WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.08)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-08 ****


 茜の目標は、先(ま)ずは高度千五百メートルである。スラスター・ユニットが発生させる推力のみで上昇して行く茜の HDG-A01 では、その高度に到達するのに凡(およ)そ三分を要した。一番最初に離陸した金子機は、パイロットである金子自身を含めて四人を乗せているが、既に目標高度に達して学校の敷地上空を旋回していた。緒美のレプリカ零式戦は、原設計が旧式であるとは言え流石に戦闘機である。単座であるレプリカ零式戦のレシプロ・エンジンは、四人を乗せた金子機のターボプロップ・エンジンに比して凡(およ)そ倍の出力を発する能力を持ち、悠悠(ゆうゆう)と金子機に追い付いていた。
 ブリジットの HDG-B01 は、茜より一足先に目標高度に達し、編隊へと合流している。緒美の零式戦は金子機の左斜め後方に位置し、その左斜め後方にブリジットが着いていた。地上では翼を後方へ折り畳んだ飛行ユニットを背負っている様な HDG-B01 だが、その飛行中の姿は、飛行ユニットの展開した翼の下に、HDG-B01 が吊り下げられている様に見える。
 茜はブリジットの左斜め後方へと自(みずか)らの位置を定めた。
 これは昨日の打ち合わせの通りで、右前方から金子-緒美-ブリジット-茜の順に、斜めに並んだ編隊を形成したのである。
 茜の HDG-A01 が一番後方なのは、その位置が編隊の中で、先導機が気流を掻き分ける影響を受けて、抵抗が最も小さくなるからだ。HDG-A01 は編隊の中で飛行性能が最も低いのだが、それは勿論、飛行する事を前提に設計された訳(わけ)ではないから当然なのである。

「TGZ01 より全機へ。皆(みんな)、揃(そろ)ったわね。」

 四機は編隊を維持した儘(まま)、編隊長機である先頭の金子機に従って、緩やかな左旋回を続けている。金子からの通信が続く。

「皆(みんな)、上手よ、編隊を組むの。 この儘(まま)、左旋回を維持して、北へ向いたら直進よ。」

 間も無く、四機は北向きの直線飛行に移行した。

「TGZ01 より全機へ。じゃ、速度上げるわね。スピードを 3.1 にセット。」

 長らく、航空業界では高度の単位に『フィート』を、速度の単位に『ノット』を用いて来たのだが、この時代には、航空業界も国際単位に移行している。その為、高度は『メートル』、速度は『毎分キロメートル』で表すので、金子が言う『スピード 3.1』とは分速 3.1 キロメートルの事であり、それは時速 186 キロメートルである。ここで速度が『時速』ではなく、『分速』で表されているのは何故か?と、言うと。ジェット機等(など)の高速機では、時速だと数値が大きくなるので通信で伝え辛い、と言うのが第一の理由。第二に、余裕の少ない局面では時間単位よりも、分単位での移動距離を考える場合の方が多いので、これは特に交通の混雑する空港周辺空域に於いて顕著なのだが、分速での情報を共有している方が未来位置の見当が付け易い、との理由からなのだ。
 航空業界での単位移行に関しては、当然、米国が強力に抵抗したのだが、それに対して欧州諸国が単位変更を強行したと言うのが大きな経緯である。それから十年間程、欧州では『メートル』と『毎分キロメートル』が、米国では従来通り『フィート』と『ノット』が、それぞれの地域で主に用いられ、必要に応じて二つの単位系が併用されたのである。民間航空の国際線では幾度となく、それを原因として事故に至る一歩手前の状況が発生する等、混乱も引き起こされた。
 因(ちな)みに、欧州が単位変更を強行したのは、米国と欧州との航空機メーカー間のシェア争いが、そもそもの原因である。欧州側の立前としては、業界に依って旧単位から国際単位への転換が一向に進まない状況に業を煮やして、と言う事だったのだが、実情としては欧州側が航空業界の単位を転換する事で、それに対応しない米国製の航空機や関連施設機材を欧州地域から閉め出そうと企図したのだ。一方で米国側は、当初は単位移行に抵抗をしていたものの、米国の航空機メーカーも欧州向けの製品に就いては国際単位に対応せざるを得ず、そうなると自国内の為だけに旧単位を維持しているコストが馬鹿にならなくなり、最終的には米国航空業界も国際単位への全面移行を余儀なくされた、と言うのが事の顛末である。
 この件、当時の日本の対応は、と言うと。当初の五年程は米国に付き合って、『フィート』と『ノット』の旧単位を維持していたものの、様々な負担と不都合との兼ね合いで、結局は米国よりも先に単位移行に舵を切ったのだった。
 実の所、日常生活での単位として『メートル』や『時速キロメートル』を使用している国々としては、航空業界だけが『フィート』や『ノット』を使用し続ける事を問題視していたのだ。丁度(ちょうど)、『空飛ぶ自動車』的な乗り物を次世代産業として普及させようと推進していた事情も有り、航空行政に用いられる単位が国民一般に馴染みの無い『フィート』や『ノット』で規定されているのが、航空業界を除く産業界としては不都合だったのである。
 ともあれ、米国が国際単位の使用に移行して二十年以上が経過した現在では、単位に関する大きな混乱は、既に落ち着いている。

「TGZ01 より、HDG01 と HDG02。何か、正面付近が発光してるけど、大丈夫?」

 速度が、金子が設定した分速 3.1 キロメートルに達して直ぐ、金子が通信で尋ねて来た。茜とブリジットの飛行する前方の空間に、青白い薄膜状の、ぼんやりとした光が浮かんで見えるのだった。
 茜が、回答する。

「ああ、大丈夫です。ディフェンス・フィールドのエフェクト光です。」

「ディフェンス・フィールド?」

 聞き返す金子に、緒美が説明するのだった。

「荷電粒子を利用した、バリアみたいな物よ。今、見えてるのは、飛行中にぶつかって来る空気に反応して、防御効果が発生してるの。フィールドは滑らかな球形だから、これを使ってると空気抵抗が減るのよ。」

「大体、時速 120 キロ…分速だと 2 キロ辺りから、薄(うっす)らと光り出すんですよね。」

 飛行中にディフェンス・フィールドを有効にすると空気抵抗が減るのは、茜が HDG-A01 での飛行テスト時に偶然発見した事柄で、元々から意図されていた物ではない。この発見から、飛行中のディフェンス・フィールドの形状は、単純な球形から砲弾型やライフル弾型へと、速度に応じて変化させる等の対応が行われているのだ。又この時、フィールドの内側では風速や風圧が可成りの程度減じられるので、高速飛行時の HDG の装着者(ドライバー)の呼吸のし易さ等の各種負担が、相当に軽減されるのだ。

「オーケー、問題無いのなら、いいわ。取り敢えず、わたしと HDG01 は現在の速度を維持。この儘(まま)、五十キロ北上すれば日本海に出られるから、そこから更に五十キロ海上を北に進むわよ。時間的には、ざっと三十二分ね。」

 金子の通信を受け、茜が応える。

「HDG01、了解です。」

 茜の返事を聞いて、金子が通信を続ける。

「TGZ02 と HDG02 は、ここから高速飛行試験の予定だけど、問題は無い?」

 緒美とブリジットが、金子に応える。

「TGZ02、問題無し。」

「HDG02、わたしも大丈夫です。」

「HDG02、ブリジットは、こんな風に飛行するのは初めての筈(はず)だけど、大丈夫? 怖くない?」

 金子の問い掛けに、ブリジットは笑って答えるのだった。

「あはは、そうですね、この高度だと、もう現実感が無くって。もっと地面が近い方が、怖い感じがしますね。」

「あははは。あなた、なかなか好(い)い度胸してるわ、ブリジット。あなたも操縦士免許、取ってみない?」

「それは、遠慮しておきます。」

 金子の誘いを、即答で断るブリジットだった。

「そおか~それは残念。 さて、それじゃ鬼塚、高速飛行試験の方は任せるわね。」

「TGZ02、了解。これより編隊を離脱して、高速飛行試験を開始します。ボードレールさん、わたしの横に、付いて来てね。」

「HDG02、了解。」

 緒美が操縦するレプリカ零式戦がエンジンの出力を上げ、すうっと前方へ、編隊から抜け出して行く。ブリジットの HDG-B01 も飛行ユニットの出力を上げて、それを追い掛ける。

「打ち合わせでも言ったけど、この機体の最高速度は分速 8.5 キロ位だから、今日の確認はそこ迄(まで)よ。少しずつ加速していくから、わたしの横から離れないように。 時々、此方(こちら)の速度を読み上げるから、その後、ボードレールさんの方の速度を確認の為に読み上げてね。」

「HDG02、了解。TGZ02 に併走します。」

 分速 8.5 キロメートルは、時速 510 キロメートルである。HDG-B01 の飛行ユニットでの最高速度は、時速 800 キロメートル辺りが設計上の仕様値なのだが、実際に出せる最高速度を確認する前に、速度を上げていって振動や操作上の不具合が発生しないかを、時速 500 キロメートル付近迄(まで)で加速して確認するのが、今日の高速飛行試験の目的である。
 所で、HDG-B01 の最高速度の目標が時速 800 キロメートルなのは、エイリアン・ドローンの大気圏内で観測されている最高飛行速度が、大凡(おおよそ)その位であるからだ。
 因(ちな)みに、金子が操縦する軽飛行機の最高速度は凡(およ)そ時速 250 キロメートル、茜の HDG-A01 の最高飛行速度は時速 200 キロメートル程度である。そもそもが、そんな速度で飛翔する予定ではなかった HDG-A01 の為に、時速 200 キロメートル迄(まで)の加速が出来る様なスラスター・ユニットを敢えて設計した天野重工本社の設計陣は、或る意味、鬼であると言えよう。

「おー、離される、離される。」

 操縦席で、金子は同高度で水平に加速して前方へと離れて行く緒美のレプリカ零式戦と、ブリジットの HDG-B01 を見送り乍(なが)ら言うのだった。

「TGZ01 より、HDG01。天野さん、二人が居なくなったから、わたしとの距離を詰めなさい。気流の安定してる所を探してね。」

「HDG01、了解です。」

 茜からの返事を聞いて、一度、斜め後方の茜の挙動を確認し、金子は再び前を向いて、隣の席に座っている立花先生に話し掛けた。

「しかし、立花先生。初飛行の翌日に、行き成り長距離飛行に放り込むなんて。 新規開発の機体なら尚更、ちょっとずつ距離を伸ばしていった方がいいんじゃないです?」

 その問い掛けに、立花先生は普通の調子で答えるのだった。

「まぁ、HDG 本体は、天野さんのと大差は無いから。 飛行ユニットの方は、本社で十分(じゅうぶん)、ランニング・テストを実施して確認済みだし。」

 その時、緒美がブリジットに対して、現在速度を読み上げる声が、機内で聞こえるのだ。

「TGZ02、現在速度 3.5。」

 すると、それに応えてブリジットも速度表示を読み上げる声も又、聞こえて来る。

「HDG02、現在速度 3.5。」

 自分に対しての通信ではないので、金子は二人の声を無視して、立花先生に言葉を返すのだ。

「いやいや、幾ら地上のテスト・リグでランニングさせてても、実際に飛ばすと思わぬトラブルが出たりしないか、心配ですよ。」

 そう言って不安がる金子に、その後席から、記録器機の端末を操作している日比野が声を掛ける。

「外見は随分(ずいぶん)と違うけど、B号機の飛行ユニットと、A号機のスラスター・ユニットの制御系、内容は、ほぼ同じだから。A号機の方で十分(じゅうぶん)にデータが取れてるから、信頼して呉れていいわ。」

「そう言うもんですか~。まぁ、信頼はしてますけど。 勿論、本社の方(ほう)でも自信が有るから、今日、こうやって試験している訳(わけ)ですよね?」

 少し引き攣(つ)った様に笑いつつ、金子は尋(たず)ねる。その問い掛けには、立花先生が答えた。

「まぁ、そう言う事ね。 所で、樹里ちゃん、ログはちゃんと取れてる?」

 立花先生は少し身体を捻(ひね)って、後席の樹里に問い掛けた。そこで再び、緒美とブリジットの通信音声が機内に響く。

「TGZ01、現在速度 3.8。」

「HDG02、現在速度 3.8。」

 緒美とブリジットの、互いの速度を確認する通信は、その後も定期的に機内で聞かれるのだった。
 その一方で、樹里は膝の上に乗せたモバイル PC のディスプレイを注視した儘(まま)、立花先生に答えた。

「はい、大丈夫ですよ。現在、B号機の速度は順調に加速中です。返って来てるログの方に、異常値は無いですね。」

「城ノ内~そのログ、だけどさ。」

 金子が前を向いた儘(まま)、樹里に問い掛ける。樹里は相変わらず、ディスプレイから目を離す事無く応える。

「何(なん)ですか?金子先輩。」

「昨日、訊(き)き忘れたんだけどさ。どうやって、受信してるの?」

「ああ、防衛軍仕様のデータ・リンクですよ。昨日、臨時にアンテナを、この機体に付けさせて貰ったじゃないですか、アレです。」

「防衛軍のデータ・リンク?」

 聞き返す金子に、樹里は何でも無い事の様に説明を返す。

「はい。普段は、個体間通信のを使ってるんですが、それだと半径十キロから二十キロ位迄(まで)しか届かないので。昨日、この機体に取り付けたのは部隊間通信が出来る仕様のヤツです。これだと、防衛軍のネットワークが利用出来るので、日本国内でなら、どこででもデータ・リンクが確立出来るんです。」

「何(なん)か、凄い事、さらっと言われた気がするけど。 防衛軍のネットワークなんか勝手に使って、大丈夫なんです?立花先生。」

 そう問い掛けられた立花先生も、何でも無い様に答えるのだった。

「勝手に、じゃないわよ。ちゃんと許可は取ってあるから、大丈夫。」

 その後席から、日比野が補足するのだ。

「防衛装備の開発試験用に、天野重工に割り当てられてる領域が有るのよ。細かい事は、社外秘なんだけど。」

 日比野の説明を聞いた金子は、呆(あき)れた様に言うのだった。

「改めて、兵器開発部って、とんでもない活動(こと)やってるのね~。鬼塚が前に言ってた、本社からの業務委託って意味が、やっと理解出来た気がするわ。」

 そこで緒美から、金子への通信が入るのだ。

「TGZ02 より TGZ01。現在速度、分速 5 キロにて、機首方位 0 へ飛行中。予定通り、左旋回して、其方(そちら)の左側を通過します。」

「TGZ01、了解。」

 緒美達からの通信音声は、機内でモニターが可能な様に設定してあるので、先程来、立花先生や日比野、そして樹里にも聞こえている。但し、通信を送る事が出来るのは、金子のみである。一方で、編隊から離れている HDG-B01 の様子を把握出来るのは、後席でデータを監視している樹里と日比野の二人だった。

「はい、HDG02、ブリジット機が速度を維持した儘(まま)、大きく左旋回を始めました。」

 樹里が、HDG-B01 の状態を報告する。続いて、日比野が HDG-B01 の機首方位を読み上げる。

「HDG02 の機首方位、現在 350…320…290…。」

 機首方位とは、文字通り機首が向いている方向の事で、機首方位 0 が機首が磁北へ向いている姿勢を表す。機首方位 350 は磁北に対して時計回りに 350°、つまり機首が西側に 10°向いている状態を意味している。北向き(機首方位 0)に飛行していた HDG-B01 の機首方位の値が段々と小さくなっているのは、西側へ機首の向きが変わっているからで、つまり左旋回をしているのだ。最終的に、機首方位が 180 になれば、機首の向きが南側に向いた事であり、180°旋回の完了を意味する。
 ブリジットの HDG-B01 は三十秒足らずで 180°の旋回を終え、金子機達とは進路が対向する状態となった。HDG-B01 は緒美の操縦するレプリカ零式戦と併行(へいこう)している筈(はず)なので、当然、レプリカ零式戦の進路も金子機達と対向しているのだ。
 そして、約一分程の後、左前方から接近する二機の機影を、金子は発見した。

 

- to be continued …-

 

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