WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.10)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-10 ****


 表示範囲を広げると、読み取った情報をブリジットが口述する。

「あ、黄色の三角表示が、幾つか重なってる。画面、左上。対馬の右上辺り。」

 そのブリジットの報告に、茜が解説を加えるのだ。

「その黄色い三角のシンボルが、敵機。つまり、エイリアン・ドローンよ。その三角の中心辺りから、右斜め上向きにバーが表示されてるでしょ? そのバーの向きが目標の移動方向。それから、カーソルをシンボルに合わせると、速度とか高度とかの情報も表示されるわ。」

「三角マークなのは、エイリアン・ドローンが『トライアングル』だから?茜。」

 予想の斜め上なブリジットの質問に、茜はくすりと笑って言葉を返す。

「そう言う意味じゃないけど、敵機と判明してる対象は全部、表示は三角なのよ。因(ちな)みに、友軍機、味方が青い丸で、敵機じゃない民間機は緑の四角。敵味方の判明してない所属不明機は、白の逆三角ね。」

 民間機の多くは交通管制に飛行計画(フライトプラン)が提出されており、離陸時以降から交通管制に追跡されているので、その機体に軍用の IFF(Identification, Friend or Foe:敵味方識別装置)が搭載されていなくても、交通管制のデータと突き合わせる事で、それが敵性機でない事が判別出来るのだ。この様に、防衛軍の陸海空及び衛星からのレーダー情報以外にも民間の各種レーダー情報や飛行計画から目撃情報まで、複数のデータが統合されて戦術情報は表示されている。

「成る程、わたしの表示の隣の青い丸が茜で、あとの四角二つが部長と、金子先輩か。」

「そう、わたし達は今、南向きに進んでいるから、進行方向を示すバーがマップ上で下向きになってるでしょ。あ、『MAP(マップ)』モードだと、上が常に北になってるの。」

 その説明を聞いて、ブリジットはもう一度、表示のスケールを小さくして、広範囲の情報を読み取る。

「西から東向きに、エイリアン・ドローンが六機、日本海上空を高度一万六千で飛行中、と。あれ?右上にも、味方のシンボルが出てる。左…西向きに移動中。」

 ブリジットの報告に、茜が補足説明をする。

「それは空防の迎撃機ね。小松基地から二機、発進したみたい。」

 その茜の発言を、緒美が確認するのだった。

「迎撃機はもう上がってるのね?天野さん。」

「はい、部長。F-9 が二機、ですね。この位置で、この速度だと、十五分…十七分位で中射程 AAM の攻撃圏でしょうか。」

 『AAM』とは、Air to Air Missile:空対空ミサイルの事である。『中射程 AAM』は、射程距離が大凡(おおよそ)百キロメートル程度の空対空ミサイルで、エイリアン・ドローンとの接近戦を避けたい航空防衛軍は、この中射程空対空ミサイルを迎撃戦に於いて主用していた。
 F-9 戦闘機は、この中射程空対空ミサイルを胴体内に四発、主翼下に四発の、合計八発を搭載可能で、その他に射程が四十キロメートル程度の短射程空対空ミサイルを機内に四発搭載しているのが、エイリアン・ドローン迎撃行動時の標準的な装備である。
 因(ちな)みに、航空防衛軍の主力戦闘機である F-9 戦闘機は、天野重工が主契約会社として生産されている。

「トライアングル六機に、F-9 が二機じゃ、ちょっと少なくないかな…大丈夫かしら?」

「この二機が先行してるだけで、後続が上がって来るんじゃないですか?」

「だといいけど。兎に角、天野さんとボードレールさん、二人は防衛軍の戦術情報で、エイリアン・ドローンの動向を監視しておいて。何か動きが有ったら、直ぐに教えてね。」

「HDG01、了解。」

 茜に続いて、ブリジットも応える。

「HDG02、了解。」

 そこに、金子が状況を訊(き)いて来るのだった。

「TGZ01 より、HDG01。ちょっと状況を教えて。捕捉されてるエイリアン・ドローンは、その六機だけ?」

「そうですね、今は、そうみたいです。どんな経緯で、この六機が残って、こっちに向かっているのか、その辺り迄(まで)は流石に分かりませんけど。」

 茜に、ブリジットが問い掛ける。

「情報画面には、九州上空にも何機か友軍機が飛んでるみたいだけど。こっちのは、追い掛けないのかな?」

 その問いには、緒美が答えるのだった。

「多分、九州上空のは CAP(キャップ) の機体じゃないかしら。」

「キャップ?」

 聞き返すブリジットに、説明をするのは金子である。

「CAP(キャップ) ってのは、コンバット・エア・パトロールの頭文字だよ。直訳すると戦闘空中哨戒、戦闘が行われた空域に留まって、敵機が入って来ない様に見張ってるのが役割。だから、逃げてく敵は追い掛けないんだ。敵を追って行って、その間に、隠れてた敵に侵入されたらマズいだろ?」

「成る程。」

 ブリジットは一言、納得した旨の声を返した。

 ここで、一般には報道される事の無い、この日の防衛軍の奮闘振りを紹介しておこう。
 この日、日本列島へと襲来したエイリアン・ドローンは、防衛軍が捕捉したのが、総数で四十八機である。これらは午後三時頃に東シナ海上空を、西から日本領空へと接近して来るのが探知され、午後三時半頃に日本領空への侵入が確認された。防衛軍は、これらの侵犯行為に直ちに対処する為、航空防衛軍が迎撃機二機編隊を三組、九州北部上空に待機させていたのである。更に対馬の南側と五島列島の西側には、海上防衛軍所属のイージス艦各一隻が配置されており、これら二隻が侵入して来るエイリアン・ドローンへの、第一撃を加えたのだった。二隻のイージス艦より発射された艦対空ミサイルは計四十八発であり、これに因りエイリアン・ドローン十一機が撃墜された。次いで空中の戦闘機隊から中射程空対空ミサイルが順次発射され、計四十八発の空対空ミサイルで、七機のエイリアン・ドローンが撃墜されたのである。
 そこでエイリアン・ドローン残存三十機は、一度、西方向へ転進して日本領空から脱出したのちに北上、朝鮮半島上空を経由して対馬の北方から再度、日本領空へと侵入して来たのだった。この第二波に対し、対馬南方沖のイージス艦が艦対空ミサイル三十発を発射、これに因りエイリアン・ドローン六機を撃墜した。
 ここ迄(まで)の経緯から、半島上空をエイリアン・ドローンが素通りしている事を不審に思う向きも有るかも知れないが、高度一万メートル以上を飛行するエイリアン・ドローンに対して、この半島の国家は迎撃行動などの対処を行わないのが通例なのだ。勿論、エイリアン・ドローンが自国領土内に降下して来ると判断された場合は必要な迎撃措置を取るのだが、それらが日本へと向かう見込みが有る場合、彼(か)の半島の国家は何もしないのである。この点に就いては、大陸側の『中連』も、同じ態度なのだった。
 半島と大陸側の両国家と日本とは、軍事的な協力関係は疎(おろ)か、正式な国交すら現在は無い。それは、どちらもが国内の主導権争いが続く準内戦状態であり、国内の結束を計る目的で日本への敵視政策が継続されている為である。

 話を、この日の迎撃戦に戻そう。
 イージス艦の攻撃を躱(かわ)したエイリアン・ドローン残存二十四機に対し、航空防衛軍の戦闘機隊の第二波は合計四十八発の中射程空対空ミサイルを発射し、八機を撃墜する。
 ここで、航空防衛軍が装備する F-9 戦闘機は、先述の通り中射程空対空ミサイル計八発を搭載している。従って、二機編隊でミサイルの合計数は十六発、その編隊が三隊で総計四十八発と言う計算なのだが、これらが全て同時に発射される訳(わけ)ではない。
 海上防衛軍のイージス艦の場合、捕捉した目標全てにミサイルを同時に、或いは連続して発射するので、目標数と発射数とが一致している。しかし、戦闘機隊の場合は各機が接近して来る目標を順番に選択して攻撃する為、結果的に目標数よりも多くのミサイルを消費しているのである。それは勿論、全てのミサイルが命中する訳(わけ)ではないからだ。
 戦闘機隊の攻撃を受け、エイリアン・ドローンの侵攻第二波は残存数が十六機に減じた時点で進路を北西に変え、黄海方向へと日本領空から退去した。しかし、それらは第三波として再度、五島列島の西側から侵入を開始するのである。
 それに対して、五島列島西方沖のイージス艦が艦対空ミサイル十六発で迎撃を実施。それに因りエイリアン・ドローン三機を撃墜する。残存数十三機のエイリアン・ドローンを、航空防衛軍の第三波迎撃部隊六機が中距離空対空ミサイル計四十八発で迎え撃ち、七機の撃墜を果たしたのである。
 これにて残存数が六機となったエイリアン・ドローン編隊は進路を北東へと変え、九州北部と対馬の間を通って日本海上空を能登半島方向へと進んだのだ。この時、対馬南方沖のイージス艦が上空を通過する六機に対して、艦対空ミサイル六発を発射したのだが、これは全てが回避されてしまい、そうして現在に至った訳(わけ)である。
 結局、二隻のイージス艦からは合計百発、延べ十八機の戦闘機からは合計百四十四発のミサイルが発射され、それらに因って四十二機のエイリアン・ドローンが撃墜されたのだった。単純計算でミサイルの命中率は 17.2%となるが、イージス艦の艦対空ミサイルのみで集計すれば 20%、戦闘機の中射程空対空ミサイルは 15.3%となる。
 今回は戦闘機隊が陸地上空にエイリアン・ドローン編隊を寄せ付けなかったので、結果的に陸上配備の地対空ミサイルは発射される事は無かった。これは西方からの侵攻に対して、防衛軍の対処する態勢が整ってきた事を意味しているのだ。とは言え、エイリアン・ドローンに因る侵攻の度(たび)、それこそ湯水の様にミサイルを消費している現状は、財政上、頭の痛い問題なのだった。五年前に比べれば、量産効果でミサイルの取得単価は低下していると云われているのだが、幾ら生産数を増やしたとしても、それでミサイルの取得費用が只になる事は有り得ない。防衛軍や政府に取って、ミサイルの命中率改善は喫緊(きっきん)の課題なのである。
 因(ちな)みに、この日に発射されたミサイル取得費用の総額だけで、凡(およ)そ二百五十億円程が、文字通り『吹っ飛んだ』のだった。

 そして、ブリジットの返事に続いて、茜が金子に提案するのである。

「HDG01 より、TGZ01。金子さん、何でしたら先に学校へ戻ってくださっても。部長やブリジットの機体なら、十五分程で帰れる筈(はず)ですし、金子さんの機でも、わたしよりは速く飛べますよね?」

 現状で他の三機は、最も機速の遅い、茜の HDG-A01 に速度を合わせて飛行しているのだった。金子の返事は、直ぐに返って来る。

「あはは、バカ言ってるんじゃないよ~。一年生を置き去りにして、先に帰れますか。」

 続いて、緒美の声が聞こえる。

「そう言う事よ。それに、わたし達が引っ張った方が、あなたの方もスピードが稼げるんだし。」

 そして、ブリジットが言うのだった。

「いざとなったら、先輩達を先に帰して、わたしと茜でディフェンスを張るのよ。大体、航空戦用のB号機が、先に帰るなんて有り得ないでしょ。寧(むし)ろ、わたしが残って茜のA号機を先に帰すのが、普通ってもんでしょ?ねぇ、部長。」

「まぁ、そうだけど。でも、ボードレールさんも、模擬戦を一回やっただけで、空中戦が出来るとは思わないでね。そう言うのは、学校に帰ってシミュレーターで経験を積んでからよ。」

 その緒美の返しに反応したのは、金子である。

「シミュレーターなんて、有るの?鬼塚。」

「シミュレーターって言っても、飛行ユニット用のリグでB号機を吊り上げて、ヘッド・ギアのスクリーンに外界とか敵の映像を投影する方式だから、ボードレールさんにしか使えないわよ。金子ちゃんには、残念なお知らせだけど。」

「何だ、それは残念。」

 どこ迄(まで)も、好奇心旺盛な金子なのであった。
 そんな金子の返事に、くすりと笑って、緒美は茜に尋(たず)ねる。

「天野さん、エイリアン・ドローンの様子は、どう?」

「変化は無いですね、高度も速度も変化無しで、真っ直ぐ東北東へ飛んでます。防衛軍の F-9 二機も、凄いスピードで近付いて来てますね。目標が中射程 AAM の射程に入る迄(まで)、あと十分位でしょうか。」

「F-9 は超音速巡航(スーパークルーズ)が出来るからね。スピードだけなら、エイリアン・ドローンには負けてないんだけど。」

 その緒美の言葉を聞いて、ブリジットは茜に問い掛ける。

「『スーパークルーズ』って?茜。」

「超音速で巡航…飛び続けられる事よ、ブリジット。」

「凄いの?それ。」

「う~ん、今時の戦闘機なら普通の事だけど。それが一般化したのは、五十年くらい前の事だし。」

「音速で飛べる飛行機なんて、百年前から有ったんでしょ?」

 そこで、その会話に金子が参加する。

「あはは、スペック上の最高速度が超音速でも、実際にそれが使い物になるかどうかは別の話よ。」

「どう言う事です?金子先輩。」

「最高速度に到達するには、何分も掛けて加速を続けなくちゃいけないし、最高速度に達しても、その速度を維持し続けるのが大変なのよ。昔の戦闘機は、最大出力を維持するのに大量の燃料が消費されるだとか、それを長時間続けるとエンジン自体が耐熱限界を超えて壊れるだとか、色々と制限が有ったの。」

「それじゃ、意味無いじゃないですか。」

「いや、そうでもなくて。それだけの加速が必要に応じて出来るって言う、パワーの余裕が重要だって話。超音速じゃ、所謂(いわゆる)『ドッグファイト』、空中戦はやらないしね。」

「成る程。」

 ブリジットの返事のあと、続いて緒美が発言する。

「今は、大量に燃料を消費しなくても、超音速を維持出来るエンジンが開発されたから、今回みたいに戦闘空域に駆け付けるのが早くなったけど。それでも、空中戦は相変わらず音速以下で行わてる筈(はず)だわ。まあ、格闘戦になる前に、ミサイル戦で勝負を付けるべきなんだけどね。特に、エイリアン・ドローンに対しては、極力、格闘戦は避けてる筈(はず)よ。」

「音速を超えるのって、そんなに大変なんですか?部長。」

「そうね~、空気の、流体としての性質が、音速を境にして、ガラッと変わっちゃうから。」

 そこに、金子が口を出すのだった。

「機械工学科は、授業に流体力学が有るのよね?」

「そうね。二年生になったら。楽しみにしてるといいわ、二人共。あ、天野さんは、もう大体、知ってそうだけど。」

「はい、概論だけは。」

 茜の返事を聞いて、ブリジットが尋(たず)ねる。

「何でそんな事、茜は知ってるのよ?」

 

- to be continued …-

 

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