STORY of HDG(第1話.07)
第1話・天野 茜(アマノ アカネ)
**** 1-07 ****
「あちゃ~…会長の御令嬢にテスト・ドライバーさせるのは、流石に不味(まず)いんじゃない?鬼塚。」
新島副部長は仰(の)け反(ぞ)って天井に目をやる。
「ねぇ。本社の協力部署が、どう言う反応をするのか、ちょっと、わたしも読めないわね~。」
立花先生は右手の人差し指を唇に当てて、遠い目をしていた。
「あの、ちょっと、いいですか…。」
茜は怖ず怖ずと右手を挙げ、発言の許可を求めた。再び、一同の視線が集まる。
「確かに、会長はわたしの祖父なんですけど、わたしは別に、令嬢って訳(わけ)では無い、です。」
「どう言う事?」
鬼塚部長が首を傾(かし)げる。
「えと、会長はわたしの母方の祖父なので、わたしの家(うち)は『天野重工』とは無関係なんです。」
「でも、あなたの名字は『天野』じゃない。」
新島副部長が指摘する。
「はい。それは、たまたま、父方(ちちかた)の姓も『天野』だった所為(せい)で、父方(ちちかた)の『天野家』と母方(ははかた)の『天野家』は無関係だったんですよ。まぁ、十数代遡(さかのぼ)れば親戚だったらしいって言うのは、後で解った事なんですけど。」
「なによそれ、紛(まぎ)らわしいわね~。」
とは、新島副部長の言。
「それは、わたしに言われても…どうにも。」
「それじゃ、あなたのお父さんは、天野重工とは関係無い、と。」
鬼塚部長が確認をする。
「はい、系列でも何でもない、商社の中間管理職ですし。」
「あなたのお母さんが、御令嬢って事になるのかしら?」
とは、恵の所感。
「だから、母は天野重工の方の天野家からは出ちゃってて、呑気(のんき)に専業主婦やってますから。だから家(うち)は、天野重工とは無関係なんです。」
「でも、あなたが会長のお孫さんって事実は、変わらないのよね。」
そして再び、立花先生が論点を元に戻すのだった。
「祖父は身内だからって、特別扱いするのは嫌いですよ。だから、わたしの事も特別扱いは、しないと思いますけど。」
「う~ん…」
茜を除く一同、腕組みをして考え込んでいた。
そして立花先生が、ポツリと言った。
「会長が天野さんを特別扱いしなくても、他の部署の部課長は、気は遣うでしょうしね。」
その言葉を聞いた鬼塚部長が、ニッコリと笑って言った。
「じゃぁ、天野さんがうちの部に居る限り、わたし達には有利って事ですね。少なくとも、変なプレッシャーは掛けられなくて済む様になるんじゃないですか?立花先生。」
「ちょっと、緒美ちゃん。何か妙な事、考えてるんじゃないでしょうね? わたしの立場も有るんだから、企画部や開発部に変な要求しないでね。」
「やだなぁ。そんな事考えてませんよ~。今後、無理な要求をされる事が減りそうだな、って思ってるだけですよ~立花先生。」
この時、「目の前のこの人は、案外、悪い人なんじゃないか?」と、一寸(ちょっと)だけ思ってしまった茜だった。
「さて、天野さん。それじゃ、そろそろ試作機を見ておく?」
「あ、はい。是非。」
鬼塚部長が席を立つと、茜も、それに続いた。
「あぁ、そう言えば。流れで、お話に突入しちゃったから、改めて紹介しておくわ。こちらが、顧問の立花先生。で、こっちが副部長の新島ちゃん。」
「先生呼ばわりされてるけど、正確には講師だからね。特許法関連の授業担当、よろしくね。」
「はぁい、新島 直美よ。あなたと同じ、機械工学科よ、よろしく。」
茜は二人にぺこりとお辞儀をした後、鬼塚部長に付いて階下の格納庫内部へと降りて行った。
部室は第三格納庫東側二階の中央付近に位置している。茜たちが部室から格納庫内部を見下ろしていた、奥側の窓のある壁面、その左右に向かい合った壁面に二階通路へ出るドアが有り、二階通路の南北両端に格納庫フロアへと降りる階段が設けられている。部室の北側の一室が CAD室に、南北の他の空き部屋は資料室だったり、物置にされているのだった。
部室の階下である東側一階層は主に倉庫スペースで、その北端側にトイレ等が設置されている。格納庫の大扉は南側に向いており、大扉の外側には駐機スペースを挟んで滑走路が整備されているのだった。
この滑走路は、天神ヶ崎高校の飛行機部が主に使用しているのだが、時折、本社からの連絡機が飛来したり、学校の管理する敷地内には防衛軍の関連施設が在るので、防衛軍関係の機体が飛来したりするのだった。
因みに、第一格納庫は飛行機部に、第二格納庫は本社や防衛軍関係機が飛来した際に、それぞれ使用されている。
- to be continued …-
※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。