WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第11話.07)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-07 ****


「天野さん…」

 茜の装着するヘッド・ギアから、緒美の声が聞こえる。

「此方(こちら)は、一輌撃破判定が出せればいいのよ。」

「それは、解ってますけど。命中判定なのかは、わたしの方では分からないので。何発目が、命中の判定でした?」

「何発目って言うか、全弾命中の判定よ。三機瞬殺、お見事だわ。」

「お見事なのは HDG の AI の、火器管制処理ですね。Ruby みたいに会話が出来たら、全力で褒めてあげるのに。」

「あはは、そうね。さぁ、第三回戦の準備、スタートライン迄(まで)、戻って。」

「はい。」

 茜は、身体の向きを西へと変えると、目印の白旗へとジャンプした。


 その頃、天神ヶ﨑高校の指揮所、その後方では畑中達、天野重工の面面が、モニターに映される模擬戦の状況を、飯田部長達の背後から眺(なが)めていた。
 指揮所エリアの最前列、一列目のテーブル前には指揮の為、緒美が立っており、その隣にはデバッグ用のコンソールに樹里が、その補佐としてクラウディアがモバイル PC を開いて、樹里の直ぐ後ろの席に着いてる。
 次列のテーブルには飯田部長を挟んで右手側に桜井一佐が、左手側には立花先生が席に着き、その左側では瑠菜と佳奈が観測機の操作を担当している。そして直美が、二人の後ろからコントローラーのディスプレイを、モニターしていた。
 特に仕事の無い恵は最後列のテーブルに着いて、天野重工から来ているメンバー四名と、飯田部長の秘書として参加していた蒲田の相手をしていたのである。

「今回も、我々の出番は無さそうですなぁ、畑中さん。」

 にこやかに、そう小声で畑中に話し掛けたのが大塚である。最後列で様子を見ているメンバーの中では、秘書課の蒲田と同年代の四十代だったが、会社的には一番の後輩である。大塚は天野重工の協力工場に以前は勤めていたのだが、五年ほど前にその会社が諸諸(もろもろ)の事情で廃業してしまった為、そこでは一番の若手だった彼が、畑中の上司である宮村課長の推薦も有って、天野重工に中途採用になったと言うのが、大まかな経緯である。そんな訳(わけ)で、入社四年目の大塚よりも、二十六歳だが入社八年目の畑中の方が、この現場ではリーダー格なのである。

「まぁ、それだけ、製品の完成度が高いって事ですから。」

「ええ。」

 畑中の返答に、大塚は又、にこやかに頷(うなず)いた。すると、大塚の右隣に座っている蒲田が言う。

「しかし、まぁ、防衛軍側の戦車じゃ、余り相手になっていない様な…。」

 その声に、飯田部長が振り向いて答える。

「まぁ、防衛軍の名誉の為に言っておくと、彼方(あちら)はエイリアン・ドローンの機動を、敢えて模擬しているからね。普通の戦車の運用方法、戦車砲戦だったら、又違う展開になると思うよ。」

「あら、擁護して頂いて感謝します。」

 飯田部長の隣席で、苦笑いしつつ桜井一佐が言うのだった。

「いやいや。所で、陸上防衛軍(あちら)側、何か有りましたかな?」

 飯田部長は防衛軍側の指揮所に若い士官が駆け付け、何か話している様子を横目にし乍(なが)ら、桜井一佐に尋(たず)ねる。事情を知らない桜井一佐は、「さぁ。どうしたんでしょう?」と答える他は無かった。
 その一方で、畑中達の後列席では、新田が左隣の倉森に声を掛けていた。

「でも、長時間、運転して来て、唯(ただ)、見てるだけってのも、何だかな~って思いますよね、みなみさん。」

「だけど、自分達が作ってた物が、こうやって動いている所を見られるのは、結構貴重でしょ?朋美さん。」

 因(ちな)みに、新田は倉森よりも二歳年上だが、一般大学卒業の新田よりも天神ヶ﨑高校卒業の倉森の方が、入社は二年先輩だった。互いに名前で呼び合っているのは、女性同士だからである。
 そして、畑中が振り向いて、新田に話し掛けるのだった。

「試作部はこうやって、試験とかで動作を確認する機会が有るけど、製造部とかになると、殆(ほとん)どそんな機会は無いからね。まぁ、製造部でもプラント系は、又、話が違うんだけど。」

 その話に、大塚も乗って来る。

「プラント系は責任者になると、何ヶ月も現地へ行った切りになるし、動作確認や性能試験が終わる迄(まで)、帰らせて貰えないそうですからね。」

「旅行が好きだとか、ホテル暮らしが苦にならないとかじゃないと、キツイですよね~それに、そうなると御家族も大変そう。」

 苦笑いしつつ、新田はそう言葉を返すのだった。そして、倉森は隣の席の恵に訊(き)く。

「恵ちゃんは、希望してる配属先とか有るの?」

「いえ。わたしは、今の所は特に。」

「折角、飯田部長とか偉い人達とコネが出来たんだから、今の内に希望を言っておく位(ぐらい)はしておいた方がいいわよ。」

「あはは、考えておきます。」

 そこに、秘書課の蒲田が割って入るのだった。

「おいおい、学生さんに、余り変な事を吹き込まないで呉れよ。」

「でも、蒲田さん。兵器開発部の面面に就いては、各部署の部課長が人事の予約に動いてるって噂、聞いてますよ。」

 畑中にそう言われて、蒲田は苦笑いで言った。

「誰かなあ、そんな無責任な事を言うのは~ねぇ、部長。」

「さあな~誰だろうねぇ。人事に関しては、わたしは管轄外だからね。わたしからは、ノーコメントだ。」

 そこで、新田が言うのだった。

「その噂話は兎も角、三年先の話ですけど、あの天野さんが入社して来たら、配属先を決める人事部は大変でしょうね。」

「会長のお孫さん、だから?」

 倉森の問い掛けに「ええ」と新田が答えると、飯田部長は前を向いた儘(まま)、笑って言った。

「それはそうだろうねぇ、わたしは人事担当じゃなくて良かったと思ってるよ。」

 それから間も無く、茜が防衛軍の浮上戦車(ホバー・タンク)を撃破し、緒美がヘッド・セットのマイクに語り掛ける声が聞こえて来る。

「はい、命中判定よ天野さん、第三回戦終了。第四回戦の準備…どうしたの?えっ…空?」

 その後、茜から帰って来た通信の内容に、一同は騒然となるのである。


 一方、第二回戦終了直後の、陸上防衛軍側指揮所である。

「天野…さん、と言いましたか。あの女の子は、コンバット・シューティングの達人か何かですか?」

 大久保一尉は、隣に座る吾妻一佐に、半(なか)ば呆(あき)れた様に問い掛けた。

「いや、そう言う訳(わけ)ではないだろうが…照準については、あの装備が自動で補正する仕掛けらしい。」

「そう言えば、資料で頂いた動画でも、ミス・ショットはしてませんでしたね。」

「まぁ、先日のその試験では、標的は固定だったし、移動標的の場合は射撃側が足を止めていたからね。」

「はい。ですが、これ程とは思っていませんでした、想像以上に手強(てごわ)いですね。」

 大久保一尉は無線機のマイクを握り、通話スイッチを押す。

「指揮所より各車へ。スタートライン迄(まで)戻ったら、次は三角陣で仕掛けろ。」

 その指示に、各車の車長から「了解」の声が帰って来るのだった。
 そこへ、一人の制服姿の若い下士官が、管理棟の方から格納庫へと駆け込んで来て、吾妻一佐の前で立ち止まり敬礼をする。吾妻一佐が敬礼を返し、「どうした?」と尋(たず)ねると、その下士官は周囲を気にする様に身を屈(かが)め、吾妻一佐に顔を近づけ、声を低めて言うのだった。

「中国地区司令部より、エイリアン・ドローンの一隊が九州北部を迂回して、山陰沿岸上空を飛行中との連絡です。この周辺に避難指示が発令される可能性も有るので、注意されたし、と。」

「何(なん)だと?又、西からなのか?迎撃は?」

「現在、西から東方向へ飛行中との連絡でしたが、迎撃の態勢に就いては、自分には判り兼ねます。」

「そうだな。」

 そこで、隣の大久保一尉が声を掛ける。

「模擬戦、ここで中断しますか?」

「いや、我々は戦力としては当てにはならんから、迎撃の応援が出来る訳(わけ)でもないしな。ここは市街地からも離れているから、奴らがここへ来る事もないだろう。避難指示が出る迄(まで)は、この儘(まま)、静観しても問題無かろう。」

 吾妻一佐は正面に立つ下士官の方へ視線を戻し、伝える。

「又、司令部からの続報が有ったら、知らせて呉れ。もしも避難指示が発令されたら、直ぐに駐屯地の方へ移動を開始する。管理棟に居る者は、その積もりで準備を頼む。」

「了解致しました。」

 連絡に来た若い下士官は、敬礼の手を降ろすと駆け足で管理棟へと戻って行く。
 その様子を眺(なが)めつつ、大久保一尉は吾妻一佐に訊(き)くのだった。

「お客人達には、伝えておきますか?」

 吾妻一佐は少しだけ苦い顔をして、答えた。

「いや、いいだろう。伝えた所で、不安にさせるだけだしな。」

「避難指示が出れば、嫌でも知られる事になりますが。」

「その時は、その時だ。まぁ、多分、奴らはこんな山奥には用は無いだろう?」

「そう願いたい…あぁっ!」

 大久保一尉が突然、声を上げたのは、又、浮上戦車(ホバー・タンク)が茜の HDG に因って撃破されたからだった。
 手元の中継装置が、命中判定のアラームを「ピー」と鳴らしている。大久保一尉がアラームの連続音をオフにして、フィールドの方へと目をやると、三輌の浮上戦車(ホバー・タンク)が全て停車していた。その中央付近に立っている茜は、何故か西側の空を見上げていたのだった。そして、茜は左手で空の方を指差し、何か言っている様子だったが、その声は聞こえない。
 茜の声が通信で聞こえている天神ヶ﨑高校側の指揮所では、何やらざわめきが起きているのが見て取れた。
 上空からは、「シュルシュル」と空気を切り裂く様な音が、接近して来ている様に感じられる。そして、一番車の車長、藤田三尉からの通信が入るのだった。

「一番車藤田より指揮所、隊長!西の空に…。」

 大久保一尉は、通信を最後まで聞かずに席を立つと、格納庫の外へと飛び出して行った。吾妻一佐も、その後を追った。
 丁度(ちょうど)その時、そこに居た数人の携帯端末から、自治体からの『避難指示発令』を知らせる緊急メッセージの着信音が、一斉に鳴り始める。
 それぞれが自分の持つ携帯端末を確認している中、大久保一尉が格納庫の外に出て西の空を見上げると、百メートルから百五十メートル程上空を、三機の三角形の機影が東向きに飛行しているのが見えたのだった。間違い無く、エイリアン・ドローン『トライアングル』である。
 直ぐに、指揮所へと駆け戻った大久保一尉は、通信機のマイクを手に取り、指示を出す。

「全車、第二格納庫まで後退!急げ。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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