STORY of HDG(第9話.14)
第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)
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「さて、校長。そちらから、何か言っておく事は有るかね?」
「理事長の方(ほう)は、もう宜しいんですの?」
「まぁ、そうだな。大体の、事の流れは掴(つか)めた。校長の方から、話す事が無ければ、そろそろお開きにしようかと思うが。」
「では、一つだけ…。」
そう言って、塚元校長は視線を兵器開発部一同の方へと移した。
「城ノ内さん?」
突然、名前を呼ばれ、樹里は慌てて返事をする。
「あ、はい。何でしょうか?校長先生。」
「あなたからは、何も発言が無かったけれど、何か言っておきたい事は有りませんか?」
「いえ…特には、無いですけど。どうしてですか?」
塚元校長は微笑んで、答える。
「黙って、お話を聞いてるだけでは、退屈したでしょう?」
「いえ、色々と興味深いお話だったので、大変有意義だったかと。わたしが退屈している様に、見えましたでしょうか?」
「そんな事は、ありませんでしたよ。 ルーカスさん、古寺さん、あなた達も発言の機会が少なかったわよね。何か、言っておきたい事は有る?」
塚元校長の問い掛けに、瑠菜と佳奈は、姿勢を正して答えるのだった。
「いいえ、有りません。」
「わたしも、特には無いです。」
「そう。では、わたしからも、付け加える事は特には有りません。 理事長。」
視線を天野理事長へと戻し、塚元校長は頷(うなず)く様に頭を下げた。天野理事長も一度頷(うなず)いて、話し始める。
「では、最後にもう一度、釘を刺しておくが。今回は、結果的に、幸いにも上手く事が運んだが、幸運は二度、三度と続く物では無い。今後は呉呉(くれぐれ)も、危険な真似はしない様に。大人を信じて、指示に従って欲しい。良いかな?」
天野理事長の言葉に、兵器開発部一同は声を揃(そろ)えて「はい。」と、答えたのだった。その返事を聞いて、不意に、天野理事長が立ち上がる。
「…とは言え、だ。実際問題として、今回、諸君の行動は、この学校の生徒達と施設が危険に曝(さら)されるのを防いで呉れた。その事実には、学校を代表して、諸君には礼を言わねばならない。 ありがとう。」
両手を執務机に着き、天野理事長は頭を下げるのだった。その様子に兵器開発部の一同が戸惑う中、天野理事長は頭を上げると、言葉を続けた。
「話を聞かせて貰って、今回のキミ達の行動が面白半分の暴走や、妙な功名心からの物で無い事は理解出来た。純粋に、級友の安全を願う思いや、愛校心からの行動であったと思う。それ故に、感謝を表明する物であるが、だからと言って褒める訳(わけ)にもゆかん。もう一度言うが、二度とこの様な事はしない様に。約束して呉れるな?」
兵器開発部一同、もう一度、声を揃(そろ)えて「はい。」と、答えるのだった。
「よろしい。では、ご苦労だったね。今日は、以上だ。」
天野理事長と塚元校長に向かって一礼すると、部長である緒美を残して、ドアに近い者から順番に退室して行く。そこで、天野理事長が、茜を呼び止めるのだった。
「あ~天野君。」
天野理事長は、右手を前に出して、小さく手招きをして見せる。茜は不審に思いつつ、室内に戻り、中央の応接テーブルの前まで進むのだった。
「何でしょうか?」
「薫…お母さんには、昨日の事は伝えたりしたのかな?」
「いえ…まだ、です、けど?」
「そうか。昨日の件は折を見て、わたしの方から伝えておくから、暫(しばら)く、黙っておいて呉れ。心配させるといけないし、アレは母親に似て、怒ると怖いからな。」
くすりと笑って、茜は答える。
「解りました。他には?」
「いや、それだけだ。」
「では、失礼します。」
茜はもう一度、礼をしてドアへと向かう。
全員が廊下に出たのを確認して、緒美と共に立花先生がドアへと向かおうとした時、天野理事長が立花先生を呼び止めるのだった。
「あ、立花先生は、ちょっと残って貰えるかな。」
理事長室から廊下へと出た茜達の視線が、一斉に室内に向けられたのに気が付いた塚元校長が、宥(なだ)める様に声を掛ける。
「大丈夫よ、昨日の件で立花先生だけを、虐(いじ)めたりしないから。」
天野理事長も、言葉を続ける。
「別件で、少し打ち合わせをしたい事が有るだけだから、キミ達は心配しなくても良い。」
立花先生は、兵器開発部一同に視線を送ると、微笑んで頷(うなず)いて見せる。そして、緒美が室内へ向かった皆の視線を身体で断ち切る様に、開かれているドアの前まで進むと、くるりと室内方向へと身体を翻(ひるがえ)した。
「では、失礼します。」
最後に、緒美がもう一度、一礼し、ドアを閉じるのだった。
一斉に十人もの生徒達が出て行った為、理事長室は急にがらんとした様に感じられる。
天野理事長は、執務机から離れると、塚元校長と対面位置のソファーへと移動した。
「立花先生も、座って呉れ。」
「こっちへ、いらっしゃい。」
塚元校長が自らの隣、ソファーの座面を、ポンポンと叩いた。
「では、失礼します。」
「加納君、立花先生にお茶を。」
塚元校長の左隣に一度は座った立花先生が、又、立ち上がって言った。
「あぁ、お構い無く…。」
「遠慮は不要だよ、立花先生。」
「立花先生は、コーヒーの方が宜しいですかね?」
天野理事長の背後に立つ加納が、問い掛けて来る。
「あぁ、はい。では、お言葉に甘えて、コーヒーで。」
「あはは、いいから座って、立花先生。 あ、加納君、わたしにもコーヒー、頼むよ。」
「はい、承知しました。塚元校長は、如何(いかが)ですか?」
「わたしは、もう結構。」
「では。」
オーダーを聞き終えた加納は、早速と隣の秘書室へと姿を消すのだった。
「立花先生は、あの子達に好かれてますね。良い事ですよ。」
と、塚元校長が、先ず、話し始める。
「恐縮です。」
「それで、さっきの一連の話を聞いていて、どうだい?昨日、立花先生が聴取した内容とは、可成りニュアンスが違っていただろう?」
天野理事長はニヤリと笑い、立花先生に問い掛けた。
「そう、ですね。冷静に考えてみれば、あの鬼塚さんが、一年生に迎撃を指示するだなんて。『やるなら、自分でやる』位(くらい)は言いそうな子なのに。鬼塚さんから話を聞いていてた、自分が冷静でなかったんだな、と、思います。」
「鬼塚さんは責任を全部被(かぶ)る積もりで、立花先生の聴取に答えていたんでしょうね。」
「ああ言う、お互いを庇(かば)い合っているチームの事情聴取は、個別にやっては駄目なんだ。誰が事実を言っているのか解らなくなる。一堂に集めて聴取をすれば、それぞれが自分から事実を話し出す、先刻の様にな。」
「はい。」
立花先生は、徒(ただ)、頷(うなず)くばかりである。
「逆に、責任を押しつけ合っている様なチームの場合、纏(まと)めて聴取をやっては駄目だ。その中で力の有る者の顔色を窺(うかが)って、誰も事実を言わなくなる。後で報復されるのを、恐れるからね。そう言う場合は、関係者全員から個別に事情を聞いて、これは大変な作業になるが、全部の内容を付き合わせて、聴取した内容のどの部分が本当で、どの部分が嘘か、割り出すしか無い。立花先生もこれから先の仕事で、そう言う局面に出会うかも知れないから、頭に入れておくと良い。まぁ、相手が大人になると、先程のあの子達の様に、素直にはいかないだろうがな。」
「理事長は、今朝の、わたしの報告を聞いて、鬼塚さんが他のメンバーを庇(かば)っていると?」
「今朝の報告の内容は、以前(まえ)に何度か会った時の、鬼塚君の印象では信じられなかったからね。まぁ、それ以上に、迎撃に至った動機に就いては、聞いておかねばならなかった。自分らが開発した技術や装置が機能するか試したかった、とかの浮ついた動機であれば、これは叱ってやらないと、とは思ったがね。」
「想像以上に、真っ当な動機だったので、少し驚きましたが、安心もしましたね。」
そう、塚元校長が言うと、「同感だ」と言って天野理事長は、声を上げて笑った。そこへ、コーヒーの入ったカップを二つトレイに乗せて、加納が理事長室に入って来る。そして加納は、カップをテーブルの上に、静かに置いた。
「しかし、女子ばかりのあの兵器開発部で、こんな事態(こと)になるとは思ってもみなかったよ。」
「そんな風(ふう)に、思ってらしたの?理事長。」
「あぁ、それで、立花先生は女子ばかり集めた物だとばかり。」
「いいえ。女子ばかりになったのは偶然の結果で、敢えて狙った訳(わけ)では。成績上位者が集まってしまったのも、『類友』と言う事ですから。」
「成る程な。」
「大体、護る対象が明確なら、女子だって戦いますわよ。それも、母性の一部ですからね。」
「母性か…そうだな。」
カップを手に取った天野理事長は、口元へとカップを運ぶ。一口、コーヒーを飲んで、天野理事長の発言は続く。
「茜に、剣道をやらせたのは、間違いだったかな。」
「あら、天野さんに剣道を勧めたのは、理事長でしたの?」
「うん。あの子は小さな頃から、一人で本を読んでいるのが好きな、内気と言うか、人見知りと言うか。そんな具合だったから、小学校に上がってから、友達関係で苦労していると、娘…茜の母親から相談されてね。それで、武道系のスポーツでもやらせてみれば、人付き合いの面でプラスになるかなと考えて。荒療治になるかも知れんが、まぁ、向かない様なら直ぐにでも止めさせる積もりで、知り合いの道場、柔道と剣道のに、連れて行ったんだが。柔道の方は相手と取っ組み合いするのを見ただけで怖がっていたんだが、剣道の方は防具を着けるし、直接組み合わないから、それ程、抵抗は無かった様子でね。それでも実際、中学を卒業する迄(まで)、続けるとは思って無かったよ。」
「先程のお話から察するに、天野さんが剣道をやっていたからこそ、中学校での孤立を免(まぬが)れたのでしょう?」
「それは、その通りなんだがね。あの子がパワード・スーツに興味を持った遠因が、剣道に有ってだね。」
塚元校長の所感に、そう答えた天野理事長は、苦笑いを浮かべるのだった。
- to be continued …-
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