STORY of HDG(第5話.08)
第5話・ブリジット・ボードレール
**** 5-08 ****
そして、放課後。茜とブリジットは滑走路の在る学校の敷地の南側、第三格納庫へと向かう歩道を進んでいた。
「そう言えば、こっちの方へ来たのは初めてだわ。」
「飛行機部と兵器開発部以外の人は、グラウンドより南へは用が無いもんね、普通。」
そんな会話をしつつ、第三格納庫の北側を東へと進み、格納庫の角を南へと曲がると、二階の部室へと上がる外階段が見えて来る。
ブリジットは茜に続いて、階段を登って行く。茜が部室のドアを開けると、先輩達と顧問の立花先生、そして、本社から出張して来ている実松課長と畑中が既に来ていた。
「すいません、遅くなりました?」
茜が入り口に付近に立った儘(まま)、声を掛ける。
「大丈夫よ…あら?」
茜の声に応えたのは立花先生だったが、早速、茜に背後に立っているブリジットに気が付いた。ブリジットは背が高く、赤毛のポニーテールも、欧米人らしい顔立ちも、兎に角目立つ容姿だったのだから無理も無かった。
茜はブリジットの右腕を両腕で抱える様にして、彼女を室内に引き込み、横に並んで言う。
「今日、どうしても友達が見学したいって言ってるんですけど、駄目でしょうか?」
ブリジットは何となく雰囲気に押されて、軽く会釈をする。
「この部活を見学すると、天野重工本社の秘密事項とか色々有って、入学する時に契約した守秘義務だとか、面倒臭い決まり事を守らなくちゃいけなくなるけど、それを承知しているなら、見ていってもいいわよ。」
緒美は茜から、寮で同室の友人であるブリジットの事は幾度か聞いていたので、「秘密」に関する念押しだけをした。
「はい。ありがとうございます。」
ブリジットは返事をした上で、もう一度、ペコリと頭を下げるのだった。
「寮で時々見掛けるけど、日本語、大丈夫なのよね?」
今度は、恵がブリジットに問い掛ける。
「あ、はい。大丈夫です。」
「ブリジットは、日本生まれの日本育ちですから、見た目はこんなですけど、中身は日本人ですから。寧(むし)ろ、英語やフランス語の方が苦手だものね。」
「あ、うん。苦手なのは話す方、です、けど。」
緊張しているのか、ブリジットの返事が淡泊なので、茜がフォローをしているのである。
「さて、じゃぁ、今日のテストを始めたいから、準備をお願いね、天野さん。」
「はい、じゃ、着替えて来ます。」
緒美に促され、茜はインナー・スーツに着替える為、ブリジットの傍(そば)を離れて、隣の資料室へと向かう。
「あ、手伝うわ~茜ン。」
「すいません、お願いします、佳奈さん。」
佳奈が茜の着替えを手伝う為に席を立つと、他のメンバーも準備の為に階下へと向かうのだった。
「あぁ、鬼塚。彼女、わたしが相手しておくわ。」
「うん、お願い。」
階下へ向かう一同から直美だけが離れ、ドアを背に屈託気(げ)に立ち尽くすブリジットへと歩み寄っていく。
「あなた、お名前は?」
「ブリジット。ボードレール ブリジットです。」
「じゃぁ、ボードレールさん?」
「ブリジットでいいです。」
「そう。じゃ、ブリジットって呼ばせて貰うわね。わたしは新島 直美、一応、この部活の副部長って事になってるわ。」
直美は部室の中央の長机の方へと移動し、椅子を一つ引いて、ブリジットに向かって手招きをする。
「こっちへいらっしゃい。下の見学をする前に、ちょっと、お話をしたいの。」
「あ、はい。」
ブリジットは直美の指定した席に座り、その向かい側に直美も座った。
「あなたは、別に、この部活に興味が有って…要するに、入部希望とかで来たんじゃないのよね?」
直美は真っ直ぐ、ブリジットの目を見詰めて、そう切り出した。それに対して、取り繕う必要性も感じなかったので、ブリジットは素直に答える事にした。
「はい…茜が、この部活で危険な事をしてるって聞いたので、様子を見に来たんです。」
「危険な事?」
「昨日、飛行機部の先輩が見たって、わたしはバスケ部の先輩から聞いたんですけど。」
「あぁ、昨日の、ね。確かに、端(はた)から見てたら危険に見えるわ…成る程。天野…さんは、何て?」
「茜は、危険な事はしてないって言うんですけど、幾ら説明を聞いても、良く分からなくって。」
「そう。…この部活で、天野重工…本社の委託で軍事用パワード・スーツの開発をやってる、っていう話は聞いてる?」
「パワード・スーツ云々って言うのは聞いた覚えが有りますけど。本社とか軍事用とかのお話は、初耳です。」
「あぁ~それじゃ、あなたが何度説明を聞いても…っていうより、天野が解る様に説明が出来ないのも、無理もないかなぁ…。」
直美は腕組みをして俯(うつむ)き、大きく溜息を吐(つ)くのだった。
- to be continued …-
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