WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第5話.05)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-05 ****


「それじゃ、天野さん。先ず、垂直跳びからやってみましょうか。」

 茜が格納庫から駐機場へと進んで行くと、緒美からの指示が聞こえた。振り向くと、緒美達は格納庫の大扉付近迄(まで)来て、茜の方を見ている。樹里だけはデバッグ用コンソールの都合で、格納庫内部に残っていたのだが、今回は樹里も緒美と同様にヘッド・セットを装着していた。

「はい、やってみます。」

「あ、最初は軽く、ね。」

「はい。樹里さんの方は、準備いいですか?」

「こちらは、何時(いつ)でもオッケーよ。」

 距離は離れているが、緒美や樹里の声がヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来る。
 茜は、スゥッと息を吸い込むと、少しだけ腰を落とし両脚を揃えて地面を蹴る。HDG が飛び上がった高さは、初起動時に試した結果の半分位(くらい)だった。

「矢っ張り、その装備だと基礎フレームだけの時の、半分位(くらい)みたいね。」

 緒美の声がヘッド・ギアから聞こえて来る。

「こっちの座標計測値から計算すると、30センチ位(くらい)です。」

 次いで、樹里の声。

「もうちょっと、力を入れてやってみます。」

 茜は膝を深く曲げ、腕の振りや全身のバネを使う様に、勢い良く身体を伸ばす。風を切って茜の背丈程の高さに浮き上がった HDG は、「ズン」と重そうな音と共に着地する。茜は膝を曲げて着地の衝撃を吸収し、慣性で舞い上がったスカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが、少し遅れて駐機場のコンクリート地面にぶつかって音を立てた。

「今のが全力位(ぐらい)?天野さん。」

「いいえ、半分位(くらい)の積もりでしたけど。記録はどの位(くらい)でしたか?樹里さん。」

「そうね…大体、1メートル50センチ位(くらい)。」

「そうですか。全力でもう一回、やってみましょうか?部長。」

「う~ん…いいわ、止めておきましょう。次は、駆け足からダッシュ、急停止迄(まで)ワンセットで。天野さん、あなたのタイミングでやってみて。」

「はい。」

 茜は身体の向きを西側へ変える。上体を前傾させ、走り出せる様に構えた。

「じゃ、行きます。」

 一歩、二歩と早歩き程度の踏み出しから駆け足へと速めていくが、茜に取って装備が重くなった事への変化は、余り感じられなかった。そこで、茜は重心を更に前方へと移し、右脚を強く踏み込む。身体は前方へと強く押し出され、左、右、と踏み込む足が変わる毎(ごと)に歩幅が広がっていく。そして、最後に重心を後ろに移しつつ、両脚で着地した。勢いの付いた身体は直ぐには止まらずコンクリートの上を滑り出すので、転倒しない様に重心を下げつつ身体を捻り、両手を広げる様にしてバランスを保ち乍(なが)ら、低い姿勢の儘(まま)、横向きにスライドしていた。

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 スカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが地面と接触し、火花を散らせ乍(なが)ら数メートルを滑り、止まった。

「成る程、あの装備で走るってのは、案外と難儀(なんぎ)そうだなぁ。」

 様子を見ていた実松課長が、ポツリと感想を漏らすのだった。

「それでも、慣れれば、あの位(くらい)は動ける様になるんですけど、あの調子で動き続けるのは、矢張り負担が大きいので。だから、スラスター・ユニットが必要なんです。」

 緒美が実松課長と畑中へ解説をする。二人は、黙って頷(うなず)くのだった。

「オーケー、天野さん。フル装備でも、バランス取るのは問題は無さそうね。じゃぁ、スラスター・ユニットのテストに移りましょう。取り敢えずパラメータ、高度制限を一メートルに設定して。」

「はい。スラスター・ユニットのパラメータ…高度制限…はい。変更しました。」

 茜はそう答えると、右手を上げて緒美へ合図を送った。

「先ずは、その場でホバリングをやってみましょう。」

「はい。」

 緒美の指示を受け、茜は自身が空中で停止した状態を、頭の中でイメージする。
 HDG のスラスター・ユニットは思考制御を基本とし、その瞬間の姿勢に応じて安定する様に自動制御が行われる。操縦桿やスイッチ操作の様な直接的な操作は必要無いが、イメージと言う曖昧な入力操作で制御を行う事は、先(ま)ずイメージ検出の精度が、次に検出に対する反応度が制御結果の質を左右する。イメージの強さや正確さ、持続時間の長さ等には、当然、個人差が有るので、それらを検出するセンサーや、解析する回路のチューニングを行うソフトウェアは、天野重工本社の開発部の労作である。とは言え、それはゼロから開発された物ではなく、既に現用浮上戦車(ホバー・タンク)の火器管制システムや、補助操縦システムとして実用化されていた物の発展版なのであった。
 自分の思考に合わせて、スラスター・ユニットに装備された小型ジェット・エンジンの回転数が上がり、推力が増していくのが茜には感じられた。そして、最初に背中が引っ張り上げられる様な感触が、一瞬遅れて腰が引き上げられ、そして足元から押し上げられる様な感覚へと変わった。茜の身体は背中と腰と足の三箇所で HDG に接続されているので、スラスター・ユニットが背部ユニットに接続されているとは言え、単純に背中から吊り上げられている様な感覚にはならないのである。
 スラスター・ユニットは、推力と重心のバランスを保つ為に、ウィング状のエンジン・ユニットが角度を小刻みに調整している。そして茜は、高度制限設定通り、地上一メートルの高さに立っている様な感覚で浮かんでいた。

 

- to be continued …-

 

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