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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第10話.02)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 10-02 ****


「実はね…校長から、直直(じきじき)に依頼されたのよね。」

「校長先生…から、ですか。何ですか?その、依頼って。」

 立花先生は一度口籠(くちご)もると、視線を横に外し、暫(しばら)く言葉を探した。しかし、諦(あきら)めた様に目を閉じると、又、一度、息を吐(は)き、視線を恵に戻して、言うのだった。

「あなたの、異性交友関係に就いて、『それとなく』確認して欲しい、って。」

「何ですか?それ…って言うか、この時点でもう、『それとなく』じゃ無くなってますよ、先生。」

「いいのよ、もう。そう言うの、苦手だもの。校長にも、そう言ったんだけど。」

 立花先生はテーブル上のカップに手を伸ばし、コーヒーをもう一口、飲む。
 その様子を見乍(なが)ら、今度は恵が発言する。

「そもそも、わたしに、その『異性交友関係』が有る様に見えます?先生。」

「見えないわよ。授業が終わったら、殆(ほとん)どの時間、兵器開発部の部室に居て、そのあとは女子寮に居るんだし。夜中に、寮を抜け出してる様な気配も無いし。まぁ、そんな事が有ったら、大問題だけど。」

「女子寮のセキュリティは、ちゃんとしてますからね。それを、誰にも気付かれずに突破する様なスキル、わたしは持ち合わせてません。」

「知ってる。でも、噂では、あなたには『付き合ってる人がいる』って、あなたが言った事になってるんだけど?」

「はい?…どこで、そんな話が…。」

 そこ迄(まで)言った所で、恵は心当たりが有る事に、気が付いた。その時の、微(かす)かな表情の変化を見逃さなかった立花先生が、問い掛ける。

「心当たりは有るでしょう?恵ちゃん。」

 恵は視線を上に向け、白々しいとは思いつつ、考える振りをする。正面から立花先生に見詰められている視線の圧力に負け、恵は真面目な顔を作って、立花先生に聞いてみる。

「その事が、先生達の間で問題になっているんですか?」

 その問い掛けに、立花先生は間を置かずに答える。

「問題、と言うのではないわね。校長の談に依れば、学校としては生徒の恋愛とかに就いては、禁止も推奨もしない、と言う事だから。生徒のプライベートな事には、学校は関知しません、と。 但し、学生として、年相応(としそうおう)な行動から逸脱する様なら、注意なり、指導なりはしますよ、と言うのが方針だそうだけど。 今の所、あなたに、そんな逸脱した行動とかは見られてないし、その様な報告も無いから、学校側からは注意とか指導とか、特に有りません。ここ迄(まで)は、O.K.?」

「はい。」

「あなた、夏休みに入る前に、三年生の斉藤君から交際を申し込まれてたでしょ?」

「あぁ~良く御存知で。先生方(がた)にも、伝わってるんですね。」

 特に照れるでも無く、さらりと言葉を返した恵に、少し苦い顔をして立花先生は言う。

「伝わってるわよ、こういう噂は。あなたが袖にした男子が、斉藤君で十人目だっ、てのもね。」

「どうして、わたしなんでしょうか。訳(わけ)が分かりません。 あ、ひょっとして、先生方(がた)は、わたしが、その、男子を誘惑して廻ってると…。」

 恵が、そう途中まで言った所で、立花先生は慌てて、その言を否定する。

「違う違う、そう言うのじゃないわよ。そんな誤解はしてないから、安心して。」

「…なら、良かったですけど。では、先生方(がた)は何を気にされているんでしょうか?」

「さっきも言ったでしょ、断った相手に『付き合ってる人がいる』って、あなたが言った事になってるんだけど、その辺りの事実関係をね、確認したいのよ。恵ちゃんの事だから、断る為に敢えてそう言ってるんじゃないかって、わたしは校長に言ったんだけど。そこの所も含めてね、確認しておいて欲しいってさ。」

「あの、『付き合ってる人がいる』なんて言ってません。わたしは『好きな人がいるので、お付き合いは出来ません』って言ったんです。」

「え?」

 きっぱりと恵に断言され、一瞬、固まる立花先生。

「本当?…十人、みんなに、そう言ったの?」

「去年の分迄(まで)は、ハッキリ覚えてませんけど。でも、そんなに違う言い方は、してない筈(はず)です。」

「そう…と言う事は、噂話が伝わる内に、どこかで内容が変わったのかしらね。良く有る話だけど。」

「それとも、元から間違ってたのかも。噂の出所自体が特定出来ないから、確認の仕様が無いですけど。」

 そして二人は揃(そろ)って、大きな溜息を吐(つ)くのだった。
 気を取り直し、立花先生は恵に確認する。

「それじゃ、誰かと付き合ってるとか、そう言う事実は無いのね?」

「先程も言いましたけど、そんな暇は有りませんし、それは先生も御存知でしょう?」

「まぁ、そうよね。解った。校長には、その様に報告しておくわ。」

「大体、どうして立花先生が、そんな聞き取りをする事になったんですか? 普通、こう言う事は担任の先生の役目じゃ…。」

「あなたの担任、男性の先生じゃあね、こんな話、下手しなくてもセクハラ案件でしょ。校長は、わたしなら話し易いだろうと思われたのよ。まぁ、わたしはこの手の恋愛ネタとかが、凄く苦手なんだけど。」

「ですよね。先生がそんなお話(はなし)してる所、見た事無いですし。まぁ、うちの部じゃ、先(ま)ず、こんな事、話題にもならないですけど。」

 そう言って、恵はクスクスと笑った。
 立花先生は、カップに残っていたコーヒーを飲み干し、テーブルにカップを置くと、静かに言う。

「…しかし、入学してから一年ちょっとで十人から告られるって言うのも、考えてみれば大概な話よね。」

「十人って言っても、その内の半分位(くらい)は、卒業間際に『ダメ元』の『恥は掻き捨て』的なノリでしたからね。」

「それは又、失礼な話ねぇ…。そう言えば、この間の斉藤君なんかとは、どの辺りで接点が有ったの?」

「斉藤先輩とは、生徒会の予算委員会で顔を合わせてましたね。二月(ふたつき)に一回、会計報告の会合が文化系部活と体育系部活と別々に開かれてるので。先輩は美術部の会計で、文化系の予算委員会に出席されてましたから。兵器開発部(うち)も、一応、文化系部活の括(くく)りですので。」

「あぁ、そうか。それで、顔を合わせてただけ?」

「去年、十月の会計報告会で、美術部の会計に集計ミスが見付かって、その時、再計算のお手伝いをした事が有ったかと。接点って言うか、そう言うのは、覚えている限りは、それ位(くらい)で。」

「あぁ~きっと、それだわ。恵ちゃんみたいな娘(こ)に、窮地(きゅうち)でテンパってる時に優しくされたら、男子はクラッと来ちゃうわよね。この学校の男子、真面目な子が多いし。」

 溜息を一つ吐(つ)いたあと、恵は神妙な面持ちで、立花先生に問い掛ける。

「わたし、何がいけないんでしょうか?先生。」

「いけない事は、無いんじゃない?人から好かれる事は、悪い事じゃないわ。誰に対しても、無闇に人当たりがいいのも、恵ちゃんのいい所だから、無理して変える必要も無いと思うし。 まぁ、男子があなたの事を好きになる理由も、解らないではない、かな。」

「理由って、何ですか?」

 恵は両手をテーブルの縁に着き、身を乗り出す様にして聞き返した。すると立花先生は、右手の人差し指を恵の胸元に向けて、言う。

「先(ま)ずは、それ、よね。」

 立花先生の指が指し示す恵の胸は、テーブルに掛けた彼女の左右の指先の間で、テーブルの上に乗っかる様な状態になっている。その事に気が付いて、恵は身体を引くのだった。

「胸…ですか。」

「制服着てても、そんな、ハッキリ分かる位(くらい)だもの。まぁ、男子は好きよね、そう言うのが。あなた達の年頃なら、尚更。」

「そう言う理由なのは…余り、嬉しくないですね。」

「まぁ、男子なんて、そんな物よ。でも、それだけで、その相手を好きになる程、即物的ではないとは思うけど。恵ちゃんの場合、外見的に目立つ魅力が有って、その上で、その当たりの柔らかい態度って言うか、壁の無さって言うのかな、それが加わって男子を勘違いさせてるんじゃないかな。」

「壁?…ですか。」

「思春期の男女なんだから、お互いに興味が有るが故の精神的な壁が有るのが普通よね。近寄り難かったり、話し掛けられても冷たい態度で返したり…そう言うのが、恵ちゃんの場合、殆(ほとん)ど感じられないのよ。それで、男子の方が『好意を持たれてる』とか『行ける』って、勘違いするんでしょうね。」

「直ちゃんなんかは、考えも無しに人に優しくする物じゃない、って言うんですけど。別に、わたしは特別、優しくしてる積もりは無いんですけどね。」

「そうよね~、まぁ、恵ちゃんには『お姉さん気質』みたいのを、感じるけど…そう言えば、今まで聞いた事、無かったけど。恵ちゃん、兄弟はいるの?」

「あ、はい。弟と妹が、一人ずつ。」

「あぁ、矢っ張り、リアルで『お姉ちゃん』だったんだ。道理でね。」

「わたし、先生にも『お姉さんオーラ』を感じるんですけど?先生の方は、ご兄弟は?」

「わたし? わたしの所は、兄と弟なのよ。」

「あぁ、上下(うえした)、男性ですか。あ、それで先生は、さばさばした感じ?なんでしょうか。」

「そう?まぁ、わたしの事は、この際、どうでもいいの。」

 一息吐(つ)く立花先生の一方で、恵はティーカップに残っていた紅茶を飲み干す。そして、改めて立花先生に、問い掛ける。

「わたしは、男子との接し方を変えた方が、矢っ張り、いいんでしょうか?」

 その問いに、立花先生は即答する。

「いいんじゃない?無理に変えなくても。さっきも言ったけど、それは、あなたの長所でもあるし。最終的に、ちゃんと断る事も出来てるなら、問題無いわ。 わたしの大学の時の知り合いに、あなたみたいな娘(こ)がいたんだけど、その娘(こ)の場合は、もの凄く押しに弱い娘(こ)でね。断り切れないで結局、複数の男の子と付き合う事になってて、アレは最後が修羅場で大変だったみたいだけど。恵ちゃんなら、まぁ、そんな事になる心配も無さそうだし。」

「修羅場…ですか。」

「男の方がね~真面目な内は、まだ、良かったのよ。女の方が押しに弱いって分かると、目的が別の、変な奴が寄って来るから、気を付けないとね。世の中に出て、男女関係で安易に流されると、大抵、最後は碌(ろく)な事にならないから。まぁ、この学校や会社の人には、そんな変な人(の)は殆(ほとん)どいないと思うから、あなた達は安心してても大丈夫よ。」

「それはそれで、純粋培養とか温室栽培的な感じで、駄目じゃないですか?先生。」

「あんな経験なんか、しないに越した事はないわ。心が拗(ねじ)くれるだけだから。そう言うのは、小説とかドラマとかで知識だけ頭に入れておいて、そんな事態に巻き込まれない様に、想像力を働かせて回避するの。」

「成る程…でも、まぁ、わたしの場合、恋愛沙汰で男の人に騙される様な事は、多分、無いと思いますけど。」

「どうして?」

「…先生は大人だから。 先生には思い切って、カミングアウト?しちゃいますけど…。」

「え…。」

 立花先生は恵が、『カミングアウト』と言う言葉を選択した事で、恵が言わんとしている事に、ある程度の見当が付いてしまったのである。そして、その見当は、外れていなかった。

「わたし、女の子が好き…なんです。」

 

- to be continued …-

 

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