WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第14話.02)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-02 ****


 その声の主は、防衛大臣補佐官の和多田である。その横には桜井一佐の姿も在り、会議室のドアの前で立ち止まっている和多田とは違って、桜井一佐は飯田部長の方へと歩いて来ていた。
 そして、先刻の、声の主の姿を認めた有賀は「げっ、和多田…。」と小さく呟(つぶや)くと、慌てる様に床面に積んであったファイルの山を抱え上げ、そして立花先生に訊(き)くのだった。

「今度、又、連絡するから。アドレス、変わってる?」

「いいえ。」

「良かった、それじゃ。」

 有賀が何故か逃げる様に、天野重工の一行が歩いて来た方向へと向かうと、ほぼ同じタイミングで三つ先のドアが開き、中から出て来た彼の同僚らしき女性が、有賀の姿に気付いて声を掛けるのである。

「有賀センパーイ、手伝いましょうかー。」

「あー、すまん。頼む。」

 有賀が応えると、その女性職員は小走りで彼に近寄り、積み上げられたファイルの半分程を引き取って、彼女が出て来た会議室へと、二人共が入って行ったのである。
 そんな一連の流れを、立花先生は何と無く、視線で追い掛けていた。
 恵は耳打ちする様に顔を近付けると、立花先生に小さな声で尋(たず)ねる。

「ひょっとして、以前(まえ)に言ってた『元彼』さん、ですか?先生。」

 立花先生は何も答えず、唯(ただ)、苦笑いを返す。恵は、耳打を続けた。

「法律云云(うんぬん)って言ってましたけど、何か怪しいですね。」

「どうして?」

 立花先生は不審に思って小声で聞き返すと、顔を近付けた儘(まま)で、恵も小声で答える。

「さっきのファイル、わたしが見たページは、予算とか帳簿みたいでした。数字ばっかりで、迚(とて)も法律の条文の様には見えませんでしたけど。」

「どう言う事かしら?」

 恵は「さあ。」とだけ答えて、頭を小さく横に振って見せたのである。
 その一方で、飯田部長に近寄って来た桜井一佐が、問い掛けるのだ。

「何か有りまして?」

「いや、ちょっと、知り合いに会ったものでね。」

 ニヤリと笑って飯田部長が答えると、それに立花先生が続くのだった。

「すみません、わたしの大学時代の知り合いです。」

 立花先生は、軽く頭を下げて見せた。桜井一佐は然(さ)して気にする風(ふう)でも無く「あら、そう。」とだけ応じるのだが、そんな桜井一佐に飯田部長が声のトーンを下げて尋(たず)ねるのだ。

「和多田さん、いらっしゃるとは聞いていませんでしたが?」

 桜井一佐は苦笑いして、答える。

「ええ。今日になって、急に参加すると仰(おっしゃ)って。 何を言い出すか解りません、お互い、注意致しましょう。」

「承知しました。 では、参りましょうか。」

 飯田部長と桜井一佐は、ドアの前で和多田が待ち構える会議室へと向かって、並んで歩き出す。その後ろを担当秘書の蒲田、そして立花先生と恵の三人が付いて行く形である。そこ迄(まで)、天野重工の一行を案内していた桜井一佐の部下は、控え室となっている会議室の隣室へと、先に入って行った。
 廊下を進んでいる間、恵が小さな声で隣を歩く立花先生にポツリと言ったのである。

「何(なん)だか、あのお二人が『黒幕』って感じですよね。」

 それを聞いて、立花先生はくすりと笑い、恵と立花先生の前を歩いていた蒲田が「ぷっ。」と吹き出すのだった。すると、飯田部長は前を向いた儘(まま)、「蒲田君。」とだけ言うのだ。

「すみません、部長。」

 慌てて言葉を返す蒲田の様子を見て、又、恵と立花先生はクスクスと笑ったのである。

 そうして天野重工の一行が会議室に入ると、中には既に四名の男性がテーブルの一方側、入り口から見て右手側に着いていた。部屋の奥側から航空防衛軍の制服を着用した男性が二人に、防衛省の役人でスーツ姿の男性が二人である。和多田補佐官は、これは敢えてであろうが、一番下手の席に着いたのだった。防衛省のお役人二人が、和多田補佐官に席順を譲ろうとした一幕も有ったが、和多田補佐官は「わたしはオブザーバー的な立場だから。」と断ったのだ。
 飯田部長には防衛省の二人とは面識が有り、この会合の参加者で飯田部長と面識の無いのは防衛軍の二人だけである。実際、防衛省の二人は天野重工と防衛軍の意見が対立した際の仲裁役として、桜井一佐が手配した人物なのである。この会合の場は、作戦行動を邪魔されたと怒っている、防衛軍統合作戦司令部側のガス抜きの為に桜井一佐が用意したと思って良い。
 だからこそ、そこに何故、防衛大臣補佐官の和多田が急に参加して来たのか、それが桜井一佐と飯田部長には解(げ)せなかったのだ。
 『コ』の字型に並べられたテーブルの一番奥に、議長役として桜井一佐が席に着くと、防衛軍と防衛省各人の向かい側の席を指定されて、天野重工側メンバーは着席したのだった。

「では、定刻になりましたので、始めたいと思います。」

 そう桜井一佐が切り出すと、隣の控え室から入場の案内をしていた桜井一佐の部下が入室して来て、彼女の斜め後ろに用意されていた席に着いた。彼が防衛軍側の、記録係である。
 続いて会合の参加者が桜井一佐から紹介され、防衛軍側の出席者が統合作戦司令部に出向している航空防衛軍の伊沢三佐と藤牧一尉であると判明する。この時点で飯田部長は、この会合は八割方無難に終わるものと予想した。但し、防衛大臣補佐官・和多田の存在が不確定要素であるのは、前述の通りだ。
 防衛省のお役人二人も心得たもので、防衛軍側の出席者二人に『出来レース』だと思われないように、飯田部長とは特に面識の有る風(ふう)には振る舞わなかった。だから勿論、飯田部長も彼等に対して、敢えて馴れ馴れしく声を掛けなかったのだ。

 ここで、防衛軍統合作戦司令部に就いて説明しておこう。
 その役割は名称の通りで、陸海空、三つの防衛軍部隊を統合して作戦の指揮を行う組織である。海上防衛軍所属のイージス艦と航空防衛軍所属の迎撃機が連携して領空への侵入機に対処を実施したり、陸上防衛軍所属の地上配備迎撃ミサイルと航空防衛軍所属の戦闘機部隊が連携する、等の様に、本来は所属や指揮系統の異なる複数の部隊を連携させて円滑に運用を行うのが、その役割である。
 陸海空の各防衛軍から指揮官級の人員が派遣されて統合作戦司令部が構成されており、基本的には各部隊の司令部に対して指揮を行うのであるが、場合によっては統合作戦指揮管制官が直接、実働部隊に指揮を行う権限も有しているのだ。

 天野重工側は会議室の奥側から、飯田部長、立花先生、恵の順で席に着き、秘書の蒲田は議事には参加しないので飯田部長の後方に席を置いて、そこに座って居る。彼は桜井一佐の部下と同じ様に、天野重工側の記録係を務めているのだ。
 そして飯田部長は、蒲田の紹介をする際に、付言したのである。

「書面の議事録の代わりに、議事の音声を録音させて頂きますので、宜しくお願いします。」

 すると、桜井一佐の方も、直ぐに応じて言うのだ。

「此方(こちら)側でも録音はさせて頂きますので、議事の終了後に録音のコピーを交換致しましょう。」

「承知しました。では、ここから録音を。蒲田君、頼む。」

 飯田部長は桜井一佐の提案に頷(うなず)いて了承し、それから振り向いて蒲田に、録音開始の指示を出した。
 録音の複製交換は、録音した音声を事後に編集や改竄(かいざん)して、一方に都合の良い証拠としないようにする為の措置である。
 公式の会合での議事の録音それ自体は、今時(いまどき)、珍しい事ではなかったが、今回は特に、未成年者が議事に参加している事もあって、防衛軍側の出席者が怒りに任せて暴言を吐かないよう、彼等を牽制する意味で飯田部長と桜井一佐との間で、予(あらかじ)め申し合わせていたのだ。案(あん)の定(じょう)、航空防衛軍の二人は、互いの顔を見合わせて不服そうな顔色だったのだが、階級的に上官である桜井一佐が了解している手前、抗議はしなかった。

「では、議事を進行したいと思いますが。天野重工側から提出されている報告書、これを、ご出席の皆さんは既にお読みになっているものとして、開始します。」

「それでは、宜しいですか?」

 開始早々に右手を挙げ、伊沢三佐が発言を求めると、「どうぞ。」と桜井一佐が許可する。伊沢三佐は一呼吸して、発言する。

「その報告書には、件(くだん)の HDG なる開発機の型式や仕様等、何も記載が無いのですが?」

 続いて、藤牧一尉が発言する。

「エイリアン・ドローンを撃破した、と記載されているのみで、どの様な装備で、それを実行したのか。是非とも、お聞きしたい。」

 相次ぐ質問に、飯田部長が咳払(せきばら)いを一つして、答える。

「HDG に就いての詳細は、開発中の案件ですので、申し訳無いが社外秘となっております。ですので、お答えする訳(わけ)には参りません。」

「そんな巫山戯(ふざけ)た話が有るものか。聞けば、防衛軍のデータ・リンクに参加して、戦術情報を共有していたそうじゃないですか。それで、其方(そちら)の諸元を明かさないなんて、それでは此方(こちら)は満足に指揮管制も出来ない。」

 そう反論する藤牧一尉に、飯田部長が釈明する。

「いや、そもそも HDG は現時点で、防衛軍の作戦行動に参加する段階(ステージ)ではありません。データ・リンクに参加していたのは、通信器材の能力確認の為であり、戦術情報を取得していたのは、いざと言う時の自衛策を講じる為の措置です。」

「自衛策とは? 応戦する事ですか?」

 嫌味気(げ)に、そう聞き返して来る伊沢三佐に、飯田部長は苦笑いを浮かべつつ答える。

「応戦も選択肢に含みはしますが、第一義的には退避する為です。」

 飯田部長に続いて、桜井一佐が発言する。

「データ・リンクに関しては、わたしが所管する責任で許可を与えています。これは、以前に三度、HDG はエイリアン・ドローンの襲撃に、既に巻き込まれていますから。その対応として、と言う事です。」

「ちょっと待ってください、一佐。三度ですか?これ迄(まで)、三度も作戦に介入を?」

 藤牧一尉が、少し上擦(うわず)った様な声で聞き返す一方で、伊沢三佐は両手で頭を抱えていた。どうやらこの二人、と言うよりは、統合作戦司令部には、これ迄(まで)の HDG の件は何も伝わっていなかった様子である。
 顔を上げた伊沢三佐が、絞り出す様な声で飯田部長に問い掛ける。

「では飯田さん、その三度も併せて状況を、お伺(うかが)いしたい。宜しいか?」

「当方は構いませんが。」

 飯田部長は目配せで発言の許可を求めると、桜井一佐は頷(うなず)いて見せるのだった。そして飯田部長は説明を始めるのだ。

「では。先(ま)ず、最初の一度目は、今年の七月初旬。当社が運営する天神ヶ崎高校の所在地近傍に、防衛軍のレーダー基地(サイト)が在りますが、そこを目標として六機のエイリアン・ドローンが接近して来ました。その内二機は、レーダー基地(サイト)に配備されていた対空ミサイルで撃墜。残り四機を、HDG が迎撃し処理しました。」

「七月、と言うと、奴らの降下ルートが『大陸ルート』に変わった時か。 あ、続けて呉れ、飯田さん。」

 一度、口を挟(はさ)んだ伊沢三佐だったが、直ぐに飯田部長に発言の続行を促(うなが)した。飯田部長は小さく頷(うなず)いて、発言を再開する。

「二度目は、同じく七月の下旬、これは陸上防衛軍との模擬戦の最中に、エイリアン・ドローン三機の襲撃を受け、これを撃破。三度目が八月の上旬、天神ヶ﨑高校での試運転中にエイリアン・ドローン六機の襲撃を受け、これも全機撃破、と言った具合ですね。」

 飯田部長が発言を終えると、間を置かず藤牧一尉が口を開く。

「と言う事は、四、三、六と、今回のが四機だから、合計で十七機も撃破を? 本省はこの件を?」

 藤牧一尉に問い掛けられると、お役人の二人は揃(そろ)って頷(うなず)き、左手側の一人が答えた。

「当然、連絡は受けておりますし、把握はしておりますよ。撃破したエイリアン・ドローンの残骸の回収も、防衛軍部隊が行っておりますし。」

 そこで、和多田が発言を始めるのだった。

「斯様(かよう)に、度度(たびたび)民間の、しかも未成年者を矢面(やおもて)に立たる様な状況になって、それに就いては大臣も憂慮しているんですよ。それで、天野重工さんのお考えも、良く聞き取ってくるようにと、わたしが今回、参上した次第でして。」

 今度は、伊沢三佐が声を上げる。

「そうそう、そもそもが、だ。どうして、そんな強力な装備の開発を高校で、しかも未成年者が行う様な事態になっているのか。その辺り、納得の行く説明お聞かせ願いたい。」

 顔色一つ変えず、冷静に飯田部長は答える。

「それは、HDG のシステムを考案した者(もの)が、天神ヶ崎高校に在籍する生徒だったから、ですよ。極めて単純な話です。 勿論、我々としても生徒達に実戦までを強要する積もりは、毛頭有りはしません。ですから、防衛大臣防衛省には、予(かね)てより学校立地地域の警戒や、有事に際して迅速な対応をお願いしておりますが、今の所、対応頂いておりませんよね?」

 その発言には、防衛省の上司らしき右手側のお役人が、少し慌てる様に弁明するのだった。

「いやいやいやいや、飯田さん。その件は我々の方でも対応したいのは山々なんですが、部隊の割り振りだとか、日常的な警戒をするにしても、色々と段取りがですね…。」

「ええ、其方(そちら)にも調整に時間が掛かるとか、御都合が有るのは、当方としても十分(じゅうぶん)理解はしておりますよ。しかし、現実問題として襲撃を受けた際に、それを撃退する能力が有る以上、自衛の為に能力(それ)を行使せざるを得ないのは、其方(そちら)にも理解して頂きたい。 重ねて申し上げますが、我々も我が社の将来を担う優秀な生徒達に、命に関わる様な危険な対応をさせるのは、全く本意ではないのです。」

「でしたら。その様な開発は、即刻お止めになったらどうか!」

 痺(しび)れを切らした様に、伊沢三佐が少し大きな声を上げたのである。それに続いて、藤牧一尉が発言する。

「HDG の開発案件、防衛軍の発注に拠るものではないのでしょう? 詳しい経緯は存じ上げませんが、営利目的で活動されている民間企業の我が儘(まま)に付き合っていられる程、防衛軍は暇ではないのです。」

 その発言を受けて声を発したのが、桜井一佐である。

「開発の中断など、有り得ません。必要が有って、政府・防衛省が天野重工さんに開発を依頼している案件です。しかも、公式には予算化もされていない中で、現状で開発費は天野重工さんの負担ですから、我が儘(まま)を言っているのは、我々の方だと認識してください。」

 強い口調で桜井一佐に言われ、伊沢三佐と藤牧一尉は驚いて互いの顔を見合わせ、防衛省お役人の二人は揃(そろ)って大きな溜息を吐(つ)いたのである。この場で『R作戦』に就いて知っているのは、和多田補佐官と桜井一佐、そして飯田部長の三人だけなのだから、彼等が困惑するのも無理からぬ事だったのだ。伊沢三佐は食い下がる様に、桜井一佐に問い掛ける。

「であるなら、せめて、どの様な必要が有っての開発なのか、お教え頂きたい。」

「機密になっているのは、それだけ重要な事項だからです。防衛軍に所属していて、それがお解りにならない筈(はず)はないでしょう?三佐。それこそ、訊(き)くだけ野暮というものですよ。」

 静かな、しかし強い調子で切り返す桜井一佐に、今度は藤牧一尉が訴える。

「しかし、ですね一佐。云われる様に重要な機密であるなら尚更、それに関係する案件を、民間の、しかも未成年者に任せていて良いのですか?」

「民間だの、未成年者だの、仰(おっしゃ)いますけど。それなら貴方(あなた)が、彼女達の代わりを務められるとでも、お思いですか?一尉。それが出来るのなら、天野重工さんだって学生さん達に任せたりは、してはいませんよ?」

 藤牧一尉が二の句が継げずにいると、恵が右手を挙げて発言の許可を求め、それに桜井一佐は「どうぞ。」と応じた。そして、恵が発言する。

「あの、今、云われている様な『機密』に関する事に就いては、わたし達は一切関知しておりませんので、それは、明言しておきます。わたし達は、エイリアン・ドローンに対向出来る装備、その開発をしているだけなんです。」

 恵の発言を聞き終えて、伊沢三佐は一呼吸置いて、飯田部長に話し掛けるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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