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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第14話.01)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-01 ****


 先(ま)ずは前回の後日談から、お話を始めよう。
 先日の、天神ヶ崎高校の兵器開発部がエイリアン・ドローンを撃退した一件は、矢張り簡単には収(おさ)まらず、天野重工は防衛軍との会合を持つ運びとなったのである。防衛軍側は直接に状況の説明を受けたいと、会合への天神ヶ崎高校兵器開発部からの出席を求め、それならばと天野重工側は会合の開催を日曜日に指定したのだった。それは勿論、その会合に出席させる為に平日の授業を欠席させない為の学校側への配慮であり、同時に『お役所』への嫌がらせなのである。防衛軍や防衛省が、お役所であるが故に休日の会合開催を嫌がって、兵器開発部メンバーの出席を開催条件から外して来る事を淡く期待したのであるが、流石にそれは叶わなかった。
 そこで、天神ヶ﨑高校では9月20日から前期期末試験が実施されるのを理由に、防衛軍側より打診の有った9月9日・金曜日の時点で『会合の開催に就いては一週間後を目安』としていたのを、「生徒を出席させるのなら、早い方が良い。」との理屈を『ごり押し』して、会合の開催は結局、9月11日・日曜日と決定したのである。
 この日程交渉に関しては、天野重工の飯田部長が防衛軍の桜井一佐に手回しを依頼したのだが、防衛軍側で『R作戦』を所管する桜井一佐と天野重工とは、事案発生当日深夜に提出した報告書以上の情報を表に出す気が無い事で意見が一致しており、事情を知らない防衛軍部隊側に会合に向けて余計な準備をさせないのが、この日程を強行した目的だったのだ。

 そんな訳(わけ)で、2072年9月11日・日曜日。当日の午前十一時過ぎ、天野重工本社のエントランスホールに到着して居たのが、会合への出席を指名された三年生の会計担当である恵と、立花先生の二人だった。午前中に本社へ到着していなければならないとの都合で、立花先生と恵の二人は前日の夜に学校を出立(しゅったつ)して大阪で一泊し、中央リニアから在来線を乗り継いで本社へと辿り着いたのである。
 その日は日曜日ではあるが、本社は閉鎖されてはいない。開発や設計等、技術部門では締め切りの有る業務であれば休日出勤も珍しくはないからだ。勿論、休日出勤をすれば、その分は代休を取らなければならない規定なのだが、それは兎も角、土日でも、それなりに人の出入りは有るので、正面玄関(エントランス)が閉鎖される事は、一年を通じて基本的に無いのだ。休日は寧(むし)ろ、平日に社員が出入りする通用口の方が閉鎖され、休日出勤の社員も正面玄関(エントランス)からの出入りを余儀なくされるのだが、それは休日時の社屋への人の出入りを一元管理する為の、警備上の都合に拠るのである。
 因(ちな)みに、この日は再起動した Ruby の検査作業の最終日で、夕方からは Ruby をスリープ処理にした上で、試作工場への移送の為、配線の取り外しや梱包等の作業が予定されていた。それに関連する部署の人員、例えば維月の姉である井上主任や、そのアシスタントである安藤達が出社して来ていたのだが、勿論、そんな事は立花先生や恵の知る所ではない。
 エントランスホールには、天野重工の製品サンプルや、取扱品目の模型等が来客用に幾つも展示されており、静かな BGM が流されている。平日なら企業の PR 映像が繰り返し映し出されているであろう複数の大型ディスプレイは、休日なので電源が切られていた。その所為(せい)で、平日と違って人気(ひとけ)の無いエントランスホールが余計に閑散としている様に立花先生には感じられたのだが、それは彼女に取っては何も珍しい事ではなかったし、又、そんな休日出勤の雰囲気を彼女は嫌いではなかったのである。
 スーツ姿の立花先生と天神ヶ崎高校の制服を着た恵は、正面奥側の受付カウンターへと進む。休日なので警備保障会社から派遣されている警備員が一人、受付カウンターに着いている。平日であれば、そこでは男女の社員が二人一組で受付業務をしている筈(はず)である。
 立花先生は受付カウンターの警備員に社員証を見せ、「ご苦労様。」と声を掛けた。
 すると警備員は提示された社員証を確認して、「ご苦労様です。」と声を返した。実は、来社した二人が正面玄関(エントランス)を潜(くぐ)った時点で、立花先生の社員証は本社側のセンサーと通信を行って社員証の照合が実行されており、二人の訪問が予定に有るのかは、受付カウンター下に設置されている端末に、予定の照合結果が表示されているのだ。もしも、予定の登録が無ければ、警備員は二人に来社の目的を訊(き)いたり、警備室の同僚や会社側の管理責任者に連絡を入れたりする所であるが、二人の訪問は予定のリストに登録が有ったので、警備員はそれ以上、二人に声を掛ける事は無かった。
 その一方で立花先生は、受付に設置されている内線電話で到着の連絡を済ませると、恵と共に手近なロビーチェアへと移動し、腰を下ろしたのである。

「そう言えば。 本社に来てみて、感想は如何(いかが)かしら、恵ちゃん。」

「はい、そうですね。思ってたよりも静かなのは、多分、日曜日だから、ですよね?」

「平日はもっと、活気が有るんだけどね。まぁ、来年から毎日、通う事になるでしょうから、平日の様子に就いては楽しみにしてるといいわ。」

「必ず本社勤務、とも限らないんじゃないですか?」

「天神ヶ崎の卒業生は、基本的に本社勤務でしょ? まぁ、工場や支社への配属を希望してたりすれば別かも、だけど。それでも、最初の何ヶ月かは、本社で研修するんじゃなかったっけ。」

「へぇ~。」

 そんな会話を二人がしていると、エントランスホール奥に設置されているエレベーターの扉が開き、飯田部長が姿を現したのである。
 それに気付いた恵と立花先生は、ほぼ同時に立ち上がり、真っ先に恵が、深々とではないが頭を下げ、静かに言ったのだ。

「飯田部長、この度(たび)はご迷惑をお掛け致しました。」

 その恵の行動には少し面食らった様子の立花先生だったが、恵の前に立った飯田部長は、和(にこ)やかに言葉を返した。

「ああ、頭を下げる必要は無いよ、森村君。今回の件では、誰も怒ってはいないから。 寧(むし)ろ、又、君達を戦闘に巻き込む事になってしまって、謝らなければいけないのは、此方(こちら)の方だ。」

「そう云って頂けると、助かります。」

 恵は顔を上げ、微笑んで応えたのだ。隣でその様子を見ていた立花先生は、安堵(あんど)して小さく息を吐(は)いたのだった。

 その後、一同は飯田部長の担当秘書である蒲田が運転する社有車に乗り込み、会合の開催場所である防衛省へと向かったのである。
 その移動中の車内では、後部座席には飯田部長と恵が座り、立花先生は助手席に着いていた。そして、出発して暫(しばら)くの後、恵は隣に座って居る飯田部長に尋(たず)ねたのだ。

「飯田部長、今日の会合、どうして、わたしが指名されたのでしょうか?」

「気になるかね?」

「はい。普通なら緒美ちゃ…鬼塚部長が呼ばれる所ではないかと。」

 飯田部長は一度頷(うなず)いて、それから口を開く。

「そうだね。しかし、鬼塚君は色々と知り過ぎてるからね。今回は、余り HDG に関する情報を出したくはないんだ。そうすると、キミがちょうどいいかな、と思ってね。副部長の新島君は、こう言った会議の類(たぐい)は苦手そうだし。」

「成る程。では、技術的な事や仕様に関する内容は、余り喋(しゃべ)らない方が?」

「まあ、余り気負わなくても大丈夫だよ。基本的に受け答えは、わたし達がやるから。キミらを責めて、吊し上げようって会合じゃないから、気楽に聞いてて呉れたらいい。こう言うのは、一種の儀式(セレモニー)だからね。」

「それは、所謂(いわゆる)『根回し』は、済んでるって事ですか?」

 そう真面目な顔で恵に問われて、飯田部長はニヤリと笑い、言った。

「この手の会合は、事前に結論は大体、決まってるものさ。それを確認して、承認したって事実が大事でね。寧(むし)ろ、結論が決まってないのに集まって、延々と話し合ってる方が時間の無駄だからね。」

「はあ。」

 少し呆(あき)れた様に、恵は気の抜けた相槌(あいづち)を返す。すると、飯田部長は苦笑いし乍(なが)ら言葉を続けるのだ。

「…とは言え、安心し切っていると、足を掬(すく)われる事も有るからね。自分の知らない所で別の話が動いていて、当日に行き成り承知してない話の流れになって面食らう、何(なん)て事も有るんだ。 そんな流れになるのかどうか、最初にどうやって見分けたらいいと思う?森村君。」

 恵は、少し考えてから答える。

「そうですね。参加者?ですか。」

 その答えに、飯田部長は笑顔で応じる。

「鋭いね、その通り。自分が事前に話を付けた相手よりも上役が出て来たら、要警戒だ。あと、利害の対立する相手の方が数が多い時、とかね。 今回の件では、キミらも以前会ったと思うが、空防の桜井一佐とは話が済んでいる。」

 そこで助手席に座っている立花先生が身体を捻(ひね)って、後席の飯田部長に向かって声を掛けるのだ。

「部長、ウチの生徒に、その手の焦臭(きなくさ)いお話は、程々にお願いします。」

「あはは、スマン、スマン。」

 そう、笑って応えたあとで、飯田部長は立花先生に向かって言った。

「あ、そうそう、立花君。会合の場では、キミの立場はウチの企画部って事で宜しくね。学校の方の立場じゃなくて。」

「それは構いませんけど、何故でしょうか?」

「深い意味は無いけど、事の責任は天野重工の方に有るからね。森村君以外に学校の代表者が居ても、余り意味が無いし、話がややこしくなるだけだろう。」

「そう、ですね。承知しました。」

 納得して、立花先生は身体の向きを前へと戻す。すると、飯田部長は恵に問い掛けるのだった。

「そう言えば、キミ達、昼食は?」

「いえ、まだ、ですけど。」

 時刻的には、まだ十二時前である。飯田部長は腕時計で時刻を確認して、運転席の蒲田に話し掛ける。

「蒲田君、どこかで食事してる余裕は無いよな?」

「そうですね、一時前には防衛省の方へ入ってないとマズいですので。」

「じゃあ、途中で、ハンバーガーでも買って行くか。」

 その飯田部長の提案を受け、蒲田は助手席の立花先生に確認するのだ。

「立花さんは、それで構いませんか?」

「わたしは構いませんよ。恵ちゃんも、いいわよね?」

 立花先生に訊(き)かれて、恵も「はい。」と簡潔に答えたのである。飯田部長は苦笑いし乍(なが)ら、言ったのだ。

「多分、会合自体は一時間程で終わるだろうから、帰りに寿司でも食べに行くかな? ランチにしては、少し遅くなるけど。何か食べたいものが有れば、蒲田君にリクエストしておいて呉れ、何でもいいよ。イタリアンでもフレンチでも。会社の経費だから、遠慮しなくていいから。」

 すると、運転し乍(なが)ら蒲田が言うのである。

「お店によっては、予約無しでは難しい所も有るでしょうけど。まぁ、探してみますよ。」

 続いて立花先生が、恵に意見を求めるのだった。

「恵ちゃんは、何がいい?」

 恵は、困惑気味に声を返す。

「わたしは何でも。って言うか、いいんですか?会社の経費って。」

 それには飯田部長は暫(しば)し笑って、そして応えたのである。

「あははは、若い人が細かい事を気にするな。大体、折角(せっかく)の日曜日に、こんな面倒事に付き合って貰ってるんだ。少し位の役得でも無きゃ、割に合わないだろう?」

 そう言って、又、飯田部長は笑うのだった。

 それから一時間程が経過して、天野重工の一行は防衛省の庁舎に到着していた。出迎えの桜井一佐の部下に案内され、幾つかのセキュリティを通過し、会議室へと一行が廊下を進んでいた時の事である。
 天野重工の一行が歩いて行くのと交差する廊下側から、大量のファイルを積み上げて運んで来た一人の男が、一行に道を譲ろうと立ち止まったのだ。だが彼が急に立ち止まった為、積み上げていたファイルが前方へと崩れ落ちたのである。
 そのファイル達は偶然、前方を通り掛かった立花先生へと降り掛かって来たが、咄嗟(とっさ)に彼女は、ひらりとそれらを躱(かわ)したのだった。バタバタと大きな音を立てて、廊下にファイルが散らばると、それを運んでいた男は、慌ててしゃがみ込み、ファイルを拾い集める。

「わぁ、すいません。すいません。」

 立花先生には、その男の風貌(ふうぼう)や声に、確かな覚えが有ったのである。
 一方で恵は、自分の足元に落ちて来たファイルを二つ、三つと拾い上げ、開かれた状態で床に落ちている四つ目のファイルへと目を遣っていた。それに気付いた男は、声を上げる。

「ああ、それ、部外者は見ちゃ駄目なヤツだから。」

 男は慌てて、その開いていたファイルを回収する。因(ちな)みに、彼が恵を『部外者』だと言ったのは、首から提(さ)げている外来者用の入場証を確認する迄(まで)もなく、恵が学校の制服を着用していたからである。

「あ、ごめんなさい。」

 そう言って恵が手に持っていたファイルを差し出すと、男はファイルを受け取り、ばつが悪そうに言った。

「あー、いやいや。書類の一枚や二枚、見られた所で解らないと思うから、いいんだ。ありがとう、拾って呉れて。」

 立花先生は自分の足元に落ちている、一冊のファイルを拾う為にしゃがみ込む。そして、そのファイルを男に渡そうとした時、互いの視線が交差したのだ。そして立花先生は、漸(ようや)く、その男に声を掛けた。

「有賀君?」

 男の方は少なからず驚いて、声を返した。

「智(とも)…立花、君?」

「貴方(あなた)、法務省じゃなかったの?何(なん)で防衛省(こんなところ)に居るのよ?」

「そう言うキミだって、天野重工…あ、あそこは防衛装備の事業もやってるのか。」

 しゃがんだ儘(まま)で言葉を交わす二人に、飯田部長が声を掛ける。

「キミ達は、知り合いだったのかな?」

 そう言われて、立花先生が先に立ち上がり、飯田部長に答える。

「はい、部長。同期生です、大学の。」

 有賀は廊下の隅にファイルを積み上げてから立ち上がり、スラックスのポケットから名刺入れを取り出すと、飯田部長に名刺を一枚差し出して言った。

「立花君の上司の方(かた)ですか。有賀と申します。」

「天野重工の飯田です。」

 殆(ほとん)ど反射的に、飯田部長も名刺を上着(ジャケット)の内ポケットから取り出し、差し出された名刺と交換する。そして有賀の名刺を確認して、尋(たず)ねるのだ。

法務省の方(かた)が、どうして防衛省に?」

「あ、いや、出向でして。行動基準の策定や研究をですね、市街地での作戦行動関係で法令違反にならない様に。防衛軍も法律は守らないといけませんからね。」

 そんな具合に、大雑把な説明をする有賀に、立花先生は問い掛けるのだ。

「それにしたって、日曜日に?」

「平日には借りられない資料とかも有ってね。」

 取り繕(つくろ)う様な有賀の答えに納得は出来なかった立花先生だったが、そこで何時(いつ)迄(まで)も立ち話をしても居られず、話を切り上げようと思った矢先に、廊下の先方から飯田部長に声が掛かったのだ。

「飯田さーん、どうかされましたか?」

 

- to be continued …-

 

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