WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第13話.12)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-12 ****


 突然の、防衛軍からの呼び出しに、茜は戸惑った。直様(すぐさま)、緒美に助言を求める。

「部長、防衛軍からの呼び出しですが。どうしましょう?」

 防衛軍からの通信は、データ・リンク経由で届いているので、それは緒美達にも同様に聞こえていた。
 データ・リンク経由での通信について、ここで少し説明しておく。
 通常の電波を用いた無線通話の場合、使用する電波の周波数が同じであれば、お互いに通話が出来る。この場合、使用している周波数が判明すれば、敵であってもその傍受(ぼうじゅ)や、或いは攪乱(かくらん)などが可能となる。又、味方同士であっても、無関係な作戦の指示が聞こえてしまうと、過誤や混乱の元となり得るので、複数の周波数を用いて指揮通信の整理が行われる。一方で、緊急通信や救援・救難の要請など、共通の周波数を使用した方が便利な場合も有るので、複数の周波数を使い分ける必要が有るのだ。
 データ・リンク自体は、一定の帯域の電波がデータ通信用の周波数として確保されていて、通信・通話毎(ごと)に特別な周波数を設定している訳(わけ)ではない。それでも、通話自体は選択した相手のみと行いたい場合が殆(ほとん)どなので、技術的には送信側が通話音声のデータに通話先のアドレス・コードを付加し、受信側は自らのアドレス・コードを持っているデータのみを解読し、音声に変換して出力する、と云う処理が行われているのだ。
 この様な仕様から、先(ま)ず第一に、呼び掛けるには相手側のアドレス・コードが判明している必要が有る。そして呼び掛けに対して返事をする為には、返信先のアドレス・コードを通信先として追加する設定が必要になるのだが、その方法は勿論、使用機材に拠って操作が異なるし、機材に拠っては予(あらかじ)め設定しておいた相手にしか返信出来ない場合や、設定の変更に別途端末が必要な場合も有るのだ。又、大抵(たいてい)の場合はアドレス・コードを特定の機材のみではなくグループで使用しているのだが、その場合はグループ内の一台の機材で設定変更が可能であれば、そのグループ全てに設定が反映されるのだ。今回の HDG や緒美の携帯型無線機の場合も、このケースであり、緒美が使用している携帯型無線機の設定変更には専用の端末か PC への接続が必要だったが、HDG-A01 若しくは HDG-B01 でなら、通信先の追加設定が可能だった。又、防衛軍側が HDG 側のアドレス・コードを知っていたのは、それが事前に登録されていたからだ。立花先生が「ちゃんと許可は取ってある」と、金子に語っていた通りなのである。

「天野さん、其方(そちら)の通信設定画面に、今の防衛軍のアドレス・コードがリストアップされてる筈(はず)だから、設定を。」

 緒美に言われて、茜はスクリーンを変更しようかと思ったのだが、画面右下に『COM:DFJOCC』の文字が点滅しているのに気が付いた。『DFJOCC』は、Defense Force Joint Operations Command and Control:防衛軍統合作戦指揮管制の事で、この表示は先方から、返信要請が来ている事のサインである。茜はそこへ視線でカーソルを動かし、選択した。

「画面を変える迄(まで)もなく、通信先の選択肢が出てますので、追加しますよ。」

「そう、お願い。」

 緒美の返事を聞きつつ、茜は『COM:DFJOCC』を選択した事に因って表示された、選択肢『Accept/Cancel』から『Accept』を選んだ。
 その直後、再び、その防衛軍統合作戦指揮管制からの呼び掛けが届く。

「此方(こちら)、統合作戦指揮管制、HDG01 及び HDG02 、応答されたし。」

 少し慌てて、茜が答えるのだった。

「あ、はい。此方(こちら)、HDG01 です。聞こえてます。」

「え?何で、女の子が…そちら、天野重工の試作戦闘機で間違いないか?」

 茜の声を聞いた防衛軍の管制官は、不審気(げ)に聞き返して来た。その問い掛けを聞いて茜は、管制官が HDG や、その開発体制に就いては、詳しく理解していないと瞬時に察知したのだ。HDG の事を『試作戦闘機』と呼んだ事から、HDG がパワード・スーツである事は把握されていないし、茜の声を聞いて驚いている事から、開発やテストを天神ヶ崎高校が担当している事は知らないのだろうと判断したのである。
 実際、指揮管制側が把握していたのは、戦術情報画面に『HDG01』、及び『HDG02』と表示されているそれが『天野重工の試作機』と云う事だけであり、その詳細情報を呼び出しても、表示される項目には『匿秘(とくひ)』とのみ記載されていたのだ。付記事項として『所管・航空幕僚監部、責任者・桜井 巴(トモエ) 一佐』とも記載されてあったのだが、それは統合作戦指揮管制官の立場で、気軽に連絡の出来る問い合わせ先ではなかったのである。
 そして茜は、態(わざ)と低目の声色(こわいろ)を作って、聞き返した。

「はい、間違いありません。それで、女性のテスト『パイロット』が、珍しいですか?」

「あ、いえ。失礼…最初、声が、うちの娘位(ぐらい)に聞こえたもので。」

 取り敢えず、そう言い繕(つくろ)うと、指揮管制官は不審には思いつつも、言葉を続けたのだ。

「えー、天野重工さんの方でも、データ・リンクに参加しておられる筈(はず)ですが、戦術情報をご覧になって状況を把握されてますか? エイリアン・ドローンが其方(そちら)に接近しています。迎撃機は向かっていますが、至急、当該空域からの退避を。」

 管制官は『天野重工の試作機』が F-9 戦闘機の改良型、程度の認識で話していた。つまり、エイリアン・ドローンに追い付かれる事無く、空域からの退避が出来る筈(はず)だろうと考えていたのだ。だから、ギリギリの、このタイミング迄(まで)、『匿秘(とくひ)』扱いの機体に連絡を取らなかったのである。又、データ・リンクに参加している全員に聞こえる緊急回線や一般回線を使用せず、HDG を指定して個別に話し掛けて来たのも、空幕の指定している『匿秘(とくひ)』扱いに配慮したからだ。
 しかし、茜からの返事は、管制官に取っては意外な答えだった。

「此方(こちら)でも状況は把握していますが、残念ですが現空域からの即時退避は難しいかと。第一に、試験の随伴機が高速機でない事。第二に、試作機の内、一機は高速飛行が不可能なので。 HDG01 より、TGZ02 へ。部長、どうしましょうか?」

 茜は、或る期待を込めて、緒美に指示を仰(あお)いだ。この時、通話を聞いていた指揮管制官は『部長』と呼ばれた相手を、天野重工の取締役部長の事だと勘違いしたのだった。普通、それが高校の部活の部長だとは思わないので、寧(むし)ろ当然である。
 緒美も通話が防衛軍に聞かれている事が解っていたので、茜と同様に少し声色(こわいろ)を作って指示を伝えるのだった。

「TGZ02 より、HDG01 及び、HDG02。ここで隊を分けましょう。HDG01、02 は西向きにエイリアン・ドローン迎撃へ向かい、防衛軍到着まで、時間を稼いで。その間に、随伴機二機はベースへ着陸します。」

 編隊飛行を続ける金子機の機内では、その緒美の声を聞き乍(なが)ら、金子は隣席の立花先生に問い掛ける。

「先生、鬼塚があんな事言ってますけど。いいんですか?」

「仕方無いから、取り敢えず、合わせておいてあげて。」

 苦笑いしつつ、答える立花先生に、金子も苦笑いで返すのみである。緒美の指示に続いて、茜とブリジットの声が返って来る。

「HDG01、了解。」

「HDG02、了解。」

 続いて、金子が操縦桿のトークボタンを押して言うのだ。

「TGZ01 より、TGZ02。編隊長は、わたしの筈(はず)だけど?」

「TGZ01、非常事態なので、此方(こちら)の指示に従って。ここで対処の判断をしないと、全員が危険に曝(さら)されるわ。」

 緒美の返事を聞いて、金子は横目で立花先生の方を見る。立花先生は、金子の視線に気が付くと、黙って首を横に振るのだった。金子は、溜息のあと、緒美の指示に従う返事をする。

「オーケー、TGZ01、了解。」

 データ・リンクに乗っていない TGZ01 こと金子機からの通信を除いた、一連の通話を聞いていた指揮管制官は(何で、聞こえて来るのが、女の子の声ばっかりなんだ?)と、困惑していたが、その事は一旦置いて声を上げた。

「ちょっと待って呉れ。『部長』さんと云うのが、責任者と言う事でいいのかな?」

「はい。随伴機、TGZ02。 鬼塚と申します。」

 緒美は、落ち着き払った口調で答えた。
 指揮管制官は、どう聞いても自分の娘程の年頃の声と、その或る種の貫禄を感じさせる落ち着いた口調とに酷(ひど)い落差を感じつつ、緒美への説得を試みる。

「鬼塚さん、民間機が敵機へ対処する事は、防衛軍としては許可出来ない。此方(こちら)の作戦行動上も、民間機の存在は邪魔になるので、即刻退避して頂きたい。」

 緒美は、間を置かずに言葉を返す。

「緊急時の自衛行動ですので、防衛軍の許可を求めてはおりません。そもそもは、領空内に侵入した敵機への対処に、時間的な空白を生じさせた其方(そちら)側に、失策が有ったのは明らかではありませんか?」

 その緒美への返答を、指揮管制官は一拍置いて返して来るのである。

「自衛行動と仰(おっしゃ)るが、其方(そちら)側は武装を?」

「試作機の詳細に関しては、開示出来ません。防衛軍とは、その様な契約ですので。必要でしたら、其方(そちら)側の所管責任者へ、問い合わせをお願いします。」

 緒美の発言は勿論、半分がハッタリである。
 金子機の機内では、その遣り取りを聞き乍(なが)ら、金子は呆(あき)れた様に言うのだった。

「相変わらず、好(い)い度胸してるわ、鬼塚。」

 立花先生は、苦笑いしつつ言った。

「流石、緒美ちゃん。」

 その賛辞を聞いて、後席の二人はクスクスと笑うのである。
 緒美への返答を考えているのか、一瞬、指揮管制官が沈黙しているので、続いて緒美は茜達へ指示を出した。

「HDG01、及び HDG02。貴方(あなた)達は、敵機の撃墜まで考えなくていいわ。防衛軍の迎撃機が攻撃可能距離に達する迄(まで)、エイリアン・ドローン達を引き付けて、時間を稼いで呉れたら。 防衛軍の戦闘機がミサイルを発射したら、エイリアン・ドローンは回避機動を始める筈(はず)だから、そうしたら貴方(あなた)達は離脱して降下、山の陰にでも退避して。」

「HDG01、了解。」

「HDG02 も了解です。」

 茜とブリジットの返事を聞いて、緒美が指揮管制官に念押しをする。

「防衛軍の方も、そう言う事でよろしいですか?」

 緒美に問い掛けられ、指揮管制官は渋々と云った具合に返事をして来る。

「了解はしたが…其方(そちら)に被害が出ても、防衛軍は責任を持てないぞ。」

「御心配は不要です。こう言った事態は、これが初めてではありませんので。詳細は非公開ですけど。」

 そして、一呼吸置いて、指揮管制官が緒美に声を掛けるのだった。

「しかし、部長さんも、声がお若いですな。」

 それは彼の精一杯の嫌味、と言う訳(わけ)ではなく、冷静に遣り取りを続ける緒美に対して、立場や年齢とは無関係に、同じレベルに立った感覚から自然に出た、無邪気な感想だった。
 緒美は、それに対してさえも、冷静に言葉を返す。

「よく言われます。」

 金子機内では、その返事を聞いた金子を含む四人が、揃(そろ)って失笑していたのだった。そして、笑いを堪(こら)え乍(なが)ら、金子が言うのだ。

「防衛軍の人も、まさか、相手が高校生だとは思ってないんだろうね。」

 それを聞いて、他の三人はクスクスと笑い乍(なが)ら、金子の意見に同意するのだった。
 そして、緒美の声が聞こえた。

「では、其方(そちら)への通信は、以上で終わります。」

 緒美が態態(わざわざ)、そう宣言したのを聞いて、茜はその意図を察し、通信リストから『DFJOCC』を解除し、緒美に報告するのだ。

「部長、防衛軍への通信は、取り敢えず、一旦、選択解除しました。」

「流石、天野さん。察しがいいわね。ありがとう。」

 緒美の返事に、ブリジットが問い掛ける。

「どう言う事です?部長。」

「さっきは、防衛軍(あちら)の顔を立てて、撃墜は考えなくていいって指示したけど。出来るなら、防衛軍の戦闘機が攻撃を始める前に、出来る限り敵の数を削ってちょうだい。出来れば、全機撃墜でもいいわ。勿論、防衛軍側がミサイルを発射したら、直ぐに退避するのは変わらないんだけど。」

「えーっと、それは…。」

 緒美の指示の意味が飲み込めないブリジットに、茜がフォローを入れる。

「この辺りでミサイル戦なんか、されたら迷惑だ、って事よ、ブリジット。」

「そう言う事。ミサイルが外れても、近接信管が働いて空中で爆発して呉れればいいんだけど、完全に外れて『流れ弾』になったりすると厄介だわ。数を撃てば撃つ程、そうなる確率が上がるのよ。」

 緒美の説明を聞いて、ブリジットは更に尋(たず)ねる。

「流れ弾になると、どうなるんです?部長。」

 そのブリジットの問いには、茜が答える。

「ロケット・モーターが作動している間は、どこかに飛んで行くけど、何(いず)れは、どこかに落ちるでしょ。山にでも落ちて爆発すれば山火事になるかもだし、もしも落ちたのが町中だったら、それこそ洒落にならないでしょ?」

「成る程、解った。」

 ブリジットの返事を受けて、茜が声を上げた。

「それでは、HDG01 は、これよりエイリアン・ドローン迎撃に向かいます。」

 茜が身体を少し起こすと、HDG-A01 は空気抵抗で編隊から一気に後方へと離れ、続いて上昇して右へ旋回し、西へと向かったのだ。地球の陰に沈もうとする太陽が、茜には、ほぼ正面に見えた。完全に日が没する迄(まで)、あと五分程である。西側の空は、焼ける様な赤色が、次第に強くなって来ていた。

「HDG02、続きます。」

 ブリジットも上昇して編隊から離れ、茜を追った。

 

- to be continued …-

 

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