STORY of HDG(第1話.09)
第1話・天野 茜(アマノ アカネ)
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「ちょっと、こっちへ来て。」
鬼塚部長が、茜を手招きしている。
「それ、3D スキャナーですか?」
「そう。あなたにドライバーをやって貰うには、インナー・スーツ用に関節位置の三次元測定データが必要なの。靴を脱いで、スキャン台の上へ。あ、制服も上着(ブレザー)は脱いでちょうだい。金属も不味(まず)いから、タイ・ピンも外してね。」
「うぅ…身体のサイズを測られるのは、何だか恥ずかしいです。」
「個人情報は一応、慎重に扱うから安心して。」
「一応じゃ、安心出来ませんよ。」
そう言いつつ、茜は指示された通り制服の上着を脱いで、3D スキャナーの台上に立った。鬼塚部長は、スキャナーに接続されたコンソールを操作している。
「これで、良いですか?」
「脚は肩幅位(くらい)に開いて…両手は四十五度位(くらい)、そうそうハの字…あ、掌(てのひら)は前に向けて。指も揃えないで…そう、開いて。はい、その儘(まま)、三十秒位(くらい)じっとしててね。はい、スタート。」
スキャン台の外周にはセンサーが装備された支柱が四本立てられており、その支柱が茜の周囲を回転し始めると、センサー自体は支柱に沿って上から下へと移動し乍(なが)らスキャンを行う。センサーは超音波方式と磁気共鳴方式のそれぞれ一対で、薄い服であれば、その上から、体表と骨格それぞれの三次元形状が測定出来る様に設定されていた。
センサーが下限まで移動を終えると、支柱とセンサー本体が初期位置へと復帰する。茜は大きく息を吐(は)いた。
「もう一回、比較用の測定をするから、今度は腕を前に上げて…前に倣(なら)え~そうそう。あ、指は開いた儘(まま)…はい、スタート。」
スキャナーが再び、先程と同様に稼働を始める。茜は再び、息を止めて、スキャナーの動作が終わるのを待った。
「はい、終了。お疲れさま。」
「ふぅ。これで、動かせる様になるんですか?」
茜はスキャン台から降りて靴を履くと、スキャナーの脇に有る、シートが掛けられた何らかのコンソールの上に、畳んで置いていた制服の上着を手に取る。
「そう、単純でもないのよ。測定データから HDG のパラメータを作る所は自動化してあって、処理は Ruby がやってくれるんだけど。インナー・スーツは本社の試作部に発注して…一週間位(くらい)は掛かるかしら?」
「成る程。」
茜はクロス・タイを締め直し、制服を整えていた。
「がっかりした?」
「いえ、寧(むし)ろ安心しました。部長の勢いが凄かったから、明日からでもテストを始めるのかと思って、ドキドキしてました。」
「わたしとしては、明日からでもテストを始めたい所なんだけどね、残念。取り敢えず、テストが出来る様になるまで、あなたには HDG システムの勉強をしてもらうわね。」
鬼塚部長は茜と会話をしつつ、スキャナーのコンソールを操作している。
「よし、これで終了。Ruby、後の処理をよろしくね。」
「ハイ、緒美。」
Ruby の合成音声は、鬼塚部長が操作していたコンソールから、聞こえて来た事に茜は気付いた。
「それも Ruby の端末なんですか?」
「そうよ。このスキャナーと、そこの HDG のメンテナンス・リグも繋がってるわ。」
「大活躍ね、Ruby。」
「いいえ、茜。わたしのリソースは 10%も消費されていません。」
「あなたのリソースが100%消費される様な事態は、起きて欲しくなんか無いわね。わたしは。」
「作られた物は、活用されるべきではありませんか?緒美。」
「その辺りの見解には、立場に依って相違が有る、と言う事よ。」
「そうですか。記憶しておきます。」
鬼塚部長と Ruby の遣り取りを聞いて、「Rudy が 100%活用される事態とは何だろう?」と、茜は、その大きな機体を眺めつつ考えていた。この赤い機体に Ruby が組み込まれている事実の意味を考えた時、確かにそんな『事態』は願い下げだと、茜も思うのだった。
- to be continued …-
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