STORY of HDG(第8話.08)
第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)
**** 8-08 ****
LMF は、茜の HDG よりも盛大に土煙を巻き上げ乍(なが)ら、ターゲットの支柱に向かって突進する。そして、その機体を左や右へ大きく振って、ターゲット支柱の間を縫う様に進んで行くのだった。そして、五番目のターゲット支柱を通過して暫(しばら)く進んだ後に、左回りに大き目の弧を描いてUターンすると、左右のホバー・ユニット連結機構を伸ばし、一対の腕部を展開して、走行し乍(なが)ら『中間モード』へと移行する。
LMF の左右前腕部には、格闘戦の折りにマニピュレータを保護するナックル・ガードと呼ばれる装甲が装着されており、そのナックル・ガードには HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが取り付けられている。中間モードで腕部が展開されると、そのディフェンス・フィールド・シールドは前腕部と直交する様に向きが変えられるが、LMF が格闘戦の為にナックル・ガードをマニピュレータ保護の位置へ移動すると、ディフェンス・フィールド・シールドは下端が腕先の方へ向く様に、九十度回転する。ディフェンス・フィールド・シールドの下端には、超接近戦時の反撃用に小型のビーム・エッジ・ソードが格納されており、これを展開する事に因って LMF は、ディフェンス・フィールド・シールドを攻撃用の武装として利用する事が可能だった。
そもそも、LMF に HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが装備されているのは、HDG の携行しているディフェンス・フィールド・シールドが故障や破損した場合に、LMF が HDG へ予備品を供給出来る様にと計画されているからなのだ。しかし、HDG に供給する必要が無ければ、LMF 自身の防御・攻撃用の装備として、使用する事が想定されているのである。
LMF は両腕に青白く光る荷電粒子の刃先を構えて、先の砲撃でターゲット板が吹き飛ばされた第五ターゲットの支柱へと向かってホバー走行を続け、その右側から前方へと通過する瞬間に左腕を後ろから前へ小さく振る様に動かし、ターゲット支柱を切断した。
そのまま第五ターゲットと第四ターゲットの間を通過すると進路を右へと変え、第四ターゲットの左側から前方を通過するコースに進路を定める。第四ターゲットの前方を通過する際に、今度は右腕のビーム・エッジ・ソードでターゲット支柱を切断すると、後は同様に左右に機体を大きく振り乍(なが)ら残り三本のターゲット支柱を切り倒し終えると、通常の高機動モードに戻って機体を止めたのだった。
濛濛(もうもう)と立ち上がった土煙が LMF の機体周囲から流れ去ると、コックピット・ブロックのキャノピーを開き、ブリジットが腰を伸ばす様に身を起こして、茜に向かって手を振って見せる。一方で、天野重工側の天幕下からは、茜の時と同じ様に拍手が沸き起こるのだった。
「うん、やっぱりサイズ的に、こっちの方がピンと来るものが有るなぁ。」
LMF の機動を見終えて、吾妻一佐はポツリと、そう言った。
「アレの量産仕様の先行、五機。納入は予定通りだよね?飯田部長。」
「ええ、十月初旬、その予定で進んでますよ。」
「装備はプラズマ砲以外も積めるんだよね?アレは威力が強過ぎて、周辺への被害が大き過ぎるから。市街戦を想定すると、20ミリか12.7ミリ機銃位(ぐらい)が、ちょうど良いんだ。」
「実体弾だと、射程や命中精度が落ちますが。まぁ、そう言う御用命ですから、その装備も合わせて開発してますよ。」
そこで飯田部長と吾妻一切の会話に、桜井一佐が口を挟(はさ)むのだった。
「安い装備でも無いでしょうに、それほど急がれなくても?」
それには若干、むっとした様に吾妻一佐は言い返す。
「航空の方(ほう)で全て撃ち落として呉れるのだったら、陸上の方(ほう)は新装備なぞ要求しませんよ。」
「まぁまぁ、吾妻一佐。ここは抑えて。」
飯田部長は慌てて、吾妻一佐を宥(なだ)める様に声を掛けると、それに対して桜井一佐は横を向くのだった。その後ろで和多田補佐官は、声を殺して、小さく笑っていた。
「ボードレールさん、ご苦労様。一旦、待機位置に戻ってね。」
「は~い、わかりました。」
緒美がヘッド・セットのマイクに向かってブリジットへ指示を伝えると、透(す)かさずブリジットは返事をして指示を実行へと移す。LMF がキャノピーを解放した儘(まま)、元の静止射撃位置へと、ゆっくりと移動を開始する。
「ドライバーが交代するって聞いた時はどうかなって思ったけど、ブリジットちゃんも、なかなかやるわね。去年の、直美ちゃんに遜色(そんしょく)は無いって感じね。」
安藤は樹里のデバック用コンソールのモニター表示を覗(のぞ)き込み乍(なが)ら、そう感想を漏らした。
それに対し、モニター画面を切り替えてデータをチェックしつつ、樹里が答える。
「まぁ、制御の細かい部分は、Ruby が殆(ほとん)どやっちゃってますからね…。」
「城ノ内さん、そっちに異常な数値とか、返って来てないわね?」
緒美が樹里へ、モニターしている機体の状態を確認する。それに一拍置いて、樹里が答える。
「はい、部長。LMF も Ruby も、リターン値は正常範囲です。試験、続行して大丈夫です。」
「ありがとう、城ノ内さん。引き続き、モニター宜しくね。 安藤さん。」
「あ、はい。」
緒美に呼び掛けられ、安藤は慌てて返事をする。
「HDG の移動標的射撃試験に移りますので、ターゲット投射機の準備、お願いします。」
「あ、確認する。ちょっと待ってね。」
安藤はヘッド・セットのマイクを口元に上げて、隣の天幕下に待機しているコントロール担当のスタッフに話し掛ける。
「安藤です。移動標的射撃を始めます。準備…あぁ、はい。分かりました。 緒美ちゃん、準備は出来てるから、起動のタイミングだけ教えてって。」
「そうですか。 天野さん、移動標的射撃の試験を始めるけど、準備はいい?」
安藤の返答を受けて、緒美は茜に準備状況の確認を行う。直ぐに茜の返事は、モニター・スピーカーからも聞こえて来た。
「はい。何時(いつ)でもどうぞ。」
緒美の視界の先では、茜の HDG が腰のスリング・ジョイントから荷電粒子ビーム・ランチャーを外し、身体の前面に構えるのが見て取れた。
「スタートすると、あなたの125メートル先に、ターゲットが高度とか間隔がランダムに三十枚投げ上げられるから、出来るだけ多く、撃ち落としてね。」
「はい、頑張ります。」
茜の返事を聞いて、緒美はちらりと安藤の方へ目をやる。安藤は口元にヘッド・セットのマイクを持って来て、緒美がスタートの合図を出すのを待っていた。緒美と視線が合った安藤は、小さく頷(うなず)く。
「では、スタート。」
緒美の声を聞いて直ぐ、安藤もスタッフへ投射機の起動を指示した。そして二秒程が経って、最初のターゲットが投射された。ターゲット板は先程の静止標的の物と同じサイズの鉄板で、縦に回転し乍(なが)ら左から右へと、ゆるい放物線を描いて、茜の目の前を通過して行く。
茜は両腕で保持した荷電粒子ビーム・ランチャーで、素早く狙いを定めると、乾いた破裂音を響かせ、一撃で空中のターゲット板を弾き飛ばした。
続いて、二枚目、三枚目と投射間隔や軌道を変え乍(なが)ら放り上げられるターゲット板を、茜は次々と撃ち落としていく。
HDG の射撃の様子を見乍(なが)ら、安藤が樹里に話し掛ける。
「うわぁ…百発百中って感じねぇ。天野さんって、射撃の心得とか無いよね?」
「そうですよ。天野さんは大雑把な方向に向けて目標を指示してるだけで、HDG の AI が照準を補正して呉れてるんです。」
「うん、そういう風に作ったんだから、そう動いて当然なんだけど。実際、目の当たりにすると、ちょっとビックリだわ。」
樹里と安藤がそんな会話をしていると、二十八枚目のターゲット板を撃ち落とした所で、モニター・スピーカーから茜の声が響いた。
「オーバー・ヒートです。ランチャーが強制冷却モードに入りました。」
「了解。移動標的射撃試験は終了。天野さんは待機しててね。」
緒美は落ち着いた声で、茜に指示を出した。
一方で、安藤が残念そうに、声を上げる。
「あぁ、矢っ張り連射だと三十回は無理だったかぁ。手持ちサイズまで小型化したから、冷却が追い付かないって聞いてはいたけど。」
「でも、計算上は二十五連射が限界だった筈(はず)ですから、それよりは良い成績ですよ。」
そう樹里が宥(なだ)める様に、安藤に言った。
「出力、30パーセント迄(まで)、落としてるのよ?」
「100パーセントだったら、十五連射位(くらい)が計算上の限界ですから。」
返す返す残念そうな安藤に、少し苦笑いする樹里を挟んで、緒美は飽くまで冷静に、そう言ったのだった。
- to be continued …-
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