WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第4話.01)

第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)

**** 4-01 ****


 時間軸を再び二年ほど遡(さかのぼ)って、2069年12月13日金曜日。
 この日の午後、立花 智子は天野重工企画部第三課の小峰課長に、定例会議の終わりに呼び止められていた。会議室に二人だけが残ったのを見計らって、小峰課長が口を開く。

「立花君、キミに取っては残念な話になるかも知れないんだけどね…。」

 呼び止められた時点で嫌な予感はしていた智子だったが、その小峰課長の口振りが予感を確信に変えた。

「…来年から、キミには天神ヶ崎高校への講師として出向して貰う事になったんだ。」

「業務命令…の、内示、ですか。」

 小峰課長は、右手を口元に当て、人差し指の腹で鼻の下を擦る様な仕草をしている。それは言い難い事柄を告げる時、言葉を探す時の、彼の癖だった。智子も、小峰課長の、その癖の事は承知していたので、それで「業務命令の内示が覆(くつがえ)る可能性が無いのだな」と察したのだった。

「うちとしても、この時期にキミに抜けられるのは困るんだけど、ねぇ…まぁ、ほら、人事部の決定だし、各部が公平に、順番に講師役の社員を派遣してるからね。 あ、『天神ヶ崎高校』の事は知ってるかな?…立花君は一般校の卒業だったよね、確か。」

「天野重工が運営している、自社の技術者養成の為の高校の事ですよね、『天神ヶ崎』って。」

「そうそう。開発や設計には天神ヶ崎卒の社員が少なくないんだが、企画には居ないからね、イマイチ、ピンと来ないだろうけど。」

「企画一課の松崎さんは天神ヶ崎の卒業生だって、聞いた記憶が有りますけど?」

「あぁ、松崎君はそうだったかな~…」

 小峰課長には、まだ他に言い難い事が有るのだろうなと察した智子は、その言い難いであろう事柄を、自分から聞いてみる事にした。

「それで、出向の期間はどれ位(くらい)に?」

 小峰課長の、右手の指の動きがピタリと止まり、彼は大きく一度、息を吐(は)いた。

「出向期間は五年、だ。」

「五年、ですか。長いですね。」

 智子も又、大きく息を吐(は)いた。

「誤解して欲しくはないんだが、これは左遷とか、そう言った類(たぐい)の話じゃないんだ。」

「はい。」

「立花君は入社七年目だったかな…漸(ようや)く、第一線で働ける様になった時期に五年も持って行かれるのは勘弁して呉れ、と、まぁ、人事には言ったんだけどね。」

 確かに、防衛軍から依頼を受けた『HDG 案件』の検討チームで凡(およ)そ一年間、中心的な役割を担ってきたのに、その結果も見られない儘(まま)、チームから離れなければならないのは、智子に取っても残念でならなかった。

「どうしてわたしに、講師の役目なんかが回って来たんでしょう?」

「あぁ、特許関連の法務がキミの専攻だったよね、大学で。それで、天神ヶ﨑の方で特許法関連の講師が必要になるんだそうだ。今、担当している講師の方(かた)が、今年度で退職されるとかでね。」

「成る程…。」

 そもそも、大学で学んだ特許関連法務の知識を活かそうと智子は天野重工に入社したのだが、実際の配属は本人の志望とは違う企画部、それも防衛装備関連担当の第三課となり、入社当初は愕然としたものだった。それでも、企画部であっても学んだ知識は必要とされる場合も有るかと、それまで興味など無かった防衛産業に関わる業界や、防衛装備の技術等を勉強し、漸(ようや)く、今の仕事の面白さが分かって来たのが、この数年の事だった。それが、今になって、自身の特許法関連の専門知識が、今の仕事から自分を引き離す事になろうとは、智子にしてみれば何とも皮肉な展開だと思わざるを得ない。

「『HDG 案件』は今後、どうなるんでしょうか?」

「それもねぇ…キミも知っての通り、防衛軍の中でも、あの案件については具体的なビジョンが有る訳(わけ)じゃないからね。現場や制服組は、現有の兵器システムではエイリアン・ドローンに対処出来ないから、何か新しい装備(もの)を欲しがっているんだが。背広組は、今、有る物で対処しろ、と言うのが大勢(たいせい)だしね。そうなると、防衛省とか政府の方で先(ま)ず、意思統一と言うか、方針を定めて貰わないといけない筈(はず)なんだが…役人や政治家は、ますます防衛装備の事なんか分かっちゃいないから。政府で正式に予算が付いて、防衛省から GO サインが出る迄(まで)には、まだ時間が掛かるんだろうね…。」

「そんな悠長な事、言ってる時間が有る様には思えませんけど…。」

「分かってるよ。その辺りの危機意識は、こっちの業界の方がね、まだ、関連省庁のお役人よりも真面目に考えてると思うよ。防衛軍に具体的なビジョンが無いなら、こっちの持ち出しででも新しい物を開発して、防衛軍に提示する位(くらい)の事は考えて良い、と、まぁ、うちの部長なんかは言ってるんだけど。…ただ、今の検討段階のじゃぁ、うちの開発でも『形にならん』そうだから、もっと具体的なアイデアがないとね。今はまだ、うちの中でも予算の付け様が無いよなぁ。」

 小峰課長は「う~ん」と唸(うな)り乍(なが)ら、会議室の天井を見詰めていた。そして、数秒置いて智子の方へ向き直り、話し始めた。

「まぁ、天神ヶ崎へ出向になっても、キミの籍はうちに残るし、出向期間が終われば間違いなく元の職場に復帰出来る事は、会社として保証するそうだからね。それに、出向者が『浦島太郎』にならない様に、フォローも有るそうだから、こっちの心配はしないで行って来て呉れないかな。」

「業務命令とあれば、仕方無いですね。」

「すまんね。正式な辞令は追って出ると思うけど。来年一月から、三ヶ月間、出向者には研修が有るそうだから、年内一杯でキミの担当内容は田所君に引き継いでおいて。彼には、わたしの方からも言っておくから。」

「わたしが抜けた、穴埋めの人事は無いんですか?」

「そうなんだよ~。こっちは中堅一人取られるんだから、使える奴を一人回せって言っても、人事は、直ぐには無理だ、の一点張りだもの。スケジュールと人の割り振り考えるこっちは、堪(たま)ったもんじゃないよ。」

「取り敢えず、お話は承(うけたまわ)りました。以上でよろしいですか?」

 智子は席を立ち、机の上に出した儘(まま)だったモバイル PC のディスプレイを閉じた。

「うん。…あ、そうそう。出向関連の細かい事に就いては、人事部一課の三島さんが窓口だそうだから。詳しい事はそっちに問い合わせて呉れ、だそうだ。」

「分かりました。人事一課の三島さんですね。…では、取り敢えず業務に戻ります。」

 資料ファイルと PC を胸元に抱え、智子は小峰課長へ一礼すると、会議室の出口へと向かった。会議室のドア閉める時、小峰課長が大きく息を吐(は)いたのが聞こえたが、智子はそれが聞こえなかった素振りでドアを閉め、その場を後にしたのである。
 その日から年末に掛けて、智子は残務整理と業務の引き継ぎに追われ、2069年が暮れていった。

 

- to be continued …-

 

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