WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.08)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-08 ****


「アイデア?」

 少し怪訝(けげん)な表情で、緒美は聞き返した。茜は相変わらずの、笑顔で答える。

「はい。シミュレーションを、HDG をドッキングした状態でやるんです。HDG との連動モードでアームを動作させたら、ブレードを使う攻撃動作を直接、Ruby に教示(ティーチング)出来ると思うんです。」

「ああ、成る程。」

 緒美の表情から疑念の色が消える一方で、茜は表情を少し引き締め、言葉を続けた。

「但し、HDG をドッキングした状態でシミュレーターのソフトが実行出来る必要が有りますが。 それは、可能でしょうか?樹里さん。」

 問い掛けられて、樹里は和(にこ)やかに答えた。

「改造は必要だと思うけど、基本的には可能だと思う。ねぇ、維月ちゃん。」

「そうね、LMF への入力がコックピット・ブロックからだろうと、HDG からだろうと、シミュレーションのソフトには関係無いものね。入力の処理をするのは、Ruby だから。 あとは、コックピット・ブロックのキャノピーに表示してる画像を、HDG のヘッド・ギアに表示出来るように、変換さえ出来ればいい筈(はず)だよね。」

 樹里と維月の回答に、茜が付け加える。

「元元、HDG のヘッド・ギアは、浮上戦車(ホバー・タンク)の HMD(ヘッド・マウンテッド・ディスプレイ)がベースになっているって聞いてますから、そんなに難しくはないですよね。」

 その、茜の発言を、立花先生が補足するのだった。

「HDG のヘッド・ギアのベースは、現用型の浮上戦車(ホバー・タンク)用の HMD だけど。今度の、LMF 改用の HMD は、HDG のヘッド・ギアがベースになってるって、聞いてるわ。」

 立花先生の発言を受けて、樹里はニヤリと笑って言った。

「なら、尚更、ハードルは低いですね。このシミュレーターのソフトは、元元が LMF 改用のだから。ひょっとすると、コックピット・ブロックのキャノピーへの表示を変換するモジュールを、バイパス出来るようにするだけで済んじゃうかも。 まあ、多少ハードルが高目(たかめ)だったとしても、本社は受けて呉れると思いますけどね、ソフトの改造。ちょっと、安藤さんに問い合わせてみます。」

 LMF のロボット・アームに関して、格闘戦動作用のデータが欲しいのは本社の開発も同様であるのならば、シミュレーター・ソフトの改造位(ぐらい)、二つ返事で引き受けて呉れるだろう、と言うのが樹里の読みだった。

「城ノ内、ちょっと訊(き)きたいんだけど。」

 ポケットから携帯端末を取り出そうとしている樹里に、声を掛けて来たのは直美である。樹里は安藤への通話要請を送る操作の手を止め、直美に声を返す。

「何ですか、副部長。」

「負けデータが積み上がり過ぎるのってさ、何か弊害とか有るの?負け癖(ぐせ)が付くみたいな。」

「あーいえいえ、そんな事は無いです。寧(むし)ろ、負けに至るデータも或る程度は持ってないと、土壇場で不適当な動作を Ruby が選んじゃう可能性が残るので。」

 そして維月が、補足説明を付け加える。

「同じ様な条件で失敗した経験を持っていれば、その次に動作を選択するの時、失敗した動作は避けて選びますから。だから、遠回りですが、経験した失敗動作を避け続けていけば、最終的に成功が残る、とも言える訳(わけ)で。」

「じゃあ、ここでの負けデータには、意味が有るのね?」

「はい、そう言う事です。」

 樹里は笑顔で、そう答えたのだった。直美は視線をブリジットへ移し、言った。

「ヘッド・ギア、貸して、ブリジット。一時間毎(ごと)に交代で、やりましょう。」

 直美の、突然の申し出にブリジットが驚いていると、直美が重ねて言う。

「一回でも多く回した方が、Ruby の経験値が上がるなら、交代でやった方が効率がいいでしょう?」

 真面目にブリジットに語り掛ける直美を、横から恵が茶化すのだった。

「そんな事言って、副部長が Ruby と遊びたいだけじゃないの~。」

「あはは、まぁね。それも有る。」

 笑顔で恵に言葉を返す直美に、ブリジットは手に持っていたタオルで、ヘッド・ギアの内側をさっと拭(ぬぐ)ってから差し出すのだった。

「汗、付いてますよ?」

「ああ、気にしない、気にしない。」

 直美は嫌な顔をする事も無く、ブリジットからヘッド・ギアを受け取ると、直ぐに自(みずか)らに装着した。ヘッド・ギアは通信の為以外にも、LMF への思考制御の入力装置として必要な装備なのだ。
 直美はコックピット・ブロックへと向かいつつ、Ruby に話し掛けた。

Ruby、今日は久し振りに、わたしが乗るからね。」

 Ruby の返事は、外部スピーカーに出力される設定の儘(まま)だったので、そこに居た全員に聞こえた。

「ハイ、直美。あなたが LMF の操縦をするのは、八ヶ月振りですね。」

「あはは、そうだっけ?」

 デニム生地のショートパンツに、プリント柄のTシャツを着ていた直美は、ホバーユニット先端を足掛かりに、器用に LMF の機体へ駆け上がると、コックピット・ブロックに飛び移った。
 そんな様子を眺(なが)め乍(なが)ら、ブリジットは隣に立つ茜に言うのだった。

「この前、LMF で無理に、外に出なくて良かったわ。茜の言った通り、あの状況で格闘戦に突入してたら、勝ち目なんか無かったし、もしも出ていたら、茜の足を引っ張るだけだった。今日、それが良く解ったわ。」

 茜は、一呼吸置いてから、ブリジットに言葉を返す。

「でも、最後に助けてくれたのは、ブリジットよ。」

「そう言えば、わたしが保険だって、言ってたよね。茜は、最後まで読んでたの? LMF で狙撃する展開。」

「まさか。作戦は部長が考えて呉れるって、あの時、言った通りよ。わたしは、捕まっちゃった戦車をどう救出するか、それを考えるので一杯一杯だったわ。」

「そう。」

「どうであれ、LMF で格闘戦に突っ込んでいくのは、余り勧められる方法じゃ無いわ。LMF が腕を持っているのは、いざと言う時に反撃出来る手段が必要だ、ってだけで。でも、その時の為に、こうやってシミュレーターで経験を積んでおくのは、理に適(かな)ってると思うし、必要な事なのよ。」

 そんな話をし乍(なが)ら、二人が見詰めるモニターでは、直美が操縦する仮想の LMF が、仮想のエイリアン・ドローンと斬撃戦を始めていた。操縦者が代わっても、実質的な操縦を行っているのが Ruby なのに変わりはないので、矢張り、LMF の方が旗色が悪い状況が、モニターに映し出されていたのだった。
 最終的には、その後、直美が二時間、その間にブリジットが一時間、合計で三時間のシミュレーションが行われ、最初の一時間を加えて、回数で二十四回の仮想戦が実行された。結果として、LMF は遂に勝利する事は無かったのである。
 一方で、本社開発部の安藤とは夕方頃に連絡が付き、茜の提案に就いては、樹里の読み通り、あっさりと承諾された。HDG 対応の為のプログラム改造と確認には三日が必要と言うのが安藤の回答で、だから HDG 対応のソフトが完成する迄(まで)、兵器開発部では初日と同じシミュレーターの運用を繰り返す事となったのである。
 そんな訳(わけ)で、その後三日間に渡り、直美とブリジットは交代で、Ruby の為に負けデータを積み上げ続けたのだった。


 2072年7月30日、土曜日。もう梅雨は明けて暫(しばら)く経つと言うのに、水曜日以降、雨降りと曇り空が続き、この日も朝から雨が降っている。とは言え、部室と違って空調の無い格納庫で、連日の作業が続く一同に取っては、気温の上がり過ぎない雨天は、正(まさ)に恵みの雨であった。勿論、寮や、学食の在る校舎から離れた場所に在る格納庫への行き来が、雨の降る中では億劫(おっくう)になってしまうのには、彼女達も少少閉口させられたのだが。
 さて、その日の作業としては、予定通りに本社から HDG 対応版 LMF のシミュレーター・ソフトが、Ruby へとネット経由でインストールされた。樹里が使用するデバッグ用コンソールへも、追加のソフトがインストールされ、それらの動作確認と、LMF からコックピット・ブロックを切り離す作業で、兵器開発部の一同は午前中の活動時間を終えたのである。
 そして、昼休みを挟(はさ)んで、午後の活動時間が始まる。
 茜は HDG 用のインナー・スーツに着替えた後、HDG を装着すると LMF の前へと歩いて行き、LMF の左右ホバー・ユニットの間を後ろ向きに歩み寄って、LMF とのドッキング位置へと向かった。当然、HDG の背後は茜には見えないので、ブリジットや瑠菜の誘導で、一歩ずつ確認し乍(なが)ら、ドッキング位置を目指すのである。程無く、HDG 腰部後方に突き出している接続ボルトが LMF のドッキング・アームに捕らえられ、ロックされる。そして、HDG は LMF の正面位置へと引き上げられ、HDG 背部のスラスター・ユニットが LMF へ渡されると、接続作業は完了となるのだった。
 茜はヘッド・ギアのゴーグル式スクリーンとフェイス・シールドを、顔の前面に降ろす。当然、視界にはヘッド・ギアに装備された画像センサーからの映像が表示されているので、茜は思考制御で設定項目を表示させた。丁度(ちょうど)そこで、レシーバーに樹里の声が聞こえて来る。

「天野さん、ヘッド・ギアの設定画面で画像入力を、外部入力に切り替えてね。」

「はい、切り替えました。樹里さん、視界が真っ青です。」

「ちょっと、その儘(まま)、待っててね。 Ruby、LMF シミュレーター・モード起動。」

 樹里の、Ruby への指示が、茜の耳にも聞こえた。Ruby は直ぐに答える。

「ハイ、LMF シミュレーター・モード、起動します。」

 間も無く、真っ青だった茜の視界は一度、暗いグレーになり、次いで、シミュレーター・ソフトの初期画面に切り替わる。
 茜はそれを、声に出して伝える。

「はい、シミュレーター・モードの初期画面、来ました。」

「オーケー。今、Ruby の方でシミュレーター・ソフトが、HDG の接続を検出。シミュレーター用に HDG の初期設定を自動実行してるから…あと、三十秒、待ってね。」

 樹里に言われて気が付いたが、茜の視界右端には『初期設定中』の文字と共に、プログレス・バーが右へと伸びていた。そして、初期設定が終了すると、シミュレーションの設定確認画面に切り替わる。

「樹里さん、設定確認画面になりました。」

「は~い、こっちのモニターにも表示されてる。早速、一番簡単な設定で、一戦、やってみようか。」

 ステージの選択、仮想的の数、開始時の位置と距離等の設定が、樹里によって入力され、それが茜の視界正面にも表示されていった。その設定条件は、ブリジットと直美が、この三日間に散散(さんざん)行って来た、その設定である。

「よし、天野さん。準備はいい?」

「どうぞ、始めてください。」

「じゃ、スタート。」

 樹里の合図と共に、正面の視界には仮想の、障害物が何も無い戦闘ステージが表示され、正面に五十メートル離れて仮想のエイリアン・ドローン、格闘戦形態のトライアングルが一機、此方(こちら)に向いて佇(たたず)んで居る。そしてそれは、直ぐに茜の左手方向から回り込む様に接近を始めた。

Ruby、中間モードへ移行。アームを展開したら、アーム連動モードへ。左右シールドのブレードを展開。」

「中間モードへ移行します。」

 Ruby の返事と共に、視界の画像は縦に動き、視線位置が高くなった事が分かる。同時に、折り畳まれていた腕部が展開され、ロボット・アームの先端が茜の視界に入って来るのだった。勿論、現実の LMF は微動だにしていない。
 シミュレーターのプログラムを実行している Ruby が、茜に確認を求めて来る。

「アーム連動モードへ。左右シールドのブレードを展開します。ビーム・エッジはアクティブに?」

「勿論。ビーム・エッジ、アクティブ。」

 仮想 LMF は中間モードに移行した後、接続されている茜と同じ様に、両腕を下へ向けた状態で待機していた。左方向へと回り込む様に移動する仮想トライアングルに正対する、茜の動作イメージを検出した Ruby は、仮想 LMF のホバー・ユニットを起動し、機体の向きを左方向へと向ける。茜が両腕を胸の高さ程に上げて身構えると、連動モードを実行する仮想 LMF のロボット・アームは、茜の腕と同じポーズを再現するのだった。

 

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 仮想トライアングルは、左へ左へと回り込みつつ、徐徐(じょじょ)に距離を詰めて来るので、茜はそれを正面から逃がさない様に考えていると、Ruby がそのイメージに LMF を追従させる。仮想トライアングルを追って、LMF が初期の位置から左に九十度程、回転した所で突然、仮想トライアグルは左前方から急加速で突進して来た。
 茜は右肩を前に出す様な姿勢で右腕を左腰の方へ下げて身構え、LMF を仮想トライアングルへ向かって加速させる。LMF を前進させるのに、操作やコマンド発声は必要無い。茜が前進するイメージを思い描けば、それを読み取った Ruby が LMF を適切に操縦して呉れるのである。
 前方からは、右腕の鎌状のブレードを振り上げて仮想トライアングルが斬り掛かって来るが、その下方に潜り込む様に LMF の機体を持ち込むと、茜は右腕を斜め上に向かって振り上げた。
 LMF のロボット・アームが茜の腕に連動して弧を描くと、仮想トライアングルの右前腕が切断され、そのブレードは宙を舞い、放物線を描いて落下する。仮想 LMF と仮想トライアングルは、その儘(まま)擦れ違って、一旦、離れるのだった。
 茜が声を上げる。

「ごめん、Ruby。外した!」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。