WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第3話.12)

第3話・Ruby(ルビィ)・1

**** 3-12 ****


 振り向いて、緒美が茜に声を返す。

「全部脱ぐよりも、腰のフレームを外した方が早いわよ。」

「あぁっ、そうでした。ありがとうございます~。」

 再び、茜の声が聞こえて来た。

「取り敢えず、暗くなる前に方(かた)が付いて良かったわね。」

 緒美の肩をポンと叩いて、立花先生が言った。

「そうですね。ともあれ、今日のトラブル、内容を纏(まと)めて本社へ報告しておかないと。」

 その時、格納庫の入り口付近から、LMF のエンジン音が一際(ひときわ)大きく聞こえて来る。LMF が、格納庫内に入って来たのだ。
 LMF は元居た位置付近まで低速で進むと一旦停止し、その場で百八十度向きを変えてから着地した。LMF のホバー・ユニットが停止すると、格納庫内を舞っていた気流が静まり、騒音も一段低くなる。

「ミッション完了。LMF 停止シークエンスに移行します。外部電源の接続を、お願いします。」

Ruby ご苦労様。暫(しばら)く、LMF を HDG のメンテナンス・リグ代わりにする事になるわね。」

 ヘッド・セットを外し乍(なが)ら、緒美は Ruby へ話し掛ける。LMF の背後では、佳奈と瑠菜が外部電源のケーブルを、LMF の方へと引っ張っていた。

「外部電源、接続しま~す。」

 LMF の後方から、メイン・エンジン下部のスペースに入った佳奈が、宣言の後、電源ケーブルのプラグを接続した。

「外部電源、接続確認。制御電源を外部入力に移行し、メイン・エンジンを停止します。」

 LMF の左右エンジンが相次いで停止されると、格納庫内は元の静けさを取り戻したのだった。

「は~い、ここで取り敢えず記録停止しま~す、っと。」

 映像記録を撮っていた恵が、ビデオ・カメラの停止操作をして声を上げた。

「…で、どうしましょう?立花先生。開発からは、出来るだけ記録はノーカットで渡して欲しいって言われてましたけど。」

「あ、あぁ…そうね。流石に最後の方は茜ちゃんが可哀想かもね…。茜ちゃんが恥ずかしくない程度に編集してあげて。」

「そうします。」

 一方、格納庫の開口側へ移動した直美が、緒美に声を掛けて来る。

「鬼塚~大扉、閉めるよ~。」

「あ、は~い。お願い。」

 格納庫南側の開口部では、直美が中央へと押し始めた大扉が、再び「ゴウゴウ」と大きな音を立てている。閉まり行(ゆ)く大扉の隙間から見える庫外は、薄暗くなり始めていた。
 大扉が閉め切られて、辺りが再び静かになった後、格納庫南側から戻って来た直美が、トイレから戻って来る茜の姿を認めて、声を掛ける。

「あぁ、天野、お疲れ~。」

 その声に、一同が茜の方へ視線を向けるので、茜は少し照れ笑いを返すのだった。

「間に合って良かったわね。」

 そう言って笑ったのは、立花先生だった。

「乙女のピンチでした。」

「あ~、打ち合わせの時の、紅茶の所為(せい)かもねぇ。」

「ごめんねぇ、天野さん。」

 緒美の発言を受けて、恵が両手を合わせて謝っているので、慌てて茜は言葉を返す。

「いいえ、事前に済ませておかなかった、わたしが迂闊(うかつ)でした、から。恵さんの所為(せい)じゃないです。」

「真面目な話、今後は最悪の事態を想定して、尿漏れパッドとか用意しておいた方が良いかしら?」

「必要なら、購入しておきましょうか?部の予算で。」

 緒美と恵は、真面目な顔で話し合っている。茜は急に恥ずかしくなって、顔を赤らめて否定した。

「大丈夫ですから。今後は気をつけますからっ。」

「そう?…まぁ、今後の検討課題の一つとして考えておきましょう。」

 そう、緒美が言った時、Ruby の声が響いた。

「食事や排泄の手間が必要と言う事は、不便ですね。」

 Ruby の発言に、茜が言葉を返す。

Ruby には、その必要が無くて、羨(うらや)ましいわ。」

 その茜とは、反対の意見を、恵が提示する。

「あら、それはそれで、その瞬間は幸せなのよ、人間は。」

「食事や排泄と言った手間がある一方で、活動の為のエネルギー源を内蔵していると言う事は、わたしには羨(うらや)ましいとも言えます。わたしは外部電源から電力の供給を受けないと、活動出来ませんから。」

「どちらにも一長一短、有るって言う事よ。Ruby。」

「ハイ、緒美。わたしもそう思います。」

「何、当たり前の事、難しく話してんのよ。」

 それは、緒美と Ruby の遣り取りを端(はた)で聞いていた、直美の素直な感想だった。

「さて、無事に HDG の起動も見届ける事が出来た事だし、まぁ、最後の方、ちょっとドタバタが有ったけど~取り敢えず、今日の所はこの辺りで、切り上げましょう。」

 緒美にそう提案したのは、立花先生である。

「そう、ですね。今日のトラブルの纏(まと)めは、明日、改めてするとしましょうか。ビデオ編集の時間も必要だし…あ、城ノ内さん。ログのコピーは取って有る?」

「はい、抜かり無く。」

「天野さんは着替えてらっしゃい。瑠菜さん、手伝ってあげて。」

「はい。じゃ、天野~上、行こうか。」

 茜と瑠菜は、連れ立ってその場を離れ、二階へ繋がる北側の階段へ向かった。
 一方、その場に残ったメンバーに向かって、緒美が声を掛ける。

「後片付けしたら、寮に戻って、みんなで夕食にしましょう。祝杯…とはいかないですけど、先生もご一緒します?」

「仲間外れは嫌よ、緒美ちゃん。」

 立花先生の返事に、その場に居た一同が笑うのだった。その笑い声を、階段を上がりながら、茜と瑠菜は聞いていた。
 笑い声の方へ顔を向け、思わず顔が綻(ほころ)ぶ茜に気が付いた瑠菜が、茜の背後、階段の三つ下段から声を掛けた。

「楽しそうね。」

 そう問い掛けられ、振り向いた茜が認めた瑠菜も又、笑顔である。

「はい、楽しいです。」

「そう、それは何より、ね。」

「この学校で、この部活に入って、本当に良かったな、って。今、そう思うんです。」

「その手の恥ずかしいセリフは、わたしよりも部長に言ってあげて。きっと喜ぶから。」

 そして、今度は二人が、声を上げて笑った。

 その後、着替えを終えた茜は、寮で同室のブリジットへ携帯端末からメッセージを送った。いつもは二人で夕食を取っていたのだが、この日は『兵器開発部』の先輩達と共に夕食、と言う流れだったからだ。茜の送ったメッセージでは「ブリジットも一緒に」との旨だったのだが、ブリジットからの返信は「部外者だから、遠慮します。こちらの事は気にしないで。」だった。

 勿論、茜は夕食のあとで、何時(いつ)もの様にブリジットと今日の出来事を語り合ったのだが、『兵器開発部』での活動に就いてはブリジットには理解出来ない内容が多く、それらに関わる事柄に就いて、彼女はこの時点で「話半分」でしか聞いてはいなかった。徒(ただ)、茜が楽し気(げ)に話している事に、ブリジットは安堵感を覚えていたので、茜の話の内容を自分が理解出来ていない事は些末(さまつ)な事でしかなかったのだ。
 それらの事柄が、ブリジット自身の身にも降り掛かって来る事になるのは、又、後の話なのである。

 

- 第3話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。