STORY of HDG(第8話.06)
第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)
**** 8-06 ****
「は~い、ありがとうございます。」
安藤は隣の天幕下へ声を返すと、作業着のポケットから携帯端末を取り出し、防衛軍側の天幕に居る飯田部長を呼び出す。飯田部長は、直ぐに応答した。
「あ、安藤です。現場の準備が終わりましたので…はい、早速、試験を開始します。…はい、では。」
ポケットに携帯端末を仕舞うと、安藤はヘッド・セットを装着して、机の上に置いてあった試験の行程表を挟(はさ)んだクリップ・ボードを拾い上げる。
「安藤さんも、どうぞ。」
「あぁ、ありがとうね。いただきます。」
直美は冷えたドリンクのボトルを安藤に手渡すと、引き続き、立花先生や他のメンバーへ、ドリンクを配っている。瑠菜は隣の天幕下へ、佳奈とクラウディアへとドリンクを持って行き、その儘(まま)、新型観測機材に就いての説明を受けていた。
「じゃ、緒美ちゃん。始めましょうか、行程表の通りに進めるけど、問題は無いわね。」
「はい、お願いします。天野さん、予定通り、静止射撃から始めるわよ。位置に着いてちょうだい。」
「はい。」
茜の返事は、天幕下に設置されているモニター・スピーカーからも聞こえて来た。
「ボードレールさんは、もう暫(しばら)くその位置で待機、お願いね。」
ブリジットの返事も、モニター・スピーカーから聞こえて来る。
「はい、待機してます。」
茜は試験場の方へ身体の向きを変えると、三歩進んだ後に少し身を屈(かが)めてから軽く地面を蹴って背丈程に飛び上がると、空中でスラスターを噴かして射撃位置へ向かってジャンプした。見送る安藤達の居る天幕へは、スラスター噴射が巻き起こした気流が流れ込んで来る。
「画像では見てたけど、実物は又、何だか迫力が有るわね。」
「でしょう?」
安藤の感想に対して、樹里は微笑んで答えた。
地面に白いラインで四角に囲まれた射撃位置に降り立つと、茜は天幕の方へ振り向き、左手を挙げて見せた。天幕下ではモニター・スピーカーから茜の声が聞こえる。
「位置に着きました。指示を待ちます。」
「はい、待っててね。安藤さん、宜しいですか?」
緒美は安藤に、最終の確認を求めた。
それに対して、安藤は自分のヘッド・セットのマイクに向かって告げる。
「あ、安藤です。これより開始しますので、記録の方(ほう)、お願いします。…はい。 オーケー、緒美ちゃん。始めてちょうだい。」
「分かりました。あ、城ノ内さん、システム状態のモニター、宜しくね。何か異常が有ったら、直ぐに言ってね。」
「はい。心得てますよ、部長。」
樹里はデバッグ用コンソールを見つめた儘(まま)、緒美に答えた。
「じゃ、天野さん。向かって左、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止射撃開始。あ、念の為、フェイス・シールドは、下ろしておきましょうか。」
「分かりました。開始します。」
緒美の指示に対して、モニター・スピーカーから茜の返事が聞こえると、射撃位置の茜はヘッド・ギア前面のフェイス・シールドを顔の前へと下ろして防護態勢を整え、次いで HDG の右腰スリング・ジョイントに固定されていた荷電粒子ビーム・ランチャーを、右のマニピュレータを展開してグリップを掴(つか)みジョイントから外した。
身体前面に両側のマニピュレータで素早く構えると、五枚のターゲットに狙いを定め、連射する。荷電粒子ビーム・ランチャー銃口と鉄製のターゲット板との間に、青白い閃光が五回走ると、その都度、空気の絶縁が破れる、短く乾いた雷鳴の様な破裂音が鳴り響いたのだった。
茜は射撃を終えると、一旦、銃口を上へ向け、左マニピュレータでフォア・グリップを折り畳むと、荷電粒子ビーム・ランチャーを、元の右腰部のジョイントへと戻した。
「全部命中した筈(はず)ですけど、ターゲットの確認、お願いします。」
モニター・スピーカーから茜の声が聞こえて来る。
「は~い、ちょっと待っててね。安藤さん?」
緒美が安藤に、結果の確認を求める。
「はいはい…あ~、オーケー。全部命中、ズレは許容値内、だそうよ。」
安藤は固定カメラのモニターを見ている、記録班からの連絡を受け、緒美へ報告した。
ターゲットは一辺が2メートルの、正方形の鉄板であるが、底辺の高さが2メートルの位置に、一本の支柱で設置されている。つまり、ターゲットの中心は地表面から3メートルの高さになる。
五つのターゲットは全て地表面から同じ高さで、向かって左に3メートルずつずらして、手前側に向かって25メートル間隔で設置されている。つまり、一番目のターゲットは、五番目のターゲットに対し、前後で100メートル、左右で12メートル離れている格好になる。そして、一番目のターゲットと射撃位置との距離は、50メートルである。
射撃位置は一番遠い第五ターゲットの正面に設定されており、茜には最も遠い五番目のターゲットの見掛けの大きさは、腕を前に伸ばして親指を立てた爪先位置に有る8ミリ角の板とほぼ同じである。左手側にオフセットされた一番手前の第一ターゲットでも、見掛けの大きさは、同様に24ミリ角程度にしか見えない。
天野重工の記録班は、それらターゲットの状態を固定カメラのズームによって確認したのだが、手前のターゲットにはおよそ5センチ程の穴が、一番遠い物にも3センチ程の穴が開いていたのが確認されたのだった。
因(ちな)みに、茜が今回使用している荷電粒子ビーム・ランチャーは、安全の為、出力を30パーセントに設定している。
「天野さん?結果は良好だそうよ。暫(しばら)く、その儘(まま)、待機しててね。 ボードレールさん、LMF、射撃位置へ。」
トランスポーターから降ろした儘(まま)の位置で待機していたブリジットに、緒美は移動を指示した。
「了解。」
ブリジットが短く返事をすると、停止していた LMF がホバー・ユニットを噴かし、勢い良く前進を始める。LMF は滑らかに加速し、茜の正面側に10メートル程の間隔を開けて通過すると、50メートル程進んで、機首を左側へ向け乍(なが)ら急減速し、茜の右手側、西へ70メートル程の射撃位置で、南向きに停止し、着地するのだった。
LMF はコックピット・ブロックのキャノピーを持ち上げた有視界モードで操縦されており、着地すると腹這(はらばい)の姿勢でコックピットに収まっているブリジットが、彼女の左手側で待機している茜に向かって、右手を振って見せている。茜は右手を挙げて、ブリジットに答えた。
「LMF01、射撃位置に着きました。指示を待ちます。」
緒美達の天幕下に、ブリジットのモニター音声が響く。
それを聞いて、緒美が安藤へと視線を向けると、安藤は無言で頷(うなず)いた。
「オーケー、ボードレールさん。向かって右、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止射撃開始。」
「了解。」
再びブリジットが短く返事をすると、コックピット・ブロックのキャノピーが完全に閉鎖される。程無く、LMF 上部のターレットが少し右へ旋回すると、プラズマ砲の砲身が僅(わず)かに仰角を上げる。それらが一秒にも満たない時間の間に実行されると、落雷の様な破裂音と共に右側の砲身から走った青白い閃光が、第一ターゲットの鉄板を吹き飛ばした。透(す)かさず、ターレットの角度と左側の砲身が仰角を整えると、再び破裂音と共に走る閃光が第二ターゲットを吹き飛ばす。
LMF はターレットの両側面に装備された左右のプラズマ砲を交互に発射し、五秒と掛からず五枚のターゲットを、全て粉砕した。因(ちな)みに、今回の試験で LMF のプラズマ砲は、安全の為に出力を10パーセント程度に制限している。また、ターゲットとの距離も HDG のターゲットよりも、50メートル遠くに設置されていた。
「終了です。ターゲットの確認…は、必要無いですかね?」
天幕下のモニター・スピーカーから、ブリジットの声が聞こえて来ると、緒美達の周囲には微(かす)かなオゾン臭が漂って来るのだった。
- to be continued …-
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