STORY of HDG(第11話.09)
第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール
**** 11-09 ****
「無茶してるのは、防衛軍の方です。救援は呼んでるんでしょうけど、丸腰で出て行くなんて。」
その茜の反論を聞いて、佳奈が聞き返す。
「『マルゴシ』って?」
それには、樹里が答えるのだった。
「武器を持ってない、って事よ、佳奈ちゃん。」
「えっ?戦車なのに、武器が付いてないの?アレ」
そう樹里に聞き返したのは、瑠菜である。そこで、畑中が解説を加えるのだった。
「あの車輌は特別仕様で、主砲は外しちゃってるからね。砲塔の機銃は残して有るみたいだけど。」
その発言を受けて、飯田部長が答えた。
「機銃は残して有るだろうけど、弾は入ってないんだろう。今日は模擬戦の予定だったからね。」
今度は、直美が尋(たず)ねる。
「ここ、防衛軍の、実弾射撃訓練の為の施設ですよね? 弾ぐらい、置いてないんですか?」
「実弾射撃が出来る演習場って言っても、駐屯地じゃないからね。部隊が常駐している訳(わけ)じゃないから、弾薬の備蓄とかは無いだろう。訓練の時に必要な分だけ持ち込んで、終わったら全部、持って帰ってる筈(はず)だよ。」
そして、恵が飯田部長に訊(き)くのだった。
「それじゃ、防衛軍はどうやって、エイリアン・ドローンを撃退する気なんですか?」
「だから、こっちに近付かない様に注意を引いてるだけだよ。三十分位(ぐらい)で、救援が来る見込みらしい。」
畑中が苦笑いしつつ、飯田部長に尋(たず)ねる。
「大丈夫、なんでしょうかね?」
「さあ、ね。わたし達は、大丈夫である事を祈るだけさ。」
飯田部長も苦笑いで返す他、無かった。そして、茜がもう一度、主張する。
「防衛軍の人達を含めて、みんなが助かる確率を上げる為に、わたし達も何かするべきです。」
それを透(す)かさず否定するのは、立花先生である。
「駄目よ。理事長とも約束したでしょう? もうあんな事はしない、って。それに、武器が無いのは、わたしも同じでしょう。模擬戦用に、発射出来ない様に改造して持って来てるんだから。」
「それなら…。」
思わず何か言い掛けたものの、はたと気が付いた畑中は、その後の言葉を飲み込んだ。それは茜達に無茶をさせたくない立花先生の心情が、理解出来たからだ。
そうとは知らず、鋭い視線を向けて、立花先生が畑中に問い掛ける。
「なぁに?畑中君。」
「あ、いえ、何でもないです。」
少し狼狽(うろた)え気味に畑中が答えると、彼が言うのを躊躇(ためら)った事柄を、あっさりと瑠菜が口にしてしまうのである。
「あの、HDG の武器なら、有りますよ。」
「え? どう言う事?」
虚をつかれた様に、立花先生は瑠菜に聞き返す。その一方で畑中は、顔面を右手で押さえる様にして、俯(うつむ)いていた。
そんな様子には気にも留めず、瑠菜は立花先生に答える。
「LMF に、改造してないランチャーと BES(ベス)が、入ってますから。」
「どうして…。」
「こう言う事も有ろうかと…って言うのは嘘ですけど。 前回の火力試験以降、入れた儘(まま)になってました。」
それを聞いた茜は、LMF の方を振り向いて、声を上げる。
「Ruby…。」
「駄目よ、天野さん。」
Ruby に呼び掛けた所で、透(す)かさず立花先生が茜を呼び止める。その立花先生に対して、飯田部長は言うのだった。
「まぁまぁ、立花君。防衛軍の戦車隊が突破される可能性だって有る。最悪のケースを想定したら、可能ならば反撃出来る準備位(くらい)はしておいた方がいいんじゃないか?」
「部長、でも…。」
「飽くまでも最悪の事態に備えて、だ。わたしも現時点で天野君を外に出すのには、賛成しないよ。」
立花先生は無言で、唇を噛んでいた。茜は一度向き直って飯田部長に小さく頭を下げ、再び LMF の方向へ身体を向けて Ruby に呼び掛ける。
「Ruby、左側ウェポン・ベイのランチャーを。」
「分かりました。CPBL をお渡しします。」
Ruby は外部スピーカーを使用しないで返事をしたので、その声を聞いたのはヘッド・セットを装着している緒美と、茜とブリジットの三人だけである。
そして、ウェポン・ベイのドアが横にスライドして開かれると、CPBL(荷電粒子ビーム・ランチャー) を保持した武装供給アームが前方へと展開される。但し、コックピット・ブロックを接続した儘(まま)の状態だと、引き出された CPBL を受け取れる位置に HDG が立てないので、Ruby は LMF の姿勢を前傾姿勢にして CPBL の位置を HDG のマニピュレータが届く範囲に制御するのだった。
茜は、歩み寄って武装供給アームから左側のマニピュレータで CPBL を受け取ると、右のマニピュレータで保持していた、模擬戦用に改造されていた CPBL を、LMF の武装供給アームへと渡す。
そこへ、大久保一尉の傍(かたわ)らで外の様子を監視していた吾妻一佐が、自(みずか)らの背後で LMF が動作している事に気が付いて、声を掛けて来たのだった。
「飯田さん、何をやって、おられるのかな。」
呼び掛けられた飯田部長は、振り向いて声を返す。
「あぁ、すみません。此方(こちら)の方の、避難準備ですよ。其方(そちら)のお邪魔はしませんから、ご心配無く。」
「非常時ですので、此方(こちら)の指示には従っていただきたい。」
「分かってますよ。」
飯田部長が笑顔で返事をすると、吾妻一佐は再び、モニターの方へと向き直った。その一方で、Ruby は茜から受け取った被改造の CPBL を格納すると、LMF の姿勢を元に戻した。そして、Ruby は茜に尋(たず)ねるのだった。勿論、その合成音声は、周囲には聞こえていない。
「ビーム・エッジ・ソードは出さなくても?」
「あぁ、BES(ベス)はいいわ。今日はスリング・ジョイントを付けて来てないから。 そうだ、左腕側のシールドも、こっちにちょうだい、Ruby。」
その茜の発言を聞いて、再び、立花先生が小声で抗議する。
「茜ちゃん!」
「念の為、ですよ。立花先生。」
涼しい顔で、そう言い返す茜の声を聞き、立花先生は息を呑んで飯田部長の顔を見るのだった。不意に視線がぶつかった飯田部長は、苦笑いし乍(なが)ら立花先生に首を振って見せるのである。
Ruby は茜のリクエストに応じ、折り畳んでいた左腕を展開して床面付近へと降ろし、腕軸と直交する様に回転させた DFS(ディフェンス・フィールド・シールド)の底部を床面へと着けるのだった。そこで、Ruby がやろうとしている事を察した瑠菜と佳奈が駆け寄り、DFS を支える様に手を掛ける。間も無く、LMF 腕部側のジョイントが解放されると、瑠菜と佳奈は DFS が倒れない様に支え乍(なが)ら、くるりと向きを半回転させ、DFS の内側を茜の方へと向けた。
「あ、ありがとうございます、瑠菜さん、佳奈さん。」
茜は DFS の方へと歩み寄ると、左腕のジョイント部を DFS のジョイントへと位置を合わせる様に腰を落とし、接続した。茜は落としていた腰を伸ばすと、腕を肩の高さ迄(まで)上げ、シールド下半部をスライドさせて格納、展開の動作を確認し、再び、格納状態へと移行させた。茜が腕を降ろすと、DFS は機体にぶつからない様に自律的にジョイント・アームを動かしてクリアランスを取り、シールド本体の角度も自動で調整されるのだった。
「接続に動作、問題無さそうね。」
「はい、異常はありません。」
瑠菜の問い掛けに茜が応えると、瑠菜と佳奈はその場から少し離れ、LMF に向かって瑠菜が言った。
「オーケー Ruby、腕を格納していいよ。」
LMF のターレット頂部に取り付けられているセンサー・ヘッドが茜達の方向へ向くので、佳奈が両手を頭上で振っている。Ruby は周囲の安全を確認して、通信で応える。
「周辺の安全を確認しました。左腕を格納します。」
その返事は緒美と茜、そしてブリジットにしか聞こえていなかったが、その動作は誰の目にも明らかである。
そんな状況を横目で眺(なが)めつつ、畑中が飯田部長と立花先生、そして緒美の三人に向けて言うのだった。
「あの、ちょっと提案なんですが…。」
再び、立花先生は鋭い視線を向けるのだったが、飯田部長が畑中の声を拾うのだった。
「何だい?畑中君。」
「…あ、いえ。念の為、って言う事なら、LMF のプラズマ砲も使用出来る様にしておいた方が、いいのかな、と、思ったもので。」
その発言に、疑義を投げ掛けるのは樹里だった。
「畑中先輩、プラズマ砲の回路を元に戻すには、一度、電源を切らないと。でも、それをやっちゃったら、ここでは Ruby の再起動が出来ません。予備電源が無い事には…。いえ、予備電源が有っても、Ruby の休止作業だけでも、それなりの時間が掛かりますし。」
「あぁ、それはそうなんだけどね…。」
途中迄(まで)、畑中が言い掛けた所で、今度は倉森が割って入って来る。
「全体の電源を落とさなくても、プラズマ砲の元電源、兵装回路のブレーカーを落とせば、プラズマ砲の回路をテストモードから通常モードへ切り替える作業が出来る、って事ですよね?」
苦笑いしつつ、畑中は倉森に向かって言う。
「ホントは、やっちゃ駄目なんだけどね。まぁ、緊急事態だし。」
「回路図、持って来ます。」
倉森の後ろに居た新田が、回路図データが入っているタブレット端末を取りに、工具類一式が置かれた、元居た席の方向へと走った。
- to be continued …-
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