変わる。樹里は膝先のモバイル PC に視線を移し、Ruby との通信アプリケーションの状態モニター画面を開いて、起動情報がスクロールして行くのを確認した。

「はい、Ruby がスリープ状態から再起動中です。システムの自己チェックに五分くらい掛かりますけど~今の所、異常は無さそうですね。」

「オッケー、じゃぁ、もう暫(しばら)く Ruby 待ちね。」

 腰を屈(かが)め、瑠菜を間に挟んで樹里の背後から PC のモニターを覗(のぞ)き込んでいた直美は、少し身を引いて、そう言った。メイン・エンジン下のスペースは、人が立った儘(まま)では入る事が出来ない高さなので、頭をぶつけない様にと、直美は右手を頭上に挙げて、頭上の機体下面を右手で触れている。

「所でさ、樹里。カルテッリエリと佳奈、あの二人を組ませちゃって、平気?」

 樹里の背後から様子を見ていた瑠菜が、中腰の姿勢の儘(まま)、樹里に話し掛けた。

「大丈夫、大丈夫。カルテッリエリさんの方がナーバスになってた位(ぐらい)だから。佳奈ちゃんは、そんな事、気にしないし、安藤さんも一緒なんだし、ね。」

「そうかな~?天野の時みたいに、変に突っ掛かってたりしてなきゃいいけど…。」

 心配気(げ)な瑠菜の左肩を叩いて、左隣に居た恵が言う。

「平気よ。あれでも、カルテッリエリさんは相手を選んでやってるもの。天野さんは、あの手の挑発には乗らないから、最近じゃ、相手にしてるのは専(もっぱ)らボードレールさんの方だしね~。古寺さんも、あの手の挑発には『我関せず』のマイペースな人だし、そう言う相手に、無駄に突っ掛かっては行かないわよ。」

「…なら、いいんですけど。」

「あはは、森村が言うんだから、間違い無い。」

「何、部長みたいな事言ってるんですか、新島先輩。」

 そう言って、樹里は笑うのだった。

「さて、それじゃ、わたしは HDG の方、リグに電源が繋がったか見て来ます。」

「あ、わたしも行く。森村、こっちはお願いね。」

「は~い。」

 瑠菜と直美は LMF が積載された荷台後部に降ろされた、跳ね上げ式のスロープを伝って地上に降りると、HDG がメンテナンス・リグごと積み込まれたトランスポーター一号車へと向かった。二人と入れ替わる様に緒美が、LMF が積載されている二号車の荷台へと上がって来る。
 真っ先に緒美に気が付いた恵が、振り向いて声を掛けた。

「あ、部長。ご苦労様~、早かったね。」

「まぁ、顔見せだけ、だったから。飯田部長はまだ、彼方(あちら)のお相手してるけど、こっちは試験の準備が有るからって、先生と一緒に、早々に退散して来たの。」

「飯田部長が言ってた、先方の反応って、どうだったの?」

「あはは、何だか説明し辛(づら)い、複雑な表情だったわね。大人のあんな表情見たのは、初めてかも。」

 真顔での緒美の説明を聞いて、くすくすと笑う恵と樹里だった。

「で、こっちの状況はどう?城ノ内さん。」

「今、Ruby の起動自己チェック中です。もうそろそろ、終わる筈(はず)です。」

 それから間もなく、樹里の PC モニター上でチェック画面のスクロールが止まり、数秒の後、LMF のメンテナンス・コンソール部のスピーカーから Ruby の合成音が聞こえた。

「おはようございます。天野重工製 GPAI-012(ゼロ・トゥエルブ)プロトタイプ、Ruby です。只今、コンソール限定モードで、スリープ・モードから復帰しました。コンソールに接続しているのは樹里ですか?」

「そうよ、おはよう Ruby。部長と恵先輩も一緒に居るよ。」

「そうですか。学校の格納庫と違って、外部センサーからの情報が無いので、周囲の状況が何も分かりません。現在時刻を内蔵時計(インターナル・クロック)で確認しました。予定通りなら、現在位置は試験場ですね。」

 樹里の背後から身を屈(かが)めて、緒美が Ruby に指示を出す。

「うん、そう。それで、LMF をトランスポーターから降ろしたいの、直(ただ)ちにフル・モードに移行して LMF を起動してちょうだい。」

「トランスポーターから降りるのは、ブリジットの操縦で行いますか?」

 Ruby の質問に対し、緒美は少し考えてから、答えた。

「トランスポーターから降りる時に、転倒でもしたら危険かもね。いいわ、あなたの自律制御でやりましょうか。荷台からホバーで降りるのは不安定になりそうだから、中間モードで歩いて降りてちょうだい。」

「分かりました。コンソール限定モードからフル・モードへ移行、LMF の制御を開始します。LMF 制御電源確保の為、APU をスタートします。LMF 機体周辺で作業中の方は、退避して下さい。」

 緒美の指示を受け、即座に Ruby は指示を実行に移す。樹里はモニター・アプリの終了操作を行ってから、コンソールから通信ケーブルを引き抜き、Ruby に言った。

「じゃぁ、わたし達はここから離れるね。LMF の制御が確立したら、何時(いつ)ものチャンネルに接続して。そっちで、あなたの状態をモニターしてるから。」

「ハイ。所で、樹里。今日、麻里はここに来ていますか?」

 立ち去ろうとする間際、Ruby がそう樹里に問い掛けるのだった。

「残念だけど、今日は来られないそうよ。代わりに、安藤さんが来てるの。モニターと接続が確立したら、お話し出来るよ。」

「分かりました。LMF の起動作業を続行します。」

 樹里と恵、そして緒美の三人は、LMF のメンテナンス・ハッチを閉じてロックを確認し、トランスポーター荷台後部のスロープを降りると、モニタリング用コンソールが設置されている天野重工の天幕へと向かった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第8話.02)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-02 ****


「みんな、久し振りね~。あ、一年生の三人とは初めまして、だね。本社開発部設計三課、Ruby 開発チームの安藤です。」

「今日、井上主任はいらっしゃらないんですか?」

 安藤とは一番の顔馴染みである樹里が、先(ま)ず、話し掛ける。

「うん。主任も直前まで来る積もりだったんだけどね~ほら、今日は維月ちゃんのお誕生日だし。でも、急に外せない会議が入っちゃって。 あれ?今日は維月ちゃんは来てないんだ。」

「会議って、今日、土曜日ですよ。普通、会社は休みの日じゃ…。」

 瑠菜がそこ迄(まで)言ったのを、遮(さえぎ)る様に苦笑いし乍(なが)ら安藤が答える。

「平日忙しい人が複数集まろうとするとね、休日潰すしかスケジュールの取りようが無い事って、良く有るのよ。 あ、主任から維月ちゃんへの誕生日プレゼント預かってるから、あとで渡しといて貰えるかな、樹里ちゃん。」

「いいですよ。今日、運用試験の打ち上げと称して、維月ちゃんと部長の誕生日パーティーを、密かに画策してますから。」

「え、緒美ちゃんも今日、誕生日なの?」

「いいえ。半月遅れなんですけどね。部長の誕生日って中間試験期間の真っ只中なので。」

「あぁ、そうなんだ。でも、いいな~楽しそう~。」

「安藤さんも参加されます?兵器開発部(うち)的には大歓迎ですけど。」

「あはは、生憎(あいにく)、ここの撤収作業をやったら、その儘(まま)会社へ蜻蛉(とんぼ)返りのスケジュールなのよ。残念。 さて、じゃぁ、そろそろ準備に掛かりましょうか。現場の方(ほう)、ターゲットとかの設置確認にあと三十分ぐらい掛かるから、その間にみんなには HDG と LMF のセットアップをお願いしたいの。トランスポーターから機材を降ろす作業は危ないから、社の人間に任せて、あなた達は手を出さないようにね。樹里ちゃんには計測機材のセットアップを手伝って貰いたいのと、あと誰か二人、新しい観測機材の取り扱いを聞いておいて欲しいのよ。そうね、ソフト担当一人とメカ担当一人ずつがいいかな。」

「と言う事は、一人はカルテッリエリさんで決まりだけど、メカの方は誰にします?新島先輩。」

 樹里は、人選について直美に意見を求める。

「そうだね~瑠菜か古寺か、クラウディアと組ませるとしたら、どっちが良いと思う?城ノ内は。」

「だったら、佳奈ちゃん。」

 微笑んで、樹里は即答した。

「よし。じゃぁ、古寺とクラウディアは新装備のレクチャーを受けて来て。天野とブリジットはインナー・スーツに着替えて、森村と瑠菜は、わたしと LMF の起動準備に掛かりましょう。」

 直美の指示を受け、茜が安藤に尋ねる。

「あの、すいません。インナー・スーツに着替える前に、お手洗いに行っておきたいんですけど。」

「あぁ、それなら彼処(あそこ)の管理棟のを、借りられるから。正面の入り口から入って右側の突き当たり、行けば分かると思うわ。」

「はい、分かりました。ちょっと、行ってきます。」

「あ、わたしも。」

 管理棟の方へ早足で歩き出した茜を追って、ブリジットも駆け出す。その一方で、直美達は LMF を載せたトランスポーターへと向かって歩き出し、丁度(ちょうど)、運転席からブリーフケースを手に降りて来た畑中に向かって、直美が声を掛けるのだった。

「畑中先輩、LMF 起動掛けますので、電源お願いします。」

「おう、電源車、これから起動するから、ちょっと待ってて。」

 畑中が、天幕の前に駐めてある電源車の方へ向かうと、直美は振り向いて樹里に言った。

Ruby 起こすの、確認して貰えるかな、城ノ内~。」

「あ、はいはい、やりま~す。 あ、先に Ruby、スリープ・モードから復帰掛けて来ますから。佳奈ちゃんとカルテッリエリさんの方、お願いしますね、安藤さん。」

「了解。」

「あ、城ノ内先輩。」

 直美に呼ばれてその場を離れる樹里だったが、その後を追いかけて来たクラウディアが、樹里を呼び止める。振り向いた樹里に、クラウディアは背伸びをする様な姿勢で、小声で語り掛けるのだった。

「わたし、古寺先輩、苦手です。」

 珍しく不安気(げ)な表情をするクラウディアに、樹里は微笑んで言った。

「大丈夫よ、佳奈ちゃんは、ちょっとずれた所は有るけど、少し、無邪気(イノセント)が過ぎるだけだから、慣れてちょうだい。」

 その時、安藤と共に新型観測機の置いてある、隣の天幕の方へと歩き出した佳奈が、クラウディアに呼び掛ける声が聞こえた。

「クラリ~ン、おいで~。レクチャー受けに行くよ~。」

 げんなりとした表情で、クラウディアが言う。

「ほら、あの調子には付いて行けそうにありません。」

「あはは、まぁ、頑張って、クラリン。」

「城ノ内先輩まで、クラリンって呼ばないでください!」

 樹里に背を向けて、安藤と佳奈の方向へ歩き出したクラウディアの背中を、樹里は軽く叩いて送り出す。その時、再び、佳奈がクラウディアを呼ぶ。

「早くおいで~、ク~ラリン。」

「クラリン、呼ばないでください!」

 語気を強めてクラウディアが抗議するのだが、佳奈は意に介さない。

「えぇ~いいじゃない~。」

「良くありません。」

「あははは、流石の危険人物も、佳奈ちゃんには敵(かな)わない様子ね~。」

 二人の遣り取りを聞いていた安藤は、笑ってそう言うのだった。

「何ですか?危険人物って。」

「維月ちゃんから、聞いてるわよ。色々と武勇伝が有るって話。」

「武勇伝って、日本(こっち)に来てからは、まだ、大した事はしてませんよ。」

「そりゃ、大した事されちゃったら、会社が困るから~。」

 安藤はそう言って明るく笑うと、クラウディアの肩を軽く叩くのだった。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.01)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-01 ****


 2072年7月2日、土曜日。この日は、防衛軍の演習場を借用しての、HDG-A01 と LMF に因る火力運用試験が実施される日である。
 出力は抑えて実施するとは言え、荷電粒子砲の実射等、危険な項目が予定に組まれている為、天野重工本社からは少なくないスタッフが派遣される大掛かりな試験である。防衛軍からも関係者が視察に訪れる予定だと、緒美ら天神ヶ﨑高校『兵器開発部』の部員一同は聞かされていた。
 試験を行う陸上防衛軍の演習場は、天神ヶ﨑高校からだと自動車で一時間半程の、学校が所在するのとは別の山腹の、なだらかな斜面に造成されており、普段は近辺に展開する陸上防衛軍部隊が射撃・砲撃訓練に使用している。
 HDG-A01 と LMF 及び関連機材は、本社が手配したトランスポーターに前日の内に積載済みであり、午前中に試験場へと移動を開始していた。一方、兵器開発部の部員一同は、学校所有のマイクロバスにて、午前中の授業を終えて、午後十二時半頃に学校を出発した。因(ちな)みに彼女たちの昼食は、立花先生が手配した弁当を移動中の車内で、と言う段取りであった。

 天神ヶ﨑高校『兵器開発部』一行のマイクロバスが演習場のゲートを通過し、現地へと到着したのは、午後二時少し前だった。
 演習場には北端側管理棟の前に天幕が、二箇所に分けられて、合計四張り設営されていた。東側二張りの白い天幕には天野重工の社名が入っており、それらと少し離れて設営されている西側二張りの天幕は迷彩柄で、これらが防衛軍の物である事は一目瞭然である。
 天野重工の天幕の南側には、午前中に学校を出発していた二台のトランスポーター既に到着していた。HDG を積載した特製コンテナ式の一号車が天幕の前に、その後ろに開放式荷台の二号車が駐められている。二号車の荷台には LMF が積載されているのだが、出発時に機体に被せてあったシートは、既に取り外されていた。
 天神ヶ崎高校のマイクロバスが白い天幕の北側に停車すると、強い日差しの中、立花先生を先頭に白い夏制服の部員一同が降りて来る。彼女達はそれぞれが身分証となる入場証を、首から提(さ)げている。
 白い天幕の周囲では作業服姿の天野重工のスタッフが準備の為に行き交っているが、唯一、白シャツにネクタイと言う出で立ちの男性が『兵器開発部』一行がバスから降りて来るのを認めて、声を掛けて来た。

「おぉ、ご苦労さん。いい天気になって、良かったね。」

「何やってるんですか、こんな所で!飯田部長。」

 突然声を掛けて来た飯田部長の存在に驚き、挨拶も忘れて声を上げる立花先生であった。

「何やってる、とはご挨拶だねぇ。」

 飯田部長は、大きな声で笑った。

「すみません。飯田部長がいらっしゃってるとは、思ってなかったもので。」

「あはは、社長を始め開発部や試作部の部長連中も来たがってたんだが、結局、都合が付いたのが、わたしだけだったのさ。まぁ、わたしは防衛軍(あっち)側の対応をしなきゃならないって都合なんだが。」

 そう言って、飯田部長は親指で背後方向の、迷彩柄の天幕を指した。
 そんな飯田部長と立花先生との遣り取りを少し離れた場所で聞き乍(なが)ら、ブリジットは目の前に立っていた直美の耳元に顔を寄せ、小さな声で尋ねる。

「…どなたです?」

「飯田部長、事業統括部の。」

「事業統括部?」

「簡単に言えば、社長の次の次の次位に偉い人。」

「成る程。」

 直美の説明は、会社の組織構成を未(いま)だ把握していないブリジットには、非常に解り易かった。そんな具合にひそひそ話をしていたブリジットに向かって、飯田部長が声を掛ける。

「キミが、今日、LMF のドライブを担当してくれる、ボードレール君だね。」

「あ、はいっ。」

 ブリジットは少し背筋を伸ばす様に、飯田部長に返事をする。その様子に、ブリジットの右隣に居た茜が、くすっと笑った。

「それから、キミが HDG 担当の天野君、会長のお孫さん。」

 今度は、茜に飯田部長が声を掛けるので、茜は静かに会釈をする。

「うん。事故とか起きない様、呉呉(くれぐれ)も気を付けて。宜しく頼むよ。」

「はいっ。」

 茜がはっきりとした調子で返事をすると、飯田部長はにこりと笑うのだった。そして、その表情の儘(まま)、言った。

「さて、じゃ、立花君。それから鬼塚君も、取り敢えず、防衛軍関係者の方(ほう)へ挨拶に行っとこうか。」

「わたしは兎も角、鬼塚さんはいいんじゃないでしょうか?」

 怪訝(けげん)な顔付きで、立花先生はそう意見するのだが、飯田部長は意に介さない様子で答える。

「大丈夫、大丈夫。今日来てるのは HDG 推進派って言うか、こっちの理解者ばかりだから。まぁ、話はわたしがするから、君達はニッコリ笑って『宜しくお願いします』ってだけ、言っておけばいいよ。それよりも、鬼塚君に会って連中がどんな顔するか、それが見物だと思うよ。まぁ、何にせよ、あっちの関係者とも、ここらで一度顔合わせは、しといた方がいいと思うから。」

「分かりました。そう言う事でしたら。」

 緒美は一歩進み出て、微笑んで、そう飯田部長に答える。

「あはは、相変わらず、鬼塚君は度胸が有って、いいね。」

 そう言って上機嫌そうに笑うと、飯田部長は振り向いて、天幕の下で作業中の女性社員を呼ぶのだった。

「おーい、安藤君。」

 立花先生よりも少し年下風のその女性社員は、「はい」と返事をすると、少し間を置いて作業を中断し、小走りで飯田部長の方へと向かって来る。

「現場の音頭取りは、彼女に任せてあるから。細かい事は、彼女の指示に従ってね。じゃ、立花君、鬼塚君、行こうか。」

 飯田部長が防衛軍の天幕の方へ歩き出すと、入れ違う様に部員一同の前へとやって来た安藤に「あとは宜しく」と声を掛け、その儘(まま)、立花先生と緒美を伴ってその場を離れて行ったのである。

 

- to be continued …-

 

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HDG ストーリー内の記述変更

HDG のストーリーにて、登場する企業名に「三ッ星」と言う名称を設定していたのですが。元々は実在する某日本企業の名称の捩りだったのですが~字面から「サムスン三星)」と関連づけられると嫌なので、「三ッ星」から「三ツ橋」へと変更する事にしました。

 こちらの既掲載分と Pixiv の掲載分のストーリー文面について、該当する記述は変更済みです。
 今後も設定の変更や記述の最適化等のために、掲載済みのストーリー文面を誤字脱字の修正以外についても、修正・改編する場合がありますのでご了承下さい。

HDG-Brigitte改造・170915

「ITBRT9-03 for Poser」の作業を後回しにして、忘れない内に、と、「HDG-Akane」の Ver.3 仕様をモーフフィギュアへ展開する実験をやってました。
 そんなわけで、「HDG-Brigitte」への移植作業の結果がこちら。
 

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 Ver.3 版のヘッド・オブジェクトに、Ver.2 仕様の Brigitte のヘッド・モーフを移植して、眼窩周辺のポリゴン・メッシュを再編集・整理しました。
 Ver.2 から Ver.3 への移植は、作業的には結構面倒臭いですが、まぁ、出来ない作業ではない事を確認。雑用の合間合間に作業を進めていた都合もあって、結果、二週間ほど掛かりました。
 所が、出来上がったモーフ・データを、中間作業用に作ってあったデータと一緒に、うっかり消してしまった事に翌日気がつき。
 元データは目を閉じた状態で、目を開くのをモーフでやっている仕様なのですが(逆だと、目を閉じた時に瞼の UV が延び延びになるのが嫌なので)、保存されていたのは目を開けた状態の最終形状(しかも、瞼の開度80%)だったので、そこからベースとなる目を閉じたモーフと、そこから目を開くモーフ(瞼の開度100%)の復元をやるハメになりました。
 幸い、一度やった作業を直ぐにやり直したので作業勘が残っていた事と、最終形状が一部でも残っていたので、復元作業は一週間足らずで完了したわけですが。中間作業データの管理は、ホント、細心の注意が必要というのが今回の教訓。
 そんな感じで、正面からのサンプル画像がこちら。
 

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 それと、瞳縮小モーフの適用(ビックリ顔)のサンプル画像。
 

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 取り敢えず、Ver.2 用のモーフキャラを Ver.3 へ移植できることが確認出来たので、そっちの作業はまた、ぼちぼちと進めていく事として、「ITBRT9-03」の作業を始めますかね~。

HDG-Akane改造・170822

思う所あって、「FF02」こと、「HDG-Akane」フィギュアを弄ってました。一週間ぐらいのお試し感覚で始めたのが、結局三週間。
 先ず、現行バージョン(Ver.2)のサンプル画像。
 

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 瞳のハイライトが、左右で違っているのが分かると思いますが~コレは眼球モデルの構造のせいで、普通にライティングするとこのようになります。
 現行バージョンの眼球モデルは、顔表面の曲率に合うように眼球全体の大きさを決めているせいで、現実にはあり得ない巨大な眼球となっています。頭部中央で左右の眼球が交差するぐらい。
 これはマンガ的なデフォルメを優先した上で、顔面、左右の目の間をなるべくフラットにしたいというデザイン的な要望からこのような構造になったのですが、眼球自体が巨大であるので正面から見た眼球の頂点部が目の中央に位置していません。そのため、瞳(黒目)部分が眼球の頂点になる場所から顔の外側へオフセットするようにモデリングしました。瞳が眼球の頂点部になくても、レンダリング結果に特に違和感は無かったので、このような形状を選択したのですが、只、瞳のハイライトだけは思い通りに入ってくれず、これがストレスでした。
 右目用と左目用に別々にハイライト用のライトを用意したりしていたんですが~瞳の位置が眼球の頂点部からオフセットしているので、第一にハイライトが出る位置が読み辛い。それを右目と左目で同じ様な位置にハイライトを入れようとすると、ライトの位置調整と光量調整が非常に煩雑になり、余計に画作りに時間が掛かっていました。
 そこで、瞳が眼球の頂点部にある(常識的な)形状なら、左右で綺麗にハイライトが入るかな?という実証試験として今回の作業が始まったわけです。
 ハイライトの検証自体は、まぁ、予想通り。矢張り、眼球の頂点部に瞳があれば、ハイライトの位置は予想しやすいし、左右でほぼ揃いました。
 問題は、眼球の構造が変わる事によって顔の方が変わってしまう事。元々、顔の曲率に合わせて眼球の大きさを決めていたのを、今度は眼球の大きさを基準に顔の目元の凹凸を編集しなければならず、特に眼球に合わせると目元が大きく窪む事が、当初の「目の間の顔面をなるべくフラットに」というデザインの指針と相反するのでした。
 最終的に眼球は作り直した物を二度ほどサイズを調整し直し、顔の方も眼窩周辺のポリゴンと目の開閉モーフと共に五回ほど調整を繰り返し、なんとか印象の変わらないと思われる程度でフィニッシュした積もりです。
 で、改造版のサンプル画像はこんな感じ。
 

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 眼球が小さくなっているので、目頭の形状処理がマンガ的に省略された解釈から、よりリアル寄りになりましたが、コレはこうしないと 3D 的には収まりが付きませんでした。眼球は小さくなっていますが、瞳の大きさは元とほぼ同じになっています。
 マンガ的な目の表現を追求するなら、眼球を球状にするのをあきらめるか、頭部自体をもっと極端にデフォルメする必要がありそうですね。「マンガとリアルの中間」と言うのが私の志向する方向なので、私の目指す方向とは合いませんが。
 
 正面からのサンプル画像はこんな感じ。
 

f:id:motokami_C:20170822173257j:plain

 
 眼球の構造の都合で、ちょっと寄り目気味になりました。
 瞳が目の中央になるように眼球を外側に動かすと眼球が顔の側面からはみ出るので~顔の幅を変えるか、眼球を更に小さくする必要があるのですが。どちらにせよ、目頭部分が更に落ち込む事になるので、それだけで顔の印象が変わっちゃうんですよね。顔の幅が変われば、もっと印象が変わる事になりますが。
 
 そして、今回、新規に追加したのが瞳の縮小モーフ、と言う事でサンプル画像。
 

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 サンプル画像ので、瞳の縮小が 0.5 設定ですので、更に小さく出来ますが。
 これは驚いた表情とかに利用できるかな、と思って追加したモーフなのですが、キャラによって瞳の大きさを変えたい場合にも利用できそうです。
 
 
 最後に、Toon 版ではなく、標準マテリアル版のサンプル画像。
 

f:id:motokami_C:20170822173327j:plain

 
 こんな感じで、標準マテリアル(SSS適用)でも一応使用出来るようにはなっています。
 
 因みに、サンプル画像はすべてサブデビ(Subdivision Levels:1)有効にて、レンダリングしてあります。
 
 この改造版を正式に Ver.3 扱いにするかどうかは、幾つかサンプル作品を作ってから決めたいかな、と。
 コレを Ver.3 としたら、モーフ・キャラズ(Omi とか Brigitte とか)も再編集しないといけないしなぁ。あぁ、やる事が一杯(笑)
  

STORY of HDG(第7話)Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第7話まとめ版、Pixivへ投稿しました。
 第7話はサブタイトルが二人なので、表紙画像用にキャラを二人分(瑠菜と佳奈)作らないといけないので~余計に時間が掛かりました。変な縛り作っちゃったかな~(笑)
 デザインは決まってたんだから、Poserフィギュアを先に作っとけば良かったんだけどね。まぁ、他の作業との兼ね合いとか何とか。

 

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 第8話は現在、5回分目を打ち込み中。
 コレがいつ上がるのかは、私にも分かりませ~ん。

 

「第7話・瑠菜 ルーカスと古寺 佳奈」/「motokami_C」の小説 [pixiv] https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8205282

STORY of HDG(第7話.15)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-15 ****


「まぁ、お金の事は単純に時間給って訳(わけ)でも無いから。作業内容次第でって事で、その都度判断でいいんじゃない? 井上さんも余り堅苦(かたくる)しく考えないで。会社の方は最終的な責任を全部、あなた達に押し付けたりはしないから。」

「はい…では、取り敢えず、そう言う事で、いいです。すいません、なんだか我が儘(まま)言ってるみたいで。」

 維月は緒美と立花先生へ向かって、軽く頭を下げる。

「いいのよ。ソフト絡みは、わたし達には専門外だから、上級生だけどフォローしてあげられそうにないし。」

 緒美が恐縮気味にそう言うと、立花先生が言葉を繋げる。

「それに関しては、本社のスタッフが必要なフォローが出来る様に話は通して置くから。取り敢えず、中間試験期間が明けたら、一ヶ月ほど本社の開発から人が来る予定だから、先(ま)ずはその人達からレクチャーを受けて貰う事になるかしらね。あぁ、それ迄(まで)に、必要な機材の手配とかも、しておかないといけないわね…。」

「ともあれ、協力して呉れる人が見つかって良かったわ。今日は日曜日なのに、来て貰ってありがとう、城ノ内さん、井上さん。今日の所は、これで終わりって事で。又、詳しい事は試験期間が終わってからにしましょう。明日からは部活も休止期間になるし。」

 と、緒美がここで切り上げようとすると、樹里が言葉を返した。

「あの、佳奈ちゃん達は今日、何時頃迄(まで)の予定ですか?」

「あぁ~、試験期間前だし、四時頃には切り上げる積もりだけど?」

 樹里の問い掛けに答えたのは、恵である。

「わたしはこの後、特に用事も無いので。佳奈ちゃん達を待ってる間、その…仕様書とか、差し支え無かったら見せて頂けないかな、と。」

「あぁ、それなら、わたしも。瑠菜さんから話には聞いていて、ちょっと興味有ったんです。」

 維月も樹里に同調して、そう申し出るのだった。それを聞いて、緒美が視線を立花先生へと向けると、立花先生は静かに頷(うなず)いた。
 緒美は黙って席を立つと、仕様書を保管してある書庫の前へと移動し、しゃがんで下の段から二冊の仕様書ファイルを取り出した。二冊の内一方は、立花先生が使用している、付箋等が貼り付けられた物である。

「どうぞ。このファイルは持ち出し禁止だから、ここで読んでね。」

 長机の上に二冊のファイルを並べ、緒美は樹里と維月の方へと押し出す。

「成る程、これですか。」

「確かに、瑠菜さんの言ってた通り、凄いボリューム。」

 樹里と維月は、口々に感想を漏らすのだった。

「それは全体の仕様書だから、制御関連の記述は少ないと思うけど。」

「いえ、制御する対処がどう言う物か分かってないと、どう制御したらいいのか、分からないじゃないですか。だから、一通り理解はしておかないと。」

 そう言い乍(なが)ら、早速、樹里は仕様書の頁(ページ)を捲(めく)り出す。それは、維月も同様だった。

「開発の方(ほう)に、ソフトの設計仕様書が有る筈(はず)だから、今度、そっちも送って貰えるよう、手配しておくわ。」

「それはそれで、お願いします、先生。」

 立花先生の提案に、樹里は仕様書の記述を目で追い乍(なが)ら答えた。その時、ふと、維月が顔を上げ、立花先生に問い掛けた。

「そう言えば、さっき、試験明けたら一ヶ月程って仰(おっしゃ)ってましたけど…そうすると、日程は夏休みに食い込む予定ですか?」

 その問いには、元の席に戻り、座り直した緒美が答える。

「あぁ、うん。七月一杯は、今度搬入される LMF のテストになると思うの。八月の最終週にもテストの予定が入ってるから、休めるのは八月中の三週だけになっちゃうけど、あなた達は帰省の予定とか、大丈夫かしら?」

 今度は樹里も仕様書から顔を上げ、言った。

「帰省の予定は、まだ決めてなかったんですけど。寧(むし)ろ、夏休み中、寮に残ってても大丈夫なんですか?」

 その質問には、恵がさらりと答える。

「寮の方には、予定を出しておけば大丈夫よ。毎年、部活の都合とか、何だかんだで半数位(ぐらい)の人が、寮に残ってるみたいだし。去年は、わたし達もお盆の前後二週間ほど帰省しただけで、あとは毎日部活やってたものね。」

 それ対して、維月が思わず突っ込みを入れる。

「夏休み、潰れるのが前提なんですか?」

「そこは御相談、って事よ。夏休みをフルに休みたいって向きなら、本社の応援とか相応の手当を考えないといけないから、遠慮しないで言ってね。別に、夏止み中の活動を無理強(むりじ)いする気は無いから、ご実家とも相談しておいて。中間試験が終わったら、成(な)る可(べ)く早く予定を出して貰えると、助かるわ。」

 半分、冗談で言った事に、立花先生から極めて真面目に回答をされ、恐縮する維月だった。
 その雰囲気を察した樹里が、フォローを入れる。

「先生、今のは維月さんの冗談ですから。」

「あら、そう? でも、先輩も学校も会社も、休み無しで働け!とは言わないし、そうならない様に監督や調整するのがわたしの役目だから。休暇返上でも時間外作業でも、必要で有るならやって貰って構わないけど、それが過ぎる様なら止めるわよ、覚えておいてね。」

 立花先生は優し気(げ)な笑顔で、そう言い、結んだ。


 以上が、兵器開発部に瑠菜と佳奈が参加し、それに樹里と維月が合流する事になった顛末である。
 この後、前期中間試験が終わり二週間程が経って、LMF が天神ヶ﨑高校へ搬入され、それに Ruby が搭載される事となる。その作業に先駆けて、本社開発部から Ruby と LMF それぞれのソフト担当者が派遣され、LMF のオペレーションや Ruby の搭載作業等に就いて、樹里と維月に対してレクチャーが行われた。
 当初は自信無さ気(げ)な発言をしていた樹里だったが、維月も含めて二人共、オペレーションに限れば実務には支障のない能力を認められ、必要に応じて本社からフォローを受けられる条件で、一年生であり乍(なが)ら樹里が天神ヶ﨑高校兵器開発部側のソフト担当責任者に確定する。維月に就いては当初の希望通り、樹里のアシスタントと言う事で、正式な入部は見送られたのだった。


 一方、直美から CAD の講習を受けていた瑠菜と佳奈であるが。CAD の操作に関しては直美の指導により、ほぼ習得したものの、製図に就いては授業よりも先行して学んでいる事もあり、急激な上達は難しい状況となった。教えている直美自身も学生であり、経験豊富と言う訳(わけ)でもなかったので、指導には難渋する場面も多分に見られる様になったのである。
 加えて、夏休み中には緒美と直美の二人が『自家用航空操縦士免許』を取得する為、飛行機部の対象者と共に三週間の合宿講習に出掛ける事が決まっており、留守を預かる恵一人では二人の CAD 製図を指導するのは難しい、と言う局面が訪れたのだった。と言うのも、恵は緒美や直美に比べて、CAD 製図が余り得意ではなかったのである。
 因(ちな)みに、何故『自家用航空機操縦士』の資格が必要となるのか、に就いてなのだが。HDG の飛行能力付与は当初から存在した計画なのだが、その能力試験の実施にはチェイス機に因る飛行状況の確認や、事故が起きた際の迅速な対応が不可欠だと、本社側が指摘した事に『自家用航空機操縦士』資格取得の案件は端を発する。飛行試験の都度、『飛行機部』に協力を求める、と言う方法も考えられたのだが、機材は『飛行機部』から借用するにしても、操縦は『兵器開発部』自前でも出来る様になっておいた方がいいだろうと言う事になり、夏休みの時点で免許取得の条件として法令に定められた「十七歳」に達している、緒美と直美が操縦要員として選ばれた、と言うのが、事の大まかな経緯である。
 その様な事情で上級生二人が不在となる上、折から本社開発部へと提出される図面に不備が散見されていた事も有り、それを見兼ねた実松課長と、現役時代から実松課長とは昵懇(じっこん)であった前園先生が、瑠菜と佳奈に対する二週間に渡る CAD 製図特訓の講師を買って出る事になる。


 こうして『兵器開発部』の人員が補強された事に因り、緒美のアイデアや仕様書の内容が次々と図面化されて、本社へ届けられる様になったのである。それに呼応する様な本社技術陣の努力と労力を得て、HDG の開発と試作機製作は進展を続け、年が明けて二月の末、遂に HDG-A01 試作機が天神ヶ﨑高校へと搬入される運びとなるのだった。
 しかし、試作機が搬入されて以降、緒美達は HDG-A01 のテスト・ドライバー担当者の人選と、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターのデザインに就いて頭を悩ませ続ける事になる訳(わけ)なのだが、そのれら課題の解決には、茜が入学して来る四月を待たねばならなかったのは、既に語られた通りである。

 

- 第7話・了 -

 

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