WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第11話.16)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-16 ****


「あぁ、鬼塚君…だったね。最後に、ちょっと確認しておきたいんだが。」

 緒美は立ち止まると、振り向く。

「何(なん)でしょうか?」

「最後の連係攻撃、あれは、普段から訓練を?」

 緒美は、微笑んで答える。

「まさか。ぶっつけ本番ですが…あの二人なら、上手くやって呉れるだろうと。何せ、親友ですから、あの二人。」

「そうか…随分とエイリアン・ドローンの事に就いて研究がされている様子だが、どこからどこ迄(まで)が、キミの想定の範囲内だったのだろうか?」

「…いいえ。」

 一度、首を横に振り、そして、緒美は満面の笑みで答える。

「行き当たりばったりですよ、全部。」

 そして、お辞儀をすると「それでは、失礼します。」と言い残し、踵(きびす)を返して正面の大扉へと向かって歩き出す。

「行きましょう、城ノ内さん。」

「はい、部長。」

 樹里は自分のモバイル PC を両腕で胸元に抱(かか)え、緒美の後を追った。
 暫(しばら)二人を見送ったあと、く大久保一尉は、立花先生の方へ向き、尋(たず)ねるのだった。

「本当ですか? 全部、行き当たりばったり、ってのは。」

「さあ…。」

 立花先生は不審気(げ)に首を傾(かし)げるのだが、恵は微笑んで断言するのだった。

「照れ隠しですよ。」

 その時、扉の方から緒美の声が聞こえて来る。

「瑠菜さんか、古寺さん。天野さんの方、HDG のリグの操作、やってあげて。」

「は~い。分かりました。」

 直ぐに、瑠菜が手を上げて答える。

「お願いね~。」

 そう言い残して、緒美の姿は大扉の向こうへ消えた。そして瑠菜は、隣の席の佳奈に言うのだった。

「佳奈、こっちはやっておくから、あなたは天野の方、お願い。」

「うん、分かった~。行って来るね。」

 佳奈が席を立ち、小走りで格納庫から出て行くと、入れ替わる様に二機の観測機が、人の目線程の高さで格納庫内へと入って来る。瑠菜も席を離れると、左手側の壁際に置いてある、二つの観測機格納コンテナの蓋を開いた。瑠菜が席に戻り、コントローラーを操作すると、大扉から入って直ぐ付近の空中で静止していた二機の観測機は、それぞれが自らのコンテナへと移動して行き、その中へと納まるのだった。
 そこで大久保一尉は、立花先生に尋(たず)ねる。

「あの観測機の映像は、記録を?」

 立花先生は、瑠菜に確認する。

「撮影してた画像は記録してるわよね?瑠菜ちゃん。」

 瑠菜はコントローラー終了作業の手を止め、振り向いて応えた。

「はい。」

 すると、今度は瑠菜に向かって、大久保一尉は尋(たず)ねる。

「あとで、記録した映像、頂けませんか?」

「わたしの一存では。会社の許可が…どうでしょうか?飯田部長。」

 瑠菜に話を振られて、飯田部長はニヤリと笑って大久保一尉に答えた。

「そうですね、まぁ、お安くしておきますよ。」

 そう言われて、真顔で大久保一尉は言葉を返す。

「わたしの権限で使える予算には、限度が有りますので…。」

 そこに、吾妻一佐が割って入るのだった。

「おいおい、飯田さん…」

 飯田部長は「ははは」と笑い、言う。

「冗談ですよ、HDG が映っていないので良ければ、天野重工(うち)の方で編集して、後程、無償でお譲りしますので、研究に役立ててください。」

「ありがとうございます。」

 飯田部長に向かって、大久保一尉は頭を下げるのだった。


 それから暫(しばら)くして、格納庫の東側に北向きに駐車している HDG 専用トランスポーターのコンテナ後部ハッチを、HDG をメンテナンス・リグに渡した茜が、歩いて降りて来る。茜の正面には、少し距離を置いて東向きに止められた大型トランスポーターが有り、その荷台には、既に LMF が乗っていた。LMF 後方下部では、そのメンテナンス・ハッチを開いて、緒美と樹里、そしてブリジットの三人が、Ruby のスリープ・モード移行を見守っているらしい姿が見える。茜が HDG 用のコンテナから出て来たのに気が付いたブリジットが、茜に手を振っているので、茜も手を振って応えるのだった。
 茜に続いて、コンテナから降りて来た佳奈が、茜に声を掛ける。

「こっちのリグ、終了作業、終わったから、格納庫の方、手伝って来るね~茜ン。」

「あ、はい。ありがとうございました、佳奈さん。わたしも行きます。」

「いいよ~着替えておいで~。」

 佳奈は、そう言い残して格納庫の方へと走って行く。
 その佳奈と擦れ違って、茜に近付いて来たのが藤田三尉と松下二曹の二人だった。藤田三尉はにこやかな表情だったが、その後ろを歩く松下二曹は、何やら険(けわ)しい顔付きをしていた。だから、茜は少し身構える様な心境で、二人に対峙するのだった。そして、先に声を掛けて来たのが、藤田三尉である。

「お嬢さん、もう一度、お名前を伺(うかが)ってもいいかしら?」

 正直、茜は何故にこの二人が、自分に話し掛けて来たのか見当が付かないでいた。だが取り敢えず、訊(き)かれた事には答えてみる。

「天野、です。」

 藤田三尉は相変わらず、にこやかに話し掛けて来る。実は、彼女は背後に立つ松下二曹の表情には、気が付いていないのだ。

「天野さん、ね。会社の方(ほう)と同じ名前なのは、偶然?」

 茜は、会長の身内だとかは明かさない方がいい様な気がしたので、敢えて明言は避(さ)けて答える。

「えぇ、はい。…まぁ、偶然です。」

 茜の『天野』姓は父方の『天野』であって、母方の『天野』ではない。結婚前の両親の姓が『偶然』に『天野』で同じだったのだから、茜が『偶然』だと答えたのは嘘ではない。
 ここで、茜が警戒している感触を得た藤田三尉は、少し困った顔をするが、直ぐに元のにこやかな表情に戻り、口を開く。

「あぁ、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら? わたしは藤田よ、一番車の車長。こっちは、操縦手の松下。」

 自己紹介を受けて、漸(ようや)く茜は、藤田三尉が話し掛けて来た理由に思い当たった。

「あぁ、一番車の…お怪我は有りませんでしたか?」

「ええ、ご覧の通りよ。ありがとう、助かったわ。」

 藤田三尉が握手の右手を差し出して来るので、茜も右手を出そうとするが、インナー・スーツ用のセンサー・グローブを装着した儘(まま)だった事に気が付き、慌ててグローブを外すと、汗ばんだ右の掌(てのひら)を太股に二三度、擦(こす)り付けて汗を拭き、それから藤田三尉の右手を握るのだった。

「一言、あなたにお礼が言いたかったのよ。」

「いえ。ご無事なら、何よりです。」

 和(なご)やかな雰囲気で、二人が交わした握手の手を放すと、不意に松下二曹が冷ややかに言うのだった。

「何よ、恩でも売った積もり?」

 その言葉に驚いて、藤田三尉は振り向く。松下二曹の表情は、先程の険(けわ)しい感じではなく、無表情だった。

「ちょっと、松下二曹?」

 藤田三尉に呼び掛けられても、松下二曹の表情に、特に変化は無い。
 茜は冷静に、言葉を返す。

「そんな積もりは、ありませんでしたけど。」

 松下二曹は、言葉を続ける。

「そもそも、わたし達はあなた方に『助けて』なんて、頼んでないし…。」

 出撃の際に茜は、大久保一尉から『それ』に近い事を無線で言われたのだが、それを、この二人は知らない筈(はず)だった。だから茜は、敢えて『それ』に言及する事はしなかった。
 松下二曹は、続けて言う。

「…あなたが出て来なくても、あと十分も待ってたら救援は到着したの。民間の素人(しろうと)が余計な事をして、それでも何か有ったら、防衛軍の責任にされるのよ。大体、素人(しろうと)が、こんな事に首を突っ込んで。今回は偶然、上手くいったから良かったけど。調子に乗って、こんな事、続けてたら、あなた達、その内、怪我じゃ済まなくなるわよ。」

「よしなさい、松下二曹。」

 一気に捲(まく)し立てる松下二曹の左腕を、藤田三尉は掴(つか)んで、引っ張る。松下二曹は「こんな事、続けてたら」と言ったが、彼女は茜達が前回、HDG でエイリアン・ドローンを迎撃した事実を知っていた訳(わけ)ではない。徒(ただ)、単に、今後も今回の様な事を続けていたら、と言う推測で言っただけの事である。
 一方で、感情の良く分からない顔付きで、尤(もっと)もらしい言い掛かりを付けて来る、松下二曹の表情を見詰めて、茜は「どこかで見た表情だな」と思っていた。それは、中学一年生のあの時、無視するだけでは飽き足らず、何だか良く分からない言い掛かりを付けて来た、同じクラスの女子生徒の表情と同じに見えたのだ。唯(ただ)、その表情には覚えが有ったものの、それが誰だったのか、その顔も、相手の名前も思い出せなかった。余程、その人物に関心が無かったのだろう、その時、自分に向けられた悪意を感じたと言う記憶の他は、相手が何(ど)の様な言い掛かりを付けて来たのか、自分が何(なん)と言い返したのか、茜は一切、思い出す事が出来なかったのだ。
 そんな思考が一瞬で頭の中を巡ると、茜は自分の頭の芯が冷えて行く様な、冴えて来る様な感覚を覚えた。
 そして、制止しようとする藤田三尉に向かって、松下二曹が言う。

「これ以上、増長しないように、大人が、ちゃんと言ってあげるべきなんですよ、藤田三尉。」

 茜は微笑んで、眼前の二人に向かって言うのだった。

「それは、御心配頂きまして、ありがとうございます。今回は、被害者を見殺しにするのが、我慢出来なかったので…まぁ、自己満足の為の行動ですので。防衛軍の皆さんには、気にして頂かなくて結構です。」

 松下二曹は冷たい視線を茜に向け、言い返す。

「何よそれ、ヒーロー気取り?自己満足?そう。じゃあ、満足出来たの?」

「松下二曹、止めなさい。」

 藤田三尉が声を上げるが、松下二曹の表情は変わらない。
 茜も表情を変えず、微笑んだ儘(まま)で冷静に言葉を返した。

「ええ、結果には満足してますよ。お陰様で、今夜は悪い夢を見ないで済みそうです。」

 その言葉に、松下二曹の表情には怒りの色が入り、そして声を荒らげる。

「何ですって、大人を馬鹿にして!」

「松下二曹!」

 一括した藤田三尉は、振り向き様(ざま)に、右手で松下二曹の頬を打った。瞬間に、松下二曹の表情は、明らかな狼狽(ろうばい)へと変わったのである。

 

- to be continued …-

 

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