WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第11話.15)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-15 ****


「分かった!」

 茜はそう答えると、右後方から振り下ろされたトライアングルのブレードを躱(かわ)す為に、身体を捻(ひね)って右前方へジャンプし、着地すると一度深く屈(かが)んで、全身を使って縦方向へ跳躍した。同時に、スラスターを最大出力で噴射し、一気に十メートルを超える高さ迄(まで)飛び上がったのだった。
 茜が跳躍すると、トライアングルもその機体を一旦沈める様な動作をし、直ぐに茜を追って飛び上がる。茜を目掛けて、直線的な軌道で上昇するトライアングルは、狙撃手に取っては格好の標的となったのだ。

「いただき!」

 ブリジットが、右側コントロール・グリップのトリガーを引くと、雷鳴の様な破裂音が響き、それとほぼ同時に上昇中だったトライアングルの腹部胴体が青白い閃光に吹き飛ばされる。残されたトライアングルの部位は、連結部を失った胸部や尾部、四肢等が、重力に従って虚しく落下して行くのだった。
 空中で姿勢を変え、トライアングルのパーツが落下して行くのを見送ると、茜は一度、大きく息を吐(は)いた。

「ふう…。」

 茜は、模擬戦用に立てられていた紅白、二本の旗の中間地点辺りに降り立つ。

「これで、終わりかしら?」

 誰に訊(き)くでも無く、茜は言った。すると、ヘッド・ギアに Ruby の合成音が聞こえる。

「南西方向上空に、飛行物体が二機。接近中です。」

 茜は南西方向の空に視線を移し、Ruby からの情報を元に接近中の機影を探す。

Ruby、その飛行物体、機種は識別出来る?」

 緒美の、Ruby に対する問い掛けが聞こえて来る。Ruby は、それに即答した。

「ハイ、緒美。陸上防衛軍が運用している、AH-5型、戦闘ヘリコプターですね。」

 Ruby が答えて間も無く、茜も南側から降下しつつ接近して来る、戦闘ヘリの姿を認めたのだった。
 そして、緒美の指示が、茜に聞こえる。

「天野さん、あなたは取り敢えず、一度こっちに入って。他の部隊とかに、HDG は、余り見られない方がいいから。」

 すると、ブリジットが通信で緒美に問い掛ける。

「LMF は、いいんですか?」

「う~ん、LMF は、防衛軍仕様のが、近い内に引き渡される予定だから、まぁ、見られても大丈夫でしょう。隠すには大き過ぎるし。その儘(まま)、待機してて。」

「は~い。」

 その遣り取りに、くすりと笑って、茜は応えた。

「分かりました、其方(そちら)へ戻ります。」

 茜は格納庫の前に駐機している LMF に一度、手を振ると、其方(そちら)に向かってジャンプした。
 背後からは、ヘリのローター音が段段と大きく聞こえて来る。茜が格納庫に入って間も無く、二機の戦闘ヘリは相次いで、低空で演習場の上を通過して行った。


「漸(ようや)く、救援の到着か。」

 少し悔しそうに吾妻一佐が、そう呟(つぶや)く一方で、大久保一尉が使用する無線機に通信が入る。上空の戦闘ヘリが、緊急用の共通周波数で呼び掛けて来たのだ。

「此方(こちら)、戦技研究隊の大久保一尉、救援に感謝する。…ああ、そうだ、民間の協力で当面の脅威は排除した。引き続き、周辺の警戒をお願いしたい…あ、ちょっと待って呉れ。」

 吾妻一佐が大久保一尉の肩を叩くので、通話を中断して左側へ向く。すると吾妻一佐は、大久保一尉に告げるのだった。

「ドローンの残骸、回収の依頼を。」

「了解しました。」

 大久保一尉は再び正面を向き、通話を再開する。一方で吾妻一佐は懐(ふところ)から携帯端末を取り出し、パネルを操作し乍(なが)ら、格納庫の奥へと歩いて行った。

「あー、此方(こちら)、戦研隊、大久保。其方(そちら)、上空から見えると思うが、敵ドローンの残骸が三機…そうだ…あぁ、其方(そちら)から司令部に回収の連絡を…そうだ。…了解。…え?…あぁ、詳細は別途、報告する。宜しく頼む。以上。」

 大久保一尉の通信が終わると、奥の方向から吾妻一佐の話し声が聞こえて来る。

「…あぁ、吾妻ですが、和多田さん?今、大丈夫ですかな?…あぁ、そっちにも話が回ってましたか、なら、話が早い。え?…あぁ、幸い無事だよ。…あぁ、そう、そう。…いや、今回も天野重工のね…いや、詳しい事はここで話す事では無いが…そうだ、うん。…あぁ、うん。そう、そう。…それで、…あぁ、大臣の方には…そう。…いや、それ、マスコミに漏れるとマズいでしょう?…そう、他の部隊とか…そうそう…あぁ…取り敢えず、事前に話だけ回しておいて…あぁ、お願いしますよ。総体本部経由で…はい…えぇ…じゃぁ、そう言う事で。では。」

 そんな話し声が聞こえて来るので、飯田部長と桜井一佐は、連れ立って吾妻一佐の方へと向かうのだった。そして、通話の終わった吾妻一佐に、何やら話し掛けているのだが、声を抑えているのか、その話し声は聞こえて来ない。
 格納庫正面、大扉の方向では、HDG を装備したままの茜が、大扉開口部と指揮所テーブルとの中間地点辺りで、外を向いて立っている。外の様子を、警戒して監視を続けているのだ。
 LMF がトライアングルの最後の一機を撃破して、一瞬、格納庫内部の雰囲気が緩(ゆる)んだのだが、その直ぐあと、陸上防衛軍の戦闘ヘリが飛来した事に因って、不思議な緊張感が漂っていた。だから、緒美を筆頭に、天神ヶ崎の生徒達は何も言葉を発しなかった。
 そして間も無く、飯田部長の声によって、その緊張感は破られる。

「おーい、立花君、鬼塚君。わたし達は撤収の準備だー。」

 何らかの話が付いたのであろう、三人が並んで、格納庫の奥側から歩いて来る。飯田部長に続いて、吾妻一佐が大久保一尉へ声を掛ける。

「大久保一尉、今日の模擬戦、以降の予定、全てキャンセルだ。状況終了。」

「了解。」

 そう答えると、直様(すぐさま)、大久保一尉は部下に指示を伝える。

「指揮所より全車。状況終了、搭乗員は全員降車し、車輌を整備班に引き渡せ。」

 大久保一尉は指示を出し終えると、右隣に立っている緒美に話し掛ける。

「あの試作戦車とも一戦交(まじ)えてみたかったが、残念だよ。」

「それは、どうも。」

 緒美は愛想笑いをしつつ、言葉を返す。すると、大久保一尉が緒美に、意外な問い掛けをするのだった。

「キミは三年生だったか?」

「あぁ、はい。そうですけど…。」

「そうか、卒業後の進路とか、決まっているのかな?」

「え…と、どう言う事ですか?」

 緒美は困惑して、大久保一尉の質問の意図を問い返す。

「あぁ、いや、立ち入った事を訊(き)いてしまったが。進路が決まっていない様なら、防衛大学はどうだろうかと、思ってね。キミなら、いい指揮官になれるかも知れん。」

 大久保一尉は、真顔である。緒美は少し困った顔になりつつ、冷静に答える。

「そう言って頂けるのは、光栄ですけど…卒業後は天野重工へと、既に決まっていますので。」

 そこで、緒美の隣に立っていた立花先生が、補足説明を加えるのだった。

「今日、ここへ来ている子達は、みんな既に天野重工の準社員ですので。」

準社員?…ですか。」

 大久保一尉は、天野重工と天神ヶ崎高校の関係を、良くは知らなかったのである。立花先生は、説明を続ける。

「はい。卒業後には天野重工が採用する前提で、幹部技術者としての教育を受けているんです。その授業料とか生活費とかを、会社が負担する事になっているのが、天野重工が運営している天神ヶ崎高校と言う学校なんです。」

 そして、緒美が付け加える。

「もしも、卒業後やその前に、天野重工に務められない事になったら、掛かった費用を、会社に返済しなければならない契約でして。」

「成る程、そう言う仕組みでしたか。知らなかったとは言え、失礼な事を言ってしまったな。申し訳無い。」

 大久保一尉は、律儀に頭を下げて謝罪した。緒美は微笑んで、言葉を返す。

「いえ。お気になさらず。」

 そこへ、飯田部長達が近付いて来て、声を掛けて来るのだった。

「どうか、されましたかな?」

「いいえ、大した事では…。」

 緒美がそう言うと、頭を上げた大久保一尉が微笑んで、飯田部長に向かって言う。

「此方(こちら)のお嬢さんに、防衛大学への進学を勧めたのですが、見事に袖にされた所です。」

「申し訳無いが、彼女達は天野重工(うち)の大事な、将来の幹部技術者候補ですから。防衛軍にお渡しする訳(わけ)にはいきませんな。」

 飯田部長は、そう言って笑った。そこへ、立花先生が問い掛ける。

「所で部長、撤収って…。」

「ん?言葉通りの意味だが。戦研隊の車輌も損傷したし、この儘(まま)、模擬戦続行って訳(わけ)にも、いかんだろう。直(じき)に、エイリアン・ドローンの残骸を回収する部隊も到着するだろうから、その場に民間人が居合わせるのもマズいそうだ。増してや未成年、学生が居たりするのは、ね。」

「成る程、そう言う事ですか…。」

「そう言う訳(わけ)だから、天神ヶ崎の諸君は、装備を解除したら早早に、ここを出発して呉れ。此方(こちら)の片付けは、天野重工(うち)のスタッフでやっておくから。」

「分かりました。緒美ちゃん。」

 立花先生が目配せをすると、緒美は茜達に指示を伝える。

「天野さん、ボードレールさん、わたし達は撤収だそうよ。トランスポーターへ向かって、そっちの準備、やって貰うから。」

 飯田部長は振り向いて、後方で待機していた天野重工の四人に声を掛ける。

「おーい、畑中君と大塚君、彼女達の装備を降ろすから、トランスポーターの操作を頼む。」

 呼ばれた二人は返事をすると、駆け足で格納庫の外へと向かう。茜は、その二人の後を、歩いて追って行った。
 その一方で、緒美は前の席に居る、瑠菜と佳奈にも指示を出す。

「瑠菜さんと古寺さんは、観測機の回収と終了作業を。」

 前方では、トランスポーターへ積載する為に、LMF が移動を始めているのが見える。緒美はヘッド・セットと携帯型無線機を外して、スイッチを切ると、前列に置かれたデバッグ用コンソールに着いている樹里に声を掛けた。

「城ノ内さん、LMF がトランスポーターに乗るから、Ruby を寝かし付けに行きましょうか。」

「あ、はい。じゃあ、カルテッリエリさん、このコンソールのシャットダウン、やっておいて呉れるかな? あと、ここの配線とかのバラシ、倉森先輩を手伝ってあげて。」

「わかりました~。」

 クラウディアは、開いていた自分のモバイル PC を閉じて、答えた。
 そして、緒美と樹里がその場を離れようとした時、大久保一尉が緒美を呼び止めるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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