WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第9話.11)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-11 ****


 そして、クラウディアが答える。

「はい、構いません。情報を確認して、避難指示が予防的な措置で、ここに直接的な被害が及ばない様なら、わたしも避難指示に従う積もりでした。」

「しかし、エイリアン・ドローンが此方(こちら)に向かっている事を、知ってしまった、と。」

「はい。勿論、その儘(まま)通過してしまう可能性も有るとは、思いました。でも、学校(ここ)が襲撃対象になる可能性に就いて、鬼塚部長とわたしの意見は同じでした。」

「それで、間違いは無いかな?鬼塚君。」

 天野理事長が尋ねると、緒美は極短く、即答した。

「はい。」

「そこで、その危険性が、つまり、学校が襲撃される事は無い、と、キミが説明すれば、皆は避難指示に従った、とは思わなかったかね?」

「嘘を吐(つ)け、と?」

「方便だよ。皆の安全を計る為なら、それも一つの方法だと思うのだが?」

「その時は、そう言う考えは浮かびませんでしたが…覚えておきます。」

 そこで緒美に対して、塚元校長が意外な言葉を掛けるのだった。

「良いのよ、鬼塚さん。そんな事は、もっと歳を取ってから覚えれば。」

「校長~…。」

 天野理事長が苦笑いをして、抗議しようとするのだが、塚元校長が、今度は天野理事長に向けて言葉を続ける。

「いい事じゃありませんか、年相応(としそうおう)に正直なのは。理事長も立花先生も、会社の方方(かたがた)は鬼塚さんの態度が大人びているからって、何か勘違いされて居るんじゃないかと思う時が有りますよ、わたしには。鬼塚さんを始め、彼女達は、まだ高校生なんですから、会社側の皆さんには、その辺り、お忘れ無きよう、お願いしたいですね。」

 そう言い終わると、塚元校長はテーブル上のティーカップへ手を伸ばそうとするが、カップが既に空だったのに気付く。

「加納さん、もう一杯いただけるかしら?お茶。」

「はい、御用意しますので、少々お待ちを。」

「ありがとう。」

 塚元校長の前に置かれていたティーカップを回収して、秘書の加納が隣の秘書室へと姿を消すと、咳払いを一つして、天野理事長が話し出す。

「まぁ、校長の言われる事も尤(もっと)もだ、と言う事で、話を続けるが…いいかな?」

「はい。」

 緒美は真面目な顔を崩さず返事をすると、続けて話し出すのだった。

「先程、カルテッリエリさんから『誘導した』、との発言が有りましたが。彼女に誘導される迄(まで)もなく、元元、ほぼ全員の意識は迎撃する方向に傾いていたと思います。」

「ほう、それは?」

「避難指示の放送を聞いて以降、誰も避難に動こうとしてませんでしたから。但し、迎撃を積極的に主張出来なかったのは、現時点で HDG を扱えるのが天野さんだけだと、みんなが理解していたからです。上級生は誰も、一年生に危険な行動を指示する事は出来ないと、そう思っていたので、であれば避難するべき、と、考えて居た筈(はず)です。」

 緒美の左側に並ぶ、直美と恵、そして右側の二年生一同も、それぞれが緒美の言葉に頷(うなず)いていた。
 その様子を確認して、天野理事長は緒美に問い掛ける。

「先刻の天野君の発言に依れば、彼女が一人の判断で HDG を持ち出した、と言ったが。キミはその時点で、迎撃に賛同する側に回ったのだろうか?」

「いえ、その時点では、先に他のみんなを避難させて、その後、どうやって天野さんを説得しようかと考えていました。HDG を扱えるのは天野さんだけ…それは間違いないのですが、非稼働時の HDG はメンテナンス・リグに接続してありますが、HDG 側からその接続を解除は出来ない仕組みです。つまり、誰かが接続の解除操作をしない限り、天野さんは外へ出て行く事は出来ないので、説得をする機会はまだ有るかと。」

 そこで、瑠菜が無言で右手を胸の高さ程に挙げ、発言の許可を求める。

「ルーカス君だったね、どうぞ。」

「部長が、そう言う考えだったのを知らず、わたしがメンテナンス・リグの接続解除操作をしました。」

 瑠菜の発言に続いて、瑠菜の右側に立つ佳奈も、瑠菜と同じ様に右手を挙げ、発言する。

「わたしも、それを手伝いました。」

「ルーカス君は、それが迎撃に繋がる行動と解っていて、どうして?」

 天野理事長の問い掛けに、瑠菜は即答する。

「カルテッリエリがあの時言った様に、わたしもこの学校が壊されるのは嫌だ、と、その気持ちは同じでしたが、それ以上に…。天野さんが言ったんです。『お爺ちゃんが作った、この学校が壊されるは嫌だ』って。それを聞いて、天野さんの、この学校への愛着は、わたし達とは一段、レベルが違うんだろうなと、そう思いました。」

「それで、天野君に協力しようと?」

「はい。」

 そこで、茜が怖ず怖ずと、左手側に立つ瑠菜に問い掛けるのだった。

「あの~すいません、瑠菜さん。わたし、そんな事、言ったんですか?」

「覚えてないの?」

 少し驚いて、瑠菜は問い返す。茜は、真剣な顔付きで答えるのだった。

「はい。あの時は、いろんな事を考えてて、頭の中がグルグルしてましたから…何をどう言ったか、細かい所迄(まで)は…良く…。」

 困惑気味の茜に対して、緒美は微笑んで言う。

「確かに、あなた、言ったのよ、天野さん。そんな状況だったからこそ、本心が口を衝いて出たんでしょう。」

「そう…ですか。」

 茜は少し顔を赤らめて、緒美の言葉に納得するのだった。

「それでは、鬼塚君。LMF の起動を許したのは、どういう判断に基づいてなのか、教えてくれないか。あれは、キミか立花先生の承認が無いと Ruby にも動かせない筈(はず)だが。」

 再び、天野理事長が緒美に問い掛けると、其方(そちら)側に向き直り、緒美は即答する。

「はい。瑠菜さん達がメンテナンス・リグを操作してしまう以上、HDG、天野さんの出撃は避けられないと判断しました。そうなった以上、少しでも天野さんの、生還の確率を上げる方向で考えるべきだ、と。それに、天野さんが出て行く以上、ボードレールさんも、天野さんの行動に協力しない事には、彼女の気持ちに収まりが付きそうもなかった、ので。」

 天野理事長は右手を額に当て、『困った』と言う表情で、ブリジットに問い掛ける。

「鬼塚君は、ああ言っているが、そうなのかな?ボードレール君。」

 ブリジットは両手を後ろで組んで、背筋を伸ばし、即答する。

「勿論です。茜だけに、危ない真似はさせられません!」

 ブリジットの言葉に、天野理事長は執務机に両肘を付き、両手で頭を抱える様な仕草で俯(うつむ)くのだが、それを見て塚元校長はくすくすと笑うのだった。思い直した様に顔を上げ、天野理事長はブリジットに対して言うのだった。

「三年前の事で、キミがそんなに、恩義に感じる必要は無いんだよ、ボードレール君。」

「恩だとか、そう言うのではなくても、茜は大切な友人ですから。」

 ブリジットは、そう言うとニッコリと笑ってみせる。その遣り取りを見ていた茜が、思わず声を上げた。

「お爺ちゃん!三年前の事、知ってたの?」

 天野理事長は一瞬、『しまった』と言う表情をしたが、咳払いをして横を向く。すると、塚元校長に紅茶のお代わりを出し終えて、再び執務席の横に立っていた秘書の加納と視線がぶつかるのだった。加納は、ばつが悪そうな、或いは怪訝な顔付きをして、小さく首を傾(かし)げる。

「理事長。」

 塚元校長に、聊(いささ)か唐突に呼び掛けられ、少し上擦(うわず)った声で天野理事長は答えるのだった。

「なんですか、校長。」

「折角ですから、全部、お話になったら? 天野さんにも内緒にしてる事、有るのでしょ。」

 椅子の背凭(せもた)れに身を預け、目を閉じて、執務机の上に置いた左手の人差し指で、トントントンと三回、机を叩いてから、天野理事長は大きく息を吐(は)いた。

「先刻はカルテッリエリ君に、昔の事を話して貰ったしな。天野君のケースに就いても、ここに居る皆に知っておいて貰っても良いだろう。」

 天野理事長は身体を正面に向け、話し始める。

「天野君とボードレール君が、中学一年生の時の事だが、発端は、ボードレール君がその容姿から、教室内での無視…まぁ、平たく言えば『イジメ』を受け、それを庇(かば)った天野君が次の標的になった、と、まぁ、そう言う事件だったのだが。間も無く、学校側もそれを察知して、保護者に連絡が行き、わたしは祖父として天野君の母親からその件を聞いた訳(わけ)だ。」

 ここで、天野理事長は少し考えを整理する為か、一息吐(つ)いて、そして再び話し始める。

「天野重工は、とある大手の警備保障会社と契約をしていてね、そこには社員やその家族、親族がトラブルに遭った場合、色々と調べて呉れる、情報調査部門…これも平たく言えば『探偵』、だな。まぁ、そう言う業務部門もあってだな。そこに、天野君の件に就いての、調査を依頼した訳(わけ)だ。 会社が大きくなるに連(つ)れてね、社員やその家族の個人的なトラブルであっても、対処を誤ると、会社に取って大きな損害が出る…これは、過去に幾つか事例が有ってね。それで、社員に対する福利厚生の一環としても、会社全体のリスク・マネージメントとしても、両方の意味で、トラブルの調査や処理等を行っている。」

 そこで、今迄(まで)、塚元校長の座るソファー後ろで、黙って立っていた立花先生が、補足を加えるのだった。

「みんなも正式に入社したら、研修で教わると思うけど。社員やその家族を、事件や犯罪に巻き込んで、それをネタに会社を強請(ゆす)ろうとする、そんな人達も実際にいるから。もしも、トラブルに遭遇したら、自分だけで対処しようとしないで、会社に相談してね。」

 緒美の後列一同は、少し驚いて、隣の者と顔を見合わせたりしているが、天野理事長は話を続けた。

「立花先生、補足、ありがとう。それで、まぁ、調査してみて、徒(ただ)の子供の喧嘩程度の事と解れば、学校に対処を任せてしまえばいいと、初めは、そう思っていたんだが。直(じき)に上がって来た調査結果が、だな、まぁ、その内容が看過出来る様な物ではなかったのだ。」

 三年前に当事者だった筈(はず)の自分自身も知らない話の展開に、茜は困惑の表情を浮かべるのだったが、天野理事長は話を続ける。

 

- to be continued …-

 

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