WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.07)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-07 ****


 その後、兵器開発部の面面は昼食を済ませ、昼休みのあと、午後の部活を始めた。
 茜とブリジット、そして直美の三名は、それぞれが体育の授業用ジャージに着替え、午前中の打ち合わせ通り、格納庫にて剣道の稽古(けいこ)を開始したのである。
 とは言え、防具は何も揃(そろ)えていないので、最初は竹刀(しない)の素振りや、足の運び等(など)基本的な動作の反復練習からのスタートであった。勿論、剣道それ自体を習得する事が目的ではないので、防具を身に着けての本格的な打ち合いとかはしなかったのだが、現実問題として、七月の暑い最中に冷房の無い格納庫内では、剣道の防具一式が例え揃(そろ)っていたとしても、それを使うのは躊躇(ためら)われると言うものである。そんな都合も有って、茜は工夫をし乍(なが)ら、ブリジットに接近戦の要点を伝えて行った。それには直美も協力をして、時には茜と直美の二人が、打ち合いの動作を再現する事で、攻撃の仕掛け方や躱(かわ)し方を、ブリジットに見せたりもした。
 そうして、この日を含めての三日間を、三人は剣道の稽古(けいこ)に費やしたのである。


 2072年7月26日、火曜日。その午後三時を過ぎた頃、LMF のシミュレーター・ソフトのインストールとセットアップは、予定通りに終了した。
 早速、ブリジットは格闘戦シミュレーターと化した、LMF のコックピット・ブロックへと乗り込み、仮想のエイリアン・ドローンとの対戦に挑戦する事となった。
 先(ま)ずは小手調べ、と言う事で、仮想敵の数は一機のみとし、障害物が何も無い荒野の様なステージを選択して、仮想の格闘戦を開始したのである。因(ちな)みに、シミュレーションの状況設定や変更、及び調整は、樹里が何時(いつ)も使用しているデバッグ用コンソールから行われている。LMF、その機体の脇には長机が置かれ、その上に設置された二台のディスプレイにて、ブリジットから見えている正面の状況画像と、仮想戦場を真上から見下ろした視点での位置関係や動作を、外野からも確認出来るように準備がされていた。兵器開発部の一同は、緒美の背後から、その二台の状況モニターを注視していた。
 コックピット・ブロックのキャノピーが閉鎖されると、いよいよ格闘戦シミュレーションが開始されるのだが、当然、LMF 本体は微動だにしない。一方で、二台の状況モニターでは、表示されている画像が目紛(めまぐる)しく動き、確かに LMF が仮想的に格闘戦を行っているのが解るのだった。
 LMF は中間モード形態を取り、両腕に装備された HDG 用の DFS(ディフェンス・フィールド・シールド)下端の小型ビーム・エッジ・ソードを展開して、斬撃戦を挑んでいる。しかし戦局は終始、有利と言える状況ではなかった。LMF が繰り出す攻撃は相手側へ届かないか、或いは悉(ことごと)く躱(かわ)されていたのだ。
 結局、格闘戦シミュレーション第一回戦は、十分程で LMF 側の敗北となって終了した。仮想エイリアン・ドローンの斬撃で、先(ま)ずホバー・ユニットをやられ、次いで推進エンジンにダメージを受けて、行動不能に陥(おちい)ったと言う判定だった。

「流石に、最初から上手くはいかないわね。」

 立花先生が、隣に立つ緒美に静かに話し掛けた。緒美は一度、頷(うなず)いてヘッド・セットのマイクに向かって言う。

「どう?ボードレールさん。第一回戦の感想は。あ、外部スピーカー、使っていいわよ。」

「あ、はい。音量、大丈夫ですか?」

 ブリジットの声が、格納庫内に響く。音量は Ruby が喋(しゃべ)っているのと、同じ程度に調整されていた。

「大丈夫。」

 そう、緒美が答えると、続いてブリジットの声が聞こえて来る。

「感想ですけど…難しいですね、想像以上に。」

「戦闘機動に関しては、実質的に操縦してる Ruby が、まだ素人(しろうと)だから、無理も無いわ。その Ruby に経験を積んで貰うのが目的だから、負けても腐らずに続けてちょうだいね。」

「分かってま~す。」

「あ、そうだ。天野さん、何かアドバイスは有る?」

 緒美に声を掛けられ、茜が一歩前に踏み出すと、デバッグ用コンソールに就いていた樹里が、通信用のヘッド・セットを差し出す。茜はそれを受け取って、自(みずか)らに装着すると、マイクを口元に寄せて話し掛けた。

「茜です、聞こえる?ブリジット。」

「うん、聞こえるよ。アドバイス、有ればちょうだい。」

「う~ん、とね。先(ま)ず、間合いが遠くて届いてない事が多いから、突っ込む時は思い切って、一気に。あと、攻撃が躱(かわ)されたら何時(いつ)迄(まで)も付き合っちゃ駄目よ。直ぐに離れないと、さっきみたいにダメージを貰っちゃうから。このシミュレーターだと、ディフェンス・フィールドの効果は再現されてないみたいだけど、自分の攻撃が届く範囲だったらフィールドの効果範囲の内側だから、どの道、フィールドは当てに出来ないから、その積もりで。」

「うん、分かった。」

「それから、攻撃時の接近の時は、余り操縦しようと思わない方がいいんじゃないかな。どう言うラインで近付いて、どっちへ抜けるか。動きをイメージして、思考制御に任せるの。LMF と違って、HDG のホバー機動には操縦桿が無いから、B号機を装着する様になったら、嫌でも分かると思うけど。 操縦桿の有る LMF でも、同じ様に思考制御で動かせる筈(はず)だから、成(な)る可(べ)く、そう心掛けてやってみて。急には、難しいとは思うけど。」

「分かった~やってみる。」

 ブリジットが答えると、続いて Ruby が訊(き)いて来るのだった。

「わたしには、アドバイスはありませんか?茜。」

 茜はちょっと微笑んで、答える。

「あなたには、特に無いわね、Ruby。 稼働データが溜まって来れば、腕の振り方とかは最適化される筈(はず)だから、地道に経験(データ)を積み上げてちょうだい。」

「分かりました。」

 Ruby の素直な返事に、くすりと笑って緒美が声を上げる。

「それじゃ、第二回戦、さっきと同じ条件でもう一回やってみましょうか。」

「はい。樹里さん、お願いします。」

 ブリジットの返事を聞いて、茜が、樹里にヘッド・セットを返そうとすると、樹里は微笑んでそれを断り、茜に言うのだった。

「あなたが使ってて、天野さん。 じゃ、スタート掛けるから、伝えてあげてね。レディ、スタート。」

 茜は、樹里に言われた通り「スタート」と、仮想戦の開始をブリジットに告げた。


 その後、一時間程が経過し、その間に五回の仮想戦が繰り返された。条件は全て、第一回戦と同じで、結果もほぼ同様だったのである。つまり、LMF 側の六連敗である。
 緒美は、ブリジットへ伝える。

「取り敢えず、一度休憩にしましょう。ボードレールさん、降りてらっしゃい。」

「分かりました~。」

 コックピット・ブロックのキャノピー部が解放され、ジャージ姿で LMF 用のヘッド・ギアを装着しているブリジットが、両腕を振り上げ、背伸びをして腰を伸ばす。
 モニターの前では、立花先生が緒美に話し掛けるのだった。

「プラズマ砲を使わないと、こんなにも勝てない物だとは、正直、思わなかったわね。天野さんの活躍具合を見ていた所為(せい)かな、三回に一回位(くらい)は勝てる物かと、漠然と思ってたんだけど。」

 緒美は苦笑いしつつ、答えた。

「いいえ、こんな物だと思いますよ?」

「そうよね。考えてみれば、あのサイズのロボット・アームを振り回す兵器なんか、今迄(いままで)無かったんだから、運用の経験が皆無なんだし。まぁ、無理も無い、か。」

 立花先生が溜息を吐(つ)いている一方で、LMF のコックピット・ブロックから降りて来たブリジットに向かって、茜が声を掛ける。

「お疲れ様~ブリジット、どうだった?仮想戦、やってみて。」

 ブリジットはヘッド・ギアを外すと、力(ちから)無く笑って答える。

「全然、ダメね。矢っ張り、動いてる相手は、突っ立っているだけのポールとは訳(わけ)が違うわ。それから、飛び掛かって来られると、矢っ張り、怖(こわ)い。本物じゃないって、頭では解ってても。 茜は、良く本物の相手が出来たわね。」

「怖(こわ)さを言えば、剣を持ってる人間の方が、わたしは怖(こわ)いけど。」

 そう言って、苦笑いする茜だった。そして、ブリジットに緒美が尋(たず)ねる。

「実際に操作をやってみて、何か改善した方がいい所とか、気が付いた事は有る?ボードレールさん。」

「そうですね…攻撃の指示方法が、単純化され過ぎてませんか? 攻撃を加えたい箇所を視線で指定して、コントロール・グリップのトリガーを引くだけ、って。 腕の振り方だって、何種類か有ると思いますし、その辺り、明示的に選択出来た方がいいのかも、って思いましたけど。あぁ、でも、実際に選択したり考えたりしてる余裕は無いのかなぁ…難しいですね。」

 ブリジットの意見を聞いて、立花先生が聞き返す。

「腕の振り方、って?」

 その問いには、茜が答えた。

「まぁ、単純に言えば、上から下へ、或いはその逆。それから右から左へ、それとその逆。あとは、突き、ですね。あ、突いてから払うって動きも有りますか。」

 茜は説明し乍(なが)ら、右手を上下左右、そして前後へと振って見せる。それを見て、直美が言うのだった。

「ゲームみたいに、Aボタン、Bボタンで、攻撃方法を分ける、とか?」

「う~ん、LMF の両腕は中間モードとかでは、姿勢のバランスを取るのにも使ってるから、だから、腕の振りは、その時の状況に合わせて、Ruby が選択する仕様になっているんだけど。」

 緒美の説明に対して、茜が見解を示す。

「その仕様は、それでいいと思いますけど。現時点での問題は、そう言った攻撃の動作が有る事を、Ruby がまだ知らない事ですよね。」

 そして、樹里が口を添える。

「その辺りの動作は、思考制御のセンサーで操縦者の動作イメージを読み取って、それが LMF の動きに反映されるのを期待していたんですが。 なかなか、思う様には伝わらない物ですね。」

 すると、樹里の隣で成り行きを眺(なが)めていた維月が、樹里に向かって言う。

「そんなの、十回や二十回位(くらい)じゃ、Ruby も拾い上げた動作パターンを、体系化も出来ないよ。少なくても、四桁位(ぐらい)の単位でデータが集まらないと。」

「まぁ、先は長い、って事よね。」

 そう言って樹里は、維月に微笑んで見せる。その一方で、茜は立花先生に尋(たず)ねるのだ。

「あの、立花先生。LMF の防衛軍仕様の改良型が、もう直(じき)、納入されるんですよね?」

「ええ、先行量産型、って事になってるけど。それが?」

「いえ、其方(そちら)の方は、格闘戦用の動作データって、どうされているのかな?と、思った物で。」

「ああ~…。」

 立花先生はその件に関しては情報を持ち合わせてはいなかったのだが、そこで声を上げたのは樹里だった。

「流石、天野さん。いい所に、気が付いたわね。」

「城ノ内さん、何か知ってるの?」

 緒美に、そう問い掛けられ、樹里は満面の笑みで答えた。

「先日の通信会議で聞いたんですけど。本社も、同じ所で苦慮してるみたいで、目下、うちと同じ様にシミュレーターを利用して、アーム動作の基礎データを作ってるそうです。それで、うちの方で上手くいったら、そのデータが欲しい、と、言われてます。」

「何よ、それ。」

 樹里の説明に、思わず声を上げたのは、恵である。続いて、直美が少し呆(あき)れた様に言った。

「道理で、シミュレーターのソフトの件とか、本社が協力的だった訳(わけ)だわ。」

 すると、ニッコリと笑って茜が言うのだった。

「成る程、そう言う事でしたら、ちょっと、アイデアが有るんですけど、部長。」

 

- to be continued …-

 

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