STORY of HDG(第4話.06)
第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)
**** 4-06 ****
「それで、あなたは『兵器開発部』で、パワード・スーツの研究をしようと思ったのね。」
「う~ん、その辺りは何方(どちら)とも…。元元、独りで基礎研究を進めて、天野重工に行ってから、そう言うテーマの仕事が出来たらいいなって、そう思ってましたから。偶然、『兵器開発部』の事を知ったので、この部活が、それに適した環境だと思えたら、そうも考えたかも知れませんけど。」
「成る程…。」
智子は、背筋を伸ばして大きく息を吐(は)いた。
「鬼塚さん。あなた、『兵器開発部』に入りなさい。多分、その方があなたの研究には、プラスになると思うわ。」
「そうでしょうか?…」
訝(いぶか)し気(げ)な視線で、緒美は智子の表情を見ていた。
「活動が無いのなら、独りで研究を進めていても同じですし…。」
「教室や寮だと邪魔が入るでしょう? この部屋なら、わたし以外は誰も来ない筈(はず)だし、ネットの回線も使えるし、隣の資料室には兵器関連の資料が山程(やまほど)有るから、参考になる文献が有るかもよ。」
「わたしの研究は個人的な物で…学校の授業とは関係無い物ですよ?先生。」
「あぁ、言って無かったわね。わたしは本社の企画部から、出向で来てるのよ。だから、あなたの研究内容には、非常に興味が有る訳(わけ)。取り敢えず、仮入部でもいいから。暫(しばら)く、ここを自由に使って、現時点での検討内容をレポートに纏(まと)めて見せて貰えないかしら、鬼塚さん。 レポートに纏(まと)めるのが苦手なら、アドバイスもするわよ。仕事柄、そう言うのは得意だから。」
智子は唇の両端を引き上げ、ニッコリと笑って見せる。一方の緒美は、右手人差し指を額に当て、両目を閉じて考えていた。暫(しばら)くの沈黙の後、緒美は目を開いて、智子の顔をじっと見詰めた。智子は視線を逸(そ)らさず、緒美の顔を見詰め返す。そして、緒美が口を開いた。
「分かりました。そう言うレポートって、書いた事が無いので、書き方から教えてください、先生。」
「いいわ。じゃぁ、一般的なレポートの構成から、簡単に説明しましょうか…。」
こうして、智子によるレポートの書き方講座から、緒美の兵器開発部での活動が始まったのである。この日は一時間程掛けて、レポートの章立てや記述の流れ等について緒美は指導を受けた。それが一通り終わり、「今日はお開き」となった時、緒美は智子から部室のカード・キーを預かったのである。
それから、毎日。放課後になると、緒美は兵器開発部の部室へと赴き、彼女が研究していたパワード・スーツに就いての、概念的な構想に関するレポートを、智子の指導に因って書き進めていった。
智子は当初、緒美がタブレット型端末しか持っていなかった為、効率的にレポートの打ち込みが出来ていないのを見兼ね、キーボードを用意した。又、部室に有ったプリンターのインク・カートリッジや、プリンター用紙を購入したりもした。初めの内は、緒美が打ち込んだレポートのデータを智子のモバイル PC にコピーしてチェックを行っていたのだが、修正箇所の指定や記述の追加指示等を口頭でいちいち伝えるよりも、プリント・アウトした用紙に赤ペンで書き込む方が、お互いに効率が良かったのだ。
そうやって修正を重ねる日々が、五月の連休が終わる頃まで続いたのである。二人は連休も関係無く部室に籠(こ)もり、一先(ひとまず)、レポートの完成を目指した。
そして、2070年5月5日月曜日の夕方。その時点での、緒美の頭の中に有ったパワード・スーツに就いての概念が、レポートとして形になったのである。
「よしっ…と。」
プリント・アウトされたレポートの、最後のページをチェックし終わった智子が、その紙の束を机の上に置き、その上に右の掌をポンと乗せた。
「お疲れ様、鬼塚さん。」
「いえ。…で、そのレポート。取り敢えず出来上がりはしましたけど、どうされるお積もりですか?先生。」
ペット・ボトルのアップル・ティーを紙コップに注いで、一口、口に含んでから、智子は緒美の方へ視線を戻した。今度は緒美がアップル・ティーのペット・ボトルへと手を伸ばし、空いていた自分の紙コップへと注いだ。
「そうね。本社…わたしの上司に見て貰おうと、思ってるの。」
「そうすると、そのあと、どうなるんでしょうか?」
緒美はアップル・ティーの入った紙コップを、口元へと運ぶ。
「どうなるか…予想している反応は有るけど。約束は出来ないから、言わないでおくわ。」
「そうですか。じゃぁ、期待はしないで待ってる事にします。」
「連休潰して頑張って呉れたのに、ごめんね。鬼塚さん。」
「連休が潰れたのは、先生も、じゃないですか。」
「わたしはいいのよ。それなりに楽しかったし、元元、何の予定も無かったしね。あなたは良かったの?実家に帰省とかしなくて。」
「連絡はして有りますから。やる事が有るのはいい事だから、しっかりやりなさい、と言われました。」
「信頼されてるのね、ご両親に。」
「そう…ですね。うちの両親は技術系…研究職なので、昔から連休とか関係無しでしたし。この連休は、わたしが帰らなかったから仕事してたんじゃないですか、多分。」
「そう…鬼塚さんは、この先、この研究テーマについては、どうする積もり?」
「このレポートで、終わりじゃないですから。新しい情報を仕入れて、どんどんアップデートしていきますよ。これが役に立つ日が何時(いつ)になるかは分かりませんけど、その日に向けて努力は続ける積もりです。」
「どうしてあなたが、そこまで一生懸命なのかは知らないけど…根を詰め過ぎない様にね。 さぁ、今日は、ここ迄(まで)にしましょう。」
智子は自分のモバイル PC のディスプレイを閉じると、席を立った。
二人は、部室を片付け、女子寮へと帰って行ったのだった。
- to be continued …-
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