WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.20)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-20 ****


 一方、坂道を下って行く、茜の状況である。
 天神ヶ崎高校へと繋(つな)がる、その坂道は、片側一車線の対面通行で、道幅が六メートル程度の、中央分離帯の無い一般道である。それは学校の設立に併せて整備された市道で、基本的に生徒達の通学や職員達の通勤、学校への各種資材の運搬等、学校関係者のみが利用していた。舗装や街路灯等、各種設備の程度は良好に維持されているが、山道であるが故(ゆえ)にカーブが多く、更に一方の路側帯の外側は崖や急勾配の斜面になっている箇所が数多く在り、通行には注意が必要とされるのである。勿論、要所毎(ごと)に、転落防止の為のガードレールは設置されていた。
 そんな坂道を、LMF は滑る様に下っていたのだ。『滑る様に』、そう、正(まさ)に LMF のホバー走行で坂道を下って行くのは、『凍結した坂道を、滑り落ちて行く様な感覚』なのである。
 茜は、この坂道を自転車で下った経験は幾度も有ったが、タイヤの転がる抵抗感や、ブレーキを掛けた時のグリップ感、そう言った諸諸(もろもろ)の感覚が、スピードに対する安心感をもたらしていた。しかし、路面から浮上して走行するホバー走行の場合、それらの安心を得る為の材料が皆無(かいむ)なのだ。実際には推進エンジンで大した加速をしていなくても、自重だけで際限なく加速して行く事に、茜は恐怖感を覚えずには居られなかったのである。
 そんな LMF に設けられている減速方法であるが、機体後部側面に装備されている大型のディフェンス・フィールド・ジェネレーターを展開する事で、それがエア・ブレーキとして機能する。しかしこれは、時速 80km 以下では大した減速効果が得られない。もう一つの減速方法としては、推進エンジンの二次元ノズル、その上下のパドルを閉鎖して逆噴射を行うと言う手段が有る。しかし逆噴射には、高熱排気の一部が機体に当たってしまう事で、機体側にダメージを与える恐れが有り、その使用は緊急時に限られていた。そうでない場合の逆噴射の運用には、連続運転時間に一分程度迄(まで)との制限が設けられていて、小刻みで有っても頻繁に使用する訳(わけ)にはいかないのだ。
 そんな都合で、Ruby は滑走速度を抑える為に、ホバー・ユニット前後の接地ブロックを降ろした儘(まま)の、着陸モードで走行を行い、ホバー・ユニットの出力を調節し乍(なが)ら、時折、接地ブロックを路面に接触させて、減速を行っていた。接地ブロックが路面に接触する度(たび)に、ブロックから火花が飛んだり、アスファルトと金属の擦(こす)れる「ガーッ」と言う騒音や振動が発生し、茜に取っては、お世辞にも快適と言える状況ではなかったのである。
 そうやって、幾つものカーブを曲がりつつ麓(ふもと)まで、残り三分の一程度の辺りへ降りて来た頃、茜のヘッド・ギアに、緒美からの連絡が入る。

「天野さん、もう直ぐ、トライアングルの進路と交錯するわ、気を付けて。」

 その時、茜は山腹の斜面を、西向きに下る道路上を走行中だった。右手側が山側の法面(のりめん)で、左側は崖状の斜面になってるが、其方(そちら)にも背の高い樹木が、立ち並んでいる。

「分かりました。」

 茜が、そう答えた、その瞬間。右側の法面(のりめん)上の木立の間から、トライアングルが一機、二機と、道路上に飛び出して来る。トライアングル達は、LMF を無視するかの様に、立ち止まる事無く左側の木立の間へと突入して行く。飛び出して来たトライアングルがへし折った複数の木の枝が宙を舞い、茜の方へと飛来するが、勿論、大きな枝はディフェンス・フィールドに因って弾き飛ばされ、木の葉や小枝と共に茜の後方へと流れ去った。LMF が通過した後方にも、あと二機のトライアングルが道路を横切り、麓(ふもと)を目指して木立の中へ入って行くのが分かった。

「部長、今、トライアングルの集団と交差しました。此方(こちら)、被害はありません。」

「オーケー、その儘(まま)、進んでちょうだい、天野さん。トライアングルの動きは、観測機で追ってるから。兎に角、橋を渡って川向こうへ。そこを、防衛線に設定します。」

 緒美の説明に、茜が聞き返す。

「川を、ですか?」

「そうよ。理由は解らないけど、エイリアン・ドローンは水に近付くのを嫌がるわ。だから、陸上を移動しているなら、川を渡るのは躊躇(ちゅうちょ)する筈(はず)。そこで時間稼ぎが出来るし、川を越える為に、もしも飛び上がって呉れれば、その方が撃ち落とし易いでしょ。」

「成る程。 所で部長、トライアングル達、どうして急に逃走したんでしょう?数では向こうの方が、優位だったのに。」

 LMF の走行制御は Ruby に任せているので、茜は先程から気になっていた事を、緒美に訊(き)いてみた。緒美は何時(いつ)も通りの答えのあと、その理由を推測するのだった。

「エイリアンの考えてる事なんて、解らないけわ。でも、そうね、HDG や LMF の脅威度判定が襲撃の理由でだったのなら、その必要が無くなったって事でしょうね。」

「データの収集や、分析が終わった、と?」

「そうとは限らないけど。例えば、HDG が一機だけなのに、気が付いたのかも知れないわね。」

「成る程、そう言う事ですか。」

 緒美の説明に、すんなりと茜は納得したのだったが、その遣り取りを聞いていた、格納庫に残っている他の部員達は、そうでもなかったのである。例えば、恵は「どう言う事です?」と、立花先生に尋(たず)ねた。それに対して立花先生は、微笑んで答える。

「HDG が脅威だとしても、一機だけなら相手をしなければいいのよ。」

 その答えを聞いて、直美が言う。

「そうか、確かに。わざわざ HDG の相手をして味方の消耗を増やす位(くらい)なら、無視した方が合理的って事ですか。」

「ああ、成る程。HDG の数が一機や二機なら、確かにその通りだわ。」

 続いて、恵も納得したのである。

 それから暫(しばら)くして、LMF は坂道を下り切り、橋を渡って川沿いの土手になっている道路に入り東向きに少し走って、緒美の指示で停止した。

「その辺りで待機して、天野さん。そろそろ、トライアングル達が出て来るわ。」

「分かりました、待機します。」

 茜は LMF の向きを、道路に対して斜めに、自身が川の方向へ向く様に変える。
 目の前に流れている川は、それ程、大きな河川ではない。ここ数日、晴天が続いていた所為(せい)も有って、水量は多くなく、川幅は五メートル程だろうか。水深は最大でも、一メートルも無いだろう。夏草の茂った河原の幅は、両岸に五メートル程度が在り、川幅を合わせて対岸迄(まで)の距離は凡(およ)そ十五メートルである。因(ちな)みに、LMF が現在停止している土手の高さは、川面(かわも)から概(おおむ)ね四メートルだった。
 茜から見える対岸に道路は無く、山の裾野がその儘(まま)河原へと繋(つな)がっており、背の高い樹木が夏草の向こうに立っている。その木々が、不規則に揺れ始めると、茜はヘッド・ギアのスクリーンに熱分布画像(サーモグラフィ)を重ねて表示させた。スクリーンには、木立を縫う様に進んで来るトライアングルの姿が、浮かび上がるのだ。
 茜は荷電粒子ビーム・ランチャーを構え、照準を合わせると、二発、荷電粒子ビームを撃ち込んだ。その直後、ビームを撃ち込んだ場所、その周囲の木木が激しく揺れ、木立を薙(な)ぎ倒す様な勢いで、三機のトライアングルが飛び出し来る。

「あと三機!」

 咄嗟(とっさ)に、茜は射撃した一機を仕留めた事を確信し、次の目標に照準を定めようとするが、木立を抜け出たトライアングル達は、河原に茂った背の高い夏草を掻き分ける様に、ジグザグに突き進んで来る。その勢いには、水辺を回避する様な、躊躇(ちゅうちょ)する気配は感じられなかった。
 そこへ、緒美からの指示が入る。

「天野さん、足を止めているとマズいわ!直ぐに動いて。」

「えっ!?」

 前方からはトライアングルが三機、猛然と水飛沫(みずしぶき)を上げ、川を渡って来ている。そして、その内の正面に居た一機がジャンプして、茜に向かって飛び掛かって来たのだ。
 茜はランチャーの銃口を向けようとしたが、それよりもトライアングルの斬撃の方が素早かった。目の前に、ディフェンス・フィールドの青白いエフェクト光が発生し、衝撃音と共にトライアングルの振り下ろしたブレードを弾き返した。

Ruby、ホバー起動!」

「ハイ、ホバー・ユニット起動します。」

 Ruby の返事が聞こえるのとほぼ同時に、機体に発生した鋭い衝撃と震動が伝わって来る。茜の視界の左下側では、爆発的なスパークが発生していた。そして右側のホバー・ユニットが起動すると、唐突に左へと機体が傾き始める。

「左側ホバー・ユニットが破損。バランスを回復します。」

 傾いた機体が左回りに信地旋回を始めるので、右側のホバー・ユニットが緊急停止させられたが、その時には右側の接地ブロックが道路の路肩から既に外れており、今度は右へと傾いた LMF は、土手の斜面を河原へと滑り落ちるのだった。
 茜は滑り落ち乍(なが)らも、そこにトライアングルの存在を確認して、状況を理解した。ジャンプした一機に気を取られている内に、川を渡って来た内の一機に、道路の下側から左側のホバー・ユニットを攻撃されたのだ。
 実は、ディフェンス・フィールドには、大きな穴が存在する。それは、地面に対してフィールドの効果が発生しないように、半球のドーム状にフィールドが形成されている事に起因するのだ。
 HDG の場合、跳躍したり空中機動をする際には、全周をカバー出来る球状にフィールドが形成されているのだが、地上を走行するのみである LMF の場合、地表面より下をフィールドでカバーする必要が無い。つまり、常に半球状のフィールドが維持されるので、今回の様に高い場所に停止していると、フィールドの下を潜(くぐ)って、その内側へ入られてしまうのである。

Ruby、中間モードへ。格闘戦で、何とか撃退するわよ。」

「ハイ、中間モードへ移行します。」

 腕部と脚部を展開し、斜めになっていた機体を起こして、LMF は格闘戦を準備する。ホバーは使えなくても、脚部を駆動させて歩行や走行により移動する事は可能なので、まだ絶体絶命と言う状況ではない。しかし、先日まで繰り返していたシミュレーションでは、ホバー走行が可能なのが前提条件だったので、格段に移動能力が落ちた現状で、三機のトライアングルの相手をするのは、矢張り、可成りの不利な状況と言える。
 しかも、南北方向には川と土手に挟(はさ)まれて、移動出来るのは狭い河川敷内の東西方向に限られ、間合いの調節が困難である事に、茜は頭を悩ませていた。
 この儘(まま)、時間を稼いでいれば、防衛軍の到着を期待出来たが、その一方で、移動力の低い現状の LMF では、その対地攻撃に巻き込まれてしまう危険性も高く、兎に角、状況の打開には、一機ずつ相手の数を減らしていくより、他は無いと思われた。
 トライアングルは二機が交代で、LMF の正面から連続して斬撃を加えて来るが、それはディフェンス・フィールドに因って防御が可能だった。その間、残ったもう一機が LMF の後方に回り、じりじりと近付いて来る。勿論、それは Ruby に因って検知されるので、茜は LMF を振り向かせて牽制するのだった。
 茜の側から、シールド先端のブレードでの斬撃を仕掛けてみるも、相手の動きは素早く、矢張り、ホバーの使えない LMF では、有利な位置取りからの攻撃は加えられそうになかった。これは、先日迄(まで)のシミュレーションで、ロボット・アームの動作に着目し過ぎ、移動はホバー機動を前提にしていた、その弊害でもあった。Ruby には、LMF の脚を使った、戦闘での足運びの経験が、不足していたのだ。
 お互いに決定打に欠ける攻防が、幾度となく繰り返され、何度目の攻撃かも分からなくなったトライアングルの斬撃を、LMF が躱(かわ)した時だった。LMF の右脚を降ろした水際(みずぎわ)の地面が崩れ、川へと崩れ落ちたのだ。LMF の機体が右へと傾き、茜と Ruby が体勢を立て直そうとしている間に、トライアングルが一機、左後方から、するりと近付いて来る。
 Ruby が、警告を発した。

「茜。左後方より、ディフェンス・フィールドの内側に入られます。」

 接近する相手が、衝突する様なスピードでなければ、ディフェンス・フィールドは反応しない。その事に、トライアングルや、それをコントロールしているであろうエイリアン達が気付いたのかは分からないが、偶然であれ、その事態は起きてしまったのだ。
 茜は LMF を左へ旋回させるイメージを思い描くが、泥濘(ぬかるみ)に脚を取られている LMF は、思い通りに反応しない。次に、茜自信の上半身を捻(ひね)って、右側マニピュレータに保持しているランチャーを、左後方へ向けようとするが、LMF の機体が邪魔で射線が確保出来ない。それから間も無く、機体後方から振動が伝わって来る。トライアングルに、取り付かれたのだ。
 LMF は漸(ようや)く水際(みずぎわ)の川底から右脚を引き上げると、取り付いた一機のトライアングルを振り落とそうと、走り出してみたり、機体を揺らしてみたりと、様様(さまざま)に動いたのだが、トライアングルは離れなかった。その間、トライアングルは左腕で LMF の機体をホールドし、右腕のブレードを振り下ろすのを繰り返していた。
 「ガン、ガン」と、トライアングルのブレードが装甲に打ち付けられる音が不規則に響く中、もう一機のトライアングルは、執拗に正面からの斬撃を繰り返して来る。それはディフェンス・フィールドに因って阻まれるのだが、それが更にもう一機のトライアングルが LMF の後方から接近する為の、陽動である事は明らかだった。それが分かっていても、一機のトライアングルを引き摺(ず)り乍(なが)らでは、機体の制御は思うに任せず、遂に、右後方からもトライアングルに取り付かれてしまうのだった。
 左右から LMF の機体後部に繰り返し斬撃を受け続ける内、左側の第一エンジンにダメージが発生する。それにより起こされた、小さな爆発が振動として、茜には伝わった。Ruby が状況と、その対処に就いて、続けて報告をする。

「第一メイン・エンジンが損傷。第一メイン・エンジンへの、燃料供給を遮断します。第一メイン・エンジンの停止により、電力が低下しますが、バッテリーにて三十分程度の補助が可能です。APU を起動、電力を確保します。」

 茜は、Ruby の報告を聞き乍(なが)ら、状況を打開する方策を考えていたのだが、妙案は思い付かない。兎に角、目の前の一機を、一機ずつ片付けていくしかない、そう思った時、Ruby が茜に提案を、するのである。

「茜、これより、HDG を切り離します。自律行動で LMF の終了処理した後、わたしが緊急シャットダウンしたら、上空からエイリアン・ドローンを狙撃して処理してください。」

「何を言ってるの!Ruby。」

 驚いて声を返す茜だったが、Ruby は意に介する様子は無い。

「緒美、自律行動の承認を、お願いします。」

「ダメです、部長!わたしが、何とかしますから。」

 Ruby に続いて、茜も緒美に呼び掛けるのだった。そして、それ迄(まで)、暫(しばら)くの間、指示を伝えて来ていなかった、緒美の声が聞こえる。

Ruby、自律行動を承認します。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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