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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第10話.08)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 10-08 ****


「そう言う事。どうせ集まるのなら、どこか、料亭とかレストランにでも、行けばいいのにね。重役クラスの顔触(かおぶれ)なんだから。」

 と、呆(あき)れ顔れで立花先生が言うと、隣に座る恵が微笑んで言葉を返す。

「この辺りじゃ、気の利いたお店も無いからじゃないですか?」

「街の方へ行けば、それなりに有るんじゃない? まぁ、本社でも、社長とか部長とか、普通に社食でお昼食べてたりするんだけどね…うちの会社って。」

 その言葉を受けて、今度は斜向(はすむ)かいの席の樹里が、微笑んで言うのだった。

「上役が庶民感覚って言うのは、素敵じゃないですか。」

「う~ん…要は『考えよう』なんだけど。上層部には『それなり』の振る舞いをして欲しいって、思う人も居るのよね。」

 今度は、正面に座っている瑠菜が、立花先生に尋ねる。

「先生も、ですか?」

「わたし? わたしは、別に、本人の好きにすればいいって思うけど。でも、偉い人達との食事は嫌よね、気を遣うから。」

「それはそれで、納得です。」

 隣で、恵が深く頷(うなず)くのだった。

「だから…そこに付き合わされてる、鈴木さんと川崎さんには、同情するわ~。」

 立花先生の感想に、再び瑠菜が質問を挟(さしはさ)む。

「あれ?立花先生、重徳先生の助手のお二人と、面識が有ったんですか?」

「あぁ、あなた達は知らないわよね。去年の四月、わたしも、あのお二人と、こっちに講師として派遣されて来たのよ。だから去年の三月迄(まで)、赴任前の三ヶ月程、一緒に研修とか受けてたの。こっちに来てからは、殆(ほとん)ど顔を合わせなくなったけどね。」

 そこで、疑問を口にしたのは、佳奈である。

「でも、そう言った意味の会合なら、理事長の秘書さん迄(まで)一緒なのは、ちょっと不思議ですね。」

「お、鋭いね、佳奈。」

「でしょ~。えへへ。」

 囃(はや)す様に瑠菜が声を掛けると、佳奈は素直に笑って答えた。そして、立花先生が佳奈の疑問に答える。

「あぁ、加納さんはね、理事長の用心棒的な人だから。大体、一緒に行動してるみたいよ。歳の差は有るけど、馬は合うらしくて、随分と仲はいいみたいよね。」

「ヨージンボー?」

 『用心棒』と言う言葉の意味を知らない佳奈が聞き返すと、彼女の右隣に座っている樹里が答える。

「ボディーガードの事よ、佳奈ちゃん。」

「あぁ~前に、映画で見た。でも、そんな風(ふう)には見えないですよね。」

 感心する佳奈に、立花先生は追加の解説をするのだった。

「まぁ、基本的には可成り優秀な秘書さんだそうだけど、理事長が使ってる社用機の専属パイロットも兼任しててね。元は航空防衛軍の戦闘機パイロットだったそうだから、それで護衛役も兼ねてるらしいの。」

 それを聞いて今度は瑠菜が、意外そうに言うのだった。

「ふぅん。わたしにも、普通のオジサンにしか見えませんけど。」

「ちょっと、失礼よ、瑠菜ちゃん。」

 苦笑いしつつ、樹里は瑠菜に苦言を呈するのだが、立花先生も笑って、瑠菜に同意する。

「あはは、わたしも最初聞いた時は、そう思ったわ。瑠菜ちゃん。」

「先生まで…。」

 苦笑いの儘(まま)、そう言い掛けた時に、樹里は向かい側の席の、維月の様子がおかしい事に気が付き、声を掛ける。

「…維月ちゃん、大丈夫?」

 維月は右手の指先を額に当て、俯(うつむ)いていた顔を上げて答える。

「あぁ、ゴメン。大丈夫、大丈夫。」

 隣に座る恵も、声を掛ける。

「どうしたの?頭痛?」

「えぇ、ちょっと。風邪でも引いたのかな…。」

 すると、向かいの席から手を伸ばし、樹里が右の掌(てのひら)を維月の額に当てる。

「熱は…無い様よね。」

「そんな大袈裟(おおげさ)にする程の事じゃ無いよ。咳(せき)とか、悪寒(おかん)とかは無いし、食欲も有るから、まぁ、大丈夫。それに、お昼迄(まで)は、何とも無かったんだし。」

 立花先生も、心配気(げ)に尋ねる。

「酷(ひど)く痛むの?」

「いえ、それ程でも。」

「なら、いいけど。何日も続く様だったり、周期的に痛む様なら、一度、検査して貰った方がいいわよ。井上さん、普段から頭痛持ちって訳(わけ)では無いんでしょ?」

「そうですね。取り敢えず今日は、頭痛薬飲んで、寮で安静にしてます。」

 そう言って、維月が席を立つと、樹里も席を立つのだった。

「じゃ、部屋迄(まで)、送ってく。」

「いいよ、一人で大丈夫だから。」

「いいの。わたしも、もう、食べ終わったし。気の済む様にさせて。 じゃ、みんな、お先に~。」

 樹里はてきぱきと、維月の食べ終わった食器と、自分の食器を重ね、二人分のトレイを一つに纏(まと)めて、食器の返却口へと向かう。そんな樹里を追う様に、維月も歩き出すのだった。

「そこまでしなくても、いいのに~。大した事、無いんだから。」

「いいから、いいから。」

 そんな二人を席に残った四人が、口々に「お大事に」と言って、送り出すのだった。


 それから暫(しばら)くして、午後一時半、約束の時刻きっかりに立花先生は、校長室のドアを叩くのだった。

「どうぞ。」

 室内からの声を確認して、立花先生はドアを押し開ける。

「失礼します。」

「時間通りですね、立花先生。」

「恐縮です。」

「あぁ、どうぞ。座ってくださいな。」

 塚元校長は窓側の執務席を立ち、その前に置かれている応接用のソファーを指し示す。立花先生が案内されたソファーへと向かうと、その対面位置のソファーへと、塚元校長も移動して来るのだった。

「どうぞ、座ってちょうだい。」

 言い乍(なが)ら、塚元校長がソファーへと腰を下ろすのに続いて、立花先生も一礼して腰を下ろす。
 そして、先に声を掛けたのは、塚元校長だった。

「では、早速ですが。 随分と早く、調査が出来た様ですね。」

「はい。本人が素直に、聴取(ちょうしゅ)に応じて呉れましたので。」

「それとなく聞いてくださいね、ってお願いしたのに。」

「そう言うのは、苦手です、と、わたしも申し上げましたよ?」

 塚元校長は小さな溜息を一つ吐(つ)いて、眼鏡を掛け直し、言った。

「そうでしたね。それでは、報告を伺(うかが)いましょうか。」

「結論としては、先日、わたしが申し上げた通りで、森村さんに男性と交際している様な事実はありません。噂の根拠となったらしいのは、彼女が交際の申し入れを断る際に『他に好きな人がいるので、交際出来ません』と言った言葉に、尾鰭(おひれ)が付いたのだと、推測されます。」

「彼女が、そう言ったの?その『他に好きな人が』って。」

「森村さんの主張では。 断られた方にも、確認を取ってみましょうか?」

「流石に、それは止めておきましょう。袖にされた男子が、気の毒だわ。」

「取り敢えず、誰かとの交際の事実が無い事は、放課後、寮に帰る迄(まで)の殆(ほとん)どの時間、部活動でわたしが森村さんとは一緒に過ごしていますので、間違いは無いです。寮に戻ってから、夜中に出掛けたりしていない事は、寮のセキュリティの記録が証拠になりますし。そんな事が、もしも有れば、それこそ大問題ですけど。実際は、その様な報告は今の所、何も有りません。」

「そうですね。それで、『他に好きな人』って言うのは…。」

 塚元校長が、そう言い掛けた所で、遮(さえぎ)る様に立花先生は声を上げる。

「ブラフ…って言うと、ちょっと違いますけど、まぁ、上手く断る為の方便(ほうべん)だそうです。仮にそれが彼女の嘘だったとしても、それは内心の問題ですので。 実際の行動に問題が無ければ、わたし達が口出しする事では無いのかな、と。如何(いかが)でしょうか?」

 塚元校長は、少し間を置いて、言った。

「解りました。立花先生、この件は、これでお仕舞い、と言う事にしましょう。 聞き辛(づら)い事だったでしょうけれど、良く確かめてくださいましたね。ご苦労様でした。」

「いえ、実の所、本人的には、あの噂は寧(むし)ろ好都合だったみたいで。昨年から、彼女にはその気も無いのに、男子達に相次いで交際を申し込まれるのが、それなりに負担に感じていた様子でしたから。」

「…そう。だとすると、学校側としては、特に何もしないで静観していた方がいいのかしらね。」

「はい、当面は。噂の内容に、今以上の尾鰭(おひれ)が付かなければ、放置しておいても問題は無いかと。」

「そうですね。矢張り、立花先生に調査をお願いして良かったわ。」

「そうでしょうか?」

「ええ、立花先生でなかったら、森村さんが素直に話したかどうか分かりませんし、彼女が素直に話したとして、先程の結論を他の先生から聞いたら、わたしが素直に納得出来たかどうか、怪しいわ。」

「それは…恐縮です。」

 立花先生は一度、背筋を伸ばし、座った儘(まま)で深々と頭を下げるのだった。

 

- to be continued …-

 

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