STORY of HDG(第3話.02)
第3話・Ruby(ルビィ)・1
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お茶の時間の間に、テスト手順の確認を行った一同は、十五分後、それぞれが準備を始めた。緒美と樹里は格納庫に降りて、HDG のメンテナンス・リグに計測器のケーブルを接続する等の準備を、恵と直美は計測器のセッティング等、瑠菜と佳奈は資料室で茜のインナー・スーツへの着替えを手伝っていた。
インナー・スーツは一見するとダイビング用スーツの様に見えるが、勿論、単純なゴム製等(など)ではなく、内部には各種センサーが埋め込まれている他に、体温や気圧の維持調整機能も有り、どちらかと言うと宇宙服に近い代物なのである。部分的には防弾ベスト等に使われる強化素材も使用されており、胸部や腹部などの重要な臓器や脊椎を衝撃から保護する役目も担っている。とは言え、一義的にはドライバーに対する HDG のインターフェースである事が、インナー・スーツの役割である。
着替えを終わった茜が、二階廊下から南側の階段を降りて来る。右手にはヘッド・ギアを持っている。
「お待たせしました~。」
茜の後ろには、瑠菜と佳奈が付いて来ていた。
「サイズはどう?素材的には伸縮性が有るから、問題は無いと思うけど。」
緒美が茜に向かって、声を掛けた。
「サイズは問題無いですけど、着慣れてないので、恥ずかしいです。何かのコスプレみたいで。」
「恥ずかしいのは性能には関係無いから、気にしないで。」
緒美は笑い乍(なが)ら、そう言った。
「じゃぁ、先ずはインナー・スーツの機能測定をするから、こっち来てね~天野さん。」
茜は樹里に呼ばれる儘(まま)、測定機器の方へ向かった。
「ヘッド・ギアは着けないんですよね?」
「あ、こっちで預かるわ~。」
恵が茜の手からヘッド・ギアを受け取り、緒美の方へ向かう。
茜は、床面に黒いテープが『×』状に貼られている所で立ち止まり、その印の上に立った。
「ここで、いいですか?樹里さん。」
「オッケー。その儘(まま)、動かないでね。」
茜の前、一メートルの位置にスタンドが一本、立っているのだが、それには縦に三つ、四角い小型の板型アンテナが取り付けられていて、そのアンテナからは計測機器へケーブルが接続されていた。樹里が計測器のコンソールを操作し、それを樹里の背後から緒美達が覗いていた。
「シグナル・レベル…正常ね。バイタル・データ受信確認。データ・リンクは正常ですね。」
樹里は計測機器のモニターを読んで、インナー・スーツの機能が正常に作動しているのかを確認していた。インナー・スーツは HDG とは独立してセンサーや調整機能が働いていて、それらは微弱な電波で HDG 本体と交信する事でデータ・リンクを確立し、HDG の制御の為の基礎情報として活用される。
「じゃ、シグナルの減衰率、確認測定します。瑠菜ちゃん、お願い。」
「はぁい。」
傍(かたわ)らで様子を見ていた瑠菜が、茜の前に立てていたスタンドを、二メートル離れたマークの位置迄、移動させた。樹里は、コンソールのモニターを睨(にら)んでいる。
「はい、シグナルの減衰率は規定値、ね。スタンド、元の位置に戻して。瑠菜ちゃん。」
樹里の指示に従い、瑠菜はスタンドを、元の一メートルのマーク位置まで戻す。
「…シグナル、元のレベルに復帰。引き続き、ノイズ耐性試験行きま~す。…始め…。」
樹里はコンソールを何度か操作して、モニターを覗き込んでいる。緒美と直美は、それを後ろから眺めつつ、緒美が樹里に声を掛けた。
「どう?」
「…はい、ノイズを二十パターン、順番に送ってますが…今の所、仕様からの逸脱は有りません…ね。残り、あと五パターン…。」
それから数秒、沈黙の時間が続いた後、樹里が大きく息を吐(は)いた。
「はい、終了。ノイズ耐性試験クリアです。」
「取り敢えず、インナー・スーツは仕様通り正常に機能している様ね。あ、天野さん、楽にしていいわよ。」
緒美は茜に手招きをして、声を掛けた。
茜が緒美達の方へ歩み寄って行くのに対して、瑠菜と佳奈は HDG が載せられているメンテナンス・リグの方へ駆け寄り、それを茜が元居た位置の方へ移動させ始めた。
「じゃぁ、いよいよ HDG の起動ですね。」
- to be continued …-
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