STORY of HDG(第9話.06)
第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)
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「茜、こっちのプラズマ砲は射程が長いから、射撃のタイミングは、あなたに合わせる。指示して。」
茜のヘッド・ギアのレシーバーから、ブリジットの声が聞こえて来る。
「分かった。こっちは最大出力でも、もう少し引き付けないと。一キロぐらい迄(まで)、近付いて来るのを待つわよ。」
「今の速度、分速六キロだと、十秒の距離よ。近過ぎない?」
「ここが敵の目標なら、接近して来たら、もっと減速する筈(はず)よ。」
「そうか、そうね。成る程。」
一方、第三格納庫内部では、緒美が佳奈と瑠菜に指示を出していた。
「観測機、残り三機も出しておいてちょうだい。」
「はい、じゃぁ、こっちのコントローラーは、わたしが操作しますね。」
瑠菜は佳奈の隣に座り込んで、もう一機のコントローラーの操作を始める。
「古寺さんの操作する観測機の一番機は、天野さんの南側へ、瑠菜さんの一番機は天野さんの北側へ、天野さんからそれぞれ500メートル位(くらい)離れた位置に配置して。天野さん達の第一撃の後の、敵の動きを追える様にしておいて。それと、森村ちゃん、新島ちゃん。二人も、観測機のディスプレイに付いて。現場を監視する目は、多いに越した事は無いから。」
緒美に指示され、恵は佳奈の背後に、直美は瑠菜の横へと移動し、コントローラーのディスプレイを監視する態勢を整える。
「鬼塚先輩、わたしは何をすればいいです?」
クラウディアの後ろに立っていた維月が、緒美に尋ねる。緒美は微笑んで、答えた。
「井上さんは、カルテッリエリさんのサポート…じゃない、監視を、引き続きお願いね。」
「部長、言い直すの、逆です。」
恵が振り向いて、緒美に突っ込むのだが、維月は笑って、答える。
「あははは、どっちにせよ、了解です。」
間も無く、三機の球形観測機が格納庫から、外へと出て行った。
「古寺さん、二番機の方は LMF の様子を記録を。瑠菜さんの二番機は天野さんの HDG の動作を追い掛けて記録しておいてね。」
「はーい。」
「分かりました。」
佳奈と瑠菜は、緒美の指示に従って、それぞれコントローラーを操作する。
「よし、これで、二番機は追跡モードで HDG を撮影記録開始っと。」
「こっちも、LMF の追跡撮影記録を始めておきます。」
それぞれのコントローラーのディスプレイには、小さなウインドウ表示で茜の HDG と、ブリジットが乗る LMF の様子が映されている。それを確認して、瑠菜の横にしゃがみ込んでいる直美が尋ねた。
「一番機の方で、エイリアン・ドローンの姿、捕らえられる?」
「やってみます。」
瑠菜は一番機からの映像表示ウインドウを拡大し、カメラの向きや倍率を切り替え乍(なが)ら、接近して来るエイリアン・ドローンを捜した。間も無く、山間(やまあい)を背景に、横に四機並んでいる三角形の小さな機影がディスプレイに映し出された。
「見付けました。…ホントに三角形なんですね。」
瑠菜が素直な感想を漏らすが、その画面を見詰める直美と緒美は無言だった。
「こっちも、見付けました~。」
同様に、佳奈も自身が操作する観測機一号で、向かって来るエイリアン・ドローンを映像で捕らえていた。佳奈と瑠菜、双方のコントローラーに表示された画像を見比べて、緒美が指示を出す。
「二人共、余りアップにしないでおいてね。カメラの画角から外れたら、追えなくなるから。あ、一号機の映像も記録を始めて。」
その頃、茜は、防衛軍の監視レーダー施設上空100メートル程に HDG の高度を止(とど)めて、CPBL を正面に構え、目標との距離を測り乍(なが)ら狙撃の機を窺(うかが)っていた。目標との距離は、CPBL に搭載された照準センサーに含まれているレーザー式測距ユニットからの情報が、眼前のゴーグル型スクリーンに表示されている。
時刻的に太陽は西へ傾き、太陽が真正面では無いにしても、逆光気味ではスクリーンの表示が見辛(づら)く感じられたので、茜はフェイス・シールドを下ろして視界を確保した。スクリーンの表示は、ヘッド・ギアに装備された光学センサーからの映像に切り替わる。
「ブリジット、そろそろ、仕掛けるよ。準備はいい?」
茜がブリジットに呼び掛けると、ブリジットは直ぐに返事をした。
「オーケー、何時でも。」
唾液を飲み込み、茜はカウント・ダウンを始めた。
「5、4、3…。」
エイリアン・ドローンは進路を変える事無く、真っ直ぐ向かって来る。緒美の言った通り、HDG や LMF を警戒している様子は全く無い。
「…2、1、発射!」
茜の構えた CPBL が破裂音を立てて、青白い荷電粒子を撃ち出す。カウント・ダウンに合わせて、LMF からも青白い閃光が走り、向かって来るエイリアン・ドローンの内、先頭の一機が LMF のプラズマ砲に因って機体の凡(およ)そ半分を吹き飛ばされ、茜が狙っていたもう一機は正面から荷電粒子の束に機体の中央部を貫かれ、それぞれが山中へと薄い煙を引いて落ちて行く。
ブリジットは第一撃の直後に、予めロック・オンしていたもう一機にプラズマ砲の軸線を合わせ直し、透(す)かさず第二撃を発射したのだが、それよりも早く、エイリアン・ドローンの残り二機が回避機動を開始していた為、命中はしなかった。
トライアングルの回避機動は第一撃の命中と、ほぼ同時に開始されており、茜も、第二撃を撃とうと試みたが、北向きに進路を変えたもう一機に照準を合わせる事すら出来なかったのである。狙撃を免(まぬが)れたエイリアン・ドローンの残り二機は、急減速して格闘戦形態に変形しつつ、それぞれが別の場所、背の高い樹木が林立する山腹へと降下して行った。
「すいません、見失いました。右手の一機は、尾根の北側に降りたと思うんですけど。ブリジット、南側のもう一機は?行方(ゆくえ)、分かる?」
「山の中に降りたのは見えたけど、正確な位置は分からない。」
「慌てないで、二人共。木立が密集してる所だと、エイリアン・ドローンも動きは制限されるから。向こうから仕掛けて来るには必ず、飛び上がる筈(はず)だから、そこを狙い撃ちして。敵の位置は、こっちでも捜してみるわ。」
「捜すって、どうやるんです?」
ブリジットが緒美に聞き返す。
「観測機よ。降りた場所は、両方共、大体の見当は付いてるから。天野さんも、今の位置からは無闇に動かないでね。」
緒美の声がレシーバーから聞こえて間も無く、レーダー施設上空の茜の視界には、左右から球形観測機が前方へと飛んで行くのが見えた。トライアングルが降下したと思われるエリアを、上空から撮影している様子が見て取れる。
「木が邪魔で、エイリアン・ドローンの姿は見え辛(づら)いですね。」
格納庫内部では、瑠菜が観測機をし乍(なが)ら、そう感想を漏らす。
「熱分布画像(サーモグラフィ)か、赤外線画像で見えないかしら?」
「やってみます~。」
緒美の提案を受けて、佳奈は熱分布画像(サーモグラフィ)に切り替え、瑠菜は赤外線画像で、それぞれが尾根の南側と北側の捜索を始める。間も無く、佳奈が声を上げた。
「見付けました、部長。 瑠菜リン、熱分布画像(サーモグラフィ)だと分かり易いよ。」
「オーケー、こっちも熱分布画像(サーモグラフィ)に切り替える。」
「古寺さん、座標は解る?」
「う~ん、トライアングルの座標は解りませんけど、観測機一号のなら。観測機は、トライアングルの、ほぼ真上にいますけど。」
「ボードレールさん、あなたのほぼ正面、観測機が飛んでるの、見える?」
緒美からの通知を受けて、ブリジットは LMF の、メイン・センサーで球形観測機を捜す。
「えぇっと…はい、見えます。」
「トライアングルは、その下よ。LMF のセンサー、熱分布モードでトライアングルが確認出来る?」
「Ruby、熱分布モードで捜索して。球形観測機の、下辺りの範囲。」
「分かりました。少々お待ち下さい。」
LMF のコックピット内部、ブリジット正面の表示画像に熱分布画像がオーバーラップされ、熱分布が周囲よりも高い場所がスクリーンの中央になる様に視界が調整される。
「中央部分を光学処理して再表示します。」
熱分布画像の表示が薄くなり、木の幹の隙間の陰影が画像処理で強調されると、それが昆虫のカマキリにも似た、トライアングルの格闘戦形態である事が浮かび上がって来るのだった。
「確認しました。エイリアン・ドローン、トライアングルです。」
Ruby の報告を聞いて、ブリジットは緒美に問い掛けるのだった。
「今、動きが止まってます。ここから砲撃しましょうか?」
「いえ、照準を付けた儘(まま)、待機して。LMF のプラズマ砲を撃ち込んで、山火事とか起きても困るから。そうなったら、熱分布モードでの捜索も出来なくなるし。飛び上がった所を狙いましょう。」
「分かりました、待機します。」
ブリジットの返事を聞いて、緒美は瑠菜に尋ねる。
「北側のもう一機は、見つかりそう?」
- to be continued …-
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