WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第10話.01)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 10-01 ****


 2071年7月、今回は時間軸を一年ほど遡(さかのぼ)った時点から、お話を始めよう。
 この日は、天神ヶ崎高校が夏期休暇に入り、一週間が経過していた。

 この日より更に一ヶ月程前、前期中間試験が終わって間も無く、天神ヶ崎高校兵器開発部には、本社試作工場から LMF が搬入されていた。そして LMF には Ruby が搭載される事になるのだが、その作業要員五名に加えて、作業監督とシステム・オペレーションの指南役として、本社の開発部設計三課からは安藤と、他一名が派遣されて来ていた。
 他一名は LMF のシステム担当者で、此方(こちら)は LMF への Ruby 搭載作業の LMF 側監督者として、搭載作業の監督を含め、一週間滞在する間に LMF のソフトウェア構成に就いて、樹里と維月にレクチャーを終え、帰社した。
 一方、安藤は天神ヶ崎高校に一ヶ月間滞在し、搭載作業の Ruby 側の作業監督の後、HDG のソフトウェア系システム全般のレクチャー役を務めたのだった。樹里と維月が、安藤と顔馴染みになったのは、この時の事が契機である。勿論、安藤が帰社して以降も、樹里と維月の二人は、ソフトウェア関連に就いての本社側フォロー役の安藤とは必要に応じて連絡を取り合っており、業務以外での親交も深めていったのは言う迄(まで)もない。

 7月16日火曜日に、天神ヶ崎高校が夏期休暇期間に突入し、その週末に派遣期間を終えた安藤が天神ヶ崎高校を離れると、それと入れ替わる様に、今度は本社から開発部設計一課の実松(サネマツ)課長が来校したのである。目的は、以前に記した通り、佳奈と瑠菜に対する CAD 製図の特訓の為だった。実は、この特訓には、学科外ではあるが、情報処理科の樹里も参加していた。
 本社から移設された CAD の端末は三台有ったので、製図作業の応援が出来る様にと、樹里が自ら申し出ての参加だった。当然、設計計算等は門外漢である樹里には出来ないのだが、紙に書かれた原案図を CAD データ化する程度の、トレースや清書作業なら、CAD の操作を習得すれば樹里にも可能だったのである。

 実松課長が来校したのが7月27日月曜日で、丁度(ちょうど)その日から、緒美と直美の二人が『自家用航空操縦士免許』を取得する為、同学年の飛行機部部員達と共に三週間の合宿講習に出掛けていた。その為、残った二年生である会計担当の恵が、部長と副部長が不在の間は、兵器開発部の責任者と言う立場になっていたのである。緒美達が居ないと、恵自身には特にやるべき作業は発生しないのだが、管理責任者としての立場が有るので、恵は夏休み中でも帰省せず、部活動に参加していたのだった。

 実の所、夏期休暇中に部活や研究の為に、帰省をしないで寮に留まる生徒は、半数以上にも上(のぼ)り、これには帰省させるよりも天神ヶ崎高校に留まった方が、エイリアン・ドローンの襲撃事件に巻き込まれる危険性が低いと言う、保護者側の判断が、その居住地域に依っては有ったのだ。そんな訳(わけ)で、子供を帰省させるのではなく、親の方が会いにやって来ると言う者も、少なからず存在したのだった。

 兵器開発部の面々は、と言うと。先(ま)ず、緒美と直美に就いては、『自家用航空操縦士免許』取得の合宿から戻るのが8月22日土曜日の予定だったのだが、25日火曜日には防衛軍立ち会いでの LMF の試験が予定されていたので、結局、帰省は出来ないスケジュールになっていた。
 一年生組の三人、瑠菜、佳奈、そして樹里は、CAD 製図の特訓を終えた翌日の8月10日には帰省で学校を離れる予定で、恵はその翌日に、一応、帰省を予定していた。この四人も、25日の LMF 試験の準備で、緒美と直美が学校に戻る日の前日には、学校へ戻って来る予定である。

 そんな夏休み期間中の、その日は、2071年7月29日水曜日。
 戸外は天気も良く、朝から日差しが強い日だったが、兵器開発の部室は冷房が効いており、恵は自分一人が部室に居るのが勿体無(もったいな)いなと感じつつも、特段する事も無かったので、何と無く部室の PC でネットのニュースサイトを眺(なが)めていた。一年生達は隣の CAD 室で、実松課長と前園先生に因る CAD 製図の特訓を受けているが、CAD の機材が設置されているその部屋も、当然、空調は効いている。
 時刻が午前十時を少し過ぎた頃、突然、制服のポケットに入れていた恵の携帯端末が振動した。
 恵は携帯端末を取り出し、着信を確認すると、それは立花先生からのメッセージだった。

「恵ちゃんへ、わたしの居室まで来てください。」

 恵は折り返し、立花先生への通話をリクエストすると、立花先生は直ぐに通話に応じた。

「先生、何か問題(トラブル)でも?」

 先に、恵がそう問い掛けると、立花先生は否定して歯切れの悪い返事をするのだった。

「問題(トラブル)…ではないけど、ちょっと、お話ししたい事が有るのよ。悪いけど、こっちに来て貰えるかな?」

「部長が居ないので、わたしは責任者として、ここを離れない方が、と思うのですけど。」

「う~ん、一時間位(くらい)。そっち、前園先生いらっしゃるでしょ。暫(しばら)く、監督役は前園先生にお願いして。」

「通話では、駄目なお話しなんですか?」

「そうね。」

 普段から、ハッキリと物を言う立花先生が、今回は珍しく言葉を濁しているのが不可解な恵だったが、会社の秘密関連のお話しかも知れないなと思い直し、恵は答えた。

「分かりました。今から、伺(うかが)います。」

「悪いわね。待ってるわ。」

 通話の切れた携帯端末を元通り、制服のポケットへ押し込み、恵は席を立った。一度、隣の CAD 室に顔を出し、前園先生に一言断って、恵は再び部室へと戻って来る。先程まで見ていた PC のニュースサイトを閉じ、恵は部室から外へと出て行った。

「それにしても、立花先生がわたしに、秘密に関係する様なお話しって何だろう?」

 そんな事を考え乍(なが)ら、恵は強い日差しの中を、立花先生の居室が在る事務棟へと向かって歩いた。
 グラウンド横の歩道に差し掛かると、運動部が練習している様子が目に入る。「暑いのに、みんな、良くやるなぁ…。」と、そんな事を思い乍(なが)ら歩いていると、サッカー部だろうか、歩道の方へとランニングをしている男子生徒数人が恵を見付けて手を振っているので、特に考えも無く、恵は手を振り返すのだった。

「森村は、何も考えずに、そう言う事をするから。」

 そんな事を、以前、直美に言われたのを思い出し、「いけない、いけない。」と呟(つぶや)いて手を降ろした恵は、道を急いだのだった。

 暫(しばら)くの後、立花先生の居室である。ドアがノックされたのに対し、立花先生が返事をする。

「どうぞ。」

 ドアを開けて入って来たのは、立花先生が予想した通り、恵である。

「失礼します。」

「呼び付けちゃって、ごめんね。暑かったでしょう?外。」

「グラウンドで練習してる運動部に比べたら、まだ優(まし)ですけどね~。」

 そう言い乍(なが)ら、恵はポケットからハンカチを取り出し、額に当てた。

「まぁ、取り敢えず、座ってちょうだい。」

「はぁ…。」

 今日の立花先生は、矢張り、様子がおかしい、そう恵が思ったのは、立花先生が何故か、作り笑いをしている様に感じられたからだ。勿論、思った事を直ぐには口には出さず、恵は、もう暫(しばら)く様子を見る事にした。

「込み入ったお話しなんでしょうか?」

「う~ん…そうね。そうかも知れないから、お茶でも用意しましょうか?恵ちゃんは、紅茶の方が良かったわよね。」

「あ、はい。あの、お構いなく…。」

「いいのよ~気にしないで~。ティーバッグの、だけど、ごめんね。」

 立花先生は恵のカップには紅茶のティーバッグを、自分のカップにはインスタント・コーヒーの粉末を、それぞれ入れると、お湯を注ぐ。

「先生はコーヒー、お好きですよね。」

「えっ?あ、あぁ~そうね。」

 ぎこちない受け答えに恵の不審は益益(ますます)募(つの)り、「その位(くらい)の事で、動揺しなくても…」との内心だったのだが、取り敢えず微笑んで、気にしていない振りをした。立花先生は、両手にカップを持ち、テーブルへと歩み寄って来る。紅茶の入ったティーカップを恵の前に置き、立花先生は恵と向かい合った席に着いた。

「どうそ。あ、ミルクは無かったけど、いい?それと、お砂糖はこれを使ってね。」

 テーブルの脇に置いてあった、スティック包装のティーシュガーを立ててある容器を、立花先生がテーブルの中央へと滑らす。

「先生は、コーヒーは何時(いつ)もブラックでしたっけ?」

「ミルクは入れないけど、砂糖は気分で入れたり、入れなかったりね。」

 そう言って、砂糖を入れてないインスタント・コーヒーのカップに、立花先生は口を付ける。それを眺(なが)めつつ、恵はスティック式の包みの先端を破ると、その中から半分程の砂糖をティーカップに注ぎ、五回、スプーンを回(まわ)して、既にティーバックを引き上げてあるお皿へ、スプーンを置いた。

「そう言えば、実松課長と前園先生の様子はどう? 瑠菜ちゃん達とは、上手くいってる?」

「大丈夫ですよ。実松課長の事は、『師匠』と呼ぶ事になったみたいです。」

 恵はティーカップを持った儘(まま)、「うふふ」と笑った。立花先生も微笑んで、聞き返す。

「師匠?」

「はい。『先生』だと、前園先生と紛(まぎ)らわしいんだそうです。」

「佳奈ちゃん?」

「はい。」

「まぁ、『リン』付けで呼ぶよりは、良い選択かもね。」

「あれは、古寺さん流の、『親愛の情』の表し方ですから。それでも、先輩や目上の人に対しては、しない様にしてるみたいですよ。」

 恵は、立花先生が居ない所では、佳奈が立花先生の事を『智リン』と呼んでいる事を、敢えて伏せておく事にした。

「実松課長の方は何て?」

「初めの内は『擽(くすぐ)ったい』って言ってましたけど。流石に、もう諦(あきら)めたみたいです。瑠菜さんも、『師匠』って呼び始めたので。」

「あらま。」

 そこで、立花先生はカップを再び口元に寄せ、一口、コーヒーを飲んで、一息吐(つ)く。
 その様子を黙って見ていた恵が、声を掛ける。

「先生?」

「何?恵ちゃん。」

 立花先生は微笑んで、聞き返した。それに対して、恵も笑顔を作って、問い掛ける。

「そろそろ、本題に入りませんか?」

「あぁ…そうね。」

 再び、立花先生の挙動が、不審な様子に戻るのだった。流石に、付き合い切れないと思った恵は、ストレートに思った事を言ってみる。

「先生? 先生らしくないですよ?」

「う~ん、そうね。わたしも、そう思うわ。全然、わたしらしくは、ないのよ。」

「どうされたんです?」

 立花先生はコーヒーの入ったカップをテーブルに置き、椅子の背凭(せもた)れに身を預けて、腕組みをして考え込んでいる。
 恵はティーカップを唇に寄せて、一口、紅茶を飲んで、立花先生の返事を待った。
 数秒経って、溜息を一つ吐(つ)くと、一度、小さく頷(うなず)いて立花先生は話し始めた。

 

- to be continued …-

 

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