STORY of HDG(第3話.09)
第3話・Ruby(ルビィ)・1
**** 3-09 ****
「こうなったら、何とかしてメンテナンス・リグの所迄(まで)、HDG を運んで来るしかないわね…。」
緒美は右手の人差し指を額に当て、暫(しば)し思案するのだった。
そこで、先(ま)ず、第一案を出したのは佳奈である。
「この人数だったら、台車か何かに乗せられるんじゃないですか?」
その、佳奈の第一案に対して、緒美は、より具体的な方法を検討する。
「もっと大きければ全員で持ち上げられるけど、HDG のサイズだと一度に手が出せるのは、三人程度じゃないかしら。人手でやるとしたら丈夫なシャフトか何かを括り付けて、一度に掛かれる人数を増やすか…適当なシャフトか何か、有ったかしら? それを HDG に固定する方法も考えないと。」
そこに、直美が第二案を提案する。
「先生、フォークリフトとか、手配出来ませんか?」
直美の提案に、黙って様子を見ていた立花先生が口を開く。
「出来なくはないけど、時間は掛かるわよ。飛行機部辺りが、何か適当な機材を持ってないかしら?」
立花先生の返答を受けて、その隣でビデオ撮影をしていた恵が提案する。
「実習工場のハンドリフターとかじゃ、駄目かなぁ?」
「フォークリフトにしても、ハンドリフターにしても、HDG を先ずパレットに乗せないと。」
緒美の一言で、提案は振り出しに戻るのである。
立花先生も腕組みをして、思案している。
「結局、そこは人手で持ち上げるしかないか…有るのなら、クレーンでも欲しい所だけど…。」
「こうしていても始まらないわ、取り敢えず、この人数で台車に乗せられるか一度やってみましょうか。 古寺さん、HDG を乗せられるサイズの台車って有る?」
緒美は第一案の発案者である佳奈に、尋ねた。佳奈は格納庫の奥側を指差して答える。
「あれなら、大丈夫じゃないでしょうか。」
それは、重量物を運搬出来る仕様の手押し台車だったのだが、その仕様故(ゆえ)、キャスターは大荷重に耐えられるサイズである。その為、地面から台面までの高さが、三十センチ程も有ったのだ。
台車を見詰めて、直美は緒美に言った。
「あれに乗せられるほど持ち上げるのは、ちょっと無理じゃない?」
「HDG の、どこを持つかにも因るでしょうけど…でも、下手に持ち上げて、バランスを崩しでもしたら…危険ね。」
緒美は再び、右手の人差し指を額に当てて思案していた。
そんな折、Ruby の合成音が格納庫内に響いた。
「緒美、提案してもよろしいでしょうか?」
「なぁに?Ruby。どうぞ。」
「HDG-A01、茜の回収を、わたしに任せて頂けませんか?」
「あ…。」
Ruby の提案を聞いた、緒美と樹里と、そして立花先生の三人が、ほぼ同時に顔を見合わせるのだった。少し遅れて、直美と佳奈が、最後に恵が Ruby の提案の意味に気が付いた。
「どうして、それに気が付かなかったかなぁ…。」
直美は、そう言って溜息を吐(つ)いた。その一方で、緒美は直ぐに、Ruby へ指示を出す。
「いいわ、Ruby。LMF 自律制御起動承認。LMF を起動したら、HDG-A01 の回収に向けて、ルートを策定して。」
「LMF 起動します。APU スタート。」
緒美の許可を得て、Ruby は機体の起動準備を始める。
因(ちな)みに、APU(Assist Power Unit:補助動力装置)とは地上電源で起動する小型のタービン・エンジンの事で、これに接続された発電機が、先ず制御システムに給電を行い、その電力でメイン・エンジンの起動を行う。メイン・エンジンが起動したら APU は停止され、それ以降はメイン・エンジンに接続された発電機が電力を確保するのだが、例えばメイン・エンジンの発電機が故障した場合は、非常用の発電機として電力の維持を担うのが APU の役割りでもである。
「LMF のエンジンが起動したら、コックピット・ブロックを切り離すわよ。古寺さん、コックピット・ブロック運搬用のドリー、用意して。」
「はい、部長。」
「手伝うわ。」
佳奈はコックピット・ブロックを乗せる運搬台車を取りに、格納庫の奥へと向かった。直美は、それに同行して行く。
緒美は、ヘッド・セットのマイクに向かい、茜に呼び掛けた。
「天野さん、聞こえたかも知れないけど、Ruby が回収に行くから、もう少し待っててね。」
一方、緒美からの無線連絡を聞いた、茜である。
「はい。待機してます。」
茜の傍(かたわ)らで様子を見ていた瑠菜は、無線連絡に返事をするのを聞いて茜に尋ねた。
「部長、何だって?」
「Ruby …LMF で回収するそうです。」
「あぁ、そうか。その手が有ったのか。じゃあ、わたしは LMF の起動、手伝いに行くけど、良い?」
「あ、はい…一人にされるのは、ちょっと心細いですけど…。」
「大丈夫、LMF の方は動作確認が済んでるから。もうちょっとの辛抱よ。」
そう言い残すと、瑠菜は格納庫の方へと駆けて行ったのだった。
- to be continued …-
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