WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.07)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-07 ****


「流石、防衛軍の主力戦車と同じ規格のプラズマ砲だわね~。実際に射撃する所を見たのは初めてだけど。」

 安藤が呆(あき)れた様に話し掛けると、樹里は落ち着いた様子で答えた。

「あんな物騒な物が、当たり前の様に学校に有った事の方にビックリですよ。」

ボードレールさんは待機してて。次、天野さん。スラローム機動から折り返しで斬撃機動、準備が出来たら開始して。」

 スケジュールに従って、緒美は次の試験項目を茜に指示する。

「準備は出来てます、ので、行きます。」

 茜は右脚で地面を蹴って軽く跳躍し、空中でスラスターを噴かす。先程、射撃したターゲットの支柱に向かって加速すると、手前、第一ターゲットの左側をホバー状態で駆け抜け、第二ターゲットの右側、第三ターゲットの左側と、立ち並ぶターゲットの支柱の間を縫う様に、緩やかな斜面を高速で登って行く。最後の第五ターゲットの左側を通過し、暫(しばら)く進んだ後にUターンすると、右のマニピュレータで左腰のスリング・ジョイントに固定してあったビーム・エッジ・ソードの柄(つか)を握る。ビーム・エッジ・ソードがジョイントから解放されると、一度、右へと振り抜き、左マニピュレータを柄(つか)の後端側に添えると、刀身が右側面に横たわる様にビーム・エッジ・ソードを構えた。ビーム・エッジ・ソードの刀身前面に形成された荷電粒子の刃(やいば)が青白く輝く。
 茜はホバー移動の儘(まま)、第五ターゲットが目前に迫ると、ビーム・エッジ・ソードを右肩の上へと振り上げ、ターゲット支柱と擦れ違う瞬間に刀身を振り下ろす。第五ターゲット支柱の向かって左側を通過した茜は、第四ターゲットの右側へと進路を変え、振り下ろした ビーム・エッジ・ソードの刀身の向きを翻(ひるがえ)すと、右腕のみで下から上へと向かって第四ターゲットの支柱へ切っ先を走らせる。

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 再び、ビーム・エッジ・ソードの刀身を翻(ひるがえ)し、腰の高さで右側に刀身を横に寝かせると再び左マニピュレータを柄(つか)の後端に添え、第三ターゲットの左側を通過すると同時に支柱を両断すると、今度はビーム・エッジ・ソードを左肩に担ぐ様に振り上げ、第二ターゲットの右側を通過する瞬間に切っ先をと振り下ろす。
 最後に、もう一度刀身を翻(ひるがえ)し右下段横に構えて第一ターゲットの左側へと進行し、通過するタイミングで刀身を左上へと振り上げる。ビーム・エッジ・ソードの柄(つか)から左マニピュレータを放すと、右腕だけで刀身を水平に右へと一振りして、ホバー走行を終えて着地し、オフにしたビーム・エッジ・ソードを左腰部のスリング・ジョイントへと納めた。
 スラスター・ユニットの排気で巻き上げられた、HDG 背後の土煙が風に流されると、そこには立ち並んでいたターゲットの支柱が、全て切り倒されている様(さま)が露(あら)わとなる。
 茜はちょっと振り向いて、それを確認した後、天野重工の天幕と防衛軍の天幕それぞれに向かって、一度ずつ一礼をしたのだった。天野重工の天幕下、設営スタッフ達からは「おぉ…」と言うどよめきの後、拍手が沸き起こるのだった。

「流石、剣道経験者って感じかしらね。」

 安藤が隣の天幕下の盛り上がり具合を横目に、そう感想を漏らすと、それに対して樹里が言った。

「あぁ、でも、天野さんに因れば、剣道の動きとは全然違うそうですよ。」

「そうなの?それにしては、良く動けてるみたいじゃない。」

「毎日二時間位(ぐらい)、あれを装着して動き方の研究や練習、反復してましたからね。お陰で、HDG の方も動作制御の最適化が、可成り進んでますよ。最初は随分、動き方がぎくしゃくしてましたから、HDG 搭載の AI も相当に優秀ですよね。」

「まぁ、コミュニケーション関連の機能部分がバッサリ削除されてるから、随分、簡略化されてる様に思われ勝ちだけど、基礎部分は Ruby と同型だものね。それでも、その AI の性能も、動作データの蓄積が無い事には発揮の仕様がない訳(わけ)だし、テスト・ドライバーにスポーツ経験者を充てようって、緒美ちゃんのアイデアは大正解だった訳(わけ)よね。」

 安藤のコメントに対し、透(す)かさず緒美が言葉を返す。

「そのアイデア、元々の発案は森村ちゃんなんですけどね。」

「あ、そうなんだ。」

 安藤が返す短いリアクションに対し、緒美の後ろに立っていた恵が右手を肩口程に挙げて、微笑んで見せる。その一方で、緒美はヘッド・セットのマイクを口元に引き上げると、茜とブリジットへ次の指示を送る。

「天野さん、元の射撃位置へ退避して。ボードレールさんは天野さんの退避を確認したら、LMF のスラローム機動を始めてちょうだい。」

 指示を受けての、二人の返事がモニター・スピーカーから聞こえて来た。

 

 一方、その頃の防衛軍側天幕の下。天幕は二張り用意されていたのだが、参加した防衛軍関係者は十名だけで、設置されていた二面のモニター画面を見ている者もあれば、持参した双眼鏡を覗(のぞ)いている者もありで、それぞれが試験の様子を監察している。
 天野重工の飯田部長の左右には、飯田部長と同年代の制服姿の男女が座り、その後ろにはスーツを着用した男性が座っている。
 飯田部長の右側に座るのは、HDG 案件の防衛軍側の窓口である、吾妻(アガツマ)昭午・防衛軍一等陸佐である。そして、飯田部長の左隣に陣取る制服姿の女性が、『R作戦』と呼称されている日米共同での反攻作戦の防衛軍側窓口を務める、桜井 巴・防衛軍一等空佐だ。飯田部長の背後の席、スーツ姿の男性が、和多田 和典・防衛大臣補佐官で、彼が『R作戦』に関する、政府側の対外交渉に於ける窓口責任者なのである。
 何故ここに『R作戦』の関係者が同席しているのかと言うと、天野重工が『R作戦』に必要とされるデバイスの要素技術開発の実行名目として『HDG 案件』を利用しており、事実上、両案件を社内的に統合してしまった事に、この状況は端を発する。現時点で『R作戦』に就いては表沙汰に出来ない政府と防衛軍としては、表向きは民間主導である天野重工の『HDG 案件』に協力すると言う体裁で『R作戦』の準備を進めていたのだった。
 『R作戦』に於いては航空防衛軍と航空宇宙局(十数年前に宇宙航空研究開発機構:JAXA から改組された)が中心となって行われる計画なので、作戦の実施に陸上防衛軍は、本来は関わらないのだが、その開発段階には試験場の確保だとか提供、或いは機密保持の為の警備等に陸上防衛軍の協力が必要だ、と言う都合で『R作戦』に陸上防衛軍の協力が組み込まれているのである。
 今回は HDG の試験と言う事ではあるが、これは『R作戦』用のデバイス開発の経過視察と同義であるので、それが桜井一佐と和多田補佐官が視察に参加している理由なのである。

「飯田部長、さっきの刀みたいな装備は、どんな物かなぁ…敵ドローンと斬り合いをさせるって言うのは、ぞっとしないな。」

 腕組みをした吾妻一佐が、ポツリと言った。間を置かず、飯田部長がコメントを返す。

「相手側が斬撃戦を仕掛けて来ますから、至近距離での反撃用の装備ですよ。飽くまでも、基本の戦術はビーム・ランチャーによる射撃、と言う事ですが。」

「う~ん、理解はしてるんだが、イマイチ、運用のイメージが…ピンとこないんだよなぁ。」

「アレが例のデバイスの要素技術、と言われても、我々には関連具合が今一つ理解出来ませんが。」

 後ろの席から身を乗り出して、和多田補佐官が口を挟(はさ)む。五十代後半の前列三人に比べ、幾分若いこの官僚出身の政府関係者は、『HDG』には全く興味を持ってはいない。

「…デバイス開発の方(ほう)は、ちゃんと進んでるんでしょうね?飯田さん。」

「スケジュールに大きな遅れは有りませんよ、和多田さん。秋位(ぐらい)には大気圏内用の試験機が、冬位(ぐらい)には大気圏外用の試験機が出来上がる予定で変わってません。大気圏内用の試験機が完成したら、桜井一佐の方に本格的に御協力をお願いする事になりますが、その折には、どうぞよろしくお願いします。」

 飯田部長は左隣の桜井一佐へ、話を振る。すると、朗(ほが)らかな笑顔で桜井一佐は答える。

「えぇ、勿論。それよりも、その前に、あの HDG の航空装備の性能試験もされるんでしょう? わたしとしては、そちらにも興味が有りますね。」

 そこに再び、和多田補佐官が口を挟(はさ)むのだった。

「アレは陸戦用の装備ではなかったのですか?」

 それには吾妻一佐も同調する。

「そうそう、元々の提案は陸戦用の強化装備だった筈(はず)なんだが。どうして、ジェット・エンジンを背負って飛び回るような仕様に?」

 一瞬浮かんだ苦笑いを噛み殺して、飯田部長は答えるのだった。

「電源、ですよ。あの装備を動かすにせよ、ビーム・ランチャーを撃つにせよ、割と大きな電源が必要になるんです。バッテリーでは賄(まかな)い切れないので、発電機として小型のジェット・エンジンを積んでいるんですが、それなら、それを推力としても利用しよう、まぁ、そう言った流れですな。動力装備以外にも火器管制システム等も含めて、トータルとして可成り高価な個人装備になりますから、それならユニットを追加して機能を拡張しよう、と言う事で航空装備も計画されている訳(わけ)です。」

「それを考えたのが、さっきの、あの、お嬢さんかい?」

 吾妻一佐の言う『お嬢さん』とは、試験開始前に挨拶に来た、緒美の事である。

「鬼塚、なんて厳(いか)つい名前だけ聞いてたから、どんな大男かと思ってたら。それに、見れば、関わってる学生達は女子ばかりの様子だけど、本当に大丈夫なんですか?飯田部長。」

 その、和多田補佐官の発言に噛み付いたのは、桜井一佐である。

「和多田補佐官、その物言いは女性差別に聞こえますが?」

「あぁ、いえ、けしてそんな積もりでは。」

 そのやりとりを聞いて、ニヤリとした飯田部長は言った。

「あの位(くらい)の年代は、女子の方が優秀ですよ。実際、あのメンバーの中には男女総合で各学年の成績トップの者が居る様ですし、それ以外のメンバーも皆、成績は上位らしいですから。我が社としても、将来に期待している学生達ですよ。」

「お、戦車の方が動き出した。」

 ブリジットが操縦する LMF がスラローム走行を開始したのを見て、吾妻一佐が声を上げるのだった。

 

- to be continued …-

 

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