STORY of HDG(第3話.03)
第3話・Ruby(ルビィ)・1
**** 3-03 ****
「起動って言っても、疑似モードだけどね。打ち合わせ通り。」
茜に緒美はそう言って、恵から受け取ったヘッド・ギアを渡した。そして茜はヘッド・ギアを装着すると、再びアンテナが取り付けられたスタンドの前に立つ。
「メンテナンス・リグ、電源投入します。樹里、いい?」
メンテナンス・リグのセッティングをしていた瑠菜が、声を上げる。
「どうぞ。こちらはスタンバイ。」
樹里は先程の計測機器とは別の、HDG のデバッグ用コンソールに移動し、キーボードに手を掛けて待機している。
「はい、電源投入。」
瑠菜がメンテナンス・リグのコンソールを操作して電源を入れるが、この段階では別段の変化は無い。瑠菜はコンソールのモニターでメンテナンス・リグにエラーが発生してはいない事を確認した後、HDG の正面側に廻ると、HDG の爪先部分に足を掛け、器用に HDG をよじ登った。脚ブロックの開放部分に足を掛け、左手で腰部リングを掴んで姿勢を保持すると、右手を正面奥へと伸ばした。瑠菜は HDG 背部ユニット正面のパネルを開いて、その中のスイッチに指を掛ける。
「本体電源、投入します。」
瑠菜は本体の電源スイッチを、「ON」の側へ倒した。HDG からは微かな機械音が漏れ聞こえるが、又しても特に変化は無い。
「はい、ステータス、受信しました。」
コンソールのモニターで状態を監視している樹里が、起動を確認して声を上げる。
「天野さん、其方(そちら)でもステータスを確認出来る? ヘッド・ギアのスクリーン。」
「スクリーンを下ろすのは思考制御で?」
「そうそう、スクリーンが顔の前に降りて来る動作をイメージして。」
「やってみます。」
茜が数秒意識を集中すると、額の位置に上げられていたゴーグル型のスクリーンが、目を覆う様に下げられた。すると、スクリーンの表示が二度、三度と切り替わる。
「はい、ステータス表示来ました。本体起動状態確認。接続待機中、ですね。」
「オーケー。じゃぁ、疑似接続コマンド送信します。」
樹里がコンソールのキーボードを軽やかに叩くと、開放状態だった HDG の腰部分の接続リングが収縮し、後方へ跳ね上げられていた上部フレームが前方へ降り、更に脚部パーツが閉鎖された。それと同時に、HDG の腕と脚パーツの位置がスッと、少しだけ動いた。茜の手脚の位置と、同期したのだ。
「城ノ内さん、HDG からの座標フィードバック値は、合ってる?」
「はい、天野さんのインナー・スーツと、HDG のフィードバック値、オブジェクト座標にズレは有りません、部長。正常に作動してるみたいですね、今の所。」
「じゃぁ、天野さん。ちょっと右手を上げたり、下げたりしてみて。」
「は~い、動かします。」
茜は、緒美のリクエスト通り、右手を上げ下げしたり、肘の曲げ伸ばしをしたりしてみる。すると、茜の背後のメンテナンス・リグに接続された HDG の右腕も、茜の腕に同期した動作を見せるのだった。それを見守っていた一同は、「おぉ」と、小さく声を上げた。それは、三年生にすれば二年間、二年生に取っては昨年一年間、仕様検討から基礎設計迄(まで)を手掛けて来た、その実機が、設計通りの動きを見せた瞬間である。例え、詳細設計や加工、組み立ての大半以上を本社の大人達が行ったという事実が有ったにせよ、それが初起動の感動を減じる物ではなかった。
一方、茜には、そんな上級生達の感慨を、瞬間的に理解する事が出来なかった為、周囲の雰囲気が少し奇異に感じられ、思わず HDG の方を振り向いた。当然、HDG はその動きをもトレースするので、上半身部分が振り向いた様に捻れた。その HDG の動きが、何となく滑稽に見えたのか、上級生達はどっと笑ったのだった。
茜は、そんな上級生達の様子が、今度は何だか楽しくて、一緒に笑っていた。
「天野さん、もう少し両手両脚、色々動いてみて。」
樹里が、少し笑いを堪(こら)える様に、茜にリクエストする。
「はい。」
茜は、ラジオ体操の様に両腕を振り上げたり、膝の屈伸運動をしたり、少し、ダンスの様なポーズを取ったりと、次々に動きを変えて見せる。すると、茜の背後で HDG が同じ様に動きを変えるので、それを見た先輩達が、また、笑うのだった。
- to be continued …-
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