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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第14話.10)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-10 ****


 2072年9月20日・火曜日。天神ヶ﨑高校では、予定通りに前期期末試験が開始された。
 一日に実施される試験の科目は、二教科、若(も)しくは三教科で、一教科当たりの試験時間は五十分だが、一部には試験時間が百分の科目も存在するのだ。何(いず)れにせよ、一日の試験は午前中に終わるので、生徒達は午後から、翌日の試験に向けて準備を開始するのだ。
 一年生の前期中間試験は、特課の生徒に就いては専門教科の試験科目が少なくて、合計で十教科だったが、期末試験からは合計で十四教科に増えている。これは学年が進むに連(つ)れて、試験の教科数は増えていき、二年生では合計十六教科、三年生では合計十八教科の試験を熟(こな)さなければならない。
 そして、試験日程の最初の三日間は普通課程と特別課程の共通科目の試験を、それぞれの教室で受けるのだが、後半の三日間は特別課程の生徒は、それぞれの教室で専門教科の試験を受け、普通課程の生徒はA組からD組、四クラスが合同で別の大教室に集合して、普通課程向け教科の試験を受けるのだ。それでも普通課程は特別課程に比べて、試験対象となる技術系の専門教科が無いので、試験日程は五日間で終了し一日早く試験休みへと入るのである。
 そんな訳(わけ)で、普通課程と特別課程の試験教科数が、内容は違えども十教科で数が揃(そろ)っているのは、実は一年生の前期中間試験のみで、それ以降は特別課程の方が常に教科数が多いのだ。だから、例のランキングに就いても普通課程と特別課程の生徒を混ぜて発表するのは一年生の前期中間試験の結果のみなのである。単純に全試験教科の合計得点で決めている総合ランキングでは、前期期末試験以降では試験対象教科数の少ない普通課程の生徒は、当然、不利になるのだ。従って前期期末試験以降のランキングは、普通課程と特別課程とで別枠にされたり、共通科目の合計得点だけで普通と特課での合同ランキングを発表したりと、学校側も集計に工夫をするのだった。
 勿論、茜が何時(いつ)も言っている通り、特に特別課程のランキングに関しては、違う学科の試験結果をも合計得点という尺度だけでゴチャ混ぜにして順位を決めている性質上、それ自体に大した意味は無いのだが。それでもランキングとして発表されてしまうと、それに注目してしまうのは、人間の悲しい性(さが)かも知れない。

 前期期末試験の日程は順調に消化され、休日を含めて、八日間が経過した。
 そして訪(おとず)れた、2072年9月28日・水曜日。試験の最終日に、事件は起きたのだ。それは二教科目の試験開始から、三十分程が経過した時である。突然、避難指示を告げる校内放送が、全校に流されたのだった。
 その日は試験最終日なので普通課程の生徒達は登校はして来ておらず、全学年共に教室に居た生徒の数は、凡(およ)そ半分なのである。
 試験の教科も、全学年の各学科が、それぞれの専門教科で、試験時間が百分の試験が二教科だったので、避難指示の放送が有ったのは、時刻にすれば午前十一時半頃の事である。
 試験監督を担当していた教師は、直ぐに試験の中断を宣言し、何時(いつ)もの訓練手順に従って、教室の前後に男女で分かれてグループを作るようにと、指示を出した。因(ちな)みに、試験中だった答案用紙は机の上に裏返して置くようにと言い渡され、避難誘導役の自警部が来る迄(まで)の間に、教師によって全ての答案用紙が回収されたのである。そして、途中だった試験の扱いについては、「後日、決定して発表される。」と伝えられたのだった。これらの対応に就いては、試験中に避難指示が発令される場合を見越して、予(あらかじ)め、学校側が取り決めてあった措置である。
 一方で、大変だったのは自警部である。自警部に所属している生徒も、当然、試験を受けていたのであり、しかも、普通課程の自警部部員が居ないので、自警部自体が人手不足だったのだ。勿論、誘導対象である生徒の数も半分になっているので、誘導するグループの編成を工夫する事で、取り敢えずは難を逃れたのである。
 そもそもが避難指示自体が余裕を持って行政側から発令されているので、一分一秒を争って避難する必要は無く、その日、全校に居た生徒や職員、全員が無事に地下のシェルターへと避難が完了したのは、避難指示の校内放送から三十分程経った頃だった。
 勿論、避難指示が発令されたからと言って、必ずエイリアン・ドローンの襲撃が有るとも限らないのだ。

 茜とブリジットは、B組の女子生徒達と一緒に、地下のシェルターに居た。二人がここに入ったのは、六月の避難訓練の時、以来である。八月の、LMF を失った襲撃事件の際にも、兵器開発部以外の生徒達、とは言っても夏休み中の出来事だったので、当時、寮に残っていた生徒達と、部活で登校していた生徒達に限定されるが、兎も角、その時にも地下シェルターは使用されていたのだ。
 六月の際には、普通科の女子生徒達も同じシェルターに入っていたので、それなりに満員感が有ったのだが、流石に今日は特課の生徒達しか居ないので、空間が目立つのだった。
 シェルターへ移動後、人数確認が終わり一息吐(つ)いた頃、例に因って四人のグループで居た茜は、状況を確認する為に席を立って、緒美の元へと向かうのだった。当然、ブリジットも茜の後を追ったのである。

 茜とブリジットが通路へと出て、三年生女子達が入っているシェルターの方へと歩いて行くと、直ぐに何人かの女子生徒がシェルターの入り口の前に集合しているのに気が付いた。その集団が兵器開発部のメンバーだと判明するのに、それ程時間は必要なかったのだ。
 そして、近付いて来る茜に気が付いた緒美は、先に声を掛けるのである。

「天野さん、貴方(あなた)の HDG は今、無いんだから出撃は無しよ。」

 微笑んで言う緒美に、茜も笑顔で言葉を返す。

「解ってますよ、部長。皆さん、お揃(そろ)いですけど、何か、状況に関して情報が有りますか?」

「何でしたら、わたしがB号機で出る、準備をしておきます?」

 茜に続いてブリジットが、そう言うので、少し困った顔で緒美が応える。

「そう言う事に不慣れなボードレールさんを一人で出すなんて、考えてないから。貴方(あなた)も考えないでね、ボードレールさん。」

 続いて立花先生も、少し怖い顔で言うのだ。

「茜ちゃんの場合は、止めても出て行っちゃうから止(や)むなく、だったけど。本来なら、誰にも出て行って欲しくはない訳(わけ)。 ブリジットちゃんの場合は、茜ちゃんが出て行っちゃうから、止めても出て行っちゃってた訳(わけ)でしょ? 今回は、茜ちゃんが出られないんだから、ブリジットちゃんも出る理由が無いって事で、オーケー?」

「いや、先生。わたしだって、学校を守る為なら、一人ででも出ますよ?」

 反論するブリジットの肩に背後から手を回し、抱き寄せる様にして直美が言うのだった。

「だから、ブリジット一人だけ出すのは、天野一人だけ出すのとは、話が違うんだって。アレをどう扱って、どう戦うのか、その辺りのビジョンなんて、一朝一夕(いっちょういっせき)じゃ追いつけないんだからさ。」

「ええ~っ。」

 ブリジットが抗議の声を上げる一方で、手持ちの小型モバイル PC を操作していたクラウディアが発言するのだ。

「それで、今の状況ですけど。例に因って、西側から九州北部、対馬を抜けて日本海側って言う感じで、前回のパターンに似てますね。それで、この地域の避難指示を早めに出した様子ですよ。」

 そこ迄(まで)を聞いて、恵が茶化す様に言った。

「当局も、少しは学習してるみたいですね、先生。」

 その言葉に、立花先生は苦笑いだけを返すのだった。クラウディアは、状況報告を続ける。

「それで、今回は海上防衛軍のレールガン搭載艦と、レーザー砲搭載艦が投入されてるみたいです。戦果の方は、まだ、情報が上がってきてませんけど。」

「ちょっとクラウディアちゃん、それ、どこの情報?」

 少し慌てて立花先生が尋(たず)ねると、クラウディアの隣に立っていた維月が、笑顔で答えるのだ。

「御心配無く、先生。防衛省の公式発表ですよ。」

「そう、なら良かった。」

 情報源がハッキングではない事に安堵(あんど)する立花先生に、瑠菜が問い掛ける。

「何ですか?海上防衛軍のレールガンとか、レーザー砲とか。」

「ああ、レーザー砲は解るでしょ? SF とかに出て来る、光線兵器。」

「実在するんですか?あれ。」

 目を丸くして瑠菜が聞き返すので、苦笑いで立花先生は応じる。

「まあ、怪獣映画とかに出て来るのと本物は、随分(ずいぶん)と感じが違うけど、原理的には、アレよね。」

 そこで茜が、口を挟(はさ)むのだ。

「レールガンは、火薬を使わないで、電磁気で砲弾を加速して撃ち出す大砲の事ですよね。」

「それを海上防衛軍が?」

 今度はブリジットが、問い掛けるのだった。その一方で、緒美はクラウディアからモバイル PC を借り受け、情報源の発表記事に目をの通すのである。
 その間に立花先生は、瑠菜やブリジット達の疑問に答えるのだ。

「別に、レーザー砲でもレールガンでも、設置するの場所は陸地でも良かったんだけど。基地を新しく作るのは、建設する地元が嫌がるから。攻撃目標にされるって。 それで、海防の護衛艦搭載にすれば、まあ、陸上の基地と違って移動出来る分、攻撃目標には、なり難いだろうって事でね。 元々は弾道ミサイルの迎撃用に開発されたのよ、どっちも。」

 再び、瑠菜が尋(たず)ねる。

弾道ミサイルの迎撃には、イージス艦?ってのを使うんじゃ。」

イージス艦はね、ミサイルが高価なのよ。物凄く。それも、使わなくても定期的にメンテナンスや更新しなきゃいけないし、何せ精密機械だから。あと、ミサイルは撃ち尽くしたら、お仕舞いだしね。」

 茜が続いて、説明を補足する。

「レーザー砲だと、電源さえ有れば弾切れは心配しなくてもいいですし、レールガンは火薬を使わないから砲弾だけ積めばいいので、その分、沢山、搭載出来ます。あと、断然、ミサイルよりも安いですから。」

 兵器の類(たぐい)に詳しくはない、恵、直美、瑠菜、佳奈、維月、そしてブリジットとクラウディアは、この辺りで漸(ようや)く、話の筋が見えて来たのである。そこで、今度は佳奈が立花先生に問い掛ける。

「そんなのが有ったのなら、どうして今迄(いままで)、使わなかったんですか?」

「使わなかったんじゃなくて、使えなかったのよ。弾道ミサイルなら落ちて来る軌道が解れば、狙いを定めやすいでしょ? それから、成(な)る可(べ)く、高い所で撃ち落とす仕様で構成されていたんだけど。 それを、弾道ミサイル迎撃に比べたら低い高度を、自由に飛び回るエイリアン・ドローンを撃ち落とすのに転用しようって言う話だから、まあ、改修や試験には時間が掛かる訳(わけ)よ。 かれこれ一年以上は、やってたんじゃないかしら? それで漸(ようや)く、実戦試験に投入って感じかしらね。」

 そこ迄(まで)、説明を聞いて、直美が訊(き)く。

「因(ちな)みに先生、その高価だって言うイージス艦のミサイルって、幾ら位する物なんですか?」

 立花先生は、ニヤリと笑って答える。

「対航空機迎撃に使ってるのは、弾道ミサイル迎撃に使う奴よりは安いわよ。それでも戦闘機が積んでる、中射程の空対空ミサイルの値段の、三倍位かしらね? 取得する時の条件、数とかオプションとかで予算が変わるから、一般化して一発が幾ら、とは言えないんだけど。まあ、ざっくり、一発 1.5億円、位?」

「それ、前回は百発程、打ち上げたんですよね?」

 恵が、呆(あき)れた様に言うと、瑠菜も声を上げる。

「それだけで百五十億かぁ…全部、税金なんですよね?」

「そうよ~でも、その百五十億を使わなくて済むようにって、レーザー砲なり、レールガンなりを改修するのに、幾ら予算を注(つ)ぎ込んだのかしらね? 三ツ橋電機が、システム改修を受注してた筈(はず)だけど、一年以上、音沙汰無しだったんだから、相当に難航した様子よね。掛かった予算も、計画からは相当に超過してると思うわよ。」

「先生、笑顔が怖いです。」

 にたりと笑っている立花先生の黒い笑顔に周囲の生徒が引く中、愛想笑いを作って茜が忠言するのだった。

「あら、ごめんなさい。」

 そう言って、立花先生は眼鏡を掛け直す。そんな立花先生に、直美が素直な感想を言うのだ。

「でも、矢っ張り。兵器、防衛産業って儲かるんですね~。」

「何言ってるの、直美ちゃん。そんな訳(わけ)、無いでしょ。 余所(よそ)の国じゃ、どうか知らないけど、少なくとも日本じゃ、大して儲かる業界じゃないわよ。発表される予算額が大きいから、そんな風(ふう)に見えるかも知れないけど、素材は高い、加工や工作は難しい、人件費は高い、生産数は少ないじゃ、どうしたって原価が割高になるんだから。その上、発注元の政府や防衛省が、予算は決まってるからって、ガンガン値切って来るのよ? 受け身でやってたら、儲けが出る余地なんて、殆(ほとん)ど無いんだから。」

「そうなんですか?」

 意外そうに直美が聞き返すので、茜も参戦する。

「そうなんじゃ、ないですか? 例えば、アメリカだって。昔…百年位前は、戦闘機を生産してた航空機メーカーは十社近く有ったのに、最後には海軍や空軍の主力戦闘機を受注してたメーカー迄(まで)、旅客機のメーカーに買収されちゃったんですから。アメリカは戦闘機を、世界中に売ってたのに、ですよ。」

「あら、茜ちゃん、良く知ってるわね。そんな昔の事迄(まで)。」

 そこで恵が感心気(げ)に、言うのだった。

「わたしも中一の時、部長と一緒に色々と調べたけど、兵器関連に就いて。 流石に、その辺り迄(まで)、見聞は広まらなかったわね。立花先生は、天野重工(かいしゃ)に入ってから、ですよね?」

「わたしの場合は、仕事だからね。そっち方面の研修も受けたし、そのあとは独学で、だけど。かれこれ十年位になるのよね。」

「仕事、だったんですか?」

 直美が少し茶化す様に訊(き)いて来るので、立花先生は敢えて真面目な顔で答える。

「そうよ。企画部三課は、防衛装備関連事業が担当業務だからね。」

「あれ? でも、立花先生、確かお、兄さんと、弟さんがいらっしゃるって、言ってましたよね? 男性の御兄弟が、そっち方面、興味持ってたりとかは…。」

 直美に続いて、恵が問い掛けて来るので、立花先生は即答する。

「あー、ウチの兄弟は軍事(ミリタリー)系には、興味なかったわね~。クルマとかバイクとかは、普通に好きだったみたいだけど。だから、入社する迄(まで)、そっち方面には触れる機会が無かったから、今やってる事は、自分でも不思議なのよ。」

 苦笑いで言う立花先生に釣られたかの様に、恵も苦笑いで言うのだ。

「でも、しっかり熟(こな)してるんだから、適性は有った、って事ですよね。 そう思うと、先生の配置を決めた人事部、恐るべし、ですね。」

「あはは、かもね。確かに。」

 立花先生は、少し照(て)れた様に笑った。

 

- to be continued …-

 

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