WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第9話.07)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-07 ****


「それが…こっちは、見つかりませんね。移動してるんでしょうか?」

「もう少し、撮影範囲を広げてみようか。」

 瑠菜と共にディスプレイを見詰めている直美が、提案する。

「分かった、捜索を続けて。」

 緒美は屈(かが)めていた腰を伸ばし、ヘッド・セットのマイクを口元へ引き上げて、茜に話し掛ける。

「天野さん、南側のトライアングルの位置はデータ・リンクで、そちらでも解るわね?」

「はい。Ruby が捕捉してますから。」

「じゃあ、そこから狙える?」

「もうちょっと、近付けば。でも、木が邪魔で直撃が出来るか、分かりません。」

「当てなくてもいいわ。火事にならない様に、出力を落として、トライアングルの周囲に二、三発撃ち込んでみましょうか。それで、トライアングルが飛び上がったら、そこを LMF で狙撃出来るでしょう。出来そう?ボードレールさん。」

「出来ると思います。ねぇ、Ruby。」

「ハイ。照準は、お任せください。」

「北側のトライアングルは引き続き捜索してるから、先(ま)ずは南側のを、先に片付けておきましょう。」

 茜は、緒美の指示を聞いて、銃口を下げていた CPBL を再び正面に構え直す。

「では、100メートル程、前に出ます。」

 レーダー施設の上空でホバリングを続けていた茜だったが、重心を少し前に倒して、西へ向かって暫(しば)し移動すると、再び空中に静止する。そして、CPBL銃口をトライアングルが潜んで居る、木々が繁茂(はんも)する斜面へと向ける。

「荷電粒子ビーム出力は、10パーセントに設定します…ブリジット、そっちの準備はいい?」

「いいよー、何時(いつ)でも。」

 茜はブリジットの返事を聞いて、CPBL のトリガーに、マニピュレータの指を掛けた。

「じゃ、行くよ…発射!」

 乾いた破裂音と共に青白い閃光が三度、木立に向かって走ると、着弾点の木の枝が揺れ、木の葉が散り、土煙が立ち上がる。が、トライアングルに命中したかどうかは解らない。
 その時、LMF のコックピットでは、Ruby がブリジットに注意を促(うなが)していた。

「トライアングルが動きますよ、ブリジット。」

「オーケー。」

 正面のスクリーンに画像処理されて映し出されているトライアングルが、一度、身を屈(かが)める様に機体を沈めると、四本の足を素早く伸ばし、直上へジャンプした。しかし、LMF のプラズマ砲はその軸線を、トライアングルから外す事は無い。
 スクリーンの表示は自動的に、何度か切り替えられたが、ターゲットのロックオン状態を表すシンボルは変わらない。ブリジットは落ち着いて、右側コントロール・グリップのトリガーを引く。
 トライアングルは木々の上へと、その姿を現した瞬間、青白い閃光にその機体の中心部を吹き飛ばされ、残った機体後部と頭部が、飛び立った元の場所へと落下したのだった。

「…あと、一機。」

 その様子を、佳奈の操作するコントローラーのディスプレイで確認していた緒美は、呟(つぶや)く。それとほぼ同時に、直美が瑠菜に話し掛けるのだった。

「もう、北側の斜面には居ないんじゃない?移動してるのよ。カメラの向きをレーダーの方に向けて。動いてるなら、熱分布画像(サーモグラフィ)よりも、普通のカメラ映像の方が解り易いわ、木の揺れで解る筈(はず)。」

「切り替えます。」

 瑠菜は直美の意見に従って、球形観測機のコントローラーを操作する。ディスプレイには、山頂付近の木立が映し出され、画面は北側斜面から山頂方向へと向かって流れていく。その時、画像に異変を感じた直美が、声を上げた。

「画面、右上!揺れてる、木。」

 瑠菜は、慌ててその部分を画面の中央へと持って来る様に操作した。画角を調整する為に、ズーム率を減らした瞬間、画面に茜の HDG が映り込んだのに気が付いて、直美が再び声を上げる。

「鬼塚!もう一機の現在位置、天野の真下辺りかも。」

 瑠菜が操作するコントローラーのディスプレイには、HDG の下方付近の木立が不規則に揺れているのが、映像から見て取れた。
 それを確認した緒美が、慌てて茜に注意を促(うなが)す。

「天野さん!あなたの下にトライアングルが居るかも。注意して!」

 そう言い終わるよりも早く、トライアングルは茜を目掛けて、飛び上がっていた。

「えっ!?」

 右腕の鎌状のブレードを振り翳(かざ)して上昇して来るトライアングルの姿が、視線を下へ向けた茜の目に飛び込んで来た。
 茜は咄嗟(とっさ)に、右側のマニピュレータで握っていた CPBL を、機関部上部のブリッジ状になっているキャリング・ハンドル部分を左側マニピュレータで掴んで引き取り、空いた右マニピュレータで BES の柄(つか)を握ると、スリング・ジョイントから外して振り上げた。
 間も無く、下から掬(すく)い上げる様なトライアングルの斬撃が HDG の足元に達するが、それはディフェンス・フィールドに因る防御エフェクトの、青白い光の壁に弾かれる。

「オーバー・ドライブ!」

 茜の発した音声コマンドに因って、BES の刀身が前後に二つに割れると、その間から放出された荷電粒子が、物理刀身の凡(およ)そ二倍の刃(やいば)を形成する。
 一方、第一撃を弾かれたトライアングルは、体勢を立て直すべく、その儘(まま)通過しようと上昇を続ける。が、その左腕の付け根付近に、振り下ろした BES の荷電粒子の刀身を食い込ませると、茜はその儘(まま)、自身の身体全体が前転する勢いで右腕を振り抜いて、トライアングルを袈裟切(けさぎ)りにしたのだった。

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 二つに分断されたトライアングルは、動きを止め、その儘(まま)落下して行った。

「ふぅ、危ないなぁ…。」

 茜は落下して行くトライアングルを見送り乍(なが)ら、息を吐(つ)いて、そう呟(つぶや)いた。
 BES を待機モードに戻して、背中を伸ばし、一度、周囲を見回して、茜は緒美に尋ねた。

「これで、終わり、でしょうか?」

 緒美は、一呼吸置いて、言った。

「確認するわ。」

 クラウディアへ視線を向けると、緒美は尋ねた。

「状況は?」

「あ~はい。防衛軍の情報では、この周辺に他のエイリアン・ドローンは探知されていませんし、こちらに向かっている物も、現時点ではありませんね。」

 そう答えた後で、茜の行動をモニターしていなかったクラウディアと維月は、緒美に聞くのだった。

「四機目、仕留めたんですか?」

「天野さんが?」

 緒美は微笑んで、一言で答える。

「そうよ。」

 一度、顔を見合わせたクラウディアと維月だったが、クラウディアが慌てて緒美の方に向き直り、声を上げる。

「あ、部長さん。防衛軍の戦闘機が近付いて来てます。時間にして、あと六分位(ぐらい)の位置。」

「そう、分かった。 天野さん、ボードレールさん、ご苦労様。あなた達は直ぐに戻って来て、防衛軍の戦闘機が接近してるそうだから。」

 緒美のヘッド・セットには、茜とブリジットの返事が聞こえていたが、それは他の一同には解らない。しかし、南側大扉越しの正面辺りに見える LMF は、間も無く向きを変えて第三格納庫へ向かって動き出し、その LMF が格納庫に到着するよりも早く、茜の HDG が格納庫の前、駐機場に降り立つのだった。
 茜は一度振り向き、接近して来る LMF のコックピットに向けて手を振る。キャノピーを持ち上げて有視界モードで操縦していたブリジットはそれに答えて、手を振り返した。それを見届けて、茜は格納庫の中へ向けて歩き出す。

「観測機も、戻しますね、部長。」

 振り向いて、瑠菜がそう聞いて来る。その隣にしゃがみ込んでいた直美は立ち上がり、背中を伸ばすのだった。

「いいわ。古寺さんの方も、観測機を戻しておいてね。」

「は~い。」

 佳奈が素直に返事をすると、その隣に陣取っていた恵も腰を伸ばす。そんな時、緒美に取っては不意に、直美が声を掛けるのだった。

「ねぇ、鬼塚。天野ってさぁ、ひょっとして、本当は剣道部に行きたかったんじゃないのかな?」

「どうしたの?急に。」

 緒美は問い掛けられた言葉の真意を測り兼ねて、聞き返した。

「いや、さっきのみたいに動けるって事はさ、結構な実力者って事なんじゃないのかなって思えてさ。」

「あぁ、成る程…そう言う事。」

 言われてみれば、と思い、緒美が少し複雑な表情を浮かべると、そこに恵がコメントを挟(はさ)む。

「でも、天野さんは有段者ではない、とか、大会に出る様な選手にはなれなかった~みたいに言ってたけどね。」

「そうなの?」

 恵の語った情報は、直美の持った印象からは意外だった。

「それは又、今度、本人に確認してみましょうか。」

 緒美がそう提案した所で、メンテナンス・リグの前に辿り着いた茜が、呼び掛けて来るのだった。

「すいませ~ん、HDG を降ろすので、リグの操作お願いしま~す。」

「はいよ~。 佳奈、こっちのコントローラー、終了作業お願いね。」

「は~い。」

 瑠菜が立ち上がり、メンテナンス・リグへと駆け寄って行く。それと入れ替わる様に、球形観測機が次々と格納庫内へと戻って来ると、それぞれが自律制御で元のコンテナへと納(おさ)まるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第9話.06)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-06 ****


「茜、こっちのプラズマ砲は射程が長いから、射撃のタイミングは、あなたに合わせる。指示して。」

 茜のヘッド・ギアのレシーバーから、ブリジットの声が聞こえて来る。

「分かった。こっちは最大出力でも、もう少し引き付けないと。一キロぐらい迄(まで)、近付いて来るのを待つわよ。」

「今の速度、分速六キロだと、十秒の距離よ。近過ぎない?」

「ここが敵の目標なら、接近して来たら、もっと減速する筈(はず)よ。」

「そうか、そうね。成る程。」

 一方、第三格納庫内部では、緒美が佳奈と瑠菜に指示を出していた。

「観測機、残り三機も出しておいてちょうだい。」

「はい、じゃぁ、こっちのコントローラーは、わたしが操作しますね。」

 瑠菜は佳奈の隣に座り込んで、もう一機のコントローラーの操作を始める。

「古寺さんの操作する観測機の一番機は、天野さんの南側へ、瑠菜さんの一番機は天野さんの北側へ、天野さんからそれぞれ500メートル位(くらい)離れた位置に配置して。天野さん達の第一撃の後の、敵の動きを追える様にしておいて。それと、森村ちゃん、新島ちゃん。二人も、観測機のディスプレイに付いて。現場を監視する目は、多いに越した事は無いから。」

 緒美に指示され、恵は佳奈の背後に、直美は瑠菜の横へと移動し、コントローラーのディスプレイを監視する態勢を整える。

「鬼塚先輩、わたしは何をすればいいです?」

 クラウディアの後ろに立っていた維月が、緒美に尋ねる。緒美は微笑んで、答えた。

「井上さんは、カルテッリエリさんのサポート…じゃない、監視を、引き続きお願いね。」

「部長、言い直すの、逆です。」

 恵が振り向いて、緒美に突っ込むのだが、維月は笑って、答える。

「あははは、どっちにせよ、了解です。」

 間も無く、三機の球形観測機が格納庫から、外へと出て行った。

「古寺さん、二番機の方は LMF の様子を記録を。瑠菜さんの二番機は天野さんの HDG の動作を追い掛けて記録しておいてね。」

「はーい。」

「分かりました。」

 佳奈と瑠菜は、緒美の指示に従って、それぞれコントローラーを操作する。

「よし、これで、二番機は追跡モードで HDG を撮影記録開始っと。」

「こっちも、LMF の追跡撮影記録を始めておきます。」

 それぞれのコントローラーのディスプレイには、小さなウインドウ表示で茜の HDG と、ブリジットが乗る LMF の様子が映されている。それを確認して、瑠菜の横にしゃがみ込んでいる直美が尋ねた。

「一番機の方で、エイリアン・ドローンの姿、捕らえられる?」

「やってみます。」

 瑠菜は一番機からの映像表示ウインドウを拡大し、カメラの向きや倍率を切り替え乍(なが)ら、接近して来るエイリアン・ドローンを捜した。間も無く、山間(やまあい)を背景に、横に四機並んでいる三角形の小さな機影がディスプレイに映し出された。

「見付けました。…ホントに三角形なんですね。」

 瑠菜が素直な感想を漏らすが、その画面を見詰める直美と緒美は無言だった。

「こっちも、見付けました~。」

 同様に、佳奈も自身が操作する観測機一号で、向かって来るエイリアン・ドローンを映像で捕らえていた。佳奈と瑠菜、双方のコントローラーに表示された画像を見比べて、緒美が指示を出す。

「二人共、余りアップにしないでおいてね。カメラの画角から外れたら、追えなくなるから。あ、一号機の映像も記録を始めて。」

 その頃、茜は、防衛軍の監視レーダー施設上空100メートル程に HDG の高度を止(とど)めて、CPBL を正面に構え、目標との距離を測り乍(なが)ら狙撃の機を窺(うかが)っていた。目標との距離は、CPBL に搭載された照準センサーに含まれているレーザー式測距ユニットからの情報が、眼前のゴーグル型スクリーンに表示されている。
 時刻的に太陽は西へ傾き、太陽が真正面では無いにしても、逆光気味ではスクリーンの表示が見辛(づら)く感じられたので、茜はフェイス・シールドを下ろして視界を確保した。スクリーンの表示は、ヘッド・ギアに装備された光学センサーからの映像に切り替わる。

「ブリジット、そろそろ、仕掛けるよ。準備はいい?」

 茜がブリジットに呼び掛けると、ブリジットは直ぐに返事をした。

「オーケー、何時でも。」

 唾液を飲み込み、茜はカウント・ダウンを始めた。

「5、4、3…。」

 エイリアン・ドローンは進路を変える事無く、真っ直ぐ向かって来る。緒美の言った通り、HDG や LMF を警戒している様子は全く無い。

「…2、1、発射!」

 茜の構えた CPBL が破裂音を立てて、青白い荷電粒子を撃ち出す。カウント・ダウンに合わせて、LMF からも青白い閃光が走り、向かって来るエイリアン・ドローンの内、先頭の一機が LMF のプラズマ砲に因って機体の凡(およ)そ半分を吹き飛ばされ、茜が狙っていたもう一機は正面から荷電粒子の束に機体の中央部を貫かれ、それぞれが山中へと薄い煙を引いて落ちて行く。
 ブリジットは第一撃の直後に、予めロック・オンしていたもう一機にプラズマ砲の軸線を合わせ直し、透(す)かさず第二撃を発射したのだが、それよりも早く、エイリアン・ドローンの残り二機が回避機動を開始していた為、命中はしなかった。
 トライアングルの回避機動は第一撃の命中と、ほぼ同時に開始されており、茜も、第二撃を撃とうと試みたが、北向きに進路を変えたもう一機に照準を合わせる事すら出来なかったのである。狙撃を免(まぬが)れたエイリアン・ドローンの残り二機は、急減速して格闘戦形態に変形しつつ、それぞれが別の場所、背の高い樹木が林立する山腹へと降下して行った。

「すいません、見失いました。右手の一機は、尾根の北側に降りたと思うんですけど。ブリジット、南側のもう一機は?行方(ゆくえ)、分かる?」

「山の中に降りたのは見えたけど、正確な位置は分からない。」

「慌てないで、二人共。木立が密集してる所だと、エイリアン・ドローンも動きは制限されるから。向こうから仕掛けて来るには必ず、飛び上がる筈(はず)だから、そこを狙い撃ちして。敵の位置は、こっちでも捜してみるわ。」

「捜すって、どうやるんです?」

 ブリジットが緒美に聞き返す。

「観測機よ。降りた場所は、両方共、大体の見当は付いてるから。天野さんも、今の位置からは無闇に動かないでね。」

 緒美の声がレシーバーから聞こえて間も無く、レーダー施設上空の茜の視界には、左右から球形観測機が前方へと飛んで行くのが見えた。トライアングルが降下したと思われるエリアを、上空から撮影している様子が見て取れる。

「木が邪魔で、エイリアン・ドローンの姿は見え辛(づら)いですね。」

 格納庫内部では、瑠菜が観測機をし乍(なが)ら、そう感想を漏らす。

「熱分布画像(サーモグラフィ)か、赤外線画像で見えないかしら?」

「やってみます~。」

 緒美の提案を受けて、佳奈は熱分布画像(サーモグラフィ)に切り替え、瑠菜は赤外線画像で、それぞれが尾根の南側と北側の捜索を始める。間も無く、佳奈が声を上げた。

「見付けました、部長。 瑠菜リン、熱分布画像(サーモグラフィ)だと分かり易いよ。」

「オーケー、こっちも熱分布画像(サーモグラフィ)に切り替える。」

「古寺さん、座標は解る?」

「う~ん、トライアングルの座標は解りませんけど、観測機一号のなら。観測機は、トライアングルの、ほぼ真上にいますけど。」

ボードレールさん、あなたのほぼ正面、観測機が飛んでるの、見える?」

 緒美からの通知を受けて、ブリジットは LMF の、メイン・センサーで球形観測機を捜す。

「えぇっと…はい、見えます。」

「トライアングルは、その下よ。LMF のセンサー、熱分布モードでトライアングルが確認出来る?」

Ruby、熱分布モードで捜索して。球形観測機の、下辺りの範囲。」

「分かりました。少々お待ち下さい。」

 LMF のコックピット内部、ブリジット正面の表示画像に熱分布画像がオーバーラップされ、熱分布が周囲よりも高い場所がスクリーンの中央になる様に視界が調整される。

「中央部分を光学処理して再表示します。」

 熱分布画像の表示が薄くなり、木の幹の隙間の陰影が画像処理で強調されると、それが昆虫のカマキリにも似た、トライアングルの格闘戦形態である事が浮かび上がって来るのだった。

「確認しました。エイリアン・ドローン、トライアングルです。」

 Ruby の報告を聞いて、ブリジットは緒美に問い掛けるのだった。

「今、動きが止まってます。ここから砲撃しましょうか?」

「いえ、照準を付けた儘(まま)、待機して。LMF のプラズマ砲を撃ち込んで、山火事とか起きても困るから。そうなったら、熱分布モードでの捜索も出来なくなるし。飛び上がった所を狙いましょう。」

「分かりました、待機します。」

 ブリジットの返事を聞いて、緒美は瑠菜に尋ねる。

「北側のもう一機は、見つかりそう?」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.05)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-05 ****


 その時、佳奈が歓声を上げるかの様に、言った。

「部長、動きましたよ!」

 間を置かずに、クラウディアも声を上げる。

「こちらも迎撃コマンド、確認しました。ランチャーのステータス、モニター出来るか、やってみます。」

 クラウディアは嬉々として、愛機のキーボードを叩いている。
 緒美が、佳奈の操作しているコントローラーを覗(のぞ)き込むと、そこには北向きだったランチャーが反時計回りに旋回している様子が映し出されていた。
 直美と瑠菜も、緒美の後ろからコントローラーのディスプレイを覗(のぞ)き込む。

「あれ、無人で動いてるの?」

 直美が、緒美の背後から尋ねる。ディスプレイの中で、ミサイル・ランチャーは回転を止め、仰角を微調整している。

「ええ、どこかの基地から遠隔操作されている筈(はず)。」

 そう、緒美が答えた瞬間、ディスプレイに映っているランチャーから、最初のミサイルが発射された。それを見て、佳奈が「わぁっ」と声を上げるが、間も無く、次々と、全てのミサイルがランチャーから発射されるのだった。

「カルテッリエリさん、ミサイルの状況、追える?」

「やってみます。」

「多分、ミサイルは一分足らずで目標に到達する筈(はず)だけど。」

 緒美とクラウディアが、そんな遣り取りをしている一方、佳奈は球形観測機でミサイルを追跡しようと、飛翔方向へカメラを向ける操作を試みるが、直ぐにそれは徒労と終わった。

「あぁ~あっと言う間に見え無くなっちゃった。」

 結局、そこに居た一同の視線は、クラウディアへと向けられ、彼女からの情報を待つのだった。
 そして三十秒ほど沈黙が続いた後、クラウディアが口を開く。

「エイリアン・ドローンのレーダー反応、二機が消えたみたいですね。」

 クラウディアはモバイルPC を数回操作して、別の情報に画面を切り替え、補足する。

「防衛軍は…二機撃墜と判定した様です。」

「何だよ、確率通りかよ!」

「統計って偉大ね。」

 直美が漏らした素直な感想に、恵がコメントを加える。そして緒美は冷静に、一言、返すのだった。

「偶然よ。」

 そこで、防衛軍の動向を探っていたクラウディアが報告する。

「確認しました、こちらに向かって来ているのは、あと四機。時間にして、約五分の位置。防衛軍の戦闘機部隊に、先に西向きへ分かれた一隊と併せて、対処するように命令が出てますね。四国上空を通過していた敵の本隊らしき四十五機は、高度三万メートル程度を保った儘(まま)、東向きに進行中。防衛軍は敵の目標は名古屋だと想定して、対抗策を準備中みたいです。」

「此方(こちら)側を戦闘機部隊が対処って、今からだと到着する迄(まで)、三十分は掛かるわね。」

 その緒美の発言を聞いて、今迄(まで)黙って様子を見ていた茜が、南側大扉へと向かって歩き出す。

「天野さん。」

 緒美に声を掛けられ、一度、茜は立ち止まり、緒美の方へ顔を向ける。

「行きます。何か、指示が有ればお願いします、部長。」

「分かった。気を付けてね、無理はしないで。」

「はい。」

 茜は再び、歩き出す。すると、LMF のホバー・ユニットが唸りを上げ、コックピットからブリジットの大きな声が聞こえて来る。

「わたしも、LMF 出しまーす。」

 LMF のホバー・ユニットから床面に打ち付けられた空気が四方に流れ、それが一同の髪や制服のスカートを揺らす。LMF がゆっくりと前進を始めると、瑠菜と直美が駆け出し、先回りして LMF が通れる様に大扉を押し開けるのだった。

「天野さん、ボードレールさん。」

 緒美は、ヘッド・セットのマイクを口元に引き上げ、出て行こうとする二人に呼び掛けた。

「あなた達は軍人じゃないんだから、命を懸ける必要は無いのよ。怖いと思ったり、危険だと思ったら、直ぐに逃げなさい。だれも、責めたりしないから。いいわね。」

「大丈夫ですよ、多分。 ブリジットは、無理してわたしに付き合わなくてもいいのよ。」

「冗談、茜に付き合う為だったら、わたしはどんな無理だってするの。」

 緒美のヘッド・セットには、二人の笑い声が聞こえていた。

「いいわ。それじゃ、天野さん。外に出たら、あなたは山頂のレーダー上空で待機して。そこからエイリアン・ドローンに、最初の一撃を加えます。」

「分かりました。」

 茜はスラスター・ユニットを軽く噴かし、勢いを付けて大扉から外へ出ると、上空へとジャンプした。

「それから、ボードレールさん。あなたは格納庫を出たら真っ直ぐ、滑走路の南側へ移動して西向きに停止。LMF のプラズマ砲は威力が強過ぎるから、間違っても町の方へ向かって撃たないように。必ず、山の上空へ向かって撃ってね。第一撃は、天野さんと同じタイミングで。」

「分かりました~。」

 ブリジットが操縦する LMF は、格納庫から外へ出るとその儘(まま)直進し、緒美の指示通り、滑走路を横切ると南側の舗装されたエリアで機体の向きを変えて停止する。
 天神ヶ﨑高校は南側から北に向かって登る、山腹の斜面に平地を造成して建設されているが、滑走路は当然、山の斜面から一番離れた南側に造られている。滑走路の基礎は、山腹の斜面を切り崩した土砂による盛土で整地されているが、斜面に建てられた支柱の上に建造された平面構造物の上に敷設されている部分が、滑走路面積の凡(およ)そ半分を占めている。
 現在、その平面構造物の上に、LMF は位置しているのだった。LMF はプラズマ砲ターレット上のメイン・センサーを旋回させ、目標を捜索している。

Ruby、光学センサーで目標を捕捉出来る?」

 ブリジットはコックピット・ブロックのキャノピーを閉鎖して、砲撃に備える。キャノピーの内側はスクリーンになっており、外部の様子が映し出されている。

「最大望遠で西南西方向を捜索中です。」

 コックピット内にスクリーンには、メイン・カメラの画像を正面の山間(やまあい)から空の間辺り迄(まで)、上下に右から左へと映し出して、接近して来ている筈(はず)のエイリアン・ドローンを捜している。そこに、緒美の声が聞こえて来る。

「現在、接近中のエイリアン・ドローンは減速しつつ、高度は400メートルから降下中だそうよ。わたし達の場所からだと、高さ的には、ほぼ正面になる筈(はず)。距離的にはあと、約三分の位置。」

「部長、向こうは撃って来ないんですよね?」

 思わず、ブリジットが問い掛ける。

「トライアングルは飛び道具を持ってないから、安心して。それから、彼方(あちら)側は初めて見る兵器に対しては警戒をしないから、初手に就いてはこっちが断然有利。出来れば、最初の一撃で、四機全部、撃破したい所ね。」

 そんな緒美の希望に対して、茜が所感を伝える。

「HDG で別々の目標を、二連射で狙撃するのは、ちょっと厳しいですよ。」

「分かってる。先(ま)ずは、最初の一撃で確実に一機、仕留めてちょうだい。」

 茜のヘッド・ギア、レシーバーには緒美の返事に続いて、Ruby の合成音声が聞こえた。

「目標を捕捉。照準をロックします。」

 その時点で、まだ目標を発見出来ていなかった茜が、Ruby に声を掛ける。

Ruby、データ・リンクで目標の情報をちょうだい。」

「茜、データ・リンクは既に確立済みです。」

 即座に返ってきた Ruby の言葉を聞いて、そう言えば、今日の試験項目が HDG と LMF とのデータ・リンクの検証だった事を、茜は思い出した。
 茜は胸元に装備されているスクリーンを立ち上げて、表示を戦術情報画面に切り替え、Ruby からのデータ・リンクに因る目標の位置情報を確かめる。表示では、エイリアン・ドローンは『へ』の字を上下逆さにした形の編隊で、高度360メートルを西南西方向から接近して来ている。先頭の一機と、画面上で左手後方の一機を LMF がロックオン状態なのが、戦術情報画面の表示で読み取れた。
 茜が画面上で先頭の機体に対して右手後方の機体を指定すると、ヘッド・ギアの射撃照準モードになっているスクリーンに、標的の位置が表示されるのだった。
 茜は右腰部のジョイントから CPBL を外して、両手で正面に構えて銃口を目標の方向へと向ける。すると、標的の表示がロックオン状態のシンボルへと変わり、以降、照準の微調整は HDG のアーム・ユニットが補正を行っている事を示すのだった。
 同時に、ヘッド・ギア両サイドに取り付けられた光学センサー・ユニットが目標の画像を望遠モードで撮影し、標的シンボルに重ね合わせて表示するのだった。そこには、小さく、少々不鮮明乍(なが)らも『トライアングル』の名前の通り、三角形のシルエットが映し出されていた。
 茜がエイリアン・ドローンと対峙(たいじ)するのは、勿論、初めてだったが、スクリーンに映ったそれは、以前、ネット等で見掛けた画像の通りだったので、恐怖とか緊張とか、何か特別な感慨をもたらす事は無かった。
 それは、LMF のコックピット内で、同じ様にスクリーンに映ったエイリアン・ドローンを見詰める、ブリジットも同じだったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第9話.04)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-04 ****


「部長、準備は終わりました。皆さんは、早く避難して下さい。」

 茜は、まだメンテナンス・リグに接続された儘(まま)だったが、階段を降りて来る緒美に向かって、そう声を掛けた。すると、メンテナンス・リグの後方に居た瑠菜が茜の前側に歩み出て、HDG のスカート状の DFG(Defense Field Generator:ディフェンス・フィールド・ジェネレーター)を握った右手で軽く叩いて、言うのだった。

「馬鹿な事、言ってるんじゃないの。一年生に危ない真似させておいて、上級生だけ逃げられる訳(わけ)、無いでしょ。」

 瑠菜は、微笑んで言葉を続ける。

「それに、誰かが操作しないと、あなたは、このリグからも降りられないんだから。」

 その瑠菜の言葉を受けて、傍(そば)までやって来た緒美が言うのだった。

「そう言う事。あなたがやるって言うなら、わたし達はあなた達が無事に戻って来られる様に、最大限のサポートをするのよ。 城ノ内さん、HDG のデバッグ用コンソール、起動しておいてちょうだい。」

「やってま~す。貴重な実戦データを記録するんですよね?部長。」

 樹里は、既にデバック用コンソールの前に立っており、機材の起動作業を始めていた。そして、コマンド用のヘッド・セットを手に取ると、緒美に渡す。

「勿論、記録もして貰うけど、HDG と LMF 、Ruby が、正常に稼働しているかどうかモニターしてて。少しでも異常が有ったら直ぐに報告してね、城ノ内さん。」

「はい。心得てます。」

 緒美は渡されたヘッド・セットを装着し、話し始める。

Ruby、それからボードレールさんも、聞こえる?」

 少し離れた、LMF のコックピットに居るブリジットは身体を起こし、緒美に左手を上げて答えるのだった。緒美の耳には、ブリジットと Ruby の返事が音声でも聞こえていた。それは、ヘッド・ギアを装着した茜にも同様だった。
 ここで、Ruby が外部スピーカーを使用して返事をしなかったのは、二階通路へ出て来た自警部の長谷川と田宮の姿を認めていたからである。

「カルテッリエリさん、現在の敵の状況は?」

 作業台の上に愛用のモバイル PC を置いて、そのディスプレイを覗き込み、クラウディアが答える。

「今は、ちょっと進路を変えたみたいです。ここからだと南西方向を、西寄りに北上していますね。ここが目標じゃ無かったんでしょうか。時間的には、今の速度で十分位(ぐらい)の距離、です。」

「高度を下げると、対空迎撃を警戒して、目標でない市街地の上空は、飛行ルートとしては避けるはずよ。多分、山の上に来たら、又、こちら向きにコースを変えるんじゃないかしら。まぁ、遠ざかって行って呉れるのなら、それに越した事は無いけど。」

 状況の変化に対しても、緒美は冷静に最悪のケースを想定していた。

「確かに、高度は下がって来てますね…あ、コース、変わりました。矢っ張り、こっちに向かって来てます。大体、西南西方向から向かって来てますね。」

「分かった、引き続き、カルテッリエリさんは、防衛軍の動きも合わせて監視をお願い。 佳奈さん、この前、本社から受け取った観測装備、月曜に追加で届いた1セットも含めて、四機全部出せる?」

「はい、準備しま~す。」

 佳奈は直様(すぐさま)、観測装備の本体とコントローラーの一式が納められたコンテナを取りに、倉庫へと向かった。そして、瑠菜と直美が佳奈を手伝う為に、その後を追う。
 そんな折り、緒美の背後で樹里が、突然、声を上げるのだった。

「あぁ、田宮さん。あなたは、ダメ。ここに有る物は、見ない方がいいわ。」

 緒美が振り返ると、長谷川と田宮、自警部の二人が階段を降りて来ていたのだった。
 田宮が『普通科』の生徒なのを知っていたので、樹里が警告を発したのだ。
 田宮は階段の途中で立ち止まり、困惑気味に樹里に問い掛ける。

「どういう事?」

 それには、緒美が答えるのだった。

「ごめんなさいね、今、細かい説明をしている時間は無いんだけど。ここに有る物は、本社から業務委託の体裁(ていさい)で開発中の物件だから、企業秘密とかの都合で、秘密保持誓約の無い人は、知らない方がいい物なのよ。誓約が有っても、知らないのに越した事は無いから、長谷川君も引き上げて貰えるかしら?」

 緒美の説明では、田宮は直ぐには納得は出来なかったのだが、『特課』の生徒である長谷川には、直ぐに説明の意味に見当が付いたのだった。

「分かったよ、鬼塚さん。それで、さっき言ってた、立花先生への伝言って?」

 長谷川は田宮と共に立ち止まった階段の途中から、緒美に尋ねるのだった。

「あぁ、うん。先生には、『ごめんなさい』って、『みんなを止められませんでした』って伝えておいて。 あなた達は、早くシェルターへ。」

「分かったよ。 行こう、田宮君。」

 長谷川は田宮の肩を叩き、引き返す事を促(うなが)す。二人は階段を上がり、部室を経由して外階段へと向かった。

「部長、すみません。わたしの所為(せい)で…。」

 茜は、立花先生への伝言内容を聞き、何と無く申し訳(わけ)無い気持ちになって、緒美に詫(わ)びるのだった。

「いいのよ。わたしだって、この学校を壊されるのは嫌だもの。」

「怒るでしょうか?立花先生。」

「怒るでしょうね。」

 茜に聞かれて、そう答えた緒美は、ふっと笑うと、そこに居る一同に向かって、少し大きな声で言った。

「あとで、先生には謝りに行くわよ。全員揃(そろ)ってね。」

 緒美の、その言葉に「はい。」とは、誰も答えなかったが、その代わりに、一同はクスクスと笑うのだった。
 直美と佳奈が、手押しの台車に乗せて運んで来た観測装備一式を床に降ろし、その起動準備を始める一方で、瑠菜は HDG のメンテナンス・リグの操作パネルへと向かい、HDG との接続アームを降ろして接続を解除する一連の操作を行う。
 メンテナンス・リグから自由になった茜は、歩いて北側の壁際に置かれている、HDG の武装が納められたコンテナへと向かった。コンテナの扉を開くと、CPBL(Charge Particle Beam Launcher:荷電粒子ビームランチャー)を取り出し、腰部右側のジョイントに接続する。次に BES(Beam Edge Sword:ビーム・エッジ・ソード) をコンテナから引き抜き、腰部左側のジョイントに納めると、緒美の声がレシーバーから聞こえて来た。

「天野さん、向こうは斬撃を仕掛けて来るけど、相手に付き合って斬り合う必要は無いからね。基本は、距離を保ってランチャーで。」

「解ってます。」

 茜は短く答えると、左腕に DFS(Defense Field Shield:ディフェンス・フィールド・シールド)を接続した。左腕を前に構えて、茜はスライドする形で格納されている DFS の下半分を展開させ、もう一度、短縮状態に戻して、DFS の動作を確認するのだった。

「部長、準備出来ました。」

 観測装備のコントローラを二台並べて、佳奈が声を掛けて来る。緒美は直ぐに、指示を出した。

「じゃぁ、早速一機、飛ばしてちょうだい。レーダー基地に在る、ミサイル・ランチャーの様子を確認したいの。」

「は~い。行きま~す。」

 佳奈がコントローラを操作すると、上半分が開かれたコンテナに二つ並んで収められている球形観測機の一機が、すぅっと浮き上がる。球形観測機が南側へ向かってゆっくりと移動を始めると、それに先回りして、瑠菜が格納庫の大扉を、扉一枚分、押し開くのだった。

「瑠菜リン、ありがと~。」

 球形観測機は勢い良く外へと飛び出し、視界から消えた。

「ミサイルなんて有ったの?あそこ。」

 佳奈の後ろで操作の様子を見ていた直美が、振り向いて緒美に尋ねるのだった。

「ええ、レーダー基地自体は遠隔操作で無人なんだけど、防空用の発射機(ランチャー)が一機、設置されてるの。ある程度、エイリアン・ドローンが近付いて来れば、防衛軍は先ず、ミサイル・ランチャーを起動する筈(はず)だわ。だから、わたし達が動くのは、その後。」

「それじゃ、そのミサイル・ランチャーのコマンド状況を監視します。」

 緒美の発言を受けて、クラウディアが猛烈な勢いで、モバイル PC のキーをタイプし始める。その様子を後ろから覗(のぞ)き込んで、維月が聞くのだった。

「出来るの?そんな事迄(まで)。」

「まぁ、多分。」

 その一方で、球形観測機の操作を行っている佳奈が声を上げる。

「そのランチャーって、この、箱見たいのですか?」

 コントローラーに写される球形観測機からの映像を指差し、佳奈が振り向いて緒美に確認を求めた。緒美は画像を確認して、答える。

「そうよ、余り接近しないで。そのランチャーが動いたら教えてね、古寺さん。」

「は~い。」

「じゃぁ、部長。ひょっとしたら、そのミサイルで全部、方が付く可能性も?」

 大扉の方から戻って来た瑠菜が、緒美に尋ねた。

「そうね。可能性は有るけど、望み薄、かな。」

 瑠菜の問いに対する緒美の返事を聞いて、今度は、直美が尋ねる。

「ミサイル、あのタイプの命中率って?」

「さぁ、エイリアン・ドローンに対してだったら、30%位(くらい)だったかしら? 何かの資料で、そう読んだ記憶が有るけど。」

「ランチャーには何発、入ってるの?」

 そう聞いてきたのは、恵だった。

「六発。」

「こっちに向かって来てるのが六機で、撃ち落とすミサイルが六発。全部当たれば、それでいいけど、命中率を30%とすると、六掛ける 0.3 で 1.8 って事になるから、確率的には、命中するのは一機、良くて二機って事ね。」

「残りの方が、多いって事か。」

 恵の計算に、呆(あき)れ声を上げる直美だった。緒美は「気休めにもならない」と、そう思いつつも言うのだった。

「確率は確率よ。全弾命中する奇跡でも祈ってて。」

「生憎(あいにく)、わたしは神サマは信用してない。」

 直美が真面目な顔で言い返すので、緒美は微笑んで言葉を返した。

「奇遇ね、わたしもよ。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第9話.03)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-03 ****


「あ、ヤバイ、自警部の見回り。」

 思わず、直美がそう呟(つぶや)いた。
 自警部は避難指示が出された後、校内に残っている者が居ないか、全ての教室や部室等、学校の施設を全てチェックして回るのだ。当然、兵器開発部の部室や、第三格納庫も例外ではない。
 恵は声を潜めて、緒美に問い掛ける。

「どうする?緒美ちゃん。」

 その問いに緒美が答える前に、直美が小声で言うのだった。

「取り敢えず、ドアはロックされてるから、居留守で乗り切る?」

「ダメよ。非常時なら校内のどこのドアでも開けられる、緊急パスコード持ってるんだから、自警部は。」

 直美の提案を恵が一蹴した直後、自警部部員がドアを叩く。

「おーい、誰か残ってるのか?開けるぞー。」

 それから間も無く、ドアが開かれると、ヘルメットを被り、プロテクト・アーマーを着用した男女二人組の自警部部員が部室内に入って来た。そして、男子自警部部員が部長である緒美に向かって声を掛ける。

「何やってんの、鬼塚さん!避難指示の放送、聞こえてただろ。」

「あぁ、何だ、長谷川君か。見回りご苦労様。」

 声を掛けてきた自警部員は緒美達と同じクラスの男子生徒だったので、緒美は何事も無いかの様に返事をした。
 一方で、樹里がもう一人の、女子自警部部員に声を掛ける。

「あれ?田宮さん、今日は当番の日だったの?」

 彼女は、樹里の級友だった。田宮は、困った様に愛想笑いを浮かべる。

「ご苦労様、じゃないだろ。ここに居るので全員?避難して!直ぐに。」

 長谷川はその時点で部室に居る人数を確認して、避難するよう、緒美に促(うなが)す。

「いやぁ、下にあと四人ほど居るんだけどね。」

 少し戯(おど)けた調子で直美がそう言うと、困惑した表情で長谷川が言葉を返した。

「冗談じゃないよ。今回のは訓練じゃないんだから。」

「直ぐに避難が必要です。下に居る人を呼んでください。」

 長谷川に続いて、田宮も声を上げた。
 それとほぼ同時に、長谷川の腰に装備されていた携帯型の無線機から声が聞こえて来る。

「こちら本部、B3班、状況を報告して下さい、どうぞ。」

 長谷川が慌てて無線機をベルトから取り外すと、彼の正面に立っていた直美が、さっと手を伸ばし、長谷川の手元から無線機を奪い取った。

「あ~こちらは異常無し、です。」

 直美が勝手に本部への返事をするが、それには当然、相手側も黙っては居ない。

「誰だ?今の声、長谷川じゃないだろっ!長谷川はどうした?」

「あ~うるさいっ。」

 直美は無線機の電源スイッチ・ノブを、オフへと回す。

「ちょっと、新島さん、返して。」

 長谷川は無線機を取り返そうと右腕を伸ばすが、直美はそれをさっと躱(かわ)し、三歩ほど後ろに下がると真面目な顔で言う。

「今、わたし達は、あなた達と遊んでいる場合じゃないの。」

「それはこっちの台詞(せりふ)だ。兎に角、無線機を返して。」

 女子に飛び掛かるのは躊躇(ちゅうちょ)し、長谷川は立ち止まって直美に向かって手を伸ばす。その横、長谷川とスチール書庫との間を抜けて、田宮が前へ出ると、直美と田宮が睨み合う状況となる。田宮は少しずつ、直美との間合いを詰めて行った。

「ここで押し問答してる時間は無いわ。新島ちゃん、返してあげて。 長谷川君には二つ、お願いが有るの。一つ目は、暫(しばら)くわたし達の事は見逃して欲しいの。それと、二つ目は、多分、シェルターに避難してる立花先生を捜して、先生に伝えて欲しい事が有るの。」

「何をやる気なんだよ?鬼塚さん。」

「こっちに向かっているエイリアン・ドローンを、わたし達で迎撃します。」

「何を言って…」

「細かい説明をしている暇は無いの。カルテッリエリさん、今、敵の状況は解る?」

 長谷川が何か言い返そうとしたのを、途中で遮(さえぎ)り、緒美はクラウディアに状況の確認を求める。

「さっき、こっち向きに飛んで来てた十二機は二手に分かれました。半分の六機は西向きに進路を変えてます。あとの六機は相変わらず、こっちに向かってますが、随分と減速したので、今の速度で約十五分の位置ですね。」

 クラウディアは愛用のモバイル PC を覗(のぞ)き込んで、状況を説明する。その背後には、既に諦(あきら)め顔の維月が、黙って立っていた。

「減速したって事は、ここを通過する気は無いって事ね。みんな、下に降りて。わたし達は、天野さん達を全力でサポートするわよ。」

 そう言い残すと、緒美は部室奥の出口へと向かって歩き出した。

「はい。そう言う訳(わけ)だから、暫(しばら)く報告は待って貰えるかな?」

 直美は微笑んで、田宮に無線機を渡すのだった。そして、緒美を追って部室を出て行く。
 同じ様に、恵と樹里、クラウディア、そして維月が、緒美を追って部室奥の北側出口から出て行った。その場に取り残された、長谷川と田宮の二人は、困惑して顔を見合わせるのだった。

「どうします?先輩。」

 直美に渡された無線機を、長谷川に手渡しつつ、田宮は聞いた。

「どうしたものかな…。」

 長谷川は無線機の電源を入れ直し、自警部の本部へコールを送る。

「あ~、こちらB3班、本部どうぞ。」

「こちら本部、長谷川、無事か?どうぞ。」

「はい、長谷川、田宮、両名とも異常無し。それでちょっと、もう少し、状況確認の必要な事案有り。確認が取れ次第、又、連絡します。あ、それから、シェルターの方に特許法の立花先生が避難されていると思うんですけど、所在を確認しておいて貰えますか?どうぞ。」

「何かトラブルか?応援が必要か?どうぞ。」

「いえ、応援は必要はありません。どうぞ。」

「逃げ遅れた生徒が居なければ、君らも早く戻って呉れよ。どうぞ。」

「了解。確認が済み次第、戻ります。以上、報告終わり。」

 通話を終えて、長谷川は大きく息を吐(は)いた。

「いいんでしょうか?」

 田宮が問い掛けると、少し考えてから長谷川は答えた。

「取り敢えず、嘘は言ってない。 兎に角、もう少し様子を見て、立花先生への伝言の内容とか聞いてから引き上げるかな。連中は何を言っても聞いて呉れそうにないし。」

「迎撃って言ってましたけど、出来るんですか? そもそも、エイリアン・ドローンがこっちに来てるって情報自体…。」

「知らないよ。でも、実際に避難指示が出てるんだから、こっち方面が危険になってるのは本当なんだろうな。」

 長谷川は緒美達が出て行った部室の奥へと歩き出す。田宮も、その後に続いた。


 一方、その頃の格納庫内では、メンテナンス・リグの起動が終わり、茜が HDG に自身を接続していた。その背後では、LMF がメイン・エンジンの起動を終え、コックピットに収まったブリジットが、Ruby と共にシステム・チェックを進めている。

「あぁ、そう言えば、先生の許可、取らなくて大丈夫だったでしょうか?」

 唐突にそう言って、茜は HDG の各パーツをロックする。

「茜ンは真面目さんだなぁ。」

 正面に立っていた佳奈が笑い乍(なが)ら、茜にヘッド・ギアを渡した。

「大体、あの先生が許可して呉れる訳(わけ)、無いでしょ。」

 当然という面持ちで、瑠菜がそう言うと、それには笑みを浮かべて佳奈が付け加える。

「智リンも真面目さんだからね~。」

「成る程。確かに。」

 茜は、ヘッド・ギアを装着すると、スクリーンを降ろして機体のステータスを確認する。

「じゃぁ、スラスター・ユニット、起動します。」

「どうぞ~。」

 茜の宣言に、メンテナンス・リグの後方、操作パネルへと回った瑠菜が答えた。
 そこで、階段を降りて来る緒美達の姿に、茜は気が付いたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.02)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-02 ****


「わたし達で、迎撃するべきです。防衛軍の戦闘機が来る前に。」

「ダメよ。許可出来ません。」

 緒美は即座に、クラウディアの提案を拒否した。
 それに間を置かず、ブリジットはクラウディアを睨み付けて、声を上げる。

「大体、何が『わたし達で、』よ。HDG が使えるのは、今は茜だけじゃない! あなた、茜に嫌がらせがしたいだけなんじゃないの?」

 真っ直ぐクラウディアを見詰めて、緒美は微笑み乍(なが)ら言った。

「天野さんやボードレールさん、それにカルテッリエリさん、あなたにも、実戦をさせる為にテスト・ドライバーに選んだ訳(わけ)じゃないの。もしも、実戦をする必要が有るのなら、その時はわたしがやります。」

 すると、緒美の、その発言に対して、樹里が口を挟むのだった。

「残念ですが部長、HDG のパラメータは、天野さんに合わせて調整してあるので、部長が使うのは、直ぐには無理です。」

「解ってます、城ノ内さん。だから、今回は全員、避難します。もう、時間が無いわね。天野さん、ボードレールさんはその格好の儘(まま)で移動しましょう。」

「あの、Ruby は? Ruby はどうするんですか?部長。」

 茜にそう尋(たず)ねられ、初めて緒美の表情が強張(こわば)った。

Ruby は…仕方が無いわ。ここに置いて行くしか。」

「せめて、コアだけでも外して、一緒に避難出来ませんか?樹里さん。」

「無理よ、正規の手続きを踏んで Ruby を停止させるだけで三十分は掛かるのに、LMF からコアを外すなんて、三時間は必要よ。」

「そう…ですか。」

 がっくりと肩を落とす茜を、ブリジットは慰める様に後ろから肩に手を回して引き寄せる。そして、何か閃(ひらめ)いた様に、ブリジットは提案する。

「あの、Ruby には自律行動を許可しておけば、危険な状態になれば逃げるなり、反撃するなり出来るんじゃないですか?部長。」

 ブリジットの、その提案には、Ruby 自身が回答する。

「ブリジット、それは無理です。自律行動で回避機動は実行可能ですが、ドライバーに因る操作が無い場合、緒美か智子の許可が無ければ反撃は行えません。わたしだけの判断では、攻撃的な行動は行えない様に規定されています。 わたしの事はお気になさらず、皆さんは早く避難して下さい。」

「そんな…。」

 茜とブリジットは揃って、視線を緒美の方へ向ける。緒美は真面目な顔で、言うのだった。

「格納庫に入っていれば、LMF はエイリアン・ドローンに見付からないかも知れないし、防衛軍の攻撃に巻き込まれたとしても、LMF の中に格納されていれば、Ruby の本体は、そう簡単に壊れる物じゃ無い筈(はず)よ。」

 緒美の気休めとも取れる説明に、クラウディアが語気を強めて反論する。

Ruby のコアは無事かも知れませんけど、コアの外側に有るライブラリのメモリーやデータが破損したら、Ruby の疑似人格を構成する大半の情報が失われます。ですよね?城ノ内先輩。」

「そうね。」

 樹里は目を閉じて、短い言葉でクラウディアの意見に同意すると、大きく息を吐(は)いた。それ迄(まで)、クラウディアの背後に立って様子を見ていた維月が、樹里が敢えて言わなかったであろう内容を、説明する。

「もしも、そうなったら、Ruby を再構成しても、今の Ruby とは違う人格になるでしょうね。Ruby の人格は経験の蓄積に因って構成されてるから。理屈上は、Ruby が起動して以降と同じ出来事を、同じ順番で経験させれば、同じ人格が出来上がる筈(はず)だけど、そんなの現実には無理だから。」

「イツキ…頭を撫でないで。」

 席に座った儘(まま)だったクラウディアの背後から、彼女の頭の上に乗せられた維月の手を、クラウディアは払い除けてそう言うと、維月は微笑んで詫びるのだった。

「あぁ、ゴメン、ゴメン。」

 すると、再び、Ruby の合成音声が響く。

「わたしの処遇に就いて、議論は必要ありません。わたしは飽くまで製造物であって、この人格も擬似的な物です。それよりも、皆さんの安全の方が優先されます。早急に避難される事を、強くお薦めします。」

「兎に角…。」

 Ruby に次いで、緒美が少し大きな声を上げると、そこで一息を吐(つ)き、そして言った。

「…今は、避難しましょう。Ruby も自分の為に、みんなに危険な目に遭って欲しくは無いのよ。」

 その言葉を聞いて、座っていたクラウディアが両手を机に突いて立ち上がり、声を上げるのだった。

「先輩方は!この学校が壊されてもいいんですか?…わたしは、ここに来て、まだ三ヶ月だけど、ここが好きですよ。だから、嫌です。一部でもここが壊されるのは、嫌なんです。」

「それは、わたしも嫌だけど。だからといって、下級生に危険な行動をさせると言う選択肢は、ここの責任者としては有り得ません。全員、シェルターへ避難するのよ、急ぎましょう。」

 クラウディアが言い終わると直ぐに、緒美は決然と言葉を返すのだった。しかし、緒美に避難を指示されても尚(なお)、誰もがその場に足を止(とど)めた儘(まま)だった。沈黙の儘(まま)、そこに居た誰に取っても異様に長く感じられた数秒が経過し、最初に動いたのは、茜だった。
 茜はブリジットと共に、インナー・スーツから着替える為に隣室へ行く途中で、部室の奥、南側の二階通路出口の前に立っていたが、踵(きびす)を返して北側の二階通路への出口へと歩いて行き、ドアノブに手を掛ける。

「天野さん。」

 緒美が呼び止めると、茜はドアノブに手を掛けた儘(まま)、振り向いて言った。

「部長の立場は、解ります。でも、わたしは、お爺ちゃんが作った、この学校が壊されるのは、矢っ張り嫌です。わたしに出来る事が有るなら、やります。」

 そう言い終わると、茜はドアを開き、何時(いつ)も格納庫へと降りるのに使う階段に通じる、二階通路へと出て行った。

「しょうがないなぁ~。メンテナンス・リグ、起動しないと。」

 茜の後を追って、瑠菜が部室奥、北側の出口へと向かう。そして、佳奈が瑠菜の後を追うのだった。

「瑠菜さん、古寺さん…。」

 緒美の呼び掛けに一度、立ち止まった瑠菜は振り向かずに言った。

「わたしも、この学校が壊されるのは嫌です。」

 佳奈は振り向いて、にっこりと笑い、言う。

「部長、ごめんなさい~。」

 そして、二人は茜を追って部室を出て行った。
 次いでブリジットが、部室奥側の窓中央上部に取り付けられた Ruby の端末である、小型カメラに向かって声を掛ける。

Ruby、LMF を起動して。わたしが乗れば、茜の援護射撃ぐらい出来るんでしょう?」

  Ruby は、即座にブリジットの呼び掛けに答える。

「ブリジット、LMF を起動するには緒美か智子の承認が必要です。 LMF を起動しても宜しいですか?緒美。」

 Ruby に LMF の起動承認を確認されるも、緒美は目を閉じて黙っていた。

「部長!お願いします。茜だけに、危ない事をさせられません。」

 ブリジットに声を掛けられても、緒美は少し俯(うつむ)き、右手の人差し指を額に当てて、何かを考えているのか、黙った儘(まま)だった。恵はそんな緒美に寄り添う様に近づき、緒美の背中にそっと左手を当てた。

「緒美ちゃん。」

 緒美は一度、大きく息を吐(は)くと、顔を上げて言った。

「いいわ、Ruby、LMF を起動して。」

「ハイ。LMF を起動します。」

「ありがとうございます!部長。」

 ブリジットは、そう言い残すと、二階通路へと飛び出して行った。
 その様子を見て、くすりと笑った直美が、緒美に問い掛けるのだった。

「いいの?本当に。」

 そう聞かれて、緒美は直美の顔を見詰めて言葉を返す。

「あなたも、こうしなさいって、言うんでしょ、新島ちゃん。」

「わたしは、何も言ってないでしょ。」

「言わなくても、顔に書いてある。」

 怒るでもなく、笑うでもなく、真顔で言い返した直美に、緒美は満面の笑みで答えた。
 その時、部室の入り口側の外階段を、勢い良く駆け上がって来る、複数の足音が聞こえて来たのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.01)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-01 ****


 火力運用試験の実施日から数えて四日目の、2072年7月6日、水曜日。既に放課後となり、兵器開発部の部室には、維月を加えた部員一同が集まっていた。
 夏期休暇まで残す所、あと十日となっており、教職員は何かと忙しい様子で、講師扱いである立花先生も学校側の資料製作の手伝いだとか何やらで、この日は、たまたま部室には不在だった。
 先の火力運用試験で HDG-A01 の能力検証には一区切りが着いたとは言え、ブリジットが装着(ドライブ)する予定のB型の納入に備えて、A型で確認しておきたい事項は、まだまだ存在していた。徒(ただ)、A型で空中機動のデータが増える度(たび)に、アップデートの名目でB型の納期がずるずると先送りになっている状況には、緒美と、テスト・ドライバーであるブリジットの二人が特に、もどかしい思いを抱えてはいたのである。
 当初、夏休み期間中、七月末だったB型の納入予定は、八月中になり、八月末になり、遂には、九月中と言う事で、現時点では夏休み明け迄(まで)に完成しない予定に変わっていた。
 そんな状況で、この日に予定されている試験項目は、空中の HDG-A01 と陸上の LMF との、データ・リンクの検証である。水平方向及び、垂直方向それぞれに就いて、どれ位(くらい)離れても LMF、つまり Ruby とのデータ・リンクが維持出来るのか。勿論、設定されたスペックが存在するので、それが実現出来ているのかどうかの検証である。
 茜とブリジットは既にインナー・スーツに着替え、試験内容の最終確認をしていた、正(まさ)にその時だった。
 時刻は、16時49分。突然、女子生徒の声で予め録音されていた放送が、校内に鳴り響く。

「これは訓練ではありません。エイリアン・ドローンに関する避難指示が発令されました。全校生徒は自警部の誘導に従って、速やかに地下シェルターへ避難してください。これは訓練ではありません。繰り返します…」

 同じ内容の放送が六回、繰り返されて、放送は終わった。
 部室内に居た一同は顔を見合わせ、そして立ち上がるが、クラウディアのみは席に座った儘(まま)、慌てて自分のモバイル PC を開くと、何やら操作を始めたのである。

「今…訓練じゃないって言ってた、よね?」

 最初に声を発したのは瑠菜だった。すると、今度は男性職員の声で、追加のアナウンスが聞こえて来る。

「部活動で校内に残っている生徒は、各自、近くの校舎の地下へ、速やかに、移動して下さい。各部活の責任者は、人数の確認をして自警部の担当者に申告してください。それから、寮に居る生徒は寮の地下通路に集合の後、自警部担当者の指示に従って下さい。これは訓練ではありません。各自、速やかに、落ち着いて行動して下さい。繰り返します…」

 男性職員のアナウンスは三度、繰り返されて終わった。それを待って、緒美が口を開く。

「聞こえたわね、みんな。避難しましょう。」

「一番近い校舎って言ったら、グラウンドの向こうの第一校舎よね。結構、距離、有るよね。」

 恵がそう言うと、それに、直美が意見を出す。

「地下道なら、体育館の下にも有るわ。ここからなら、そっちの方が近い。」

「あの、取り敢えず、着替えた方が良いでしょうか?わたしたち。」

 HDG のインナー・スーツを着た茜が、緒美に問い掛ける。

「あぁ~そうね。急いでね。」

「はい。じゃ、ブリジット、急いで着替えて来ましょう。」

「そうね。」

 茜とブリジットは更衣室として利用している、南側の空き部屋へ向かおうと、部室の奥に向かって左手の出口へと歩き出す。

「お手伝いしましょうか?茜ン。」

「あ、大丈夫です、佳奈さん。ブリジットも居て、独りじゃないので。

 佳奈に呼び止められた茜は、振り向いて左手を振り、その申し出を断った。すると、今度はクラウディアが茜達を呼び止める。

「ちょっと、待ちなさい、アカネ。ボードレールも。」

 クラウディアの視線は、モバイル PC のディスプレイに向けられた儘(まま)で、キーボードに置かれた手は、時折、キーを打ったり、タッチ・パッドを撫でたりしている。

「何よ?」

 ブリジットは不審気(ふしんげ)に、声を返した。クラウディアはそれには応えず、顔を上げると緒美に話し掛ける。

「部長さん、ちょっと大変な事になってますよ。」

「どうしたの?カルテッリエリさん。」

「エイリアン・ドローンの割と大きな集団が、九州…西の方から東向きに。今、四国の上辺りを飛んでるみたいです。それで、その一部が今、こっちに向かって接近中。」

 そこ迄(まで)聞いた維月がハッとして、声を荒らげる。

「クラウディア!あなた、まさか、またハッキングしてるんじゃないでしょうね?」

 維月は慌てて、クラウディアの背後に回り込み、モバイル PC のディスプレイを覗(のぞ)き込むのだった。それに対して、クラウディアは平然と答える。

「日本の防衛省と防衛軍。報道機関の発表より、こっちの方が正確…。」

「何言ってんの、直ぐにログアウトしなさい!」

 維月は後ろからクラウディアの両肩を掴(つか)み、前後に揺らし乍(なが)ら言うのだった。

「大丈夫よ、別に、指揮系統に介入したりしてないし、ただ覗(のぞ)いてるだけなんだから~。」

「違法アクセスするだけで犯罪なの!何度言ったら解るの、あなたは。」

 緒美は落ち着いた口調で、クラウディアに語り掛ける。

「カルテッリエリさん、だったら、尚更、早く避難しないといけないでしょ?」

「本当に、いいんですか? 部長さんなら、あいつらがこっちに向かってるなら、目標がどこか、見当が付くでしょう?」

「そうね。多分、ここの山の上、防衛軍のレーダーでしょうね。」

「今迄(まで)ずっと北からだったのが、今回は西から侵入して来てます。それで、九州の西側では、それなりの被害が出たみたいですが、本隊の目標が大阪か京都か名古屋かで、防衛軍の対応が混乱してるみたいです。こっちに向かってる一隊への対応は、現状で後回しにされてるみたいですけど、そうすると、最悪、どんな結果になると思いますか?」

「こっちに来るの、あと何分位(ぐらい)か解る?カルテッリエリさん。」

 緒美は両腕を胸の下で組み、クラウディアに問い掛けた。クラウディアはモバイル PC を数回操作して、顔を上げ、答える。

「あと、十五分から二十分、位(ぐらい)でしょうか。」

「だと、航空防衛軍の方でも、対応が間に合わないかもね。陸上の方だともっと無理。ここのレーダーは潰されるでしょうね。」

「問題なのは、その後です。」

「目標を潰したら、その儘(まま)飛んで行って呉れればいいけど。今迄(まで)の記録からすると、目標の近場に有る建造物や街が、次の襲撃対象になる確率が高いわね。」

 そこ迄(まで)黙って聞いていた直美が、口を挟む。

「ちょっと、一番近い建造物って、この学校じゃない。」

「そうなるわね。その確率が一番高いわ。」

 相変わらず、緒美は落ち着いて言葉を返すのだった。それに、クラウディアが言葉を続ける。

「多分、防衛軍の戦闘機がここに到着する頃には、エイリアン・ドローンの襲撃対象はこの学校に移ってるでしょう。」

 その続きは、緒美が語った。

「当然、防衛軍は街の方へはエイリアン・ドローンを進めたくはないでしょうから、ここで食い止めようと攻撃をするわね。空対空ミサイルで、空中で処理出来れば、校内に残骸が落下する程度で済むでしょうけど、地上に向けて機銃掃射したり、空対地ミサイルを使ったりしたら、学校にも相当の被害が出るでしょうね。」

「学校、壊されちゃうんですか?」

 佳奈が、心細げに声を上げる。

「防衛軍が何も対処しなかったら、エイリアン・ドローンが壊すんだから、どっちにしても学校に被害は出るのよ、古寺さん。」

「取り敢えず、シェルターに居れば安全なんでしょ?」

 今度は瑠菜が、緒美に問い掛ける。が、それに答えたのはクラウディアだった。

「必ずしも、そうとは言えないですよね。ここの地下シェルター、対爆構造では無いですよね?」

「対爆構造…って?」

 そう聞き返したのは、ブリジットである。それには、緒美が答えるのだった。

「爆撃を受けても耐えられる構造って事。機銃掃射程度なら大丈夫だと思うけど、多分、空対地ミサイルがシェルターの真上に直撃したら、崩れるかもね。ここのシェルターは、エイリアン・ドローンから身を隠して、建造物の倒壊から避難する為の施設だから。」

 緒美の説明を受けて、今度は瑠菜が声を上げた。

「それじゃ、シェルターに避難しても危険なんじゃ…。」

「瑠菜さん。シェルターにミサイルが直撃する確率なんて、相当に低いわ。冷静に考えて。」

 その緒美の説得に、クラウディアは反論するのだった。

「でも、部長さん。実際にそうなった事例は、過去に何件も記録が有りますよね。」

 そこ迄(まで)、黙って成り行きを見ていた恵が、幾分か強い口調でクラウディアに問い掛ける。

「それで、カルテッリエリさん? そんな風(ふう)に、みんなの不安を煽って、あなたは何が言いたいのかしら?」

 一呼吸を置いて、クラウディアは答えた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


 

HDG-Omi改修・180313

先日来、少しずつ進めてきた「HDG-Omi」の Ver.3 対応化作業が、ようやく一段落。
 以前よりも鼻が少し高くなったり、頬の肉付きを少々落としたりで、Ver.2 に比べれば多少はアングルを選ばなくなった、かなぁ?と、自画自賛しておこう。

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  当然、先日の肩周りの調整結果も反映して有りますが、PP2014 から影響範囲とかの設定をフィギュアからフィギュへコピー出来るようになったので、その辺りの作業が楽に出来て、助かっています。
 さて、次は「Naomi」の Ver.3 化か?新規に「Juri」用のフェイス・モーフを作るのが先か?
 ちょっと思案しましょう。

HDG-Akane改修・180303

「BRR93 Ver.2」の本体が出来上がったので、「Akane」用に両手保持のポーズを作ってみよう~と作業を始めたのですが。
 以前から気にはなっていたのですが~肩周りの可動による変形が今一つ気に入らず。
 そんな流れで、ここ二日ほど、「Akane」フィギュアの肩周辺の関節設定を Joint Editor での調整にトライしておりました。
 先ずは、調整前、「Akane Ver.2」フィギュアで「BRR93 Ver.2」の両手保持ポーズをレンダリングした画像。

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 これだけ見ると、そんなに変ではないかもですが~次に、今回調整した「Akane Ver.3」フィギュアにて、同じポーズで、カメラや背景、ライティングは同条件でのレンダリング結果。

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 並べて見ても、違いがわかりにくいかも、なので~「Ver.3」の画像に「Ver.2」を50%で重ねたのがこちら。

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 矢印を描き込んだ部分で、形状が変化しています。
 同じシーンを別アングルでレンダリングしたのが次の画像。先ずは「Ver.2」。

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 左肩の背中側がゴツゴツしているのが、気に入らないのですが~これが「Ver.3」になると。

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 ちょっとスッキリしたラインになるんですが~解りづらいかもなので、再び「Ver.3」に50%の「Ver.2」を重ねたのが次の画像。

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 左右の肩が少し盛り上がって、背中のラインがスッキリした感じになりました。
 銃を構えたポーズでは何を気にしているのかが、今一つ伝わらないかも知れないので、もっと解りやすいポーズにて。
 肘が前を向いた状態で腕を肩より上に上げる、と言うポーズが、一番、肩や脇の形状が崩れやすい「きついポーズ」なので、それを従来の「Ver.2」フィギュアでやってみたのが次の画像。

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 画像中に赤丸で囲んだ部分が、気になる箇所でして。先ず、腕の付け根の背中側の出っ張り。次に、脇の前側で胸の上から肩に掛けてのライン、ここはもっと内側によって欲しい所。そして、肩の上側の窪み、ここも本来はもっと内側に盛り上がって欲しい形状。
 これらが「Ver.3」では次の画像のようになりました。

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 肩幅が小さくなったような印象を受けるかも知れませんが、ボーンの位置とかは弄ってません。実際、ここまで腕を振り上げると肩の位置も上がっているので、肩幅は小さくなるはずで、「Ver.2」の時のように胸の上部分の幅が、腕を降ろしている時と同じ幅(※オブジェクト的には実際は少し広がっている)なのが違和感の大元なのです。
 で、例によって「Ver.3」の画像に「Ver.2」の画像を重ねると、次の画像になります。

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 調整によって、可成り変わっている事が分かります。
 関節の回転による変形を希望通りに制御するには、モーフを作って、関節の回転と連動(※JCM:Joint Control Morph)させて~みたいな事を普通はやるんでしょうけれど、「Akane」の場合は極力軽いフィギュアを目指していたので、なるべくそう言った方法は採らない事にしていました。唯一、膝を深く曲げた時に太ももが潰れるのだけは、JCM を利用していますが、ここは膝が一方向にしか曲がらないので制御が単純だったので JCM を採用したのです。
 肩はいろんな方向に曲がる関節で、尚かつ、Collar と Shldr、二つのボーンの影響を受けるという複雑さなので、JCM で制御しようとすると複数のモーフを用意する必要が有りそう。それだけ、フィギュアが重くなるので、それは避けたいと言う事と、モーフ・キャラで各ボーンを拡縮した場合の影響が読み切れないと言う事もあって、この部分の JCM 採用は避けた訳です。
 さて、それでは、今回はどうやって調整したのか、と言う事ですが。Joint Editor の「Bulge Settings(※日本語版では:膨らみを適用、となっているのかな?)」を利用しました。

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 この設定は以前はあまり役に立たなかった項目だったので、気休め程度にしか利用していなかったのですが。「PoserPro2012」以降(※PP2010以降、だったかも?)、「Bulge Settings」にウェイト・マップが適用出来るようになっていたのを思いだして、これを利用してみた訳です。

 以前は設定した倍率で膨らませるか凹ませるかしかできず、その範囲も自由にならなかったので、あまり使い道のない機能だったのが、ウェイト・マップで影響の強度と範囲が指定出来るようになると、想像以上に使える機能に変わっていました。これならよほど複雑な変形をするのでない限り、JCM は使わなくて済みそうだ、と言う事で、意外な所で Poser の進化を実感いたしました(笑)。

HDG-Akane/Brigitte 改造・180130~180211

別の場所では既報ではありますが、再び「Akane」フィギュアのヘッドを弄ったので、一応こちらでも記録。
 掲載画像を見ても、殆ど違いがわからないとは思うけど。

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 目と目の間の鼻の稜線を少し盛り上げ、唇全体を少し後退、併せて唇後退の影響を受ける鼻の下とか頬とかのメッシュを整形しました。
 頭上に光源ある場合に、前の形状だと鼻から下が陰になりがちだったので、その傾向を緩和するための改造。顔の下半分を若干、フラット気味にした訳ですが。
 結果、最初に 2D で描いたテンプレート画像に近いラインになりました。
 件のテンプレート画像は、それほど精度を上げて描いた物ではなかったので、モデリング時の飽くまで目安程度(目鼻の位置バランスの目安)にしか考えていなかったのだけれど、意外とバカにしたものではなかった様で(笑)。一周回って元に戻った感じ。
 

そして、日を改めて「Akane」のヘッド・オブジェクトを Ver.3.0 から Ver.3.1 へ改造したのに伴って、「Brigitte」も~と言う事で、ボチボチと「Brigitte」のヘッド・モーフを弄っておりました。
 その中で、気がついたのだけれど。余所の最近のフィギュア事情は良く知らないのだけれど「HDG-Akane」は目を閉じた状態でモデリングして、目を開けるのをモーフにしてあります。
 以前の Poser フィギュアは目が開いた状態でモデリングしてあって、目を閉じるのがモーフ、と言うのが多かったように思います。
 自分的には、目を閉じた時に瞼(まぶた)の UV がのびのびになるのが嫌で、目を閉じた状態をデフォルトにしてモデリングしたのですが、まぁ、それはどうでもよろしい。
 「Akane」は当初、目を見開いた状態が表情を作る上で必要かな、と言う事で、目を開くモーフの 80% 状態が目を開いた通常状態になるように制御してありました。が、Ver.3.0 で瞳の収縮モーフを追加したので~標準状態で目を 100% 開けておいても、良くなりました。あと、110% までモーフを効かせても形状的には破綻しない事を確認したので、今後は目の開度のデフォルトを 100% に変更することにしました。そんな感じで、比較画像。

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 矢張り、20% 開度が違うと印象が可成り違うなぁ、と。
 で、同様に改修した「Brigitte」の比較画像。

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 そう言う訳で、ベースになる「Akane」のメッシュを弄っちゃったので、他の全てのモーフ・キャラは修正を余儀なくされたのは、まぁ、以前も言及した通り(笑) 目安に作ったテンプレート画像も捨てた物じゃなかった、と言う教訓も得られたのも併せて、他のモーフ・キャラ達もボチボチと改修を進める事にします。
 で、「Akane」の顔を弄る必要が出来たら、今度は「Akane」用のヘッド・モーフにしないと、余計な作業が増えるな~と言う事に後で気がつきました。次回からはそうしよう(笑)

STORY of HDG(第8話.15)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-15 ****


「樹里ちゃ~ん。ちょっと、来て貰えるかな~。」

 声の方に目をやると、安藤が手を振っているのが見える。

「あ、ちょっと行ってきます。みんなは先にバスに乗ってて。」

 そう一同に声を掛けて、樹里は安藤の方へと向かった。安藤の周囲では、幾人かのスタッフが計測機材の取り外しや、ケーブル類の梱包等で忙しそうに動き回っている。
 樹里が近く迄(まで)来ると、安藤は天野重工の大きな書類入れ封筒を差し出した。

「悪いわね。これ、主任から維月ちゃん宛。預かってちょうだいね。」

「一応、中を確認させて貰いますね。」

 樹里は封筒を受け取ると、留め具の紐を解(ほど)き、中を覗(のぞ)く。封筒の中には、綺麗にラッピングされた小さな包みが入っていた。
 封筒の留め具に、元の様に紐を巻き付け、樹里は再び封筒を閉じた。

「では、お預かりします。」

「この書類入れなら、緒美ちゃんにも気付かれないでしょう?」

 安藤が樹里だけを呼んだのは、井上主任から預かった維月への誕生日のプレゼントを、樹里に預ける為だった。この後、予定されている『運用試験の打ち上げと称する誕生日パーティー』は、緒美もサプライズの対象だったので、緒美の前でプレゼントを樹里に預けるのが躊躇(ためら)われたのだ。樹里の役割上、試験中は常に緒美が傍(そば)に居た為、安藤はプレゼントを託す機会を、なかなか掴めずにいたのである。

「でも、本当なら、主任さんが来て、直接、維月ちゃんに渡して呉れたら良かったのに。それに、わたしも、主任さんとは、お会いしてみたかったな。」

 樹里は封筒を眺(なが)め乍(なが)ら、そう所感を漏らした。

「あはは、主任もみんなに、特に樹里ちゃんには会ってみたいって言ってたわ。維月ちゃんと仲良くして呉れて、何時(いつ)も感謝してるって、樹里ちゃんには、そう伝えてって言われてたのよ。」

「そうですか…あ。 ひょっとして、主任さんは、維月ちゃんと会うのを避けてません?」

 樹里は視線を安藤へと戻し、瞳を覗(のぞ)き込む様に見詰めて、そう聞いてみた。

「そんな風(ふう)に見える?」

「だって、主任さんの立場なら会おうと思えば、そんなチャンスは幾らでも有ったと思うんですよね、今迄(まで)。今日は、無理だったのかも知れないですけど。まぁ、維月ちゃんは維月ちゃんで、お姉さんの仕事の迷惑にならない様にって、何時(いつ)も、変に気を遣ってるのが、少し気にはなるんですけど。」

 安藤は小さく息を吐(は)くと、力(ちから)無く笑って、言った。

「主任がお忙しいのは、本当よ。でも、去年、年末の、維月ちゃんの手術の時とか、その前後とかに、御見舞に行けなかった事とか、割と気にはしてるのみたいなのよね。歳が一回りも違う所為(せい)か、妹と言うよりは娘みたいだって言ってたけど、維月ちゃんの病気と仕事が忙しいのが重なった所為(せい)で距離感が解らなくなった…みたいな事をね、まぁ、言ってたりもして。Ruby の案件に目処が付けば、少しは暇になるだろうから、そうしたら、主任の気分も変わるんじゃないかなって、部外者なりに、わたしはそう思ってるんだけど。」

「その目処(めど)は、何時(いつ)頃(ごろ)、付きそうですか?」

「それは残念乍(なが)ら、わたしには見当も付かないわ。ともあれ、それ迄(まで)は、見守ってあげてね、維月ちゃんの事。」

「そうですね。他人に出来るのは、それ位(くらい)ですよね。」

 樹里の返事を聞いて、安藤は「あははは」と笑い、スッと右手を樹里の顔の方へ伸ばし、そっと頬に触れて言うのだった。

「他人、じゃなくて、友達、でしょ。」

 樹里は一度視線を下げ、一呼吸置いて視線を戻すと微笑(ほほえ)んで答える。

「そう、ですね。 では、失礼します。」

 樹里は一歩下がって、安藤に会釈をすると踵(きびす)を返し、マイクロバスへと向かった。


 マイクロバスの入り口、ステップを上がり車内に入ると、運転席の直ぐ後側の席に座っていた立花先生が、樹里に声を掛ける。

「何ですって?安藤さん。」

 樹里は受け取った書類入れ封筒を掲げて見せ、答える。

「以前、お願いしていた資料のコピーだそうです。」

「今時、データじゃなくて、紙で?」

 先生の細かい突っ込みに、一瞬ドキリとした樹里だったが、咄嗟(とっさ)に出任(でまか)せを言うのだった。

「元の資料が書籍だったので、データ化する方が手間だったらしいですよ。」

「そう。あ、早く席に着きなさい。」

「はーい。」

 樹里は内心で胸を撫で下ろし乍(なが)ら、バスの後方へと進む。
 バスの座席配置はバス後方へ向かって、左手側が二席、中央の通路を挟んで右側に一席となっており、運転席の後ろ二列目に左から緒美と恵、通路を挟んで直美が座っていた。

「ねぇ、森村ちゃん。ホントにこの後、打ち上げとかやるの?」

「あはは、緒美ちゃんは騒がしいの苦手だもんね。まぁ、段取りはわたしと副部長とでやって有るから、付き合ってよ。」

「そうそう、HDG と LMF に関しては、今日の試験で一区切りなんだから。ちょっと位(ぐらい)、お祝いしても良いですよね、先生。」

 直美に話を振られて、立花先生は振り向き、座席のヘッド・レストから顔を覗(のぞ)かせて言った。

「そうね、あなた達は普段が真面目過ぎる位(くらい)だから、偶(たま)には高校生らしく、年相応(としそうおう)に燥(はしゃ)ぐと良いわ。」

 三列目には左窓際に瑠菜が、四列目には左窓際にクラウディアが座り、その隣には佳奈が座っていた。

「あら、佳奈ちゃんとカルテッリエリさん、すっかり仲良しになったみたいね。」

 樹里は三列目の通路側シートに置いてあった愛用のモバイル PC を取り上げ乍(なが)ら、後席の二人に声を掛ける。

「そう言うのじゃ、ありません。古寺先輩が離れて呉れないだけです。」

「えぇ~良いじゃない~クラリ~ン。」

「クラリン、言わないで下さい!」

 樹里は瑠菜と顔を見合わせて、くすりと笑うと、瑠菜の隣の席に腰を下ろし、膝の上にモバイル PC と安藤から預かった書類入れ封筒を乗せた。
 因(ちな)みに、茜とブリジットの二人は最後尾の四列シートに、インナー・スーツを納めた箱が両脇に置かれている、その間に座っていた。
 そして間も無く、畑中が乗り込んで来る。

「お待たせ~。キーは誰が持ってるのかな?」

「はい、畑中先輩。」

 恵が席を立ち、キーを手渡す。
 キーを受け取った畑中は、直ぐに運転席へと着き、シート・ベルトを装着してから、水素燃料で稼働する内燃機関(エンジン)を始動する。

「運転手役ばっかりで、何だか申し訳(わけ)無いわね、畑中君。」

 後席から、そう立花先生に声を掛けられ、畑中は笑って答えた。

「あはは、大丈夫ですよ。HDG や LMF にトラブルが起きなきゃ、試作部から参加してるメンツは基本、用無しですから。それに、天神ヶ﨑の卒業生だから、ここら辺(へん)の地理には明るいし、運転手役が回って来るのは、寧(むし)ろ当然。」

 畑中はシートから身を乗り出す様に振り向き、車内を確認して言う。

「人数は揃(そろ)ってるね。忘れ物とか無ければ、出発するけど。あ、みんなもシート・ベルトは締めてね。」

「そう言えば、畑中先輩。わたし達を送った後、どうするんです?このバスは学校のだし。」

 そう問い掛けたのは、直美である。

「あぁ、昼に運転して来たの、大塚さんだったろ?大塚さんが学校まで乗って行った会社のクルマが学校に停めてあるから、それでこっち迄(まで)戻るんだ。」

「そのクルマのキー、忘れてませんよね?」

 と、今度は恵が問い掛ける。

「そんな、間抜けじゃありませ~ん。ちゃんと預かってます。」

「そう言えば、畑中先輩はどうして、大型車の運転免許とか持ってるんですか? 一度聞いてみたかったんですけど。」

 そう問い掛けたのは、緒美だった。

「あぁ~試作部の配属になるとね、若い内に色々と資格を取らされるのさ~。大型車の免許に就いては、輸送を外部の業者に委託して、そこから試作品の情報とか漏れるといけないから、試作部が自力で輸送も出来る様にって事でね。今回も秘密保持って事で、学校の職員さんじゃなくて、俺たちがこのバスを運転してる訳(わけ)だ。まぁ、キミらも将来、もしも試作部の配属になったら、その時は覚悟しとく事だね。 じゃぁ出発するよ~。」

 バスはゆっくりと動き出し、回頭して演習場のゲートへと向かう。
 時刻は、午後四時を少し回っていた。

 

- 第8話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第8話.14)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-14 ****


 緒美はそれを受け取ると、装着する前に、安藤に尋ねるのだった。

「もう、いいんですか?」

「大丈夫よ、さっきも Ruby に言った通り、会社のネットワークに繋がれば、何時(いつ)でもお話は出来るんだから。」

 その時、安藤は茜とブリジットの二人が、天幕下へと戻って来ていたのに気が付いた。
 ブリジットはトランスポーター一号車の後部で茜が HDG を降ろして出て来るのを待って、茜と二人揃って天幕へと戻って来たのだ。

「あ、お疲れ様~二人共。」

 そう、安藤に声を掛けられた茜とブリジットは、軽く会釈すると、顔を上げた茜が安藤に問い掛ける。

「あの、ちょっと、聞いていいですか?安藤さん。」

「何かしら?どうぞ。」

Ruby がニックネームで呼び掛けるのって、珍しいですよね?先生の事だって『智子』って名前で呼んでる位(くらい)なのに。」

「あぁ~さっきの、聞かれちゃってた?」

 安藤は照れ臭そうに、後頭部へと右手をやり、自分の髪を撫でている。

「アレはね、まぁ、主任の悪戯(いたずら)みたいな物なのよ。Ruby がわたしの事を名前じゃなくて渾名(あだな)で呼んでいるのは、そういう風(ふう)にプロテクトが掛かっているからなんだけど。 それが、Ruby が正常に機能している証拠、みたいな…ごめんね、あまり詳しくは説明する訳(わけ)にはいかないんだな、この件に就いては。みんなは気にしないでちょうだい。」

「はぁ…企業秘密って事ですか。」

「そ。そう言う奴。ごめんね~。」

「安藤さんが何故に『ゼットちゃん』か?と言うのも、秘密なんですか?」

 今度はブリジットが問い掛けるが、それには、樹里が答えるのだった。

「『安藤』と『undo(アン・ドゥ)』を掛けた洒落よ。で、キーボードで『undo(アン・ドゥ)』、やり直しのショートカットのキーが『Z』、まぁ、実際は『Ctrl(コントロール)』と『Z』だけど。」

「それに加えてね…。」

 安藤が樹里の解説に、補足を加える。

「…新人の頃にね~大量の打ち込み作業を任されたんだけど。その時にテンパっちゃってね、『Ctrl+Z(コントロール・プラス・ゼット)』を連打してるのを主任に見られたのが、そもそもの始まり。それ以降、さっき樹里ちゃんの言ってた洒落の意味も合わせてね、課でのわたしの呼び名が『ゼットちゃん』になった訳(わけ)。 流石に、二年、三年と経つ内に、普通に『安藤』って呼ぶ人が増えたけど、未(いま)だに、主任だけは『ゼットちゃん』なのよね~。」

 そう言って苦笑いする安藤を横目に、机に凭(もた)れる様にしていた身体を起こし、恵は茜とブリジットの方へと身体を向けて話し掛ける。

「取り敢えず、着替えていらっしゃい、二人共。バスのキーは預かっているから。あ、シャワー、必要だったら管理棟のを使っていいそうだけど?」

「わたしは寮に帰ってからにします、シャワーは。ブリジットはどうする?」

「わたしも、寮に戻ってからでいいわ。一応、わたしは屋根付きだったから、それ程、汗、掻いてないし。」

「そう。じゃぁ、直接、バスの方へ行きましょうか。」

 恵は制服のポケットに手を入れ、バスのキーを取り出すと歩き出した。茜とブリジットは安藤達に小さく会釈した後、恵の後を追ってその場を離れたのだった。
 その一方で、トランスポーター二号車では、Ruby が自律制御で LMF を操り、中間モードに移行してトランスポーターの荷台へ上がろうとしていた。先(ま)ず、右側のホバー・ユニットを振り上げると、先端部分を荷台に乗せ、爪先立ちの様な姿勢で重心を荷台の上へと移動させ、左側のホバー・ユニットを荷台上へと引き上げる。左右とも爪先立ちの姿勢で、二度、足踏みする様に機体の位置と向きを少し変え、踵(かかと)を降ろすと通常の高機動モードへと移行した。続いて、ホバー・ユニットを起動して荷台上で浮上すると、バーニア・ノズルを噴かし、トランスポーター二号車の荷台に機軸を揃(そろ)え、荷台上に降りるのだった。

「荷台への移動を完了。自律行動を終了します。」

 Ruby の報告が、天幕下に響く。

「ご苦労様、Ruby。じゃぁ、スリープ・モードへの移行作業をやって貰うから、暫(しばら)く待機しててね。」

「ハイ、緒美。」

「それじゃ、移行作業やって来ます。」

 樹里はコンソールの傍(かたわ)らの、長机上に置いてあった自分のモバイル PC を手に取り LMF へと向かおうとして直ぐに足を止め、振り向く。

「安藤さん、一緒に確認して頂けますか?」

「あぁ、いいわよ。」

「それじゃ、部長。行ってきます。」

「はい。宜しくお願いね。」

 樹里と安藤は、二人連れ立ってトランスポーター二号車へと向かったのだった。

 それから十五分ほど経って、兵器開発部の一同が揃(そろ)って帰り支度をしていた時、立花先生が飯田部長を伴って天野重工の天幕へと戻って来た。
 防衛軍側の天幕の方では、防衛軍側の人員に因って、天幕の解体が既に始まっている。

「いやぁ、みんな、今日はご苦労だったね。」

 飯田部長がご機嫌そうな笑顔で、開口一番、そう言った。

「みんな、揃(そろ)ってるわね。ちょっと、飯田部長からお話が有るから、聞いてちょうだい。」

 立花先生が、改まった口調で言うので、一同は飯田部長へと注目する。

「おぉ、そんな硬くならずに、楽にして聞いてくれ。あ~、正直、防衛軍の方(ほう)は HDG には、当初、余り興味が無かった様子なんだが、みんなが見せてくれたパフォーマンスが素晴らしかったので、多少は興味を持って呉れたみたいだ。そこで、陸上防衛軍の戦車部隊と HDG とで模擬戦をやってみないか、と言う提案を頂いたのだが、どうだろうかな?」

「提案?…なんですか。」

 緒美が訝(いぶか)し気(げ)に聞き返すと、それには立花先生が答える。

「提案、よ。彼方(あちら)は彼方(あちら)で部隊内での調整とか必要だから。今の段階では陸上のお偉方(えらがた)の、単なる思い付きなの。」

 続いて、飯田部長が補足する。

「勿論、安全には配慮して呉れる約束だから。君達の都合が付く様なら、彼方(あちら)も調整を進める、と言っている。日程や内容の摺り合わせは、又、後日にする事になるだろうけどね。」

 そこ迄(まで)、飯田部長の説明を聞いて、緒美は一息、すぅっと吸い込んでから、茜の方へ向き直って、言った。

「天野さん、あなたはやってみたい?模擬戦。内容次第だとは思うけど、怖い様なら、断っても良いのよ。」

 話を振られて、茜は一度、視線を宙へと向け、少し考えてから答えた。

「部長の言われた通り、内容次第ですね。今日の試験を終えて、HDG の動作や機能的な面には不安はありませんので、やって意味の有る内容であれば、お受けしても良いかな、と、思います。」

 茜の緒美に対する返事を聞いて、飯田部長はニヤリと笑って確認する。

「それは承諾、と受け取って良いのかな?」

「基本的には。飽くまでも、内容次第で、と申し上げておきますけど。」

 と、今度は、茜は飯田部長に向かって答えた。

「緒美ちゃんも、それでいい?」

 飯田部長の隣に立つ、立花先生が緒美に確認する。

「ドライブするのは天野さんですから。天野さんが行ける、と言う条件なら、わたしとしては反対する理由はありません。」

「解った。それじゃ、先(ま)ずは内容の摺り合わせからと言う事で、先方とは話してみるよ。また、何か決まったら、改めて連絡する事にしよう。」

「宜しくお願いします。」

 緒美は、飯田部長に軽く頭を下げる。それを見て、茜が、そして他の一同も飯田部長に一礼するのだった。

「今日は土曜日なのに、こんな時間までご苦労だったね。支度が済んだら、遠慮は要らないから、先に引き上げて呉れ。あと、学校に戻す機材は、二十時過ぎに到着する予定だから、受け取り確認の方(ほう)は頼むよ。」

 飯田部長の言葉を受けて、立花先生は緒美達の列の前へ移動し、飯田部長の方へ向き直り、言った。

「はい。では、早々に退散させていただきます。撤収作業のお邪魔になってもいけませんので。」

「あぁ、帰りの運転手は畑中君がいいかな。彼、君達とは顔馴染みだしな。わたしの方で声を掛けておくよ。」

「はい。お願いします。 じゃぁ、みんなはバスの方へ。」

 立花先生に促(うながさ)されて、兵器開発部の一同は「失礼します」と、今一度、飯田部長に一礼した後、学校のマイクロバスへと向かって歩き出す。すると、隣の天幕下、その奥から、樹里に呼び掛ける、安藤の声が聞こえたのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.13)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-13 ****


 そして、一息吐(つ)いてから、樹里は話を続けた。

「それで、祖父の遺品の中に、わたし用のプログラミングのテキストが有りまして。祖母の話だと、祖父がわたしと約束した後から、子供でも解る様なテキストを作ってくれていたそうです。」

「お祖父様は、あなたに教えるのを楽しみにしていたんでしょうね。」

「らしいですね。 それで、祖父の持っていたマシンとか、雑誌や専門書とかの資料一式、わたしが譲り受ける事になしまして。わたしは祖父の作って呉れたテキストで、マシンの操作とかプログラミングの基礎を勉強して、その後は、祖父から譲り受けた本とか、ネットの情報を頼りに独学で~って言う感じです。 特に、小六の頃は、ネットで専門的な事を質問し捲(まく)ってたり。皆さん、親切に教えて呉れたので、あの時期に随分と理解が進みました。」

「あ。」

 突然、安藤が目を丸くして、短く声を上げた。樹里は少し驚いて、安藤の方へ目を向ける。

「何ですか?安藤さん。」

「いえ、ちょっと唐突に、少し昔の事を思い出して。 樹里ちゃんが小六って、五年くらい前の事よね?」

「そう、ですね。それが何か?」

「わたしが入社した年の事だから、良く覚えてる…いや、今まで忘れてたんだけど。あの年、ネットで、ソフト関連で、やけに専門的な事ばっかり聞いてる自称小学生が居るって話題、有ったのよね。ネットの一部、主にソフト開発クラスタ界隈(かいわい)で。うちの課でも、こんな事聞いて来る小学生なんか居る訳(わけ)無いだろうとか、言ってたんだけど。」

 樹里は安藤の話に心当たりが有ったので、視線を一度宙に上げ、再び安藤へと戻した。

「あぁ~…その、自称小学生のハンドル・ネームとか覚えてます?安藤さん。」

「えぇっと…確かね『JJ』とか『ジュリエット』とか…え?『ジュリ…エット』?」

 樹里は照れ臭そうに笑い乍(なが)ら、言った。

「あはは、それ、わたしです。」

「あ、あぁ~、あぁ、成る程ね。いや、何だか納得したわ、凄く。うん、あはは、あぁ、そうか、そうかぁ~。 じゃぁ、あれは、矢っ張り、本当に小学生だったんだ~。」

 安藤は一度手を打って、大きく頷(うなず)いた。そこで、二人の会話を聞いていた恵が、少し茶化し気味に割って入る。

「意外と城ノ内さんは、昔から有名人だったのね~。」

「いえ、変に有名になりそうだったから、そうなる前に、ネットで質問するのを止めたんですよ。恵先輩。」

 興味津々と言った体(てい)で、身を乗り出す勢いで安藤が問い掛ける。

「そうよね、秋位(ぐらい)からパッタリ、質問が上がらなくなったから、それはそれで話題になった物だったけど、当時は。 そのあとは、どうしてたの?」

「あぁ~そのあと、中学生になってからは…年齢を誤魔化して、企業とかが主催のプログラム・コンテストとかに応募してました。腕試しに。」

「それで?優勝し捲(まく)ってたとか?」

 瞳を輝かせ、安藤が追求する。それに、少し困った様に樹里は答えた。

「いえ、さっき言った通り、応募する為に年齢を誤魔化してたので。 プログラムの出来は良かったらしいんですが、参加規定以下の歳だったのがばれて自動的に不合格になったり、ばれる前にこちらから受賞を辞退したり、で。そんな訳(わけ)で、受賞歴とか華々しい物は一切有りませんよ。賞金云云(うんぬん)の話も有ったんですけど、幸い、両親も特に欲を出さなかった物で~。 まぁ、今考えてみれば勿体無(もったいな)かったよね~って、母とは話す事が有りますけど。」

「城ノ内さんのそう言うお話、初めて聞いたわね。」

 今度は緒美が、ポツリと言った。それに、恵が付け加える。

「城ノ内さんは、普段、自分の事は余り話さないものね。」

「う~ん、特に聞かれた事も無かったので。それに、普段は聞き役に回る方が多いと言うか。」

「あはは、その辺り、城ノ内さんは『お姉さん気質』なのよね。」

 恵が笑ってそう言うと、樹里も微笑んで答えた。

「かも、ですね。実際、弟と妹が居ますので、その所為(せい)でしょうか?」

「あぁ、樹里ちゃん、『お姉ちゃん』だったんだ。樹里ちゃんの妹と弟なら、その二人も優秀なんでしょうね~。」

「いいえ、それが二人とも両親に似て、普通の女の子と男の子ですよ。家族には、わたしだけがこっち方面に填(はま)っちゃったのは、お爺ちゃんの隔世遺伝なんだって言われてます。」

 そう安藤に答えて、樹里は笑った。

「コックピット・ブロックの接続、完了しました。」

 突然、天幕下に Ruby の合成音が響く。樹里達が雑談をしている間に、自律制御で Ruby はコックピット・ブロックの再接続作業を進めていたのだ。勿論、樹里は雑談をし乍(なが)らも、その状況をコンソールでモニターしていたのだが。
 そして、丁度(ちょうど)、タイミングを同じくして、トランスポーター二号車が、畑中の運転で一号車の後方へと移動されて来て、停車した。

「オーケー。それじゃ、次はトランスポーター二号車の荷台に、自律制御、中間モードで上がってちょうだい。そのあとで、スリープ・モードへの移行作業をやって貰うから。」

 緒美は、ヘッド・セットのマイクで Ruby へ指示を伝える。それに対する Ruby の返事は、少し意外な内容だった。

「分かりました。その前に、『ゼットちゃん』と少しお話しする事は、可能でしょうか?」

 『ゼットちゃん』とは、安藤の設計三課でのニックネームである。

「あぁ、いいわよ。ちょっと待ってね。」

 Ruby が安藤の事を『渾名(あだな)』で呼ぶ事を知っている緒美は、躊躇(ちゅうちょ)無く自分のヘッド・セットを外して、安藤へと差し出し、言った。

「どうぞ、安藤さん。」

「ありがと。」

 安藤は腕を伸ばし、樹里の背中越しにヘッド・セットを受け取ると、首に掛けていた試験機材の制御班との連絡用ヘッド・セットを外し、緒美から受け取った Ruby のコマンド用ヘッド・セットを装着する。

「ハァイ、Ruby。安藤です、何かご用?」

「ハイ。今日の試験の様子は、ご覧になっていましたか?」

「勿論、最初から最後迄(まで)、緒美ちゃんや樹里ちゃんと一緒に見てたわよ。」

「それでは、『ゼットちゃん』の評定を聞かせて下さい。」

「さっき、立花先生にもお話ししたんだけど、ログの解析にそれなりの時間が掛かるから、正式な評価は可成り先になるんだけど。」

「それは承知しています。」

「じゃぁ、わたしの個人的な感想でいいのね?」

「ハイ、構いません。」

「そう…ね。わたしが見た限り、何も問題は無かったわね。主任にも、そう報告しようかと思っているの。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「いいえ、いいのよ。学校に戻って、あなたが会社のネットワークに接続したら、また、お話ししましょうね、Ruby。」

「ハイ。楽しみにしています。」

「それじゃ、コマンドを緒美ちゃんに返すわね。」

 そう言うと、安藤はヘッド・セットを外し、緒美へと差し出すのだった。

「ありがとう、緒美ちゃん。」


- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.12)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-12 ****


「何だよ、気持ち悪いなぁ~俺、何か変な事、言った?安藤さん。」

 理由を聞かれて、安藤は笑いを堪(こら)えつつ言葉を返す。

「ごめんなさい…ちょっと、タイミングが悪かっただけで、変な事は言ってません。あ~、『立花さん』は飯田部長の所へ行くって。」

「畑中先輩、取り敢えず一号車を動かして頂けますか?天野さんが装備を降ろせないので。」

 皆と一緒に笑っていた緒美も、何時(いつ)もの冷静な表情に戻って、畑中に話し掛ける。

「あぁ、そうだった。直ぐにこっちに回して来るから。」

 畑中は慌てて天幕の後方、管理棟横の駐車スペースへと走って行く。
 一方で、スラスター・ユニットの再接続、起動から LMF との接続解除まで一連の作業を終えた茜が、畑中とは入れ替わる様に天幕の前に到着し、声を掛けて来る。

「何だか、楽しそうですね~。」

「あぁ、天野さん、ご苦労様。」

 戻って来た茜に、緒美が労(ねぎら)いの言葉を掛けた。

「何が有ったんですか?」

 茜の質問に、普段通りの笑顔で恵が答える。

「大した事じゃないわ。さっきのはタイミングが命、みたいな笑い所だから、後で聞いても、大して面白い話じゃないと思うの。その場に居合わせなかったのが、残念だったわね。」

「そうですか。それは残念です。」

 その一方で、ヘッド・セットのマイクを通じて、緒美がブリジットに話し掛ける。

「あ、ボードレールさん。コックピット・ブロックを接続するから、LMF の前に移動してちょうだい。接続作業は Ruby の自律制御でやるから、LMF の前に置いたら、降りていいわよ。電源は切らないでおいてね。」

「は~い、移動します。」

 天幕下のモニター・スピーカーから、ブリジットの返事が聞こえた。
 天幕の東側で『アイロン』に乗った儘(まま)待機していたブリジットが、LMF に向かって『アイロン』を走らせると、その後ろからは畑中が運転するトランスポーター一号車が走って来て、天幕の前を右に向きを変えると緒美達の前で停車した。そして、コンテナ後部の扉が地面に向かって、ゆっくりと開く。
 それを確認して、直美は席を立ち、隣の天幕下で佳奈とクラウディアの二人と談笑していた瑠菜に、大きな声で呼び掛けた。

「瑠菜~、HDG のメンテ・リグ立ち上げるよ~。」

「は~い。」

 二人の元を離れて、瑠菜は駆け足で一号車へと向かう。それと入れ替わる様に、一号車の運転席から降りた畑中は、二号車へ向かって駐車スペースへと駆けて行った。

「じゃ、部長。HDG、降ろして来ます。」

「はい。終了作業も気を抜かないでね。」

「はい、分かりました~。」

 茜はクルリと向きを変えると、一号車の後部へと向かって歩き出す。
 そして一号車へと中程辺りまで行った所で、その向こう側に停止している LMF の方から、『アイロン』を降りて天幕の方へと向かうブリジットと、茜は出会(でくわ)すのだった。
 二人は互いに「お疲れ」と言葉を交わすと、試験開始前の様に掌(てのひら)を軽く打ち合わせた。
 そんな様子を、コンソールを操作する手を休めて、樹里は何と無く眺(なが)めていた。そして、不意に、安藤に話し掛ける。

「さっきの、バグ取りが一気に進んだって話、可成の部分、天野さんのお陰、みたいな感じなんですよ。」

「そうなの?」

「はい、天野さんがテストをする様になってから、矢っ張り動かしてみないと解らない不具合って、いっぱい有るみたいで。これが又、天野さんが不具合が見つかる様に動かしてみるのが上手いって言うのか。彼女が仕様を全部理解した上で動かしているからこそ、なんだと思うんですけど。」

 そう言って、樹里は再びコンソールの操作を再開するのだった。
 安藤は一息吐(つ)いて、言った。

「凄いわね。」

「でしょう。あれで、一年生なんだから…」

「あぁ、ごめん。わたしが言ったのは、あなたの事よ、樹里ちゃん。まぁ、確かに天野さんも凄いとは思うけど。」

「わたし…ですか?」

 樹里は再び手を止め、安藤の方へ顔を向ける。

「そうよ。五月初めの電源関連のもそうだったけど、普通、動作の不具合からプログラム上の不正箇所を特定する迄(まで)が一番時間が掛かる物だけど、樹里ちゃん、何時(いつ)も不正箇所に大体の見当(けんとう)を付けて、不具合報告上げてくれてるでしょ。修正作業を担当してる五島(ゴトウ)さんとか、何時(いつ)も助かるって言ってるし。うちの主任も樹里ちゃんの事は、凄く評価してるの。課長なんか、今から人事部に樹里ちゃんの入社後の配属予約を交渉してる位(ぐらい)なんだから。」

「それは、どうも…ですけど、わたし、まだ二年ですよ?」

「それが、つくづく残念なのよねぇ。卒業迄(まで)まだ、一年半も有るなんて。維月ちゃんと、序(つい)でに、クラウディアさんも一緒に、飛び級で卒業させて貰えないかしら。」

「流石に、それは無茶ですよ。」

 樹里と安藤、二人は顔を見合わせて、笑った。

「そう言えば、樹里ちゃんは何時(いつ)頃からプログラミングとか習ってたの? 聞いた事無かったけど、矢っ張り維月ちゃんみたいに、ご両親がそっち系だったり?」

「あぁ、わたしは維月ちゃんみたいなサラブレッド的なのじゃないです。両親はソフト関係とは無縁でしたし。只、母方の祖父が、そっち系のエンジニアだったんですけどね。」

「じゃ、お祖父様から?」

「う~ん…そこは難しい所で、祖父から直接、教わってはいないんですけど。基本は、ほぼ独学ですが…いや、基礎は祖父から習った事になるのかな?」

「なんだか複雑そうね。」

「あ、いえ。それほど難しい話ではないんですが。 母の実家に遊びに行っている内に、祖父のやっている事に興味を持ったのが小学校の一年生頃の事で。その時に、祖父が、わたしが十歳、小四になったら教えてあげるって約束して呉れたんですよ。それ迄(まで)は学校の勉強を、しっかりやりなさい、と。」

「うん、うん。」

「所が、わたしが小三の冬、年が明けて一月の末頃に、祖父が急死してしまいまして。心不全だったかな…。」

「あら、何だか悪い事、聞いちゃったみたいね。ごめんなさい、樹里ちゃん。」

 安藤は慌てて謝意を述べるが、それには樹里は恐縮する他無かった。
 樹里はコンソールの操作を再開しつつ、言った。

「いえ、いいんですよ。もう、何年も前の事ですから。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第8話.11)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-11 ****


「あ、畑中さん。…はい、トランスポーターを…はい、そうですね。…はい、あ、ちょっと待って下さいね。 緒美ちゃん、LMF の積み込みはどうやる、って畑中さんが。」

「はい、降ろす時と同じで、Ruby の自律制御でやってしまうのが簡単で良いかな、と。」

「だよね。もしもし、畑中…はい、緒美ちゃんは Ruby の自律制御でって…はい、繋留は後で良いかと…ええ、では、お願いします。」

 ポケットに携帯端末を仕舞い乍(なが)ら、安藤は緒美に言った。

「直ぐに、トランスポーターを動かして呉れるって。」

「畑中先輩、今、どこに居るんですか?」

 そう安藤に聞いたのは、緒美の後列の長机に、後ろに回した手を付いて寄り掛かっていた恵である。

「あぁ、西側の一番奥から順番に、標的の解体作業中だって。」

「一番、遠いじゃないですか。」

 安藤の答えを聞いて、呆(あき)れた様に声を上げたのは直美だった。

「そこから歩いてこっち迄(まで)って、結構大変よね。トラックで来ると、その間、撤収の積み込み作業が止まっちゃうし。」

 恵は左後方に居る直美の方を向いて、撤収作業の停滞に対する懸念を口にする。そして、今度は緒美の方へ向き直り提案する。

「ブリジットを迎えに行かせたら?鬼塚。」

「そうね。」

 直美の提案をあっさりと受け入れる緒美を見て、安藤が口を挟(はさ)む。

「ちょっと、コックピット・ブロックは一人乗りでしょ?大丈夫かしら。」

 それを聞いて、直美は一笑いして、言った。

「エンジン・ポッドの上に座れますよ、シートは有りませんけど。飛ばさなきゃ、ちゃんと掴まってれば落ちたりしないでしょ。男の人なんだし。」

「えぇ~大丈夫かな。」

「では、そう言う事で…。」

 直美の意見を聞いても不安気(げ)な安藤だったが、その様子を緒美は意に介さず、ヘッド・セットを通じてブリジットに指示を出すのだった。

「…あ、ボードレールさん。ごめんなさい、一つお願いごと。西側の標的の奥の方に、畑中先輩を迎えに行って来て呉れないかな。」

「良いですけど、お客さん用のシートは有りませんよ。」

 モニター・スピーカーから聞こえて来たブリジットの返事を聞いて、失笑したのは直美だった。ブリジットの返事は短かったが、その語感から直美と同じ様な事を考えているのが伝わって来たのだ。

「まぁ、それは我慢して貰いましょう。こっちに来る時は先輩が落ちない様に、ゆっくり目で走ってあげてね。」

「解りました。行ってきます。」

 モニターからブリジットの声が聞こえて間も無く、天幕の後方側から割といい勢いで『アイロン』が飛び出して行くのを、その場で一同は見送るのだった。
 少し唖然としていた安藤だったが、気を取り直す様にポケットから携帯端末をもう一度取り出し、言った。

「取り敢えず、畑中さんには迎えが行くって、伝えておくわね。」

「はい。願いします。」

 緒美はそう返事をすると、安藤に微笑むのだった。
 安藤が畑中と連絡を取っている間に、立花先生が緒美や樹里の後列の長机を後側を通って安藤の右手側へと回り、通話の終わった彼女に話し掛ける。

「それで、設計三課の代表として、今日の試験は如何(いかが)でした?安藤さん。」

「そうですね…。」

 安藤は通話の終わった携帯端末を作業着のポケットへ押し込み乍(なが)ら、答える。

「トラブルの二つや三つ、起きる物と思っていましたので、何事も無く全試験項目が、こう、すんなりと終わったのには、少し拍子抜けした、と言いますか。勿論、今日のデータを解析もする前から、軽々しく結論は言えませんけど、まぁ、見たまんまの感想としては、制御系の完成度は可成り高いのではないかな、と言うのが、正直な所感ですね。とても、二ヶ月前に電源系で初歩的なトラブルを起こしていた物とは、思えませんよね。」

「あはは、あの後、かなりバグ潰し、やりましたからね~。」

 安藤の所感を受けて、樹里はコンソールを操作し乍(なが)ら、笑ってそう言った。

「うん、勿論それは知ってるんだけど。このレベルの複雑な制御系が、二ヶ月足らずで一気に完成度が上がるなんて、そうそう有る事じゃないのよ。 まぁ兎も角、結論は今回のデータ解析後と言う事になりますけど、立花先生。」

 安藤は樹里に一言返した後、立花先生へ結論に就いて念押しをする。

「データの解析には一ヶ月位(くらい)?」

「う~ん、HDG と LMF の制御系、特に火器管制辺りのは、データが整ってそうだから二週間位(くらい)で終わりそうな気がしますけど。Ruby の評価に関しては二、三ヶ月掛かっちゃうかも知れません。あぁ、でも、Ruby の開発に関してはこっち側のテーマだから、学校の皆さんには関係無い話でしたね。」

「そうね。うん、了解したわ。ありがとう、安藤さん。」

「いいえ。」

 安藤の返事を聞いて立花先生は、その場を離れようとしたが、直ぐに足を止め、振り向いて緒美に声を掛けた。

「ちょっと、飯田部長の所へ行って来るから、こっちはお願いね緒美ちゃん。」

「はい。あ、私もご一緒した方が?」

「う~ん、いや、いいわ。こっちの終了作業の方を、お願い。」

「わかりました。」

 颯爽(さっそう)と防衛軍の天幕へと向かって歩いて行く立花先生の背中を見送って、安藤がポツリと言った。

「立花先生も、色々と調整役、大変よねぇ…。」

 それに答えたのは、直ぐ傍(そば)にいた樹里だった。

「あはは、そうですね~それはそうと、会社の方(かた)達からも、何だかすっかり『立花先生』で定着しちゃいましたね。」

「あら、そう言えばそうね。」

 そんな樹里と安藤の遣り取りに、恵が参加する。

「そう言えば、畑中先輩も前は『立花さん』だったのに、何時(いつ)の間にか『立花先生』って呼ぶ様になってるよね。」

「あれ?そうだったかしら…」

 と、緒美が宙を見詰めて記憶を辿(たど)っている所に、畑中を乗せたブリジットの『アイロン』が、天幕の前に到着した。
 畑中は『アイロン』から飛び降りると、天幕下の安藤に向かって言うのだった。

「立花先生、向こうの天幕の方へ歩いて行ったけど、何か有ったの?」

 その発言を聞いて、安藤と樹里、緒美と恵、そして直美が揃(そろ)って爆笑するのだったが、勿論、その理由は畑中には解らないのであった。


- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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