WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第4話.17)

第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)

**** 4-17 ****


 本社での会議が終わってから、凡(およ)そ二週間。「準備が整う迄(まで)、会議で決まった内容を緒美には伝えないように」とのお達しだったので、智子の足は、何と無く部室から遠のいてた。だから、緒美とも顔を合わせてはいなかったのだが、それならその間、智子は退屈していたのかと言うと、それはそうでもなかった。
 天神ヶ﨑高校から本社の技術データベースにアクセスする為の仕掛けに就いて、本社のシステム管理者からの問い合わせが有ったり、天神ヶ崎高校のネットワーク環境を調べたりと、新たに発生した雑用を、それなりに熟(こな)さなければならなかったので、退屈している暇は無かったのである。ここ数日は、HDG 案件作業を本社から外部委託する事に関して、細かい事務内容の連絡や書類仕事が企画部から回って来ており、それらを処理するのに手間を取られていた。

「こんなに手間を掛けておいて、鬼塚さんが嫌だって言ったら、どうするのかしら?」

 これは、わたしに対する脅迫かも知れない…そんな風にも思う事も有った智子だったが、「無理強(むりじ)いする必要は無い」と言った天野会長の言葉を信じる事にして、深く考えるのは止めにした。

 そんな具合で日日(ひにち)は過ぎて、2070年5月30日金曜日。午後になって、智子の居室のドアがノックされる。

「どうぞ。」

 智子の返事を聞いてドアを開け、姿を現したのは、天野会長…理事長の秘書、加納氏だった。

「こんにちは。立花先生に、本社から、お届け物です。」

 加納氏は手に持っていた、小さな包みを智子へと差し出す。その包みには、運送業者が使用する様な送付伝票の様な物は貼り付けられてはいなかった。智子は、受け取った包みを二度、三度と、ひっくり返しては宛名書きとか、送り状の様な物が無いかを確かめたが、矢張り、その様な物は無かった。
 智子には、その中身に就いては見当が付いていたのだが、それがどの様に送られて来たのかが、気に掛かっていた。

「あの…これ、会長宛てに届いたんですか?」

「いえ。理事長の指示で、わたしが本社まで取りに行って来たんですよ。郵便や宅配業者で送る訳(わけ)にはいかない、貴重品だと聞いてます。本社の飯田部長からは、立花先生に直接手渡すように、と言われましたので。」

「あぁ、社用機で…。」

「はい。では、確かにお届けしましたよ。失礼します。」

「あ、はい。ありがとうございます…あぁっ、あの。受け取りのサインとか…。」

「いえ。これに就いては、特にその様な物は有りません。あ、飯田部長か影山部長に、受け取った旨、報告だけしておいていただければ。では。」

 加納氏は一礼すると、ドアを閉め、立ち去ったのだった。
 智子は包みを解き、中身を確認する。それは案の定、本社の技術データベースにアクセスする為の、メモリーキーだった。

「とうとう、届いちゃった…か。」

 この時点でまだ、智子には緒美を自分の仕事に巻き込んでしまう事に、躊躇(ためら)いを感じていた。でも、後は緒美の気持ち次第なのだと思い直し、今日の放課後、それを確かめようと心に決めた。


 そして、その日の放課後。智子は緒美と、そして偶然その場に居合わせた恵と直美と、部室で面談する事になる。
 結果として、緒美は本社、企画部の提案を引き受け、緒美の友人二人も部活に参加する事になったのである。智子は、面談を終えると三人を残して、先に部室を後にしたのだった。
 部室のある第三格納庫の外階段を降りると、自分の居室がある事務棟へ向かう歩道を歩き乍(なが)ら、智子は携帯端末を取り出した。そして、通話要請を影山部長の携帯端末へと送信する。

「あ、立花です。今日の昼過ぎに、会長秘書の…ええ、加納さんですか?…はい、受け取りました。…ええ、それで、さっき鬼塚さんに渡して来た所です。…はい、彼女、断りませんでしたよ。…はい。では、失礼します。」

 影山部長は「期待してるよ」と言っていたが、それが本気なのか、社交辞令なのか、智子には判断が付かなかった。状況は自分が望んだ方向に進んでいる…その事にはワクワクする様な楽しさを感じていた一方で、緒美達を巻き込んでしまった事の責任を考えると、今迄(まで)の他の仕事とは、何か違う種類の緊張感を智子は感じずにはいられなかったのである。

 こうして、智子の仕事好きが高じて始まった天神ヶ崎高校・兵器開発部での HDG 開発が、後に日本のみならず人類の命運を決める事になろうとは、この日の智子に想像など出来る筈(はず)も無かった。
 そんな未来とは無関係に、その時ふと見た、眩しい程の夕日が、何故か智子の心に何時(いつ)迄(まで)も残ったのである。

 

- 第4話・了 -

 

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