STORY of HDG(第2話.04)
第2話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)と新島 直美(ニイジマ ナオミ)
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一方、立花先生は恵の方に目をやって、尋ねる。
「その、お茶セット、どうしたの? 先々週来た時には、見た覚えが無いんだけど…。」
「森村ちゃんが、買ったんですよ。自費で。」
「だって、作業の合間にお茶くらい飲みたいじゃないですか。あ、こっちは気にしないでお話、始めちゃってください。」
「レシートは取ってある? ちゃんと申請すれば、部活の経費に出来るでしょう?」
立花先生の意見は至極当然だったが、緒美はそうも行かないのでは?と思ったのだった。
「そもそも、この部活の管理はどうなってるんでしょうか? 今の部長や会計担当は誰なんだか…。」
「あぁ、そうね。二、三年生の現部員は幽霊ばっかりだから、名簿上でも役員不在の部活になってるって、聞いてるわ。 引き継いで管理だけやってた生徒が今年の春、卒業しちゃったんですって。」
「いいかげんだなぁ…。」
端(はた)で聞いていた直美が、素直な感想を漏らす。
「いっその事、鬼塚さん、あなたが部長になっちゃいなさい。」
「わたし、一年生ですよ?」
「現実に活動してるのは、あなただけなんだし、幽霊には口を出す権利は無いわ。顧問権限で許可します。」
「ついでに、その幽霊共(ども)を追い出したらどうですか?」
と、直美も無責任な提案をするのだが、それは立花先生に因って一蹴されるのだった。
「それはダメ。五人以上在籍してないと、廃部になっちゃうらしいから。幽霊さん達には、数合わせの為に残ってて貰わないと。」
そんな話をしている内に、恵がお茶(煎茶)の入ったカップを、各人の前に配り始める。
「今日は、紙コップですみません。ティーカップは一組しか無いので。」
「はい、ありがとう。頂くわ。」
「で、そろそろ本題に入りませんか?先生。」
緒美が立花先生に、話を始める様に促(うなが)す。立花先生は、恵が淹(い)れたお茶に一口、口を付けてから話し始めた。
「そうね。 前回、預かった鬼塚さんの研究レポート、わたしの上司に送るって、言っておいたわよね。」
「はい。何か、反応が有りましたか?」
「実はね、あれ、本社の企画部で進めていたプロジェクトと、方針が丸被りだったのよ。一部には本社のより、具体的なアイデアも有ったから、上司は『これを高校一年生が、一人で考えたとは思えない』って。」
「あの内容は、大半以上が中学時代の物ですけどね。」
「そうね。それも聞かせてみたいけど…まぁ、細かい遣り取りは本筋とは関係無いから省くけど。要するに、この研究を鬼塚さんに続けて貰いたい、と言うのが本社としての反応なのよ。」
立花先生の発言に一番驚いたのは、部外者である直美だった。
「何言ってるんですか?いい大人が寄(よ)って集(たか)って、一介の高校生に頼ろうって言うんですか?」
「そうよ。あなたの言う通り。いい大人の集団が、鬼塚さんと同じ様なプランを考えついたけど、その先への進め方で行き詰まっているのが現実なのよ。」
今度は、緒美が口を開く。
「ちょっと、待ってください。わたしのアイデアで使える物が有るのなら、それを現計画に反映して進めて行けばいいんじゃ…」
「そういう風に考える人も居るでしょうけど…他人のアイデアを拝借するだけの人はね、そのアイデアを消費しちゃったら、その先へは進めないのよ。考えてみて、こちらの計画に鬼塚さんのアイデアを反映して、一時的に上手く行ったとしましょう。その次にトラブルが起きた時、他人のアイデアで解決した上で発生した新たなトラブルを、元のアイデアを発想出来なかった人達に解決出来るかしら? 何度かは、偶然のブレイク・スルーが有るかも知れないけど、土台(ベース)が解っていなければ、何(いず)れ又、行き詰まるのよ。 だから、人からアイデアを取り上げるんじゃなくて、いいアイデアを持っている人に研究を任せたい訳(わけ)。それが高校生でもね。まぁ、鬼塚さんの場合は、うちの準社員だから、立場上、徒(ただ)の高校生では無い、って言う前提も有るけど。」
「あのぅ…先生。三年すれば、緒美ちゃんは正式に社員になるんですよね。それまで待てば、いいんじゃないですか?」
「その間に、本社の方で、いいアイデアが出て、計画が先に進む可能性の方(ほう)が高いわよ、森村ちゃん。」
恵の疑問に対する、緒美の見解は尤(もっと)もだった。しかし、立花先生はその見解にも、首を横に振る。
「わたし達は、三年も待ってられないのよ。」
立花先生は、深い溜息を吐(つ)いた。。
- to be continued …-
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