第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)
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瑠菜は廊下を進み、206 号室の前で立ち止まると、ドアの方へ身体を向ける。視線を下げると、ドアを背に座り込んでいる少女の見上げる視線とぶつかった。
「何してるの?ここで、あなたは。」
「あ、ルーカスさん、ですかぁ?」
「そう、だけど。あなたは?」
「同室になります、古寺 佳奈です~よかったぁ、優しそうな人で。」
佳奈はニッコリと笑顔を浮かべ、立ち上がる。
「優しそう?わたしが?…それで、何をしてたの?」
「別段、何かをしてた訳(わけ)じゃなくて~寧(むし)ろ、何もしてませんでした~。」
「何よそれ、禅問答?」
「実は、トイレに行った時に、カードを部屋の中に置いた儘(まま)で~…」
「要するに、入れなくなってたのね? 来た時に、管理人さんに注意されなかった?」
「それはもう、うっかり、としか…あはは。」
ドアを背にして、左手を後頭部に回し、佳奈は頭を掻く様な仕草で笑った。
瑠菜は先程受け取った、カード・キーをドアの脇に有るパネルへと翳(かざ)す。すると、「ピッ」と電子音がして、ドアのロックが解除された。
「取り敢えず、中に入りましょ。」
「は~い。」
佳奈はクルリと向きを変え、ドアを押し開けた。二人が室内へと入り、瑠菜がドアを閉めると、「カチャリ」とドアがロックされる音が聞こえるのだった。
「それで、何時(いつ)からドアの前に居たのよ?あなた。」
「う~ん、一時間位(くらい)かなぁ。」
部屋の中に入ると、瑠菜の送った段ボール箱が三つと、大きめのスポーツバッグが一つ、ドアを背にして向かって左側のクローゼットの前に置かれている。一方、向かって右側の部屋の奥側にあるベッドから机を経てクローゼットの前までには、佳奈の荷物の中身であろう衣類や本、その他の小物等(など)が並べられていたのだった。
「一時間も?その間、誰も廊下を通らなかったの?」
「三人、目の前を通って行ったけど、話し掛けてはくれなかったなぁ。」
「そりゃ、そうでしょうね。」
佳奈はベッドの上に広げた荷物を分類しようとしているのか、右へ移動したり、左へ移動したりしている。瑠菜は佳奈に背を向け、自分の荷物の封を開けた。
室内の収納は、ベッド下の引き出しと、クローゼットの二箇所で、あとは机のサイド・キャビネットと、本棚が机の正面側に作り付けられている。瑠菜は、てきぱきと衣類や小物等(など)を、それぞれが相応(ふさわ)しい場所へと仕舞っていった。
「あんな所に一時間も居る位(くらい)なら、管理人さんに言って、開けて貰えば良かったのに。」
「あぁ、それは思い付かなかったなぁ。管理人さんから同室のルーカスさんは今日、入寮の予定だって聞いてたから、その内(うち)、ルーカスさんが来るだろうって、それしか考えてなかった。」
瑠菜は手を止めて、振り返り、言った。
「ちょっと、一つお願いが有るんだけど。いい?」
「何?ルーカスさん。」
「それよ。名字で呼ぶの、止めて貰える?」
「え…嫌いなの?自分の名前。」
「嫌いではないけど、人に呼ばれるのが嫌なの。」
「そう。よく分からないけど、じゃ、瑠菜さん?」
「うん、それでお願い、こっちから指定して、何だか悪いけど。」
「ううん、いいけど。それじゃ、わたしの事も名前で呼んでね。」
「いいわ、佳奈さん、だったよね。」
「うん。」
そんな会話の後、二人は荷物整理を再開した。
十数分後、瑠菜は一通りの片付けを終え、最後に新しい制服一式をハンガーに掛けて、クローゼットの扉を閉めた。ふと、振り向いて佳奈の方を見た瑠菜だったが、佳奈は徒(ただ)、右往左往しているだけで、全く整理が進んでいない様子だった。
取り敢えず、瑠菜は黙って部屋着に着替え乍(なが)ら佳奈の様子を観察し続けていたのだが、着替えが終わっても状況は進展しそうも無かった。我慢し切れなくなり、思わず瑠菜は佳奈に声を掛けた。
「佳奈さん。あなた、片付けは苦手な人?」
「う~ん、こういう事、殆(ほとん)どやった事が無くって。家(うち)では何時(いつ)もお母さんがやってくれてたから。」
「お嬢様だったのね。」
「そういうのじゃ、無いんだけど。」
佳奈は、衣類や小物等(など)をベッドの上に並べて幾つかのグループに分類はしたものの、それをどこに収納すればいいのか迷っている様子だった。
「取り敢えず、制服とブラウスはシワになるから、ハンガーに掛けてクローゼットに仕舞っておきなさい。ハンガーはクローゼットの中に有るから。」
「は~い。」
瑠菜に言われた通り、佳奈はクローゼットからハンガーを取り出すと、ブラウスや制服をハンガーに掛けてクローゼットへ仕舞った。
「下着(インナー)類と靴下、ハンカチとかタオルはベッド下の引き出しに。左、窓側の引き出し。 アウター類もベッドの下、真ん中の引き出し。 右の引き出しは空けときなさい、ランドリー・バッグに入れた汚れ物の一時保管場所にするから。 それから、体操服とか夏用の制服とかはクローゼット下の引き出し。 本とかノートは取り敢えず机の上に、後で、自分で分かり易い様に本棚に並べなさい。文房具や小物はサイド・キャビネット。」
佳奈は瑠菜の指示に素直に従い、ベッドの上に並べられた荷物を、それぞれの収納場所へと納めていく。すると、十分も掛からない内に一通りの片付けが終わったので、佳奈は手を叩き、歓声を上げた。
「わ~片付いた~。瑠菜さん、凄い~。」
「凄いって…これ位(くらい)、普通でしょ。」
「ううん、凄い、凄い。お母さんみたい!」
「お母さんって、あのね…。」
苦笑いを浮かべていた瑠菜は、佳奈の「お母さん」と言う評を聞いて溜息を吐(つ)くのだった。
丁度(ちょうど)その時、誰かがドアをノックする音が聞こえたので、取り敢えず、瑠菜が入り口へと向かい、ドアを開いた。
- to be continued …-
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