第6話・クラウディア・カルテッリエリ
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「いえ、別に怒っては、いないんですけど。只、何だか意味が分からなかったので、困惑したと言うか。」
「宣戦布告とか、試験がどうとか、言ってたわよね、確か。」
「あ~もう、ホントに分からない奴ね! 入試の成績では、あなたに負けて二位だったけど、次の試験の成績では一位を取るから、覚えておきなさいって事よ。」
机を両手で叩いて立ち上がると、クラウディアは語気を強めてそう言って、茜を睨(にら)む様に見詰めている。すると、クラウディアの奥側の席にいた維月が、彼女の後ろから両手で頬を摘(つま)んで左右に引っ張り、言うのだった。
「だ~か~ら~、そう言う、突っ掛かる様な言い方は止めなさいって、言ってるでしょ~。」
維月の行動に就いては呆れつつ無視して、茜は真面目な顔でクラウディアに問い掛ける。
「試験で勝つの負けるのって…大体、発表されてない試験成績を、どこで知ったの?これは、この前も聞いたと思うけど。」
しかし、その問いには、維月が先に答えるのだった。
「あぁ、それね…実はこの子、ハッカーなのよ。」
「イツキ、いい加減、手を放して。」
「あはは、ごめんね~。」
維月がクラウディアの頬から手を放すと、クラウディアは席に座り、摘(つま)まれて赤くなった頬をさすっている。
「ハッカーって、学校のサーバーに侵入して入試の成績を見たってことですか?」
今度は、茜の問い掛けに、両手で頬を軽く押さえて、クラウディアが答えるのだった。
「そうよ。US の CIA や国防省(ペンタゴン)に比べたら、学校(ここ)のサーバー位(くらい)、チョロいものよ。」
「先生、こんなの入学させて大丈夫なんですか?会社的にも。」
クラウディアの口振りを聞いて、ブリジットが立花先生に問い掛けた。立花先生は、と言うと、腕組みをして、渋い表情をしていたのだった。
「まぁ…一応、会社的にも学校的にも、了解はしてるらしいのよ。その技能を犯罪行為には使わない、って事で契約してるって話なんだけどね。」
「いえ、違法アクセスしてる時点で、立派に犯罪じゃないですか?」
茜の指摘を余所(よそ)に、クラウディアは胸を張って言う。
「別に、データを改竄(かいざん)したり、抜き出したデータをどこかに売り飛ばしたり、ウィルスを仕込んだりはしないわよ。わたしは個人的な興味の為にしか、ハッキングはしないから。」
茜は「それは、胸を張って言う様な事じゃないでしょう?」と思ったが、口にすると、又、話がややこしくなりそうだったので、止めておいた。実は、その場に居たクラウディア以外の人物は、口にこそしなかったのだが、皆が茜と同様の所感だった。そこで、立花先生が取り敢えずその場を、丸く収めるべくコメントする。
「余り物騒な事はして欲しくはないんだけれど、まぁ、ホワイト・ハッカーに徹してくれている内はね、会社的にも将来、利益になるだろう…と言う事よね。」
「そんな訳(わけ)で、維月ちゃんは、お目付役にされちゃったのよね~。」
笑顔で、そう付け加える樹里に、維月も笑って答えるのだった。
「そう言う事。目に余る様なら、容赦無く学校に報告するからね。その時は契約違反だ何だで、退学だけでは済まなくて、賠償請求が実家の方へ行く事にもなりかねないから、覚悟しておきなさい、クラウディア。」
「分かってるわ、イツキ。その話は、何度も聞いたもの。」
「部長は、その辺りも承知で、入部を認めたんですか?」
今度は緒美に、ブリジットが話を振る。それに対し、緒美は事も無げに答える。
「うん。森村ちゃんがいいって言うからね。」
「相変わらず、人事は森村に丸投げだなぁ、鬼塚は。」
呆れる直美をフォローする様に、恵が言うのだった。
「大丈夫よ。カルテッリエリさんは、悪い子じゃないから。」
「はい、はい。森村の人を見る目は、わたしも信用してるよ。」
そこで、クラウディアが話の流れを仕切り直し、茜に向かって言った。
「何だか話が逸(そ)れちゃったけど。兎に角、今度の前期中間試験では、あなたの成績を抜いてみせるから、あなたも手を抜くんじゃないわよ!」
茜は、クラウディアの成績に拘(こだわ)る発言に辟易(へきえき)して、一つ深く溜息を吐(つ)いて答えた。
「別に、手を抜いたりはしないけど。わたしは試験や成績で人と競う気は無いので、どうぞ御勝手に。大体、学科が違うんだから、中間試験の成績を比べたって、専門教科や選択科目が違うし、意味無いでしょ。」
「意味が有ろうと無かろうと、わたしは今迄(まで)ずっと学年トップを維持してきたの。ここへの入学試験では不覚を取って二番手だったけど、次はトップの座を挽回してみせるわ。」
胸を張り余裕の笑みを浮かべてみせるクラウディアを見て、もう一度深い溜息を吐(つ)く茜だった。
「まぁ、動機はともあれ、勉強する意欲が有るのは、いい事ですよね、先生?」
一番奥の席に着いている緒美が、立花先生に、そう話し掛けるが、立花先生は相変わらず腕組みをして、渋い顔だった。
「程度って物は有るでしょう?緒美ちゃん。」
「まぁ、試験の結果が楽しみじゃない。ねぇ、維月ちゃん?」
「し~らない。」
樹里は含みのある笑みで、維月に同意を求めたのだが、維月は視線を逸(そ)らして「それ」には答えなかった。
その後、樹里と維月、そしてクラウディアの三人は、HDG システムのソフトウェアに関する概論の話題に移り、茜とブリジットは試験期間が終わってからの、HDG-A01 と LMF のテスト・スケジュールに就いて緒美達と打ち合わせを行い、その日の部活は解散となったのである。
- to be continued …-
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