STORY of HDG(第5話.02)
第5話・ブリジット・ボードレール
**** 5-02 ****
その後、茜と瑠菜を除いて、一同は格納庫フロアへ下りて行った。茜はインナー・スーツへと着替えて、瑠菜がそれを手伝い、少し遅れて階下へと下りて来た。
「お待たせしました~。」
階段を降りて来た茜は、メンテナンス・リグに接続された HDG-A01 の周りに立っていた一同に声を掛ける。同時に、装甲の様なディフェンス・フィールド・ジェネレータを装備した、フル・バージョンの HDG-A01 の姿が、茜の目に飛び込んで来た。それには、並べて駐機されていた LMF と同じ様な、赤色主体のカラーリングが施されていた。
そして、HDG-A01 の背部にはスラスター・ユニットが、既に接続されている。
茜は、メンテナンス・リグの前に立ち、しばし、黙って機体を眺めていた。
その傍(かたわ)らで、緒美が畑中に尋ねる。
「畑中先輩、スラスター・ユニットの運転試験は?」
「終わってるよ。リクエスト通り、50%出力で百時間連続運転はクリア。そのあとオーバーホール迄(まで)やって、パーツの消耗レベルも規定値以内を確認済み。運転試験のデータは、立花…先生に渡してあるから。」
「分かりました。…天野さん、どうかした?」
無言で HDG-A01 を眺めている茜に、緒美が声を掛けた。茜はちょっと微笑んで、口を開く。
「いえ、改めて実物を見ると、何だかドレスっぽいなぁ~って。」
「あぁ、組立やってた試作部では、『ヘビィ・ドレス』って呼んでたよ。」
畑中が口を挟んで来ると、それに緒美が反応した。
「『HDG』の『HD』ですか?」
「そうそう。」
「じゃぁ、『G』は?」
その会話に、参加して来たのは恵である。そして、実松課長が答えた。
「そりゃ、『Girl』になるんじゃないかな?」
それを直美が拾って、言った。
「それじゃ、『Heavy Dress Girl』で『HDG』ですか。」
「あはは。防衛軍が付けた『ハイパー何とかギア』って物騒なのよりは、『ヘビィ・ドレス・ガール』の方が可愛くていいじゃない。改名しましょうよ、立花先生。」
そして、恵が立花先生へ、話を振るのだった。
「別に、会社的には『HDG』は『HDG』でしかないから。あなた達は、好きに呼んだらいいわ。」
立花先生は、こう言った話題に興味は余り無い様子でその場を離れ、茜の背後の作業机の上に置いてあった改修型のヘッド・ギアを取って来て、茜に渡した。
「ヘッド・ギアの改修型も、届いているのよ。」
初期型ではゴーグル型のスクリーンしか取り付けられていなかったのだが、それだと地上で高速機動する際に、虫や砂埃等(など)が顔に当たったり、風圧で呼吸がし辛くなる事が想定されたので、顔全面がカバー出来るフェイス・シールドを追加する要望を、茜が提案していたのだった。勿論、フェイス・シールドを下ろした際は、内側のゴーグル型スクリーンに外界の状況が投影されて視界を確保出来る様になっている。
茜は手渡された改修型ヘッド・ギアの、追加されたフェイス・シールド部に大きく「茜」の文字がペイントされているのに気がついた。
「先生、これは…。」
茜はヘッド・ギアの「茜」の文字を指差して、立花先生に尋ねるのだった。
「さぁ…そう言えば、ドライバーの名前を、以前、試作部の方から聞かれた事が有ったけど。…畑中君、知ってる?」
「あぁ、それ。飯島さん…カラーリングのデザイン担当からのプレゼントみたいな。デザイン的に、そこに何か文字を入れたかったんだってさ。…気に入らなかったかな?」
「ああ、いえ。何だか、私物化しちゃってるみたいで、いいのかな?って思っちゃって。」
恐縮して茜は、慌てて畑中に答えるのだった。
「いいんだよ。詳しい経緯(いきさつ)は知らないけど、会長のお孫さんがテスト・ドライバーになったって聞いて、試作部的には結構盛り上がってたんだよ~中途半端な物は作れねぇぞっ、てね。」
「そりゃ、開発部(うち)だって同じさぁ。」
畑中に同調して、実松課長もそう言って笑うのだった。
そんな様子を見て、直美は立花先生に、耳打ちする様にして尋ねる。
「会長って、理事長の事ですよね?…社内では、そんなに人望が有る人なんですか?先生。」
立花先生は直美の方へと視線を送り、黙って頷いた。
茜は実松課長と畑中に向かって、ペコリとお辞儀をし、頭を上げると緒美の方へ向き直り、言った。
「さぁ、じゃ、試運転、始めましょうか。」
緒美は静かに頷くと、周囲に号令を掛ける。
「HDG、起動準備。城ノ内さん、試運転のログを取る準備、お願いね。」
瑠菜はメンテナンス・リグへ、佳奈は搭乗用のステップラダーを、樹里はデバッグ用コンソール、それぞれが HDG の起動に向かって準備を始めた。
- to be continued …-
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