WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第10話.04)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 10-04 ****


 一息吐(つ)いて、立花先生が問い掛ける。

「それで、緒美ちゃんは、その頃から研究を?」

「研究…って言う程のレベルで無かったとは思いますけど、考え始めては、いましたね。中一の四月、直ぐに、わたしは緒美ちゃんに接近して、取り敢えず、資料集めとか手伝う様になったんです。」

「資料…例えば、どんな?」

「最初は米軍の、公表されてるエイリアン・ドローンとの戦闘レポートを、自動翻訳に打ち込んで日本語にしたり。まぁ、当時でも半分位(くらい)は、緒美ちゃんは原文で読めてたんですけど。あと、その中に出て来る、米軍が使ってる武器に就いての解説みたいなのを探したり。もう、専門用語が、どんどん出て来るので、一つ一つ、その意味を調べたり。お陰で、一年で、すっかり兵器オタクみたいになりました。」

「あぁ~天野重工(かいしゃ)に入って、似た様な経験を、わたしもしたから、何と無く解るわ。」

 新入社員当時の苦労が頭を過(よ)ぎり、一人、苦笑いする立花先生である。

「それで、調べている内に気が付いたんです。一般の報道では、防衛軍がエイリアン・ドローンを撃退している所を強調してましたけど、実際はそう単純な物では無いんだなって。その時点で緒美ちゃんは、今の兵器では効率が悪いから、新しい形の兵器が必要じゃないかって言ってました。で、二年目頃からは、映画とかアニメとか小説とか、アイデアになりそうな SF 系の作品を二人で、探して来ては観てましたね。」

「恵ちゃんも、良く付き合ったわね。」

「わたしは緒美ちゃんと二人っきりになれるから、何やってても、唯(ただ)、楽しかったんですけど。」

「あら、そう…って、二人っきり?その調査とか、どこでやってたの?」

「主に、緒美ちゃんの家です。」

「親御さんは?」

「あぁ、緒美ちゃんの御両親は、ホントに忙しかったんですよね。週に二、三度帰って来るか来ないか、みたいな感じでしたから。わたしも中学の三年間で、緒美ちゃんの御両親に会ったのは、四、五回位(くらい)です。ほぼ、毎日の様に緒美ちゃん家(ち)に行ってたのに、ですよ。」

「そんな様子で、緒美ちゃんは、どうやって生活してたのかしら?」

「以前は緒美ちゃんの伯母さんが、家事とか、しに来ていたそうなんですが、あの『黒沢事件』以降は心労が有ったり、メディアの取材だとかで追い回されたりで、体調を崩していたそうで。」

「そう…あれ?それじゃぁ、緒美ちゃんは、ひょっとして、御両親からネグレクトを?」

「そうじゃ、ないです。その緒美ちゃんの伯母様から聞いた話ですけど、緒美ちゃんのお母さんは、小さい頃は身体が弱かったらしくて。それで、やりたい事も殆(ほとん)ど出来なかったから、大人になって、元気で仕事に打ち込みたいなら、家の事はお姉さんである、伯母様がやってあげるって…そんな流れ、みたいです。」

「成る程…。」

「伯母様は伯母様で、女の子も欲しかったんだけど、息子さんを産んだあとで、子宮だったか、卵巣だったかな、兎に角、病気が見付かって摘出してしまったそうで。それで、緒美ちゃんを自分の娘みたいに、可愛がって、面倒を見ていたそうなんですよ。」

「何とも、お気の毒と言うか…それで、息子さんを亡くされて…寝込んじゃうのも、まぁ、無理も無いわね。」

「はい。だから、中一の、わたしが出会った頃は、緒美ちゃんの御両親の何方(どちら)かが、仕事のスケジュールを調整して、夜遅くにでも帰って来たり、家事代行の業者さんを頼んだりしてました。まぁ、緒美ちゃんも、家事の事はある程度は教わっていたので、自分でもやってましたけど。 中二になって暫(しばら)くした頃には、伯母様が回復されて。それ以降は、家事とかは伯母様が来て呉れる、以前の形に戻ってました。」

「あぁ、じゃあ、さっきのお話は、復帰されて以降に、その伯母さんから聞いた訳(わけ)ね。」

「はい。あ、勢いで、緒美ちゃんのプライベートな事、随分喋(しゃべ)っちゃいましたけど…不味(まず)かったかなぁ。」

 恵は今更乍(なが)ら、口元に右手を当てて焦るのだった。

「大丈夫よ、他の人に勝手に喋(しゃべ)ったりしないから。そんなに、際どい話でもなかったし。まぁ、緒美ちゃんの家庭の事情が少しは分かって良かったわ。家族関係の話をしたがらない訳(わけ)が、何と無く、分かった気がする。」

 立花先生のコメントを聞いて、慌てる様に恵が声を上げる。

「あぁっ、別に、緒美ちゃんの所、親子仲が悪いって事は無いんですよ。さっきの話だけ聞くと、そう取られちゃいそうなんですけど。」

「大丈夫、それは解ってる積もり。」

「実際に会ってみて、緒美ちゃんの御両親は、凄く優しい人達だったし、家族仲も、とってもいいんです。伯母様が、以前から緒美ちゃんの世話をしていたのは、それが病気をした伯母様自身の癒しになるだろうから、って言う事だそうで。それに、緒美ちゃんも『わたしには、お母さんが二人居る』って言ってた位(ぐらい)ですから。」

「大丈夫よ、恵ちゃん。 緒美ちゃんにしてみれば、自分の家庭環境が一般的ではないけど、伯母さんの御病気の事とか、御両親の仕事、研究の都合とか、説明するのが諸諸(もろもろ)面倒臭いから黙って居るんだろうなって、理解したから。」

「はい。なら、良かったです。」

 恵は素直に、安堵の表情を見せるのだった。そこに、立花先生が恵に、一言、問い掛ける。

「それで?」

「はい?」

 問われた恵は、その問い掛けの意味が咄嗟(とっさ)に解らず、立花先生に聞き返すのだった。

「緒美ちゃんの話に入る前に、『協力』がどうのって、言ってたでしょ?それは、どういう事かしら。」

「あぁっ、すみません。緒美ちゃんの事お話ししてる内に、方向を見失ってましたね。」

 恵は一度背筋を伸ばし、少し考えてから、話し始める。

「先程申し上げた通り、緒美ちゃんの『動機』は『復讐』なので…。」

 立花先生は、その『復讐』と言う言葉には、相変わらず引っ掛かる感触を拭(ぬぐ)えずにいたのだが、この場では、それに対する反論はせず、恵の発言を聞き続ける事にした。恵は、言葉を続ける。

「…今後、開発作業が進んでいくと、緒美ちゃんが自分でテストをやるって言い出すと思うんです。実際、去年の内にインナー・スーツの試作開発は、緒美ちゃんの身体に合わせて、進めちゃった訳(わけ)ですし。」

「そうね、わたしも、今の勢いで開発が進んでいる状況は、正直、意外なのよね。ひょっとすると、今年の年末には HDG の試作機が、テスト可能になりそうな勢いだものね。」

「はい。緒美ちゃんも、『大人の本気って恐い』って言ってましたけど…。」

「それで、恵ちゃんは、緒美ちゃんが HDG のテストとか、緒美ちゃんが自分でやるのは反対なのね?」

「そうですね。そもそも、緒美ちゃんは運動とか、余り得意じゃないですし。それに、動機が動機だけに、テストだけでは、済まなくなる様な気がして。」

「成る程…。」

「中学の時も、エイリアン・ドローンに対抗する方法として、思い余った挙げ句に、爆弾を抱えて突撃、みたいな方向に向かわない様、気を付けてはいたんです。」

「それは、ちょっと、想像出来ないけど。」

 立花先生は、再び苦笑いをして見せる。

「それで、取り敢えず、試作機のテストやデータ取りには、スポーツの得意な人を当てる、と言う方針を提案しようかと。先生には、そのアイデアに賛成して欲しいんです。」

「協力って、そう言う事。」

「はい。如何(いかが)でしょうか?」

 立花先生は、少し考えて、答えた。

「まぁ、理屈としては間違ってないから、そのアイデアには賛成ね。まだ先の話ではあるけど、その人材に、当ては有るの?」

「いえ、今の所は。LMF のドライバーは取り敢えず、直ちゃんにやって貰いましたけど。流石に、HDG はそうも行かないと思うんですよね。」

「どうして?直美ちゃんは運動、得意そうじゃない。」

「そっちはいいんですけど…いや、良くないか。直ちゃんは、足の怪我で陸上を止めた人ですから。今は治ってるそうなんですけど、激しい運動は、矢っ張り、余り、したくないそうなので。」

「えっ?…その話は、初耳だわ。」

「あ。」

 再び、恵は口元に右手を当てて焦るのだった。

「流石、恵ちゃんは、色々と事情通なのね。」

「あぁ~…自分の事、話しちゃったから、言っていい事と、そうじゃない事の切り分けが…箍(たが)が弛(ゆる)んでいるんだわ。」

 恵は頭を抱える様に、一度、机に突っ伏してそう言うと、再び、頭を上げて言うのだった。

「先生、今の話は聞かなかった事にしてください。」

 立花先生はコーヒーカップに口を着け、一口飲んでから、カップをテーブルへと戻し、答えた。

「まぁ、いいでしょう。直美ちゃんは、その事には余り触れられたくは無いのね?」

「もう、そんなに気にしてはいない様子ですけど。と言って、自分から積極的に、話題にしたい内容でも無さそうな事なので。」

「そう。 で?さっきは『そっちはいい』って言ってたけど、恵ちゃん。 その事以外に、直美ちゃんでは、駄目な理由が有るのかしら。」

「あぁ、はい。 HDG は LMF に比べて、制御系の仕様が複雑ですから。LMF は操作の大半を Ruby がやってくれますし、Ruby とは会話でコミュニケーションが取れます。HDG も制御の大半は搭載の AI が自動で行う仕様ですけど、会話でのコミュニケーションは出来ませんし、AI が、どう言う制御をやる予定なのか、とか、その辺り、わたしも直ちゃんも、ちょっと理解が付いていけてません。」

 恵は身体を引いて、椅子の背凭(せもた)れに寄り掛かる。逆に、立花先生は両肘をテーブルに突き、顔の前で両手の指を組んで、言った。

「成る程ねぇ…でも、そのレベルで理解が出来てるのって、今の所、緒美ちゃんと樹里ちゃん位(ぐらい)じゃない?」

「取り敢えず、来年の新入生に期待したいかと。」

「緒美ちゃんか樹里ちゃんレベルの理解力が有って、スポーツも出来る子? 流石に、それはちょっと、ハードルが高過ぎない?」

「ですよね。でも、この学校なら、そんな怪物みたいな子も、入って来るかも知れませんよ?」

 恵は、そう言って陽気に笑うのだった。立花先生は、一息吐(つ)いて、答える。

「まぁ、稼働テストの人選に就いては、実機が完成してから、でも、問題無いでしょう。恵ちゃんの提案に就いては、頭に入れておきます。」

「お願いします。」

「それよりも、目下の所は、外装…ディフェンス・フィールド・ジェネレータの配置デザインの方が、問題じゃない?目処(めど)は付きそう?」

 

- to be continued …-

 

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