STORY of HDG(第4話.14)
第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)
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その後、最初に、絞る様に声を出したのは、事業統括部の飯田部長だった。
「おいおい、立花君。あれにアクセス出来るのは、正社員でも資格の有る者だけだよ。知ってるだろう?」
「はい。でも、何事にも例外は有ると思います。彼女は天神ヶ崎でも『特課』の生徒ですから、準社員扱いですし、秘密保持に就いては、入学時に誓約しています。それから、アクセスするのは、特定の回線に制限してもいいでしょう。」
次いで声を上げたのは、開発部の大沼部長である。
「で、彼女に『技術データーベース』を見せて、どうしようと?」
「彼女がレポートで要開発としている項目が、データーベースに有る技術や、その組合せで解決出来るかを、先(ま)ず、検討して貰います。その検討内容が、わたし達から見て妥当な物であれば、仕様設計に移行します。もしも、鬼塚さんがデーターベースを活用出来ない様であれば、それはそこ迄(まで)の話で、その先は、わたし達の方で進めるしかありません。」
そして、片山社長が確認する様に言った。
「彼女の仕事内容を、その都度チェックして、次の工程に進むかどうか決定していく訳(わけ)だな。」
「はい。勿論、工程が進めば、開発部や試作部の技術担当にアドバイスを頂く事にもなるでしょうし、詳細設計や試作品の製作や試験とかは、本社側にお願いする事になるとは思いますが。まぁ、未成年の一高校生に、過大な責任を負わせる訳(わけ)にはいきませんから、大人として。」
再び、飯田部長が困った様に発言した。
「しかしなぁ、『技術データベース』はなぁ…そこ迄(まで)、信用して良い物かなぁ。」
それ迄(まで)、黙って聞いていた、試作部の坂本部長が智子に尋ねる。
「そもそも、その鬼塚という子は、どうして、こんな事に首を突っ込んでいるのかな?」
「動機ですか、それは、わたしも気になるな。」
坂本部長に同調して発言したのは、大沼部長である。
「それに関しては…余り本人が、語りたがらないので。明確には、聞いておりません。」
緒美の動機に就いては、余り触れられたくはない事柄だったが、敢えて正直に答えた智子だった。その答えでは、心証は悪くなる可能性が有る事は分かっていたが、嘘を吐(つ)くよりは優(まし)だろうと判断したのだ。だが、そこで、思わぬ人物が助け船を出して呉れたのだった。会長、天野 総一である。
「その辺りの事情に就いては、学校の方で出来る範囲だが、少々、調べておいた。加納君。」
天野会長の後ろの席に控えていた、あの冴えない風体(ふうてい)の中年男が立ち上がり前へと進み出ると、メモも見ないで調査内容を話し始めた。
「はい。では、天神ヶ崎高校、特別課程、機械工学科一年、鬼塚 緒美に就いて、調査した内容を述べさせて頂きます。先(ま)ず、本人ですが、当校の教職員に聞き取りを行った所、授業態度、生活態度共に真面目で、問題行動は無し。他人とのコミュニケーションには、少々淡泊な傾向が有る、との事。成績に就いては、まだ学期が始まったばかりなので明確には判断出来ませんが、入試での成績はトップ・クラスだった、との事です。 中学時代の成績や生活態度に就いても、特筆するべき問題は無かったそうです。 次に両親ですが、これは共に健在。両親とも三ツ橋化成系列の樹脂素材メーカー勤務の研究職で、技術者と言うよりは学者寄りの人物の様です。他の研究者との連名で、ですが、論文も幾つも発表されておりますし、勤務先が持つ特許の幾つかにも、開発者として名前が上がっています。 鬼塚 緒美さんに兄弟、姉妹は無し。先程から話題にされている、動機になりそうな事柄ですが、家族にそれは無さそうです。が、親族ですね、緒美さんの母の姉、この配偶者が陸上防衛軍に勤務しておりまして、その息子…緒美さんには、従兄弟に当たる人物も陸上防衛軍に所属しておりました。」
「所属して、いた?」
影山部長が、加納氏に聞き返した。
「はい。過去形です。彼は、2066年の十月に、対エイリアン・ドローン防衛任務に出動し、殉職しております。因みに、その時、緒美さんは十二歳、小学六年生でした。」
「成る程、動機はその辺りかな…。」
大沼部長が溜息の後、呟(つぶや)いた。
「加えて、中学生時の居住地域が、関東でもエイリアン・ドローンの襲撃事件が割と多かった地域で、彼女は直接の被害には遭ってはいませんが、彼女の居住地域近辺では当時の三年間に、十件程の襲撃に因る被害が出ていますので、その中に友人や知人が巻き込まれていた事が有ったかも知れません。これに就いては確証は有りませんので、推測の域を出ません。以上です。」
加納氏は、一礼すると元の、会長の後ろの席に戻った。智子は、加納氏の見掛けに依らず有能そうな秘書振りが意外だったが、それ以上に、緒美の身内がエイリアン・ドローンの被害に遭っていた事実を知って、予想していた事とは言え、少なからずショックだった。
そんな智子の心情を余所(よそ)に、天野会長が口を開く。
- to be continued …-
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