WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第7話.11)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-11 ****


 それから数分が経ち、皆が無言で、それぞれの作業に集中し始めた頃だった。恵が、唐突に緒美に話し掛ける。

「ねえ、部長。Ruby の事、忘れてない?」

 緒美はキーボードを打つ手を止めず、視線もタブレット端末から外さない儘(まま)、答えた。

「忘れてはないけど、タイミング的に…あぁ、そうね。 Ruby、もうおしゃべりしてもいいわよ。」

 すると、室内に女性の合成音が響く。

「ありがとう、恵。わたしも、忘れられているのかと心配していましたよ、緒美。」

「あら、ごめんなさい、Ruby。」

 Ruby のぼやきを聞いて、くすりと笑って緒美は謝るのだった。

「誰です?…今の声。」

 瑠菜は顔を上げ、誰に聞くでも無くそう言うと、直様(すぐさま)それに応えたのは Ruby だった。

「こんにちは、瑠菜。わたしは Ruby、天野重工で開発された AI ユニットです。」

「AI?…って、声がどこから…。」

 合成音の出所を探して、瑠菜は周囲を見回す。

「わたしは、緒美の後ろに在ります。」

「そう言う時は、後ろに居ます、って言うのよ、Ruby。」

 Ruby の言葉遣いに就いて、恵が優しく指摘するが、それには Ruby が反論する。

「わたしは人間ではなく機械ですので、この場合『居る』のでは無く『在る』が正しいと思います。」

「わたしたちは、擬似的な物だとしても、あなたの人格を認めているの。だから『在る』なんて言われたら、悲しくなるわ。」

「そうですか。緒美も悲しみを感じましたか?」

 恵の意見を聞いた Ruby は、緒美に所感を尋ねる。それに対して、今度は作業の手を止め、顔を上げて緒美は答えた。

「そうね…森村ちゃんみたいに悲しいって感覚では無いけど、違和感は有るわね。」

「大体、『在る』だけの様な物だったら、自分で考えて発言なんかしないでしょ。だから『わたしはここに在る』なんて言い回しは、有り得ないのよ、Ruby。」

 緒美の発言を受けて、直美はそう付け加え、笑った。
 そんな遣り取りを聞き乍(なが)ら、瑠菜は緒美の背後、部室の奥の壁際に、ドラム缶よりも一回り程小さい円筒型の装置らしき物が置かれているのに気が付いた。そして、ふと横を見ると、仕様書を読むのに集中していた佳奈も、顔を上げ、その装置の存在に気が付いていた様子だった。
 瑠菜は、正面に座っている、緒美に尋ねる。

「そこの、窓際のが Ruby なんですか?」

「本体はね。上の方、窓枠にカメラみたいのが有るでしょう? この室内は、そのイメージ・センサーで様子を、みんな見てるの。後、この格納庫の彼方此方(あちこち)にセンサーが設置されててね、この第三格納庫全体のセキュリティを担当してもらってるのよ、今の所。」

 緒美は瑠菜の問いに、淀(よど)み無く答える。

Ruby も、開発テーマの一部なんですか?部長。」

「そうでもあり、そうでもなし…まぁ、仕様書を読んで呉れたら、詳細に就いては追い追い分かると思うけど。そもそも、Ruby ほど高性能な物は要求してなかったんですけど。ねぇ、立花先生。」

Ruby は元元、本社で別件用に開発されていた試作機なんだけど、色々と大人の都合が有ってね、この部活で預かって、目下教育中って状況。わたしも、Ruby に就いては、詳しい事は知らないのよ。」

「教育、ですか。」

「あ、そんなに難しく考えなくても良いのよ。さっきみたいに、普通におしゃべりしてればいいって事だから。」

 立花先生はそう瑠菜に言うと、ニッコリと笑った。そして間を置かず、直美が補足する。

「そもそもは、LMF に簡易的な AI ユニットを搭載するのが部長のアイデアだったんだけどね、それに用にって本社が、たまたま開発中だった Ruby を持って来たのよ。性能的には要求に対して完全にオーバー・スペックなんだけど、まぁ、『大は小を兼ねる』って言う奴? それで、本社が AI ユニットを提供する交換条件で、Ruby のコミュニケーション能力を向上させるのに、わたし達が協力するって事になった~って言う感じの流れね。で、LMF が完成する迄(まで)の間、Ruby には暇潰し的に、ここのセキュリティ・システムをやって貰ってる訳(わけ)。」

「LMF って言うのは、何ですか?」

 Ruby が兵器開発部に提供されるのに至った大まかな流れを説明した直美だったが、瑠菜には直ぐに飲み込めない言葉が「LMF」だった。
 その瑠菜の問い掛けに、落ち着いて口調で緒美が答える。

「それに就いても、仕様書を読んで呉れたら解るわ。」

「はぁ、そうですか。 取り敢えず、これを読まない事には始まらない訳(わけ)ですね。」

 溜息混じりに瑠菜がそう言うと、直美が笑って、言った。

「あはは、そう言う事。まぁ、LMF に就いては、予定通りなら、あと二ヶ月程で実物が見られる筈(はず)だから、楽しみにしてて。」

「楽しみも何も、LMF が何かも、今の所、解ってませんけど。」

 そう答えて、瑠菜は再び、仕様書へと目を落とした。
 そして、ふと佳奈の様子が気になった瑠菜が隣へと目をやると、佳奈は集中して黙々と仕様書を読み進めていた。寮や教室で、度度(たびたび)見せる佳奈のその集中力を、瑠菜は「少し羨(うらや)ましいな」と思いつつ、視線を手元の仕様書へと戻すのだった。

 こんな顛末で、佳奈に巻き込まれる様にして、瑠菜は兵器開発部と関わる事になったのである。
 当初、入部には慎重な姿勢を取っていた瑠菜だったのだが、佳奈と一緒に「仕様書」を読み進めていく内、その内容を理解する程に、HDG の開発への興味が大きくなっていったのだった。
 斯(か)くして、五月の連休を挟んで三週間程の後、「仕様書」を読み終えた時点で、瑠菜は正式に兵器開発部に入部する事にしたのである。

 

- to be continued …-

 

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