WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第9話.13)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-13 ****


「いえ、謝罪は結構です、加納さん。 クラスにはブリジットが居ましたし、わたしを無視する人達の事は、わたしの方が無視していた位(くらい)ですから。 それより、一年生の時の担任が、二年に上がった時に異動して行ったのは、そう言う訳(わけ)だったんですね?」

 茜達には『異動』だと周知されていた当の担任教師であるが、実際は件(くだん)の首謀者である女子生徒との『不適切な関係』が発覚しての懲戒免職だったである。勿論、その様な理由は生徒達には知らせられないので、学校や教育委員会が発表を誤魔化したのだ。その後、その元担任教師が暴漢に襲われて大怪我をした事件の事等(など)、茜達が知る由(よし)も無い。

「はい。年度が変わって、協力する教師がいなくなった事で、首謀者の女子生徒は校内での扇動が思う様に行かなくなり、それで余計に、学校外での襲撃を画策する様になった、と言うのが事の流れです。お話し出来る顛末としては、大体、以上の様な経緯となります。」

 加納が話を終えると、立花先生が真面目な顔で、天野理事長に問い掛ける。

「理事長、二人に三年間も警護を付けるのって、費用として相当の負担額ではないかと思いますが、相手方や学校に費用の一部でも請求とかされたら如何(いかが)でしょうか?今のお話ですと、証拠も揃(そろ)っている様ですし。」

 この時、天野理事長も、秘書の加納も、敢えて訂正はしなかったのだが、実は、警護を付けていたのは、茜とブリジットの二人だけではなかったのである。一時期は最多で、茜の両親と妹、更にブリジットの両親と彼女の弟を加えて、計六名にも危害が及ぶ可能性が有り、密かに警護を付けていたのだ。勿論、ここで、その事を明かしても、話がややこしくなるだけなので、天野理事長はその事を口にしなかったのである。
 そして、天野理事長は少し笑って、答えた。

「証拠と言っても、裁判にでもなれば、命綱にするには、可成り頼りないね。何せ、その女子生徒は人に指示したり教唆(きょうさ)しただけで、自分では一切、手を下してはいない。だから、直接的な物証は何も無い。集められた証言にしても、同じ内容を裁判で証人として証言をして貰えるか、その辺りが怪しい人物が可成りの数、含まれているし。そんな状況で被害の発生を防ぐのに掛かった費用を、相手方に請求するのは、まぁ、現実的ではないだろう。立花先生は法務を専攻されたから、こう言った都合に就いては、詳しいのではないかな?」

「法務とは言っても、刑事の方は専門外ですので。」

「そうか。まぁ、結果的に二人の身の安全は確保出来たし、会社への被害も未然に防げた。仮に、強請(ゆすり)に応じる様な事態になれば、社の財務にも歪みが生じる。警備・警護の費用なら必要経費にでも出来るが、強請(ゆすり)の支払いは、そうは行かないからね。まぁ、相手に強請(ゆすり)のネタが出来た時点で、何らかの被害が既に発生している訳(わけ)だから、それ自体が有ってはならん事態だからな。」

 そう言って、天野理事長は笑うのだった。

「だからと言って、そこ迄(まで)解ってて無罪放免と言うのは、納得が行きません。」

 直美が、語気を強めて少し大きな声を上げると、天野理事長は真面目な顔で答えた。

「勿論だ。元元は相手方の家庭の問題だからね。こちらで集めた資料を纏(まと)めた上で、弁護士を通じて相手方の親御さんへ送ったよ。彼女たちが中学を卒業してからね。それで、先方の更生の切っ掛けにでもなれば、と思っていたんだが。」

 そこで、天野理事長が発言を止めたので、数秒待って、茜が尋ねた。

「何か、有ったんですか?」

「うむ…。」

 唸(うな)る様な声を出して、天野理事長は椅子の背凭(せもた)れに身を預ける。その様子を見て、加納がアイコンタクトの後、発言するのだった。

「では、わたしから。 実は、その首謀者の女子生徒なんですが、この四月に、違法薬物の急性中毒で入院したそうです。聞いた所に依れば、植物状態で回復の見込みは無い、とか。それから、わたしが『碌(ろく)でもない大人』と言った、彼女に付いていた男なんですが、解雇された後に、何らかの喧嘩に巻き込まれたとかで、死亡しております。」

「…何が有ったんでしょうか?」

 茜は眉間に皺を寄せ、加納に問い掛ける。しかし、加納は表情を変えず、事務的に答えるのみだった。

「さぁ、そこ迄(まで)は解りませんし、我々の関知するべき所でもありません。一方は違法薬物…平たく言えば『麻薬』が絡んでおりますし、もう一方は過失であったとしても殺人事件、何方(どちら)も、立派な刑事事件ですので、当然、警察の方(ほう)で捜査がされております。」

「新島さん。」

 塚元校長が、突然、直美を名指しで声を掛ける。直美は少し驚いて、返事をするのだった。

「あ、はい。何でしょう?校長先生。」

「あなたは事情の一部を、予(あらかじ)め聞いていた様子ですけど、先程の一連の顛末を聞いて、このお話からは、どんな教訓を引き出しますか?」

 そう問い掛けると、塚元校長は静かに微笑む。直美は一度、天井に視線をやる様にし、数秒考えて、答えた。

「因果応報…でしょうか。」

「分かり易くて良いですね。そう言うお話だったと、受け取る人も多いでしょう。けど、わたしは『付き合う人は、選びなさい』と、言いたいですね。碌(ろく)でもない人と関わると、自分も碌(ろく)でもない目に遭う、と。そう言った意味で、天野さんも、ボードレールさんも、一時的に嫌な思いはしたでしょうけれど、お互いが選んだ相手は、友人として適切だったと思っていいでしょう。 あの時に、嫌な思いをしたくなくて、天野さんもボードレールさんも、彼方(あちら)側を選ぶ事だって出来たのに、それをしなかった。それは、二人とも誇りに思って良いと、わたしは思いますよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 茜とブリジットが、揃(そろ)って返事をする一方で、ニヤリと笑って天野校長が言うのだった。

「『人を選べ』等(など)と、教育者が言っても良い物ですかね?校長。」

「皆さんがもっと、幼い子供だったら『みんなと仲良くしなさい』と、立場上、言う所かも知れませんが。残念乍(なが)ら、実際の世の中は『みんなが仲良く』出来る様な社会ではないですからね。危険な人や、危険な事からは、出来る限り距離を取る。そう言う賢明さは、生きていく上で必要だと。それは大人として、皆さんに伝えておかなければなりません。そして、皆さんは『人を見る目』を、養っていかなければなりませんよ。」

 塚元校長は、天野理事長の突っ込みを、平然と切り返すのだった。そして、思い出した様に、今度はブリジットに対して、塚元校長は尋ねた。

「そう言えば、ボードレールさん。進路を、この学校に決めたのは、その事件の影響も有るのかしら?」

「いいえ。単純に、茜と同じ進路に行きたかっただけ、なんですが…今のお話を聞いて、会社の方へは、正式に入社したら、幾らかでも、わたしに出来る事で、お返しをしなければ、と。今は、そう思っています。」

 その返事を聞いて、天野理事長は幾分、困った様に言うのだった。

「だから、その様な事は考えなくても良い、と、先刻も言ったと思うのだが?ボードレール君。」

「あ、あぁ~…スミマセン。」

 恐縮するブリジットを見て、微笑んで天野理事長は言った。

「まぁ、これからも茜と仲良くしてやってくれたら、茜の祖父としても嬉しいよ。」

「はい。」

 ブリジットは、運動部の所属らしい、はっきりとした返事を返す。天野理事長は一度頷(うなず)いて、再び話し始めるのだった。

「さて、大幅に話が逸(そ)れたので、昨日の件に戻すが。鬼塚君、キミが迎撃を行うと考えを切り替えて、その時点で成功の確率はどの位(くらい)と見込んでいたのか、教えて呉れるかな?」

「明確に、何パーセント、とは答えられませんが…段階毎に、色々と可能性は考えていました。先(ま)ず、第一段階として、レーダー施設の防空用ミサイルを、防衛軍が作動させるだろうと。これで、向かって来るエイリアン・ドローン六機が、一乃至(ないし)は三機の範囲で処理されるだろう、と見込みました。実際に撃墜されたのは、二機だったので、わたし達が迎撃するべきは、残り四機となりました。 エイリアン・ドローンが初めて遭遇する兵器を警戒しないのは、過去の事例で解っていましたので、HDG と LMF は警戒されずに第一撃を加えられるのは確実でした。この第二段階では、HDG と LMF が同時に攻撃を加える事で、確実に二機は処理出来るだろうと。実際はその通りになりましたが、出来れば、と期待した、更に複数機の処理上積みは、それは叶いませんでした。 そして、残ったのは二機となりました、が。その動きを事前に予想は出来ないので、この第三段階については天野さんとボードレールさん、二人の機転と運に任せるしか無く。そこで、外部から状況を監視して、出来るだけのバックアップが行える様、無人観測機を出しておいて、最初から複数人で状況の監視をしていました。ですが、実際は最後の一機を見失ってしまい、監視もバックアップも、成功したとは言い難(がた)いのが結果です。 最終的に、最後の一機を無事に処理出来たのは、HDG を扱う天野さんの能力に負う所が大きかった、と思っています。」

「加納君、今の鬼塚君の話を聞いて、元防衛軍所属の者としてはどう思う?」

 話を振られた加納は、一呼吸置いて、答えた。

「わたしは戦闘機乗りでしたから、戦術の質が違いますので、一概に評価は難しいのですが。しかし、基本的な考え方は、外れてはいないかと。鬼塚さんは、良く研究されていると思いますが。」

「そうか。 結果的に、HDG と LMF、その有効性の一端を示した、とは言えるのだろうな。 実は、防衛軍の方(ほう)からは、完成しているのなら、早急に引き渡せ、と言われたのだ、が。それに就いては、どう思う?鬼塚君。」

 緒美は落ち着いて、天野理事長に聞き返す。

「理事長は、了解されたのですか?」

「いや。わたしの認識では、あれは未(いま)だ、未完成で検証中の装置(デバイス)だ。未完成の物を引き渡す訳(わけ)には、いかん。」

「同感です。今、引き渡しても、防衛軍が天野さんと同じレベルで扱えるのか、保証は出来ませんし。それに、B型の試験を行って、パラメータとか稼働ライブラリのデータを比較しない事には、異なるドライバー間での互換性が想定通りに出来るかどうかが確認出来ませんので、もう暫(しばら)くは手放す訳(わけ)には行きません。」

「そうか、解った。」

 天野理事長は、一度、背中を椅子の方へ寄せ、一息置いて話し出す。

「これは、会社としての決定事項では無いが、わたしが個人的に懸念していると言う事で、話しておきたい。」

「はい。」

 緒美は、少しだけ両の眉を引き寄せ、返事をした。天野理事長は、少し目を細める様にし、話し始める。

「昨日の一件で、君達の様な戦闘の訓練を受けていない者でも、HDG を扱う事が出来れば『エイリアン・ドローン』を撃退可能である、と、事実として証明されてしまった。これは、鬼塚君が考えたコンセプトが正しかったのだと、わたしも思う。HDG が完成して汎用化すれば、対エイリアン・ドローン用の兵器として、有効なのは間違い無いだろう。 だが、HDG が対人兵器として使用されてしまう可能性について、鬼塚君は考えた事は有るかね?」

「いいえ、ありません。」

「そうか。日本の防衛軍があれを侵略戦争に使用する事は考え難(にく)いが、我々が装備した事を他国が知れば、同じ様な物が開発され、使用されるのは避けられない様に思う。だから、新しいコンセプトの兵器の開発や、提案には慎重さが必要なのだと、わたしは考えている。」

「HDG の開発を止めるべきだと?」

 天野理事長への、緒美の問い掛けを聞いて、兵器開発部一同が、一瞬、ざわめく。天野理事長は顔の前で、二度、右手を振って否定した。

「そうではない、結論を急ぐな。我々が思い付いた事なら、他の誰かも思い付いて、同じ様な開発をやっている可能性だって有り得る。であれば、開発は続けて、技術は保持しておくべきだ。問題は、軍に引き渡すかどうか、だよ。」

 そこで、立花先生が声を上げた。

「しかし、会長…いえ、理事長。防衛軍の契約が取れなければ、今まで掛かった開発費が回収出来ませんが。」

「そんな事は、解っておる。徒(ただ)、防衛装備事業が天野重工(うち)の本業では無いのでな。それは、立花先生もご存じだろう? 予算や費用の手当を考えるのが、我々、経営陣の仕事だ。その辺りは、どうにでもなるし、出来るようにやるだけだよ。」

 天野理事長の言う通り、現状で天野重工の収益の柱は、水素ガス製造プラントと水素燃料動力機関の二つである。防衛装備事業での収益は、決算毎(ごと)に赤字と黒字の間を行ったり来たりしているのが現実だった。

「戦闘機や戦車の様なサイズの兵器であれば、維持や運用には或(あ)る程度以上の組織力が必要だ。だが、HDG 程のサイズになれば、小規模な組織でも運用出来る可能性が有る。今回、キミ達がやって見せた様にね。まぁ、現実には技術的な問題や補給等(など)、ハードルはそれなりに高い物だと思うが。」

 天野理事長の発言を受け、緒美が問い掛ける。

「理事長は、HDG が完成しても、防衛軍には引き渡さないお積もりですか?」

「…そう、決めた訳(わけ)ではない。先刻の立花先生の意見の様に、財務上の問題も勿論有るし、対『エイリアン・ドローン』用の装備として有効なのであれば、防衛に協力しない訳(わけ)にもいかん。だが、費用対効果という面から防衛軍が採用しない可能性も、十分に有る。現状で、HDG 一機が主力戦闘機一機よりも高価になる見込みと聞いているが、そうであれば、防衛軍仕様の『LMF 改』の方が、防衛軍には魅力的だろう。 その辺りは、今後の状況推移と交渉によって、結論は変わる物だ。」

「では、当面、わたし達のやるべき事は変わらない、そう思って良いでしょうか?」

「そうだな。わたしの言った事は、頭の隅にでも入れておいてくれたら良いよ。」

「解りました。」

 緒美の返事を聞いて、天野理事長は一度頷(うなず)くと、大きく息を吐(は)いた。

 

- to be continued …-

 

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