STORY of HDG(第9話.09)
第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)
**** 9-09 ****
翌日、2072年7月7日、木曜日。
お昼休みの終わる頃、兵器開発部のメンバーは、それぞれが持つ携帯端末に、立花先生からのメッセージを受信していた。その文面は、次の通り。
『全員、放課後にわたしの居室まで、出頭するように。 立花 智子』
兵器開発部の面々には、それが昨日の件に就いての呼び出しであろう事は、当然、見当が付いた。
そして、放課後。立花先生の居室の前に、最初に到着したのは、茜とブリジットの二人だった。
たまたま、その時は他に通り掛かる人も無く、教職員の居室が並ぶ校舎の一角は静まり返っていたので、茜とブリジットはドアに対面した廊下の窓際に並び、他に誰か来ない物かと待っていた。昨日の事で、何(ど)の様な話になるのか、その内容に迄(まで)は想像が及ばなかったので、二人とも何と無く入り辛(づら)く感じていたのである。
そうして、入室を逡巡(しゅんじゅん)している内、ひょっとっしたら自分達が最後で、他のメンバーは既に先生の居室の中で待っているのではないか、そんな不安を感じ始めた頃に、廊下の奥から歩いて来る三年生三人組の姿が見えて、茜とブリジットは一安心したのだった。
「何やってんのよ、二人共。」
二人の姿を見付け、直美が声を掛けて来る。
「いやぁ、何と無く、入り辛(づら)くって。」
ブリジットが、後頭部に右手を当てて、そう答えると、くすっと笑い、恵が言うのだった。
「大丈夫よ、立花先生はもう、怒ってないから。」
「だと、良いんですけど。」
茜は、そう言って息を吐(は)く。
「先生は大人だから、何時(いつ)迄(まで)も根に持ったりしないって。」
直美が、そうフォローする一方で、緒美がドアの前に立つと、躊躇(ちゅうちょ)無くノックをする。
「どうぞ。」
室内からは、立花先生の落ち着いた声が聞こえた。
「鬼塚と他四名、入ります。」
緒美はドアを押し開け乍(なが)ら、室内に声を掛けた。室内からは、立花先生が答える。
「どうぞ、取り敢えずお入りなさい。」
「失礼します。」
先(ま)ず、緒美が室内に入り、次に直美が、恵は茜とブリジットの後ろに回り、二人の背中を押すのだった。
部屋に入ると、最初に直美が、立花先生に言うのだった。
「先生、『出頭』なんて書くから、一年生が怯(おび)えちゃってるよ~。」
「あら?ごめんなさい。脅かす積もりは無かったんだけど~何て書いたら良かったかしら?」
「普通なら、居室まで来て下さい~とか、集合して下さい、位(くらい)じゃないですか?」
直美に言われて目を丸くする立花先生に、恵が何時(いつ)もの笑顔でフォローを入れる。
そこに、再びドアがノックされる。立花先生の許可を得て、入って来たのは、二年生組の三人、瑠菜、佳奈、樹里である。
「え~と、これで揃(そろ)ったかしら?」
「先生、クラウディアが、まだ来てません。」
集合した人数を確認する立花先生に、茜が補足をするのだった。
そして間も無く、三度(みたび)、ドアがノックされ、クラウディアが入室して来るのだが、その後ろには維月の姿も有った。
「あら井上さん、あなたにもメッセージ、送ってたかしら?」
「あぁ、いえ。クラウディアに、メッセージの件を聞いたので。一応、昨日の現場には、わたしも居ましたから。 お呼びでは無かったでしょうか?」
「うぅ~ん…まぁ、いいかな。それじゃ、井上さんにも付き合って貰いましょうか。」
「良かった。仲間外れは、悲しいですよ。」
「あぁ、ごめんなさいね、そう言う積もりじゃ無かったんだけれど。」
維月と立花先生が遣り取りしてる所に、それ程、広くはない居室内での人数が増え、そろそろ窮屈(きゅうくつ)さを感じ始めていた直美が割って入る。
「それで、先生。どう言った、御用向きでしょうか?」
「あぁ、そうね。これから、理事長室へ移動します。昨日の件に就いて、みんなから直接、理事長が事情をお聞きになりたいそうなの。」
立花先生の回答を聞いて、緒美が尋ねるのだった。
「それでしたら、始めから理事長室に集合で良かったのでは?」
「緒美ちゃん、あなたや、茜ちゃんなら、それでもいいでしょうけど。他のみんなは、三三五五、理事長室に入室出来るかしら?」
「わたしは嫌で~す。」
直美が即答すると、続いて、茜も声を上げるのだった。
「わたしだって、平気で理事長室には入れませんよ。」
「あら、茜ちゃんでも? なら、一旦(いったん)、ここに集合してから、揃(そろ)って理事長室に向かうので正解だったでしょ?矢っ張り。これでも、一応、気を遣ったのよ。」
「成る程。お気遣い、感謝します。」
恵が、少し大袈裟(おおげさ)に頭を下げると、透(す)かさず立花先生が言い返すのだった。
「恵ちゃん。そう言うのを『慇懃無礼(いんぎんぶれい)』って言うのよ。」
頭を上げた恵は、微笑んで言葉を返す。
「はい。存じております。」
「なら、宜しい。」
立花先生も、恵に微笑み返すのだった。そして、一同に向かって言う。
「さて、それじゃ、行きましょうか。」
立花先生の言葉を受けて、茜達はドアに近い者から、順番に廊下へと出て行った。
その後、立花先生を先頭に、一同は理事長室へと向かって歩き出したのである。
そうして暫(しばら)く廊下を進んで、理事長室へと向かう途中、ふと、立花先生は茜に尋ねるのだった。
「そう言えば、茜ちゃん。入学してから、理事長とは会ったりしてるの?」
茜は、歩き乍(なが)ら答える。
「いいえ。大体(だいたい)、学校(こちら)に何時(いつ)居るのか、居ないのか、スケジュールとか全然知りませんし。」
「あぁ、日に依って学校と本社を往復してるらしいから、ねぇ。それ以外でも、打ち合わせとか、会合とかで、お出掛けになるそうだし。昨日も、幸か不幸か、学校にはいらっしゃらなかったのよね。」
「それに、身内だからって、ちょくちょく顔を合わせてて、それを理由にコネだの何だのって言われるのも癪(しゃく)なので。」
「う~ん、それは解るけど、それはそれで、ちょっと寂しい話よねぇ…。」
当然の様に答える茜に、徒(ただ)、苦笑する立花先生であった。
暫(しばら)くして、一同が理事長室の前に到着すると、立花先生がドアをノックする。すると間も無く、ドアが内側へと開かれた。ドアを引いていたのは、理事長秘書の加納である。
「どうぞ、お入り下さい。」
「失礼します。」
一礼して、立花先生が入室すると、振り向いて緒美達に声を掛ける。
「あなた達も、お入りなさい。」
「失礼します。」
緒美を先頭に、学年順に各自が一礼しつつ、一同は理事長室へと入って行った。
室内には、奥の窓側、執務机の席に、理事長であり茜の祖父、天野 総一の姿が有った。執務机の前に並べられている応接セットのソファーには、ティーカップとソーサーそれぞれを手に、恰幅(かっぷく)の良い、品の有る初老の婦人、塚元校長が座っている。そして、秘書の加納が天野理事長の執務机の横へと移動する一方、緒美達、十名は入り口側の壁を背に、横一列に並んで立つのだった。
一列に並んだ際、その存在に気が付いたブリジットが、加納に向かって会釈をすると、彼も静かに会釈をして返した。その行動に気が付いた茜が、右隣に立つブリジットに小声で尋ねる。
「ブリジット、加納さんと面識有ったの?」
「あ、うん。前に、ちょっとね。」
「ふぅん。」
腑に落ちない物を感じつつも、その事を深く追求している場合ではない事は解っていたので、茜は前を向く。
「そんな所に立ってないで、こっちにいらっしゃい。」
塚元校長が自らの隣の、ソファーの座面をポンポンと叩いて、緒美に話し掛ける。
「あぁ、でも、ちょっと足らないわね。」
テーブルを挟(はさ)んで、塚元校長が掛けている長椅子で片側四名、テーブル短辺の両側に置かれた一人掛けの1セットも合わせても、あと九名しか座れない。
「加納君、足りない分の、椅子を用意して呉れるか。」
「いえ、理事長。わたし達はこの儘(まま)で結構です。」
天野理事長が加納に指示を出したのに間を置かず、はっきりと、少し大きな声で、緒美は、そう言った。
「そうか…まぁ、いいだろう。それでは、始めようか。」
天野理事長は一度、肘掛けに両手を掛けて椅子から腰を浮かせ、座り直してから、話し始めた。
- to be continued …-
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