WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第11話.14)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-14 ****


「その陣形なら、さっきの模擬戦で経験済み。」

 茜は周囲の状況を観察しつつ、そう呟(つぶや)いた。すると、緒美の声が聞こえて来る。

「天野さん、LMF が再起動する迄(まで)は、Ruby のバックアップは無いから、注意してね。」

「分かってます、部長。」

 茜が緒美の呼び掛けに応えた瞬間、茜の右手側からトライアングルが一機、その右側の鎌状のブレードを振り上げ、突進して来る。これを躱(かわ)したら、背後から別の一機が斬り掛かって来るのだろうと踏んだ茜は、身体を捻(ひね)り、左腕を振り上げて、その腕部に接続されているディフェンス・フィールド・シールドで、敢えてトライアングルの斬撃を受け止めた。
 振り下ろされたトライアングルのブレードは青白いエフェクト光に弾かれ、構えたシールドの表面にすら達する事は無い。茜は左腕を翳(かざ)した儘(まま)、右後方へ視線を向けると、案の定、その方向からもう一機のトライアングルが接近していた。咄嗟(とっさ)に、その方向へランチャーの砲口を向けると、まだ幾分距離の有るトライアングルへ向けて、続けて二発、荷電粒子ビームを撃ち込むのだった。胸部を正面から撃ち抜かれたトライアングルは、機能を停止するも茜の方へと惰性で進み乍(なが)ら、地面に崩れ落ちた。
 茜は斜面を下る方向へ地面を蹴り、最初に斬撃を加えて来たトライアングルへと向き直る。その振り上げていた二撃目のブレードは空を切るが、尚も三撃目を加えようと、そのトライアングルは間合いを詰めて来るのだった。

「ブレード、展開。オーバー・ドライブ!」

 茜は思考制御と共に口を衝いて出てしまった音声コマンドで、シールド下部に格納されている小型のビーム・エッジ・ソードを展開させ、更に『オーバー・ドライブ』モードを発動して荷電粒子で構成される刃(やいば)を延長させる。
 トライアングルは、茜が翳(かざ)したシールドの上方に頭部を覗(のぞ)かせ、再びその右腕を振り上げて、斬り掛かろうとしていた。その瞬間、シールドはその中央接続ジョイント部で、茜の側から見て時計回りに回転する。シールドが半回転し、その下端に装備されたブレードが十二時の位置を通過する際、それはトライアングルの頭部を切り落としたのだった。
 一瞬、トライアングルが動作を止めると、茜は後方へジャンプしつつランチャーを構え、動きを止めたトライアングルへ狙いを定める。動作が止まっていた時間は一秒、有るか無いかで、直ぐに茜に向かって動作を再開したトライアングルだったが、胸部に二発の電粒子ビームを撃ち込まれると、その場で沈む様に擱座(かくざ)するのだった。

「あと、一機。」

 茜は、着地する前にスラスターを噴かし、再びホバー機動で斜面を登る様に移動を始めた。当然、残った一機のトライアングルは、二対の脚を高速で動かし、猛然と茜を追走するのだった。


「二機、瞬殺とは。恐れ入ったな…彼女は、何か武術の心得が?」

 大久保一尉は半(なか)ば呆(あき)れる様に、緒美に尋(たず)ねた。その問いに緒美が答えるより先に、緒美の後側に居た恵が、声を返すのだった。

「どうして武術の話になるんです? 銃撃戦なのに。」

 その声の方へ向き、大久保一尉は恵の質問返しに答える。

「間合いの取り方が、見事だ。相当の手練(てだれ)と、見受けられるが。」

「あぁ、成る程。そう言う事になりますか。」

 恵が妙に感心して、そう言葉を返すと、緒美が大久保一尉の最初の問いに掛けに答える。

「彼女、剣道を八年…って言っていたかと。」

「ほう、すると全国レベルの有段者かな。今度、手合わせを願いたいな。」

 大真面目な大久保一尉の所感を聞いて、恵は近くに居た直美と顔を見合わせ、クスクスと笑い合うのだった。
 その様子に、大久保一尉は真顔で、緒美に尋(たず)ねる。

「何か、おかしな事を言ったかな?」

 緒美は相好(そうごう)を崩す事無く、答える。

「いえ。」

 そして、振り向いて恵に言うのだった。

「失礼よ、森村ちゃん。それに、新島ちゃんも。」

 恵は一度、真顔になって「すみません。」と謝ったのだが、その直ぐあと、後ろを向いて、再び肩を震わせていたのだった。
直美は気まずそうに苦笑いしつつ、恵の背中に右手を添える。
 そして、緒美は小さく頭を下げ、大久保一尉に言った。

「すみません、気にしないでください。」

「いいよ。キミ達の年頃は、箸が転がっても可笑しいものだからな。 それより、あのパワード・スーツ、先刻の模擬戦の時とは、随分と動きが違う様だが?」

「あぁ、はい。」

「実は、事前に、以前の火力試験での映像を見せて貰っていたのだが、今の動きは、その時の映像の方に、より近い様に思うのだが?」

 緒美は視線をモニターの方へ戻し、事も無げに答える。

「既にお気付きとは思いますが。あの背部のスラスター・ユニット、飛行が可能な程度の能力が有りますので。上空へ逃げてしまっては、浮上戦車(ホバー・タンク)とでは模擬戦が成立しません。ですので、先程はスラスター・ユニットの使用を制限していました。」

「成る程、矢張り、そうだったか。それで、模擬戦から何か得た物は有っただろうか?」

「はい。先程の戦闘機動が、その成果ではないかと。」

「そうか、なら良かった。」


 一方で、茜は最後の一機を仕留めるのに、手間取っていた。仲間の二機を失って、トライアングルは明らかに動き方を変えていたからだ。
 具体的には、常に茜の左手側に占位し、そちら側から攻撃を仕掛けて来る様になっていた。
 ランチャーを向けると、トライアングルは茜の左へ、左へと移動して行く。そして、射撃しようと茜が距離を空けると、当然、トライアングルは自らのブレードが届く距離へと、茜の左手側から詰め寄って来るのである。この、茜が距離を空けると、トライアングルが詰め寄ると言う遣り取りを、両者は既に幾度となく繰り返していた。
 茜は決め手を欠く状況に、「BES(ベス)を持って来なかったのは、失敗だった」と悔やんだが、後の祭りだった。ビーム・エッジ・ソードが有れば、詰め寄って来たトライアングルを返り討ちに出来るし、それはその為の装備なのである。ビーム・エッジ・ソードと同じく超接近戦用の装備とは言え、シールド下端のブレードでは、正面から斬り合うのは流石に危険だった。先程の様に、此方(こちら)の都合の良い位置に、そうは来て呉れないのである。
 そもそも、茜がビーム・エッジ・ソードを携行しなかったのは、立花先生や緒美が接近戦を危険視している事を知っていたからだ。だから、それを持たない事で茜が接近戦を回避する意志を示し、二人を安心させたかったと言う理由も有ったのだ。勿論、第一の理由はビーム・エッジ・ソード用のジョイントを装備していないので、常にマニピュレータで保持しておくのが不便だったからだ。右手側に持つのをランチャーにするのか、ソードにするのか、その選択も問題だった。
 ともあれ、茜が接近戦を回避する気でも、飛び道具を持たないトライアングルは、問答無用で接近戦を仕掛けて来るのである。一方の意図だけで状況が展開する筈(はず)はなく、だから茜は「次回は必ず、ソードも持って来よう」、そう思い乍(なが)ら回避の機動を続けていた。


「何だか、射撃、出来なくなったわね…。」

 モニターを見詰め、立花先生がポツリと言うと、それに、緒美が応える。

「もう、此方(こちら)の動きを、学習されてしまいましたね。トライアングルは、ランチャーの軸線を避(さ)ける様に動いてます。」

 苦苦しそうに、直美が言う。

「どうして、あんな近くなのに撃てないのよ。」

 その疑問には、大久保一尉が答えるのだった。

「近いから、撃てないのさ。百メートル先の目標なら、それが横に五メートル動いても、手首の動きだけで照準を合わせられるが、目の前の目標が横に五メートルも動いたら、撃つ方は身体ごと動かないと照準が付けられない。しかし、照準を修正している間に、目標は更に動いてしまう。だから射撃する為には、もっと距離を取る事が必要だ。」

 それに続いて、緒美が言う。

「でも、距離を取ろうとすると、相手の方から詰め寄って来る。こうなると、疲れを知らないトライアングルの方が、断然有利だけど…。」

「あと一機、って思ったのに。」

 恵が、悔しそうに呟(つぶや)くと、それを受けて緒美が解説する。

「逆よ。複数機居る内は連携して攻撃して来る時、攻撃担当をスイッチする瞬間に隙が有ったけど。残りが一機となると、一機が攻撃を継続するから、寧(むし)ろ隙が見え辛くなったの。」

 緒美が言い終わる前に、前の席でデバッグ用コンソールをモニターしている樹里が、振り向いて告げる。

「部長、LMF の再起動、完了しました。」

 その樹里の言葉と、殆(ほとん)ど間を置かず、緒美のヘッド・セットにはブリジットと Ruby の声が、相次いで聞こえて来る。

「部長、準備完了です。何時(いつ)でも、出られます。」

「緒美、お待たせしました。チェック終了です、システムに問題はありません。」

 それを受け、緒美は透(す)かさず、指示を出すのだった。

「オーケー、データ・リンクで目標の位置は解ってるわね? Ruby。」

「ハイ。ここからでもロックオンは可能ですが?」

「危ないから、この中では止めておいて。ボードレールさん、LMF を前進させて、格納庫から出たら直ぐに、目標をロックオンして。天野さんは、LMF がロックオンしたら、東方向上空へジャンプして退避よ。トライアングルが HDG を追って、飛び上がった所を LMF のプラズマ砲で狙撃、二人共、出来る?」

 緒美の指示に、直ぐに茜とブリジットの声が帰って来る。

「解りました。ブリジット、ロックオンしたら教えてね。」

「任せて。では部長、LMF 出します。」

「いいわ。気を付けてね。 あ、正面の扉、自分で開けてね。」

「は~い。」

 緒美達の右手後方に駐機していた LMF がホバー・ユニットを起動すると、噴出された大量の空気が格納庫の床面に沿って四方へ流れ、格納庫の壁に当たって巻き上がる。そして LMF は、ゆっくりと前進を始める。
 LMF は茜が HDG が通れる程に開いた儘(まま)になっていた大扉の前まで来ると、機首が接触しない様にコックピット・ブロックを機体下に格納する形態へと移行し、機体上部に格納してある左右の腕部を展開して前方へと伸ばした。マニピュレータの指先を大扉に掛けると、両腕を広げて扉を左右へ押し動かし、LMF 自身が通れる扉の開き幅を確保した。
 その様子を見ていた大久保一尉が、感心気(げ)に言うのだった。

「成る程、腕が有るってのは便利な物だな。」

 扉の開口部を機体が通過すると、直ぐに通常の高速機動モードへ戻り、同時にプラズマ砲ターレットが照準の為、動作を始める。

「目標を捕捉。現在の目標に照準を固定しますか?」

 ブリジットに対し、Ruby が目標選択の確認を要求するのだが、目標は一つしか無い。ブリジットは、迷う事無く応えた。

「オーケー、ロックオン。」

「ロックオンしました。目標の追尾を開始。現在の距離362メートル、プラズマ砲の出力を80%に設定。」

「任せるわ、Ruby。外さないでよ。」

「ハイ、ブリジット。」

 狙撃の準備を終えたブリジットは、無線を通じて茜に声を掛ける。

「茜!準備完了。あなたのタイミングで、ジャンプして。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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