WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.05)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-05 ****


 畑中が二号車のエンジンを始動し、トランスポーターを後退させ始めると、その前方に駐車している一号車では、車輌後部のコンテナ天井部が、中央辺りを回転軸に、角度にして三十度程、起き上がる様に開くのだった。間も無く、一号車のコンテナ内部から HDG 背部スラスター・ユニットのエンジン音が聞こえて来ると、そのコンテナ天井開口部からエンジン排気が吹き上がっているのが、空気の揺らめきに見て取れた。

「では、LMF に搭乗します。」

 トランスポーター二号車が移動して行くのを確認して、ブリジットは LMF の方へ駆け足で向かった。

「はい、よろしく~。」

 緒美は LMF へと向かう、ブリジットの背中に声を掛ける。
 ブリジットはトランスポーター一号車の後部付近に差し掛かった所で、ふと、足を止めた。そこに、HDG を装着した茜が、傾斜路(ランプ)状に展開されたコンテナ後部ドアを歩いて降りて来る。茜とブリジットの二人は、何方(どちら)からともなく右手を肩の高さ程に上げると、互いの掌(てのひら)を軽く打ち合わせ、再びブリジットは LMF の方へと駆け出した。
 その様子を見ていた安藤が感心気(げ)に、隣に立つ樹里に話し掛ける。

「成る程、あの二人は仲が良さそうね。」

「詳しくは知りませんけど、中学の時に、色々有ったみたいですよ。それで、天野さんの方が一方的に慕(した)われているって言うか、そんな感じみたいで。」

「へぇ…天野さん、色々と凄い子らしいって、社内でも噂には聞いてたけど…。」

「噂…って、本社で、ですか?」

 モニターから目を離し、樹里は安藤の方へ向き直って、聞き返した。

「そりゃそうよ。会長のお孫さん、ってだけでも社内じゃ注目度高いのに、HDG のテスト・ドライバーなんかやってるんだから、テストのデータと一緒に嘘かホントか分からない様な逸話も、色々と流れてくるのよね。」

「それはまた…変な噂じゃなきゃいいですけど。」

「それは大丈夫。基本、好意的って言うか、期待値高目(たかめ)の推測に尾鰭(おひれ)が付いた~みたいな?」

「それはそれで、本人的にはプレッシャーって言うか、聞かされたら赤面物でしょうね~。」

「だよね。」

 樹里は安藤と顔を見合わせて、笑った。
 そんな折、二人の目の前を二つの黒い球体が通過し、HDG を装着して歩いてくる茜の眼前、一メートル程の位置で停止し、左右に並んで浮遊している。黒い球体の大きさは、直径がバスケット・ボールの倍程度だろうか。
 一旦、歩みを止めた茜だったが、黒い球体がそれ以上近づいて来ない事を確認すると、その動向を注視しつつ天幕の方へと再び歩き出す。その球体二つは、茜と距離を保って移動していた。

「何です?あれ。」

 その様子を見ていた樹里と緒美は、図らずも声を揃えて安藤に問い掛けたのだった。
 安藤はくすりと笑い、隣の天幕の下、最前列の長机の上に置かれた旅行鞄(スーツケース)状のコントローラーを指さした。
 安藤の肩越しに、示された方向へ樹里が視線を移すと、コントローラーを操作しているのはクラウディアと佳奈の二人である。樹里が見ているのに気が付いた佳奈は、その存在をアピールするかの様に、頭上に挙げた両手を振るのだった。
 樹里は微笑んで、右手を軽く振り返して見せる。

「あれが、さっき言ってた新型の観測装備よ。下側に、カメラとかが入っていて、その上に回転翼(ローター)が入ってるの。燃料電池の水素カートリッジ一本で二時間位(ぐらい)飛べるし、同時に四つ迄(まで)制御可能なのよ。あ、コントローラー一台に付き、観測機は二機だけど。」

 そう安藤に言われて、浮遊する黒い球体を良く見ると、球形の上部から三分の二程は金属製のメッシュになっており、光の具合に因っては、内部で回転する二重反転ローターが見えるのだった。下端部のカメラ収納部はマジックミラー状になっているのか、外からはカメラ自体は見えない。

「記録した画像は、メモリー・カードか何かに?」

 緒美が樹里の傍(そば)迄(まで)歩み寄って来て、安藤に尋ねた。

「あ、飛行体本体にストレージは無いのよ。画像データはリアルタイムでコントローラーへ転送されるから、コントローラー側で、記録のする、しないを選択する訳(わけ)。因(ちな)みに、記録出来るのは可視光画像と赤外線画像、それと熱分布画像(サーモグラフィ)の三つね。画像記録のタイム・コードに対応した GPS の座標データとか、カメラの向きとか、倍率とかの諸元も別に記録されるわ。」

 今度は樹里が問い掛ける。

「操作には、二人必要なんですか?」

「飛行モードは幾つか有って、勿論、リアルタイムで人がリモコン操作も出来るけど。基本は観測対象を指定して、自動で距離と角度を保って自律制御するモードね。だから、飛行自体は一人で二機、制御するのは可能なんだけど、カメラのズームや角度の微調整とか、そっちの方が一人で複数台扱うのは、ちょっと大変かな。」

「今日の試験から、使えるの?安藤さん。」

 緒美の背後から声を掛けて来たのは、立花先生である。

「はい。いつも学校の方(ほう)で試験の様子、動画で記録して貰ってましたけど、今後、B号機とかの試験が始まったら、空中機動とか撮影が難しくなりますから。お役に立つんじゃないかな、と。」

 との、安藤の発言に対して、真っ先にコメントを返したのは、主にビデオ記録担当の恵である。

「あはは~助かります~。」

「今日は、固定の撮影機材も有るのよね?」

 立花先生が隣の天幕下、後列の長机上に並べられた五つのモニターの方を指差して、安藤に確認するのだった。

「それは、勿論。貴重な機会ですから、バッチリ記録させて貰いますよ。」

 そこへ、HDG を装着した茜が天幕の前に到達する一方、トランスポーターのコンテナから降りて来た直美と瑠菜が、天幕の後列へと向かう。それと入れ替わる様にトランスポーター一号車は、二号車と同様に管理棟脇の駐車スポットへ移動する為に後退を始めていた。

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 直美と瑠菜の二人は、天幕の下、最後列の長机上に置かれていたクーラー・ボックスを開け、スポーツ・ドリンクのボトルを取り出していた。そして、その装備の所為(せい)もあって、天幕下に入る事が出来ずにいた茜に向かって、瑠菜はドリンクのボトルを掲げて呼び掛ける。

「天野~水分補給しておく?」

「あ、いえ、今はいいです。」

 その様子を見ていた恵が、安藤に向かって言う。

「天野さん用にパラソルか何か、用意しておけば良かったですね。流石に、この天気で HDG 装備の儘(まま)待機は辛(つら)そう。」

「そうね~気が付かなくて、ごめんなさいね。天野さん。」

「いえ、大丈夫ですよ。インナー・スーツの体温調整機能も効いてますから、見た目ほど暑くないんですよ。それに剣道やってましたから、少々なら暑いのには慣れてますので。真夏の道場で防具とか着けてたら、もっと暑いですから。」

 茜は微笑んで、そう答えた。
 そこへ、隣の天幕から男性作業員が、安藤に声を掛けて来る。

「安藤さーん、機材チェック、全て完了しました。作業員も全員現場から退避を確認。何時(いつ)でも行けま~す。」

 声の方へ目をやると、二十人程の設営スタッフが、隣の天幕の下で汗を拭いたり、ドリンクを飲んだりと、それぞれが一息吐(つ)いていた。その一方で、記録担当のスタッフ達は、機材の前で試験開始を待って、緊張の面持ちと言った様子である。

 

- to be continued …-

 

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