STORY of HDG(第8話.09)
第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)
**** 8-09 ****
「じゃぁ、次はボードレールさん、LMF の移動標的射撃試験、始めるわよ。準備はいい?」
「は~い、待機してますよ。」
緒美の呼び掛けに、透(す)かさず返事をするブリジットである。安藤も、慌てて投射機のコントロール担当スタッフへと、ヘッド・セットを通じて声を掛ける。
「次、LMF 用の投射機、準備良いですか?…はい、指示しますので、お願いします。 こっちは準備は良いわ、緒美ちゃん。」
「Ruby もいいわね?」
緒美は、敢えて Ruby にも声を掛けてみる。すると、何時(いつ)も通りに Ruby の合成音声が、天幕下のモニター・スピーカーから聞こえて来た。
「ハイ。何時(いつ)でもどうぞ、緒美。」
「では、スタート。」
緒美の指示から三秒程して、一枚目のターゲット板が宙に舞う。HDG の時と同じ様に、射撃位置から125メートルの距離にターゲット板が縦に回転し乍(なが)ら放物線を描くのだが、放物線の軌跡が右から左へ向かっている事だけが違っていた。勿論、ブリジットや Ruby に取ってはターゲット板の投射方向が何方(どちら)向きであろうと関係は無く、Ruby はブリジットが指示した目標を正確に補足し、撃ち抜いた。
二枚、三枚とターゲット板が宙を舞う度に、短い雷鳴の様な破裂音が響き、ターゲット板が放物線軌道から弾き飛ばされる、そんな光景が繰り返されるのだった。
一分程で、用意されていた三十枚のターゲットは全て撃ち落とされ、周囲には再び微かなオゾン臭が残った。
「はい、LMF の移動標的射撃試験、終了。ボードレールさん、待機しててね。」
「は~い。」
ブリジットの返事が、モニター・スピーカーから聞こえた。
「流石に LMF の方は、あの位(くらい)じゃ冷却不足の心配は無いわね。」
「プラズマ砲、超伝導コイルの温度、モニター値は許容範囲ですよ。」
樹里がコンソールのモニターを指差すと、安藤がそれを覗(のぞ)き込むのだった。
「安藤さん、次は標的選択射撃の試験に行きますけど。」
「あぁ、ちょっと待っててね。 次、標的選択射撃の準備お願いします。」
安藤は緒美に促(うなが)され、次の試験で使用する標的の準備を、コントロールの担当スタッフに伝える。
「…あ、はい。 緒美ちゃん、準備、良いそうよ。」
「はい、ありがとうございます。 天野さん、エリアの中央へ。標的選択射撃の試験を始めるわ。」
安藤の返事を聞いて、緒美は茜に対して指示を送った。
その指示に対して、茜の返事がモニター・スピーカーから聞こえる。
「あ、はい。部長、ビーム・ランチャーの冷却がまだ終わってないので、LMF の予備を使用しますけど。」
「そうね。 ボードレールさん、予備のランチャー、出してあげて。」
「は~い。予備のビーム・ランチャーを出します。」
ブリジットの返事がモニター・スピーカーから聞こえた後、LMF の機体上面のシャッターが開くと、内部から HDG 用の荷電粒子ビーム・ランチャーを保持したアームが起き上がり、武装供給アームの回転は、天頂を指す位置で停止する。
LMF の機体には HDG の携行武装が故障や破損した時に備えて、荷電粒子ビーム・ランチャーとビーム・エッジ・ソードのそれぞれ二組を保管する為のウェポン・ベイが用意されており、必要に応じて HDG へ供給が可能となっている。
茜は地面を蹴って LMF の方へ向かってジャンプすると、ホバー状態で高度を維持した儘(まま)、LMF に接近する。LMF のプラズマ砲よりも上方へと、グリップの側を上向きに掲げられた予備の荷電粒子ビーム・ランチャー底部のグリップ・ガードを左のマニピュレータで掴(つか)むと、LMF 側は武装供給アームの保持を解除する。
茜は受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーを右のマニピュレータに持ち替え、LMF の上空を離れて試験フィールドの中央付近に降り立つ。
HDG の右腰のスリング・ジョイントには、冷却中の荷電粒子ビーム・ランチャーが固定された儘(まま)である。
茜は先程受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーのフォア・グリップを、左マニピュレータで引き起こし、握った。
「天野さん。あなたの正面、南側の他に、左右、東側と西側に起立式の標的が設置されているから、起き上がった標的を射撃してね。但し、標的には赤と青の二種類が有るけど、撃って良いのは赤い標的だけ。フィールドの中心からだと、標的までの距離はおよそ300メートルだけど、前後左右、自由に動き回って良いわ。時間は三分間、なるべく多く、赤い標的だけを射撃してね。」
「はい、頑張ります。」
「では、開始。」
緒美の開始指示を聞いて、安藤は標的の制御スタッフへスタートの合図を送った。
間もなく、茜の正面の赤いターゲット板が起き上がる。ターゲット板は幅が3メートル、高さが2メートルで、これはエイリアン・ドローンの大きさを想定しての設定なのだが、300メートルも離れていると、見かけ上の大きさは腕を伸ばした先の6ミリ程にしか見えない。
茜はスラスターを噴かして、ターゲットへ向かって加速する。地面の畝(うね)を左右に回避しつつ、ターゲットの前、100メートル程まで迫り、一撃を加えた。ビームが命中したターゲットは、パタリと後ろへと倒れる。
荷電粒子ビーム・ランチャーの銃口を前に向けた儘(まま)、茜は後方へ傾く様な姿勢で行き足を止めると、その儘(まま)後退してターゲットと距離を取りつつ、首を左右に振って他のターゲットの様子を窺(うかが)う。直ぐに、先程射撃したターゲットの左右に設置されたターゲット板が同時に起き上がる。因みに、ターゲット板の左右設置間隔は、それぞれ50メートルとなっていた。
起き上がったターゲット板は右側が赤で、左側が青である。茜は右側のターゲット板の方へと進路を変え、接近して一撃を加えると、再び後退しつつ身体を緩(ゆる)くスピンさせて周囲のターゲットの動向を窺(うかが)うのだった。
こうして、北側の他にも東側、西側のターゲットにも接近や離脱を繰り返し乍(なが)ら、赤いターゲット板だけを選択して射撃を繰り返し、最終的に三分間で二十四枚のターゲットを射撃して、ミス・ショットはゼロという結果だった。勿論、東西で向かい合ったターゲットが同時に起き上がると、背後のターゲットに迄(まで)同時に対処は出来ないので、取りこぼしたターゲットの数が八つ、有ったのだが。
「はい、三分経過。お疲れ様、天野さん。一度、待機位置に戻ってちょうだい。」
緒美は、ヘッド・セットを通じて、この試験項目の終了を通知した。茜は機動を止め、指示に従って元の待機位置へ向かう。
「あれだけ動き回ってて、良く、全部当てられた物ねぇ。」
安藤が独り言の様にそう言うと、樹里が答えるのだった。
「それを確認する試験項目ですよね?」
「あはは、まぁ、その通りなんだけど。」
そんな樹里と安藤のやりとりを横目に、茜が待機位置に戻ったのを確認して、緒美は次の指示を出す。
「ボードレールさん、コックピット・ブロックを切り離して。それが済んだら、Ruby は HDG とのドッキング・シーケンスを実行してちょうだい。」
「は~い。」
「ハイ、コックピット・ブロック切り離しシークエンスを開始します。」
直(ただ)ちに、ブリジットと Ruby からの返事が聞こえて来た。
- to be continued …-
※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。